愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 26 王都ラーゼンシュルト

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季節は初夏。

優しかった日差しも、その光を見て、鬱陶しく思う季節がやってくる。

俺達の服装も、半袖に変わり、荷馬車の御者台の上で、そよぐ風の心地良さを感じている。



30日間滞在した港町パージロレンツォを、出立して既に30日。

今日の昼近くには、ルチアとの約束通り、王都ラーゼンシュルトに到着出来るだろう。

そんな荷馬車に揺られている俺の右側には、マルガが気持ち良さそうに、俺の膝枕で可愛い寝息を立てていて、左側には、俺のパソコンで調べ物をしている、勉強家のリーゼロッテが、難しい顔をしていた。



穏やかに進む荷馬車であったが、先頭を行く俺の荷馬車の馬のリーズが、俺の命令も無しにその歩みを止める。ガクンとなったその衝撃で、マルガが可愛く大きな瞳を擦りながら目を覚ます。



「ご主人様…昼食ですか?」

少し寝ぼけているのか、ちっちゃな可愛い口をモゴモゴさせている。

そんな可愛いマルガの頭を優しく撫でながら、俺が馬のリーズの頭に視線を移すと、白銀キツネの子供、甘えん坊のルナが、ちっちゃな耳をピクピク動かし、馬のりーズと一緒に、何かの音を聞いている様であった。

それを見たマルガは目を細める。



「赤旗ですねご主人様。私は感知出来ませんので、最低200m以上離れています。ルナもリーズも、気配を感じていますので、間違いは無いと思うです」

それを聞いたリーゼロッテは、自分のアイテムバッグにパソコンをなおし、赤い布を先に括り付けた竹棒を掲げる。

それを、後ろからついてきている、荷馬車2号から見ていたマルコが、乗っていた馬のラルクルから飛び降り、俺達の御者台の傍に来る。



「赤旗が上がったって事は、賊だよね葵兄ちゃん?どれ位いそう?」

「いや、まだマルガの感知外の距離だね。いつも通り、隊列を組んで、微速前進しようか」

俺のその言葉を聞いた、マルガとリーゼロッテは荷馬車から降り、マルコも隊列を組む。

マルガとマルコは、アイテムバッグから、自分達の武器を出し装備し、それを確認したリーゼロッテが



「では、いつも通り、マルガさんが右前方、マルコさんが左前方、私が中央後方。行きますよ皆さん!」

リーゼロッテのその言葉に、静かに頷くマルガにマルコ。

俺達は警戒しながらゆっくりと、前進して行く。



荷馬車には俺が乗っていて、その前方に、逆三角形で隊列を組んでいる、マルガ、リーゼロッテ、マルコ。

俺の乗っている荷馬車の後ろからは、無人の荷馬車を馬のラルクルが引っ張って、ついてきている。

無人なのにぶつからずついてこれるのは、マルガのレアスキル、動物の心で、俺の乗っている荷馬車にぶつからない様についてきてねと、馬のラルクルとマルガが意思疎通させているから、出来る所業だ。



暫く、警戒しながらゆっくりと前進して行くと、マルガが右手を上げ、2本の指を立てている。

2本…つまり、200m以内に感知したと言う合図だ。当然それを、リーゼロッテやマルコも理解している。更に暫く進んで行くと、俺の感知範囲に入った。

俺は、岩陰や木陰に隠れている者達の気配をよんで、皆に伝える。



「皆止まって。戦闘態勢をとって」

歩みを止めた荷馬車の上から、俺がそう指示を出すと、マルガ、リーゼロッテ、マルコは身構える。

それを確認した俺は、前方に向かって叫ぶ。



「おい!出てきたらどうだ?殺気が隠しきれていないぞ?」

辺りに俺の声が響くと、暫くして、ガチャガチャと装備の擦れる音をさせながら、10人近い男達が現れる。その男達の姿は薄汚れており、その手には、ハンドアックスやロングソードが握られている。

一目見て、素行の良さそうな者達では無いと解る。その男達の顔は、卑しい嗤いを浮かべていた。



「…こんな、王都ラーゼンシュルトに割りと近い所で、野盗行為か?よく憲兵に殺されなかったねお前ら」

俺の言葉に、ローブを纏った男が嘲笑いながら



「俺達は、この望遠鏡で見て、襲う相手をきっちり選んでいるからな。憲兵が近くに居たら、すぐ解るんだよ」

「へ~良い物持ってるね。俺も欲しかったんだよね。ソレ…俺にくれない?」

「ハハハ。面白い事を言うな。…これからお前の全てが、俺達に奪われると言うのに」

卑しい嗤いを浮かべる、ローブを纏った男。



「葵さん…冗談はそれ位にして…」

「うん、解ってるよ。今調べる」

リーゼロッテの言葉を遮って、欲している情報を得る為に、俺は霊視で男達を視る。



「LVが高い奴から、45、30、22、20が3人、19が2人、18、17だね。計10人。45の奴は、魔法が使えるよ。風のウヌスウァテスだ。少し厄介なスキルもある。気を付けて」

その情報を、頭に叩き込む、マルガ、リーゼロッテ、マルコの3人。

そして、身構えているマルガが、男達に語りかける。



「出来れば、このまま此処を通して貰えませんか?こんな所で、大切な命を殺し合いに使う事は、無いと思うのです。貴方達も野盗行為…人の命を奪う事なんか止めて、普通に…仕事をする事は出来無いのですか?」

諭す様に言うマルガの言葉を聞いて、男達の高笑いが、辺りに響く。



「アハハハ!この状況で、面白い事を言うじゃねえか嬢ちゃん。でもな、お前にそんな事を言っている暇が無いのが解らねえのか?…お前達は、俺達に殺され、嬢ちゃんとエルフの女は、この場で俺達が犯しまくってやるからよ。お前みたいな超上玉、滅多に手に入らないだろうからな!」

