愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 27 ヴァレンティーノ宮殿

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「きっちりとした説明は、あるんだよなルチア?」

「そうね~。私のこの美しさについてなら、教えてあげてもいいわよ?」

ルチアの小悪魔の様な微笑みに、呆れている俺。

何時もはルチアが俺に言うであろう言葉を、今回は俺が言っている。



あの後、落ち着いて話が出来る所でと言う事になって、ついさっき我が家になった俺達の宿舎に、ルチアとマティアスを連れて戻ってきていた。

何処かの貴族の屋敷並にある宿舎の感動を、噛みしめたい所ではあったが、それどころでは無くなった。

とりあえず、話しが出来てゆっくり出来る、応接室に移動したのだ。

初めは一杯の護衛の兵士達も入って来ようとしたが、ルチアの一喝で、護衛の兵士達は、渋々宿舎の玄関の外で待機している。ルチアの指示で、コンスタンチェとカミーユは同行していた。



「…まさかルチアが王女様だったとはね。マティアスさんも、女王親衛隊副団長とか…通りで強いはずだよね」

「マティアスは兎も角、私が王女でも、不思議じゃないでしょ?こんなに美しいんだし~」

「…なんかこの国の行く末が不安になってきた…他の国に…移住を考えた方が…」

「なんでよ!?喧嘩売ってるの?売ってるのね!良い度胸ね!」

呆れながら言う俺に、プリプリ言うルチア。その何時もの光景に、マルガとマルコの緊張も解け、アハハと笑い出した。それを見た俺とルチアは、顔を見合わせて苦笑いをしていた。



「てかさ…ルチアが王女様なら、俺達もきちんとした話し方や、接し方した方がいいよね?」

「公式の場や、他に目がある時以外は…今迄通りでいいわよ…今更でしょ?」

少し、恥ずかしそうに言うルチアは、若干顔を赤くして俯いている。

そんなルチアに、嬉しそうなマルコとマルガが飛びついた。



「何か驚いて遅くなったけど、ルチア姉ちゃんまた会えて良かったよ!」

「そうですね!私も驚いちゃいましたけど、ルチアさんも元気そうで良かったです!」

「フフ…ありがとね。キツネちゃんにマルコ…貴方達も元気そうで嬉しいわ」

ルチアに抱きついているマルガとマルコの頭を、優しく撫でているルチアの顔は幸せそうだった。



「とりあえず、ルチアが王女様なのは解ったけど…ルチア…お前さ、あの時、港町パージロレンツォで何をしてたの?事もあろうに、一国の…しかも、大国フィンラルディア王国のお姫様がさ。良く許可がおりたものだね」

「港町パージロレンツォに居た理由なんて…貴方に関係無いでしょ!許可だってきちんとお母様に貰ったわよ!マティアスを護衛に付けるって事でね。私にも色々あったのよ!」

そう俺に言ったルチアは、頬をプクッと膨れさせていた。



ありゃ…拗ねられたんですね。解ります。

こうなったルチアに、これ以上聞き出すのは無理か。また次回にしよう。

俺がその様な事を考えていると、リーゼロッテがルチアに微笑みながら



「港町パージロレンツォの件は良いとして、物凄い住居を用意して貰えて、感謝しますわルチアさん。この宿舎にも、色々使い道がありそうですしね。人が増えても大丈夫ですし、倉庫、作業場としても、有効に利用出来ますから」

「流石はエルフちゃんね。葵と違って、先の事がきちんと見えてるわね。貴女が葵の傍に居ると思うえば、安心して寝ていられそうね」

リーゼロッテとルチアは、お互い含み笑いをしながら、微笑み合っている。

その含み笑いに、少しゾクっとしたものを感じながら、俺は話を続ける。



「とりあえず、俺達は何をしたら良いの?前に専任商人になってって言ってたけどさ。初めはルチアの専任商人になるのは、構わなかったけど、王女様の専任商人ともなれば…」

俺の少し言葉を濁した言葉に、ルチアは少し寂し気で真剣な眼差しを俺に向ける。



「ええ…その事なんだけど、今反対されているわ」

「そりゃ~そうでしょ」

当然だ。俺達とルチア達の直接的な関係は別として、大国の王女様の専任商人ともなれば、得られる利益も半端ない。その美味しい利権を、どこぞの馬の骨とも解らない俺に、むざむざ渡す様な奴は居ないであろう。



「でも…ルチアさんは、それ位で引き下がらなかった…お話の続きが有るのでしょう?」

「…本当に頭の回転が早いわねエルフちゃん。勿論その通りよ。私はそれ位じゃ引き下がらないわ」

リーゼロッテの涼やかな微笑みを見て、小悪魔の様に笑うルチア



「葵やエルフちゃんの言う通り、王家に繋がりのある、貴族や商家達が猛反対してるわ。まあ、王族や六貴族の専属商人や専任商人は、無関税特権が与えられるから、仕方無いんだけどさ」

軽く溜め息を吐くルチアを見て、俺の服の袖を引っ張るマルガは



「ご主人様~。無関税特権って何なのですか?」

可愛い子首を傾げて、う~んと唸っている可愛いマルガの頭を撫でながら



「無関税特権と言うのは、簡単に言うと、関税が掛からない権利を貰えるって感じかな?」

「関税…税金を払わなくていいのですか?ご主人様」

「そう、葵の言う通りよキツネちゃん。王族や六貴族の専属商人や専任商人はね、無関税特権が与えられるの。六貴族の専属、専任商人は、2つの品物に対して無関税特権が与えられ、王族の専属、専任商人も、2つの商品に対して無関税特権が与えられ、この国の最高指導者であるお母様、女王の専属商人は、3つの商品に対して無関税特権が与えられているの。無関税特権を与えられるのは、それぞれ1人迄だけどね」

人差し指を立てながら、少し得意げに言うルチアの話を、なるほど~と頷きながら聞いているマルガとマルコに癒されながら、



「しかも、その無関税特権を与えられた商品の、取引量に制限は無いらしいよ。つまり、好きなだけ、取引しても、関税は掛からないと言う事なんだ。関税が掛からないと、その分高く売る事も出来るし、他より安く売っても、儲けを出す事が出来る。それが、如何に有利か解るでしょ?」

俺の言葉に、おお~っと言いながら、ウンウンと頷くマルガにマルコ。

ふと視線を足元に落とすと、白銀キツネの子供、甘えん坊のルナが、マルガを真似して首を縦に振っていた。…ほんとにルナも解ってるの?食べ物の話じゃないよ?本当にマルガちゃんに似てきたね!



「ま~制限が無いと言っても、他の取引に与える影響も甚大だから、年に2回話し合われる会議で、無関税特権を持っている物同士が、互いに話し合って、影響の出ない様に取引量を決めてるんだけどね。それでも、莫大な利益を上げる事が出来るのは、確かな事ね」

ルチアの説明を聞いて、う~んと唸りながら頷いているマルガとマルコ。



「…で、そんな権利を貰えるルチアさんの専任商人に、葵さんがなる事を嫌がっている人達は、どの様な事を仰ってられるんですか?」

ニコっと微笑むリーゼロッテを見て、フフっと軽く笑うルチアは。



「本当に賢しいわね。当然、私が専任商人に葵を指名している事には反対だけど、私の意志も邪険には出来ない。だから…ある事が決まったの」

「その…ある事と言うのは…何なのですかルチアさん?」

目を細めているリーゼロッテに、少し苦笑いしながらルチアは、



「それはまだ解らないの。とある人物が、葵か貴族や商家達の推挙する商人の、どちらかを選ぶと言う事になったのよ。どんな条件が出されるかは、その場で発表されるらしいわ」

