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2章
愚者の狂想曲 37 郊外町ヴェッキオ
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甘い香りと柔らかい感触…
そのえも言われぬ心地良さに目を覚ます。
ふと体の周りに視線を移すと、艶かしい寝衣に身を包んだ、美少女達の可愛い寝顔が見える。
右腕には、頭の上についている、ワーウルフの特徴である、銀色の触り心地の良さそうな、フカフカな犬の様な耳を、時折ピクピクとさせながら、幸せそうなステラが寝ていて、左腕には、その豊満な胸を俺に感じさせながら、月の女神と見紛う美しい寝顔を俺に見せているリーゼロッテが、気持良さそうに寝息を立てていた。俺のお腹辺りには、両側からミーアとシノンが抱きつきながら寝ている。
そして、俺の上には、布団の様に覆いかぶさり、俺の胸にギュッとしがみついているマルガが、可愛い口をモゴモゴさせて、夢の中で何かを食べているんだろうなと、想像がつく様な幸せな顔をして、寝息を立てていた。
ステラ、ミーア、シノンを本当に俺の一級奴隷として手放さないと決めた日から、ステラ、ミーア、シノンは俺達の部屋で一緒に寝る事になった。この広い部屋に縦横にくっつけて並べられた6つのベッドの上に、俺達は寝ている。
ステラ、ミーア、シノンには、俺の本当の秘密を全て話した。
異世界の地球から来た事も、種族の事も、今まであった事全て…
初めは、口をあんぐりと開けて聞いていたステラ、ミーア、シノンだったけど、パソコンで地球の映像を見せてあげたら信じてくれた。
それでも驚愕の表情は変わっていなかったけど、俺への気持は変わらなかったみたいで、俺達と一緒に居たいと言ってくれたのが嬉しかった。もう離してあげないんだからね!
暫く乙女達の甘く柔らかい抱擁に包まれていた俺は、身動きが出来ない事に気がついて、どうしようかと思って首を動かしていると、その気配にマルガが目を覚ました。マルガは可愛く大きな瞳に俺を写すと、最上級の微笑みを俺に向けてくれる。
「ご主人様…おはようございますです~」
「マルガおはよう~」
微笑みながらマルガに言う言葉に、俺に乙女の柔肌を感じさせていた美少女達が、一斉に目を覚ます。
「葵さんおはようですわ」
「リーゼロッテおはよう~」
「「「葵様。おはよう御座います~」」」
「ステラ、ミーア、シノンおはよう~」
リーゼロッテと声を揃えて挨拶をするステラ、ミーア、シノン。
その乙女達の艶かしい寝衣を着ている姿に、朝の敏感になっている俺のモノが反応する。
それに気がついている、艶かしい寝衣を着ている乙女達は、いつもの奉仕を始める。
「ご主人様…朝の奉仕をしちゃいますね…」
マルガはそう言うと、俺の口に吸い付き、その小さな口から俺の口の中に舌を滑り込ませる。
マルガの甘い舌が俺の口の中を味わう。それを合図に、他の乙女達が俺に奉仕を始める。
ステラ、ミーア、シノンの3人は俺の下腹部に顔を埋めると、俺のモノを交互に口の中に含み、俺のモノに奉仕して行く。
ステラ、ミーア、シノンの息のあった奉仕に、ゾクゾクと性感が高まっていく。
俺はリーゼロッテを抱き寄せ、マルガと一緒に3人でキスをする。
マルガの小ぶりの可愛い胸と、リーゼロッテのマシュマロの様な豊満な胸を両手で感じながら、マルガと、リーゼロッテに舌を絡め、唾液を飲ませてあげる。
それを幸せそうに飲み込むマルガとリーゼロッテの嬉しそうな顔に幸せを感じていると、ステラ、ミーア、シノンに口で奉仕されている俺のモノが、その快感で一気に限界に達する。
勢い良く飛び出した俺の精を、顔で受け止めるステラ、ミーア、シノン。
美しい顔を俺の精で犯した事に喜びを感じていると、顔についた俺の精を、互いに舐め合っているステラ、ミーア、シノンは、口移しに俺の精を渡し合って味わっていた。
「皆気持ち良かったよ…ありがとね」
俺のその言葉に嬉しそうな表情を浮かべる、艶かしい乙女達。
それを見て、また俺のモノはムクムクと大きくなる。それを、優しく握るマルガは、切なそうな顔で
「ご主人様…また…大きくなっちゃいましたです…もっと奉仕をしますか?」
口を少し開けて、いつものキスをおねだりする様な顔をしているマルガ。
「今日は朝刻に、依頼の件で冒険者ギルドに行かないとダメだから、また夜に…ね?」
マルガに優しくキスをしながら言うと、顔を赤くしてコクコクと頷きながら、金色の毛並みの良い尻尾を、フワフワさせていた。
「では、今日の朝食掛かりは私とミーアなので、皆さんは暫くしたら、食堂に降りてきてくださいね」
微笑みながら言うステラ。皆がステラの言葉に頷き、用意をして部屋を出るのであった。
暫くして着替え終わって、準備を整えた俺達は食堂に降りていくと、先に食堂に来ていたレリア、エマ、マルコが朝食を始めていた。
「皆おはよう~」
俺は皆に挨拶を済ませ、メイド服に身を包んだステラとミーアから朝食を貰い食べ始める。
皆の食事を貰いに行くのは、交替制でと話が決まった。
ステラとミーア、マルガとリーゼロッテ、レリアとエマ、マルコとシノンが交代で貰いに行っている。
まあ今は宿舎の清掃と管理は、ステラ、ミーア、シノンとレリアにまかせているけど、ステラ、ミーア、シノンには他にやって貰いたい事があるから、その内に再度決めなおさないと…
そんな事を考えながら朝食を食べていると、リーゼロッテが口を開く。
「葵さん、今日の朝刻の5の時(午前10時)に、冒険者ギルドでしたよね?」
「うん、あってるよリーゼロッテ。先行して依頼を受けているパーティーと顔合わせするらしいからね」
俺とリーゼロッテの言葉に、アグアグと朝食を頬張っているマルガが
「ご…ごちゅじんしゃま、ちゃきにいらいをうけていりゅひほたちは、どんなひほなのれしょうね?」
「…マルガ、口の中のモノをきちんと食べ終わってから話そうね?」
俺の微笑みながらの言葉に、顔を赤らめ恥かしそうに頷くマルガを見て、皆がアハハと笑っている。
「でも…葵様。この間、依頼の内容を少し聞きましたが、危険じゃないのですか?」
皆の朝食を配り終わって、テーブルに就いて朝食を食べていたステラが心配そうに言う
「…まあね。でも、どんな依頼にも危険はつきもの。だから報酬が貰える訳だしね。それに、今回は調査のみだから、危ないと感じた時点で、手を引こうと思うから大丈夫だよ。それで報酬が金貨20枚と冒険者ランクの2段階昇格。なかなかの好条件だから逃したくはない気持もあるしね」
「葵様のお話は解りますが…無理はしないでくださいね?」
「解ってるよステラ。心配してくれてありがとね」
ステラの頭を優しく撫でながら言うと、ワーウルフの特徴である、銀色の触り心地の良さそうな、フカフカな犬の様な耳を、ピクピクとさせて嬉しそうにしている。
「朝食を食べ終わって、休憩したら冒険者ギルトに向かうから、マルガとリーゼロッテとマルコは準備してね」
「はい!解りましたです!ご主人様!」
「解ったよ葵兄ちゃん!」
「了解ですわ葵さん」
元気良く返事をするマルガとマルコの頭を優しく撫でているリーゼロッテ。
「後の事はステラ達にまかせるから、宜しく頼むね」
「「「ハイ葵様!私達に任せて下さい!」」」
声を揃える獣人美少女3人娘、ステラ、ミーア、シノン。俺達は朝食を済ませ、休憩をして宿舎を後にした。
王都ラーゼンシュルトのレンガ造りの豪華な街並みを見ながら、冒険者ギルドの王都ラーゼンシュルト支店に到着する。
冒険者ギルドの象徴である、勇者クレイオスの銅像と、左側にはその勇者クレイオスの妻にして、一番の使者であった使徒エウリュビアの銅像の間をくぐり、受付に話をすると、客室に案内してくれた。
案内役に出して貰った紅茶を飲みながら待っていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。
それに返事をすると、部屋の中に3人の人物が入ってきた。
短く整えられた濃い茶色かかった髪に、鳶色の瞳。年頃は20代中頃の、リーゼロッテより少し背の高い、キツメの印象だがなかなかの美女。
その美女の後ろには、身長130cm位の、長い髭を蓄え、大きな鼻をした杖を持ったノーム族の男と、身長190cm位の直立に立っているトカゲの様な、かなり体つきの良い男が居た。
その3人は座っている俺達の傍までやって来る。そして、先頭の美女が俺達を見て値踏みをする様な眼差しで見ながら、口を開く。
「あんた達が、アベラルド支店長の言っていた、応援の依頼を受けた者でいいのかい?」
「はいそうです」
俺の返事を聞いた美女は、俺達を見て少し軽く溜め息を吐く。
「…そうかい。私はこのパーティーのリーダーでマリアネラ。こっちのノーム族がヨーラン、そっちのワーリザードがゴグレグだ」
マリアネラの言葉に、軽く挨拶をするヨーランとゴグレグ。
「それはどうも。僕は葵 空。こっちのワーフォックスの子が俺の一級奴隷のマルガで、そっちのエルフも俺の一級奴隷のリーゼロッテ。この子は俺の仲間のマルコです」
「ご主人様の一級奴隷をさせて貰ってますマルガです!よろしくです!」
「葵兄ちゃんの弟子をやっているマルコです!よろしく!」
「同じく葵さんの一級奴隷をしていますリーゼロッテです。皆様よろしくおねがいしますわ」
元気良く挨拶をするマルガにマルコ。そして、涼やかに微笑んでいるリーゼロッテ。
それを見て、少し気に食わなさそうな顔をする、ノーム族のヨーランとワーリザードのゴグレグ。
「…とりあえず挨拶も終わった事だし、私達も座らせて貰うよ」
そう言って同じ様にソファーの腰を下ろす、マリアネラ、ヨーラン、ゴグレグの3人。
マルガとマルコは、ワーリザードのゴグレグに熱い視線を送っている。
あれだね…興味津々なんだね2人共…
ワーリザードは見た目大きなトカゲが直立して立って居るようにしか見えないもんね。
ワーリザードの事を知らない人が見たら、魔物にしか見えないだろうし…
硬い鱗に全身覆われ、その顔はまさにトカゲ!恐竜の様な顔立ちに牙が口元から見える。
筋肉の塊の様な体つきに、太く割と長い肉付きの良い尻尾…まさにトカゲの尻尾!