卑猥に発情した眼差しで、マルガとリーゼロッテを見ている男達。



「無駄ですわマルガさん。盗賊行為…人を殺し、奪い犯す…それに染まってしまった人達に、何を言っても…」

「…残念です…」

マルガはリーゼロッテの言葉に、キュっと唇を噛むと、何時でも戦える様に、軽いステップを踏み始める。



「では、葵さん。いつも通り…お願いしますわ」

「ああ…解った!」

リーゼロッテのその言葉を聞いた荷馬車の上の俺の瞳が、一瞬妖しく真紅に光る。

その瞬間、男達の中の1人が、別の男を手に持ったロングソードで、心臓を貫いた。夥しい血を流しながら、地面に倒れ事切れる男。



「お…お前!何してるんだよ!」

男達は取り乱し、俺に操られている男を見ている。

その、戦闘開始の合図を見逃さなかった2人が、男達に飛び掛る。



「やああああ!!!」

「たああああ!!!」

マルガとマルコは、男達に飛びかかると、大熊猫の双爪と魔法銀のクリスで、瞬く間に切り倒す。

2人の男達は、大量の血を流しながら地面に倒れる。

それを見て、驚きながら身構える男達に、襲いかかるマルガとマルコ。



「遅いです!」

マルガは男の攻撃をスルリと躱すと、大熊猫の双爪で男の腹部を切りつける。腸を垂れ流して、絶命する男。そんなマルガの背後から、別の男が斬りかかる。

しかし、その剣先は届く事は無かった。マルコが投擲ナイフを4本、その男に向かって投げつけて居たのだ。顔面に4本の投擲ナイフを受けて、痙攣しながら事切れる男。

瞬く間に5人の仲間が殺された男達は戦慄する。



「き…貴様ら!!!!!」

逆上した、残りの5人の男達が叫ぶ。その中で、リーダーらしきLV45の風のウヌスウァテスが、距離を取り、魔法を唱える。



「エアブレイド!!!」

風属性の、斬撃効果のある攻撃魔法だ。その風の刃がマルガに迫る。



「グフウ…」

マルガに掴まれた男が、マルガの盾にされてエアブレイドによって引き裂かれ、絶命する。



「こんな密集している所に、魔法を放つなんて…全く連携がとれてませんね!」

マルガは男を離し、別の男に斬りかかる。



「だね!LVもバラバラだし、そんな事じゃ、大きな力は出せないよ!」

マルコも別の男に斬りかかる。

浮き足立っている男達は、マルガとマルコに斬り殺される。



「そうですわ!集団戦は数だけでは勝てません!おゆきなさい!私の可愛い人形達!」

リーゼロッテに一瞬で召喚された、ローズマリーとブラッディーマリーは、男に向かって別々の方向から斬りかかり、両腕の双剣で斬り殺す。男は事切れて、地面に倒れる。

そこには、一瞬の戦闘で、9人の男達が絶命していて、残りはリーダーのLV45の風のウヌスウァテスのみとなっていた。



「お…お前達…一体…」

「集団戦は数じゃない。如何に連携を取れるかだ。お前達の様に、LVもバラバラの只数を集めた位じゃ、俺達には勝てないよ。…実力を見誤ったな」

荷馬車の上から語りかける俺の言葉に、顔を蒼白にする、LV45の風のウヌスウァテスの男



「わ…解った…降伏する。だから…」

「ああ解ってる…心配するな。俺はお前とは違い優しいからさ」

リーダーらしき男の言葉を遮る、俺の言葉を聞いて、リーダーらしき男の顔は安堵していた。



「お前を捕まえて、憲兵に引き渡す。此処は王都ラーゼンシュルトに近いからな。丁度いいし」

俺がニヤッと笑いながら言うと、その顔を、激しく歪める、リーダーらしき男。

この国の法律で、略奪行為をした者の刑罰は死刑。憲兵に引き渡されたら、間違いなく処刑される。



「貴様~~~!!!」

逆上したリーダーらしき男が、魔法を唱える。エアブレイドが高速で俺に迫るが、マルコが俺の前に素早く立つと、バックラーでエアブレイドを弾き飛ばす。



「なにい!?」

「この風妖精のバックラーに、そんな程度の魔法は効かないよ!くらえ!!!」

マルコは素早く投擲ナイフを4つ投げつける。

それを、気戦術クラスの動きで素早く躱す、リーダーらしき男。リーダーらしき男は、黄緑色の風の様なものを纏っていた。それを見たリーゼロッテが目を細めながら、



「…エアムーブですか…」

「そうだ!俺は風のメイジだからな!エアムーブは、気戦術並の早さを出す事が出来る!魔法を使える者が、貴重だと言われるのが、此れが理由だろ!」

ニヤっと見下す様な嗤いを向けるリーダーらしき男。



「それは…良かったね!」

マルコは更に投擲ナイフを投げつける。それを、素早く躱したリーダーらしき男の背後に、何者かが迫る。

それに気が付き、振り返るリーダーらしき男の顔が蒼白になる。

そこには、リーダーらしき男と同じ、黄緑色の風の様なものを纏ったマルガがいたからだ。



「き…貴様も…エアムーブを!?」

「貴方だけが…エアムーブを使える訳では…ないのですよ!」

マルガは叫びながら、大熊猫の双爪で斬りかかる。

何とかマルガの攻撃を躱したリーダーらしき男は、脇腹に傷を受けて動きが鈍った。

顔を歪めるリーダーらしき男が、地面に着地した瞬間だった。

その隙を待ち構えていた、リーゼロッテの2体の操り人形、ローズマリーとブラッディーマリーが、別々の方向からリーダーらしき男を斬りつける。



「グハッ…」

一瞬だけ唸り声を上げたリーダーらしき男は、ローズマリーに双剣で心臓を貫かれ、ブラッディーマリーの双剣で首を跳ねられていた。

大量の血を流しながら、地面に倒れる男。



「貴方の方がLVが高く、1対1であったなら、私達の誰かに勝てたかもしれませんが、連携の取れる私達にとって、貴方は敵はありませんわ」

ローズマリーとブラッディーマリーを、自分の傍でフワフワ浮かせているリーゼロッテ。

リーダーらしき男の死によって、戦闘の終了を確認した俺は、



「お疲れ皆。流石だね、マルガ、リーゼロッテ、マルコ。見事な連携だったよ」

俺の言葉に嬉しそうな3人。



「ま~訓練場と、ラフィアスの回廊でLV上げまくったしね!」

「そうなのです!私もLV33。マルコちゃんもLV35。リーゼロッテさんも既にLV30です。頑張った結果なのです!」

マルガはフンフンと少し鼻息を荒くしながら言うと、マルコもウンウンと頷く。



「そうですね。あれだけきっちり連携の訓練をすれば、多少の事は乗り越えれそうな気がしますわね。…油断は禁物だとは思いますけど」

マルガとマルコの頭を優しく撫でているリーゼロッテ。マルガとマルコは嬉しそうに、リーゼロッテに微笑んでいる。



「ま~ね。LVも皆近づいて、連携で大きな力を、出せる様になってきたもんね。じゃ~とりあえず、コイツらの武器は、マルコの荷馬車2号に乗せて、死体を調べて、金目の物を頂こうか」

