愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 54 朦朧たる闇

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此処は王都ラーゼンシュルトとバスティーユ大監獄との間にある町コンウィ。

王都とバスティーユ大監獄とを結ぶ街道沿いのその町は、中継地点として潤ってきた町だ。

そのコンウィ町にある、少し豪華な作りの館に、けたたましく鳴り響く足音があった。



「メネンデス様!一大事に御座います!!!」

そう言ってノックもせずに入ってきた兵士を見て、顰めっ面を浮かべるメネンデス。



「なんだ騒々しい!ノックもせずに入って来るとは!」

情婦らしき女に酒を注がせていたメネンデスは、入ってきた兵士を睨みつける。



「も…申し訳ありませんメネンデス様!メネンデス様に至急お伝えしなければならない事がありまして!」

「何だ?その伝えなければいけないと言う事は?」

メネンデスは情婦に注がせた酒に口を付けながら、鬱陶しそうに兵士を見ていた。



「は…はい!今先程、結びの水晶にてバスティーユ大監獄から緊急の連絡がありまして…バスティーユ大監獄に突然現れた、ルチア王女様率いるヴィシェルベルジェール白雀騎士団とエンディミオン光暁魔導師団に、バスティーユ大監獄の特別区画を発見されたとの知らせがありました!」

兵士のその言葉を聞いたメネンデスは持っていた酒の入ったグラスを、床に落とす。



「な…なんだと!?ルチア様に例の特別区画を発見されただと!?以前視察に来た時は、一切何も情報は漏れなかったはずだ!そ…それに、ヴィシェルベルジェール白雀騎士団とエンディミオン光暁魔導師団はルチア王女の指示の下、合同演習をしているだけのはずだったはず!それがどうしてバスティーユ大監獄に向かったのだ!?ヴィシェルベルジェール白雀騎士団に潜伏させている奴らは、何をしていたのだ!!!」

「は…はい!ヴィシェルベルジェール白雀騎士団に潜伏させていた者からは、ただの移動訓練と聞かされていたとの報告が。特段、バスティーユ大監獄に視察に向かうとか、ましてやバスティーユ大監獄に攻め入る等の指令は、一切受けて居なかったとの事です!」

兵士の話を聞いたメネンデスは顔を蒼白にして、ドッと豪華なソファーに倒れこむ様にして座り込む。



「ま…不味い…。あの特別区画が見つかってしまったのなら、管理していた私にその責が及ぶ。そうなれば…私は破滅だ…」

その先を考えたのか、メネンデスは更に顔を蒼白にすると、ガバッと勢い良くソファーから立ち上がる。



「至急領地に戻る!兵士達には装備を整え、いつでも戦える様に伝えろ!それから飛竜を…ワイバーンを用意しろ!」

メネンデスは声高に兵士にそう叫んだ時、その豪華な部屋の扉を開け数名の人影が部屋の中に入って来た。メネンデスはその人影を見て、縋る様に近寄って行く。



「ル…ルードヴィグ!緊急事態だ!」

「…解っていますとも。ルチア様が率いる騎士団達が、例の特別区画を発見してしまった報告は受けています。とりあえず落ち着いて下さいメネンデス様」

「…あ…ああ」

メネンデスの肩に手を置きながら、諭す様に言うルードヴィグ言葉に、少し落ち着きを取り戻すメネンデス。



「兎に角領地に戻り、モリエンテス騎士団に指示を出し、戦いの準備をするのだルードヴィグ!それからワイバーンでグリモワール学院に居るプリムラを連れて来てくれ!プリムラは…私の物…誰にも…渡さぬ…」

そう言って親指の爪を噛みながら、ブツブツと何やら呟いているメネンデスを見て、軽く溜め息を吐くルードヴィグ。

完全に自分の世界に入り込んでいるメネンデスは、ハッと何かを思い出したかの様に顔を上げる。



「そ…そうだ!結びの水晶でジキスヴァルト宰相に連絡を取るのだ!ジキスヴァルト宰相ならきっと手を打ってくれるはず!我らはジキスヴァルト宰相の指示を受けて行動していたに過ぎないのだからな!私が奴らに捕まれば、ジキスヴァルト宰相とて無事に済まぬ筈!ルードヴィグ!すぐに結びの水晶でジキスヴァルト宰相に連絡を取ってくれ!」

