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2章
愚者の狂想曲 40 人攫いとの接触
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ナディア達と別れた俺達は、郊外町ヴェッキオの捜索をしている。
相変わらずの薄汚れた、不衛生な街並みや人々を眺めながら、皆がそれぞれ今得ている情報を整理している様な面持ちをしていた。
沢山の人々を攫っている目的は何なのか?
攫われた人々はどこに居るのか?どうやって連れ去っているのか?
人攫いの集団の事を知っていそうな、依頼主は誰なのか?何故ソレを調べているのか?
そして…この件で…誰が利益を上げているのか…
皆口には出さないが、きっと俺と同じ様な事を考えているのであろうと、雰囲気がソレを物語っていた。
「ご主人様~。連れ去られた人達は、沢山の荷馬車や檻馬車に分けられて、何処かに連れ去られている可能性もあるのですよね?」
「そうだね、マルガの言う通りだね。一度に沢山の人々を動かすのは、皆の注意を引くからしていないのかもね」
「…このヴェッキオにも、奴隷商は数多くあります。その奴隷商に分けて奴隷を売っていたり、攫った人を、目立たない様な人数で運び出しているのかもしれませんしね」
「でもさ…別々に売られていたり、運ばれていたりしてもさ、元をたどれば同じ所に行くと思うから、やっぱり噂は立っちゃうと、オイラは思うんだけど…」
マルコの腕組みをしながらの言葉に、頷いている一同。
確かにマルコの言う通り、別々に売られていたり運ばれていたとしても、出元は同じなのだからそこで噂が立つ。
更に解り難く、出元も複数に分けたとしても、奴隷商に売る量や運び出す馬車の数は、攫った人達の分多くなるから、最近奴隷取引が活発だとか、少ない奴隷を乗せた馬車を沢山見かける等の噂は立つ。
どの様に工作をしても、人口30万人強を誇るこの郊外町ヴェッキオの人々の目を、欺く事は出来ないであろう。
だが、人攫いの集団は、どの様な方法かは解らないが、皆の目を欺いて、ソレを実行している。
もし、何かの噂が立っていれば、この郊外町とも取引のある、情報通のあのギルゴマの耳の入っていないはずはない。
しかし、その情報通のギルゴマでさえ、噂程度でしか認識をしていなかった…
「とりあえず、ナディアさん達からの新しい情報もありますから、人攫い達が人を攫っている場所を中心に、捜索してみましょう」
考え込んでいた俺の肩にそっと手を置き、優しく微笑みかけてくれるリーゼロッテ。
「…そうだね。リーゼロッテの言う通り、ナディア達から教えて貰った場所を中心に捜索しようか」
俺の言葉に頷く一同は、ナディア達が教えてくれた、人攫い達が良く人を攫っていると言う場所を中心に捜索を始める。
マルガやルナには警戒LVを上げて貰っている。
マルガとルナは、そのちっちゃな耳をプクピクと動かし、辺りの音を注意深く探ってくれている。
マルガの足元を歩くルナは、まるでマルガの親衛隊の様にキリッと言った感じで得意げに歩いていた。
「ご主人様~。ここにも人攫い達はいない様ですね~。ルナも特にそれっぽい気配は感じないと言っているのです~」
「みたいだね。…別の場所を捜索してみようか」
俺の言葉に、ヴェッキオの地図を広げてくれるリーゼロッテ。
皆でその地図を見ながら、印のつけられた場所を中心に捜索をして行く。
結構な時間が経って、今日の捜索の場所も、後1箇所位見て回れる位にまでになっていた。
今日も何も情報が得られなかった事に、若干の悔しさを感じながら、地図を覗きこむ。
「…今日はもう時間もないから、後1箇所見て回ったら、教会でマリアネラさん達と合流して報告をしよう」
「では、いつもの教会に程近い、この場所を捜索してみてはどうでしょうか葵さん?」
そう言って地図を指さすリーゼロッテ。
その場所はジェラードの教会から程近い場所にある十字路だった。
十字路を右に行けば娼館があり、北に行けば旅人の憩いの場である酒場街がある。
酒を飲んだ冒険者や旅人達が、酔に任せて女を買いに娼館に向かうのに良く通るであろうと伺える場所だ。
理由は解らないが、人攫い達はこの郊外町に新しく来た人を中心に攫っている可能性もある。
その予想が正しいなら、この十字路は人攫い達の格好の場所だとも言える。
「そうだね。この十字路なら教会にも近いしいいね。今日はこの十字路を最後に捜索して、いつもの教会に向かおうか」
俺の言葉に頷く一同は十字路に向かう。
その途中も道行く荷馬車に気を配りながら、十字路にさしかかろうとした時に、警戒LVを上げていたマルガが声高に叫ぶ。
「ご主人様!十字路の方から、微かな人の悲鳴が聞こえます!」
「解った!皆武器を装備して!十字路に急ぐよ!」
俺達はそれぞれに装備を整え、全力で十字路に向かって走る。
そして、十字路に入った時、数人の男が人を攫おうと襲いかかろうとしていた所であった。
「その人達を離すのです!」
威勢よく言い放ったマルガの言葉に、人攫い達がこちらに振り向く。
その一瞬の隙を突いて、人攫いに捕まっていた一人の女性が、こちらに向かって駈け出した。
当然、ソレを見逃すはずのない人攫いは、瞬時に間合いを詰めて、短剣を振りかぶり女性に襲いかかる。
『ギャリリリン!』
火花を散らしながら、金属が激しく撃ち合う音が十字路に響き渡る。
ソレは人攫いの短剣での一撃を、俺の名剣フラガラッハで受け止めた音であった。
俺と人攫いが鍔迫り合いをしているのを見て、俺の背中に回り込みギュッと俺の背中にしがみつく女性。余程恐怖を感じているのか、震えながら余りに強く俺に抱きつく女性に、動きを鈍らせられる。
「マルガ!リーゼロッテ!マルコ!お願い!」
俺の叫びに、跳躍して俺の所に来るマルガにマルコ。
「やあああああ!」
「たあああああ!」
マルガにマルコは気合の声を上げながら、俺と鍔迫り合いをしている人攫いめがけて、大熊猫の双爪と魔法銀のクリスで斬りつける。
それを跳躍してすんでで躱す人攫いの男。しかし着地地点を予測した、リーゼロッテの召喚武器、2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーが、隠し腕の双剣で人攫いの男に襲いかかる。
『ギャリン!ギャギン!』
激しい音をさせて、ローズマリーとブラッディーマリーの隠し腕の双剣は弾かれた。
それは他の人攫いの男達が、ローズマリーとブラッディーマリーの双剣を、弾き飛ばした音であった。
俺達と人攫いの男達は少し距離を取り身構え様子を伺っている。
「皆隊列を組んで!」
俺の言葉に、いつもの隊列を組む俺達。
「もう怖がる事はありませんから、葵さんの背中から離れて下さい。じゃないと戦えませんから」
リーゼロッテは震えながら俺にしがみつく女性に優しく語りかける。
そのリーゼロッテの優しい微笑みと声に我を取り戻した女性は、俺の背中から両手を離す。
そして、リーゼロッテは女性を最後列である自分の後ろに回す。
「貴方達の目的は何なのですか!人を攫って…一体どうしようと言うのですか!」
マルガは大熊猫の双爪を構えながら、人攫いの男達に叫ぶが、その答えは返っては来なかった。
「当然素直に教えてくれるはずはありませんわね。…葵さんお願いします」
俺の後ろからのリーゼロッテの言葉に、俺は人攫いの男達を霊視する。
「LVの高い順から…LV60ソリッドファイター、LV54、LV53のマジックスカウトが2人、そして最後はLV50 のハイプリーストが1人の計4人!」
俺の霊視をした敵の情報を聞いた、マルガ、リーゼロッテ、マルコの表情が強張る。
俺達の平均LVは約33。中級者と言った所だ。
いかに港町パージロレンツォで連携の特訓をして、ラフィアスの廻廊でLVを上げたと言っても、この人攫い達とまともに集団戦を行うのには無理がある。
俺がどうしようか思案していた時、人攫いの集団が一斉に跳躍を始める。
俺達はソレに身構え、攻撃に備えていると、予想もしていなかった所から呻き声が上がる。
「ぐふうう…」
僅かな悲鳴に近い声を上げて、人攫い達の刃にかかる、郊外町の住人。
そこには人攫い達の狂刃に掛かって、一刀のもとに斬り殺された、5人の男女の死体が転がっていた。
夥しい血を流し、絶命している郊外町の住人を見て、ギュッと唇を噛むマルガとマルコ。
「な…なんて酷い事を!」
「何の罪もない人を…殺しちゃうなんて!」
マルガにマルコがその瞳に怒りの炎を燃やしている。その中で、冷静にソレを見ていたリーゼロッテが静かに口を開く
「…不味いですね葵さん。この人攫い達は、かなり訓練されています。私達よりLVも高いです。恐らく集団戦で戦う事も訓練されている様に見えます」
リーゼロッテは表情をきつくしながら言う。
リーゼロッテの言う通りだ。
俺達より先に郊外町の住人を殺したのは、目撃者を確実に殺す為であろう。俺達と戦闘が始まれば、その間に目撃者に逃げられるかもしれない。
俺達の戦闘の構えから大体の戦闘LVを判断し、自分達の方が上であると一瞬で判断して、先に殺したのだ。
