愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 39 謎と疑問

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バルタザールとの面会を済ませた俺達は、屋敷の外の出てきていた。

真夏の太陽の眩しさに少し目を細め、手を庇がわりにしながら館から離れると、俺達に走り寄ってくる小さな者が居た。



「…良く無事に…出てこれたね空…」

それは薄汚れた服を身に纏った、少し驚きの表情を浮かべている、汚い少年の様な少女ナディアであった。



「…まあ、少し話をしに行っただけだからね。それに、知り合いの書状もあったから」

「…そう…なるほど…」

小さく呟く様に言ったナディアは、俺に少しきつい目を向けていた。



「所で、帰らずに俺の事待っててくれたんだねナディア。嬉しいよ」

「…だって…まだ今日の仕事の報酬を…貰ってない…」

俺の微笑みながらの言葉に、気に食わなさそうな顔をするナディアは、ちっちゃな手を俺に差し出す。

俺はアイテムバッグから、約束の銅貨50枚を取り出しナディアに渡すと、それを腰につけている麻の袋にしっかりと入れている。



「…明日からは、昼過ぎに今日会った食堂屋の路地で待ち合わせでいいかな?」

「…解った」

コクッと頷いたナディアは、挨拶もせずにテテテと走って郊外町の中に消えて行った。

それを苦笑いしながら、顔を見合わせて見送っている俺とマルガ。



「…これからどうしますか葵さん?」

「そうだね…マリアネラさん達と合流するまで、予定通り情報を集めながら町を捜索しようか」

俺の言葉に頷く一同は、郊外町を捜索すべく歩き出す。



昨日とは違い、マルガもリーゼロッテも男装をして、帽子を深く被っているお陰で、人の視線も俺達には特に集まっていない様に感じる。

俺とマルコも、いつも行商に出る時の格好なので、パッと見は一介の冒険者の一行にしか見えないのもその理由の1つなのかもしれない。



汚く寂れた郊外町を見ながら、町を探索していく。

マルガやルナには、警戒LVを上げて貰っている。何か人の悲鳴や、襲われている気配を感じたならば、すぐに言って欲しいと打ち合わせしているのである。

マルガは半径200m、ルナは恐らくその倍近い範囲の気配をさぐれるので、悲鳴や戦闘、人が襲われていそうな気配を感じれば、すぐにその現場に駆けつける事が出来るだろう。



「しかし…ご主人様、本当に沢山の人が攫われているのでしょうか?」

「うん?何故そう思うの?」

「だって…人を攫ったはずなのに、その人達は消えちゃったみたいに…」

「そうだよね~マルガ姉ちゃん。オイラもそう思うよ」

マルガとマルコが顔を見合わせて、ね~と言い合いながら首を傾げている。



「マリアネラさんの情報は確かだと思いますから、余程用心深く人を攫っているのでしょう。ここに住んでいるナディアさん達も、1番怖い相手と言う位ですから」

「リーゼロッテの言う通りだね。警戒しながら、町を捜索してみよう」

俺の言葉に頷くマルガにマルコ。



俺達は周囲を警戒しながら、郊外町ヴェッキオを捜索して行く。

時に歩いている郊外町に住人や、何かの作業をしている人に聞いてはみるが、人攫いの事は知って入るが、皆が詳しくは知らないのが現状だった。



そして、郊外町を捜索して3刻(3時間)位した時であった。

マルガの横をトテテと歩いていた白銀キツネの子供、甘えん坊のルナが歩みを止める。

そのちっちゃな耳をピクピクと動かし、何かの音を聞いている様であった。

それを見たマルガが、レアスキルの動物の心で意思の疎通をすると、少し緊張した面持ちで俺を見る。



「…ご主人様!ルナが何かの悲鳴の様な声が聞こえたと言っています!」

「それはどの辺なのマルガ?」

「私は何も感じませんが…えっと…ここから東に行った所らしいです!」

ルナとレアスキルの動物の心で意思の疎通をしているマルガが言う。

マルガが何も感じないという事は、最低ここより200m離れていると言う事か…



「とりあえず、その場所に向かってみよう。皆武器を出して、装備しておいてね」

俺の言葉に頷くマルガにマルコは、アイテムバッグから武器を取り出し装備する。

そして、ルナの後について、その気配を感じた場所まで走っていく。先程の場所から350m位来た所で、数人の人が地面に倒れているのが見えた。俺達はその倒れている人達の傍に近寄る。



