愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 38 因縁

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「いてて…」

汚い少年の様な少女に投げられてしまった俺は、マルガに手を引かれて立ち上がった。

リーゼロッテの召喚武器、ブラッディーマリーとローズマリーに隠し腕の双剣で抑えこまれている汚い少年の様な少女は、ギラギラとした瞳で口惜しそうに俺を見ていた。



ムウウ…油断していたとはいえ、マルガより小さい身長120cm位のこんな華奢な女の子のどこに、こんな力が有るのか…

そんな事を考えていると、汚い少年の様な少女を押さえ込んでいるリーゼロッテが、涼やかに微笑みながら



「…もう、逃げられないのは解っているでしょう?早く葵さんのアイテムバッグを返しなさい」

リーゼロッテの淡々とした言葉に、ギュッと唇を噛む汚い少年の様な少女は、渋々と言った感じで、懐から俺のアイテムバッグを出した。それを取り上げ俺に渡すリーゼロッテ。



俺がリーゼロッテからアイテムバッグを貰い、腰に装備しなおしていると、教会の中からマリアネラが戻って来て、リーゼロッテの2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーに抑えこまれている、汚い少年の様な少女を見て、キョトンとした顔をしていた。



「一体何があったんだいあんた達?えらく物騒な事になってるみたいだけど?」

「この少女が、葵さんからアイテムバッグを盗んだのです。もう、返して貰いましたけど」

ニコッと微笑むリーゼロッテを見て、少し呆れた顔をするマリアネラ。

マリアネラは汚い少年の様な少女の前に行くと、軽く溜め息を吐き



「…アイテムバッグを返して貰ったのなら、この少女にはもう用は無いよね葵?」

「うん、そうだね」

「だそうだ。もう行きな…」

そう言って、優しく汚い少年の様な少女の肩をポンと叩くマリアネラ。



リーゼロッテの召喚武器、ブラッディーマリーとローズマリーの拘束から解かれた汚い少年の様な少女は、人形達を見ながら後ずさりをする。その光景は、心を開かない野生動物の様な動きに見えた。

俺はそんな汚い少年の様な少女の傍に行き、アイテムバッグから銀貨1枚を取り出し、汚い少年の様な少女に差し出す。



「…このアイテムバッグは渡せないけど…これを持って行って…」

俺の差し出した1枚の銀貨を見た汚い少年の様な少女は、ギュッと唇を噛むと、俺の手から銀貨を引ったくって、ダダダと走って郊外町の中に消えて行った。



「…悪く思わないでやってくれ葵。あいつらも生きるのに必死なんだ。あの歳で…この郊外町で生きて行くには…ね」

「…解ってますよマリアネラさん」

俺の言葉に、フッと微笑むマリアネラ。



「じゃ~とりあえず、また町を捜索してみようかね」

マリアネラの言葉に頷き、俺達は郊外町ヴェッキオの捜索を再開するのであった。











翌日、俺達は再度郊外町ヴェッキオを捜索する準備を整えて、寝室を後にする。

朝食を取るために食堂に向かうと、レリアとエマが朝食を持ってきてくれる。

皆と挨拶を交わし、朝食を受け取る。



「はい!葵お兄ちゃん!ちょうしょくどうぞ!」

「ありがとねエマ」

エマの頭を優しく撫でると、エヘヘと嬉しそうにしているエマ。



「今日も郊外町ヴェッキオの捜索に行かれるのですよね葵様?」

朝食を食べながら、ステラが心配そうに俺に言う。ミーアとシノンも同じ表情で俺を見つめている。



「うん、昨日はマリアネラさん達との顔合わせが主だったけど、今日からは俺達だけで捜索する事になっているからね」

「…そうですか。ヴェッキオは治安の悪い所。何事も無ければ良いのですが」

「俺達も冒険者の端くれだ。きっちりと準備をして捜索をするから…。それに、危険と判断したら、すぐに手を引くつもりだから、安心してステラ…」

ステラの頭を優しく撫でながら言うと、銀色の触り心地の良さそうな、フカフカな犬の様な耳をピョコピョコさせて嬉しそうにしていた。



「それと、私とステラ姉姉、シノン姉姉の3人で、昔の伝を頼って、商売で取引していた人達にも、それとなく郊外町ヴェッキオで起きている、集団人攫いの事を聞いてはみたのですが…何も情報は得られませんでした」

少し申し訳なさそうに言うミーアの頭を優しく撫でながら



「ありがとね3人共。その気持だけで嬉しいよ。でも、無理はしないでね?ステラ、ミーア、シノンは戦闘職業に就いていないんだしさ。聞き込みもこの王都ラーゼンシュルトの中だけにしてね。この王都ラーゼンシュルトの中は騎士団や、守備隊がわんさかいるから、滅多な事は出来ないけど、郊外町ヴェッキオはそうじゃないから。俺達の留守中に何か有ったら、すぐに騎士団や守備隊に言って守って貰ってね」

俺の言葉に頷いている、ステラ、ミーア、シノンの3人。



「…でも、ステラさん達の商売でのお知り合いでも情報が流れていないとなると…余程情報操作に長けている、又は、機密を守れる組織と言う事になりますね葵さん」

リーゼロッテが紅茶を飲みながら言う言葉に、マルガやマルコも頷いていた。



…確かに。真面目なステラ、ミーア、シノンの事だ、きっと今迄取引した事のある商人に、かたっぱしから声を掛けてくれたのだと思う。

それでも、特に情報を得られないと言う事は、リーゼロッテの言う通り、余程用心深く行動している相手だと思って良い。

あれだけの数の人を攫っておいて、一切の情報を流さない…か。

俺は暫く考えて、とある人物の事を思い出す。



「…皆、今日は特別な予定とかはないかな?」

俺の言葉に、顔を見合わせている一同。



「私達は特に何も様はありませんわ葵様」

「私もです葵さん」

「エマも~!エマもなんにもようじないよ~!」

「ククク~!!」

若干1名?(1匹)と、エマちゃんが用事の無いのは解ってるよ!

