愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 48 躓く一歩

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「で、具体的には、どうするのルチア?」

「そうね…まずはさっき言った通り、バスティーユ大監獄を抜き打ちで視察するわ。攫われたコティー達の事もあるから、明後日には視察出来る様に、こちらで手を回すわ。出来るわよね…マクシン?」

「ああ、任せてくれルチア王女。準備は全て僕が指揮をとるから安心してくれ」

マクシミリアンの自信有り気な表情を見て、フフと笑いながら頷くルチア。



「そう言えば、バスティーユ大監獄や各地の大都市の近くに有る監獄や収容所は、全てジギスヴァルト宰相が統括しているって言ってたけど…やっぱりメネンデス伯爵家が属する派閥…つまり今回の一件には、ジギスヴァルト宰相が関わっているとみて良いのかな?」

俺のその言葉を聞いたルチアは、表情を険しくする。



「…そうね。確かにジギスヴァルト宰相は全ての大都市の監獄や収容所を統括しているわ。自分では直接管理はしてはいないけど、自分の派閥の貴族に各地の監獄や収容所を管理させている。抜け目の無いジギスヴァルト宰相の事だから…知らないはずは無いと思うわ」

ルチアの直接的なその言葉を聞いた一同の表情が強張る。



至極当然であろう。

この大国フィンラルディア王国の有力な貴族で有る六貴族であり、宰相を務めるジギスヴァルトが、国に背いて何かをしているのかもしれないのだ。

人を攫って何をしているのかはまだ解らないが、事と次第によっては国を揺るがす大きな事態にもなりかねないであろう。



「兎に角、ジギスヴァルト宰相やメネンデス伯爵が何を行なっているかは解らないが、私達は正義の名の下に彼らの企みを暴き、悪しき事を行なっているのであれば、法の下で裁きを受けさせる。まあ…もしジギスヴァルト宰相が何らかの関与をしているのであれば、女王裁判が開かれるであろうがな」

「ふへ!女王裁判ですか!?」

アリスティドの言葉に思わず変な声を出してしまった。オラ恥ずかしい!



この世界にも司法制度はある。

国によってその法律や罰則、取り決めは違うが、法を犯した者は法廷で裁かれる。

日本なら地裁、高裁、最高裁と分けられているが、このフィンラルディア王国も同じ様に各種事案に応じて分けられている。



国の法律に触れない民間の紛争を裁く平民法廷。

同じ様に国の法律に触れない貴族間の紛争を裁く貴族法廷。

国の法律に触れた者が裁かれる、国法法廷。

代表的な法廷はこの3つだが、その最上位に位置するのが女王法廷、つまり女王裁判だ。



女王裁判は、最高司法議会の者数名の意見を聞き、女王が直接審判を下す裁判だ。

最高権力であり、統治者である女王が下す審判は絶対。何者もその審判からは逃れられない。

故に各法廷の最上位に位置づけされている。



しかし、女王裁判はその審判の絶対性故に、滅多に開かれるものではない。

法廷の責任は全て女王の責に帰す為、間違った審判や納得の出来ない審判、筋の通らない審判を下したなら、女王の権威の失墜にも繋がってしまうからだ。

なので余程の事柄で無い限り、女王裁判は開かれないのである。



「まあ…過去に国王裁判や女王裁判が開かれた事はあるけど、フィンラルディア王国の長い歴史を省みても、その絶対性故に数える程しか開かれていなけどね。女王の審判は絶対。中途半端な審判は下せないから。でももし…ジギスヴァルト宰相の関与があるのなら、お母様はきっと…女王の名の下に、その審判をくだされると思うわ」

ルチアの言葉に確信を持って頷くアリスティド達。



「まあそれは、バスティーユ大監獄の視察で何かを見つけてからのお話ね。それより葵ちゃん…貴方本当にこのままこの一件に関わるつもりなの?以前貴方の大切な者達が危険な目に合うかもしれないから、依頼を断ったのでしょう?ルチアにしても…貴方達の心配をしなくて良くなった所だったし」