「…皆さん…殺されていますね…」

そう言って、顔を歪めるマルガ。その言葉にウンウンと頷き、同じ様に顔を歪めているマルコ。



「…恐らく…人攫いの現場にたまたま居合わせたのでしょう。口封じの為に殺されたと見れますね」

リーゼロッテも少し目を細めながら、その殺された人達を見ていた。



「マルガ、何か気配を感じる?敵の気配とか、攫われた人達の気配とか」

「…いえ、感じません。ルナも感じられないようです」

そう言いながら、可愛い耳をピクピクと動かしている、マルガとルナ。



ムウウ…先程の場所から、ここまで走ってくるのに、そう時間が経っている訳じゃないんだけどな…

その短い時間に、この目撃者達を殺して、人を攫って行ったって事か…

ひょっとしたら、まだこの辺に潜んでいるか、逃亡している最中かもしれないけど、ここは沢山の人が住む郊外町の内部。

悲鳴や叫び声はその中でも際立って気配を感じるけど、気配を消しながら、恐らく気絶させられているであろう攫われた人達を運ぶ、人攫い達の気配までは特定出来ないね…



マルガやルナは広範囲の感知は出来るけど、俺や周辺警戒のパッシブスキルを持つマルコの様に、詳しくは感知出来ない。沢山の人達の気配に紛れているであろう人攫い達の気配を、特定は出来ない。

俺やマルコはソレが出来るが、有効範囲は30m位。

俺やマルコが気配を感じていないという事は、周囲30mには居ないという事…



「…やはり、相手は人を攫う事に長けた集団ですわね葵さん。私達が到着する間に、目撃者達を一刀のもとに殺し、そして、攫った人を気絶させて気配を消し、攫って行ったのですから」

「リーゼロッテの言う通りだね。辺りは戦闘の後がそれほどない。一方的に人攫い達が事を成し遂げて行った事が解るしね」

俺の言葉に、辺りを見回して頷いているマルガにマルコ。



「…葵さんどうしますか?」

「そうだね…もうすぐマリアネラさん達との約束の時間だと思うから、合流場所に向かおうか。…ここには…何も残されて居ないみたいだしね」

人攫い達は当然の様に、この現場に何も情報を残しては居なかった。ソレを見ても手際の良さが伺える。



「…じゃ、行こうか」

俺の言葉に静かに頷くマルガにマルコ。

俺達はその場を後にして、マリアネラ達との待ち合わせである、郊外町ヴェッキオの東にあるジェラードが司祭を務める、ヴィンデミア教の教会に向かっていた。



そして、教会の傍に来てみると、沢山の人々が教会の周りで、何かを食べている。

俺達はソレを眺めながら教会の中に入って行くと、マリアネラ達が椅子に座り、ジェラードから紅茶を貰って飲んでいる所であった。

マリアネラは教会に入ってきた俺達に気が付き、ニコッと微笑む



「よう!葵!他の皆も!」

マリアネラ達に挨拶をする一同。



「教会の外に沢山の人がいましたが、あれはなんなのですか?」

「あれはこの教会に、施しの食べ物を貰いに来た人達です。先程、今日の分の施しを終えた所なのですよ」

そう言いながら、俺達に紅茶を入れてくれるジェラード。



「さっきまでは、もっと沢山の人が居たんだけどね。今日の分の施しが無くなったから、みんな何処かにいっちゃったみたいだけど」

紅茶を飲みながら言うマリアネラの言葉に頷くジェラード。



「…本当はヴィンデミア教を信仰する全ての人に、施しをしてあげたいのですが…予算にも限りがありますからね…」

そう言って寂しそうな顔をするジェラード。



「ジェラードさんは良く頑張ってられると思います!施しの食べ物を貰っている人も、きっとジェラードさんに感謝してると思うのです!」

「そうだよジェラードさん!他の人だって、今日は食べれなかったけど、明日は食べれるかもしれないんだしさ!マルガ姉ちゃんが言う通り、皆感謝してると思うよ!」

マルガとマルコの言葉を聞いて、優しい微笑みを浮かべるジェラード。

マルガとマルコはマリアネラに頭を撫でられながら、照れくさそうに微笑んでいた。



「この子達の言う通りだよジェラード。あんたが気にする事じゃないよ」

「…ありがとうマリアネラ。それに、マルガさんにマルコさん」

嬉しそうにしているマルガとマルコを見て、何かを思い出したジェラードは、上着のポケットから何かを取り出して、マルガとマルコの前に差し出した。



「あの…これは?」

「これは、ヴィンデミア教の神である、女神アストライアを模した木彫りの像です。マリアネラからマルガさんとマルコさんが欲しがっていると聞きましたので、私が作りました。これを、マルガさんとマルコさんに差し上げます。これは紐で結べるようになってましてね…これをこうやって…」