「ハイ!ご主人様!」

「解ったよ葵兄ちゃん!」

マルガとマルコは元気に返事をすると、俺の指示通りに動いていく。



「リーゼロッテ…また悪いんだけど、ローズマリーとブラッディーマリーで、死体を街道の外に捨ててくれる?」

「いいですよ葵さん。葵さんの命令なら…なんでも聞きますよ?」

「…何時も助かってるよ…リーゼロッテ」

微笑む俺の顔を見て、ニコッと微笑むリーゼロッテは、あさり終わった死体から、街道の外に打ち捨てていく。

そして、全てが終了して、戻ってきた3人。



「お金は…全員で銀貨63枚、銅貨が97枚。あんまり持ってなかったね葵兄ちゃん」

「だね~。ま…金が無いから、野盗なんてやってるんだろうけどさ」

「でも…ご主人様。最近野盗に襲われる回数が、多くないですか?」

マルガが此処までの道のりを思い出して、う~んと唸っている。



確かに多い…。港町パージロレンツォを出立して30日。今回を含めて7回も襲われている。

マルガと出会った頃に比べると、かなり回数が多くなっている。

港町パージロレンツォを出立する前に、野盗が多くなっているのは聞いていたが…。

やっぱり、元グランシャリオ皇国領で戦っている、ラコニア南部三国連合の正規軍と、反乱軍ドレッティーズノートとの闘いが、激しくなっているからなのだろう。

なんでも、反乱軍ドレッティーズノートとの闘いで、ラコニア南部三国連合の正規軍は敗戦続きだとかで、ラコニア南部三国連合が多くの兵を、元グランシャリオ皇国領に送っているのだそうだ。



「葵さん、さっきのリーダーのメイジの男も、ラコニア南部三国連合の正規軍の焼印を、防具に刻んでいました」

「…やっぱりそうなんだ。ほんといい迷惑だよね」

俺の考えているであろう事を先読みして、情報を提供してくれる、頭の回転の早いリーゼロッテに苦笑いしながら応える。そんな俺の傍に、マルガが寄ってきて



「ご主人様!さっき欲しがっていた、望遠鏡を渡しておきますね!」

「お!壊れてなかったんだね!望遠鏡は此れ位の物でも、そこそこするからね。儲けもんだね」

そう言いながら、マルガの頭を優しく撫でると、ニコっと微笑みながら、尻尾をパタパタさせている。



「じゃ~もうちょっとで王都ラーゼンシュルトだから、行こうか!」

俺の言葉に皆が頷く。

俺達は荷馬車に乗って、再度王都ラーゼンシュルトに向かうのであった。













時刻は昼近くになり、初夏と言えど、日差しが強く感じる。

若干の暑さを感じながら、荷馬車を進めている。



「ご主人様!本当にこの望遠鏡は良く見えますね~!」

先程の野盗達から奪った望遠鏡を覗きこんで、キャキャとはしゃいでいるマルガ。

余程面白いのか、さっきからずっとこの調子だ。



「ま~その望遠鏡なら倍率5倍位かな?ちょっとした距離を見るにはちょうど良いかもね」

マルガの頭を優しく撫でながら微笑むと、嬉しそうにしているマルガ。

その反対側では、リーゼロッテがパソコンを開いて、カタカタと、キーボードを打ち込んでいる音がする。



「リーゼロッテも飽きないね~。そんなにパソコン面白い?」

「はいとっても。このパソコンと言う魔法の箱は、凄すぎますわ葵さん。インターネットで、葵さんの居た地球での知識が勉強出来るのですから。しかも…その知識の凄い事…」

リーゼロッテはそう言いながら、パソコンで調べ物をしている。

リーゼロッテが戻ってきてからは、パソコンはほとんどリーゼロッテが使っている。

元々勉強家で、頭の賢いリーゼロッテは、すぐにパソコンに興味を持ち、俺が教えてあげたら、すぐに使いこなせる様になった。



今では、行商の収支や、日常のお金の出入りまで全て、リーゼロッテは把握している。

それをパソコンできちんと記録してくれている。その作業の早い事…。

すぐにブラインドタッチも出来たし…オラ、ブラインドタッチ出来ないのに…やっぱり頭の差ですね…

そんな、ちょっと黄昏れている俺の袖を引っ張る、望遠鏡をのぞき込んでいたマルガが



「ご主人様!町です!町が見えてきました!」

嬉しそうに前方を指さすマルガの言葉に、俺もリーゼロッテも視線を移す。

街道沿いに、沢山の商店や、家々が見えてきた。王都ラーゼンシュルトの郊外町、ヴェッキオに差し掛かって来たのであろう。

沢山の人々の賑わう声、行き交う荷馬車、街道の両側に軒を並べる様々な商店、それを興味津々で見つめるマルガは嬉しそうだ。



「葵さんも、王都ラーゼンシュルトに来るのは初めてなんですよね?」

「うん初めて。今までは港町パージロレンツォ周辺を行商していたからね。噂では色々聞いているけど、郊外町でこれだけ大きいんだから、王都ラーゼンシュルトはどれ位大きいか、楽しみだね」

俺の言葉にニコッと頷くリーゼロッテ。

王都ラーゼンシュルトはフィンラルディア王国最大の大都市。この郊外町でさえ、港町パージロレンツォの郊外町、ヌォヴォの倍は軽く有るだろう。

そんな光景を眺めながら、広い街道を進んで行くと、辺りが開ける。

そして、その目に入って来た強大な威厳の有るモノに、俺達は目を奪われる。



「わああ…」

「おおお…」

「これは…凄いですね…」

感嘆の声を上げ、固まってしまった、俺とマルガとリーゼロッテ。

俺達の目の前に聳える巨大都市こそが、目的地、王都ラーゼンシュルトだ。



王都ラーゼンシュルト…フィンラルディア王国最大の都市にして、フィンラルディア王家が居を構える、王宮、ヴァレンティーノ宮殿を中心に、円の様に広がる巨大な町を、数十kmにおよぶ城塞で取り囲んでいる城塞都市だ。

人口約70万人、郊外町のヴェッキオに住む人を加えれば、約100万人位になるだろう。

高さ15mの強固な城塞は、上部を人が歩いて警備出来る様になっており、港町パージロレンツォの様な市壁とは違い、その守備力は、フィンラルディア王国随一と、言われている。