でも、知性があって、普通の魔物とは違い、他の種族と共存出来るので、魔物とはされていない種族。
戦闘力も高く、魔法も使えるので、多くの戦場で活躍していたりする種族なのだ。
「オレの顔になにかついているか?」
マルガとマルコの熱い視線に、何か言いたそうな顔で言うワーリザードのゴグレグ
「あ!す…すいません!つい!」
「う…うん!ごめんなさい!ゴグレグさん!」
気まずそうに言うマルガとマルコの言葉に、フンと鼻でいうゴグレグ。それを見て軽く呆れ顔のマリアネラが
「じゃ、話をしようかい。お前達はアベラルド支店長から、依頼の内容は聞いているかい?」
「はい少しですが。なんでも、郊外町で行われている、人攫いの調査だとか…」
「少しは聞いている様だね。そう、今回の依頼は、郊外町で頻繁に発生している、人攫い達の目的をさぐる事。お前達には、その手伝いをして貰う」
マリアネラの言葉に頷く俺達。
「その手伝いとは…どの様な事なのでしょうか?マリアネラさん」
リーゼロッテが涼やかに微笑みながらマリアネラに言うと、紅茶を飲みながらマリアネラは
「お前達の大体の戦闘LVは聞いている。戦闘は私達がやるから、お前達には主に情報収集をして欲しい。私達の雑務と理解して貰った方が良いかもね」
マリアネラの言葉に頷く一同。
「まあ、お前達が戦闘に巻き込まれる事は今の所無いと思うけど、準備はしておいておくれよ?やつらも今は、人を攫っている現場でしか襲っては来ないが、何時襲ってくるかもしれないからね」
「解りましたわマリアネラさん注意しますわ。それと…その相手はどれ位の強さの人達なのですか?」
「バラバラだね。LV20位の初級者の者もいれば、LV40位の中級者もいる。一番多いのはLV40~50台の中級者だね。ただ、必ず最低4人パーティーで動いてるね」
リーゼロッテの問に応えるマリアネラ。
「なるほどです。後、マリアネラさんの方で、そいつらの情報は何か得られているんですか?」
その俺の言葉に、顔を曇らせるマリアネラ。
「それがさ…今の所、何も掴めてないのが現状なのさ。奴らの情報は一切ない。奴らを生け捕りに出来れば、何らかの情報が得られるんだろうけどさ…」
「何故生け捕りに出来ないのですか?」
「奴らはそれぞれに、腕に火の魔法球を用いたマジックアイテムの腕輪をつけさされていてさ。そいつの効果で、殺されたり、生け捕りにされたり、気絶させられたりすると、マジックアイテムが発動して、全てを燃やしてしまうのさ。残りは灰しか残らない。だから奴らからの情報は何も得られていないのさ」
マリアネラの説明に、マルガとマルコがゾッとした様な顔をしている。
「そこまで徹底しているのですか相手は。常にパーティーを組んで行動している事を見ても、組織的に訓練された者達の様に感じますわね」
リーゼロッテの言葉に一同が頷く。
「本当に…その人達の目的は何なのでしょうねご主人様?」
「そうだね~。ま…人攫いの目的なんかは、普通に考えたら奴隷商に売って金を稼ぐのが目的だと思うけどね」
その言葉にマルガは瞳を揺らしている。
マルガもあのむっさい男に攫われて、三級奴隷にされちゃった過去を持ってるからね…
「普通に考えたら、坊やの言う通りだね。郊外町は元々治安の悪い所だ。殺人や強姦、人攫いなんか日常的に行われている。別に今更驚く事じゃないさ。只、奴らが絡んでいる人攫いは、数が多いって事かね」
「数…ですか?どれ位の人が、そいつらに攫われているんですか?」
「私達が調査している感じだと…1日に、多い時で100人位。少ない時でも30人位は攫われて、連れ去られているね」
マリアネラの言葉を聞いたマルガとマルコは驚きの表情をしていた。
この王都ラーゼンシュルトの人口は100万人位。その内で、郊外町であるヴェッキオに住む人達は約30万人強だと言われている。
1日に30人から100人位攫われると、10日で300人から1000人。30日で900人から3000人が攫われている事になる。
地球で言う所の一ヶ月で、郊外町であるヴェッキオの人口の、約1%が攫われている事になる。
多い時のみではないにしても、かなりの人が攫われている事が解る。
「まあ、それでも大都市に仕事にありつく為に集まってくる人の方が多いから、今迄誰も気が付かなかったのかもしれないけどさ。それでも結構な人数が攫われている事が解るだろう?」
マリアネラの言葉に俺達は頷く。
「でも、それだけの人数を毎日攫っているのであれば、人目につかずに攫った人達を運び出すのは難しいと思うのですが…」
「私もそう思って、郊外町の荷馬車を監視してるんだけど、数が多いからね。全て見れる訳じゃないのが現状さ」
「そこで私達の出番と言う事ですわねマリアネラさん。私達がその辺の調査する…と、言う事ですね?」
リーゼロッテの言葉に、フフと軽く笑うマリアネラ。
「物分かりが良いね。流石は上級亜種のエルフってところかね?…直接人を攫っている者達は、私達が追い詰める。お前達には、その辺を含めて、私達の手伝いをして欲しいって事だね。なんとか奴らの尻尾を押さえる事が出来れば、その目的も解ると思うからね」
マリアネラの言葉に、なるほどと頷いているマルガにマルコ。
「とりあえず、昼から私達と一緒に、郊外町のヴェッキオに調査に行ってみるか?色々と教えておきたい事もあるしね」
「ええ、お願いします」
「じゃ~昼食を取って、郊外町ヴェッキオの東の入り口で待ち合わせしようか」
マリアネラの言葉に頷く一同。俺達は挨拶を済ませ、冒険者ギルドを後にするのであった。
昼食を取った俺達は、郊外町ヴェッキオの東の入り口を目指して歩いている。
王都ラーゼンシュルトは、その巨大な町の周りをぐるりと鉄壁の城塞が取り囲んでいる。
王都ラーゼンシュルトには東西南北に計4つの入口があり、その門をくぐらなければ町の中には入れない様になっている。
その東西南北の4つの大門には、大きな街道が備わっており、各地に枝分かれして繋がっているのである。
王都ラーゼンシュルトを囲む様に広がっている郊外町ヴェッキオは、その大きな街道を町の入口に出来ているのだ。
王都ラーゼンシュルトの東の大門をくぐり抜けると、辺りが開ける。そして、約200m位離れた所に、郊外町であるヴェッキオの町並みが見えている。
「いつも思うのですが、何故王都ラーゼンシュルトの城塞の周りには、建物が立ってないのですかご主人様?」
マルガは辺りを見回しながら、う~ん唸って可愛い首を傾げている。
「それはね、法律でそう決まっているからだよ。城塞の周辺200m以内には、いかなる建物も建ててはいけないって言う法律があるんだ。港町パージロレンツォも市壁の周りには建物が建ってなかったでしょ?」
俺の言葉に、そう言えばと言った感じのマルガにマルコ。
「でも何故そんな法律を作ってるの?」
「それはですねマルコさん、防災と町の守備の事を考えて、そう決められているのですよ」
マルコの問に応えるリーゼロッテ。
文明の進んでいないこの世界には、当然消防車などの、大量に水を撒ける機械は存在しない。
なので火事が起きた時は、水を貯めた樽を積んだ馬車で、人が水を撒いたりする。
当然それだけでは、火は消える事はないので、火が広がらない様に、周りの燃えそうな建物を壊したりして、火が広がらない様にするのが、この世界の常識なのだ。
しかも、郊外町のヴェッキオは、王都ラーゼンシュルトの城塞の中の町の様にレンガ造りの建物とは違い、火に弱い安価な木造の建物が多い。一旦火の手が上がると、瞬く間に広がってしまうのだ。
その広がった火の手を避ける為に、城塞の200m以内には建物を建ててはいけないのだ。
そうする事によって、守られている。
それと王都ラーゼンシュルトの守備の面も考えられている。
城塞のすぐ傍に建物があると、侵入者は身を隠しやすいが、城塞の200m以内は身を隠せる様な物は一切無く、城塞の上からだと見晴らしよく監視出来る様になっている。
これによって、王都ラーゼンシュルトに不正に侵入する者を、簡単に見つける事が出来るのだ。
もう一つは、大軍で敵に攻められた時に、周りの郊外町が障害物になって、攻められるルートが限定され、守りやすいのと、郊外町に被害が出ても、その被害が王都ラーゼンシュルトまで及ばない事。
そんな理由で、城塞の200m以内には、一切の建物を建ててはいけない事になっているのだ。
そのリーゼロッテの説明を聞いて、マルガとマルコは顔を歪めている。
「つまり…郊外町は、王都ラーゼンシュルトに被害が及ばない様に…」
「まあ…仕方無い事だよマルガ。元々郊外町であるヴェッキオは、正式に認められた町ですらないんだ。税金を払えずに市民権を持たない、不法者が集う集落。そう言う位置づけだからね。まだ、そこに住めて生活出来るだけマシな方なのさ」
優しくマルガの頭を撫でながら言うと、マルガは瞳を揺らしながら、俺の腕にギュッと抱きつきながら歩いていた。
暫く歩いていると、マリアネラ達と約束をしていた場所である、郊外町ヴェッキオの東の入り口に到着する。すると、そこにはマリアネラ達が既に先に来て待っていた。
俺達に気がついたマリアネラ達が俺達の傍にやって来る。そして、マルガとリーゼロッテを見たマリアネラは軽く溜め息を吐く。
「約束通りに来たのはいいけど…ワーフォックスのマルガと、エルフのリーゼロッテだった?あんた達はその格好でヴェッキオに行くのかい?」
マリアネラは少し呆れながら言う。
マルガとリーゼロッテは、以前に買った可愛いメイド服に身を包んでいる。