メーティスが腕組みをしながら俺に静かに語りかける。

俺の横に立っていたマリアネラとゴグレグも静かに俺を見つめていた。



そう…俺は愛しいマルガやリーゼロッテ、ステラ、ミーア、シノン、大切な仲間達をこれ以上危険な目に合わせない為に依頼を断った。

ルチアもそれを解ってくれたので、俺が依頼を放棄する事に何も言わなかった。

大切な者達に何かあるなんて事…俺には耐えれない。

でも…ナディアをこのまま見捨てる事も…出来ない…



「…ここからは…マルガ達は関わらせません。この先は…俺一人だけで…事にあたります。ですのでメーティスさん…引き続き、マルガ達の護衛をお願いします」

「…そう、解ったわ」

深々と頭を下げる俺を見て、短く返事をしたメーティスは軽く溜め息を吐く。

そんなメーティスを見ていたルチアは不安そうに俺を見つめる。



「今回は俺一人で事に当たるから…心配しないでルチア」

そう言ってルチアの肩に手を乗せると、その手を握り返すルチアは



「…なにも…キツネちゃん達だけじゃないわよ…貴方も…」

「…解ってるよルチア、俺も十分に注意するよ。それに俺も…心残りだったしね。仲間であるルチアの力にもなりたかったしさ」

「…バカね本当に…」

そう言いながらもギュッと俺の手を握るルチア柔らかい手の平は、暖かく感じられた。



「まあ1人でなんて寂しい事言わなくて良いよ葵。目的は一緒なのだから、私達と一緒にコティー達の事を考えたらいいよ」

「そう言って貰えてありがたいですマリアネラさん。正直、僕一人じゃキツイと思っていましたから」

苦笑いしながら頭をかく俺を見てフフと優しい微笑みを見せるマリアネラ。



「では、葵殿も引き続き加わって貰うと言う事で。バスティーユ大監獄の視察は明後日の朝刻中(午前中)に入る事にしましょう。バスティーユ大監獄の視察には…ルチア王女、マティアス殿、それと僕が向かいましょう。葵殿とマリアネラ殿達は、それとなくバスティーユ大監獄に向かう鋼鉄馬車を監視して貰いたい」

マクシミリアンの言葉に頷く一同。それを聞いていたメーティスが俺の傍に近寄る。



「…葵ちゃん、このまま行動するというなら…私の魔法師団の護衛は考えた方が良いわね。それとなく鋼鉄馬車を監視するなら、魔法師団の護衛が足枷になる。自然に見えない可能性があるわよ?」

そっと耳打ちするメーティスのその言葉の意味を理解した俺。



メーティスさんには俺達だけじゃなく、マリアネラさん達も影から護衛して貰っている。

きっとその事を指して言っているのであろう。

確かに、護衛されながら鋼鉄馬車を監視するのは不自然すぎる。

しかし、護衛をして貰わないと言う事は、それだけ身を危険に晒す事に繋がる。



闇の魔族であるヴァンパイアの血を引き、限定不老不死を持つ俺は兎も角、普通の人間族であるマリネラさんや、ワーリザードであるゴグレグさんは…

俺がその様に思案していたら、不思議そうに俺を見ていたマリアネラが口を開く。



「どうしたんだい葵?何か…気になる事でもあるのかい?」

「え…いや…ちょっと…。…やっぱり、鋼鉄馬車の監視は僕一人だけでする事にします。マリアネラさん達は、別の方向から奴らの動向を探ってみてください」

俺のその言葉を聞いたマリアネラは困惑の表情を浮かべる。



「いきなりどうしたんだい葵?さっきは一緒に行動する事に了承してくれたじゃないか。それなのに…」

そう言って俺を寂しそうに見つめるマリアネラと俺を見ていたメーティスが、盛大な溜め息を吐く。



「それは貴女達には葵の依頼で、影から私のエンディミオン光暁魔導師団の護衛をつけさせて居るからよ。魔法師団の護衛が居たら自然に鋼鉄馬車を監視なんて出来ないでしょう?」