その判断や、一瞬でソレを行動に移せるのは、常に訓練をして、パーティーのリーダーが統率している証拠…
「…集合場所の教会まで後退戦をする!こっちには女性も居る。守りながら戦うのは無理がありすぎる!教会まで逃げるよ皆!」
俺の言葉に、敵を見ながら教会に向かって走りだす俺達。
先頭は女性の手を引きながら、リーゼロッテが走って行く。ソレを守る様にして、俺達も走りだした。
当然、人攫いのパーティーが黙って逃走を許してくれるはずは無かった。
瞬く間に間合いを詰めて、襲い掛かってくる人攫いのパーティー。
その内の1人が、先頭を走るリーゼロッテ目掛けてロングソードを振り下ろす。
「そうはさせません!エアムーブ!」
そう叫んだマルガの身体が、黄緑色の風の様なものを纏う。
風の移動強化魔法のエアムーブの効果により、気戦術クラスの素早さでリーゼロッテに振り下ろされているロングソードを、大熊猫の双爪で弾き返すマルガ。激しい金属音をさせ、火花を散らしている。
マルガと鍔迫り合いをしている人攫いの男に、黒金のスローイングダガーを投擲するマルコ。
その投擲を他の男が短剣で弾き、そのままマルコに斬りかかる。
「俺の事も忘れないで欲しいね!」
俺はそう叫びながら、マルコに斬りかかろうとする男に、名剣フラガラッハを振り下ろす。
それに気がついた人攫いの男は、マルコを蹴り飛ばし、後方に跳躍して躱す。
俺はマルコを起こし、体制を整えさせる。
「マルコ大丈夫!?」
「う…うん!腹を蹴られただけだからなんとか…」
少しむせているマルコは魔法銀のクリスの切っ先を、人攫いのパーティーに向けて身構え直す。
それを見て、少し気に食わなさそうな目をしていた、人攫いの男の1人の手の平が光りだす。
「ファイアーボール!!」
勢い良く放たれた火属性の魔法は、鍔迫り合いをしているマルガに向かって一直線に飛んでいく。
動きの取れないマルガはそれに気がついて、顔を歪ませるが、ファイアーボールがマルガを直撃する事は無かった。
「ウインドウブレード!!」
リーゼロッテの召喚武器、2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーから放たれた、風属性の魔法が、火属性のファイアーボールを切り裂き消滅させたからであった。
それを見たマルガと鍔迫り合いをしていた男は、マルガから離れ、自分のパーティーに戻って隊列を組み直していた。
「リーゼロッテさんありがとうございます!」
「無事で良かったですわマルガさん。唱えられた魔法が風属性に弱い火属性で良かったですわ。私は風と土属性の魔法しか使えませんからね」
そう言って微笑むリーゼロッテ。
「とりあえず逃げるよ!教会までもう少しだ!」
俺の言葉に、一斉に走り出す一同。
そんな俺達を見て、マジックスカウトの2人の男とハイプリーストが魔法を放つ。
「ファイアーボール!!」
「アースクラッシュ!」
「ライトボール!!」
先程魔法で消されたのを瞬時で理解しているのであろう3人のマジックスカウト達は、別々の属性の魔法を唱える。これでは属性の強弱関係で消し去る事は難しい。
だが、そんな俺達の最後尾を走るマルコは不敵な笑みを浮かべる。
『バシュウウウウンン!!』
圧縮した空気が放出される様な音がすると、放たれた3つの違う属性の魔法は、あらぬ方向に弾き飛ばされる。
それは、Aランクのマジックアイテムである、マルコの風妖精のバックラーの効果であった。
「それ位の魔法なんか、この風妖精のバックラーには効かないよ!!」
マルコが風妖精のバックラーで魔法を弾き飛ばしたのを見て、驚きの表情をする人攫いのパーティー。
「流石マルコ!良い判断だね!さあ!走るよ!」
俺の声に嬉しそうなマルコは、魔法攻撃を弾きながら教会に向かって走りだす。
魔法攻撃は強いが、上位の魔法を使おうとすれば、長く詠唱が掛かる。
この様な移動しながらの闘いでは、素早く詠唱の出来る、下位の攻撃魔法が良く使われる。
しかし、下位の魔法攻撃は全てマルコの風妖精のバックラーにより弾き飛ばされる。
それに業を煮やした人攫いの中の1人が、高速でマルコに跳躍する。
フェイントを入れながら迫るマジックスカウトの短剣が、マルコに振り下ろされる。
何とか魔法銀のクリスでその斬撃を受け止めたマルコの腹に、3発の拳をめり込ませるマジックスカウト。
マルコはその衝撃に弾き飛ばされ、地面で蹲る。そこにマジックスカウトの追撃が迫る。
「マルコさんはやらせません!」
リーゼロッテの叫びとともに、2体の人形ローズマリーとブラッディーマリーが隠し腕の双剣で斬りつけるが、それを紙一重で躱しマルコに迫る。
「しつこいね!マルコはやらせないって言ったろ!」
俺は叫びながら名剣フラガラッハで、マジックスカウトの短剣を弾く。
俺と鍔迫り合いをしているマジックスカウトの後方から、リーゼロッテの2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーが高速で切りつけた。
それを感じたマジックスカウトは咄嗟に距離を取ろうと離れた瞬間であった。
乾いた爆発音の様な音が辺りに鳴り響く。
「迦楼羅流銃剣術、虎砲三弾!」
一瞬で左手に召喚された銃剣拳銃グリムリッパーから、通常より3倍程威力の高い魔法弾が放たれる。
予想外の魔法の詠唱と比べ物にならない早さの魔法弾に、身体を撃ちぬかれるマジックスカウトは、大きな風穴を3つ空けて、大量の血を流しながら地面に崩れ去る。
人攫いのパーティーは、マジックスカウトの体に隠れて銃剣拳銃のグリムリッパーが見えなかったであろう。驚きの表情で俺を見ていた。
当然、それも計算して、グリムリッパーを使っている。このSランクの召喚武器、銃剣2丁拳銃グリムリッパーを知られるのは良くない事だと解っているからだ。
俺は瞬時にグリムリッパーの召喚を解除して、皆に向き直ろうとした時だった。
死亡したマジックスカウトの左手が光り出し、激しい炎が死体を包み込み、一瞬で死体を焼いて、全てを炭にしてしまった。
それを見てゾッとした様な顔をしている、マルガにマルコ。
「皆!もうすぐ教会だ!急ぐよ!」
俺の言葉に我を取り戻したマルガにマルコは、全力で教会に向かって走り出す。
自分達より戦闘LVが低いと思っていた俺に、一瞬で仲間がやられたのを見ている人攫いたちのパーティーは、斬り込んで来る事は無く、遠距離から魔法で攻撃を始めるが、マルコの風妖精のバックラーの効果の前に、全て防がれていた。
警戒して攻撃の和らいだ事もあって、俺達は教会のある広場まで逃げてこれた。
「さあ、この教会の中に入って下さい」
連れてきた女性を教会の中に入れるリーゼロッテ。女性は戸惑いながらも教会の中に入って行く。
そして教会を背に、俺達と人攫いのパーティーは向かい合って対峙する。
「どうしますか葵さん?1人倒したとはいえ、この3人を相手にするのは…」
俺の後方で身構えているリーゼロッテが言葉尻をすぼめる。
…確かに、この3人相手でも、今の俺達で相手をするのにはキツイ。
いかに皆がAランクのマジックアイテムを装備しているとは言え、LV差を埋めれる程には至っていない。
ここは…名剣フラガラッハから、銃剣2丁拳銃グリムリッパーに切り替えて、一気に片をつけるべきか…
俺はそう思い、名剣フラガラッハを鞘にしまおうとした時だった。少し離れた屋根の上から声がする。
「なんだい、戦闘の気配を感じて来てみれば葵達じゃないか。中々楽しそうだね~私達も仲間に入れてくれるかい?」
その声に皆が振り向くと、ニヤッと口元を上げ不敵に笑っているマリアネラの姿があった。
「マリアネラさん!」
嬉しそうに叫ぶマルガの顔を見て、フフッと優しく微笑むマリアネラ。
「…この教会の近くで事を起こすなんて良い度胸だねお前達…覚悟は…出来てるんだろうね!!」
そう叫んだマリアネラは一瞬で人攫いのパーティーに間合いを詰める。
高速で迫るマリアネラはフェイントを織り交ぜながら、1番LVの高いソリッドファイターに斬りかかる。
マリアネラの高速の剣技に押されるソリッドファイターを支援すべく、マジックスカウトがマリアネラに斬りかかろうとした時、後方から魔力を感じた。
「マリアネラはやらせん!ウォーターブレス!!!」
ワーリザードのゴグレグが、マリアネラに斬りかかろうとするマジックスカウト目掛けて、全力のブレスを吐き出した。
以前見たものとは比べ物にならない威力の無数の水の玉が、マジックスカウトに襲いかかる。
そのブレスをまともに受けたマジックスカウトは、体中を水の玉で撃ちぬかれ絶命する。
それを見た人攫いのリーダーであろうソリッドファイターは、胸から何かを取り出し地面に投げつけた。
その瞬間、大きな音と同時に大量の煙が発生し、周囲の視界が閉ざされる。
俺達は身構えながら身を守っていると、徐々に煙が消え去り視界が戻って来た。
そこには人攫いの姿はなく、少し呆れた顔をしながら頭をかいているマリアネラの姿があった。
「…ッチ、撤退用の煙玉か…まんまと逃げられちまったね。マルガは何か気配を感じるかい?」
「…いえダメですマリアネラさん。さっきの玉が破裂した時に出た大きな音のせいで、耳が上手く聞こえません」