ルチアの言葉に、なるほどと頷く一同。



「所で、その発表される日って何時なの?俺も行かなくちゃダメだろうし、出来れば先に言って欲しいんだけど」

「そうね。貴方にも都合があるわよね。その日は今日よ。今日の昼刻6の時。今言ったから大丈夫よね?今から用意して、王宮に向かうわよ」

「ええ!?今日の昼刻の6の時なの!?…俺達が今日就いてなかったら、どうしていたんだよ…」

「ばかねえ…貴方が私との約束を、破る訳無いと解ってたからよ!マティアス!」

ルチアはマティアスに声をかけると、マティアスはアイテムバッグから、大きな鞄を数個取り出した。



「この鞄の中には、ちょっとした服が入っているわ。葵とマルコの服は新調したけど、キツネちゃんとエルフちゃんの服は、私の持っている物で、昔着ていたやつを持ってきたわ。この鞄ごと全部上げるから、着替えたら学院の外に馬車を待たせてあるから、それに乗って王宮に来るといいわ。女の子の方はコンスタンチェが着替えるのを見てあげて。葵とマルコはカミーユにね。じゃ、私は先に王宮に戻るから。また後でね」

ルチアはそう言い残して、マティアスと帰って行った。



「…本当に台風みたいな女の子なんだから…。とりあえず、着替えて準備をしよう。俺とマルコは隣の部屋で着替えるよ。カミーユお願い出来る?」

「ええ!結構ですよ」

俺とマルコ、カミーユは隣の部屋に着替えに行く。



「全く…ルチアには毎回やられるよね。カミーユも苦労してるんじゃないの?」

「いえ…僕はそれほどでも。と…言うか、バルテルミー公爵家の方々以外で、あんなに砕けたルチア様を見たのは初めてなので、驚いているのが本音です。余程…貴方達の事を信用しているのでしょうね」

「ほんと?あのルチアなら、美少年のカミーユの事、イジリ倒してると思ったんだけど…」

俺の美少年という言葉に、若干顔を赤らめているカミーユ。

オオウ…恥じらってるよ貴族の坊ちゃんが!マルコみたいだ…マルコ2号…ういやつめ…

そんなアホ事を思いながら、カミーユに手伝って貰って着替え終わった。

マルコが着ているのは、緑色のジャケットに合わせた、爽やかな正装だ。俺の方は茶色を基調にした、落ち着いた物だった。



「マルコよく似合ってるよ。ルチアなかなか良いのをくれたね」

「うん!そうだね!葵兄ちゃんも、良く似合ってるよ!」

「2人共良くお似合いですよ」

カミーユの言葉に、若干の照れを感じている俺とマルコの元に、コンスタンチェがやってきた。



「皆さんも用意出来たみたいですね。マルガさんとリーゼロッテさんも用意できました」

そういったコンスタンチェの後ろから、マルガとリーゼロッテが姿を現す。

マルガは淡いピンクの花柄の、フリルのついた可愛いドレスと赤い靴だった。幼女体型のマルガにとても似合っている。

リーゼロッテは薄いブルーのドレスに、白いレースが品良くつけられており、編み型のハイヒールを履いて、凛としたリーゼロッテの雰囲気に良く似合っている。



「2人共…とても良く似合っているよ…」

「ありがとうございますご主人様!ご主人様も良く似合っています!」

「そうですね。葵さんもマルコさんも、とても良く似合っていますね」

俺がマルガとリーゼロッテに見惚れながら言うと、マルガとリーゼロッテも顔を赤くして嬉しそうだった。



「では、皆さんの準備も整いましたし、王宮に向かってください。馬の世話は、学院の者にしてもらえる様、私から言っておきますのでご安心してください」

「たのむよコンスタンチェ。じゃ~皆行こうか!」

俺の声に皆が頷き、学院の外に待たせている馬車に向かうのであった。











俺達は、ルチアの用意してくれた馬車で、王都ラーゼンシュルトの王宮、ヴァレンティーノ宮殿に向かっている。馬車の窓から楽しそうに外の風景を見ているマルガの膝の上には、気持ち良さそうに白銀キツネのルナが抱かれている。そんなマルガを俺とリーゼロッテは微笑み合いながら見ていた。



「あ!葵兄ちゃん!王宮が見えてきたよ!」

マルガと同じ様に窓から眺めていたマルコ、嬉しそうに指をさす。



「わああ…」

それを見たマルガは感嘆の声を上げる。



街の中心に聳えるソレは、初夏の日差しを浴びて、光り輝いている様に、眩しく映る。

純白のレンガで作られた、埃1つ無さそうな真っ白。何者にも汚されぬ純白。

幾つかの塔の様な物の真ん中に、金色の宮殿が見える。その素晴らしい装飾がされた壁や屋根が、威厳を漂わせている。

数々の彫刻が、ここに来るものを、見下す様に、称える様に、その無機質な瞳を俺達に向けていた。

この全ての中心にあるかの様に思わされる、大国フィンラルディア王国の王家の住まわれる世界。

そう…これが王都ラーゼンシュルトの王宮、ヴァレンティーノ宮殿だ。



俺達を乗せた馬車は、厳重に管理された正門をくぐり、王宮の入り口に到着した。

そして、俺達が馬車から降りた時だった。

俺達の横に、俺の荷馬車の2.5倍はあろうかと言う大きさの、鋼鉄で出来た箱型タイプの荷馬車が止まった。

それを見たマルガとマルコがソレに食いついた。



「ご主人様凄いです!鋼鉄の大きな馬車です!硬そうなのです!」

「だね!マルガ姉ちゃん!それに、馬じゃなくて、牛よりでっかい魔物が、馬車を引いてるよ!」

興奮気味のマルガとマルコを見て、微笑み合う俺とリーゼロッテ。



「あれは鋼鉄馬車だ。恐らく魔法で強化されたマジックアイテム型の荷馬車だね。それと、あの鋼鉄馬車を引っ張っている大きな牛の魔獣はストーンカだね。ストーンカは非常に丈夫で、力もあるから、重いものを引くのに使われる。アノ鋼鉄馬車はかなりの重量だから、普通の馬じゃ引けないんだろう。ま…どちらも高額だから、乗っている人は少ないけどね」

「なるほど~。でも魔獣も、人間の言う事を聞くのですねご主人様」

「うん。一部の魔獣だけだけどね。ウイーンダルファ銀鱗騎士団の乗っていたワイバーンもその一種だね。数は少ないけど、人間に調教が出来る魔獣が居るのも確かだね」

俺がマルガとマルコにそう説明していると、その鋼鉄馬車から人が降りてきた。



リーゼロッテの様に綺麗な金髪と、透き通る様な金色の瞳、色白の肌に、少しつり目の知性を感じさせる甘い顔立ち。薄い唇は上品に閉じられている。年の頃は20代前半、身長180cm位のスラリとした、その佇まいは気品に満ちていた。そこには、今迄見た事の無い様な、綺麗な男性が立っていた。

その美青年の後ろから、3人のかなりの亜種の美女が降りてきた。その3人の首元には、赤い輪っかの様な紋章がついている。どうやら、この美青年の所有している一級奴隷の様だった。

俺がその一行に目を奪われていると、俺視線に気がついた美青年はこちらに振り向き、俺達を見て、ほう…と言った表情をしている。

その美青年は、俺に軽く微笑むと、王宮に入って行った。



ムウウ…凄い美青年だった。男の俺でも見惚れる位に。

マティアスやアロイージオも男前や美男子だったけど、アノ男には勝てないな。

まさに超美青年。もし、地球に居たら、間違いなくトップスターだね。ハリウッドもビックリだよ。



「ご主人様…どうかされましたか?」

「先程の男の人と、知り合いなのですか葵さん?ずっと見てましたけど」

固まっていた俺に、不思議そうに語りかけるマルガとリーゼロッテ。



オオウ…マルガもリーゼロッテも、アノ超美青年を見て、なんとも思わなかったのか…

俺に優しく微笑んでくれるマルガとリーゼロッテに癒されながら、案内役について王宮の中に入っていく。



「まあ…流石はヴァレンティーノ宮殿ですわね。なんて美しいんでしょう…」

珍しく感嘆の声を出すリーゼロッテ。

純白の何者にも汚される事を許さぬ、その色に包まれた王宮の中は、見事なまでの装飾がされていて、数々の彫刻や装飾品達が、俺達を迎えている。塵1つ、埃1つ感じさせない清潔感を漂わせ、純白の大理石の床には、真赤で豪華な絨毯が敷かれている。