「メーティスさん!」

俺は思わず声を荒げる。

そのメーティスの言葉を聞いたマリアネラは、当然の様に俺キツイ視線を向ける。



「葵…どういう事なんだい?」

俺に詰め寄るマリアネラに言葉を濁す俺を見かねたメーティスが、マリアネラの前にその妖艶な身体を向ける。



「葵はね、貴女達の事が心配だったのよ。私に貴女に何を思われても良いから、守ってやって欲しいと頼んだのよ」

メーティスのその言葉を聞いたマリアネラは、軽く俯くとそのまま黙ってしまった。



「…マリアネラさん…すいません。確かに仲間であるヨーランさんの敵を打ちたい気持は解りますが…俺は…マリアネラさん達には…生きて欲しくて…」

俺はそう言うと軽く俯く。

すると、何かが俺の額目掛けて飛んできた。



「イテ!」

俺はその軽い痛みに額を擦る。

それはマリアネラのデコピンが俺の額にヒットしたからであった。



「…本当にお前は年齢の割にませているんだから。余計な事ばかり考え、気を使って…」

そう言いながら呆れ顔を浮かべるマリアネラはフフと笑い、優しい瞳で俺を見つめる。



「…ありがとね葵。心配掛けたね」

「いえ…俺も…黙って勝手をしましたし…」

そう言って苦笑いをする俺とマリアネラを楽しそうに見つめるメーティス。



「…内密でって…お願いしましたよねメーティスさん?」

「そうね。でも、葵ちゃんは一人で魔法師団の護衛をつけずに鋼鉄馬車を監視するつもりだったでしょ?葵ちゃんの事は理解出来るけど、流石に一人は危険よ。だから言わせて貰ったわ。葵ちゃんがそこまでして助けたいと思う人なんだもの。言えば解ってくれると思ったのよ。そうよねマリアネラさん?」

メーティスの言葉を聞いたマリアネラはフッと笑いながら頷く。



「そうですね。葵を一人だけ危険な目には合わせられませんね。当然私達も葵と同行します。私達だけではキツイかも知れませんが…何かの役には立てるとは思います」

決意の篭った瞳でメーティスに語りかけるマリアネラは俺の方に振り返る。



「葵、お前の気持は十分に解ったよ。私達も十分に気をつける。必ず生きて…ヨーランの敵を討つから…私達も同行させて欲しい」

「…解りました。お互い十分に注意をして監視しましょう」

「ありがとう葵」

俺とマリアネラが握手をしていると入り口の扉が開き、数人の人が入ってきた。

ふとそちらに視線を移すと、湯浴み場で綺麗になって、子供用の可愛い膝丈のメイド服に身を包んだナディアが、侍女に連れられて立っていた。



「ナディア綺麗になったね。その服も似合ってて可愛いよ」

「…本当?」

そう言いながら着慣れないメイド服のスカートの裾をヒラヒラさせているナディアの頭を優しく撫でると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめている。