最後の糸に縋り付くかの様にそう叫んだメネンデスを見て、軽く首を横に振るルードヴィグ。



「…それには及びませんよメネンデス様」

「ど…どういう事だルードヴィグ?」

困惑するメネンデスをよそにニヤッと嗤うルードヴィグは、一緒に入って来た数人の兵士を見て、瞳で合図を送る。

すると数人の兵士はメネンデスの両側に立ったかと思うと、メネンデスを両側から腕を取って身動き出来ない様にする。それに戸惑うメネンデス。



「な…何をするのだ貴様ら!!!」

甲高い声を出して兵士達を威嚇するメネンデスであったが、押さえつけている兵士は何事も無い様な表情をして、顔色を一切変える事無くメネンデスを押さえつけていた。

そんな狼狽えているメネンデスの前に、クククと嗤いながら歩み寄るルードヴィグ。



「ル…ルードヴィグ!小奴らはなんなのだ!?急ぎジキスヴァルト宰相に連絡を取らなければいけないと言うのに!!」

「先程も言いましたでしょうメネンデス様?それには及ばないと。それにこの者達は私の指示で動いています…この者達は私の命令しか聞きませんよメネンデス様?」

「ど…どういう事だルードヴィグ?」

更に困惑するメネンデスを見て、一層楽しそうな表情をするルードヴィグ。



「確かに良く口の回る貴方がルチア王女一派に捕まれば、ジキスヴァルト宰相や私達も窮地に立たされますが…その様な事にはなりません」

そう言ったルードヴィグは腰につけていた剣を引き抜くと、メネンデスの眼前にその切先を向ける。



「な…何をする気だルードヴィグ!!!何故剣を私に向けるのだ!!!」

そう言い放ったメネンデスを見て、愉快そうに嗤うルードヴィグ。



「まだ解りませんかメネンデス様?…貴方は…ここで全ての罪を被って死ぬのですよ」

その淡々とした口調のルードヴィグの言葉を聞いて、メネンデスは顔を蒼白にして、自分の身に降り掛かった事を理解していた。



「…これもジキスヴァルト宰相の御指示です。覚悟して下さいメネンデス様」

「き…貴様らーーーーーーーー!!!!」

まるで発狂するかの様な声を出すメネンデスを見て、軽く溜め息を吐くルードヴィグ。



「…本当に五月蝿い男ですね貴方は。ま…仕方ありませんね。特に能力の優れていない、運良く伯爵家に生まれただけの貴方では…覚悟も決めれませんか」

「ルードヴィグ!!!!!!」

呆れながら言うルードヴィグに、声を荒げながら飛びかかろうとするメネンデスであったが、両側から兵士に押さえつけられていて、全く動く事は叶わなかった。



「しかし、何の取り柄のない貴方でも、1つ良い事はしました。あの女神の様に美しいプリムラお嬢様をこの世に誕生させたのですからね。貴方に似ても似つかないあのプリムラお嬢様をね」

そう言って剣を構え、その切先をメネンデスに向けるルードヴィグ。



「…プリムラお嬢様の事は心配無なさらないで下さいメネンデス様。プリムラお嬢様は…私の情婦として、末永く可愛がって差し上げますので」

「き…貴様などにプリムラは渡さぬわ!!!!主君を裏切る不届き者の貴様などにな!!!」

激昂して言うメネンデスを見て、深く溜め息を吐くルードヴィグ。



「…実の娘であるプリムラお嬢様を犯す貴方には言われたくは無いですね。プリムラお嬢様は私好みに調教して差し上げますので、安心して死んで下さい」

「ルードヴィグ!!!!!!!!!!!!」

発狂しながらそう叫んだメネンデスの胸深くに、ルードヴィグの剣が突き立てられた。

心臓を一突きにされたメネンデスは、口から大量の血を吐き、ルードヴィグを狂気の瞳で見つめながら事切れる。

ルードヴィグは剣を引き抜くとビュンと剣を振り、血を振り払う。



「…全く最後まで鬱陶しい男ですね」

そう吐き捨てる様に言ったルードヴィグは、供の兵士に結びの水晶を出させる。

そして、ルードヴィグが魔力を籠めると結びの水晶が光り出し、水晶の中に人影が浮かび出す。

その映しだされた美青年はルードヴィグを見て、フフフと楽しそうに微笑んでいた。



「…私の段取り通りに動いてくれた様ですねルードヴィグ団長?」

「勿論ですともヒュアキントス殿。貴方から頂いた手紙通りに行動させて貰ってますよ。…約定通り、メネンデス伯爵は始末しました」

そう言ってメネンデスの亡骸を水晶の前に出すルードヴィグ。それを確認して頷くヒュアキントス。



「…確かに。では、ルードヴィグ殿とモリエンテス騎士団の方々は、早急にジキスヴァルド宰相の騎士団、ルーファリアラス櫨染騎士団の砦に向かって下さい。既に段取りは取ってありますので。装備は最小限にし、モリエンテス騎士団だと解る物は全て放棄して下さい。従属の紋章は見えない様に徹底して下さい」