そのフワフワとした感触の真赤な絨毯の上を歩きながら、キョロキョロしながら案内役に付いて行くと、大きな広い応接間の様な空間に出た。そこには沢山の人々がソファーに座って、楽しげに話をしている。

どうやらここは、王宮に用の有る者達の、合同の待合室みたいであった。俺達も、その中のソファーの一角に腰を下ろす。



「では…暫くこちらでお待ちください」

そう言って、案内役は何処かに行ってしまった。



「ご主人様~。このヴァレンティーノ宮殿は凄い所ですね~。真っ白ですごく綺麗で…まるで神様が住んでいるみたいなのです~」

「ホントだよねマルガ姉ちゃん!オイラこんな綺麗な建物見た事無いよ…」

「俺もだよマルガにマルコ。ヴァレンティーノ宮殿の中がこんなにも美しい所だなんて…」

田舎のお上りさん状態でキョロキョロしている3人を、フフと笑って見ているリーゼロッテ。

そんな感じでキョロキョロしていると、先程の美少年一行を発見した。

また俺の視線に気がついたのか、俺の方を見て、フフっと微笑むと、こちらにやって来た。

そして、俺達の前に来た、美青年は、俺やマルガ、リーゼロッテを見て楽しそうに微笑むと、美しい声を発する。



「君達もこの宮殿に用があるのかい?見た所商人の様だけど、何かの取引かい?」

優しく微笑む美青年に、少し緊張しながら、



「ええまあ…そんな所ですかね…」

俺の苦笑いを見て、楽しそうに微笑む美青年。そして、マルガとリーゼロッテを見て、少し目を細めると、



「君は素晴らしい一級奴隷をお持ちだね。その美貌…なかなかお目に掛かれるものではないね」

「あら…お上手ですわね。でも、貴方のお持ちの一級奴隷さん達も、美しいと思いますが?」

リーゼロッテが涼やかな微笑みを美青年に向ける。その後ろに居る3人の亜種の美女の一級奴隷は、超美少女のリーゼロッテに、美しいと言われ、まんざらでもなさそうだった。

確かに美女だ。マルガやリーゼロッテには及ばないけど、色も白い、スタイルも良い、それに美女。

この美青年が凄すぎて影に隠れがちだが、地球なら十分女優として通用するレベルだろう。



「まあ…僕の奴隷だからね。でも…君の一級奴隷には、見劣りしてしまう…そこで相談なんだが、君の持っている亜種の一級奴隷とエルフの一級奴隷を売ってくれないか?そうだね…金貨600枚出そう。どうかな?」

にこやかに微笑む美青年の言葉に、マルガが心配そうに俺の腕に抱きつく。そんなマルガの頭を優しく撫でながら



「この一級奴隷達を売る気は無いんですよ。申し訳ないですが…」

苦笑いしながら言うと、少し気に食わなさそうな顔をした美青年は、



「なら、金貨700枚に、この3人の一級奴隷も付けるよ。価値的には金貨1000枚近くになると思うけどどうだい?僕は別に処女じゃなくても構わないんだ。僕が調教しなおせば良い事だしね。それに、君の持っている一級奴隷は、僕にこそ似合うと思うんだ。この条件で売ってくれないかな?」

そう言って再度微笑む美青年は、俺の肩に手を置く。

確かに、この美青年の傍に、マルガやリーゼロッテが居たら、物凄く絵になって、地球なら映画でもやろう物なら、大ヒット間違い無し!だろうけど、他の奴に、マルガとリーゼロッテを渡す気は、さらさら無い。



「すいませんが…それでもダメですね。この一級奴隷のマルガとリーゼロッテは、幾らお金を積まれても、手放す気はありません。申し訳ないですが」

俺はニコっと微笑みながら、置かれた手をどけると、目を細くする美青年。その言葉を聞いた、亜種の美女3人の一級奴隷も、驚いていた。

美青年は共の3人の亜種の美女の一級奴隷の内の一人に、飲み物を持ってくる様に言うと、



「そんなに頑なにならなくても、良いじゃないか。もう少し、話をしよう」

そう言って、色々条件を出してくる美青年に、げんなりしながら断っていると、飲み物を持った亜種の美女の一級奴隷が戻ってきた。

そして、飲み物を美青年に渡そうとした時、手が滑って飲み物が床に落ちてしまった。

それを見た美青年の表情が変わる。その顔を見た、亜種の美女3人の一級奴隷の顔が蒼白になる。



「す…すいません!ヒュアキントス様!すぐに、別の物をお持ちします!」

少し震えている美女の一級奴隷が震えながら言うと、その亜種の美女の一級奴隷に、パンと平手打ちをする美青年。そして、残りの亜種の美女の一級奴隷にもパンと平手打ちをする。

強く叩かれた美女の一級奴隷3人は床に蹲る。その光景にそこに居る者がこちらを振り向くが、その叩かれた者が一級奴隷であった事を理解し、主人が罰を与えたのだろうと言う感じで、再度楽しく話しだした。



「…こんな所で私に恥をかかせるとは…お前達は帰ったらお仕置きだ。覚悟しておけ!」

キツイ目で3人の美女の一級奴隷を見ている美青年に、マルガは止めに入ろうとしたのを、リーゼロッテが止める。

そこに、案内役がやってきて、俺達を呼びに来た。どうやら、部屋に案内してくれる様であった。



「す…すいませんが、僕たちは行かせて貰いますね」

「見苦しい所を見せたね。奴隷の話は、諦めないよ?待た次回話をしよう。君の名前は?」

「僕は葵 空です」

「僕はヒュアキントスだ。用が終わったらよろしく」

強引にそう言うと、ヒュアキントスは自分の席に帰って行った。それに呆れながら、案内役についていく俺達。



「先程の男性は、なんかやな感じなのです!あんなに激しくぶつなんて…可哀想です…ご主人様なら…あんな事はしません!」

そう言って可愛い頬を膨らませるマルガの頭を、優しく撫でるリーゼロッテは、



「それは違いますわよマルガさん。アレが本当の主人と奴隷の姿なのですよ。一級奴隷は、人権を与えられ差別なく暮らせますが、主人には絶対服従。葵さんは特別私達に優しくしてくれますけどね」

そう言って微笑むとリーゼロッテは俺の腕にキュっと抱きつく。



「そうですね。私ご主人様の一級奴隷で良かったです…ご主人様…大好きなのです…」

そう言いながら顔を赤くして、反対側の腕に抱きつくマルガ。マルガとリーゼロッテの甘い匂いにクラっとしながら、乙女の柔肌を感じていると、前から2人の女をに抱かれている男が、廊下の端に立っていた。

そして、同じ様にマルガとリーゼロッテに抱かれている俺を見て、気に食わなさそうな顔をする男性。

その男性は20代後半位、緑色の長めの綺麗な髪に、キツ目の印象を受ける緑色の瞳。身長はマティアスより少し低いくらいだろうか、190cm弱。細身のスレンダーな筋肉質な感じで、切れ長のマティアスと同じ位の男前だ。