そう言って2つの木彫りの女神像を紐で通し、ネックレスの様にするジェラードは、それをマルガとマルコの首に優しくつけていく。



「良く似あってますよマルガさんにマルコさん」

「ありがとです!ジェラードさん!」

「オイラもありがとう!ジェラードさん!」

「良かったね!マルガにマルコ!」

「「はい!マリアネラさん!」」

マリアネラの言葉に嬉しそうに声を揃えて返事をするマルガにマルコは、首にかけて貰った女神アストライアの木彫りの像を互いに見せ合って、キャキャとはしゃいでいた。



「すいませんねジェラードさん。大切な女神像を貰っちゃって良かったのですか?」

「良いのですよ葵さん。女神アストライアは慈悲深い神であります。それに、心の真っ直ぐなマルガさんやマルコさんに持って貰えるのであれば、女神アストライアも喜ばれる事でしょう」

そう言うジェラードの優しい微笑みは、まるでどこかの美術館や聖堂に飾られている絵の様に、慈悲に満ち溢れていた。



地球でも宗教のせいで沢山の人が死んだりしている。

冷静に考えれば、宗教の事で殺し合うなど、なんて悲しく無駄な事だとすぐ解るのだが、それに盲目的にハマっている人達にはそれが解らない。まるで命より、宗教の教えの方が重いかの様に…

だが、全ての宗教を信仰している人が、その様な事を思っている訳ではない。

このジェラードの様に、人々の助けにその宗教を役立てている人も確かに居る。

その心を感じて、きっとマルガヤマルコもその小さな心を動かされているのだろう。

その気持ちを感じている様なマリアネラは、マルガとマルコの頭を優しく撫でながら、俺に振り向く。



「所で葵。今日の捜索はどうだった?」

「ええ…その件なのですが…」

俺はマリアネラの問に、さっき見た事を伝える。マリアネラは眉間にシワを寄せながら



「…そうかい、またやられちまったんだね。こっちは1つの集団を撃退したけど、もう1つは葵達と同じ様に、攫われた後だったね」

「マリアネラさんのパーティーの追跡も逃れる様な者達もいるのですね」

「…ここ最近の奴らは、LVの低い者を使っていないのかもしれないね。私達の事の力を知っている見たいで、やり方が上手く、巧妙になっている気がするね」

腕組みをしながら、考えているマリアネラ。



ここは身を隠す場所には事をかかない郊外町。

ひょっとしたら、上級者であるマリアネラ達の感知範囲外から、マリアネラ達の事を監視している奴らが居てもおかしくはない。



「奴らの情報が少ないのは、その手際の良さもあるけど、目撃者を残さない事もあるんだよね。現場には情報も残さないし…」

少し呆れながら言うマリアネラ。



「…なるほど…他に何か情報は無いのですかマリアネラさん?」

「今の所は無いねリーゼロッテ。あんた達の方はどうだった?」

マリアネラの言葉に、リーゼロッテがギルゴマさん達と話した内容を説明してくれる。



中堅の商会、リスボン商会の支店の長である情報通のギルゴマでさえ、それは噂程度でしか認識していなかった事。

王都ラーゼンシュルト周辺で、沢山の攫ってきたと予想される奴隷を、毎日大量に買って取引している様な奴隷商の噂はない等を、マリアネラに報告する。



「そうかい、あのリスボン商会の支店長でさえ、その情報は持っていないんだね…それに、奴隷商の情報もないか…」

腕組みをしながら考えているマリアネラ。



「リスボン商会のギルゴマ様ですか…。葵さんはギルゴマ様と面識が有るのですか?」

「葵さんはギルゴマさんの商売上での弟子なのですジェラードさん。なので色々懇意に協力して頂いているのです」

リーゼロッテの説明に、少し驚いているマリアネラとジェラード。



「ジェラードさんもギルゴマさんの事を知っているのですか?」

「はい。ギルゴマ様は、このヴィンデミア教の教会に寄付をしてくれている方ですからね。リスボン商会の支店の長になられてからは、度々この教会に寄付をしてくれているのですよ」

微笑みながら言うジェラード。



なるほど、リスボン商会はこの郊外町ヴェッキオでも商売をしている。

この郊外町ヴェッキオを実効支配している、バルタザールとも商売上での付き合いがあるみたいだし…

その郊外町で抵抗なく商売をする為の根回しとして、きっとこのヴィンデミア教の教会に寄付をしているのであろう。ヴィンデミア教はこの郊外町ヴェッキオでも、沢山の信者がいる。