広さも港町パージロレンツォの約5倍近くあり、様々な公的機関が揃い、大国の中心として、その役割を果たしている。

また、すぐ傍にある、地球のバイカル湖より少し小さい大きさの、ロープノール大湖より、豊富で綺麗な水を都市の中に引いており、その生活水準も高い。

ロープノール大湖より伸びる、無数の大河を航路とし、国中と繋がる事で、繁栄してきた湖岸都市としても有名だ。内陸にある王都ラーゼンシュルトが、発展、繁栄してきたのも、此れが所以であろう。

まさに、大国フィンラルディア王国の、力の象徴とも言える巨大都市なのである。



俺達は暫く、その圧倒的な存在感を放っている、巨大都市に放心状態になっていたが、リーゼロッテが逸早く我を取り戻し、荷馬車専用の城塞門に荷馬車をまわす様に、指示してくれた。

沢山並んでいる荷馬車達の最後尾に並び、暫く待っていると、鎧を着た兵士2人と文官がやって来た。

超美少女のマルガとリーゼロッテを見て、少し意外そうに俺を見る文官に



「こんにちわ。えっと…王都ラーゼンシュルトに住民登録と居住をしに来ました。手続きをお願い出来ますか?」

俺が挨拶をしながら言うと、俺を見て、マルガ、リーゼロッテに視線をやり、最後に傍に来ていたマルコを見ると、フムフムと頷く文官が



「違ったら申し訳無いが、行商人の葵どのですかな?」

「はい…そうですが…」

俺はネームプレートを提示すると、内容を確認した文官は、



「やっぱりそうでしたか!聞いていた特徴と一致しておりましたのでな。貴方達が到着したら、知らせる様に、伝言を受けています。それと、通過税と滞在税は、王都ラーゼンシュルトに住民登録と居住すると言う事なので、頂きません。限定条件通過滞在許可証を発行します。1ヶ月以内に、住民登録と住居の決定をしてください。1ヶ月を超えてしまうと、その分の通過税と滞在税を、頂く事になりますので、注意してください。では、呼んできますので、暫く、お待ちください」

文官の説明を聞き頷く。どうやら、誰かが此処に来る様だ。俺達は邪魔にならない所に荷馬車を止める。



市門や城塞門にいる文官や兵士は、入出管理や、関税の徴収だけでなく、伝言料を支払えば、この様に伝言を伝えてもくれる。内容によって金額は変わるが。



「…因みに、どんな特徴って聞いてました?」

「確か…『凄い美少女のワーフォックスの少女と、同じくエルフの凄い美少女を一級奴隷にして、共に少年を連れている、パッとしない黒髪に黒い瞳の行商人』と、…あ…」

文官は俺の顔を見て、気を使っていそうな苦笑いを浮かべている。

…なるほど。そんな、悪意(主に俺への!)のある、特徴を言うのは、あの子しかいませんよね。なんとなく解ります!



少し黄昏れながら待っていると、俺達の後ろから誰かやって来た。足音からして2人。

俺はきっと、例のブンブン娘と、ハムスターの騎士だと思い、一言、言ってやろうと勢い良く振り向いて、言葉を吐こうとして、吐けなかった。



そこには、何処かの学校の制服の様な服を着た、俺より少し歳の若い、14歳位の少年と少女が立っていた。

紺色の上品なブレザーの様な服には、清潔感のある白いレースが、強いアクセントになっている。

膝上までのニーソを履き、清楚な革靴を履いている少女。少年もブレザーの制服で、よく似合っている。それを見事に着こなしている少年と少女。

少年は結構な美少年で、少女も、マルガやリーゼロッテには及ばないが、結構な美少女だ。

そんな少年少女は俺の顔を見て、フンフンと頷きながら、



「貴方が葵さんですね?」

俺は頷き、ネームプレートを見せると、顔を見合わせて頷く少年少女は、



「私はフィンラルディア王国、フェリシー子爵家次女、コンスタンチェ・ジョエル・ムニエ・フェリシーです。こっちは、フィンラルディア王国、フェヴァン伯爵家三男、カミーユ・レオナール・エルキュール・フェヴァンです。コンスタンチェとカミーユと、呼んでくだされば結構です」

「初めまして。カミーユです」

ニコっと微笑みながら挨拶をする、コンスタンチェとカミーユに、俺達も挨拶をする。

そんな2人に、少し困惑している俺は



「所で君達は…」

「私達は、マティアス様より、貴方達の住む場所まで案内する様に、言いつかっている者です」

俺の問に、ニコっと微笑みながら答えるコンスタンチェ。



「とりあえず、ご案内したいのですが、もう関税の手続きは済みました?」

「あ…まだですね」

「では、待って居ますので、関税の手続きをしてきてください」

コンスタンチェの言葉に、関税の受付迄荷馬車を回す。

そして、関税担当の文官に、挨拶をする。



「この街で、取引の予定はあるか?」

「えっと、考え中ですね。街を出る時に、取引した商品の後関税を支払う事でお願いします」

「ウム、了承した。では、では積み荷を確認する。アイテムバッグに商品があるなら、それも提示してくれ」

俺は文官の言葉に頷く。



関税には支払い方に2通りある。それが、前関税と、後関税だ。

町に入るだけでは、関税は掛からない。

その町で実際に取引する商品にのみ、関税が掛けられるのだ。なので、町に入るだけで関税が掛かり、沢山の町に入るだけで、商品やお金が無くなってしまうと言う事は無い。

前関税は、町で取引する商品の関税を、先に払う事。

後関税は、町で取引した商品の関税を、町を出る時に支払う事。

街に入る時は、商品の品や数を全て調べられる。それを記した羊皮紙を渡されるのだ。

勿論、町側の方も管理していて、町を出る時に、積み荷をチェックされる。

なので、商品を町の中で売れば、すぐに解ってしまうのである。



暫く待っていると、俺達の荷馬車の積み荷を確認した文官が、俺に積み荷の内容を書いた羊皮紙を渡す。それを受け取り、文官に挨拶をして、コンスタンチェとカミーユの元に戻る。



「ごめんね待たせちゃって」

「いえ良いですよ。では私達の後をついて来てください」

コンスタンチェの言葉通りに、俺達は荷馬車に乗り込み、コンスタンチェとカミーユの後をついていく。王都ラーゼンシュルトの華やかな街並みを見ながら、ゆっくりと荷馬車を進め、2人に暫く付いて行くと、大きな門の前で歩みを止める、コンスタンチェとカミーユ。