その男前が俺に声を掛けてきた。



「お前…何者だ?随分と良い女を連れているじゃないか」

そう言ってニヤっと笑いながら、近寄ってきた男前は、マルガの前まで来ると、綺麗にお辞儀をして、ニコッと優しくマルガに微笑む。



「私の名は、ヴァーユ・エエカトル。一応この国で伯爵の地位を貰っている者だ。よろしく可愛いお嬢さん」

そう言って、気品ある動作で、マルガの手を取ると、その甲にキスをして挨拶をするヴァーユ。

そして、リーゼロッテに向き直り、



「此方も非常に美しいエルフさんだね。よろしく美しきエルフ姫」

そう言いながら、リーゼロッテの手を取って、同じ様に手の甲にキスをするヴァーユ。

ニコっと優しく微笑むヴァーユは、マルガの顎を掴み、顔を近づける。



「本当に可愛いね君達は。どうだい?あっちで一緒に楽しく話でもしないかい?」

優しく語りかけるヴァーユに、マルガは戸惑いながら、少し顔を赤らめた。

そのマルガの表情を見た俺の血が、一気に沸き上がり、アツくなった。



「俺の奴隷に触れるな!!」

俺は少し声高に叫び、ヴァーユの手を握りつけて、マルガの顎から離させる。

ヴァーユは俺に腕をギリギリと音がする位に握られながら、俺を見てククっと笑う。



「…なんだ?嫉妬か?恋愛は自由な物だろう?…この美女達はお前の一級奴隷らしいが、恋愛も禁止しているのか?…見た目通りの細人だな…」

「だまれ!!」

ヴァーユの言葉に、激昂した俺は声高に叫び、握っているその手に力が入り、ギリギリと音がしていた。それを、見ているヴァーユが目を細める。



「俺がお前の事を知らないのは当然だが、お前…俺の事を知らないのか?ヴァーユ…この名前に、聞き覚えが無いのか?」

凍る様な瞳で俺を見るヴァーユの表情を見て、リーゼロッテが止めに入ろうと俺に手を伸ばすが、俺の瞳を見て、その手をひっこめるリーゼロッテ。マルガもマルコも、困惑していた。



「お前の名前なんか知らないな。お前の事なんかに興味はない。これからもずっとな!俺が通るのに邪魔だからどいてくれるか?優男!!!」

俺の嘲笑いながらの言葉に、その瞳に怒りの色を浮かべるヴァーユ。

言ってしまった…相手はこのフィンラルディア王国の伯爵。

言ってはいけない事だと理性では解っているが、本能に近い気持ちがソレを上回っている。

この血の滾りのままに…

そんな一触即発の状態の俺達の後ろから、声をかける者がいた。



「貴方達こんな所で、何をしてるの?邪魔なんだけど?」

その女性の声に振り返ると、そこにはルチアとマティアスが立っていた。



「おお!可愛いルチア。いつも美しいね君は。いや…こいつが、俺に失礼な事をするので、ちょっとお仕置きをしようと思ってただけなんだ」

「お仕置き?…私には、貴方が葵の奴隷達に、ちょっかいを出した様にしか見えなかったけど?失礼なのは貴方じゃないのヴァーユ卿?」

ヴァーユに微笑んでいるルチアの瞳は、笑ってはいなかった。



「ち…違うよルチア!ちょっとこの女性達に、挨拶していただけさ。それを、この男が…」

「…まだ言うのヴァーユ?貴方の女癖の悪さには、なんとも思わないけど、これ以上私の客人である葵を侮辱するなら、私が相手よ?…それとも、またお母様に、ご報告した方が良いかしら?」

ニヤっと小悪魔の様に微笑むルチアの顔を見て、ゾっとした表情を浮かべるヴァーユ。



「わ…解ったよルチア。だから、アウロラに言うのだけは…本当に君は、アウロラに似てるね…」

「…解ればいいわ」

ルチアの冷たい言葉に、苦笑いを浮かべるヴァーユは、俺に振り向くと



「…命拾いしたな細人の少年。次は無いと思え…」

そう小声で吐き捨てる様に言うと、美女を引き連れて、立ち去って行ったヴァーユ達。

そのヴァーユの後ろ姿を見ている俺を見て、ルチアが盛大に溜め息を吐く



「葵…貴方、なんて言う目をしてるの?そんな殺気を辺りにまき散らして…私がここをたまたま通らなかったら、どうしていたつもりなのよ」

「…そんなの解ってるだろ?ルチア…」

ルチアに振り返る俺の表情を見て、顔に手を当てるルチア。



「貴方アイツが誰だか解ってるの?…あのまま戦っていたら、今の貴方じゃ、嬲り殺しにされていたわよ?アイツはね、普通の貴族じゃないの。アイツは人間でもない。アイツはね、このフィンラルディア王国の、四属性精霊である四属性守護神、風の精霊長、風神のヴァーユよ」

その言葉に、一同が驚く。



「でも、人間の容姿をしてたよルチア姉ちゃん!とても、四属性守護神、風の精霊長とか言うものには見えなかったけど…」

マルコガ困惑しながら言うと



「四属性守護神、風の精霊長位にもなると、人間の容姿も持っているのよ。歳はとらないけどね。どの国の四属性守護神も同じよ。それと、国の守護者だから、爵位も与えられているの。ま~領地を与えられている訳でもないし、飾りだけの伯爵だけどね。でも、長年に渡り、このフィンラルディア王国を守ってきた、力のある四属性守護神だから、その発言力は、なかなかのモノなのよ」

その説明を聞いたマルガもマルコも頷いている。

説明をしたルチアは俺の顔を見ると、軽く貯め息を吐き



「貴方がキツネちゃんとエルフちゃんを大切に思っているのは解ってるから…少し頭を冷やしなさい葵。そして、いつもの冷静な貴方に戻るのよ。…私は用があるからもう行くわね」

そう言って、何事も無かったかの様に、ルチアとマティアスはスタスタと立ち去って行く。

取り残された俺達に戸惑っていた案内役は、顔を引き攣らせながら、部屋まで案内してくれた。

その部屋は来客用の客室で、気を使ってマルコの分の2室用意してくれていた。

俺はその綺麗な客室に入るなり、マルガを掴み、壁に手をつかせる。

そして、淡いピンクの花柄の、フリルのついた可愛いドレスのスカート部分を捲し上げ、尻を出させて、レースのパンツを無理やり引き下ろし、熱り立ったモノをマルガの膣に、一気に捩じ込む。



「うんんんっつんん!!!」

声を上げるマルガ。一気に子宮に届く奥まで挿入された事で、ガクガクと脚を震わせている。

そんなマルガにゾクゾクと性欲が高まる。俺はマルガの尻に腰をぶつけていく。

辺りにパンパンと、乾いた心地良いマルガの可愛いお尻の音が鳴り響く。

そんなマルガは、甘い吐息を上げている。



「マルガ…さっきのはなんだい?…顔を赤くさせていたね?どういう事なの?」

「いえ!わ…私は!!あんん!!」

俺はマルガを後ろから激しく犯す。マルガの膣はみるみる愛液を滴らせていた。



「口答えは…許さないよ?…マルガは…アイツの事を…好きになっちゃった?マルガは、ああいう奴が好みなの?」

「ち…違います!わ…私が…好きなのは…ご主人様だけです!!」

俺に後ろから犯されて、快感に染まりながら、必死に訴えかけるマルガ。

俺はマルガの口の中に指を突っ込み、強引にこっちに顔を向けさせる。マルガの可愛い口から、甘い唾液が蜜の様に垂れていた。



「じゃ…なぜ、顔を赤くさせたのかな?…悪い子だ…そんな子は…お仕置きだね!」

こちらに顔を向けさせたまま、マルガを後ろから激しく犯していく。

マルガは口の中に入れられている俺の指を、舌で舐めながら、許しを乞うて居る様だった。

そんなマルガに、ゾクゾクとした性欲を感じ、犯すのにも力が入る。

そのたびに、マルガの可愛く柔らかいお尻が、俺のモノを迎える様に、心地の良い感触を伝えてくる。

余りに激しく犯していたのか、マルガの体が小刻みに震えだし、瞬く間に体を仰け反らせ、絶頂を迎える。



「ごしゅじんしゃま…ヒィキましゅ…ヒィかしゃて…いただきましゅ!!…ふんんはんんんん!!!」

マルガは口に指を入れられたままそう叫ぶと、俺の指をチュウっと吸い付き、したの可愛い膣がキュンキュンと俺の物を締め付ける。その快楽に俺も絶頂を迎え、マルガの子宮に、直接精を注ぎ込む。