ルナはマルガちゃんと一緒に捜索してるでしょ?食べ物の話だと思っちゃったの?



「その様な事を聞いてどうなさるのですか葵さん?」

「いや…ちょっと、皆でギルゴマさんの所に行こうと思ってさ。選定戦の時から会ってなかったしね。情報を聞くついでに、皆を紹介しておこうと思ってさ。俺の手伝いで、ギルゴマさんに会う事も増えるだろうしさ」

「そうですね。それがいいかも知れませんね。リスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の長、ギルゴマさんなら、何かの情報を得ているかも知れませんしね」

リーゼロッテの言葉にマルガもマルコもウンウンと頷いている。



「葵様はギルゴマ様とお知り合いなのですか?」

ステラが俺に聞いているのを、頷きながら見ているミーアにシノン。



「ギルゴマさんは、商売での葵さんのお師匠様に当たる御人なのです。選定戦でも、ギルゴマさんのお陰で貴重な情報を得られたのですよ」

リーゼロッテの説明に、驚きの表情を浮かべるステラ、ミーア、シノンの3人。



「ステラ達も、ギルゴマさんとは面識があるの?」

「はい。以前ヒュアキントス様の一級奴隷だった時に、取引で何回かお会いした事はあります。ギルゴマ様の事はヒュアキントス様から色々聞いていました。あのヒュアキントス様が商売上で認めておられる数少ない人物でもありましたので」

まあ、リスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の長だもんねギルゴマさんは。

色んな繋がりもあるか…



「じゃ~新しい主人って事で、紹介もしなくちゃね。皆とりあえず、出かける準備をしてくれる?準備出来たら、寛ぎの間に集合で」

「わ~い!やった~!みんなでおでかけだ~!」

嬉しそうにキャキャとはしゃぐエマの頭の上には、何故か得意げな顔をした白銀キツネの子供、甘えん坊のルナが鼻をフンフンとさせてシャキーンと立っている。

そんなエマとルナを微笑ましく感じながら、皆が準備を始めてくれる。

暫く寛ぎの間で待っていると、準備の出来た皆が集まってきた。



「皆集まった事だし、出かけようか」

俺達は皆でゾロゾロと歩きながら、リスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店に向かう。



昨日見た郊外町ヴェッキオとは違いすぎる華やかな街並みを眺めながら歩いて行くと、少し大きなレンガ作りの建物が見えてくる。割りと新しい作りのその建物は、リスボン商会の象徴、象のシンボルが入った旗を高らかに掲げ、沢山の荷馬車や商人達が、忙しそうに商会に出入りしている。その数の多さから、繁盛しているのが容易に想像できる。

そのリスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の入り口に行くと、一人の男が近寄ってきた。



「これはこれは葵様。ようこそいらっしゃいました」

受付の男がニコニコしながら俺に話しかけてきた。

以前は、俺の事を誰か解っていなかったが、俺がこの支店の長であるギルゴマと知り合いと解ると、急に愛想が良くなったこの受付の男。

でも、1回見ただけで顔と名前と、どういった人物で有るかを覚える辺りは、流石は商人と言った所であろうか。



「今日も取引ですか葵様?」

「あ、今日はちょっとギルゴマさんに用事がありまして。ギルゴマさんはいらっしゃいますか?」

「ギルゴマ支店長なら、支店長室にいらっしゃると思いますので、ご案内します」

笑顔の受付の男はそう言うと、俺達をリスボン商会の王都ラーゼンシュルト支店の中に案内してくれる。そして、支店長室まで案内してくれる受付の男は、割りと作りの良い扉にノックをする。



「ギルゴマ支店長、葵様が面会にいらっしゃってます。お通ししても宜しいですか?」

「はい、入って貰って下さい」

その懐かしい声に部屋の中に入って行くと、豪華な広い机で沢山の書類を眺めているギルゴマが、俺の方を見てフッと微笑む。その横には、リューディアが嬉しそうに俺を見ていた。



「これはこれは。ルチア王女様の専任商人になられた葵様ではありませんか。随分と遅い登場ですね。さぞや大きなご商談で忙しかったのでしょうね」

「それはそうでしょうギルゴマ支店長。葵殿は無関税特権を2つも持つ大商人なのです。もう、私達の様な矮小な存在とは、話もしたくないのでしょう」

「…もう、いい加減に許してくれませんか?ギルゴマさんにリューディアさん?」

俺の申し訳なさそうな顔を見て、プッと吹き出す楽しそうなリューディア。マルガとマルコもアハハと笑っていた。そんな、マルガとマルコはリューディアに飛びつき抱きつく。



「お前達も元気そうで良かったよ。葵に酷い事されてないかい?」

「大丈夫なのですリューディアさん!ご主人様はいつも優しいのです!」

「オイラは元気だよ!リューディアさん!」

「そうかいそうかい!お前達は本当に可愛いね!」

そう言って、マルガとマルコの頭をワシャワシャと撫でているリューディアと、楽しそうにはしゃいでいるマルガにマルコ。



「…マルガさん。やっぱり今回も、私には挨拶は無いのですか?」

「あう…ギルゴマさんも、元気そうで良かったです~」

リューディアの影に隠れながら、ぎこちなく挨拶をするマルガを見て、楽しげな顔をしているギルゴマ。



「それから、選定戦の時は貴重な情報や、キリクさんに助力をお願いして頂いてありがとうございました。あの情報や、キリクさんの助力がなければ、きっと私達は負けていましたわ」