そう言って金色の毛並みの良い尻尾をすぼめ、シュンとしているマルガ。
そんなマルガの傍に近寄り優しく頭を撫でるマリアネラ。
「…そうかい、それなら仕方ないね。私達も気配を感じないし、もう奴らを探すのは難しいね。とりあえず戦闘も終わった様だし、教会の中に入って話でもしようかい」
マリアネラの言葉に頷く俺達は、教会の中に入っていくのであった。
教会の中に入った俺達は、マリアネラが入れてくれた紅茶を飲んでいた。
その紅茶を飲みなながら、皆が落ち着きを取り戻したのをみたマリアネラが、軽く貯め息を吐きながら
「しかし、危なかったね。私達の居ない所で、上級の人攫い達に出くわすなんて」
「…そうですね。マリアネラさん達が来てくれて助かりましたよ。こっちは人攫い達を1人倒すのがやっとでしたからね」
俺が紅茶を飲みながら苦笑いしていると、ヒュ~と口を鳴らすマリアネラ
「上級の奴を1人倒したのかい!?大成果じゃないか!葵達もなかなかやるね。流石はルチア王女の専任商人ご一行って所かい?」
微笑みながらのマリアネラの言葉に、嬉しそうにしているマルガとマルコ。
「所で、この女性は誰なんだい?葵たちの仲間かい?」
そう言って紅茶を飲みながら、先程俺達が助けた女性に目を向けるマリアネラ。
落ち着きを取り戻し紅茶を飲んでいた女性が、俺達に向き直る。
「この女性は、人攫い達に攫われそうになったのを助けたのです」
「そうかい。良かったね攫われずに済んで」
「はい!助けて頂いて有難う御座います!」
女性は飲んでいた紅茶を椅子に置き、立ち上がって深々と頭を下げている。
「マリアネラさん、今迄人攫いから助けた人は、どうなさっているのですか?」
「うん?どうって言うと?」
「はい、あの人攫い達は、自分達の情報を残さない様に、マジックアイテムで自らを燃やしてしまう様な者達。しかも、今迄目撃者は全て殺しています。ですから、マリアネラさんが今迄助けた人達は、その後どうなったのかと思いまして」
リーゼロッテの問に紅茶を飲んでいるマリアネラが、そのカップを椅子に置く。
「…正直、その後どうなったのかは解らないんだ。私達が助けた人達は、一応安全を考えてこの町からすぐに出る様に言って来た。この郊外町に住む者の大半は市民権を持っていない。騎士団や守備隊に助けて貰う事が出来ないからね。私達もずっと見ている訳には…いかないからね」
「…なるほど。ひょっとしたら…後で始末されている可能性もあると…」
リーゼロッテの言葉に、寂しそうに頷くマリアネラを見て、話を聞いていた女性の顔が蒼白になる。
そして、悲壮な面持ちで走り寄ってきた女性は、俺の足にしがみつく。
「お願いです!私を助けて下さい!私はお金もないので、この町から出る事も出来ません!このままじゃ…殺されてしまう…お願いです!なんでもしますから、私を助けて下さい!」
泣きながら俺の足にしがみつく女性。
俺が戸惑っていると、マルガとマルコが俺の傍に近寄ってくる。
「ご主人様…何とかならないのですか?」
「この町から出れないなら、本当に殺されちゃうかもしれないよ葵兄ちゃん!」
マルガとマルコは瞳を揺らしながら俺を見つめている。
ムウウ…どうしよう。
本音を言うなら、余計なお金を使いたくは無いのだけど…
こんな真っ直ぐに俺を見つめるマルガヤマルコを、無下に出来る様な事は…俺には出来きません!
まあ…レリアとエマにはやって貰いたい事があるし、ステラ、ミーア、シノンにもやって貰いたい事がある。あの大きな宿舎を見て貰う人が必要になる…か。
「解ったよマルガにマルコ。この女性を俺達の宿舎のメイドさんと言う事で雇って住んで貰う。それなら安全だし、生活も出来る。それでいいかな?」
俺の苦笑いしながらの言葉に、表情を明るくするマルガにマルコ。
「貴女もそれで良いですか?住む所と食費は僕が見ます。仕事の内容は、主に僕達が住んでいる宿舎の清掃や雑用。お給金はまた相談しましょう。どうですか?」
「はい!それでお願いします!宜しくお願いします!」
女性は泣きながら俺の足にしがみつき、何度も頭を下げる。俺は女性を抱え上げ、指で涙を拭いてあげる。
「では自己紹介でもしましょうか、俺は商人をしています葵 空と言います。貴女は何と言う名前なのですか?」
「私はユーダと言います!歳は25歳です!宜しくお願いします!」
そう言って深々と頭を下げるユーダに、マルガとマルコガ近寄る。
「私はマルガです!良かったですねユーダさん!」
「オイラはマルコ!よろしくねユーダさん!」
「はい!よろしくお願いしますマルガさんにマルコさん!」
嬉しそうにマルガとマルコに挨拶をしているユーダ。
そんな3人をフフと笑いながら見つめているリーゼロッテが、俺の傍に来て腕を組む。
「余計な経費をかけちゃったかなリーゼロッテ?」
「…いえ、いずれ宿舎の管理をしてくれる方を雇わねばと思っていましたので、丁度良かったと思います」
「そう、なら良かった。…何か嬉しそうだねリーゼロッテ?」
「そうですか?」
嬉しそうに金色の透き通る様な瞳を俺に向け、腕組みをしているリーゼロッテの頭を優しく撫でる。
「どうやら話はまとまった様だね。今日はユーダさんも居るから私達が王都の中まで護衛してやるよ」
「それは心強いですね。…あ…そう言えば今日の報告がまだでしたね」
俺は今日ナディア達から教えて貰った情報をマリアネラ達に伝える。
「…なるほどねえ。人攫い達は日時を変えて大体同じ場所でね…。新しく来た人を中心に攫っている…か」
「まあ、可能性の話ですけどね。確証はありませんが…」
「まあね。でも今日だって、この地図に書かれた所を捜索して、あいつらに行き当たったんだろ?成果じゃないか」
「情報は何も得られませんでしたけどね」
苦笑いしている俺を見て、フフと笑うマリアネラ。
その時、教会の扉が開かれ、1人の男が教会に入ってきた。
「やっと帰ってきたみたいだねジェラード。どこに行ってたんだい?」
「少し用事がありましてね。これでも私はヴィンデミア教の司祭なのです。意外と忙しいのですよ?」
人差し指を立てながら得意げに言うジェラードに、マルコもマルガもアハハと笑っている。
「所でこちらの女性は?」
「ああ、ユーダさんは…」
マリアネラがさっき迄の事をジェラードに説明してくれる。それを聞いたジェラードは微笑みながら
「良かったですねユーダさん。きっと女神アストライア様のお導きです」
「はい!有難う御座います!ジェラード神父!」
嬉しそうに言うユーダに、ウンウンと頷いているジェラード。
「じゃ~私達は葵たちを送ってくるよ。後でまたここに戻ってくるねジェラード」
「解りました。マリアネラも無理をしないでくださいね?」
「わ…解ってるって!」
気恥ずかしそうに言うマリアネラに、優しく微笑むジェラード。マルガとマルコも嬉しそうに2人を見つめていた。
「行くよ葵!」
俺達はマリアネラに護衛されながら、宿舎に戻っていった。
マリアネラ達に護衛して貰って宿舎に戻って来た。
途中で襲われる事もなく戻ってこれた事に若干安堵していた。
マリアネラ達と挨拶をして別れ、宿舎の中に入り寛ぎの間に向かうと、皆の楽しげな声が聞こえてきた。
「何か楽しそうだね皆」
「あ!葵お兄ちゃん!おかえりなさい~!」
「おかえりなさい葵さん」
「「「葵様おかえりなさいませ!!」」」
エマが元気一杯に笑顔で迎えてくれる。レリアやステラ、ミーア、シノンも満面の笑みで俺達を迎えてくれる。その中で若干1名だけが、ムスッした雰囲気を醸し出していた。
「…ルチア来てたんだ」
「…何よ?…来てたら…悪いの?」
かなり不機嫌な声で返事をするルチアが俺に振り向く。
何故か解らないが、両頬をプクッと膨らませていた。
ありゃりゃ?お拗ねになられているんですね。解ります。
…ムウウ…何故、ルチアは拗ねているんだろう?
…俺…何かしたかな…
俺がそんな疑問感じ、心当たりを探していると、俺の隣に静かに近寄ってきたマティアスが俺に耳打ちをする。
「…葵殿。少し前に…皆さんで湖水浴に出かけられませんでしたか?」
「あ、うん行ったよ。それがどうかしたの?」
「…その湖水浴にルチア様をお誘いになられて居ないでしょう?…ですから…」
「ええ!?…だって…ルチアはフィンラルディア王国の王女様ですよ?そんな簡単に…普通の人が泳ぐ所なんかに誘えないですよ?」
俺の言葉を聞いて、軽く貯め息を吐くマティアス。
「…普通なら葵殿の言う通りでしょう。…ですが、相手はルチア様なのです」
「マティアス~何をコソコソと話をしてるのかしら~?」
両頬をプクッと膨らませているルチアの言葉に、苦笑いをするマティアス。
「はあ~いいわよね~どこかの誰かさんは皆と湖水浴に行っちゃって。私を差し置いて、皆で楽しむなんて…随分と偉くなったものよね~。…何か全部どうでも良くなって来ちゃったわ…」
エマを膝の上に抱き、エマの髪の毛をイジイジとしているルチア。エマはそれがこそばゆいのか、キャキャとはしゃいで楽しそうにしている。ルチアのその言葉を聞いた皆が、俺に一斉に振り向く。
え…何この視線…
オラに一体何を期待して居るのですか皆さん?