そして、俺達に振り返り、



「ここが、貴方達の住む家がある所です」

ニコっと微笑むコンスタンチェに、困惑する俺、



「え…この中に、俺達の住む家があるの!?でも…此処は…」

「ご主人様…此処は…何処なのですか?」

そんな戸惑っている俺とマルガに、ニコっと微笑むコンスタンチェ。



「此処はフィンラルディア王国が、世界に誇る学び舎、伝統と由緒正しき学院、聖グリモワール学院です!」

少し得意げなコンスタンチェ。



聖グリモワール学院は、フィンラルディア王国、王都ラーゼンシュルトにある、最高の教育、研究機関だ。その名前はかなり有名で、世界中からこの聖グリモワール学院に入学を希望する者が集まる。学術的な事だけではなく、戦闘に役立つ技術や魔法等も学べ、この学院を卒業した者達は、重要な要職につき、それぞれの分野で活躍しているらしい。

誰もが入学出来る事はなく、王族や貴族、商家等の、権力と財力がある者か、厳しい試験を乗り越えた、才能あふれる者しか、その門は開かれない。正に至高の学び舎なのだ。



俺のその説明に、聖グリモワール学院の広大な敷地を見て、目を丸くしているマルガ。



「とりあえず、私達の住む所迄、案内して貰いましょうか葵さん」

戸惑っている俺の肩に、優しく手を置きながら言うリーゼロッテ。そんなリーゼロッテに、苦笑いをしながら



「そ…そうだね。とりあえず、住む所迄、案内してくれる?コンスタンチェ」

「解りました!では、此れをお渡ししておきます。それは、この聖グリモワール学院の入出許可証です。皆さんの分ありますので、それぞれお持ちください」

俺達は入出許可証を貰うと、アイテムバッグになおし、コンスタンチェとカミーユの案内されるままに、後をついていく。

そんな俺達の傍を、学徒達が通りすぎて行く。



ムウウ…か…可愛い。

着ている制服が可愛いのもあるけど、女生徒達の可愛い事…美形が多いし…めっちゃ好みだ…

そんなニヘラとした顔で、女生徒を見ている俺を見て、ムウウと言った感じで、ギュっと腕に抱きつくマルガの頬は、少し膨れていた。



「そんなに…あの制服が良いのですか葵さん?…夜に…着て差し上げましょうか?」

「そうです!マルガも着ますのです!」

リーゼロッテが悪戯っぽく言い、マルガは少し拗ねマルガになりながら言う。



オオウ…マルガとリーゼロッテの制服姿…やばい!可愛すぎる!!制服を着たまま…あんなコトや、こんなコト…是非やってみたい!

荷馬車の上で、マルガとリーゼロッテに抱きつかれながら、ハアハアしている俺に、困惑しながら話しかけてくるコンスタンチェ。



「着きました。此処が貴方達が居住する事になる、宿舎です」

苦笑いしながら言うコンスタンチェに、現実に戻された俺は、その建物を見て、少し声をあげる。



「おお…凄い立派な建物ですね…」

「そうですねご主人様!まるで何処かの、貴族様のお屋敷みたいです!」

「そうですわね…古い建物ですが…しっかりとした作りに、格調の高い雰囲気…良い建物ですね」

それの素直な感想に、マルガもリーゼロッテも頷いて嬉しそうにしている。

俺達の目に写っているのは、3階建ての立派な、品のあるレンガ作りの大きな宿舎だった。

まるで地球で言う所の、世界遺産の様に威厳のある建物に、心を奪われる。



「で…僕達の部屋は、何階になるんですか?出来れば、2室程お願いしたいのですが」

「そうですね。それと、此処の宿舎は、学生はいるのですか?その辺もお聞きしたいですわ」

その俺とリーゼロッテの問に、ニコッと微笑むコンスタンチェは



「いえ、その様な心配は要りません。だって、この宿舎全てが、貴方達に貸し出される物なのですから。この宿舎は、貴方達専用です。好きな様に使ってくれとの、学院長の指示です」

「「「ええ!?この宿舎全部を、貸して貰えるんですか!?」」」

俺とマルガ、マルコは一斉に声をあげる。



それはそうだろう。この宿舎は3階建てで、部屋数も何十部屋とある大きさだ。

しかも此処は、格式高く、伝統と由緒ある、聖グリモワール学院。

そんな聖グリモワール学院の中の、それも、結構大きい宿舎一棟を、無償で貸して貰えるとは、全く思っていないからだ。

そんな戸惑っている俺とマルガ、マルコを見ながらリーゼロッテが



「…本当にルチアさんは、とんでも無い物を、用意してくれましたね。とりあえずは、この学院の、話の解る方と、お話してからでしょうか?可愛い少年少女さん?」

リーゼロッテが涼やかな微笑みでコンスタンチェとカミーユに告げると、リーゼロッテの頭の回転の早さに驚いている2人は、



「そ…そうですね。この後に、この聖グリモワール学院の学院長と会って貰います。詳しくは学院長とお話してください。私達も一緒に付いて行きますので。では、荷馬車を止めてください。案内しますので」

コンスタンチェの指差す方を見ると、宿舎の隣にそこそこ大きい、屋根付きの馬小屋と、馬車置き場があった。

その馬小屋と馬車置き場も、俺達が使って良い様で、荷馬車を止め、馬小屋にリーズとラルクルを繋ぎ、戻って来ると、コンスタンチェとカミーユの案内のもと、学院長の所に向かう。

沢山の学生や、素晴らしい作りの建物、綺麗に手入れされた、木や芝生、美しい彫刻を眺めながら歩いて行くと、一際大きい建物に到着した。



「この建物が、学院長のが居る本館になります。では、行きましょうか」

コンスタンチェの言葉に、頷きついていく。そして、その本館の最上階について、豪華な扉の前に来た。

その扉にノックをするコンスタンチェ。



「アルベルティーナ学院長、コンスタンチェです。件の行商人、葵様をお連れしました」

「解りました。お入りなさい」

その声に、部屋の中に入っていく。その部屋は沢山の書物に囲まれており、様々な魔法の品、調度品や装飾品が並べられている。その奥の立派な机に座って居る。女性の前に行くと、ニコっと微笑む女性。