ヒュアキントスの言葉に頷くルードヴィグ。



「ではヒュアキントス殿の指示通りに、我らモリエンテス騎士団は動かさせて貰います。…ですから約定通り…」

ルードヴィグがその先を言おうとして、ヒュアキントスの微笑みに遮られる。



「…解っていますとも。この一件でメネンデス伯爵家は間違いなく取り潰しにされるでしょう。その後釜に…ルードヴィグ殿を領主として据える事は、ジキスヴァルド宰相も解っておられる。その段取りも出来ていますので安心して下さい」

ヒュアキントスの言葉を聞いて、ニヤッと口元を上げるルードヴィグ。



「ではルードヴィグ殿、その男の亡骸も見つからない様に砦に運んで下さい。他の情報が漏れそうな者の始末も任せます。全てを手早くお願いします」

そう言って水晶から姿を消すヒュアキントス。

その言葉に頷くルードヴィグは、情婦の女の首を刎ね殺す。



「お前達はこの部屋の始末をしろ。この男の死体は、箱に詰めて解らぬ様にしろ。素早く砦に移動するぞ!急げ!」

ルードヴィグの言葉を聞いた兵士達は、その指示の下的確に行動を開始するのであった。



「…あちらは全て手はず通りになった様だなヒュアキントス?」

豪華な屋敷の一室で、ワイングラスを傾ける眼光の鋭い男。



「はい、ジキスヴァルド宰相。私の手はず通りにルードヴィグ殿は動いてくれています」

ヒュアキントスの言葉を聞いて、フムと頷くジキスヴァルド宰相。



「…お前からこの手紙を貰った時は時期尚早だと思っていたが…結果的にはお前の言う通りにして良かったと言う事だな」

ジキスヴァルドの言葉を聞いたヒュアキントスははフフと笑うと。



「…それを実行して頂けたジキスヴァルド宰相の先見の明でしょう。凡人ならまずは疑う事を、実行して頂けたのですから」

「…まあ、今回はお前もそれ相応の覚悟を決めて、事に当たっている事だろうからな。それにお前の父であるレオポルド殿も、ヒュアキントスに全て任せてあると言っていたのでな。ソレを信じさせて貰ったまでだ」

ククッと笑うジキスヴァルドを見て、涼やかに微笑むヒュアキントス。



「…しかしまさか例の行商人が、直接バスティーユ大監獄に侵入しているとは、思いもよらなかったのではありませんかジキスヴァルド宰相?」

そう言ってワイングラスを傾けているかなり豪華な司祭服に身を包んだ男。



「…確かに。ザビュール殿の言う通り、どのような方法を用いたかは解らぬが…髪の毛の色や眉の色を完全に染めて、別人になりすまして居たらしい。流石のモリエンテス騎士団のサーヴェイランス達も見抜けなかった程なのだからな」

そう言ってフンと鼻を鳴らすジキスヴァルド。



「その行商人…邪魔ですな。…もしよろしければ…今後の事を考えて、此方で始末させて頂きましょうか?」

ザビュールの言葉を聞いたジキスヴァルドとヒュアキントスは顔を見合わせる。



「…確かに、あの行商人は邪魔な存在ではありますが…今の彼の周りには、エンディミオン光暁魔導師団の手練れが警護をしています。この一件で、彼の周りは更に厳重に警護される事でしょう。場合によっては、あの暁の大魔導師やアブソリュート白鳳親衛隊副団長にして、クーフーリンの称号を持つマティアス卿を相手にしなければならないかもしれないのですよ?この国に…その2人を相手に出来る人物など…数える程しか…」