「良いのですよリーゼロッテさん。私に出来る事をしたまでですので」

涼やかに微笑むリーゼロッテを見て、フフと可笑しそうに笑っているギルゴマ。

その中で、ステラが一歩前に出て、ギルゴマの前に立つ。



「ギルゴマ支店長お久しぶりで御座います」

「…貴女達は確か、ヒュアキントス殿の一級奴隷をしていた方達ですね。今は葵さんの一級奴隷をされているのですね」

「はい!私達も葵様のお側で、ずっとお仕えしていきますので、よろしくお願いします!」

ステラの後ろから元気良く言ったミーアと一緒に頭を下げているシノン。

ステラも気恥ずかしそうに微笑むと、ギルゴマに頭を下げていた。



「…なるほど、また良い人材を手に入れたようですね葵さん」

「はい、僕もそう思います」

俺の言葉を聞いて、嬉しそうにしているステラ、ミーア、シノンの3人。



「所で葵、後ろのご婦人と可愛い女の子はどちら様なのだ?」

レリアとエマを見ながら言うリューディアに、テテテとエマが近寄り



「私はエマだよ!お母さんといっしょに、葵兄ちゃんに買われたんだ!今はいっしょにせいかつしてるんだよ!」

ニコッと微笑みながら元気一杯に言うエマの言葉に、口をポカン開けて呆けているリューディア。

そして、俺にツカツカと近寄ってきたリューディアは、俺の頬を両手で引っ張る。



「イテテテ!」

「イテテテじゃないよ葵!可愛いマルガや美しいリーゼロッテだけじゃ飽きたらず、可愛い獣人の3人娘の他に、こんな親子まで…。姉弟子である私でさえ…一人も奴隷や弟子は居ないのに…一体どう言う事なんだろうね葵ちゃん~?…このままお前の頬を、ロープノール大湖の端から端まで届く様に、引っ張ってやってもいいんだよ?」

「いや!別に不順な動機で、レリアさんとエマを買った訳じゃないんだよ!」

俺とリューディアのいつものやり取りを見て、楽しそうに笑っているマルガにマルコ。

リューディアはリーゼロッテから、レリアとエマを買った経緯を聞いて、渋々納得してくれた様であった。



「まあ確かに選定戦で、アウロラ女王陛下の目の前で、堂々と合法的な金の密輸をしたのですから、何か色々あったとは思っていましたが…その様な事があったのですね」

リーゼロッテの話を聞いて、楽しそうな顔をしているギルゴマ。



「まあどちらにせよ勝てて良かったね葵。…ここに来るのは遅かったけどさ」

「ギルゴマさんとリューディアさんの事だから、きっと俺が伝えるより先に、勝敗の情報を掴んでいると思ってたからさ」

「まあ…それはそうだけどね」

俺の苦笑いを見て、フフと微笑むリューディア。



「所で葵さん。今日は一体どの様な要件があってここに来たのですか?私達に選定戦での事を報告に来ただけでは無いのでしょう?」

何かの核心を秘めているかの様な、光を瞳に宿らせているギルゴマに苦笑いをしながら、



「ええ、ギルゴマさんの言う通りなんですけどね。実は今、冒険者ギルドの依頼を受けてて、その事で話があったのですよ」

俺はギルゴマとリューディアに、冒険者ギルドの依頼の内容を話す。

その内容を聞いたギルゴマとリューディアは顔を見合わせていた。



「…確かに、葵の言う通り、私達も郊外町のヴェッキオで起きている、人攫いの事は噂では聞いた事はある。だけど、私達も他の商人達と同じ様に、噂程度の事しか解らないね」

「リューディアの言う通りですね。私もその件に関しては、噂程度しか解りませんね。その様に、大勢の人が毎日攫われているのであれば、どこかの奴隷商なりが、羽振りが良くなった等の噂が立つものですが、この王都ラーゼンシュルト周辺で、その様な噂も聞きませんし…その話は本当の事なのですね葵さん?」

「うん。俺より先に依頼を受けていた冒険者は、俺達よりLVも高い上級者達だし、得ている情報も、実際に襲われているのを聞き込みして逆算していると思うから、その情報に間違いは無いと思うよ」

俺のその言葉に、顎に手を当てて、何かを考えているギルゴマ。



「情報通のギルゴマさんやリューディアさんの網にも掛からないと言う事は…相手は余程用心深いようですね葵さん」

リーゼロッテの言葉に頷く一同。



「まあ…攫った人達を、このフィンラルディア王国から連れ去って、別の国で売っているのかもしれないけどね。そうなると、流石に私達でも解らないからね」

「それはそうでしょうねリューディア様」

リューディアの言葉に納得している、ステラ、ミーア、シノンの3人。



「ですが、それだけの人を乗せた荷馬車や檻馬車が、毎日どこかに向かえば、それだけで噂はたつもの。その様な噂も聞かれていなのですかリューディアさん?」

「そうだね~。そんな噂も入ってきていないね。確かにリーゼロッテの言う通り、毎日それだけの奴隷を乗せた馬車が通れば、それだけで噂はたつ様なものだけど…」

リーゼロッテの言葉に、両手を組みながら考えこむリューディア。



「一体、攫われた人達は、どこに行っちゃたのでしょうねご主人様」

「そうだよね~マルガ姉ちゃん。まるで攫われた人が消えちゃったみたいだよね」

「…消えちゃったか…。確かにそうだね」

俺はう~んと唸りながら、可愛い小首を傾げているマルガの頭を優しく撫でていると、話を聞いて黙って考えていたギルゴマが口を開く。



「…確かこの依頼の報酬は、金貨20枚と、冒険者ランクの2階級特進でしたよね葵さん?」

「うん、そうだけど…それがどうかしたの?」

「…葵さん、少し色々とおかしいと思いませんか?」

「おかしい?まあ…確かに、報酬は他のものより良いのは事実だけど…」

考え込んでいる俺を流し目で見ているギルゴマが話を続ける。



「まあ、葵さんも感じている通り、まず、報酬が高すぎます。調査だけの依頼で、しかも危険を感じた時は、撤退しても良い。その内容で金貨20枚の報酬は高すぎです。葵さんの昇級試験を兼ねていて、冒険者ランクの高い、その先に依頼を受けている人達の冒険者ランクから言ってもです」