このメイド服は見た目の可愛さも良いが、作りも良く丈夫に出来ていて動きやすく、このまま戦闘が出来る位なのだ。
元々、主人に使えるメイドが着る服であるので、その様に作られているのである。
「確かに動きやすくて、戦闘も出来るのだろうけどさ、あんた達ががこれから行こうとしているのは、無法者達が数多く住む、郊外町なんだ。あんた達みたいな凄い美少女が、そんな可愛いメイド服なんか来て郊外町に入ったら、格好の的にされちゃうんだよ。女ってだけで犯そうとしたり、攫って奴隷商に売りつけようとする男達が、わんさかといる所なんだから。まあ、戦闘職業に就いているあんた達なら簡単に追い払えるかもしれないけど、余計な仕事を増やさない様にしておくれよ?」
マリアネラの呆れながらの言葉に、一同が謝罪する。
「ま…今日は私達と一緒だし、大丈夫だと思うけどね。とりあえず、郊外町の中に入って、見回りと情報収集でもしてみようかね」
マリアネラの言葉に頷き、その後を付いて行く俺達。
郊外町のメインストリートである、王都ラーゼンシュルトに繋がる大きな街道から外れて一度郊外町の中に入って行くと、そこは先程まで見ていた光景とは、全く違う景色が広がっていた。
寂れた木造の家々は所々壊れていて、腐っている所もある。色んな木の板なので補修して有るのは良い方で、大方ほったらかしになっていた。
密集して立てられている家々のせいで日当たりも悪くジメッとしていて、コケの様な物も至る所に生えている。
当然、雑草などもほったらかしになっていて、トイレが家に作られていないのか、糞尿が辺りに投げ捨てられていて、悪臭を放っている。
その上ゴミが捨てられていて、それに大量の見た事の無い変な虫が、大量に群がって、蠢いているのがとても気持ち悪い。
その匂いと光景に、顔を歪めているマルガにマルコ。流石のリーゼロッテも顔を歪めていた。
そんな郊外町のヴェッキオの中を眺めながら歩いて行く。
その中で生活している人々は、三級奴隷の様に薄汚れた格好をしている人ばかりで、満足に食べ物を食べていないのか、痩せこけている人が多い。
俺達を見て、ひと目で郊外町の者ではないと解るのか、俺達を見るその瞳は、妬みや羨望、そして、略奪の光に満ちていた。
その狂気に近い瞳の光に、マルガは何かを思い出したのか、少し震えながら俺に抱きついていた。
俺は優しくマルガの頭を撫でると、その表情に安堵の色を漂わせている。
「…ここは大街道から見える郊外町の表情とは、全く違う所だからね。大街道から見えている郊外町の景色なんて、ほんの上っ面だけさ。これが…郊外町の本当の姿だよ」
そう言って何事もないかの様に俺達の前を歩くマリアネラ達。
俺も港町パージロレンツォの郊外町、ヌォヴォには取引で何度か行った事はあったけど、それはメインの街道に近い所のみだった。
ギルゴマから郊外町の危険性を聞いていた俺は、郊外町の内部には立ち入らない様にしていたのだ。
こうやって、郊外町の内部に入ったのはこれが初めて。
初めて見た郊外町の内部を見て、マルガではないが劣悪な環境で生活をしている人々がいる事を、改めて感じていた。
そして、暫く歩いていると、俺達の周りに、20人位の薄汚れた男達が姿を表した。
その目には、可愛いメイド服を着ている、超美少女のマルガとリーゼロッテ、そして、先頭を歩いているマリアネラの姿を写しているようであった。
その顔は卑猥な表情に染まっていて、明らかにマルガやリーゼロッテ、マリアネラを集団で陵辱する事に楽しみを感じている色であった。
それを見て、盛大に溜め息を吐くマリアネラ。
「お前達何の用だい?…って聞いた所で、目的は解りきってるけどさ。…全くめんどくさい奴らだよ。ゴグレグ!頼むよ」
「…解った」
マリアネラの言葉に応えるワーリザードのゴグレグは、男達の前に出る。
そして大きく息を吸い込むと、それを一気に吐き出した。
「ウォーターブレス!」
そう叫びながら、男達に向かって無数の水の玉を吐き出すゴグレグ。
高速で放たれた水の玉のブレスは、次々と男達を直撃していく。その威力に男達は蹲って動けなくなる者や、気絶してしまっている。
それを見た男達は、顔を蒼白にさせていた。
「…今のは手加減してやった。これ以上、俺達の前に立ち塞がるのなら…容赦はしない」
静かに重みのある威圧感たっぷりのゴグレグの言葉に、まるで蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す男達。
「これで解ったろ?次からここに来る時は、男に近い格好をする事だね。余計な手間が増えるだけだからさ」
マリアネラの言葉に、苦笑いをして頷く俺達を見て、軽く溜め息を吐いているマリアネラ。
俺はマリアネラ達の事が気になって、どれ位の戦闘力が有るのか霊視してみる事にした。
『…おお、なるほど。パーティーのリーダーであるマリアネラはLV65のスカウトレンジャー。ノーム族のヨーランはLV60のハイプリースト。ワーリザードのゴグレグはLV63のマジックウォーリア。皆上級者で、スキルも良い物を持っている。なかなかの戦闘力を持っているね』
俺がマリアネラ達を霊視していると、声が掛かる。
「さあ、もう少し町を見て回るよ。ついておいで」
マリアネラの言葉に、俺達は再度マリアネラ達の後をついて、町を観察して行く。
相変わらず、俺達に狂気に近い視線を投げかける、郊外町の住人を見ながら進んで行くと、割りと大きな建物が見えてくる。
そこは、この郊外町には珍しくレンガ造りの建物で、多少汚れてはいるが、きちんと清掃をされているのか、他の建物達とは違い、異臭もする事は無かった。
その建物の中に入っていくマリアネラ達。俺達も後に続いて中に入っていく。
建物の中に入ると、そこは沢山の長椅子が規則正しく並んでいる。その一番奥には、この郊外町にはふさわしくないステンドグラスの小型の窓があり、そのステンドグラスからの七色の光に照らされた、女神アストライアの像が神々しく祀られていた。
郊外町の中にあって、その清潔感と清楚感、慈悲の微笑みを湛える女神像に、どこか癒される様な表情を浮かべているマルガとマルコ。
そんなマルガとマルコを見て、フッと軽く微笑むマリアネラ。
「ここはどこなのですか?ご主人様?」
マルガが少し困惑しながら俺に聞いてくる。隣でマルコもウンウンと頷いていた。
「ここは女神アストライアを信仰している、ヴィンデミア教の教会さ。お前達も名前位は知っているだろう?」
俺の代わりに応えてくれたマリアネラの言葉に頷いているマルガにマルコ。
この世界には色んな宗教があるが、1番多く信仰されているのが、この女神アストライアを崇める、ヴィンデミア教だ。
その聖地は5大国である、光の精霊の守護神を持つ大国、神聖オデュッセリア。
神聖オデュッセリアに降り立った女神アストライアは、神聖オデュッセリアの初代教皇である、マハトマに、光の精霊の守護神を授け、魔物を撃退し、神聖オデュッセリアの地を平和に導いたらしい。
それ以後、女神アストライアを信仰する宗教国家として、神聖オデュッセリアは繁栄してきたのだ。
「この教会はね、食べる物に困っている郊外町の者達に、無償で食べ物を恵んでいる教会なんだよ。東西南北にある、4つの教会のお陰で、どれ位の者が飢えて死なずに済んでいるか…。だから、郊外町に住む者はヴィンデミア教を信仰している者が多くて、この教会も皆に好かれているから、この無法者達が多い中で、ここだけは唯一安全な所なんだよ。誰もこの教会には手を出さない」
その話を聞いて、マルガとマルコは瞳を揺らして感動している様であった。
「だからお前達も何か有ったら、東西南北にある、教会に逃げ込むんだ。余程の事が無い限り、教会が襲われる事はない。教会を襲う奴は、郊外町に住む住民全員を敵に回す様なものだからね。そんな事をしたら、この郊外町では生きてはいけない。解ったね?」
マリアネラの言葉に頷く俺達。それを見てフッと笑うマリアネラ。
「じゃ~この教会の神父を紹介しておくよ。お~い!ジェラードいるんだろ?出てきておくれよ」
講堂一杯に響くマリアネラの声に反応する様に、奥の扉が開かれる。
その扉から、礼服を来た男が俺達の前にやってきて、マリアネラを見て呆れた顔をする。
年頃はマリアネラと同じ位、恐らく27歳位。グレーの髪に、優しい顔立ちのなかなかの美男子だ。
身長も180cm位ある、スラリとした細身の男は、綺麗な声を講堂に響かせる。
「そんなに大きな声を出さなくても、聞こえるよマリアネラ。…全く、君は相変わらずだね」
「そう言うなよジェラード。今日はお前に紹介したい奴らが居てさ」
そう言って俺達をジェラードの前にやるマリアネラ。俺達を見たジェラードは優しい微笑みを俺達に向ける
「これはこれは、良く私達の教会に来ましたね。こんなに美しい女性の方に会えるなんて光栄ですよ」
その言葉に、嬉しそうにしているマルガと、涼やかな微笑みを湛えているリーゼロッテ。
「なんだい?ジェラードも他の奴みたいに、このの美少女達に欲情でもしてるのかい?は~男ってこれだから嫌なんだよ!」
少し、拗ねている様な感じのマリアネラの言葉に、慌てているジェラードは
「そ…そんなことな無いですよマリアネラ!私は素直に感想を述べたまでの事。女神アストライアに仕える私が、その様な事を考えるはずないでしょう!?」
「へ~どうだか~?」
そう言ってプイッとソッポを向くマリアネラに、苦笑いをしているジェラード。
「所でこの人達が私に紹介したい人で良いのかなマリアネラ?」