「じゃ、話は決まったわね。葵達は明日から頼むわね。視察の結果は視察の翌日に報告するわ」

「解ったよルチア。じゃ~今日は宿舎に戻って、明日の準備をする事にするよ」

俺達はルチア達に挨拶をし、宿舎に戻っていくのであった。













ハプスブルグ伯爵家の別邸を後にした俺達は、宿舎に戻って来ていた。

護衛してくれた魔法師団に礼を言い別れ、宿舎の中に入って行く。

ナディアはグリモワール学院の美しさに目を丸くしながらも、ちっちゃな手で俺の手をしっかりと握りながら、俺の横を歩いていた。



「皆ただいま~」

俺はそう言いながら寛ぎの間に入って行くと、若干1名が俺に飛びついた。



「おかえりなさいですご主人様!」

嬉しそうにそう言い、可愛い頭をグリグリと擦りつけてくるマルガ。



「ただいまマルガ。待たせちゃってごめんね」

そう言ってマルガの頭を優しく撫でると、金色の毛並みの良い尻尾をフワフワさせて、エヘヘとはにかんでいるのが可愛い。

そんな俺とマルガを見て優しい微笑みを湛えていたリーゼロッテが、当然の様に俺の横にいる人物に気がついた。



「あらナディアさんじゃないですか、可愛いメイド服を着ていますわね。今日は遊びに来たのですか?」

そう言ってナディアの前で膝を折るリーゼロッテ。



「いや違うんだリーゼロッテ。今日からこのナディアはこの宿舎に住む事になった。俺の手伝いをしてもらうつもり。皆仲良くしてあげてね」

その言葉を聞いたマルガは嬉しそうにナディアの手を取る。



「よろしくですナディアちゃん!これからは一緒ですね!」

マルガに両手を握られブンブンと振られているナディアは、少し困惑しながらもコクコクと頷いていた。

そんなナディアとマルガを見て優しい微笑みを湛えているリーゼロッテ。



「とりあえずもうすぐ夕食ですわ。マルガさん、ナディアさんを空いている部屋に連れて行ってあげてください」

「はいです!リーゼロッテさん!じゃ、行きましょうナディアちゃん!」

少しお姉さんぶっているマルガに強引に手を引かれたナディアは、寛ぎの間から出て行く。



「そう言えば…ナディアさんのお仲間であるコティーさん達は一緒じゃないのですか葵さん?」

「え!?あ…コティー達は少し別の仕事があるみたいで、それが終わったらこっちに合流するみたいだよ」

少しどもってしまったが、何とか普通に対応すると、リーゼロッテは女神の様な微笑みを俺に向ける。



「そうですか、解りました。その様に手配しておきますわね」

「うん宜しく頼むよリーゼロッテ」

少し苦笑いしながらいう俺を見て、楽しそうにクスッと微笑むリーゼロッテ。

その夜は皆にナディアの事を伝え、軽い歓迎会みたいな事をして眠りについた。



そして翌日、準備の整えた俺は、マルガ達と部屋から出て、朝食を食べに食堂に降りる。

すると先に来ていた、マリアネラ達とナディアが朝食を食べていた。

俺は皆に挨拶をしてステラから朝食を貰い食べ始める。



「今日も俺一人で出かけるから、皆はゆっくり寛いでてね。今日は夕刻迄帰らないから」

「え!?今日は夕刻迄帰らないのですかご主人様~?」

マルガが金色の毛並みの良い尻尾を寂しそうにプランプランとさせている。



「ごめんねマルガ。用事が終わったらすぐに帰ってくるから待っててくれる?」

「はい~ご主人様~」

少し拗ねマルガになっているマルガの頭を優しく撫でると、パタパタト嬉しそうに尻尾を振ってはにかんでいる。

俺は朝食を食べ終え食堂を出てエントランスに向かう所で、誰かが俺の袖を引っ張った。

それに振り返ると、ちっちゃな手で俺の裾を掴んでいる、子供用のメイド服を着たナディアが立っていた。



「どうしたのナディア?」

「…私も…一緒に行く…」

そう言って俺の裾をギュッと握るナディア。



「…今日からマリアネラさん達と鋼鉄馬車を監視するって知ってるでしょ?そのせいで魔法師団の護衛もつかないから、危険なのも知ってるよね?」

「…知ってる…でも一緒に…行く」

そう言って俺の裾を離そうとしないナディア。



「ナディアの気持も解るけど、ナディアだってまだ身体が痛いでしょ?ゆっくりと静養しないと」

「…体は…もう痛くない…ほら…」

そう言って反対の腕をグルグルと回すナディア。

勢い良くグルグルと回してはいるが、明らかに痛さを我慢しているのか、その顔には余裕が無かった。

俺は溜め息を吐いて膝を折りナディアの顔を覗き込む。



「ダメ連れて行かない。宿舎でゆっくりと静養する。いいねナディア?」

俺の諭すような言葉を聞いて、キュッと唇を噛み俯くナディア。



「…嫌…一緒に行く」

「ナディア…」

そう言って少し俺が困惑していると、ナディアは静かに顔を上げ俺を見つめる。



「…守られているだけじゃ…嫌。私も…何かしたい。…コティー達が攫われているのに…私だけ安全な所で…ゆっくりなんで…出来ない!…お願い空…一緒に連れて行って!」

真剣な表情で俺に言うナディア。



むうう…

ナディアの気持も解るけど…

護衛も魔法師団の護衛もいないし、もし戦闘になった時に、ナディアを庇いながら戦えるか不安だ。

俺がその様に思案していたら、後ろから声が掛かった。



「連れて行ってやりな葵」

その声に振り向くと、苦笑いしているマリアネラの姿が見えた。



「でも…マリアネラさん」

俺の困惑している顔を見て、傍に近寄り耳打ちをするマリアネラ。



「仕方ないよ葵。もし、無理において行ったとしても、この子は一人でついて来ちゃうと思うよ?一人で行動させる方がよっぽど危険だとあたしは思うよ?」

確かに…このまま宿舎において行っても、このナディアが大人しく待っている事は無いであろう。

それなら、目の届く手元に置いておいた方が安全か…



「解ったよ。ナディアを一緒に連れて行く」

その言葉を聞いたナディアは、嬉しそうに俺を見つめる



「…本当?」

「うん。但し、俺の言うことを絶対に聞く事!解った?」

「…うん…解った」

そう言ってコクコクと頷くナディアは俺の手をギュッと握る。

それを見て顔を見合わせて苦笑いをする俺とマリアネラは、宿舎を出て王都を歩き始める。



「マリアネラさん、鋼鉄馬車を監視するのは解ってますけど、具体的にどうしたら良いのでしょうかね?」

俺の問に少し得意げなマリアネラは



「それなら心配しなくても良いよ葵。昨日帰りに知り合いの食堂屋に寄って話をつけてきた。そこはこの王都ラーゼンシュルトの留置所の傍にある食堂やでさ、そこからなら鋼鉄馬車に囚人を乗せるのが良く見えるんだよ。そこで食事をしながら監視って訳さ。そこは郊外町の入口付近だし、怪しくは見られないだろうさ」