マルガの可愛い膣から俺のモノを引き抜くと、ヌロロと精と愛液が糸を引いていて、艶かしかった。



「お仕置きしているのに、イッちゃうなんて、悪い子だねマルガは…ほら…俺のモノを綺麗にするんだ」

「ご…ごめんなさいです…ご主人様…マルガを許して下さい…」

俺はそう言って、床で絶頂の余韻に浸っている、涙ぐんでいるマルガの顎を掴み、その可愛い口に、精液と愛液にまみれたモノを捩じ込む。

それを、言われた通りに、体をピクピクと軽く痙攣させながら、綺麗に舐めとり、飲み込んでいくマルガ。俺はそのマルガの姿を見て、征服感に満たされる。

綺麗にして貰ったモノをなおし、ズボンを上げる俺は



「リーゼロッテ。マルガの後始末を頼むよ…俺は…ちょっと…外の空気を吸ってくる…」

俺はそう言い残して、部屋を出ようとすると、リーゼロッテが抱きついてきて、耳元で囁く。



「葵さん…マルガさんは、アノ男に心を奪われた訳ではありませんわ。ただ…ちょっと驚いただけ。アノ紳士的な態度に、戸惑っただけですわ。ああいう口説き文句に慣れている私は兎も角、マルガさんは慣れていなかった。ただ…それだけですわ。マルガさんが…葵さん以外の人に、心を奪われるなんて、ありえません。マルガさんは葵さんだけの物…身も心も全て…捧げてますわ。それは…解って上げてくださいね葵さん…」

「うん…解ってる。後は頼むねリーゼロッテ」

俺はリーゼロッテの優しい抱擁から離れると、その部屋を後にした。













ゴロゴロゴロ…

俺は綺麗に手入れされた、バラ園の芝生の上に寝っ転がっている。



あの後部屋から出た俺は、廊下を歩いていて、窓から美しく咲いているバラを見つけ、建物の3階から飛び降りた。戦闘職業に就いて、身体能力の高い俺には造作も無い事だった。

そして、白い柵で覆われているのを飛び越え、このバラ園の香りに誘われ、蜜蜂の様にフラフラと舞い降りた。

その後、さっきの事を考えて、激しい自己嫌悪に苛まれながら、バラ園の芝生の上をゴロゴロ転がっているのだ。



「リーゼロッテの言う通りなんだよな…あのマルガが…俺以外に心を許すはずがない…ソレは解ってるんだけど…」

そう解っている。でも、どんな理由があったとは言え、マルガが俺以外の男に赤くなったのが許せなかった。絶対に…

本当は解っている。俺っだってルチアが傍によると、たまにその甘い香水の香りにドキっとなったり、他の美女が不意に傍に来ると、少しはドキっとしたりもする。

でもそれだけだ。心を奪われた訳ではない。ちょっとした驚きの様なモノだ。

頭ではそう理解しているのだが、本能がソレを許してくれない。

マルガの全ては俺だけの物…その嫉妬心が、ソレを許容してくれない。

そのどす黒い嫉妬心が、チクチクと俺の心に突き刺さり、いやらしく刺激する。



『全く…アノ水を零した3人の一級奴隷の美女を、殴ったヒュアキントスと変わらないよな…ハア…』



ゴロゴロゴロ…

そんな事を考えながら、綺麗な芝生の上で、ゴロゴロしている俺。

少しゴロゴロし過ぎで疲れた。こんな自分に笑え、為息を吐きながら大きく深呼吸をする。

するとバラ園のバラ達ののとても良い香りが、俺の嗅覚を刺激する。

その優しさと、香りを楽しんでいると、不思議と心が落ち着いてくる。



『そう言えば…バラの香りは、鎮静効果もあったっけ…良い香りだな…』

俺はその香りに癒されながら、目を瞑って仰向けに寝ていた。…ああ…落ち着く。

どれ位そうしていたかは解らないが、そんな俺に声を掛ける女性が居た。



「あらあら、気持ち良さそうね。羨ましいですわ」

優しく語りかけるその声に目を開けると、そこには、40代後半の、とても美しい女性が立っていた。

頭にメイドさんが良く被る帽子をつけ、上品なメイド服の様な作業着を着て、微笑みながら立っていた。格好からするに、このバラ園の手入れをしている、使用人といった感じだった。



「あ…すいません。このバラ園が余りにも綺麗で、ついつい入っちゃいました。すぐに出て行きますね」

俺はそう言って体を起こすと、女性はフフフと笑って、俺が立ち上がるのを止める。



「いいのですよ。私もこのバラ園が大好きなので、その気持は解りますわ。ここのバラ達の手入れをすると、私も元気になる位ですから」

そう言いながら、俺の隣に座る、美しい女性。俺の顔を見てニコニコしている。



「あ…なんかソレ解ります。ほんと良いバラ園ですね。このバラ達を、こんなに綺麗に手入れして咲かせるなんて…俺尊敬しちゃいますよ」

「まあ。ソレはありがと。嬉しいわ」

フフフと笑っている女性に、どこか癒される俺も微笑んでいた。



「でも…綺麗に咲かせて上げるのは難しくて…。この宮殿の土は、ある程度入れ替えて良い物にしてるんですが…」

少し寂しそうに言う女性の表情に、軽く心が傷んだ俺は



「なるほど…肥料とかはどうしてるんですか?後…殺虫剤とかも…」

「肥料ですか?肥料は…山の枯葉や土を定期的にですね。殺虫剤はどういった物か解りませんが…」

その女性の言葉に、フムフムと頷く俺。



なるほど…枯葉…つまり腐葉土だろうね。殺虫剤は解らないか。殺虫剤は科学製品だけでなく、天然で取れる物を代用出来たはず…

俺は記憶を頼りに、話しだす。



「肥料は、もっと色々試した方が良いですね。意外とこんな物が肥料になるの?って言う物が、沢山あるんです。例えば…人糞や、牛、鳥のフンを発酵させた物とかね」

「え…人糞や、牛、鳥のフンが、肥料になるのですか!?」

「ええ!俺の居た故郷では、良く使われてますよ。特に牛と鳥はね。人間の人糞も、凄く良い肥料なんですが、体の寄生虫の卵が広がる可能性もあるので、水洗いをして食べる様な物には適さないんですけどね。でも、口に入れないなら、良く作業の後に消毒すれば、非常に良い肥料になりますね。殺虫剤の方は、にんにくや香辛料、エールや珈琲も効果があるんですよ。薄めたりしないとダメですけどね」

俺の言葉に、感嘆して聞いている女性は、フフフと笑うと



「凄く色々知っているのですね。驚きましたわ。今度試してみますわね」

「ええ!そうしてください!」

俺の言葉にフフフと可笑しそうに笑う女性。俺も自然と微笑んでいた。



「でも、驚いたといえば、ここ最近では1番はルチア王女が1番ね」

「へ!?あのルチアの事でですか?」

あ!王宮の使用人に王女を呼び捨てにしちゃった!