「ああ、そうだよ。今こいつらには私の仕事を手伝って貰っているのさ。この郊外町で動く事が多くなるから、何かあった時は、助けてやって欲しい」
まだ若干拗ねている様なマリアネラの言葉に、フムフムと頷くジェラード。
「なるほど…解りました。マリアネラの頼みです。聞かないわけにはいかないでしょう。私はこの教会の司祭で、ジェラードと言います」
「僕は葵 空です。こっちは僕の一級奴隷のマルガで、そっちも僕の一級奴隷のリーゼロッテ。こっちは仲間のマルコです」
「初めまして!ご主人様の一級奴隷をさせて貰っていますマルガです!よろしくです!」
「オイラは葵兄ちゃんの弟子をしているマルコです!よろしく!」
「私も葵さんの一級奴隷、リーゼロッテと言います。よろしくお願いしますわ」
俺達の挨拶を聞いて、優しい微笑みを向けてくれるジェラード。
「そうですか。宜しくお願いします。マリアネラの仕事を手伝っているとの事ですが、余り無理をなさらぬ様に。マリアネラはすぐに無茶をするので、私も困っているのですよ」
そう言いながら軽く溜め息を吐くジェラード。
「な…何言ってるんだよジェラード!わ…私は何時もまじめに行動してるよ!」
少し顔の赤いマリアネラが、珍しく慌てて言い返している。
「またその様な事を…私は貴女が初めて子の教会に来た、15年前の事を忘れてはいませんよ?命からがらにこの協会に倒れこんできた貴女を、介抱したのは私なのです。それからと言うもの、冒険者などになって、危険に飛び込んでいくのですから…」
呆れるように言うジェラードの言葉に、ばつの悪そうな顔をしているマリアネラ。
「ま…話は解りました。所で貴方達はお腹の方は好いてはいませんか?もし空いているのであれば、少し施しの朝食が余っていますので、召し上がられますか?」
普段なら食べ物と聞いたら飛びつくマルガとマルコであったが、まだ昼食を食べてそれほど時間も経ってはいない。さすがのマルガとマルコも、顔を見合わせて苦笑いをしていた。
「私やコイツらも昼食を済ませたばかりなんだよ。ジェラードの作る食べ物はなかなか美味いけど、流石に腹が一杯な所には入らないだろうさ。また…食べれない奴に施してやりなよ」
優しく言うマリアネラの言葉に、ニコッと微笑むジェラード。
「そうですねそうしましょう。ですがこれだけは覚えておいて下さい。私は女神アストライアの下で加護される事が出来ます。貴方達が困っているなら、ここにいつでも来なさい。女神アストライアは何時いかなる時でも、その門を開いていますので。きっとあなた達の力になってくれるでしょう」
その優しい言葉に、瞳を輝かせて感動しているマルガとマルコを見て、少し嬉しそうなマリアネラ。
「所で、貴女の仕事の方は上手く行っているのですかマリアネラ?」
「いや…それが…全く手がかりがつかめなくてさ…」
そう言って、少し俯くマリアネラ。そんなマリアネラの肩に優しく手を置くジェラード。
「この郊外町で頻繁に起こっている…集団人攫い。危ないと思ったらすぐに逃げてくださいねマリアネラ。私も出来る限りの情報は集めていますので…ここに飛び込んで来た時の様に、無理はしない様に…」
「…解ってるってジェラード。私もあんたには感謝してるんだ。だからこの依頼を引き受けたんだしさ。私達も無理はしないから…心配しないで…」
そう言って少し顔を赤らめるマリアネラ。
「そうですか、それなら良いのです。では、私は奥で用があるので失礼しますね。マリアネラも何か解ったら私に知らせて下さい。私も何か解ったら、すぐにマリアネラに報告しますので」
「ああ!解ってるって!任せといてよ!ジェラード!」
嬉しそうに返事をするマリアネラを見て、優しく微笑むジェラードは、俺達にきちんと挨拶をして奥の扉に消えていった。
「ジェラードさん良い人なのです!私感動しちゃいました!」
「オイラもだよ!この郊外町の為に頑張ってる人って凄いよね!」
そのマルガとマルコの言葉を聞いたマリアネラは、ニコッと嬉しそうな顔をする。
「ま~アイツは信用のできる奴さ。私も昔助けて貰ってから、ずっとジェラードの事を見てきたけど、昔っから何も変わらないアイツの事は、私の誇りでもあるからね」
そう言って、ジェラードの消えた扉を嬉しそうに見つめるマリアネラ。
「それに女神アストライアを信仰している、ヴィンデミア教も凄いのです!恵まれない人達に施しで食べ物を無償で与えるなんて…」
そう言ってひとみをうるうるさせているマルガ。
マルガは6年間、三級奴隷として、過酷な生活を余儀なくされていた。それこそ、栄養失調になるくらいにまで。きっと、それを思い出しているのであろう。
「そうかいそうかい!お前もヴィンデミア教を気に入ったのかい!なら今度、ジェラードから女神アストライアの象を貰ってやるよ!世間では色々変な事を言う奴も多いけど、私は間違いなくジェラードは皆の助けになっていると思っているからね!」
「私もそう思いますです!マリアネラさん!」
嬉しそうに尻尾を振っているマルガの頭を、ワシャワシャと撫でているマリアネラ。
それを見て、ヨーランとゴグレグもフッと微笑んでいた。
「じゃ~とりあえず外に出て、町を見まわってみようか!」
「はい!マリアネラさん!」
「オイラも頑張るよ!マリアネラ姉ちゃん!」
マルガとマルコの声を聞いて嬉しそうなマリアネラは、腕を回しながら教会を出る。
それについて外に出た俺達。
すると、マリアネラが何かを思い出した様で、
「あ!すまない!ちょっとジェラードに渡す物があったのを忘れていたよ!」
そう言って気恥ずかしそうに、教会の中に入っていくマリアネラの姿を、少し嬉しそうに見つめている、ヨーランとゴグレグ。
「マリアネラさんなんの用事だったのでしょう?」
マルガは可愛い首を傾げている。
「恐らく…この間の依頼で貰った報酬の一部を、寄付するのだろう。ヴィンデミア教は大宗教と言っても、出来る事に限界がある。マリアネラは少しでもジェラードに協力したいのであろう」
そう言ってフフと笑うゴグレグの言葉に、瞳を潤ませているマルガとマルコ。
その時、そんな感じで教会の外で待っていた俺に、何か小さいものがぶつかった。
俺は少しよろめき、そのぶつかった相手を見ると、いつかのマルガの様な、かなり汚れている少年?が
尻もちをついていた。
「ごめんね僕。大丈夫だった?どこも怪我はない?」
俺はそう言って、その汚い少年を抱き起こすと、服についた砂を手で払ってやる。
その少年はギラギラした瞳で俺を見て
「怪我はどこも無いから…大丈夫だから…私に触らないで。それに私は女の子…」
そう言って、プイッとソッポを向く汚い少年の様な女の子
「それは悪かったね。じゃ~俺の腰から奪った、アイテムバッグを返してくれる?人の物を奪う気持が解らない訳じゃないけど、それは俺の物なんだ」
俺のその言葉を聞いて、ギョッとした顔をする汚い少年の様な少女。
この汚い少年の様な少女は、俺に向かって走ってきて、ぶつかりざまに、歳に不相応な手癖で、俺のアイテムバッグを奪っていたのだ。普通の戦闘職業に就いていない奴ならば、まんまと盗られていたであろう。
俺はその汚い少年の様な少女の腕を掴みながら言うと、一瞬で俺の景色がぐるりと回る。
そして、ドスンと音をさせて、俺は地面に投げつけられていた。
俺を投げ終わった汚い少年の様な少女は、今が好機と、走って逃げようとしたが、それは叶わなかった。
その理由は、一瞬で召喚した、リーゼロッテの召喚武器である、2体の人形、ブラッディーマリーーとローズマリーに、首元と心臓に隠し腕の双剣を突きつけられて抑えこまれていたからだ。
「貴女にどんな理由があるのかは知りませんが、私の主人である葵さんの物を盗む事は許しません。命が欲しければ…葵さんのアイテムバッグを返しなさい」
涼やかに微笑むリーゼロッテを見て、ギュッと唇を噛む汚い少年の様な少女。
この汚い少年の様な少女との出会いが、この先で大きな意味を持つ事になろうとは、この時は夢にも思っては居なかった。
そのえも言われぬ心地良さに目を覚ます。
ふと体の周りに視線を移すと、艶かしい寝衣に身を包んだ、美少女達の可愛い寝顔が見える。
右腕には、頭の上についている、ワーウルフの特徴である、銀色の触り心地の良さそうな、フカフカな犬の様な耳を、時折ピクピクとさせながら、幸せそうなステラが寝ていて、左腕には、その豊満な胸を俺に感じさせながら、月の女神と見紛う美しい寝顔を俺に見せているリーゼロッテが、気持良さそうに寝息を立てていた。俺のお腹辺りには、両側からミーアとシノンが抱きつきながら寝ている。
そして、俺の上には、布団の様に覆いかぶさり、俺の胸にギュッとしがみついているマルガが、可愛い口をモゴモゴさせて、夢の中で何かを食べているんだろうなと、想像がつく様な幸せな顔をして、寝息を立てていた。
ステラ、ミーア、シノンを本当に俺の一級奴隷として手放さないと決めた日から、ステラ、ミーア、シノンは俺達の部屋で一緒に寝る事になった。この広い部屋に縦横にくっつけて並べられた6つのベッドの上に、俺達は寝ている。
ステラ、ミーア、シノンには、俺の本当の秘密を全て話した。
異世界の地球から来た事も、種族の事も、今まであった事全て…
初めは、口をあんぐりと開けて聞いていたステラ、ミーア、シノンだったけど、パソコンで地球の映像を見せてあげたら信じてくれた。
それでも驚愕の表情は変わっていなかったけど、俺への気持は変わらなかったみたいで、俺達と一緒に居たいと言ってくれたのが嬉しかった。もう離してあげないんだからね!