歳の頃は20代後半、マティアスと同じ位の歳であろうか?ダークブラウンの綺麗な髪と瞳をした、優しい雰囲気のある、少しふくよかな女性であった。



「ようこそいらっしゃいましたね葵さん。私がこの聖グリモワール学院の学院長を努めています、フィンラルディア王国、ティコッツィ伯爵家当主でもある、アルベルティーナ・マリザ・ティコッツィです。貴方を歓迎しますわ葵さん」

優しく微笑むアルベルティーナ。



「どうもよろしくお願いします。僕の事はご存知みたいなので、僕の連れを紹介します。こっちが僕の一級奴隷をしている、マルガとリーゼロッテ。そっちが、旅の仲間のマルコです」

「どうもです!ご主人様の一級奴隷をさせて貰っているマルガです!よろしくお願いしますです!」

「オ…オイラは、葵兄ちゃんの弟子をしてますマルコです!ヨロシクお願いします!」

若干緊張しながら、可愛い頭を下げるマルガとマルコに、フフフと笑っているアルベルティーナ



「私も葵さんの一級奴隷に就かせて頂いて貰っている、リーゼロッテと申します。以後お見知りおきを」

綺麗にお辞儀をするリーゼロッテに、優しく微笑むアルベルティーナ。



「噂通りの凄い美少女さんを、共に連れているのですね。ルチア様から色々聞いては居ますが、楽しそうですわね」

「ルチアから色々ですか…どんな色々ですか?」

「あら…聞きたいのですか?」

「…いえ、辞めときます。なんか、何処かが壊れてしまうかもしれませんから…」

そう、主にオラのガラスのハートがね!…ルチアめ…逢ったら、ちょっとお仕置きしてやる!

そんな苦笑いしている俺を見て、楽しそうに笑っているアルベルティーナに、リーゼロッテが



「では、挨拶も終わった事ですし、お話をさせて頂きましょう葵さん。アルベルティーナ学院長も、お忙しい身で御座いましょう?私達に貴重な時間をさいて頂くのも、恐縮ですわ」

涼やかに微笑みながら、アルベルティーナを見るリーゼロッテ。そのリーゼロッテの表情に、フっと軽く笑うアルベルティーナ。



「まず、あの様な素晴らしい宿舎一棟を、私達に無償で貸して頂ける事に、感謝をさせてください」

綺麗にお辞儀するリーゼロッテ。釣られて俺とマルガ、マルコも礼を述べる。



「ですが、一介の行商人である私達に与えるモノとしては、過分に感じます。宿舎の1室を借りるだけならまだしも…。此処は普通の所ではありません。世界中にその名を馳せる、歴史と伝統、由緒正しき聖なる学び舎、聖グリモワール学院なのですから。そこに、どの様な理由があるのかと思いまして」

リーゼロッテの涼やかな微笑みを、真正面から優しく見返す、アルベルティーナ。



確かに俺も気になっていた。過分すぎる。それは感じていた。…此処はリーゼロッテに任せよう。

俺と瞳で合図をするリーゼロッテは、俺から許可を得た事を確信すると、話を進める。



「もし、私達に都合の悪い事が有るのなら、他の宿泊先や、家を探さなければなりませんので」

涼やかにニコっと微笑むリーゼロッテを見て、クスっと少し軽く笑うアルベルティーナは、



「…流石にエルフさんは、賢しいですね。ですが、その様に釘をささなくても、構いませんよ?さっき言われた様に、無償でアレをお貸しします。ですが…リーゼロッテさんの言われる通り、全くの無条件では無いのも事実ですわ」

「…ソノ条件と言うのは…一体どんな事なのでしょう?」

涼やかに微笑むリーゼロッテを見て、優しく微笑むアルベルティーナは



「その条件と言うのは、貴方達に、この学院や生徒の為になる品物を、仕入れ、販売して欲しいと言うのが条件です。その行為を対価として頂くと言う形を、とらせて貰いたいのです」

「…つまり、簡単に言うと…この聖グリモワール学院の、職員になれと…言う事でよろしいのでしょうか?」

リーゼロッテの言葉に、フフっと笑うアルベルティーナ。



「本当に頭の回転の早い方ですね。是非この学院の生徒に欲しい位ですわ。リーゼロッテさんの言う通りです。私は貴方達を、職員として迎えようと思っています。ですが、普通の職員ではありません。客分職員として迎えるつもりです」

「客分職員…それはどの様な、ものなのでしょうか?」

少し目を細めるリーゼロッテを、楽しそうに見るアルベルティーナは、



「つまり普通の職員では無いと言う事ですね。何処が違うかというと、私は貴方達の行動を制限しません。

いつも通り、冒険や行商をしてくれれば結構です。その中で見つけた、又は、仕入れた品物の中で、学院や生徒達に役に立つモノを売ってくれれば良い…そう言う事ですね。ですから、貴方達に、職員としての給金は支払いません。その代わりに、無償であの宿舎一棟を貸し出すと、言う事ですね」

「…なるほど。賃金の代わりに…あの宿舎一棟ですか…ですが…」

そう言って俺の顔を見るリーゼロッテ。



リーゼロッテの言いたい事は解っている。それでもまだ過分だろう。しかも、一介の行商人にソレをする理由が無い。俺は、リーゼロッテに話を続けさせる様に、瞳で合図をすると、リーゼロッテはアルベルティーナに向き直る。



「それでも…まだ過分に感じるのですが?それに、一介の行商人である私達に、その様な事をされる理由も解りません」

直球をアルベルティーナに投げかけ、涼やかに微笑むリーゼロッテを見て、フフっと軽く笑うアルベルティーナは、



「ソレに関しては…ルチア様からの指示…お願いだからですね。いかな私でも、ルチア様のお願いや指示を、無下にはとても出来ませんので。その件は、直接ルチア様に聞かれるのが宜しいでしょう。もう暫くしたら、此方にお見えになられるみたいですし。それから、あの宿舎は、作りはとても良いですが、新しく宿舎を別の所に作ったので、取り壊す予定でしたの。ですから、貴方達がそこまで気になさる事は無いのですよ。私達も取り壊す予定の物を、有効活用していると思っていますので。この学院は色々な可能性を探す場所でもあります。その為の投資だと思っていますの」

そう言って優しく微笑むアルベルティーナ。



「で…どうしますか?私の提案を断られますか?」

優しく語りかけるアルベルティーナ。リーゼロッテも俺に向き直り、瞳で合図をしてくる。



…話は此処までだな。アルベルティーナがどう言った経緯で俺達を受け入れたかは、此れ以上はアルベルティーナから聞き出せないだろう。あとは、ルチアから直接聞いた方が早い。