「なるほど…それは良いですね」

俺の言葉にフフと笑うマリアネラ。

俺とナディアは、マリアネラ達の後をついて歩く。暫く歩いていると、件の食堂屋が見えてきた。

そして食堂屋の中に入り、一番すみの窓際のテーブルに腰を下ろす。



「…確かに、ここからなら良く留置所が見えますね」

「だろ?ここからなら、鋼鉄馬車にどんな囚人を乗せるのか一目瞭然。ま…主人との約束で、1刻おき(1時間おき)に、何か食べるものを注文するのが条件なんだけどさ」

「それは…お腹一杯になりそうですね」

俺の苦笑いの表情を見て、アハハと笑うマリアネラ。

俺達は軽めの食べ物を注文して、窓から鋼鉄馬車を監視し始める。

ナディアは注文した食べ物をモグモグと頬張りながらも、一時も留置所から目を離そうとはしなかった。



「ナディア、そんなに見ていなくても、俺やマリアネラさん、ゴグレグさんも見ているんだから…。夕刻までまだまだ時間はある。疲れちゃうよ?」

「…大丈夫。美味しい物を食べながらだから…疲れない」

そう言ってモグモグと食べながら、穴が空く勢いで見つめ続けるナディア。

俺とマリアネラは見つめ合って苦笑いしながらも、ナディア同様留置所を監視する。



「こうやって見ていると…特に怪しい人物を鋼鉄馬車に乗せている気配は無いですねマリアネラさん」

「…そうだね。まあ、留置所は此処だけじゃないからなんとも言えないけど…あの人攫いの連中は、1日で結構な数の人を攫って居るからね。私の予想が正しければ…複数の留置所に攫った人を振り分けて、鋼鉄馬車に乗せていると思うんだ。だから…この留置所にも、攫われた人が連れてこられる可能性は有ると思うんだ」