特にマルガちゃんとマルコちゃん!その『解ってますよね?』的な熱い視線は何ですか?
うは!ルナちゃんまで俺に熱い視線を送ってる!
…ムウウ。ここはやっぱりオラがなんとかするしかないのですね。解ります。
「…ねえルチア」
返事はない!只の幼女の髪をイジイジしている銅像の様だ!
いあいあ銅像は幼女の髪をイジイジしたりはしない。てか銅像でもない。
のけ者にされて拗ねている、超美少女の王女様だから。
「…可愛くて清楚なルチアさん」
「…何?何か用?」
頬をプックプクに膨らませているルチアが、不機嫌に返事をする。
コイツは本当に可愛いとか清楚とか言う言葉が好きだな!
…まあ…可愛いのは認めるけど!…クヤチイ…
「今度さ皆でまた湖水浴にでも出かけようと思うんだけど、是非ルチアにも来て欲しくてさ」
苦笑いしながらの俺の言葉に、一瞬、物凄く瞳を輝かせたルチアは、すぐにその輝きを潜める。
「…私に来て欲しいの?」
「うん!やっぱり綺麗な湖には、美女が似合うからさ!ルチアが来てくれたら皆も喜ぶし!」
「…ホントにホント?…嘘ついたら、二度とロープノール大湖から出さないわよ?」
なるほど!そして、人魚姫伝説ならぬ、人魚男伝説が始まるのですね!
「うん!俺達と一緒に湖水浴に行こうルチア!」
その言葉を聞いたルチアはガバッと立ち上がり、腰に手を当て
「仕方ないわね!貴方がそこまで言うなら湖水浴に行ってあげるわ!感謝しなさいよね!」
ドヤ顔でアハハと高笑いをするルチアを見て、マルガもマルコも嬉しそうに笑っている。
「やった~!またこすいよくに行けるんだ~!」
「そうよエマ!一杯楽しみましょうね~!」
エマを抱きながら嬉しそうなルチア。
あんなに嬉しそうな顔しちゃって。
…本当に素直じゃないんだからルチアは。
俺がそんな感じで苦笑いしていると、ステラがクスクスと笑いながら紅茶を入れてくれた。
とりあえず落ち着いて皆が座って紅茶を飲んでいると、当然の様にルチアがその人物を発見する。
「…所で葵、この女性はどちらなの?…貴方…また…」
「ち…違うよ!色々合って、この宿舎の管理と雑務をして貰う為に雇ったメイドさんなの!」
俺の必死の訴えに、まだ懐疑的な視線を俺に向けているルチア。
「何よ色々って?」
「いやさ、ルチアは覚えていると思うけど、俺達が冒険者ギルドから2階級特進の試験を受けれるってのがあったろ?」
「ああ~あのラフィアスの回廊の時のやつね。それがどうかしたの?」
「今その件で、冒険者ギルドから依頼を受けているんだ」
「へ~そうなの。どんな依頼なの?」
ルチアは興味があったのか俺に聞き返してくる。俺は今受けている依頼の内容を話す。
するとルチアは飲んでいた紅茶をプーッと吹き出す。
「ゴホゴホ!」
「だ…大丈夫ルチア?」
珍しく粗相をするルチアを不思議に思いながら、口を拭くナプキンの様な布をルチアに渡すと、それで口を拭いているルチア。
「どうしたのルチア?」
「な…なんでもないわよ!…それより、依頼の話をもっと聞かせて頂戴」
少し真剣な目をするルチアを不思議に思いながら、今まであった事を含め、ルチアに依頼の話を説明する。
落ち着きを取り戻したルチアは、再度紅茶を飲みながら、テーブルの上で指をトントンとさせて何かを考えて居る様であった。
「…そんな事がね。なるほど…」
「まあまだ、調査中だから、なんとも言えないけどね。解らな事や疑問も多いし」
「…だけど…何か危険そうな依頼だし、他のに変えて貰えば?」
「でも、報酬が良いからね。危険を感じた時は、手を引いても良いみたいだし」
「…そう」
小声でそういったルチアは、何かを考えながら紅茶を飲んでいる。
「まあ郊外町での事は色々あるしね。元々不法者が集まる町って言う位置づけだし」
そのルチアの言葉を聞いたマルガが、ルチアに近寄る。
「それは解るのですが…フィンラルディア王国として、郊外町に住む人を、安全に暮らせる様には出来ないのですかルチアさん?」
綺麗なライトグリーンの瞳を、少し揺らしながらルチアに語るマルガ。
そんなマルガの頭を優しく撫でるルチア。
「…フィンラルディア王国、いえ…お母様も郊外町に住む人達には心を痛めてられるわ。それで、少しでも郊外町に住む人々を救う為に、多額の国費を割いて居たりもするの。最初は貴族にも猛反発されていたけど、お母様が話をして、議会で承認されてもいるのよ。それでも、数多く住む、郊外町の人々を救いきれて居ないのが現状なのよ…」
寂しそうに言うルチアの表情を見て、更に瞳を揺らすマルガ。
「でもお母様は、それで諦めた訳じゃないわ。郊外町の人々を救うべく新たに議案を議会に提出したの」
「それはどんな議案なのですかルチアさん?」
「…下級市民制度よエルフちゃん」
「下級市民制度?」
ルチアの言葉に、少し首を傾げるリーゼロッテ。
「そう下級市民制度。簡単に言えば、今の国民を税金の支払いによって、上級市民と下級市民に分けて扱うって事ね。今の郊外町に住む人達は、無法者扱いで、法的には何も守られては居ないわ。だから、殺されたりしても、郊外町の人なら罪に問われない。税金を支払っていないから、市民権が無い状態だからね。平たく言うと、郊外町の人々は国民扱いじゃないのよ。非国民。だから、郊外町の事は、バミューダ旅団の様な奴らに管理して貰って、その許可と引換に、税の取り立てをして貰っているのが現状なの。お母様はそれを変えたいのよ。すべての人を国民として扱い、法の下で保護する。そうすれば大手を振って郊外町の人々を守れるからね」
「…なるほど、ですがその下級市民制度も色々と問題があるのでは?…例えば…差別とか…」
ルチアの説明にリーゼロッテが質問を投げかける。
確かにアウロラ女王の気持は解るけど、リーゼロッテが言う様に、全ての国民を上級市民と下級市民に分けると、きっと差別が始まるであろう。
それは地球の歴史が物語っている。島国の同一民族国家である日本でさえ、その差別はあった。
今も傷跡を深く残す差別が…
「それはエルフちゃんの言う通りよ。でも、今の郊外町に住む人を救うには、まずフィンラルディア王国の国民であると認定しなければならないのよ。それが出来て始めて国として手を差し伸べれるの…」
寂しそうな表情のルチアを見て、リーゼロッテもその金色の透き通る様な瞳を揺らす。
そりゃそうだ。
自国の民でもない者を救おうとする国など、この世界には存在しないであろう。
地球でさえ色々と有る問題なのだ。
確かに地球では救おうと言う動きが有るのは確かだが、それは国同士の外交としての策略も噛んでいる。心からその国を救おうとする国など、どれほど有るのか…
「…すいませんでしたルチアさん」
「いいのよエルフちゃん。エルフちゃんの言ってる事も、尤もな事だもの。色々と問題のある下級市民制度だけど、現状これ以上の、郊外町に何かを出来る案は存在しないのは確かな事よ。お母様もきっと…その事を解っていらっしゃるわ…」
大国フィンラルディアの国政の頂点に立つアウロラ女王…
善王と言われ支持の高いアウロラ女王…か。
「でも、他の貴族とかには反対されていないの?」
「勿論猛反対している貴族は居るわ。数年前に、郊外町の人を救う為に、国費の一部を割く事を、強引に承認させた事もあるしね。その時は、渋々他の貴族も納得したけど、今回は…ね」
「そうなのですか…どの貴族が反対されているのですか?」
ステラがルチアに紅茶を入れながら質問する。
「えっとねオオカミちゃん。まずお母様の議案に賛成してくれているのは、バルテルミー侯爵家とハプスブルグ伯爵家。反対しているのが、クレーメンス公爵家とビンダーナーゲル伯爵家。アーベントロート候爵とモンランベール伯爵家はまだどちらの立場を示すかは、解らない。お母様、女王も1票の議決権があるわ。他の議決権を持つ六貴族のうち、3つの貴族が賛成してくれれば議案を通せるのだけどね…それが難しいのよ」
ステラにそう説明するルチア。残念そうにしているマルガにマルコ。
フィンラルディア王国の国政を支える、強大な権力を持った六貴族にも派閥がある。
その力関係もあるし、様々な諸事情もある。一筋縄では行かないのが普通か…
「…ま、この話はここまでにしましょう。葵も十分に注意して依頼をするのよ?」
「解ってるよルチア…ありがとう」
俺の言葉に、、フンと鼻を鳴らすルチア。
「じゃ~2日後に湖水浴に行くから!馬車で迎えに来るから、きちんと準備してなさいよね!」
嬉しそうに言うルチアに皆が喜んでいる。
俺は、その光景を見ながら、少し癒されているのであった。
相変わらずの薄汚れた、不衛生な街並みや人々を眺めながら、皆がそれぞれ今得ている情報を整理している様な面持ちをしていた。
沢山の人々を攫っている目的は何なのか?