俺がその事で気まずそうにしていると、フフと軽く笑い



「大丈夫ですよ。私は誰にも口外したりしませんから。いつもの様にしてくれてかまいませんよ?」

「そうですか…助かります。…でルチアがどうかしたのですか?」

俺はてっきり、あのブンブン娘が、王宮で何かやらかしたのかと思い、後でソレをネタに、ルチアをイジってやろうと思っていたのだが、その計画が実行される事は無かった。



「ルチア王女はね、以前この王宮に居ていた時とは、別人の様に瞳を輝かせているわ。前のルチア王女は、何処か子供ぽかった…と、言うのかしらね。あの人は、とても頭の良い人だけど、少しでも気に食わない事があると、すぐにそっぽを向いて辞めてしまって、周りを困らせていたの。そう言う子供っぽさがあったのです。ルチア王女は頭が良い。でも…頭が良いからこそ、すぐに見なくても良い物が解ってしまうの。自分に蟻の様に集ってくる、人々の考えが…すぐに解ってしまうのね。だから…この王都ラーゼンシュルトから出た…」

少し切なそうな顔をする女性。



「そうか…だからルチアは港町パージロレンツォに居たのか…バルテルミー公爵家なら、余計な奴の面会は取り次がないだろうし」

「…まあ、正確には、港町パージロレンツォに逃げた…が、正解かもしれませんがね。でも、港町パージロレンツォから、帰って来たルチア王女は、別人の様になっていた。気に食わない事でも、投げ出さなくなったし、擦り寄ってくる人達にも、顔色一つ買えずにあしらえる様になっていたの。子供っぽさも無くなって…一体、港町パージロレンツォで、何を得たのかしら…」

そう言ってニコニコと微笑む女性。

あの完璧主義に見えるルチアがね…子供っぽかったか…信じられないな。

そんな事を思いながら、俺はふと、初めてルチアと逢った時の事を思い出す。



『…嫌よ!私の誘いを断ったんだもん…もう…扉…開けてあげない…』

頬をふくらませ、少し涙ぐみながらふて寝して、子供の様な事をしていたルチアの姿を思い出す。

…確かに子供っぽかった。アノ姿が…今迄ここに居たルチアの本当の姿だったのか…

でも、アレを最後に、子供っぽさなど、微塵も感じなかったんだけどな…ずっと一緒に居たから、解らなかったのかな?

俺がそんな事を思っていると、楽しそうに微笑む女性は



「さあ、お話はここまでにしましょう。私もバラ達の世話をしなければなりません。貴方も大切な人の元にお戻りなさい。此処は一応、立入禁止区画ですからね。誰かに見つかったら、大変ですから」

そう言ってニコっと微笑む女性は俺を立たせる。それにニコっと微笑む俺を見て、何故か女性が俺に抱きついてきた。戸惑っている俺の耳元で、囁く様に、



「これからも…あの子を守ってあげて。あの子もそれを望んでいるわ…可愛いあの子を…貴方達で支えてあげてね」

「え…それは…どう言う…」

まるで優しい詩でも語る様にそう言うと、俺の背中を優しく叩き



「ほら、誰か来てしまうかもしれませんよ。また別の所で会いましょう。黒い蜜蜂さん」

「ええ…また!では行きますね」

女性の微笑みに癒されながら、俺は柵を飛び越える。そして、部屋に戻っていく。



そんな俺の後ろ姿を、優しく見守っていた女性の後ろから声がする。



「まさか、あの細人の少年が、ルチアの連れて来た行商人だとは、思っても見なかったよ」

木陰に立っていた男が姿を現す。



「あらあらヴァーユ。そこに居たの?気が付かなかったわ」

「よく言うよ。君は僕が近寄っているのを、初めから気がついて居ただろアウロラ」

少し呆れ顔のヴァーユにフフフと笑うアウロラ。



「でも、俺の気配も読めぬ、力も無いあんな細人の行商人の何処が良いのか…全く、ルチアと言い、君と言い、男の趣味は、考えなおした方が良いと思うよ?」

「あらそう?…貴方が、あの行商人の少年を嫌うのは、あの人に、雰囲気が似ているからではなくて?」

悪戯っぽく微笑むアウロラに、苦虫を潰した顔をするヴァーユ。



「フン!そんな事しらないね!」

「あらそう。でも…あの少年の奴隷には、ちょっかいを出したそうね。貴方の女癖の悪さは知ってますけど、私の可愛いルチアが目を掛けている少年に手出しをするのは、許せませんね…」

「な…何故その事を!?ルチアめ!言わないと約束したのに!」

狼狽しながら言うヴァーユに、フフフと可笑しく笑うアウロラは



「あの子からの伝言よ。『私は言わないとは約束してないわよ?勘違いしないでくれる?』だそうよ。ルチアの頭の回転の早さには、流石の貴方も型なしね。じゃ…お話をしましょうか…ヴァーユ」

にこやかに優しく話すアウロラの瞳は、まさに絶対零度であった。



「いや…まってアウロラ…俺が悪かった…だから…」

「ウフフ歳かしら?貴方の声が聞こえないわ…ウフフ」

ゆっくりとヴァーユに近づくアウロラ



「ひいいい!!」

その断末魔?の叫び声に近い声を最後に、バラ園は静寂に包まれる。

アウロラの静かなる、大災害の様な言葉の雷が、ヴァーユに落とされていた事を、ヴァレンティーノ宮殿に居る人々は知る由もなかった。











コツコツコツ

廊下を歩く俺の足音。その音は、とある扉の前で止められる。

それは俺がさっき出てきた、俺達の部屋だ。この中にマルガとリーゼロッテが居る。

先程の事を思い出して、部屋に入れずに立ち尽くしていた。



『もういい!もう入る!ここに立ち尽くしている自分が嫌だ!入る!』

そんな風に心の中でで決着を付けて、勢い良く扉を開けて部屋に入っていく。



「おかえりなさい葵さん。外の空気はどうでしたか?」

優しく俺に微笑んでくれるリーゼロッテ。その微笑みに癒されていると、か細い声が聞こえてきた。



「…おかえりなさいですご主人様…」

恐る恐る俺に言うマルガの瞳は、赤く少し腫れていた。それはきっと、俺が部屋から出て行ってから、ずっと泣いていたと、すぐに理解するのに十分な光景だった。



「マルガ…」

そう呟いて、俺は自然とマルガを抱きしめていた。マルガの甘い香りが俺を包み、その柔肌が俺を優しく迎えてくれた。



「マルガ…意地悪しちゃったね…ゴメン…」

その言葉を聞いたマルガは、ギュっと俺を強く抱きしめると、微かに声を出して泣きだした。



「ごめんなしゃいごしゅじんしゃま~。私あの時…驚いちゃって…私は…ごしゅじんしゃまだけでしゅ~。他の人に心を奪われたりしましぇんから…私を捨てないでくだしゃい~」

可愛い瞳から、大粒の涙をポロポロ流している、愛しいマルガをギュっと抱きしめる。



「イツッ…」

マルガがかすかに声を上げる。俺はマルガの可愛く尖った耳の裏に、小さく噛み付いたのだ。その傷から少し血が流れだす。



「この傷は牙で噛んで無いから治らない。それに治させない。この小さな傷は…マルガが俺の物だという印…マルガは俺だけの物…離さないからね…」

俺はマルガの小さな傷から出ている血を、綺麗に舐めとりながら囁くと、マルガが俺の顔を掴み、俺の唇に吸い付く。マルガの柔らかい舌が、俺の口の中に入ってくる。マルガの甘く柔らかい舌を舐めながら絡ませる。余りに俺を味わうマルガが愛おしくて、暫くお互いに味わっていた。