暫く乙女達の甘く柔らかい抱擁に包まれていた俺は、身動きが出来ない事に気がついて、どうしようかと思って首を動かしていると、その気配にマルガが目を覚ました。マルガは可愛く大きな瞳に俺を写すと、最上級の微笑みを俺に向けてくれる。
「ご主人様…おはようございますです~」
「マルガおはよう~」
微笑みながらマルガに言う言葉に、俺に乙女の柔肌を感じさせていた美少女達が、一斉に目を覚ます。
「葵さんおはようですわ」
「リーゼロッテおはよう~」
「「「葵様。おはよう御座います~」」」
「ステラ、ミーア、シノンおはよう~」
リーゼロッテと声を揃えて挨拶をするステラ、ミーア、シノン。
その乙女達の艶かしい寝衣を着ている姿に、朝の敏感になっている俺のモノが反応する。
それに気がついている、艶かしい寝衣を着ている乙女達は、いつもの奉仕を始める。
「ご主人様…朝の奉仕をしちゃいますね…」
マルガはそう言うと、俺の口に吸い付き、その小さな口から俺の口の中に舌を滑り込ませる。
マルガの甘い舌が俺の口の中を味わう。それを合図に、他の乙女達が俺に奉仕を始める。
ステラ、ミーア、シノンの3人は俺の下腹部に顔を埋めると、俺のモノを交互に口の中に含み、俺のモノに奉仕して行く。
ステラ、ミーア、シノンの息のあった奉仕に、ゾクゾクと性感が高まっていく。
俺はリーゼロッテを抱き寄せ、マルガと一緒に3人でキスをする。
マルガの小ぶりの可愛い胸と、リーゼロッテのマシュマロの様な豊満な胸を両手で感じながら、マルガと、リーゼロッテに舌を絡め、唾液を飲ませてあげる。
それを幸せそうに飲み込むマルガとリーゼロッテの嬉しそうな顔に幸せを感じていると、ステラ、ミーア、シノンに口で奉仕されている俺のモノが、その快感で一気に限界に達する。
勢い良く飛び出した俺の精を、顔で受け止めるステラ、ミーア、シノン。
美しい顔を俺の精で犯した事に喜びを感じていると、顔についた俺の精を、互いに舐め合っているステラ、ミーア、シノンは、口移しに俺の精を渡し合って味わっていた。
「皆気持ち良かったよ…ありがとね」
俺のその言葉に嬉しそうな表情を浮かべる、艶かしい乙女達。
それを見て、また俺のモノはムクムクと大きくなる。それを、優しく握るマルガは、切なそうな顔で
「ご主人様…また…大きくなっちゃいましたです…もっと奉仕をしますか?」
口を少し開けて、いつものキスをおねだりする様な顔をしているマルガ。
「今日は朝刻に、依頼の件で冒険者ギルドに行かないとダメだから、また夜に…ね?」
マルガに優しくキスをしながら言うと、顔を赤くしてコクコクと頷きながら、金色の毛並みの良い尻尾を、フワフワさせていた。
「では、今日の朝食掛かりは私とミーアなので、皆さんは暫くしたら、食堂に降りてきてくださいね」
微笑みながら言うステラ。皆がステラの言葉に頷き、用意をして部屋を出るのであった。
暫くして着替え終わって、準備を整えた俺達は食堂に降りていくと、先に食堂に来ていたレリア、エマ、マルコが朝食を始めていた。
「皆おはよう~」
俺は皆に挨拶を済ませ、メイド服に身を包んだステラとミーアから朝食を貰い食べ始める。
皆の食事を貰いに行くのは、交替制でと話が決まった。
ステラとミーア、マルガとリーゼロッテ、レリアとエマ、マルコとシノンが交代で貰いに行っている。
まあ今は宿舎の清掃と管理は、ステラ、ミーア、シノンとレリアにまかせているけど、ステラ、ミーア、シノンには他にやって貰いたい事があるから、その内に再度決めなおさないと…
そんな事を考えながら朝食を食べていると、リーゼロッテが口を開く。
「葵さん、今日の朝刻の5の時(午前10時)に、冒険者ギルドでしたよね?」
「うん、あってるよリーゼロッテ。先行して依頼を受けているパーティーと顔合わせするらしいからね」
俺とリーゼロッテの言葉に、アグアグと朝食を頬張っているマルガが
「ご…ごちゅじんしゃま、ちゃきにいらいをうけていりゅひほたちは、どんなひほなのれしょうね?」
「…マルガ、口の中のモノをきちんと食べ終わってから話そうね?」
俺の微笑みながらの言葉に、顔を赤らめ恥かしそうに頷くマルガを見て、皆がアハハと笑っている。
「でも…葵様。この間、依頼の内容を少し聞きましたが、危険じゃないのですか?」
皆の朝食を配り終わって、テーブルに就いて朝食を食べていたステラが心配そうに言う
「…まあね。でも、どんな依頼にも危険はつきもの。だから報酬が貰える訳だしね。それに、今回は調査のみだから、危ないと感じた時点で、手を引こうと思うから大丈夫だよ。それで報酬が金貨20枚と冒険者ランクの2段階昇格。なかなかの好条件だから逃したくはない気持もあるしね」
「葵様のお話は解りますが…無理はしないでくださいね?」
「解ってるよステラ。心配してくれてありがとね」
ステラの頭を優しく撫でながら言うと、ワーウルフの特徴である、銀色の触り心地の良さそうな、フカフカな犬の様な耳を、ピクピクとさせて嬉しそうにしている。
「朝食を食べ終わって、休憩したら冒険者ギルトに向かうから、マルガとリーゼロッテとマルコは準備してね」
「はい!解りましたです!ご主人様!」
「解ったよ葵兄ちゃん!」
「了解ですわ葵さん」
元気良く返事をするマルガとマルコの頭を優しく撫でているリーゼロッテ。
「後の事はステラ達にまかせるから、宜しく頼むね」
「「「ハイ葵様!私達に任せて下さい!」」」
声を揃える獣人美少女3人娘、ステラ、ミーア、シノン。俺達は朝食を済ませ、休憩をして宿舎を後にした。
王都ラーゼンシュルトのレンガ造りの豪華な街並みを見ながら、冒険者ギルドの王都ラーゼンシュルト支店に到着する。
冒険者ギルドの象徴である、勇者クレイオスの銅像と、左側にはその勇者クレイオスの妻にして、一番の使者であった使徒エウリュビアの銅像の間をくぐり、受付に話をすると、客室に案内してくれた。
案内役に出して貰った紅茶を飲みながら待っていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。
それに返事をすると、部屋の中に3人の人物が入ってきた。
短く整えられた濃い茶色かかった髪に、鳶色の瞳。年頃は20代中頃の、リーゼロッテより少し背の高い、キツメの印象だがなかなかの美女。
その美女の後ろには、身長130cm位の、長い髭を蓄え、大きな鼻をした杖を持ったノーム族の男と、身長190cm位の直立に立っているトカゲの様な、かなり体つきの良い男が居た。
その3人は座っている俺達の傍までやって来る。そして、先頭の美女が俺達を見て値踏みをする様な眼差しで見ながら、口を開く。
「あんた達が、アベラルド支店長の言っていた、応援の依頼を受けた者でいいのかい?」
「はいそうです」
俺の返事を聞いた美女は、俺達を見て少し軽く溜め息を吐く。
「…そうかい。私はこのパーティーのリーダーでマリアネラ。こっちのノーム族がヨーラン、そっちのワーリザードがゴグレグだ」
マリアネラの言葉に、軽く挨拶をするヨーランとゴグレグ。
「それはどうも。僕は葵 空。こっちのワーフォックスの子が俺の一級奴隷のマルガで、そっちのエルフも俺の一級奴隷のリーゼロッテ。この子は俺の仲間のマルコです」
「ご主人様の一級奴隷をさせて貰ってますマルガです!よろしくです!」
「葵兄ちゃんの弟子をやっているマルコです!よろしく!」
「同じく葵さんの一級奴隷をしていますリーゼロッテです。皆様よろしくおねがいしますわ」
元気良く挨拶をするマルガにマルコ。そして、涼やかに微笑んでいるリーゼロッテ。
それを見て、少し気に食わなさそうな顔をする、ノーム族のヨーランとワーリザードのゴグレグ。
「…とりあえず挨拶も終わった事だし、私達も座らせて貰うよ」
そう言って同じ様にソファーの腰を下ろす、マリアネラ、ヨーラン、ゴグレグの3人。
マルガとマルコは、ワーリザードのゴグレグに熱い視線を送っている。
あれだね…興味津々なんだね2人共…
ワーリザードは見た目大きなトカゲが直立して立って居るようにしか見えないもんね。
ワーリザードの事を知らない人が見たら、魔物にしか見えないだろうし…
硬い鱗に全身覆われ、その顔はまさにトカゲ!恐竜の様な顔立ちに牙が口元から見える。
筋肉の塊の様な体つきに、太く割と長い肉付きの良い尻尾…まさにトカゲの尻尾!