…確かに俺もそれは感じていた。

だけど、先に依頼を受けているマリアネラ達の冒険者ランクはゴールドクラス。

ゴールドクラスともなれば、依頼の内容次第では、もっと高額な報酬が貰える時があるから、特別気にはしていなかったのが事実。恐らくリーゼロッテやステラ達も俺と同じ様な感覚でいたに違いない。



「それと、その依頼をしている、依頼主は誰なのですか葵さん?」

「いや…今回の依頼は、依頼主の名前は明かされていないんだ」

俺の言葉を聞いて、再度顎に手を当てて、何かを考え始めるギルゴマ。



冒険者ギルドの依頼人は、依頼主の名前を公表するか、秘密にするかを選べるのである。

簡単に言うと、例えば、ネコを探すと言った依頼の時は、公表する依頼主が多い。

探していますと言う事を公言する事によって、沢山の情報が依頼主に入るかもしれないからだ。

逆に、人に知られたくない場合は、秘密にする事が多い。

それは依頼主に、公表する事によって何らかのデメリットがある場合である。

今回なら、依頼主の安全を考えて公表していないのであろう。



「でも、依頼主の公表なんて、こんな依頼の時は明かされない事の方が多いと思うけど?」

「それはそうなのですが、私が引っかかっているのは、何故依頼主は、郊外町で起きている、人攫いの情報や目的を知りたかったのでしょうか?私はそれが引っかかっているのです。考えてみて下さい葵さん。郊外町は元々治安の悪い、無法者達が多く住む町。それこそ、殺人、強姦、人攫いが日常的に行われている町なのです。そんな町で人攫いが横行しようと、それはきっと何処かの奴隷商に売って、利益をあげようと考えているのであろうと、思うのが普通です。その様な、日常的な事を、わざわざ大金を支払って、裏付けを取ろうなどとする人は居ない。それが多くの人が攫われていようともです」

ギルゴマの言葉にハッとなって顔を見合わせる俺達。



…確かにそうだ。

この依頼の依頼主は、何故大金を支払ってでも、人攫いの目的を知りたかったのだろうか?

ギルゴマの言う通り、郊外町では、人攫いなど日常的に行われているし、目的など普通に考えれば、奴隷商に売って利益を出す事位しか、思い当たらないのが普通だ。

考え込んでいる俺達を見ながら、話を続けるギルゴマ。



「それに、先程リーゼロッテさんが言われた通り、人や奴隷を多く乗せた荷馬車や檻馬車が毎日見受けられるなら、何処かの奴隷商や商会なりが、その商売のルートを探ろうと調査を依頼する事があるかも知れません。ですが、今回は違います。その様な沢山の人を積んだ荷馬車や檻馬車が見かけられている訳ではありません。よしんば見かけられていると仮定しても、調査の依頼をするのは、その商売のルート、つまり、誰が取引主で、何処の誰が利益を上げているかを調べるのが普通です。解りきっている『人攫いの目的』などを、大金を支払って調べる理由とは…一体、何なのでしょうね?」

全てを見通すような瞳で俺を見つめるギルゴマ。



ギルゴマさんの言う通りだ。

依頼主は一体何が知りたいのだろう?

普通に考えたらギルゴマさんの言う通り、商売ルートの調査が依頼になるはず。

解りきっている人攫いの目的など、調べるはずがない。



「確かに、奴隷商売と言うのは、儲かる部分もあります。私達リスボン商会でも奴隷は扱っていますからね。ですが、奴隷法で定められている、『攫われたり、無理やり奴隷にされた者を買ってはいけない』と言う法律が一応あります。まあ…賄賂やその他の方法でどうにでもなる話ですが、他の商会のやっかみで密告されたりする可能性もあるので、大ぴらに堂々と買えないのも事実。私の知る限り、攫われた人を奴隷にして、毎日それだけの大量の奴隷の取引をしている商会など、この王都ラーゼンシュルト周辺ではありません」