それを見越しての…か。



「それから、この郊外町を支配している、バミューダ旅団の頭領、バルタザールにも会ってきたよ」

「え!?この郊外町ヴェッキオの支配者のバルタザールとかい!?…良く無事で帰って来れたね」

俺の言葉に、驚きながら呆れているマリアネラ。



「ギルゴマさんに紹介状を書いて貰いましたからね。葵さんはギルゴマさんの弟子であると同時に、ルチア王女様の専任商人でもあるのです。バルタザールさんも葵さんに対して、滅多なことは出来ないでしょう」

「なるほど…最近ルチア王女様に、新しい専任商人がついたって話は聞いていたけど…それが葵だったとはね…人は見かけによらないものだね~」

俺をマジマジと見つめて感心しているマリアネラに、苦笑いをしている俺



「…で、バルタザールに会って、何か情報は得られたのかい?」

「う~ん…どうだろう?」

俺はバルタザールとの面会での事を話す。初対面であった事に加えて、デリケートな話だっただけに、深くは突っ込めなかった事をマリアネラに告げる。



「…集団人攫いに関しては…バミューダ旅団は関わっていない…か。本当なのかね?」

「どうでしょうか?その真意は解りませんが、バルタザールさんはその人攫い達を『よそ者』と言っていました。それは、人攫いの集団が、この郊外町に住む者の仕業じゃないと言う事を、表していると思います。バミューダ旅団はこの郊外町を支配しています。何らかの情報を持っていたとしても、おかしくはありません」

リーゼロッテの説明に、ま~ねと言って頷くマリアネラ。



「そう言えばマリアネラさん、そのバミューダ旅団なんですが、その人攫い達に対して、何か対処をしているですか?」

「そうだね…バミューダ旅団の見回りは多く見かけるけど、まだ人攫い達と戦闘をしたって話は聞かないね。死体を処理したりはしているみたいだけどね」

顎に手を当て思い出しながら言うマリアネラの言葉に、若干の違和感を覚える俺。



ムウウ…これだけ沢山の人を攫われておいて、まだ人攫い達と戦闘をしていないのか…

マフィアの様な組織は、自分の縄張りを守るのが当たり前である。それは、自分たちの利益を守る事に繋がるからだ。

それなのに、よそ者の人攫い達を、血眼に探しまわるのでもなく、戦闘もしないか…



「まあ、私達でさえ、発見しにくい相手だからね。LVの低い奴の多い見回りクラスの奴らに、発見出来ていないだけかもしれないけどさ」

「マリアネラのさんの言う事も解りますが…何か少し…ひっかかりますね葵さん」

「…そうだねリーゼロッテ。バルタザールはバミューダ旅団の関与はないと言っていたけど、その真意は解らない。バミューダ旅団の事はギルゴマさんに言って、少し商売の方から調べて貰おうか。特に奴隷取引の件を中心に」

「…そうですね、それが良いかもしれませんね葵さん」

俺の言葉に頷いている、リーゼロッテとマリアネラ。マルガにマルコも頷いている。



「それからマリアネラさん。この依頼の依頼主なんですけど、今回は依頼主は明かされていないけど、マリアネラさんは依頼主の事を知ってたりします?」

「いや…私も依頼主の事は聞かされていないんだ。…この依頼はね、仕事を探している私達に、冒険者ギルド、王都ラーゼンシュルト支店の長、アベラルド支店長から直に話を貰ったからね。私が仕事を探して見つけて、依頼を受けた訳じゃないんだ。…それがどうかしたのかい葵?」

俺の問に不思議そうな顔をしているマリアネラに、ギルゴマから指摘された事を話す。



「…なるほどね。確かに解りきっている人攫いの目的が依頼になるのはおかしな話だね」

「そうですね。ギルゴマさんの言う通り、通常であるならば、誰が利益を上げているのか、その商売のルートを調べるのが普通ですわ。それに大金を支払う意味とは…何なのでしょう?」