マリアネラの言葉に頷く一同。

ナディアは終始一切目を離さずに留置場を見ていたが、夕刻になってもそれらしい人が鋼鉄馬車に乗せられる事はなかった。



「もう夕刻だね。今日はこの辺にしようか」

マリアネラの言葉にキュッと唇を噛むナディア。

俺達は成果を上げる事は出来ずに、その日は宿舎に帰る事にした。



その翌日、俺は同じ様に食堂でマルガ達に出かける旨を説明して食堂を出た時であった。

マルガが俺を呼び止める。



「ご主人様…今日も…出かけられるのですか?」

少し落ち着きのないマルガが俺に語りかける。



「うん、さっき言った通り、また夕刻に帰って来るから…待っててね」

そう言ってマルガの頭を優しく撫でるが、いつもの様に金色の毛並みの良い尻尾が振られる事は無かった。



「…今日もナディアさんを…連れて行かれるのですかご主人様?」

「あ…うん、ちょっと、手伝って貰ってるんだ」

「…私じゃ…お役に立てませんかご主人様?」

そう言って瞳を潤ませるマルガ。



「ち…違うよマルガ!あ…あえて言うなら、マルガの手を煩わせるほどでも無いってだけだよ?」

アタフタしながら言う俺をジッと見つめるマルガは、メイド服のポケットから何かを取り出し、俺の首につける。

それは奇妙な配列で穴の開いた、木彫りの円筒のネックレスだった。



「それは…お守りです。忙しいご主人様の事を考えて、リーゼロッテさんが作ってくれました」

「そうなんだ…ありがとねマルガ」

俺の為に作ってくれた気持が嬉しくなって、マルガをギュッと抱きしめると、マルガも同じ様に抱き返してくれる。



「じゃ、行ってくるねマルガ」

「はい…行ってらっしゃいですご主人様」

寂しそうに言うマルガに後ろ髪を引かれながらも、俺は宿舎の外に出て、王都の町を歩き始める。



「…健気じゃないかマルガもリーゼロッテも」

俺が首に掛けて貰った木彫りのネックレスを手に取りながら見ていると、ニヤニヤしながらまりアネラが口を開く。



「ええ…まあ…」

そう言いながら少し顔の赤くなっている俺を、楽しそうに見つめるマリアネラ。



「そ…そう言えば今日は、ルチア達がバスティーユ大監獄に視察に入る日でしたよね?」

「そうだね。突然の王女の視察。さぞやバスティーユ大監獄は大騒ぎになっている事だろうさ」

そう言って不敵に微笑むマリアネラ。



「…コティー達…大丈夫かな…」

そう言って俺の手をギュッと握るナディア。



「…大丈夫。ルチアは約束したからね。アイツの事だから、隅々まできちんと視察するだろう。きっと何かの手がかりを見つけると思うよ」

俺がそう言うとコクッと頷くナディア。

俺達はそのような事を話しながら、昨日来た食堂屋の収容所の見える席に座る。



そして、昨日と同じ様に軽めの食べ物を注文して食べながら、収容所の鋼鉄馬車を監視していた時であった。数人の男達が食堂屋に入ってきた。

その男達は主人の傍まで行くと、腰につけていたロングソードを引きぬき、一気に主人の胸を貫いた。

夥しい血を流しながら、即死して床に崩れ落ちる食堂屋の主人。床にみるみる血だまりができていく。



「きゃああああ!!!」

食堂屋の女の店員が声を上げた時だった。

もう一人の男がその女性の店員の首を、短剣で跳ね飛ばした。その首が俺達の足元まで転がってきた。

それを見たナディアの顔が、みるみる青白くなっていく。



「…随分と物騒な奴らだね。…食事中は静かにしなさいって、親に言われなかったかい?」

マリアネラが席から立ち上がり、両手に短剣を構える。

俺とゴグレグはナディアを庇う様に立ち上がると、ゴグレグもアイテムバッグから武器を取り出す。

俺も腰につけていた名剣フラガラッハを引きぬき構える。



「私が突っ込むから、葵質はナディアを連れて、食堂屋を出るんだ!行くよ!」

そう言い放ったマリアネラが、食堂屋の入り口に居た男に向かって跳躍する。



『ガキイイイイイン』

激しい火花を散らして、男の一人と鍔迫り合いをするマリアネラ。

そのマリアネラの後ろから、別の男がマリアネラを斬りつける。



「マリアネラさんはやらせないよ!」

俺は名剣フラガラッハで男の剣を弾き飛ばすが、別の男に蹴りを入れられ、カウンターに弾き飛ばされる。



「空!!!!」

ナディアゴグレグに抱えられながら心配そうな声を上げる。

俺はフラフラと立ち上がりながら



「大丈夫!俺はこれくらいじゃやられないよ。ゴグレグさん!この食堂屋の壁ごとブレスで!!!」

「承知!!!!」

そう言い放ったゴグレグは、大きく息を吸い込むと、ソレを一気に吐き出した。



「ウォーターブレス!!!!」

ゴグレグの全力の無数の水の玉のブレスが、男達ごと食堂屋の壁を吹き飛ばす。

大きな音を立てて崩れ去る食堂屋の壁。男達も何とか躱せた様であったが、その威力に少し警戒をしていた。



「今だ!行くよ!」

そう言い放ったマリアネラが先陣をきって行く。

俺達は頷きマリアネラの後に続いて走り出す。



「くそ!あそこは郊外町の入り口だし、人を攫う場所でも無かったはずなのにね!あいつら一体、何処から私達を監視してるって言うんだい!本当に…厄介な奴らだよ!」

走りながら言うマリアネラに頷く俺。



「兎に角、こっちにはナディアもいます。あいつらも見たところ上級者の様ですし、ここはグリモワール学院まで退きましょう!」

俺の言葉に頷くマリアネラ。後ろから4人の男達が俺達を追ってきていた。

その殺気を背中越しに感じながら、もう少しで王都の門に到着できると思った時であった。

俺達の退路を経つ様に、更に4人の男達が屋根から飛び降りてきて、俺達の行く手を塞ぐ。



「グッ…こいつら…まるで私達が、こっちに逃げる事が解って居た様に待ちぶせしやがって!」

マリアネラはギュッと短剣に力を入れる。



「何が何でも…俺達を始末したいのでしょう。でも…俺も只でやられる気は無いですけどね!」

「…同感だ!」

俺の言葉に短く言うゴグレグは、バトルアックスを振り上げて構える。

俺達はナディアを中心に、三角の陣を張る。



「兎に角何とか突破口を開くよ葵!」

「了解ですマリアネラさん!」

その言葉を聞いて、ニヤッと口元を上げる男達。そして、男達は一斉に俺達に襲い掛かってくる。



俺とマリアネラ達は覚悟を決めて、男達と戦闘を始める。

必ず生き抜いて見せると心に誓うのであった。
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高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

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