でも、知性があって、普通の魔物とは違い、他の種族と共存出来るので、魔物とはされていない種族。
戦闘力も高く、魔法も使えるので、多くの戦場で活躍していたりする種族なのだ。
「オレの顔になにかついているか?」
マルガとマルコの熱い視線に、何か言いたそうな顔で言うワーリザードのゴグレグ
「あ!す…すいません!つい!」
「う…うん!ごめんなさい!ゴグレグさん!」
気まずそうに言うマルガとマルコの言葉に、フンと鼻でいうゴグレグ。それを見て軽く呆れ顔のマリアネラが
「じゃ、話をしようかい。お前達はアベラルド支店長から、依頼の内容は聞いているかい?」
「はい少しですが。なんでも、郊外町で行われている、人攫いの調査だとか…」
「少しは聞いている様だね。そう、今回の依頼は、郊外町で頻繁に発生している、人攫い達の目的をさぐる事。お前達には、その手伝いをして貰う」
マリアネラの言葉に頷く俺達。
「その手伝いとは…どの様な事なのでしょうか?マリアネラさん」
リーゼロッテが涼やかに微笑みながらマリアネラに言うと、紅茶を飲みながらマリアネラは
「お前達の大体の戦闘LVは聞いている。戦闘は私達がやるから、お前達には主に情報収集をして欲しい。私達の雑務と理解して貰った方が良いかもね」
マリアネラの言葉に頷く一同。
「まあ、お前達が戦闘に巻き込まれる事は今の所無いと思うけど、準備はしておいておくれよ?やつらも今は、人を攫っている現場でしか襲っては来ないが、何時襲ってくるかもしれないからね」
「解りましたわマリアネラさん注意しますわ。それと…その相手はどれ位の強さの人達なのですか?」
「バラバラだね。LV20位の初級者の者もいれば、LV40位の中級者もいる。一番多いのはLV40~50台の中級者だね。ただ、必ず最低4人パーティーで動いてるね」
リーゼロッテの問に応えるマリアネラ。
「なるほどです。後、マリアネラさんの方で、そいつらの情報は何か得られているんですか?」
その俺の言葉に、顔を曇らせるマリアネラ。
「それがさ…今の所、何も掴めてないのが現状なのさ。奴らの情報は一切ない。奴らを生け捕りに出来れば、何らかの情報が得られるんだろうけどさ…」
「何故生け捕りに出来ないのですか?」
「奴らはそれぞれに、腕に火の魔法球を用いたマジックアイテムの腕輪をつけさされていてさ。そいつの効果で、殺されたり、生け捕りにされたり、気絶させられたりすると、マジックアイテムが発動して、全てを燃やしてしまうのさ。残りは灰しか残らない。だから奴らからの情報は何も得られていないのさ」
マリアネラの説明に、マルガとマルコがゾッとした様な顔をしている。
「そこまで徹底しているのですか相手は。常にパーティーを組んで行動している事を見ても、組織的に訓練された者達の様に感じますわね」
リーゼロッテの言葉に一同が頷く。
「本当に…その人達の目的は何なのでしょうねご主人様?」
「そうだね~。ま…人攫いの目的なんかは、普通に考えたら奴隷商に売って金を稼ぐのが目的だと思うけどね」
その言葉にマルガは瞳を揺らしている。
マルガもあのむっさい男に攫われて、三級奴隷にされちゃった過去を持ってるからね…
「普通に考えたら、坊やの言う通りだね。郊外町は元々治安の悪い所だ。殺人や強姦、人攫いなんか日常的に行われている。別に今更驚く事じゃないさ。只、奴らが絡んでいる人攫いは、数が多いって事かね」
「数…ですか?どれ位の人が、そいつらに攫われているんですか?」
「私達が調査している感じだと…1日に、多い時で100人位。少ない時でも30人位は攫われて、連れ去られているね」
マリアネラの言葉を聞いたマルガとマルコは驚きの表情をしていた。
この王都ラーゼンシュルトの人口は100万人位。その内で、郊外町であるヴェッキオに住む人達は約30万人強だと言われている。
1日に30人から100人位攫われると、10日で300人から1000人。30日で900人から3000人が攫われている事になる。
地球で言う所の一ヶ月で、郊外町であるヴェッキオの人口の、約1%が攫われている事になる。
多い時のみではないにしても、かなりの人が攫われている事が解る。
「まあ、それでも大都市に仕事にありつく為に集まってくる人の方が多いから、今迄誰も気が付かなかったのかもしれないけどさ。それでも結構な人数が攫われている事が解るだろう?」
マリアネラの言葉に俺達は頷く。
「でも、それだけの人数を毎日攫っているのであれば、人目につかずに攫った人達を運び出すのは難しいと思うのですが…」
「私もそう思って、郊外町の荷馬車を監視してるんだけど、数が多いからね。全て見れる訳じゃないのが現状さ」
「そこで私達の出番と言う事ですわねマリアネラさん。私達がその辺の調査する…と、言う事ですね?」
リーゼロッテの言葉に、フフと軽く笑うマリアネラ。
「物分かりが良いね。流石は上級亜種のエルフってところかね?…直接人を攫っている者達は、私達が追い詰める。お前達には、その辺を含めて、私達の手伝いをして欲しいって事だね。なんとか奴らの尻尾を押さえる事が出来れば、その目的も解ると思うからね」
マリアネラの言葉に、なるほどと頷いているマルガにマルコ。
「とりあえず、昼から私達と一緒に、郊外町のヴェッキオに調査に行ってみるか?色々と教えておきたい事もあるしね」
「ええ、お願いします」
「じゃ~昼食を取って、郊外町ヴェッキオの東の入り口で待ち合わせしようか」
マリアネラの言葉に頷く一同。俺達は挨拶を済ませ、冒険者ギルドを後にするのであった。
昼食を取った俺達は、郊外町ヴェッキオの東の入り口を目指して歩いている。
王都ラーゼンシュルトは、その巨大な町の周りをぐるりと鉄壁の城塞が取り囲んでいる。
王都ラーゼンシュルトには東西南北に計4つの入口があり、その門をくぐらなければ町の中には入れない様になっている。
その東西南北の4つの大門には、大きな街道が備わっており、各地に枝分かれして繋がっているのである。
王都ラーゼンシュルトを囲む様に広がっている郊外町ヴェッキオは、その大きな街道を町の入口に出来ているのだ。
王都ラーゼンシュルトの東の大門をくぐり抜けると、辺りが開ける。そして、約200m位離れた所に、郊外町であるヴェッキオの町並みが見えている。
「いつも思うのですが、何故王都ラーゼンシュルトの城塞の周りには、建物が立ってないのですかご主人様?」
マルガは辺りを見回しながら、う~ん唸って可愛い首を傾げている。
「それはね、法律でそう決まっているからだよ。城塞の周辺200m以内には、いかなる建物も建ててはいけないって言う法律があるんだ。港町パージロレンツォも市壁の周りには建物が建ってなかったでしょ?」
俺の言葉に、そう言えばと言った感じのマルガにマルコ。
「でも何故そんな法律を作ってるの?」
「それはですねマルコさん、防災と町の守備の事を考えて、そう決められているのですよ」
マルコの問に応えるリーゼロッテ。
文明の進んでいないこの世界には、当然消防車などの、大量に水を撒ける機械は存在しない。
なので火事が起きた時は、水を貯めた樽を積んだ馬車で、人が水を撒いたりする。
当然それだけでは、火は消える事はないので、火が広がらない様に、周りの燃えそうな建物を壊したりして、火が広がらない様にするのが、この世界の常識なのだ。
しかも、郊外町のヴェッキオは、王都ラーゼンシュルトの城塞の中の町の様にレンガ造りの建物とは違い、火に弱い安価な木造の建物が多い。一旦火の手が上がると、瞬く間に広がってしまうのだ。
その広がった火の手を避ける為に、城塞の200m以内には建物を建ててはいけないのだ。
そうする事によって、守られている。
それと王都ラーゼンシュルトの守備の面も考えられている。
城塞のすぐ傍に建物があると、侵入者は身を隠しやすいが、城塞の200m以内は身を隠せる様な物は一切無く、城塞の上からだと見晴らしよく監視出来る様になっている。
これによって、王都ラーゼンシュルトに不正に侵入する者を、簡単に見つける事が出来るのだ。
もう一つは、大軍で敵に攻められた時に、周りの郊外町が障害物になって、攻められるルートが限定され、守りやすいのと、郊外町に被害が出ても、その被害が王都ラーゼンシュルトまで及ばない事。
そんな理由で、城塞の200m以内には、一切の建物を建ててはいけない事になっているのだ。
そのリーゼロッテの説明を聞いて、マルガとマルコは顔を歪めている。
「つまり…郊外町は、王都ラーゼンシュルトに被害が及ばない様に…」
「まあ…仕方無い事だよマルガ。元々郊外町であるヴェッキオは、正式に認められた町ですらないんだ。税金を払えずに市民権を持たない、不法者が集う集落。そう言う位置づけだからね。まだ、そこに住めて生活出来るだけマシな方なのさ」
優しくマルガの頭を撫でながら言うと、マルガは瞳を揺らしながら、俺の腕にギュッと抱きつきながら歩いていた。
暫く歩いていると、マリアネラ達と約束をしていた場所である、郊外町ヴェッキオの東の入り口に到着する。すると、そこにはマリアネラ達が既に先に来て待っていた。