「それはつまり…攫われた人達は、奴隷商に売られずに…どこかに囚えられている…と言う事でしょうかギルゴマさん?」

「それは解りません。先程リューディアが言った通り、他の国で取引されているのかも知れませんからね」

リーゼロッテの言葉に、軽く両手を上げるギルゴマ。



「ですが、その様な人を沢山乗せた荷馬車や檻馬車は見かけられていない…どういう事なのでしょうね葵様」

「そうだねステラ。とりあえず、もう一度マリアネラさん達に会って、その事も話をしてみるよ。それを聞く事で、何かが見えてくる事もあるからね」

俺の言葉に頷くステラ。そんな俺達を見ていたギルゴマが



「まあ…多少危険かもしれませんが…情報が得られる可能性が無い訳でもありません…」

「それは…どの様な事なのでしょうかギルゴマさん?」

ギルゴマの言葉に、少し目を細めるリーゼロッテが問い返す。



「それには葵さんに約束して欲しい事があります。それを、守ってくれるのであれば…」

「…どんな事を守れば良いのですギルゴマさん?」

「いえ、簡単な事です。その依頼の内容通り、危険を感じたら、すぐに手を引く。この条件を飲めるのであれば…ですね」

「それは、約束できますよギルゴマさん。俺も皆の安全を考えたいですし、無茶な事はしないつもりで居ますから」

「…本当ですか?…貴方はすぐに無茶をしてしまう癖がありますからね。信じて良いのですね?」

きつく俺を見るギルゴマの瞳を、真正面から見据える俺を見て、軽く溜め息を吐くギルゴマ。



「…まあ、今の貴方の周りには優秀な人材が沢山居ますから、その人達を信じてみますか…」

「…俺はそんなに信じられないのですか…ギルゴマさん?」

「ハハハ。貴方のその部分だけを信じるのは、天と地がひっくり返っても出来ませんね」

「ええ!?そんなに!?」

「貴方と私が出会った件も含め、私なりに考えた結論ですが?」

ニヤニヤと笑うギルゴマに、ププと笑いを堪えているリューディア。



「危険と感じれば、私が責任をもって、手を引くように進言しますわ。なので安心して下さいギルゴマさん」

「まあ、リーゼロッテさんが言われるのであれば…安心してもよさそうですね」

俺を見ながらニヤニヤしているギルゴマ。

ギルゴマさんめ…あんなに楽しそうな顔しちゃって…ウウウ…



俺の少し項垂れている顔を楽しそうに見ながら、何かを羊皮紙に書き込んでいくギルゴマは、書き終わった羊皮紙をくるくると丸め紐で結って、その結び目に松脂らしきものを垂らし、それにリスボン商会の焼印を入れる。



「これを持って、この地図に書かれた所に行って、バルタザールと言う人物に会いなさい。そうすれば…何か解るかもしれません」

そう言って、地図と丸めた羊皮紙を俺に手渡すギルゴマ。俺はそれをアイテムバッグに入れる。



「解っていると思いますが…商人の約束は絶対ですからね葵さん?」

「うん、解ってる。…俺が今迄で約束を破った事があった?」

「…まあ、無いですがね。信じてますからね葵さん」

「…ありがとうギルゴマさん」

俺達は挨拶をして、リスボン商会、王都ラーゼンシュルト支店を後にするのであった。











リスボン商会、王都ラーゼンシュルト支店を後にした俺達は、ギルゴマの言っていた人物に会う為に、郊外町ヴェッキオに向かっていた。

ステラ達やレリアとエマには、一足先に宿舎に帰って貰った。

危険な郊外町に行く事もあるし、ひょっとしたらマリアネラが言っていた、人攫いのパーティーに出くわして戦闘になるかもしれないと感じたからだ。

戦闘の出来ないステラ達やレリア達を守りながら戦闘をする事は出来ない。なので帰って貰ったのだ。

『私も行く~!』と、駄々をこねていたエマも、『帰りに皆で、蜂蜜パンと果実ジュースを一杯食べていいよ?』と言うと、ニコニコ顔で帰っていったのには、皆が笑っていたけど。

本当に蜂蜜パン凄す…ある意味最終兵器だね…

そんな事を考えながら歩いていると、郊外町の入口に差し掛かってきた。



この大街道とは違う風景が、郊外町の奥に広がっている…

そう思いながら、郊外町の中に入ろうとすると、大街道に面している、食堂屋の店の路地に置かれたゴミ箱を、ガサガサと漁っている小さな者が目に入ってきた。

よく見るとそれは、昨日俺のアイテムバッグを盗もうとした、汚い少年の様な少女だった。

俺はなんとなくその汚い少年の様な少女が気になって、傍まで近寄る。

そんな俺の気配に気がついた汚い少年の様な少女は、俺をチラッと見て、何事もないようにゴミ箱を漁っていた。



「…無視は酷いと思うんだけど?お兄さん傷ついちゃうな~」

俺の言葉に一切耳をかさない汚い少年の様な少女は、一心不乱にゴミ箱を漁っていた。

そして、汚い少年の様な少女はゴミ箱から、食べ残しと思われるパンの切れ端を見つける。

それは、一目見ただけで、少し腐りかけているパンの切れ端であったが、それを嬉しそうに腰につけている麻袋の中に入れる汚い少年の様な少女は、俺の視線を感じ、ギラギラした瞳を向ける。