リーゼロッテの言葉に、再度腕組みをして考えているマリアネラ。

その時、同じ様にう~んと唸りながら、可愛い小首を傾げていたマルガがボソッと呟く様に囁く。



「ひょっとして…依頼主さんは…人攫い達が攫った人達を、奴隷商に売ってはいないと思っているのでしょうか?」

口に人差し指を当てながら、小さく呟いたマルガの言葉に、皆が一斉に振り向く。



「はう!?皆さんどうされました!?わ…私…変な事言いましたでしょうか!?」

皆の驚きの視線に、アワアワマルガになっているマルガは、アタフタしている。



「いや!違うよマルガ!…そうか…それは考えれば…」

「そうですわね葵さん…確かにそう考えれば、この依頼の『人攫いの目的を調べる』事は、不思議じゃなくなりますね」

「リーゼロッテの言う通りだね。そう考えれば辻褄が合うね」

顔を見合わせて頷いているリーゼロッテとマリアネラ。



マルガの言う通り、そう考えれば、辻褄が合う。

だが…それはそれで問題がある。

その問題は、依頼主は人攫いの目的が、攫った人達を奴隷商に売って利益を上げる事では無いと知っていた事になる。

それはつまり、依頼主は人攫いの集団の事を、ある程度知っていると言う事に繋がってくる。

情報通のギルゴマさんですら知らなかった、その集団の事を知っている人物…

依頼主は一体…

俺がその様な事を考えていると、紅茶を飲みながらマリアネラが、



「とりあえず、葵達の方は、引き続き攫われた人達の調査を頼むよ。特に荷馬車関係だね。人攫い達の目的や、依頼主の事は解らないけど、実際に攫われた人は沢山居るんだ。それが、霧の様に消えるなんて事は、余程高価な転移系のマジックアイテムを、毎日複数使わなければ出来ない事。そんな超莫大な費用を使って、何の取り柄も力もない、この郊外町の人々を攫うのに、使うはずがないからね」

「マリアネラさんの言う通りですわね。攫われた人がこの郊外町に居るのかの調査も必要ですが、恐らくどこかに連れ去られていると見た方が無難ですしね。…まだ、色々と解らない事はありますが、まずは、依頼の『人攫いの目的』を調べる事が、私達の仕事でもありますからね」

マリアネラとリーゼロッテの言葉に頷く一同。

そんな俺達を見て、優しい微笑みを浮かべているジェラードが



「皆さん、仕事熱心なのは良い事ですが、余り無理をしないでくださいね?…折角こうやって、ここで出会えたのです。それはきっと、女神アストライアのお導きだと私は思っています。また、こうやって、紅茶を飲みながら、楽しい話でもしたいですしね」

「解ってるってジェラード!心配してくれるのは嬉しいけど、私達だって昔の私達じゃないんだ。葵たちだって、良く考えて行動をしてくれてるみたいだしさ。そうそう、そんな事にはならないよ」

「…本当ですか?…マリアネラが言うと、どこか信憑性に欠ける気がするのですが?」

「な…何言ってるんだよジェラード!」

顔を赤らめながら少しプリプリと怒っているマリアネラを見て、楽しそうな表情を浮かべるジェラード。マルガやマルコも楽しそうに2人を見つめていた。



「私は少し出かける用事がありますので、これで失礼させて貰いますね」

そのジェラードの言葉に、少し心配そうなマリアネラが



「出かけるのかい?…なんなら、私達がその場所まで護衛してやろうか?」

「…大丈夫ですよマリアネラ。出かけるといっても、すぐ傍ですから」

優しくマリアネラの頭を撫でているジェラードの言葉に、少し顔を赤らめているマリアネラ。



「では、皆さん失礼しますね」

そう言って、教会を出ていくジェラード。



「じゃ、そろそろ夕食になるので、僕達も帰りますね」

「ああ!お疲れさん!明日も宜しくお願いするよ葵!」

俺達はマリアネラ達と挨拶を交わして、教会の外に出ると、真夏の太陽は大きく傾きかけていて、その眩しい光を朱色に染めて、美しい夕焼けを見せてくれている。

俺達はその美しい夕焼けを見ながら、グリモワール学院内の我が家に戻ろうと、王都ラーゼンシュルトシュルトに向かって歩き出す。



そして、いつもの様に郊外町の入り口に来た所で、けたたましい声に皆が振り向く。



「ちくしょう!離しやがれ!」

鎧を着た数名の男に、羽交い締めにされている男が、悲壮な叫び声を上げる。



「ええい!うるさい!黙れ下郎が!」

そう言って叫ぶ鎧を着た男は、羽交い締めにされている男の腹部を殴りつける。

殴られた男は気絶したのか、グタッとなって、鎧を着た男達に両方から抱えられている。

その光景を見たマルガとマルコは、少し顔を強張らせていた。



「ご主人様…あれは何をしているのですか?」

「あれは、罪を犯した者を、ここより2日位離れた所にある監獄、バスティーユ大監獄に移送しようとしてるんじゃないかな?あの鎧を着た人達は、フィンラルディア王国の守備隊だしね」