俺達に気がついたマリアネラ達が俺達の傍にやって来る。そして、マルガとリーゼロッテを見たマリアネラは軽く溜め息を吐く。
「約束通りに来たのはいいけど…ワーフォックスのマルガと、エルフのリーゼロッテだった?あんた達はその格好でヴェッキオに行くのかい?」
マリアネラは少し呆れながら言う。
マルガとリーゼロッテは、以前に買った可愛いメイド服に身を包んでいる。
このメイド服は見た目の可愛さも良いが、作りも良く丈夫に出来ていて動きやすく、このまま戦闘が出来る位なのだ。
元々、主人に使えるメイドが着る服であるので、その様に作られているのである。
「確かに動きやすくて、戦闘も出来るのだろうけどさ、あんた達ががこれから行こうとしているのは、無法者達が数多く住む、郊外町なんだ。あんた達みたいな凄い美少女が、そんな可愛いメイド服なんか来て郊外町に入ったら、格好の的にされちゃうんだよ。女ってだけで犯そうとしたり、攫って奴隷商に売りつけようとする男達が、わんさかといる所なんだから。まあ、戦闘職業に就いているあんた達なら簡単に追い払えるかもしれないけど、余計な仕事を増やさない様にしておくれよ?」
マリアネラの呆れながらの言葉に、一同が謝罪する。
「ま…今日は私達と一緒だし、大丈夫だと思うけどね。とりあえず、郊外町の中に入って、見回りと情報収集でもしてみようかね」
マリアネラの言葉に頷き、その後を付いて行く俺達。
郊外町のメインストリートである、王都ラーゼンシュルトに繋がる大きな街道から外れて一度郊外町の中に入って行くと、そこは先程まで見ていた光景とは、全く違う景色が広がっていた。
寂れた木造の家々は所々壊れていて、腐っている所もある。色んな木の板なので補修して有るのは良い方で、大方ほったらかしになっていた。
密集して立てられている家々のせいで日当たりも悪くジメッとしていて、コケの様な物も至る所に生えている。
当然、雑草などもほったらかしになっていて、トイレが家に作られていないのか、糞尿が辺りに投げ捨てられていて、悪臭を放っている。
その上ゴミが捨てられていて、それに大量の見た事の無い変な虫が、大量に群がって、蠢いているのがとても気持ち悪い。
その匂いと光景に、顔を歪めているマルガにマルコ。流石のリーゼロッテも顔を歪めていた。
そんな郊外町のヴェッキオの中を眺めながら歩いて行く。
その中で生活している人々は、三級奴隷の様に薄汚れた格好をしている人ばかりで、満足に食べ物を食べていないのか、痩せこけている人が多い。
俺達を見て、ひと目で郊外町の者ではないと解るのか、俺達を見るその瞳は、妬みや羨望、そして、略奪の光に満ちていた。
その狂気に近い瞳の光に、マルガは何かを思い出したのか、少し震えながら俺に抱きついていた。
俺は優しくマルガの頭を撫でると、その表情に安堵の色を漂わせている。
「…ここは大街道から見える郊外町の表情とは、全く違う所だからね。大街道から見えている郊外町の景色なんて、ほんの上っ面だけさ。これが…郊外町の本当の姿だよ」
そう言って何事もないかの様に俺達の前を歩くマリアネラ達。
俺も港町パージロレンツォの郊外町、ヌォヴォには取引で何度か行った事はあったけど、それはメインの街道に近い所のみだった。
ギルゴマから郊外町の危険性を聞いていた俺は、郊外町の内部には立ち入らない様にしていたのだ。
こうやって、郊外町の内部に入ったのはこれが初めて。
初めて見た郊外町の内部を見て、マルガではないが劣悪な環境で生活をしている人々がいる事を、改めて感じていた。
そして、暫く歩いていると、俺達の周りに、20人位の薄汚れた男達が姿を表した。
その目には、可愛いメイド服を着ている、超美少女のマルガとリーゼロッテ、そして、先頭を歩いているマリアネラの姿を写しているようであった。
その顔は卑猥な表情に染まっていて、明らかにマルガやリーゼロッテ、マリアネラを集団で陵辱する事に楽しみを感じている色であった。
それを見て、盛大に溜め息を吐くマリアネラ。
「お前達何の用だい?…って聞いた所で、目的は解りきってるけどさ。…全くめんどくさい奴らだよ。ゴグレグ!頼むよ」
「…解った」
マリアネラの言葉に応えるワーリザードのゴグレグは、男達の前に出る。
そして大きく息を吸い込むと、それを一気に吐き出した。
「ウォーターブレス!」
そう叫びながら、男達に向かって無数の水の玉を吐き出すゴグレグ。
高速で放たれた水の玉のブレスは、次々と男達を直撃していく。その威力に男達は蹲って動けなくなる者や、気絶してしまっている。
それを見た男達は、顔を蒼白にさせていた。
「…今のは手加減してやった。これ以上、俺達の前に立ち塞がるのなら…容赦はしない」
静かに重みのある威圧感たっぷりのゴグレグの言葉に、まるで蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す男達。
「これで解ったろ?次からここに来る時は、男に近い格好をする事だね。余計な手間が増えるだけだからさ」
マリアネラの言葉に、苦笑いをして頷く俺達を見て、軽く溜め息を吐いているマリアネラ。
俺はマリアネラ達の事が気になって、どれ位の戦闘力が有るのか霊視してみる事にした。
『…おお、なるほど。パーティーのリーダーであるマリアネラはLV65のスカウトレンジャー。ノーム族のヨーランはLV60のハイプリースト。ワーリザードのゴグレグはLV63のマジックウォーリア。皆上級者で、スキルも良い物を持っている。なかなかの戦闘力を持っているね』
俺がマリアネラ達を霊視していると、声が掛かる。
「さあ、もう少し町を見て回るよ。ついておいで」
マリアネラの言葉に、俺達は再度マリアネラ達の後をついて、町を観察して行く。
相変わらず、俺達に狂気に近い視線を投げかける、郊外町の住人を見ながら進んで行くと、割りと大きな建物が見えてくる。
そこは、この郊外町には珍しくレンガ造りの建物で、多少汚れてはいるが、きちんと清掃をされているのか、他の建物達とは違い、異臭もする事は無かった。
その建物の中に入っていくマリアネラ達。俺達も後に続いて中に入っていく。
建物の中に入ると、そこは沢山の長椅子が規則正しく並んでいる。その一番奥には、この郊外町にはふさわしくないステンドグラスの小型の窓があり、そのステンドグラスからの七色の光に照らされた、女神アストライアの像が神々しく祀られていた。
郊外町の中にあって、その清潔感と清楚感、慈悲の微笑みを湛える女神像に、どこか癒される様な表情を浮かべているマルガとマルコ。
そんなマルガとマルコを見て、フッと軽く微笑むマリアネラ。
「ここはどこなのですか?ご主人様?」
マルガが少し困惑しながら俺に聞いてくる。隣でマルコもウンウンと頷いていた。
「ここは女神アストライアを信仰している、ヴィンデミア教の教会さ。お前達も名前位は知っているだろう?」
俺の代わりに応えてくれたマリアネラの言葉に頷いているマルガにマルコ。
この世界には色んな宗教があるが、1番多く信仰されているのが、この女神アストライアを崇める、ヴィンデミア教だ。
その聖地は5大国である、光の精霊の守護神を持つ大国、神聖オデュッセリア。
神聖オデュッセリアに降り立った女神アストライアは、神聖オデュッセリアの初代教皇である、マハトマに、光の精霊の守護神を授け、魔物を撃退し、神聖オデュッセリアの地を平和に導いたらしい。
それ以後、女神アストライアを信仰する宗教国家として、神聖オデュッセリアは繁栄してきたのだ。
「この教会はね、食べる物に困っている郊外町の者達に、無償で食べ物を恵んでいる教会なんだよ。東西南北にある、4つの教会のお陰で、どれ位の者が飢えて死なずに済んでいるか…。だから、郊外町に住む者はヴィンデミア教を信仰している者が多くて、この教会も皆に好かれているから、この無法者達が多い中で、ここだけは唯一安全な所なんだよ。誰もこの教会には手を出さない」
その話を聞いて、マルガとマルコは瞳を揺らして感動している様であった。
「だからお前達も何か有ったら、東西南北にある、教会に逃げ込むんだ。余程の事が無い限り、教会が襲われる事はない。教会を襲う奴は、郊外町に住む住民全員を敵に回す様なものだからね。そんな事をしたら、この郊外町では生きてはいけない。解ったね?」
マリアネラの言葉に頷く俺達。それを見てフッと笑うマリアネラ。
「じゃ~この教会の神父を紹介しておくよ。お~い!ジェラードいるんだろ?出てきておくれよ」
講堂一杯に響くマリアネラの声に反応する様に、奥の扉が開かれる。
その扉から、礼服を来た男が俺達の前にやってきて、マリアネラを見て呆れた顔をする。
年頃はマリアネラと同じ位、恐らく27歳位。グレーの髪に、優しい顔立ちのなかなかの美男子だ。
身長も180cm位ある、スラリとした細身の男は、綺麗な声を講堂に響かせる。
「そんなに大きな声を出さなくても、聞こえるよマリアネラ。…全く、君は相変わらずだね」
「そう言うなよジェラード。今日はお前に紹介したい奴らが居てさ」