攫われた人々はどこに居るのか?どうやって連れ去っているのか?
人攫いの集団の事を知っていそうな、依頼主は誰なのか?何故ソレを調べているのか?
そして…この件で…誰が利益を上げているのか…
皆口には出さないが、きっと俺と同じ様な事を考えているのであろうと、雰囲気がソレを物語っていた。
「ご主人様~。連れ去られた人達は、沢山の荷馬車や檻馬車に分けられて、何処かに連れ去られている可能性もあるのですよね?」
「そうだね、マルガの言う通りだね。一度に沢山の人々を動かすのは、皆の注意を引くからしていないのかもね」
「…このヴェッキオにも、奴隷商は数多くあります。その奴隷商に分けて奴隷を売っていたり、攫った人を、目立たない様な人数で運び出しているのかもしれませんしね」
「でもさ…別々に売られていたり、運ばれていたりしてもさ、元をたどれば同じ所に行くと思うから、やっぱり噂は立っちゃうと、オイラは思うんだけど…」
マルコの腕組みをしながらの言葉に、頷いている一同。
確かにマルコの言う通り、別々に売られていたり運ばれていたとしても、出元は同じなのだからそこで噂が立つ。
更に解り難く、出元も複数に分けたとしても、奴隷商に売る量や運び出す馬車の数は、攫った人達の分多くなるから、最近奴隷取引が活発だとか、少ない奴隷を乗せた馬車を沢山見かける等の噂は立つ。
どの様に工作をしても、人口30万人強を誇るこの郊外町ヴェッキオの人々の目を、欺く事は出来ないであろう。
だが、人攫いの集団は、どの様な方法かは解らないが、皆の目を欺いて、ソレを実行している。
もし、何かの噂が立っていれば、この郊外町とも取引のある、情報通のあのギルゴマの耳の入っていないはずはない。
しかし、その情報通のギルゴマでさえ、噂程度でしか認識をしていなかった…
「とりあえず、ナディアさん達からの新しい情報もありますから、人攫い達が人を攫っている場所を中心に、捜索してみましょう」
考え込んでいた俺の肩にそっと手を置き、優しく微笑みかけてくれるリーゼロッテ。
「…そうだね。リーゼロッテの言う通り、ナディア達から教えて貰った場所を中心に捜索しようか」
俺の言葉に頷く一同は、ナディア達が教えてくれた、人攫い達が良く人を攫っていると言う場所を中心に捜索を始める。
マルガやルナには警戒LVを上げて貰っている。
マルガとルナは、そのちっちゃな耳をプクピクと動かし、辺りの音を注意深く探ってくれている。
マルガの足元を歩くルナは、まるでマルガの親衛隊の様にキリッと言った感じで得意げに歩いていた。
「ご主人様~。ここにも人攫い達はいない様ですね~。ルナも特にそれっぽい気配は感じないと言っているのです~」
「みたいだね。…別の場所を捜索してみようか」
俺の言葉に、ヴェッキオの地図を広げてくれるリーゼロッテ。
皆でその地図を見ながら、印のつけられた場所を中心に捜索をして行く。
結構な時間が経って、今日の捜索の場所も、後1箇所位見て回れる位にまでになっていた。
今日も何も情報が得られなかった事に、若干の悔しさを感じながら、地図を覗きこむ。
「…今日はもう時間もないから、後1箇所見て回ったら、教会でマリアネラさん達と合流して報告をしよう」
「では、いつもの教会に程近い、この場所を捜索してみてはどうでしょうか葵さん?」
そう言って地図を指さすリーゼロッテ。
その場所はジェラードの教会から程近い場所にある十字路だった。
十字路を右に行けば娼館があり、北に行けば旅人の憩いの場である酒場街がある。
酒を飲んだ冒険者や旅人達が、酔に任せて女を買いに娼館に向かうのに良く通るであろうと伺える場所だ。
理由は解らないが、人攫い達はこの郊外町に新しく来た人を中心に攫っている可能性もある。
その予想が正しいなら、この十字路は人攫い達の格好の場所だとも言える。
「そうだね。この十字路なら教会にも近いしいいね。今日はこの十字路を最後に捜索して、いつもの教会に向かおうか」
俺の言葉に頷く一同は十字路に向かう。
その途中も道行く荷馬車に気を配りながら、十字路にさしかかろうとした時に、警戒LVを上げていたマルガが声高に叫ぶ。
「ご主人様!十字路の方から、微かな人の悲鳴が聞こえます!」
「解った!皆武器を装備して!十字路に急ぐよ!」
俺達はそれぞれに装備を整え、全力で十字路に向かって走る。
そして、十字路に入った時、数人の男が人を攫おうと襲いかかろうとしていた所であった。
「その人達を離すのです!」
威勢よく言い放ったマルガの言葉に、人攫い達がこちらに振り向く。
その一瞬の隙を突いて、人攫いに捕まっていた一人の女性が、こちらに向かって駈け出した。
当然、ソレを見逃すはずのない人攫いは、瞬時に間合いを詰めて、短剣を振りかぶり女性に襲いかかる。
『ギャリリリン!』
火花を散らしながら、金属が激しく撃ち合う音が十字路に響き渡る。
ソレは人攫いの短剣での一撃を、俺の名剣フラガラッハで受け止めた音であった。
俺と人攫いが鍔迫り合いをしているのを見て、俺の背中に回り込みギュッと俺の背中にしがみつく女性。余程恐怖を感じているのか、震えながら余りに強く俺に抱きつく女性に、動きを鈍らせられる。
「マルガ!リーゼロッテ!マルコ!お願い!」
俺の叫びに、跳躍して俺の所に来るマルガにマルコ。
「やあああああ!」
「たあああああ!」
マルガにマルコは気合の声を上げながら、俺と鍔迫り合いをしている人攫いめがけて、大熊猫の双爪と魔法銀のクリスで斬りつける。
それを跳躍してすんでで躱す人攫いの男。しかし着地地点を予測した、リーゼロッテの召喚武器、2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーが、隠し腕の双剣で人攫いの男に襲いかかる。
『ギャリン!ギャギン!』
激しい音をさせて、ローズマリーとブラッディーマリーの隠し腕の双剣は弾かれた。
それは他の人攫いの男達が、ローズマリーとブラッディーマリーの双剣を、弾き飛ばした音であった。
俺達と人攫いの男達は少し距離を取り身構え様子を伺っている。
「皆隊列を組んで!」
俺の言葉に、いつもの隊列を組む俺達。
「もう怖がる事はありませんから、葵さんの背中から離れて下さい。じゃないと戦えませんから」
リーゼロッテは震えながら俺にしがみつく女性に優しく語りかける。
そのリーゼロッテの優しい微笑みと声に我を取り戻した女性は、俺の背中から両手を離す。
そして、リーゼロッテは女性を最後列である自分の後ろに回す。
「貴方達の目的は何なのですか!人を攫って…一体どうしようと言うのですか!」
マルガは大熊猫の双爪を構えながら、人攫いの男達に叫ぶが、その答えは返っては来なかった。
「当然素直に教えてくれるはずはありませんわね。…葵さんお願いします」
俺の後ろからのリーゼロッテの言葉に、俺は人攫いの男達を霊視する。
「LVの高い順から…LV60ソリッドファイター、LV54、LV53のマジックスカウトが2人、そして最後はLV50 のハイプリーストが1人の計4人!」
俺の霊視をした敵の情報を聞いた、マルガ、リーゼロッテ、マルコの表情が強張る。
俺達の平均LVは約33。中級者と言った所だ。
いかに港町パージロレンツォで連携の特訓をして、ラフィアスの廻廊でLVを上げたと言っても、この人攫い達とまともに集団戦を行うのには無理がある。
俺がどうしようか思案していた時、人攫いの集団が一斉に跳躍を始める。
俺達はソレに身構え、攻撃に備えていると、予想もしていなかった所から呻き声が上がる。
「ぐふうう…」
僅かな悲鳴に近い声を上げて、人攫い達の刃にかかる、郊外町の住人。
そこには人攫い達の狂刃に掛かって、一刀のもとに斬り殺された、5人の男女の死体が転がっていた。
夥しい血を流し、絶命している郊外町の住人を見て、ギュッと唇を噛むマルガとマルコ。
「な…なんて酷い事を!」
「何の罪もない人を…殺しちゃうなんて!」
マルガにマルコがその瞳に怒りの炎を燃やしている。その中で、冷静にソレを見ていたリーゼロッテが静かに口を開く
「…不味いですね葵さん。この人攫い達は、かなり訓練されています。私達よりLVも高いです。恐らく集団戦で戦う事も訓練されている様に見えます」
リーゼロッテは表情をきつくしながら言う。
リーゼロッテの言う通りだ。
俺達より先に郊外町の住人を殺したのは、目撃者を確実に殺す為であろう。俺達と戦闘が始まれば、その間に目撃者に逃げられるかもしれない。
俺達の戦闘の構えから大体の戦闘LVを判断し、自分達の方が上であると一瞬で判断して、先に殺したのだ。
その判断や、一瞬でソレを行動に移せるのは、常に訓練をして、パーティーのリーダーが統率している証拠…
「…集合場所の教会まで後退戦をする!こっちには女性も居る。守りながら戦うのは無理がありすぎる!教会まで逃げるよ皆!」
俺の言葉に、敵を見ながら教会に向かって走りだす俺達。
先頭は女性の手を引きながら、リーゼロッテが走って行く。ソレを守る様にして、俺達も走りだした。