「悪い事をした人達を…牢屋にですか?」

可愛い首を傾げて居るマルガの頭を優しく撫でながら、説明をする。



この国で法を犯した者は、現行犯以外は裁判で裁かれる。その裁判で有罪になった者は、罰を受ける為に監獄に送られるのだ。

そこで、処刑、労役、監禁、様々な事が法に則って行われている。

現行犯で捕まって、裁判をせずに刑の決まっている者達も、同じ様に送られている。

処刑などは、捕まった時にされるのではなく、こう言った監獄で行われるのが、フィンラルディア王国の慣習となっているのである。

俺の説明を聞いて、なるほどと頷いているマルガにマルコ。



「…恐らく野盗行為でもしたのでしょう。あの捕まっている男の人の皮の鎧には、ラコニア南部三国連合の正規軍の焼印がありましたから」

「なるほど…そうかもしれないね」

リーゼロッテの言葉に頷く俺



「…ご主人様、前も説明してくれましたけど、本当にラコニア南部三国連合の正規軍の残兵や敗戦兵は多いですね~」

「だよねマルガ姉ちゃん!オイラ達が港町パージロレンツォから王都ラーゼンシュルトに来るだけでも、結構野盗に襲われたもんね。その殆どが、ラコニア南部三国連合の正規軍の残兵や敗戦兵だったし」

マルガとマルコは顔を見合わせて、ね~と言い合っている。



「まあ…ラコニア南部三国連合の正規軍が、反乱軍ドレッティーズノートとの戦で、敗戦続きらしいからね。大量の兵士がいろんな国に流れて、問題になっているらしいし」

「そんなに…その反乱軍のドレッティーズノートと言うのは強いのですか?」

「みたいだね。なんでも…ここ2年位の間に、そのリーダーが変わったらしいんだ。それからの反乱軍

ドレッティーズノートは負け知らずらしいよ?余程凄いリーダーが指揮をとっているんだろうね」

俺の説明を聞いたマルガとマルコは、感心しながら凄いね~と頷いている。



「ま…ラコニア南部三国連合の正規軍や反乱軍ドレッティーズノートの話は兎も角、バスティーユ大監獄に送られたら、あの男は処刑されるね。あくまで、野盗行為をして捕まっていた場合だけど」

「…何か…怖い場所なのですね…バスティーユ大監獄と言うのは…」

マルガは少し身震いをしながら、金色の毛並みの良い尻尾をショボンとすぼめていた。



「まあ~監獄だからね。しかも、バスティーユ大監獄は普通の監獄とは違って、色々な大罪人も牢屋に入れているみたいだしね。その守備は物凄く厳しくて、ヴァレンティーノ宮殿の警護に引けを取らないと言われている位の、要塞の様な監獄らしいからね。オレも実際に見た訳じゃないけど…あの馬車を見たら解るんじゃないかな?」

俺はそう告げると1台の馬車を指さす。その指のさされた方を振り向くマルガにマルコ。



そこには1台の黒塗りの箱馬車が止まっていた。

その荷台の部分には、フィンラルディア王国の紋章がしてあって、馬車の四方にはフィンラルディア王国の旗を高らかに掲げていた。

ストーンカ2匹に引かれているその馬車は、ヒュアキントスから奪った鋼鉄馬車と同じような作りをしており、その姿はまるで装甲車の様な物々しさがあった。



「…凄く硬そうで丈夫そうな鋼鉄馬車なのです~。私達の鋼鉄馬車より、丈夫そうに見えるですよご主人様~」

「だよね!マルガ姉ちゃん!あんなに丈夫そうな鋼鉄馬車に、重たいものを引けて、丈夫なストーンカ2匹で引っ張るなんて…」

マルガとマルコは少し呆れたような感嘆の声を上げていた。



「マルガとマルコがそう思うのは無理もないかもね。あの鋼鉄馬車は罪人を乗せる馬車だから、物凄く丈夫に作られているらしいよ。俺達の鋼鉄馬車も丈夫だけど、あの黒塗りの鋼鉄馬車、通称『監獄馬車』の丈夫さにはとても敵わないよ」

「…なぜその様に、丈夫に作られているのですか?」

「それは、罪人の仲間たちが、移送中に襲ってこないとも限らないからですわマルガさん。戦闘になった時に、武器での攻撃や魔法での攻撃をしのげる強さがないと、すぐに壊れて罪人が逃げちゃいますからね。そうならない様に、窓も一切ない、魔法で強化された鉄の箱の様な作りをしているのですよ監獄馬車は」

俺とリーゼロッテの説明を聞いて、なるほど~と頷いているマルガにマルコ。



「ラコニア南部三国連合の正規軍や反乱軍ドレッティーズノートとの闘いが激化して、流れこんできた残兵や敗戦兵が法を犯して捕まって、バスティーユ大監獄に送られる事が増えているらしいから、守備隊も大変だろうね」