そして、心ゆくまで味わった俺とマルガは、自然と顔を離す。



「私はご主人様だけ大好きです…もっと一杯…ご主人様の印を付けてください…ご主人様の物だと解る様に…」

「じゃ…今日の夜に一杯マルガにつけるね…」

俺のその言葉を聞いたマルガのライトグリーンの綺麗な瞳は、喜びの色に染まっている。

そんな愛おしいマルガをギュっと抱きしめていると、マルガは可愛い頭を俺の胸に、グリグリ擦りつけて嬉しそうに俺を見る。そんなマルガに優しくキスをすると、金色の毛並みの良い尻尾を、嬉しそうにパタパタさせていた。



「はあ…良かったですわ。仲直り出来たみたいで。さっき迄マルガさんが泣き止まないので、私もルナさんも、心配してた所なんですから」

優しくそういうリーゼロッテの足元には、主人のマルガと同じ様に、尻尾を振っているルナがちょこんと座っていた。



「ゴメンネ。リーゼロッテにルナ」

「いいえ、いいのですよ葵さん。それだけマルガさんの事を好きなのは解っていますから。でも…ちょっと羨ましいかしら…そんなに愛されているんですもの。もし…私が…同じようにしたら…葵さん、嫉妬してくれますか?」

少し淋しげに言うリーゼロッテの表情に、堪らなくなった俺は、リーゼロッテを引き寄せ抱きしめる。



「ウッッン…」

少し声を出すリーゼロッテー。俺はリーゼロッテのエルフの特徴の綺麗な尖った耳に、マルガと同じ傷をつけた。



「その傷も治してあげないから。その傷も…リーゼロッテが、俺の物だと解る印だからね…」

リーゼロッテの少し滴っている血を舐めながら囁くと、金色の透き通る様な綺麗な瞳を歓喜で染めるリーゼロッテ。



「では…私も夜に…葵さんの印を一杯…刻んで貰います…いいですか葵さん?」

「うん…リーゼロッテも大好き。手放す気は無いからね。リーゼロッテも、マルガも夜に一杯…ソレを解らせてあげる」

俺はマルガとリーゼロッテを抱きしめながら、暫く3人で抱き合っていた。













コンコン。

部屋の扉がノックされる。返事をすると扉が開いた。

そこには、綺麗なドレスを着たルチアと、純白のフルプレートを纏っているマティアスが立っていた。



「葵…そろそろ時間だから行くわよ」

俺達はルチアの言葉に頷いて、部屋を出ていく。合流したマルコも一緒になって、ルチアの後をついていく。



「葵。どんな条件が出されるか解らないけど、例え、貴方が私の専任商人になれなかったとしても、あの宿舎は返さなくても良いからね。私が根回ししといたから…心配しないで」

「ありがとうルチア。ま…なるべくなれる様に頑張るよ。俺も商人だ。利益をむざむざ捨てる様な事はしたくないしね」

「そう…なら…頑張りなさい!」

俺の言葉に嬉しそうに言うルチアは、フンと機嫌良く言うと、俺の前を歩いて行く。

暫く歩いて行くと、とても豪華な扉の前にたどり着いた。



「この奥に、私のお母様で、フィンラルディア王国女王が居るわ。…行くわよ葵」

静かに頷く俺を見て、部屋に入っていくルチア。その後について、俺達も入って行く。



そこは豪華な大広間で、真赤な綺麗な刺繍のされた絨毯が敷かれ、その奥に、黄金の玉座がある。

伏目がちに、その前まで行き、片膝を就いて頭を下げる。すると、その黄金の玉座に座っている女性が声をかけてきた。



「面を上げなさい行商人少年」

短い言葉だったが、威厳のある声に、面を上げると、そこには見覚えのある顔が俺の瞳に入ってきた。

そこには、先程バラ園で会った、綺麗な女性が、素晴らしいドレスと、王冠を身に着けて、黄金の玉座に座っていた。



「え…あの…」

俺が言葉をつまらせて居るのを、クスクスと笑った女王は、透き通る声で俺に告げる。



「良く来ましたね。私がフィンラルディア王国、女王のアウロラ・エーヴ・レティシア・フィンラルディアです。貴方達の事は、ルチアさんから聞いているから、紹介は無用です」

そう言って、悪戯っぽく微笑む、女王アウロラ。俺は先程の会話を思い出し、汗がどっと滲んできた。

それを見た、アウロラは綺麗な装飾のついた扇子を口元に当てると、楽しそうにフフフと笑っている。



「緊張する事は、何もありませんよ葵。貴方はここにルチアさんの専任商人候補として、呼ばれたのです。いつも通りで結構ですわ」

ニコっと微笑むにアウロラ、落ち着きを取り戻した俺。それを見たアウロラは静かに頷き、話を続ける。



「では、話を続けましょう。ルチアさん。貴方はこの行商人の少年を、自分の専任商人にしたいのですね?」

「はい!お母様!私はこの葵を、私の専任商人にしたいと思っています」

しっかりとアウロラに自分の意見を述べるルチア。



「それは承服出来かねますな。このどこの馬の骨とも解らぬ素性の者を、王家の…ルチア様の専任商人にするなど…他の国や、貴族達の良い笑い物に、なる事でしょう。とても、納得できませぬな!」

そこには、かなりの身なりの良い人物が立っていた。



「納得は到底無理ですか?ジギスヴァルト宰相」

「はい。私は別の者をルチア王女様の専任商人に、推挙したいと思っております」

「では…その者をここに」

「は!…入ってこい!」

そう声高に指示を出すと、何人かの人がやって来た。そして、それを見たお互いが、意外な顔をする。

そこには、先程俺にマルガとリーゼロッテをしつこく売る様に行って来た超美青年、ヒュアキントスと、お供の3人の美女の一級奴隷達が居た。そして、俺を見たヒュアキントスはニヤッと微笑む。



「お初にお目にかかりますアウロラ女王陛下。私は、ヒュアキントス・ナルシス・モントロンです。ド・ヴィルバン商組合、統括理事である、レオポルドが次男に御座います」

そう言って、片膝をつきながら、気品を漂わせ、アウロラに挨拶をする。ヒュアキントス



「…なるほど。フィンラルディアディア王国で、一二を争う、大商組合の…モントロン家の、レオポルドの息子ですか…。噂は聞いています。なんでも、天才的な商才を持っており、その若さで大きな取引を何度も任せられているとか」

「お褒め頂き光栄に御座いますアウロラ女王陛下」

その甘い笑顔を、アウロラに見せるヒュアキントス。それを見た、ジギスヴァルト宰相は、ニヤリと笑う。



「このヒュアキントスは家柄も問題無く、実力も経験もそこの一行商人とは違います。是非このヒュアキントスを、ルチア王女様の専任商人に。良き判断を願います」

ジギスヴァルト宰相はアウロラに頭を下げる。



「困りましたね。両方引けぬと言うのであれば、予定通り、アルバラードに決めて貰いましょうか。入りなさいアルバラード」

アウロラの声に、一人の男性が入ってきた。40代後半の、アウロラと歳の近い男だった。俺と同じ黒い髪を持つが、瞳は金色。身長は180cm弱位の、細身の優男だった。

そのアルバラードを見た、ジギスヴァルト宰相とヒュアキントスは、目を細める。

アルバラードは俺達を見て軽く微笑むと、片膝をついてアウロラに挨拶をする。そして俺とヒュアキントスの前に立つ。



「アウロラ女王陛下から話を聞いています。知ってる者も居ると思いますが、一応自己紹介をしよう。私はアウロラ女王陛下の専属商人をしている、アルバラードです。私が此度の件を任せられました。もう貴方達の事は理解しているので自己紹介は不要です」