当然、人攫いのパーティーが黙って逃走を許してくれるはずは無かった。
瞬く間に間合いを詰めて、襲い掛かってくる人攫いのパーティー。
その内の1人が、先頭を走るリーゼロッテ目掛けてロングソードを振り下ろす。
「そうはさせません!エアムーブ!」
そう叫んだマルガの身体が、黄緑色の風の様なものを纏う。
風の移動強化魔法のエアムーブの効果により、気戦術クラスの素早さでリーゼロッテに振り下ろされているロングソードを、大熊猫の双爪で弾き返すマルガ。激しい金属音をさせ、火花を散らしている。
マルガと鍔迫り合いをしている人攫いの男に、黒金のスローイングダガーを投擲するマルコ。
その投擲を他の男が短剣で弾き、そのままマルコに斬りかかる。
「俺の事も忘れないで欲しいね!」
俺はそう叫びながら、マルコに斬りかかろうとする男に、名剣フラガラッハを振り下ろす。
それに気がついた人攫いの男は、マルコを蹴り飛ばし、後方に跳躍して躱す。
俺はマルコを起こし、体制を整えさせる。
「マルコ大丈夫!?」
「う…うん!腹を蹴られただけだからなんとか…」
少しむせているマルコは魔法銀のクリスの切っ先を、人攫いのパーティーに向けて身構え直す。
それを見て、少し気に食わなさそうな目をしていた、人攫いの男の1人の手の平が光りだす。
「ファイアーボール!!」
勢い良く放たれた火属性の魔法は、鍔迫り合いをしているマルガに向かって一直線に飛んでいく。
動きの取れないマルガはそれに気がついて、顔を歪ませるが、ファイアーボールがマルガを直撃する事は無かった。
「ウインドウブレード!!」
リーゼロッテの召喚武器、2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーから放たれた、風属性の魔法が、火属性のファイアーボールを切り裂き消滅させたからであった。
それを見たマルガと鍔迫り合いをしていた男は、マルガから離れ、自分のパーティーに戻って隊列を組み直していた。
「リーゼロッテさんありがとうございます!」
「無事で良かったですわマルガさん。唱えられた魔法が風属性に弱い火属性で良かったですわ。私は風と土属性の魔法しか使えませんからね」
そう言って微笑むリーゼロッテ。
「とりあえず逃げるよ!教会までもう少しだ!」
俺の言葉に、一斉に走り出す一同。
そんな俺達を見て、マジックスカウトの2人の男とハイプリーストが魔法を放つ。
「ファイアーボール!!」
「アースクラッシュ!」
「ライトボール!!」
先程魔法で消されたのを瞬時で理解しているのであろう3人のマジックスカウト達は、別々の属性の魔法を唱える。これでは属性の強弱関係で消し去る事は難しい。
だが、そんな俺達の最後尾を走るマルコは不敵な笑みを浮かべる。
『バシュウウウウンン!!』
圧縮した空気が放出される様な音がすると、放たれた3つの違う属性の魔法は、あらぬ方向に弾き飛ばされる。
それは、Aランクのマジックアイテムである、マルコの風妖精のバックラーの効果であった。
「それ位の魔法なんか、この風妖精のバックラーには効かないよ!!」
マルコが風妖精のバックラーで魔法を弾き飛ばしたのを見て、驚きの表情をする人攫いのパーティー。
「流石マルコ!良い判断だね!さあ!走るよ!」
俺の声に嬉しそうなマルコは、魔法攻撃を弾きながら教会に向かって走りだす。
魔法攻撃は強いが、上位の魔法を使おうとすれば、長く詠唱が掛かる。
この様な移動しながらの闘いでは、素早く詠唱の出来る、下位の攻撃魔法が良く使われる。
しかし、下位の魔法攻撃は全てマルコの風妖精のバックラーにより弾き飛ばされる。
それに業を煮やした人攫いの中の1人が、高速でマルコに跳躍する。
フェイントを入れながら迫るマジックスカウトの短剣が、マルコに振り下ろされる。
何とか魔法銀のクリスでその斬撃を受け止めたマルコの腹に、3発の拳をめり込ませるマジックスカウト。
マルコはその衝撃に弾き飛ばされ、地面で蹲る。そこにマジックスカウトの追撃が迫る。
「マルコさんはやらせません!」
リーゼロッテの叫びとともに、2体の人形ローズマリーとブラッディーマリーが隠し腕の双剣で斬りつけるが、それを紙一重で躱しマルコに迫る。
「しつこいね!マルコはやらせないって言ったろ!」
俺は叫びながら名剣フラガラッハで、マジックスカウトの短剣を弾く。
俺と鍔迫り合いをしているマジックスカウトの後方から、リーゼロッテの2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーが高速で切りつけた。
それを感じたマジックスカウトは咄嗟に距離を取ろうと離れた瞬間であった。
乾いた爆発音の様な音が辺りに鳴り響く。
「迦楼羅流銃剣術、虎砲三弾!」
一瞬で左手に召喚された銃剣拳銃グリムリッパーから、通常より3倍程威力の高い魔法弾が放たれる。
予想外の魔法の詠唱と比べ物にならない早さの魔法弾に、身体を撃ちぬかれるマジックスカウトは、大きな風穴を3つ空けて、大量の血を流しながら地面に崩れ去る。
人攫いのパーティーは、マジックスカウトの体に隠れて銃剣拳銃のグリムリッパーが見えなかったであろう。驚きの表情で俺を見ていた。
当然、それも計算して、グリムリッパーを使っている。このSランクの召喚武器、銃剣2丁拳銃グリムリッパーを知られるのは良くない事だと解っているからだ。
俺は瞬時にグリムリッパーの召喚を解除して、皆に向き直ろうとした時だった。
死亡したマジックスカウトの左手が光り出し、激しい炎が死体を包み込み、一瞬で死体を焼いて、全てを炭にしてしまった。
それを見てゾッとした様な顔をしている、マルガにマルコ。
「皆!もうすぐ教会だ!急ぐよ!」
俺の言葉に我を取り戻したマルガにマルコは、全力で教会に向かって走り出す。
自分達より戦闘LVが低いと思っていた俺に、一瞬で仲間がやられたのを見ている人攫いたちのパーティーは、斬り込んで来る事は無く、遠距離から魔法で攻撃を始めるが、マルコの風妖精のバックラーの効果の前に、全て防がれていた。
警戒して攻撃の和らいだ事もあって、俺達は教会のある広場まで逃げてこれた。
「さあ、この教会の中に入って下さい」
連れてきた女性を教会の中に入れるリーゼロッテ。女性は戸惑いながらも教会の中に入って行く。
そして教会を背に、俺達と人攫いのパーティーは向かい合って対峙する。
「どうしますか葵さん?1人倒したとはいえ、この3人を相手にするのは…」
俺の後方で身構えているリーゼロッテが言葉尻をすぼめる。
…確かに、この3人相手でも、今の俺達で相手をするのにはキツイ。
いかに皆がAランクのマジックアイテムを装備しているとは言え、LV差を埋めれる程には至っていない。
ここは…名剣フラガラッハから、銃剣2丁拳銃グリムリッパーに切り替えて、一気に片をつけるべきか…
俺はそう思い、名剣フラガラッハを鞘にしまおうとした時だった。少し離れた屋根の上から声がする。
「なんだい、戦闘の気配を感じて来てみれば葵達じゃないか。中々楽しそうだね~私達も仲間に入れてくれるかい?」
その声に皆が振り向くと、ニヤッと口元を上げ不敵に笑っているマリアネラの姿があった。
「マリアネラさん!」
嬉しそうに叫ぶマルガの顔を見て、フフッと優しく微笑むマリアネラ。
「…この教会の近くで事を起こすなんて良い度胸だねお前達…覚悟は…出来てるんだろうね!!」
そう叫んだマリアネラは一瞬で人攫いのパーティーに間合いを詰める。
高速で迫るマリアネラはフェイントを織り交ぜながら、1番LVの高いソリッドファイターに斬りかかる。
マリアネラの高速の剣技に押されるソリッドファイターを支援すべく、マジックスカウトがマリアネラに斬りかかろうとした時、後方から魔力を感じた。
「マリアネラはやらせん!ウォーターブレス!!!」
ワーリザードのゴグレグが、マリアネラに斬りかかろうとするマジックスカウト目掛けて、全力のブレスを吐き出した。
以前見たものとは比べ物にならない威力の無数の水の玉が、マジックスカウトに襲いかかる。
そのブレスをまともに受けたマジックスカウトは、体中を水の玉で撃ちぬかれ絶命する。
それを見た人攫いのリーダーであろうソリッドファイターは、胸から何かを取り出し地面に投げつけた。
その瞬間、大きな音と同時に大量の煙が発生し、周囲の視界が閉ざされる。
俺達は身構えながら身を守っていると、徐々に煙が消え去り視界が戻って来た。
そこには人攫いの姿はなく、少し呆れた顔をしながら頭をかいているマリアネラの姿があった。
「…ッチ、撤退用の煙玉か…まんまと逃げられちまったね。マルガは何か気配を感じるかい?」
「…いえダメですマリアネラさん。さっきの玉が破裂した時に出た大きな音のせいで、耳が上手く聞こえません」
そう言って金色の毛並みの良い尻尾をすぼめ、シュンとしているマルガ。
そんなマルガの傍に近寄り優しく頭を撫でるマリアネラ。