それに、確かに良い条件だ。俺達の行動に制限無しで、あの宿舎を無償で使えるのはありがたい。

しかも、この聖グリモワール学院で商売も出来る。今は人も増えたし、収入を増やせる選択肢は多い方が良い。断る理由は無いし、此のまま話を進めよう。

俺の表情で考えを読み取ったのか、俺の顔を見てニコっと微笑むリーゼロッテに苦笑いをしながら、



「あの宿舎は、僕達の自由にさせて貰っても良いんですよね?」

「はい、構いません。如何に手を加えられ様が、私は咎めません。好きに使って頂いて結構です。貴方達が使わないのであれば、取り壊すしかないモノですからね。しかし、学院や生徒に危険の及ぶ事は避けてくださいね?」

「ええ…それは。その様な事はしませんので」

苦笑いしながら言う俺を見て、ニコっと微笑むアルベルティーナ



「では、契約成立で宜しいですね?」

「はい、お願いします」

俺の言葉にウンウンンと頷くアルベルティーナは、何かを取り出した。



「此れは、客分職員証明書です。皆さんの人数分有ります。先程お渡しした、入出許可証と交換に、此れをお渡ししますね」

俺達は言われた通りに交換して、客分職員証明書を受け取る。



「これで貴方達は、この聖グリモワール学院の正式な職員です。それと此方が、学院規則です。後で一応目を通しておいてください」

その羊皮紙を受け取った時、グ~っと、可愛い音が鳴った。ふと、音のした方を見ると、マルガが顔を赤くして、恥ずかしそうにモジモジしていた。



「ああ、此れはいけませんね。もう、昼食の時間でしたわね。我慢させてしまったら、可愛いキツネさんが可哀想ですわね。コンスタンチェとカミーユ。葵さん達を、食堂に案内してあげて。私が食事を御馳走させて頂きますから。後の食事は、食堂の料理長と葵さんが直接お話しをしてください。此処の食堂の食事は、なかなかの物ですよ?満足出来ると思います」

その言葉を聞いたマルガは、ニヘラと涎の垂れそうな、嬉しそうな顔をすると、



「ご主人様~私…楽しみです~」

ニヘニヘ顔のマルガの頭を優しく撫でると、可愛い舌をペロっと出して、はにかむ可愛いマルガ。

俺達はアルベルティーナに挨拶をして、部屋から出ていく。



そんな静寂の戻ったアルベルティーナの座っている机に、一瞬で女性の姿が現れる。

そこには、艶かしいプロポーションの、美しい女性が姿を現して、アルベルティーナの机に腰を掛けていた



「私がずっと目の前に座っていたのに、全く気が付かなかったわね、あの子達。意外と、大した事無かったはね」

「いえ、メーティス統括理事の気配と姿を消せる魔法、ミラージュコートを見破れる様な上級者は少ないだけでしょう?…本当に悪趣味なんですから…」

呆れる様に、溜め息を吐くアルベルティーナ。そんなアルベルティーナに悪戯っぽく微笑むメーティス。



「ですが…あの行商人の少年が、異世界…『地球』とか言う、凄く文明の進んだ世界から、やって来た様には見えませんでした。ルチア様の言う様な、力も感じませんでしたし…」

「…なんでも、開放する事で力を出せるらしいから、通常時は感じれないらしいわよ?あのマティアスが言う位なんだから、間違いないんじゃない?ルチアやマティアスが、私に嘘なんてつかないわよアルベルティーナ。それに、いろんな国を旅して、見聞してきた私でも、あの様な、黒い髪に、黒い瞳の取り合わせを持つ人種なんか、見た事無いしね。」

メーティスの言葉に、少し考えているアルベルティーナ。



「…確かにそうですが…。それから、ルチア様にマティアス殿ですよ、メーティス統括理事。きちんとした言葉使いで、お願いします」

「いいじゃない、此処には私達しか居ないんだから。それにマティアスやルチアは、私の魔法の弟子よ?師匠が弟子の事を、呼び捨てにしたって良いじゃない。かたい事言わないの」

フフフと笑っているメーティスに、少し呆れているアルベルティーナ。



「兎に角、アノ少年達は、私達で監視しましょう。危険な事にならない様にね。準備はしてあるのでしょう?アルベルティーナ」

「まあ…メーティス統括理事のご指示通りにしています。それに、この聖グリモワール学院の関係者だと解れば、もし情報が漏れたとしても、そう簡単に手は出せませんからね」

「当たり前ねそんな事。私の目の黒いうちは、この聖グリモワール学院を、どうこうさせるつもりもないしね。アノ行商人の少年にしてもね」

ニヤっと笑うメーティスの瞳は冷たさを纏っていた。



「とりあえずは、こっちに問題は無いとして…あっちがどうなるかね」

「そうですね。あちらは私達では、どうする事も出来ませんからね。ルチア様に任せるしか…」

「そうね…。あっちはルチアに任せましょう。自分で言い出した事なんだから、ルチアにさせればいいのよ」

「…えらく冷たいのですね。弟子なのでしょう?」

「弟子だからこそよ。甘やかす訳にはいかないわ。貴女もよく解っているでしょう?」

ニヤニヤ微笑むメーティスに、呆れ顔のアルベルティーナは、



「ええ、良く解っていますよも。私も貴女の弟子なのですから!…ハア~」

溜め息を吐くアルベルティーナを見て、楽しそうなメーティス。



「じゃ私は、会合が有るから行くわ。後の事はよろしくねアルベルティーナ」

「解ってます。いってらっしゃいませメーティス統括理事」

ニコっとアルベルティーナに微笑むと、部屋から出て行くメーティス



「…ま、私に出来る事をしましょうか…」

深い溜息を吐きながら、自分の業務に戻るアルベルティーナは、少し呆れ顔だった。













アルベルティーナ学院長と別れた俺達は、コンスタンチェとカミーユの案内で、生徒達が食事を取る食堂にやって来ていた。広い講堂の様な食堂に、マルガとマルコも、わああと声を上げている。

コンスタンチェとカミーユの指示で席に座ると、食堂の使用人らしきメイドが、台車を押しながら俺達の所にやってきて、料理を並べていってくれる。その料理は、港町パージロレンツォのレストランテには及ばないが、結構高級な物だと伺える。そんな、美味しそうな料理の匂いに、マルガは可愛い鼻をピクピクとさせている。そんなマルガに、一同が微笑んでいる。