俺の苦笑いの言葉に、ウンウンと頷くマルガにマルコ。



「俺達もあの監獄馬車に乗らないで済む様に、法を守って生活をしなくちゃね」

「そうですわね葵さん。注意しましょうね?」

「ふへ!?俺!?俺は…大丈夫だと思うよリーゼロッテ?多分…」

「…まあ、そうならない為に、私達が葵さんの傍に居て、しっかりと力になりますわ]

「…宜しくお願いします…」

俺の苦笑いの言葉に、アハハと笑っているマルガとマルコ。リーゼロッテも優しく微笑みかけてくれている。俺達はそんな事で笑い合いながら、宿舎に戻っていくのであった。













翌日、俺達は朝刻中(午前中)から、郊外町の捜索に乗り出していた。

郊外町の入り口に着た俺達は、まず小さな協力者と合う為に、大街道に面した食堂屋の路地に向かう。

そして、路地に入った俺達を、いつもの気に食わなさそうな顔をした、汚い少年の様な少女、ナディアが迎えてくれる。



「やあナディア、今日も約束通りきてくれたんだね」

「…それが仕事…当たり前…」

そう言ってプイッとソッポを向くナディアに、顔を見合わせて苦笑いをしている俺とマルガ。



「…それは良い心がけですわねナディアさん。所で、人攫い達について、何か解った事や、気がついた事、知っている事はありませんか?」

リーゼロッテがニコッ微笑みながら言うと、気に食わなさそうな顔をしたナディアが



「…少し…解る事もある…だからそれを…今日教える」

「何?その解る事って言うのは?」

そのナディアの言葉が気になった俺がナディアの傍に近寄った時であった。

後ろのゴミ箱が勢い良く倒れ、それと同じ様に、複数の小さな者がこちらに転がってきた。



「イタタ!ちょっとヤン!押さないでって言ったでしょ!?」

「だって…あの男の人が、ナディアに近寄ろうとしたから、心配になって…」

「イテテ…とりあえず、ヤンもコティーも落ち着いてよ!」

「貴方だって落ち着いてないじゃない!トビには言われたくないわよ!」

俺達の前に転がってきた、汚い格好をした少女1人と少年2人は、ギャーギャーと言い合いを始める。

それを見たナディアは、軽く溜め息を吐いて、その3人の少年少女の前に立ち、可愛い手を腰に添える。



「何故…出てきちゃったの?…あそこで黙って…見ている約束だったのに…」

「だって…私達心配だったんだもん。ナディアは力は強いし用心深いけど、それだけじゃ…」

「そうだよ!コティーの言う通り、あんな仕事で、1日銅貨50枚も貰えるなんて、危ないと思うしさ!」

「大人は汚い奴ばっかりなんだ!騙されちゃダメだよ!」

3人の汚い少年少女、コティー、トビ、ヤンが、心配そうにナディアを見つめていた。



「…大丈夫。皆が心配する事はないよ…この人達は大人だけど…今までの大人とは…少し違う感じがするから…」

そのナディアの言葉を聞いたコティー、トビ、ヤンが、懐疑心の塊の様な瞳を俺に向ける。



「ナ…ナディア、とりあえず、その子達は誰なの?」

「…この子達は…私の仲間のコティー、トビ、ヤン…」

そう言って軽く聞き流してしまいそうな紹介をするナディア。



そう言えば…3人の仲間が居るってナディアが言っていたね…この3人がそうなのか…

俺がそんな感じで、3人を見ていると、コティーが俺の前に立ち



「ナディアは力が強いんだから、変な事したら投げ飛ばされちゃうんだからね!」

少し頬を膨らませながら言うコティーと言う少女。

うん、もう投げ飛ばされちゃったけどね!べ…別に、オラが悪い事したわけじゃないけど!

そんな苦笑いをしている俺を見かねてか、リーゼロッテがコティーの傍に近寄り膝を折る。



「大丈夫ですよコティーさん。葵さんはそんな事をする人じゃありませんわ。私が保証します」

そう言って、コティーのちっちゃな手を取り、優しく微笑むリーゼロッテ。

そのリーゼロッテの微笑みを見たコティーは、少し顔を赤らめて、ポーっと言った感じでリーゼロッテを見つめていた。



あれだね…女神と見紛うリーゼロッテさんスマイルにやられちゃってるね!

まあ~あの女神の微笑みを見たら、何故か癒されちゃんだよね…

あんな小さな女の子のハートまで射止めちゃうなんて…リーゼロッテさん恐ろしす!