「…そうかい、それなら仕方ないね。私達も気配を感じないし、もう奴らを探すのは難しいね。とりあえず戦闘も終わった様だし、教会の中に入って話でもしようかい」
マリアネラの言葉に頷く俺達は、教会の中に入っていくのであった。
教会の中に入った俺達は、マリアネラが入れてくれた紅茶を飲んでいた。
その紅茶を飲みなながら、皆が落ち着きを取り戻したのをみたマリアネラが、軽く貯め息を吐きながら
「しかし、危なかったね。私達の居ない所で、上級の人攫い達に出くわすなんて」
「…そうですね。マリアネラさん達が来てくれて助かりましたよ。こっちは人攫い達を1人倒すのがやっとでしたからね」
俺が紅茶を飲みながら苦笑いしていると、ヒュ~と口を鳴らすマリアネラ
「上級の奴を1人倒したのかい!?大成果じゃないか!葵達もなかなかやるね。流石はルチア王女の専任商人ご一行って所かい?」
微笑みながらのマリアネラの言葉に、嬉しそうにしているマルガとマルコ。
「所で、この女性は誰なんだい?葵たちの仲間かい?」
そう言って紅茶を飲みながら、先程俺達が助けた女性に目を向けるマリアネラ。
落ち着きを取り戻し紅茶を飲んでいた女性が、俺達に向き直る。
「この女性は、人攫い達に攫われそうになったのを助けたのです」
「そうかい。良かったね攫われずに済んで」
「はい!助けて頂いて有難う御座います!」
女性は飲んでいた紅茶を椅子に置き、立ち上がって深々と頭を下げている。
「マリアネラさん、今迄人攫いから助けた人は、どうなさっているのですか?」
「うん?どうって言うと?」
「はい、あの人攫い達は、自分達の情報を残さない様に、マジックアイテムで自らを燃やしてしまう様な者達。しかも、今迄目撃者は全て殺しています。ですから、マリアネラさんが今迄助けた人達は、その後どうなったのかと思いまして」
リーゼロッテの問に紅茶を飲んでいるマリアネラが、そのカップを椅子に置く。
「…正直、その後どうなったのかは解らないんだ。私達が助けた人達は、一応安全を考えてこの町からすぐに出る様に言って来た。この郊外町に住む者の大半は市民権を持っていない。騎士団や守備隊に助けて貰う事が出来ないからね。私達もずっと見ている訳には…いかないからね」
「…なるほど。ひょっとしたら…後で始末されている可能性もあると…」
リーゼロッテの言葉に、寂しそうに頷くマリアネラを見て、話を聞いていた女性の顔が蒼白になる。
そして、悲壮な面持ちで走り寄ってきた女性は、俺の足にしがみつく。
「お願いです!私を助けて下さい!私はお金もないので、この町から出る事も出来ません!このままじゃ…殺されてしまう…お願いです!なんでもしますから、私を助けて下さい!」
泣きながら俺の足にしがみつく女性。
俺が戸惑っていると、マルガとマルコが俺の傍に近寄ってくる。
「ご主人様…何とかならないのですか?」
「この町から出れないなら、本当に殺されちゃうかもしれないよ葵兄ちゃん!」
マルガとマルコは瞳を揺らしながら俺を見つめている。
ムウウ…どうしよう。
本音を言うなら、余計なお金を使いたくは無いのだけど…
こんな真っ直ぐに俺を見つめるマルガヤマルコを、無下に出来る様な事は…俺には出来きません!
まあ…レリアとエマにはやって貰いたい事があるし、ステラ、ミーア、シノンにもやって貰いたい事がある。あの大きな宿舎を見て貰う人が必要になる…か。
「解ったよマルガにマルコ。この女性を俺達の宿舎のメイドさんと言う事で雇って住んで貰う。それなら安全だし、生活も出来る。それでいいかな?」
俺の苦笑いしながらの言葉に、表情を明るくするマルガにマルコ。
「貴女もそれで良いですか?住む所と食費は僕が見ます。仕事の内容は、主に僕達が住んでいる宿舎の清掃や雑用。お給金はまた相談しましょう。どうですか?」
「はい!それでお願いします!宜しくお願いします!」
女性は泣きながら俺の足にしがみつき、何度も頭を下げる。俺は女性を抱え上げ、指で涙を拭いてあげる。
「では自己紹介でもしましょうか、俺は商人をしています葵 空と言います。貴女は何と言う名前なのですか?」
「私はユーダと言います!歳は25歳です!宜しくお願いします!」
そう言って深々と頭を下げるユーダに、マルガとマルコガ近寄る。
「私はマルガです!良かったですねユーダさん!」
「オイラはマルコ!よろしくねユーダさん!」
「はい!よろしくお願いしますマルガさんにマルコさん!」
嬉しそうにマルガとマルコに挨拶をしているユーダ。
そんな3人をフフと笑いながら見つめているリーゼロッテが、俺の傍に来て腕を組む。
「余計な経費をかけちゃったかなリーゼロッテ?」
「…いえ、いずれ宿舎の管理をしてくれる方を雇わねばと思っていましたので、丁度良かったと思います」
「そう、なら良かった。…何か嬉しそうだねリーゼロッテ?」
「そうですか?」
嬉しそうに金色の透き通る様な瞳を俺に向け、腕組みをしているリーゼロッテの頭を優しく撫でる。
「どうやら話はまとまった様だね。今日はユーダさんも居るから私達が王都の中まで護衛してやるよ」
「それは心強いですね。…あ…そう言えば今日の報告がまだでしたね」
俺は今日ナディア達から教えて貰った情報をマリアネラ達に伝える。
「…なるほどねえ。人攫い達は日時を変えて大体同じ場所でね…。新しく来た人を中心に攫っている…か」
「まあ、可能性の話ですけどね。確証はありませんが…」
「まあね。でも今日だって、この地図に書かれた所を捜索して、あいつらに行き当たったんだろ?成果じゃないか」
「情報は何も得られませんでしたけどね」
苦笑いしている俺を見て、フフと笑うマリアネラ。
その時、教会の扉が開かれ、1人の男が教会に入ってきた。
「やっと帰ってきたみたいだねジェラード。どこに行ってたんだい?」
「少し用事がありましてね。これでも私はヴィンデミア教の司祭なのです。意外と忙しいのですよ?」
人差し指を立てながら得意げに言うジェラードに、マルコもマルガもアハハと笑っている。
「所でこちらの女性は?」
「ああ、ユーダさんは…」
マリアネラがさっき迄の事をジェラードに説明してくれる。それを聞いたジェラードは微笑みながら
「良かったですねユーダさん。きっと女神アストライア様のお導きです」
「はい!有難う御座います!ジェラード神父!」
嬉しそうに言うユーダに、ウンウンと頷いているジェラード。
「じゃ~私達は葵たちを送ってくるよ。後でまたここに戻ってくるねジェラード」
「解りました。マリアネラも無理をしないでくださいね?」
「わ…解ってるって!」
気恥ずかしそうに言うマリアネラに、優しく微笑むジェラード。マルガとマルコも嬉しそうに2人を見つめていた。
「行くよ葵!」
俺達はマリアネラに護衛されながら、宿舎に戻っていった。
マリアネラ達に護衛して貰って宿舎に戻って来た。
途中で襲われる事もなく戻ってこれた事に若干安堵していた。
マリアネラ達と挨拶をして別れ、宿舎の中に入り寛ぎの間に向かうと、皆の楽しげな声が聞こえてきた。
「何か楽しそうだね皆」
「あ!葵お兄ちゃん!おかえりなさい~!」
「おかえりなさい葵さん」
「「「葵様おかえりなさいませ!!」」」
エマが元気一杯に笑顔で迎えてくれる。レリアやステラ、ミーア、シノンも満面の笑みで俺達を迎えてくれる。その中で若干1名だけが、ムスッした雰囲気を醸し出していた。
「…ルチア来てたんだ」
「…何よ?…来てたら…悪いの?」
かなり不機嫌な声で返事をするルチアが俺に振り向く。
何故か解らないが、両頬をプクッと膨らませていた。
ありゃりゃ?お拗ねになられているんですね。解ります。
…ムウウ…何故、ルチアは拗ねているんだろう?
…俺…何かしたかな…
俺がそんな疑問感じ、心当たりを探していると、俺の隣に静かに近寄ってきたマティアスが俺に耳打ちをする。
「…葵殿。少し前に…皆さんで湖水浴に出かけられませんでしたか?」
「あ、うん行ったよ。それがどうかしたの?」
「…その湖水浴にルチア様をお誘いになられて居ないでしょう?…ですから…」
「ええ!?…だって…ルチアはフィンラルディア王国の王女様ですよ?そんな簡単に…普通の人が泳ぐ所なんかに誘えないですよ?」
俺の言葉を聞いて、軽く貯め息を吐くマティアス。
「…普通なら葵殿の言う通りでしょう。…ですが、相手はルチア様なのです」
「マティアス~何をコソコソと話をしてるのかしら~?」
両頬をプクッと膨らませているルチアの言葉に、苦笑いをするマティアス。
「はあ~いいわよね~どこかの誰かさんは皆と湖水浴に行っちゃって。私を差し置いて、皆で楽しむなんて…随分と偉くなったものよね~。…何か全部どうでも良くなって来ちゃったわ…」
エマを膝の上に抱き、エマの髪の毛をイジイジとしているルチア。エマはそれがこそばゆいのか、キャキャとはしゃいで楽しそうにしている。ルチアのその言葉を聞いた皆が、俺に一斉に振り向く。
え…何この視線…
オラに一体何を期待して居るのですか皆さん?