そう言って、俺達を互いに見るアルバラード。そしてニヤっと微笑むと、



「私は今回、貴方達に、取引勝負をして貰おうと思います。ここに、金貨100枚ずつ用意しました。この金貨100枚だけをを使って、ここより東方の国、バイエルントに向かい、そこで品物を仕入れて、持ち帰る。どちらの持ち帰った商品が、高く売れて利益が出せるのか。それを競って頂きましょう。商品を買い取るのは私。平等に不正なく、相場の価格を着けさせて頂きます。その勝者を、ルチア王女様の専任商人にと言う事にします。宜しいですか?アウロラ女王陛下?」

アルバラードの言葉に、フフっと笑うアウロラは



「ええそれで構いませんわアルバラード。それでお願いします」

ニコっと微笑むアウロラ。それに頷くアルバラード。



「この国での不正は一切してはいけません。発覚次第、不合格とさせて頂きます。期限は20日。良いですか?2人共」

なるほど…どちらが多くの利益を出せるかの勝負か…同じ金貨100枚のみの勝負なら、財力は関係ない。

俺がその言葉に頷くと、ヒュアキントスがアルバラードに語りかける。



「お話は良く解りました。ですが…ここは勝負をもっと面白くする為に、提案がございます」

「言ってみてください」

アルバラードの言葉に、ニヤっと笑うは、



「先程の条件に、お互いの持っている、一級奴隷を掛けましょう。私が勝てば、葵殿の持っている、亜種とエルフの一級奴隷を貰う。葵殿が勝てば、私の持っている、この3人の一級奴隷を引渡しましょう。どうですか?葵殿」

ニヤっと笑いながら言うヒュアキントス。俺はその言葉を聞いて、一気に体温が下る。



いやいやいや。その条件はないな。俺はマルガとリーゼロッテを取引の対象になんか、もうする気はない。すぐに断ろう。

そう思って言葉を発しようとした時に、先にヒュアキントスが口を開いた。



「まさか、私の提案を断るつもりはないですよね?勝負に勝てば、大きな利益を上げれるのです。通常、この様な予期せぬ話が入る事は多々あります。それを自分の利益に出来てこそ、一流の商人。ここで断れば、自分から無能であると、公言する様なもの…まさかその様な醜態を晒しませんよね葵殿?」

ニヤッと微笑むヒュアキントス。



しまった…コイツ俺がきっと即答出来ないのを知ってて、先に言葉を吐きやがった。

俺がこれから何を言っても、言い逃れにしか聞こえないだろう。どうする…どうする…

俺がそう考えている所に、さらに追い打ちが掛る。



「確かに…突然の大きな商談をこなせない様では、専任商人など務まりませんね。それを勝ち得てこそ、一流。ヒュアキントス殿の話は一理あります。どうなさるのですか葵殿?」

アルバラードの言葉に、俺は更に追い込まれる。



相手は歴戦で、天才的商才を持つと言われているヒュアキントス。俺なんかが太刀打ち出来るかどうかなんて解らない。何も他に条件が無くて、負けてもデメリットが無いなら話は別だが、負ければマルガとリーゼロッテを同時に失うなんて、考えられない。

俺はチラっとルチアの顔を見ると、軽く溜め息を吐いて、瞳を瞑っていた。きっと、俺がその条件を飲まずに、この勝負自体を降りるであろう事を、理解しているのであろう。

俺が勝負を降りようとした時、ヒュアキントスはニヤっと微笑む。



「勝負自体を降りるつもりではないでしょうね?貴方がその様な事をすれば、推挙したルチア王女様の、目が間違っていたと、言う事になってしまうのですよ?まさか…ルチア王女様に恥をかかす様な事を、しないでしょうね?それとも…やっぱり下賎の者は、その程度なのでしょうか?見た目と同じ…矮小な存在なのでしょうか?」

ヒュアキントスの嘲笑う様な言葉に、若干一名が、その言葉に噛み付いてしまった。



「貴方にご主人様の何が解るんですか!ご主人様は立派な商人です!貴方なんかよりずっと…ずっとです!貴方みたいな酷い人に、ルチアさんの専任商人なんか務まるはず無いのです!きっと汚い事を、ルチアさんに押し付けるに決まっています!貴方はそう言う人です!最低な人なんです!」

そう言い切ったマルガの尻尾は、ボワボワに逆立っていた。ウウウ~と唸りながら、激しくヒュアキントスを睨みつけていた。

不味いと思った。そしてその言葉を取り消そうと思った時に既に遅かった。



「そこまで言われるのなら、勿論勝負を受けて、その言葉を証明してくれるのですよね?それとも、貴方は奴隷の管理も出来ない様な間抜けですか?貴方も下賎なら、その奴隷である、その亜種の少女も知能が低いですね。なんと愚かな、奴隷なのでしょう」

くだらぬものを見下す様な視線を投げかけるヒュアキントス。

俺はその言葉を聞いて、一気に血が滾ってしまった。目の前が真っ赤になる位に…



「取り消せ…」

「は?なにか言いましたか?」

「取り消せって言ってんだよ!」

俺はもう止められなかった。俺の殺気立っている雰囲気を感じ取ったリーゼロッテは、俺が襲いかからないか心配だったのか、俺の肩を抑えていた。



「マルガに言った事を取り消せ!お前にマルガの何が解る!お前の様な奴が…何も知らないお前が…マルガの事を侮辱なんかしてるんじゃねえよ!…やってやる…。お前の様な奴に、ルチアもマルガもリーゼロッテも渡さない!お前から全て奪い取ってやる!根こそぎな!!!!」

俺の激昂した言葉を聞いたヒュアキントスはニヤリと微笑む。



「では、契約成立でいいのですね?」

「ああ!それでやってやる!首を洗って待っているんだな!」

まだ怒りの収まらない俺を押さえながら、リーゼロッテがヒュアキントスに、



「ですが、この取引は私達のほうが利益が少ないですわ。私達とそこの奴隷3人では釣合いません。私達の方が、魔法も使え、レアスキルを持ち、尚且つ、戦闘職業にもついています。そこの3人は、魔法も使えなくて、レアスキルも無さそうですし、ましてや戦闘なんて出来ないでしょう?」

リーゼロッテの言葉に、目を細めるヒュアキントス



「では…どうしろと?」

「その3人の一級奴隷の他に、私達が勝ったら、貴方の鋼鉄馬車もつけて貰います。そして、葵さんとマルガさんに、先ほどの謝罪をして貰います。まさか…大きな商談の些細な交渉事を、断るなんて事いたしませんわよね?断れば無能を示すのですから…」

リーゼロッテは涼やかに微笑みながら言うと、ヒュアキントスの顔がきつくなる。

商人にとって、店や荷馬車は、自分のシンボルでもある。

ヒュアキントスの乗っている鋼鉄馬車も、彼のトレードマークの様な物だ。それを奪われる事は、皆に恥を晒す事になる。そんな事になれば、すぐにその話は広がって、彼は笑いものになるだろう。

表情をきつくしながらも、ニヤっと笑うヒュアキントスは



「解りました。その条件を飲みましょう。待っていなさい亜種の少女に、エルフの女。すぐに手に入れて、今日の事を後悔する位に…調教して上げますから…」

凍るような瞳で微笑むヒュアキントスを、涼やかは笑みで見返すリーゼロッテとマルガ。



「そんな事は俺がさせない。なぜなら俺がお前の全てを奪ってやるのだからな!」

俺の言葉を聞いて、俺をキツク睨むヒュアキントス。



「契約は成立した!2日後に、勝負を開始する!詳しい取り決めは、羊皮紙を渡す。それを見て禁止事項を覚えるのです!両者に幸あれ!」

アルバラードが闘いの鐘の様な言葉を、俺達に投げかける。



こうして、俺達とヒュアキントスの、ルチア専任商人決定戦は、幕を開けてしまったのだった。
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