「…まだ居たの?ゴミを漁っている人が…そんなに珍しい?」

「…ううん、そんな事は無いよ」

「…じゃ何?ゴミを漁っている私を見て…優越感にでも浸りたい?」

「そういう訳じゃないけど…ゴミ箱を漁って、店の人に怒られないか少し心配になっただけ」

俺のその言葉を聞いた汚い少年の様な少女は、再度ゴミ箱を漁り始めると、



「…大丈夫。私はゴミ箱を漁っても怒られない。私はゴミ箱を漁っても汚さないし…それに…」

「それに?」

「私は朝早くに…この店の周りを掃除してる。だから、私がゴミ箱を漁っても怒られない」

そう言って、また一心不乱にゴミ箱を漁っている汚い少年の様な少女。



…なるほど。ゴミ箱を漁らせて貰う代わりに、朝早くに店の周りを綺麗に掃除している訳か…

ゴミ箱を漁っても汚さない上に、店の周りの掃除をしてくれる。

店側からしたら、怒るほどの事では無いと言った感じになるのだろう。

この店も郊外町の一部。そこに生きている者の事は理解している。

その中で、礼儀をわきまえるのなら…か。

この汚い少年の様な少女は、この劣悪な環境の郊外町の中で、たくましく生きていると言う事か…



その様な事を思っていると、俺の袖をクイクイと引っ張る者が居た。

それに振り返ると、瞳を揺らしながらマルガが俺を見つめていた。

マルガちゃんも、ひどい環境で暮らしてきたからね…

きっとこの汚い少年の様な少女を、放ってはおけないのかもね…マルガちゃんは優しいから。



俺はマルガの頭を優しく撫でながら、とある露天に視線を向けると嬉しそうな顔をして、テテテとその露天に走っていくマルガ。

暫くすると、その手に蜂蜜パンを持ったマルガが帰ってきた。そして、それを俺に手渡す。



「ねえ君、これ食べない?」

そう言って、蜂蜜パンを目の前に差し出すと、涎の出そうな顔をして、ガバッと俺の腕から蜂蜜パンを奪い取る汚い少年の様な少女。

そのちっちゃな口を目一杯開けて、甘い香りのする蜂蜜パンに齧り付こうとして、その口を閉じる。

そして、半ば奪い取った蜂蜜パンを、先程の麻袋の中に入れる汚い少年の様な少女。



「ええ!?今食べないの?折角の蜂蜜パンなのに…」

俺の言葉に、ギラギラした瞳の色を、少し和らげる汚い少年の様な少女は、



「…このパンは、帰ってから仲間と一緒に食べる…だから…今は食べない…」

「仲間?」

「そう、私の3人の仲間。その日得られた食べ物は、皆で平等に分ける決まり…」

そう言って再度ゴミ箱を漁ろうとする汚い少年の様な少女。



「…じゃ~後3個、その仲間の子達の分も買ってくるから…それ食べちゃいなよ?」

その言葉に、バッと俺に振り返る汚い少年の様な少女。



「…何故、貴方の物を…盗もうとした私に…そこまでするの?…何が目的なの?」

俺に猜疑心の塊の様な瞳を向ける汚い少年の様な少女。



それはマルガちゃんがおねだりするからだよ!

って言っても、この汚い少年の様な少女には解らないよね…

さて…どうしたものか…

そうだ…この子達は、郊外町に住んでいる。この子達ならひょっとして…



「いや、君に少し頼みたい事があってね」

「頼みたい事?…それは何?」

「うん、俺は今、冒険者ギルドの依頼で、郊外町の事を調べているんだ。その手伝いをして貰えないかと思ってね。勿論、仕事の報酬はきちんと払うよ?」

その言葉を聞いた汚い少年の様な少女は、ピクッと身体を反応させる。



「私に仕事を?どんな仕事なの?」

「うん、君は今、この郊外町で頻繁に行われている、集団人攫いの事を知ってるかな?」

その言葉を聞いた汚い少年の様な少女は、少し身体を強張らせながら頷く。



「…知ってる。私達が今…1番怖い相手。それがどうしたの?」

「今俺達は、その人攫い達の事を調べているんだ。で、少しでも情報が欲しいんだよ」

「…だから、この郊外町に住んでる私に…その事を調べて欲しいの?」

「まあ…そうなんだけど、調べる必要はないんだ」

「…どういう事?」

汚い少年の様な少女は話が見えないのか、困惑した表情で俺を見つめていた。



「ちょっと変な説明になっちゃったけど、自分で調べる必要は無いのは本当。ただ、普通に生活していて、その人攫い達の情報が入った時にだけ、俺に報告して欲しい。それでいいんだ」

そう、それだけでいい。普通に生活をしていて、何か聞いたり見たりした事を教えてくれるだけで。

自分達から何かアクションを起こさなければ、狙われる事も無いし安全だろう。

汚い少年の様な少女は暫く考えて、俺に向き直る。



「仕事の内容は…解った。それで…駄賃は幾らくれるの?」

「そうだね…一日銅貨50枚でどう?毎日支払うと言う条件で」

その金額を聞いて、表情を明るくする汚い少年の様な少女。



この世界の市民権を持つ人の1日の平均賃金は銀貨2枚。税金で半分持っていかれるから、銀貨1枚が手取り収入になる。

1日銀貨1枚で、家族3人が贅沢をしなければ、十分に暮らせていける金額なのである。

当然、郊外町に住んでいる者達はもっと低い金額で生活をしている。

1日銅貨50枚貰えるのであれば、仲間3人がお腹一杯食べても十分に足りる金額なのである。



「解った…その仕事引き受ける」

「契約成立だね!」

俺の微笑みながらの言葉に、少し気に食わなさそうな顔をする汚い少年の様な少女。



「じゃ~自己紹介だね。俺は葵 空。商人をしてる」

「私は…ナディア」

「ナディアか…良い名前だね!よろしくねナディア!」

俺が笑顔で右手を差し出すと、渋々と言った感じでその手を取り握手をするナディア。



「自己紹介も終わった事だし、早速お願いしたい事があるんだ。俺達はここに行って、ある人物に会おうと思っているんだけど知ってる?」

俺はそう言いながら、アイテムバッグからギルゴマから貰った地図を取り出し、ナディアに見せる。

ナディアはちっちゃい手で地図を取り見つめると、顔を強張らせる。



「…空。…本当に…ここに行く気なの?」

「うん、そうだけど?何かまずいの?」

「…空が行きたいのなら…案内する」

言葉少なげにそう言うナディアは、俺達の前を歩き始める。

俺は少し不思議に思いながらも、ナディアの後を付いて行く。



「葵さん、上手くやりましたね。ナディアさんに援助する為に、わざわざ頼まなくても良い仕事を頼んで、理由をつけた」

「まあ…この依頼を受けている間だけだけどね。これで良かったマルガ?」

「ハイ!ありがとうございますご主人様!」

俺の右腕にギュッと抱きつくマルガは、金色の毛並みの良い尻尾を、嬉しそうにフワフワと揺らしている。



「…どうしたの?行かないの?…置いていくよ?」

「ああ!ごめん!すぐに行くよ!」

俺達はナディアの後をついて、郊外町の中に入って行く。

寂れた汚い郊外町を見ながら、ナディア後を歩いて行くと、郊外町ヴェッキオには似つかわしくない、強固なレンガ造りの建物が見えてきた。



3階建てのその建物は、何か独特の雰囲気を醸し出していた。

窓はあるが全て鉄格子で覆われ、外部からの侵入が難しい様に作られている。入り口の鉄の大きな扉の周りには、薄汚れた男達が、それぞれ武装をして10数名警護している様であった。