特にマルガちゃんとマルコちゃん!その『解ってますよね?』的な熱い視線は何ですか?
うは!ルナちゃんまで俺に熱い視線を送ってる!
…ムウウ。ここはやっぱりオラがなんとかするしかないのですね。解ります。
「…ねえルチア」
返事はない!只の幼女の髪をイジイジしている銅像の様だ!
いあいあ銅像は幼女の髪をイジイジしたりはしない。てか銅像でもない。
のけ者にされて拗ねている、超美少女の王女様だから。
「…可愛くて清楚なルチアさん」
「…何?何か用?」
頬をプックプクに膨らませているルチアが、不機嫌に返事をする。
コイツは本当に可愛いとか清楚とか言う言葉が好きだな!
…まあ…可愛いのは認めるけど!…クヤチイ…
「今度さ皆でまた湖水浴にでも出かけようと思うんだけど、是非ルチアにも来て欲しくてさ」
苦笑いしながらの俺の言葉に、一瞬、物凄く瞳を輝かせたルチアは、すぐにその輝きを潜める。
「…私に来て欲しいの?」
「うん!やっぱり綺麗な湖には、美女が似合うからさ!ルチアが来てくれたら皆も喜ぶし!」
「…ホントにホント?…嘘ついたら、二度とロープノール大湖から出さないわよ?」
なるほど!そして、人魚姫伝説ならぬ、人魚男伝説が始まるのですね!
「うん!俺達と一緒に湖水浴に行こうルチア!」
その言葉を聞いたルチアはガバッと立ち上がり、腰に手を当て
「仕方ないわね!貴方がそこまで言うなら湖水浴に行ってあげるわ!感謝しなさいよね!」
ドヤ顔でアハハと高笑いをするルチアを見て、マルガもマルコも嬉しそうに笑っている。
「やった~!またこすいよくに行けるんだ~!」
「そうよエマ!一杯楽しみましょうね~!」
エマを抱きながら嬉しそうなルチア。
あんなに嬉しそうな顔しちゃって。
…本当に素直じゃないんだからルチアは。
俺がそんな感じで苦笑いしていると、ステラがクスクスと笑いながら紅茶を入れてくれた。
とりあえず落ち着いて皆が座って紅茶を飲んでいると、当然の様にルチアがその人物を発見する。
「…所で葵、この女性はどちらなの?…貴方…また…」
「ち…違うよ!色々合って、この宿舎の管理と雑務をして貰う為に雇ったメイドさんなの!」
俺の必死の訴えに、まだ懐疑的な視線を俺に向けているルチア。
「何よ色々って?」
「いやさ、ルチアは覚えていると思うけど、俺達が冒険者ギルドから2階級特進の試験を受けれるってのがあったろ?」
「ああ~あのラフィアスの回廊の時のやつね。それがどうかしたの?」
「今その件で、冒険者ギルドから依頼を受けているんだ」
「へ~そうなの。どんな依頼なの?」
ルチアは興味があったのか俺に聞き返してくる。俺は今受けている依頼の内容を話す。
するとルチアは飲んでいた紅茶をプーッと吹き出す。
「ゴホゴホ!」
「だ…大丈夫ルチア?」
珍しく粗相をするルチアを不思議に思いながら、口を拭くナプキンの様な布をルチアに渡すと、それで口を拭いているルチア。
「どうしたのルチア?」
「な…なんでもないわよ!…それより、依頼の話をもっと聞かせて頂戴」
少し真剣な目をするルチアを不思議に思いながら、今まであった事を含め、ルチアに依頼の話を説明する。
落ち着きを取り戻したルチアは、再度紅茶を飲みながら、テーブルの上で指をトントンとさせて何かを考えて居る様であった。
「…そんな事がね。なるほど…」
「まあまだ、調査中だから、なんとも言えないけどね。解らな事や疑問も多いし」
「…だけど…何か危険そうな依頼だし、他のに変えて貰えば?」
「でも、報酬が良いからね。危険を感じた時は、手を引いても良いみたいだし」
「…そう」
小声でそういったルチアは、何かを考えながら紅茶を飲んでいる。
「まあ郊外町での事は色々あるしね。元々不法者が集まる町って言う位置づけだし」
そのルチアの言葉を聞いたマルガが、ルチアに近寄る。
「それは解るのですが…フィンラルディア王国として、郊外町に住む人を、安全に暮らせる様には出来ないのですかルチアさん?」
綺麗なライトグリーンの瞳を、少し揺らしながらルチアに語るマルガ。
そんなマルガの頭を優しく撫でるルチア。
「…フィンラルディア王国、いえ…お母様も郊外町に住む人達には心を痛めてられるわ。それで、少しでも郊外町に住む人々を救う為に、多額の国費を割いて居たりもするの。最初は貴族にも猛反発されていたけど、お母様が話をして、議会で承認されてもいるのよ。それでも、数多く住む、郊外町の人々を救いきれて居ないのが現状なのよ…」
寂しそうに言うルチアの表情を見て、更に瞳を揺らすマルガ。
「でもお母様は、それで諦めた訳じゃないわ。郊外町の人々を救うべく新たに議案を議会に提出したの」
「それはどんな議案なのですかルチアさん?」
「…下級市民制度よエルフちゃん」
「下級市民制度?」
ルチアの言葉に、少し首を傾げるリーゼロッテ。
「そう下級市民制度。簡単に言えば、今の国民を税金の支払いによって、上級市民と下級市民に分けて扱うって事ね。今の郊外町に住む人達は、無法者扱いで、法的には何も守られては居ないわ。だから、殺されたりしても、郊外町の人なら罪に問われない。税金を支払っていないから、市民権が無い状態だからね。平たく言うと、郊外町の人々は国民扱いじゃないのよ。非国民。だから、郊外町の事は、バミューダ旅団の様な奴らに管理して貰って、その許可と引換に、税の取り立てをして貰っているのが現状なの。お母様はそれを変えたいのよ。すべての人を国民として扱い、法の下で保護する。そうすれば大手を振って郊外町の人々を守れるからね」
「…なるほど、ですがその下級市民制度も色々と問題があるのでは?…例えば…差別とか…」
ルチアの説明にリーゼロッテが質問を投げかける。
確かにアウロラ女王の気持は解るけど、リーゼロッテが言う様に、全ての国民を上級市民と下級市民に分けると、きっと差別が始まるであろう。
それは地球の歴史が物語っている。島国の同一民族国家である日本でさえ、その差別はあった。
今も傷跡を深く残す差別が…
「それはエルフちゃんの言う通りよ。でも、今の郊外町に住む人を救うには、まずフィンラルディア王国の国民であると認定しなければならないのよ。それが出来て始めて国として手を差し伸べれるの…」
寂しそうな表情のルチアを見て、リーゼロッテもその金色の透き通る様な瞳を揺らす。
そりゃそうだ。
自国の民でもない者を救おうとする国など、この世界には存在しないであろう。
地球でさえ色々と有る問題なのだ。
確かに地球では救おうと言う動きが有るのは確かだが、それは国同士の外交としての策略も噛んでいる。心からその国を救おうとする国など、どれほど有るのか…
「…すいませんでしたルチアさん」
「いいのよエルフちゃん。エルフちゃんの言ってる事も、尤もな事だもの。色々と問題のある下級市民制度だけど、現状これ以上の、郊外町に何かを出来る案は存在しないのは確かな事よ。お母様もきっと…その事を解っていらっしゃるわ…」
大国フィンラルディアの国政の頂点に立つアウロラ女王…
善王と言われ支持の高いアウロラ女王…か。
「でも、他の貴族とかには反対されていないの?」
「勿論猛反対している貴族は居るわ。数年前に、郊外町の人を救う為に、国費の一部を割く事を、強引に承認させた事もあるしね。その時は、渋々他の貴族も納得したけど、今回は…ね」
「そうなのですか…どの貴族が反対されているのですか?」
ステラがルチアに紅茶を入れながら質問する。
「えっとねオオカミちゃん。まずお母様の議案に賛成してくれているのは、バルテルミー侯爵家とハプスブルグ伯爵家。反対しているのが、クレーメンス公爵家とビンダーナーゲル伯爵家。アーベントロート候爵とモンランベール伯爵家はまだどちらの立場を示すかは、解らない。お母様、女王も1票の議決権があるわ。他の議決権を持つ六貴族のうち、3つの貴族が賛成してくれれば議案を通せるのだけどね…それが難しいのよ」
ステラにそう説明するルチア。残念そうにしているマルガにマルコ。
フィンラルディア王国の国政を支える、強大な権力を持った六貴族にも派閥がある。
その力関係もあるし、様々な諸事情もある。一筋縄では行かないのが普通か…
「…ま、この話はここまでにしましょう。葵も十分に注意して依頼をするのよ?」
「解ってるよルチア…ありがとう」
俺の言葉に、、フンと鼻を鳴らすルチア。
「じゃ~2日後に湖水浴に行くから!馬車で迎えに来るから、きちんと準備してなさいよね!」
嬉しそうに言うルチアに皆が喜んでいる。
俺は、その光景を見ながら、少し癒されているのであった。
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