「じゃ~折角だから頂こうか」

「ハイ!ご主人様!いただきます!」

嬉しそうに頂きますをすると、右手にナイフ、左手にフォークをチャキーンと構え、料理に襲いかかっているマルガ。ふと、足元に視線を落とすと、白銀キツネの子供、甘えん坊のルナも、木の皿に料理を入れて貰って、アグアグと料理にかぶりついている。そんなマルガとルナのキツネコンビの食べっぷりに癒されている。



「そう言えば、コンスタンチェとカミーユは、この学院を卒業したらどうするの?やっぱり自分達の領地に戻るの?」

「いえ!私達は、此処を卒業したら、バルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団に入って、ルクレツィオ様のお役に立つつもりです。私の家もカミーユの家も、騎士団を持っているのですが、兄達が全てしてくれていますので。ルクレツィオ様の元で色々学ぶつもりです」

「そうですね。僕も色々ルクレツィオ様から教えを請う様に、父から言われています。ルクレツィオ様は素晴らしい方ですから」

カミーユに言葉に、頷くコンスタンチェ。

なるほど…バルテルミー侯爵家と、フェリシー子爵家、フェヴァン伯爵家は、同じ派閥の貴族って事か…

ま~善政をしく、あの人格者のルクレツィオ様なら、良くしてくれるのは解っているし、預ける側も安心と言った所か。じゃないと、貴族の坊ちゃんやご令嬢が、他の貴族の騎士団なんかには入らないよな。



そんな事を考えながら、食事を済ませた俺達は、食後の紅茶を飲んでいた時だった。

食堂に居た学生達が、ざわざわと騒ぎ始める。そして、誰かが俺達の傍にやってきた。



「此処に居ましたか葵殿。しばらくぶりですな」

その聞き覚えの有る声に振り向くと、そこには、純白の光り輝く様なフルプレートに身を包み、純白のマントを靡かせている、威厳の有る騎士が立っていた。

茶色掛かった綺麗な金髪に、キリッとした瞳、身長は190cmを少し超える偉丈夫だ。

切れ長のかなりの男前は、俺達を見て優しく微笑んでいる。

その偉丈夫の男前を見た生徒達の殆どが、その騎士に向かって片膝をつき、挨拶をしている。

当然、コンスタンチェやカミーユも同じ様に、片膝をついて挨拶をしている。

その光景に俺達が戸惑っていると、リーゼロッテがにこやかに微笑みながら、



「マティアスさんこんにちわですわ。やっぱり、フード付きのローブとあの眼鏡が無いと、随分と雰囲気が変わりますね」

「まあ…私の姿は、目立ちますからね。あの時はそうさせて貰ってました」

微笑むマティアスに、ニコっと微笑むリーゼロッテ。



「ほ…本当に、マティアスさんだ!ローブと眼鏡が無かったから、オイラ全く解らなかったよ!」

「本当です!私も解らなかったです~。マティアスさんこんにちわです!」

マルコとマルガは、無邪気にマティアスに挨拶をしている。そんなマルガとマルコを見て、嬉しそうに微笑むマティアス。周りは、マティアスとの挨拶を終えて、椅子に座りなおしている。



「えっと…マティアスさんなのは解ったけど…一体…マティアスさんは…何者なんですか?」

戸惑いながら聞く俺の問に、コンスタンチェが驚きながら、



「ええ!?葵さんはマティアスさんが、どう言った方か知ら無かったんですか!?私は…マティアス様から葵さんを迎えに行く様に、言われたので…てっきり知っているのかと…」

困惑しているコンスタンチェに、苦笑いしている俺を見て、カミーユが説明してくれる。



「マティアス様は、フィンラルディア王国、女王親衛隊である、アブソリュート白鳳親衛隊副団長にして、フィンラルディア王国の最高位の騎士の称号である、クーフーリンの称号を持つ、至高の騎士です」

「「「えええええ!?」」」

その説明に、俺もマルガもマルコも驚きの声をあげる。その俺達の表情に、少し苦笑いしているマティアスは、表情を引き締め直すと、



「私はフィンラルディア王国、バルテルミー公爵家長男、マティアス・オイゲン・ウルメルスバッハ・バルテルミー。ルクレツィオは私の父だ」

マティアスが微笑みながら言う。



いやいやいや。色々突っ込みどころ多いだろ!?

100歩引き下がって、マティアスがあのバルテルミー公爵家の長男なのは良しとしよう。

もともと、何処かの貴族か何かだと思ってたから。

でもマティアスが、あのフィンラルディア最強と呼び声高く、各国でも超有名な、女王親衛隊である、アブソリュート白鳳親衛隊副団長!?しかもクーフーリンの称号を持つ騎士!?

確かに…出鱈目な強さを持った人だとは思っていたけど…此処までとは…

マティアスの顔を見ながら呆けている、俺とマルガとマルコの後ろから、再度聞き覚えの有る声が聞こえる。



「そういう事ね。その件は置いといて、とりあえず、きちんと約束通り来た事は、褒めてあげるわ」

その声に振り向くと同時に、周りが騒然となり、食堂に居た全員が、片膝をついて頭を下げている。

そこには、淡い桃色の豪華な装飾のされたドレスに身を包まれ、光り輝く宝石を上品につけている、ピンク色の髪をした超美少女が立っていた。正に、女神と見紛う美しさと威厳に、思わず我を忘れる。

そんな俺を見て、楽しそうに小悪魔の様な微笑みを向ける美少女は、



「どうしたの葵?いかに私が綺麗だからって、見惚れすぎじゃないの?」

その声に、少し我を取り戻した俺は、微かに声を出す。



「ルチア…なの?どうしたの…そんな綺麗な格好して…」

「貴様!ルチア王女様に向かって、なんと無礼な!頭が高い!控えろ下郎!」

「ええ!?お…王女様!?」

俺の言葉に共が激昂していうと、ルチアは手を軽く共の前に出し



「いいのよ。彼はちょっと混乱しているだけだから」

ニヤっと笑うルチアが俺の傍にやってくる。俺達が狼狽しているのを見たマティアスが口を開く。



「この方は、フィンラルディア王国、第三王女、ルチア・ベルティーユ・ローズリー・フローレンス・フィンラルディア様。第三王位継承権を持つ、フィンラルディアの王女様です」

「「「えええええええええ!!!!」」」

マティアスのその説明に、俺もマルガもマルコも同時に声を上げる。



広い講堂の様な食堂に、俺達の声が響く中、ルチアは小悪魔の様に微笑んでいた。
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