ナディアはその建物から少し離れた所で、その歩みを止める。



「…あそこが…空の行きたかった所」

そう言って指を差すが、その建物に近寄ろうとはしないナディア。

俺は少し不思議に思って、ナディアに聞いて見る事にした。



「…ナディア。あの建物は…一体何なの?」

「…あの建物は…この郊外町ヴェッキオを支配している、バミューダ旅団の頭領…バルタザールが住んでいる所」

そう言って顔を強張らせているナディア。

ナディアの説明に、俺達も思わず顔を強張らせる。

俺達は、この郊外町ヴェッキオの支配者、バルタザールに会おうとしていた事を、この時始めて気がついたのだった。













俺達は今、この郊外町ヴェッキオを実効支配している、マフィアのボス、バルタザールに面会しようと建物の前まで来ていた。

そんな俺達に気がついた警護の薄汚れた男達が、俺達を取り囲む様に立ち塞がる。

その手や腰には、バトルアックスやロングソードを装備している。

この男達は、薄汚れた、一見すると野盗の様な風貌ではあるが、その立ち振舞の隙の無さから、この男達全員が上級者である事が、容易に理解出来る。



『今日はマルガもリーゼロッテも男装させてて良かった…超美少女のマルガとリーゼロッテに興味をもたれたら、たまったもんじゃなかったね…』

思わず心の中でそう呟く。



昨日のマリアネラの忠告通りに、今日はマルガとリーゼロッテには男装をさせているのだ。

頭から深く帽子を被らせ、顔も見えにくい様にしている。ぱっと見は男性にしか見えない。

まあ…歩き方はそのままなので、見る人が見たら解るであろうが、超美少女である事は隠せているので、成果は出ていると思う。

そんな事を思っていたら、警護の中のひとりの男が声を掛けてきた。



「貴様ら、ここに何の用だ?ここがどこか…解ってるんだろうな?」

冷たい目をした男が、ドスの利いた低い声で、俺達に語りかける。

周りの男達も、何かあれば一瞬で俺達に襲いかかれる様に、軽く武器に手をかけていた。



「…僕は商人をしている葵 空と言います。ここにいらっしゃるバルタザールさんに面会する為に、ここに来ました。…これを、バルタザールさんに渡して貰えれば、解ると思います」

そう言ってギルゴマに渡された、丸められた羊皮紙を男に手渡す。

その丸められた羊皮紙を見た男は、ピクッと眉を動かす。



「…解った。暫くここで待ってろ」

そう言って、丸められた羊皮紙を持って建物の中に入って行く男。

その間も、全く隙を見せない男達に感服しながら暫く待っていると、先程の男が帰ってきた。



「…お頭がお前達にお会いになるそうだ。…変な事は考えるなよ?」

それは、何かあればすぐさま殺すと言わんばかりの、殺気を帯びた言葉だった。

その言葉に頷き、男の後をついて建物の中に入って行く。



建物の中は、まるでどこかの貴族の館の様な豪華さであった。

埃や汚れ等は一切無く、綺麗に掃除されているのが解る。床に敷かれた絨毯もフカフカで、天井から吊り下げられているシャンデリアや装飾品は、ここが郊外町ヴェッキオの奥深くにある事を忘れさせる程であった。

それらを眺めながら歩いて行くと、かなり豪華な扉の前に連れてこられる。



「お頭、例の者達を連れてきました」

「…解った。入れていいぞ」

その声に扉を開ける男。その男に薦められるまま部屋の中に入っていく。



その部屋は、甘い香りのする香が焚かれており、少し薄暗い雰囲気であった。

床には真っ赤な絨毯が敷かれ、警護の兵が規律正しく両側に並んで立っていた。

その中央の一番奥には、巨大なソファーに鎮座して、多数の裸に近い美女を両側に侍らかしている、髭面の偉丈夫が葉巻をふかしながら俺達を見て、ククッと笑う。



「…よく来たな。俺がバミューダ旅団の頭領、バルタザールだ」

上半身裸の筋肉の塊の様な偉丈夫の身体には無数の戦傷があり、数多の戦場を潜り抜けてきた事が想像出来る。身長は座ってはいるが、200cm近いであろう。

モンランベール伯爵家当主、ランドゥルフ卿とは違う色の、冷徹な瞳を俺達に向けていた。

その光は殺人者を越え、殺戮者の様な無慈悲な光を湛えていた。



「…僕は葵 空です。商人をしています。この者達は、僕の仲間です」

俺がそう言うと、きちんとお辞儀をする、マルガ、リーゼロッテ、マルコの3人。

俺の他は詳しく紹介しない事にした。マルガやリーゼロッテは男装させているし、超美少女のマルガやリーゼロッテに興味を持たれたら、たまったものではないからだ。



「…お前達の事は、リスボン商会のギルゴマ支店長からの紹介状で解っている。なんでも、少し前に行われた、ルチア王女の選定戦で勝利をして、ルチア王女の専任商人になったらしいな」

「はい…その様な事も有りましたね」

「…その様な事…か。ククク、なかなか面白い事を言うな葵殿は」

そう言って口元を軽く上げ、楽しそうに笑っているバルタザール。



「それで葵殿は…どういった要件で、ここに来た?ギルゴマ支店長と同じく、商売の話でもしに来たのか?ギルゴマ支店長には儲けさせて貰っているからな。葵殿もそうしてくれるのか?」