「と…とりあえず、どの様な経緯で仕事を頼んだか説明するよ」

俺は苦笑いをしながら、3人の少年少女達に説明を始める。

初めは懐疑心の塊の様な瞳をしていたコティー、トビ、ヤンの3人も、次第にその色を消していく。



「…あのジェラード神父様の知り合いなんだ…それと、あのマリアネラさんとも…」

「うん、もともとこの依頼も、マリアネラさんの応援で受けた依頼なんだ。コティーはジェラードさんも、マリアネラさんも知ってるの?」

「…うん、食べ物がなくて、お腹が空いてどうしようも無い時に、ジェラード神父は食べ物をこっそり分けてくれたりしてくれる、優しい人だもん。それに、マリアネラさんには、昔襲われそうになったのを助けて貰ったの…」

そう言って少し嬉しそうな顔をするコティー。トビとヤンも、俺達への疑いを消してくれた様な顔をしていた。

まあ…ナディアだけは、まだ気に食わない顔をして、プイッとソッポを向いていたけど。



「解ってくれて良かったよ。仕事の内容は解ってくれたかな?」

俺の言葉に素直に頷いている、コティー、トビ、ヤンの3人。



「それで、その人攫いの情報があるなら、教えて欲しいんだけど…ナディアは何かしってるって言ってたね?どんな事なの?」

俺の言葉に、何故か気に食わなさそうな顔をしているナディアは、渋々と言った感じでそのちっちゃな口を開く。



「…人攫いの情報かどうかは解らない…でも、人攫い達は…大体同じ所で…人を攫ってる…」

ナディアの言葉に顔を見合せる、俺とリーゼロッテ。



「と言うことは、人攫い達は同じ場所で、日や時間を変えて、同じ場所で人を攫っているって事!?」

「…うん、空の言う通り…。だから私達は…一度でも人が攫われた場所には…近寄らない様にしてるの」

ナディアの言葉に、ウンウンと頷いているコティー、トビ、ヤン。



「ナディアさんその攫われている場所というのには、何か共通点の様なものはありますか?」

リーゼロッテの言葉に首を傾げながら、う~んと考えているナディア。

その話を聞いていたコティーが、何かに気がついた様に口を開く。



「そう言えば…宿屋や娼館…酒のある食堂屋に繋がっている通りで…人が攫われているかも?」

なんとなくと言った感じのコティーが説明をしてくれる。



「それは、この郊外町の人が多く利用する所だよね?」

「ううん、違うよ?この町の人は皆お金がないから、そんな所に行く人は大体、新しくこの町に来た人か、この町で安く過ごしたいと言う、他の町の人や旅の人が多いかも?」

首を傾げながら、トビが説明してくれた。



「…もしかして、人攫いの集団は、この町に来た新しい人達を狙って攫って居るのかも知れませんね葵さん」

「…この郊外町ヴェッキオに新しく来た人を狙ってか…。その理由はなんだろうね?」

「それは解りませんわ葵さん。ですが、何かの意味は有るのかも知れませんね」

「リーゼロッテの言う通りだね。…とりあえず、その人の攫われて、ナディア達が近寄らない場所や路地を、この地図に全て書き込んでくれない?」

俺はマリアネラから貰っていた、この郊外町ヴェッキオの地図を見せる。



その地図に、自分たちが近寄らない、危険だと思う場所に印をつけていくナディア達。

暫くキャアキャアと騒ぎながら、地図に書き込んでいくナディアを含め4人の少年少女であったが、全てを書き終えた様で、その声も静かになっていく。

その書き込まれた場所を見て、リーゼロッテが顎に手を当てながら



「…確かに…旅の冒険者や商人、そして、この町に来たばかりの人が行きそうな通りに繋がる路地に、印が集中している様に感じますね」

「…そうだねリーゼロッテ。…本当に…人攫いの集団は、新しい人を中心に攫っているのかも?」

「でも…ご主人様、その理由は何なのでしょうね」

「…解らない。今日、マリアネラさん達と合流する時に、この地図を見せて、話をしてみよう。何か解るかもしれないしさ」

俺の言葉に頷く一同。そんな中で、俺にちっちゃな手が差し出せれる。

俺がそれに気がつくと、やっぱり気に食わなさそうな顔で、俺を見つめているナディアの顔が見える。



「…報酬だよね?」

「…うん…」

俺は苦笑いをしながら、アイテムバッグからどうか50枚を取り出しナディアに手渡すと、腰につけた麻袋にしっかりと入れるナディア。



「色々と解らない事が多いけど、とりあえず時間までまた町を捜索しよう。特に荷馬車や檻馬車に人や奴隷が積まれている時は注意しよう」

俺達はナディア達に挨拶をして別れ、再度郊外町ヴェッキオの捜索に向かうのであった。
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