そう言って俺達をジェラードの前にやるマリアネラ。俺達を見たジェラードは優しい微笑みを俺達に向ける
「これはこれは、良く私達の教会に来ましたね。こんなに美しい女性の方に会えるなんて光栄ですよ」
その言葉に、嬉しそうにしているマルガと、涼やかな微笑みを湛えているリーゼロッテ。
「なんだい?ジェラードも他の奴みたいに、このの美少女達に欲情でもしてるのかい?は~男ってこれだから嫌なんだよ!」
少し、拗ねている様な感じのマリアネラの言葉に、慌てているジェラードは
「そ…そんなことな無いですよマリアネラ!私は素直に感想を述べたまでの事。女神アストライアに仕える私が、その様な事を考えるはずないでしょう!?」
「へ~どうだか~?」
そう言ってプイッとソッポを向くマリアネラに、苦笑いをしているジェラード。
「所でこの人達が私に紹介したい人で良いのかなマリアネラ?」
「ああ、そうだよ。今こいつらには私の仕事を手伝って貰っているのさ。この郊外町で動く事が多くなるから、何かあった時は、助けてやって欲しい」
まだ若干拗ねている様なマリアネラの言葉に、フムフムと頷くジェラード。
「なるほど…解りました。マリアネラの頼みです。聞かないわけにはいかないでしょう。私はこの教会の司祭で、ジェラードと言います」
「僕は葵 空です。こっちは僕の一級奴隷のマルガで、そっちも僕の一級奴隷のリーゼロッテ。こっちは仲間のマルコです」
「初めまして!ご主人様の一級奴隷をさせて貰っていますマルガです!よろしくです!」
「オイラは葵兄ちゃんの弟子をしているマルコです!よろしく!」
「私も葵さんの一級奴隷、リーゼロッテと言います。よろしくお願いしますわ」
俺達の挨拶を聞いて、優しい微笑みを向けてくれるジェラード。
「そうですか。宜しくお願いします。マリアネラの仕事を手伝っているとの事ですが、余り無理をなさらぬ様に。マリアネラはすぐに無茶をするので、私も困っているのですよ」
そう言いながら軽く溜め息を吐くジェラード。
「な…何言ってるんだよジェラード!わ…私は何時もまじめに行動してるよ!」
少し顔の赤いマリアネラが、珍しく慌てて言い返している。
「またその様な事を…私は貴女が初めて子の教会に来た、15年前の事を忘れてはいませんよ?命からがらにこの協会に倒れこんできた貴女を、介抱したのは私なのです。それからと言うもの、冒険者などになって、危険に飛び込んでいくのですから…」
呆れるように言うジェラードの言葉に、ばつの悪そうな顔をしているマリアネラ。
「ま…話は解りました。所で貴方達はお腹の方は好いてはいませんか?もし空いているのであれば、少し施しの朝食が余っていますので、召し上がられますか?」
普段なら食べ物と聞いたら飛びつくマルガとマルコであったが、まだ昼食を食べてそれほど時間も経ってはいない。さすがのマルガとマルコも、顔を見合わせて苦笑いをしていた。
「私やコイツらも昼食を済ませたばかりなんだよ。ジェラードの作る食べ物はなかなか美味いけど、流石に腹が一杯な所には入らないだろうさ。また…食べれない奴に施してやりなよ」
優しく言うマリアネラの言葉に、ニコッと微笑むジェラード。
「そうですねそうしましょう。ですがこれだけは覚えておいて下さい。私は女神アストライアの下で加護される事が出来ます。貴方達が困っているなら、ここにいつでも来なさい。女神アストライアは何時いかなる時でも、その門を開いていますので。きっとあなた達の力になってくれるでしょう」
その優しい言葉に、瞳を輝かせて感動しているマルガとマルコを見て、少し嬉しそうなマリアネラ。
「所で、貴女の仕事の方は上手く行っているのですかマリアネラ?」
「いや…それが…全く手がかりがつかめなくてさ…」
そう言って、少し俯くマリアネラ。そんなマリアネラの肩に優しく手を置くジェラード。
「この郊外町で頻繁に起こっている…集団人攫い。危ないと思ったらすぐに逃げてくださいねマリアネラ。私も出来る限りの情報は集めていますので…ここに飛び込んで来た時の様に、無理はしない様に…」
「…解ってるってジェラード。私もあんたには感謝してるんだ。だからこの依頼を引き受けたんだしさ。私達も無理はしないから…心配しないで…」
そう言って少し顔を赤らめるマリアネラ。
「そうですか、それなら良いのです。では、私は奥で用があるので失礼しますね。マリアネラも何か解ったら私に知らせて下さい。私も何か解ったら、すぐにマリアネラに報告しますので」
「ああ!解ってるって!任せといてよ!ジェラード!」
嬉しそうに返事をするマリアネラを見て、優しく微笑むジェラードは、俺達にきちんと挨拶をして奥の扉に消えていった。
「ジェラードさん良い人なのです!私感動しちゃいました!」
「オイラもだよ!この郊外町の為に頑張ってる人って凄いよね!」
そのマルガとマルコの言葉を聞いたマリアネラは、ニコッと嬉しそうな顔をする。
「ま~アイツは信用のできる奴さ。私も昔助けて貰ってから、ずっとジェラードの事を見てきたけど、昔っから何も変わらないアイツの事は、私の誇りでもあるからね」
そう言って、ジェラードの消えた扉を嬉しそうに見つめるマリアネラ。
「それに女神アストライアを信仰している、ヴィンデミア教も凄いのです!恵まれない人達に施しで食べ物を無償で与えるなんて…」
そう言ってひとみをうるうるさせているマルガ。
マルガは6年間、三級奴隷として、過酷な生活を余儀なくされていた。それこそ、栄養失調になるくらいにまで。きっと、それを思い出しているのであろう。
「そうかいそうかい!お前もヴィンデミア教を気に入ったのかい!なら今度、ジェラードから女神アストライアの象を貰ってやるよ!世間では色々変な事を言う奴も多いけど、私は間違いなくジェラードは皆の助けになっていると思っているからね!」
「私もそう思いますです!マリアネラさん!」
嬉しそうに尻尾を振っているマルガの頭を、ワシャワシャと撫でているマリアネラ。
それを見て、ヨーランとゴグレグもフッと微笑んでいた。
「じゃ~とりあえず外に出て、町を見まわってみようか!」
「はい!マリアネラさん!」
「オイラも頑張るよ!マリアネラ姉ちゃん!」
マルガとマルコの声を聞いて嬉しそうなマリアネラは、腕を回しながら教会を出る。
それについて外に出た俺達。
すると、マリアネラが何かを思い出した様で、
「あ!すまない!ちょっとジェラードに渡す物があったのを忘れていたよ!」
そう言って気恥ずかしそうに、教会の中に入っていくマリアネラの姿を、少し嬉しそうに見つめている、ヨーランとゴグレグ。
「マリアネラさんなんの用事だったのでしょう?」
マルガは可愛い首を傾げている。
「恐らく…この間の依頼で貰った報酬の一部を、寄付するのだろう。ヴィンデミア教は大宗教と言っても、出来る事に限界がある。マリアネラは少しでもジェラードに協力したいのであろう」
そう言ってフフと笑うゴグレグの言葉に、瞳を潤ませているマルガとマルコ。
その時、そんな感じで教会の外で待っていた俺に、何か小さいものがぶつかった。
俺は少しよろめき、そのぶつかった相手を見ると、いつかのマルガの様な、かなり汚れている少年?が
尻もちをついていた。
「ごめんね僕。大丈夫だった?どこも怪我はない?」
俺はそう言って、その汚い少年を抱き起こすと、服についた砂を手で払ってやる。
その少年はギラギラした瞳で俺を見て
「怪我はどこも無いから…大丈夫だから…私に触らないで。それに私は女の子…」
そう言って、プイッとソッポを向く汚い少年の様な女の子
「それは悪かったね。じゃ~俺の腰から奪った、アイテムバッグを返してくれる?人の物を奪う気持が解らない訳じゃないけど、それは俺の物なんだ」
俺のその言葉を聞いて、ギョッとした顔をする汚い少年の様な少女。
この汚い少年の様な少女は、俺に向かって走ってきて、ぶつかりざまに、歳に不相応な手癖で、俺のアイテムバッグを奪っていたのだ。普通の戦闘職業に就いていない奴ならば、まんまと盗られていたであろう。
俺はその汚い少年の様な少女の腕を掴みながら言うと、一瞬で俺の景色がぐるりと回る。
そして、ドスンと音をさせて、俺は地面に投げつけられていた。
俺を投げ終わった汚い少年の様な少女は、今が好機と、走って逃げようとしたが、それは叶わなかった。
その理由は、一瞬で召喚した、リーゼロッテの召喚武器である、2体の人形、ブラッディーマリーーとローズマリーに、首元と心臓に隠し腕の双剣を突きつけられて抑えこまれていたからだ。
「貴女にどんな理由があるのかは知りませんが、私の主人である葵さんの物を盗む事は許しません。命が欲しければ…葵さんのアイテムバッグを返しなさい」
涼やかに微笑むリーゼロッテを見て、ギュッと唇を噛む汚い少年の様な少女。
この汚い少年の様な少女との出会いが、この先で大きな意味を持つ事になろうとは、この時は夢にも思っては居なかった。
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