楽しそうに俺を見るバルタザール。



「…いえ、今回は商売の話ではありません。少し、バルタザールさんに聞きたい事があってここに来ました」

「…商売ではなく…聞きたい事?…どの様な事だ?」

少し流し目で俺を見るバルタザールは、指をトントンとさせながら聞き返してくる。



「はい、僕の聞きたい事は…今この郊外町ヴェッキオで起きている、集団人攫いの事なのです」

その言葉を聞いたバルタザールは、ピクッと眉を動かす。



「…集団人攫い?」

「はい、毎日沢山の人が、この郊外町ヴェッキオで攫われていると思うのですが、バルタザールさんはご存じないのでしょうか?」

俺の直球の質問に、顎に手を当て、クククと笑いながら



「集団人攫いね~。この郊外町ヴェッキオでは、殺しや犯し、攫いなんてものは、いつもの事だからな。どれがどれか解らねえな」

両側の美女を抱きながら高笑いをしているバルタザール。抱かれている女達も楽しそうに微笑んでいた。



「では知らないと?…この郊外町ヴェッキオを支配している、バミューダ旅団が知らないと言うのは、可笑しいのではありませんか?…それとも、バミューダ旅団でも解らない組織に、この郊外町ヴェッキオが侵されていると言う事なのでしょうか?…ソレを許していると?」

男装をして、深々と帽子を被っているリーゼロッテが、辺りに涼やかな声を響かせる。

そのリーゼロッテの言葉を聞いたバルタザールの表情が一瞬できつくなる。

俺は右手でリーゼロッテを制止して、バルタザールに向き直ると、先程のきつい表情を緩め、楽しそうに



「…なかか言うじゃねえか。男装をしているがお前女だな?帽子を深く被ってはいるが、かなりの器量持ちと見た。…いいねえ~そそられる。気の強い女は特にな。…良い女は強い男に従うべきだと、思わんかね葵殿よ?」

顎に手を当てて、クククと楽しそうに笑いながら俺を見るバルタザールの瞳は、何か獲物を狩る光に包まれていた



「…ソレは僕には解り兼ねますが、この者が言った通り、バミューダ旅団が知らない組織に、この郊外町ヴェッキオで好き勝手されているのでしょうか?」

俺は強引に話を戻すと、一瞬で凍り付く様な瞳を俺に向けるバルタザール。



「…まあ、よそ者がこの郊外町ヴェッキオで、何かをしている事は知っている…が、それは、この郊外町ヴェッキオを治めるこのバミューダ旅団が考える事。葵殿には関係の無い話だな」

二の句を告げさせない様な、威圧感たっぷりのその言葉に、身体が凍りつきそうになる。



「…そうですか、それはそうですね」

「…そういう事だ。まあ~その件に関しては、バミューダ旅団は関与していないとだけ言っておこう。他に何か…聞きたい事はあるか?」

重みのある静かな声で語るバルタザール。



「いえ、他にはありません。ありがとうございました。…バルタザールさんもお忙しいでしょうから、僕達はこの辺で失礼させて頂きます」

「そうか、次は商売の話でもしに来てくれ葵殿。無関税特権を持つ葵殿との取引…楽しみしている」

「ええ…その時は是非。では失礼します」

俺達は挨拶をして、部屋から出ていく。そして、俺達の居なくなった部屋に声が響く。



「これで良かったのか?」

そのバルタザールの言葉を聞いて、奥の柱の陰から、一人の青年が姿を現す。



綺麗な金髪と、透き通る様な金色の瞳、色白の肌に、少しつり目の知性を感じさせる甘い顔立ち。薄い唇は上品に閉じられている。年の頃は20代前半、身長180cm位のスラリとした、その佇まいは気品に満ちていた。その美青年が口を開く。



「ええ、あれで十分ですバルタザール殿」

「…しかし、あいつがお前を破り、ルチア王女の専任商人になった奴だとはな。あんな細人の様な小僧に負けるとは…訛っちまったんじゃねえのかヒュアキントスよ?」

楽しそうに笑うバルタザールに、フッと微笑むヒュアキントスは



「…彼を侮っては行けませんバルタザール殿。…見た目の雰囲気だけで彼を判断すると、痛い目に合いますよ?」

「へえ…お前にそこまで言わせるんだなヒュアキントスよ。まあ…天才的商才を持つお前を破る位なんだ。そりゃ~力も有るんだろうけどな!」

ガハハと笑っている楽しそうなバルタザールは、ワインの入ったグラスを手に取り、一気に飲み干す。



「…それより、例の件…他の者に知られてきているんじゃねえのか?…大丈夫か?」

「…だから僕が呼ばれているのですよ。それが答えです」

そう言って微笑むヒュアキントスを見て、楽しそうにクククと笑うバルタザール。



「確かにな!…だが、お前はあの少年と縁がある様だな?…また選定戦の様に負けるのか?」

ニヤニヤしながら言うバルタザールに、涼やかな感情の篭っていない瞳を向けるヒュアキントス。



「…さあどうでしょう?…ただ、僕も今度は全力です」

「…本気になった天才の反撃か…面白い!まるで物語みたいだな!…その因縁、見させて貰うぞヒュアキントス!」

楽しそうに言うバルタザール。

ヒュアキントスは葵たちの出て行った扉を見つめ、ギュッと拳に力を入れる。



「…今度は僕が…すべてを奪う。…覚悟するんだね…葵 空!」

冷徹に染まった瞳を、歓喜に染めていくヒュアキントス。



俺達の知らない所で、その何かは確実に動き出して行くのであった。
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