そう言って顎に手を当てるヒュアキントスを見て、愉快そうな顔をするザビュール。



「…ご心配なく。その者なら…例え暁の大魔導師が相手であろうとクーフーリンが相手でも…敵ではございません」

一切の虚偽無く言い切ったザビュールの言葉を聞いて、少し目を細めるヒュアキントス。



「…仕掛ける時期は私が指示させて頂きます。それと…一切の証拠が残らない様にさせて頂きます。それで宜しいでしょうか?」

懐疑の目でザビュールを見つめるヒュアキントス。

ソレを可笑しそうにしながらワインを口に運ぶザビュール。



「…それで構いませんよヒュアキントス殿。何せこちらの狂犬は…全てを噛み殺し…消し去ってしまいますからな」

「…それなら結構です」

ヒュアキントスの短い返事を聞いて、フフフと嬉しそうに笑うザビュール。



「では、ジキスヴァルド宰相、ザビュール王都大司教様、この後も段取り通りお願いします」

ヒュアキントスの言葉に頷くジキスヴァルドとザビュール。

それを確認したヒュアキントスは綺麗にお辞儀をして部屋から退出する。



「ザビュール大司教殿の言う事は…信じて良いのかなヒュアキントス?」

部屋を出て隣を歩くアポローンが顎に手を当てながらヒュアキントスに問う。

ヒュアキントスは歩きながら何かを考えて居る様であった。



「…普通に考えれば、あの暁の大魔導師やマティアス卿に対峙出来る者など、ジキスヴァルド宰相の周りには居ない筈。そうなれば…母国である神聖オデュッセリアからの刺客か…」

そう言ってヒュアキントスを見つめるアポローン。

それを聞いて、何かを思い出したかの様なヒュアキントス。



「…テトラグラマトンラビリンス」

「テトラグラマトンラビリンス?」

ヒュアキントスの囁く様な声に首を傾げながら復唱したアポローン。



「そうテトラグラマトンラビリンス。神聖オデュッセリアの国教であるヴィンデミア教を影から守護する存在として、真しやかに囁かれている者達が居るらしい。神聖オデュッセリアやヴィンディミア教はその存在を認めては居ないけどね」

「その…テトラグラマトンラビリンスと言う者達は、あの暁の大魔導師やマティアス卿に対峙出来る程の者達なのかいヒュアキントス?」

「…さあ、ソレは解らないね。…只、反ヴィンディミア教の国や傭兵団、ヴィンディミア教と敵対していた他の宗教一派は、そのテトラグラマトンラビリンス達によって駆逐されたと言う噂がある位だ。もしその者達が実在するのであれば…暁の大魔導師やマティアス卿と対峙出来うる力を持っていたとしても不思議ではないね」

ヒュアキントスの説明を聞いて、なるほどと頷いているアポローン。



「…その件はまた考えるよ。兎に角、これからの事だね。これからは少し忙しくなるよアポローン」

そう言ったヒュアキントスの顔を、嬉しそうに見ているアポローン。



「…どうしたんだいアポローン?僕の顔に何かついているかい?」

「…いや、そうではなくて…何処か…嬉しそうだねヒュアキントス」

そのアポローンの言葉を聞いたヒュアキントスはフフフと笑う。



「…まあ…以前の僕ならば、今回あの葵のした事を予測できず選定戦の時の様に、ただ項垂れる事しか出来なかったかもしれない。だけど…もう僕は…葵がどの様な奴であるかを知っているからね」

瞳を光らせるヒュアキントスは口元を上げる。



「…あの選定戦の敗北のお陰で、僕は商人としての全てを奪われたんだ。その上罰として…あの反吐がでる様な特別区画の管理までさせられていたんだからね。この屈辱…今度は葵に味あわせてやるさ」

そう言って恍惚の表情を浮かべるヒュアキントス。



「…楽しみだよ葵。君の顔が…苦悶に染まるのを見れるのがね」

そう小さく呟いたヒュアキントスは、ジキスヴァルドの館を後にするのであった。











バスティーユ大監獄から帰還した翌日の朝、俺達は宿舎の会議室に集まっていた。

早めの朝食を済ませ、会議室のテーブルに付く俺達に、ステラが紅茶を入れてくれる。

皆が紅茶を飲んでいると会議室の扉が開かれ、3人の人影が会議室の中に入ってきた。



「おはようルチア。それにマティアスさんにメーティスさん」

俺が3人に挨拶をすると、他の皆も同じ様に挨拶をしている。

その中で目の周りに軽いクマを作っているルチアは、目をショボショボとさせていた。



「ルチア…目の周りにクマが出てるよ?…ひょっとして寝てない?」

俺の指摘に、眠そうに目をこするルチアは、ステラから貰った紅茶をグイッと飲み干す。



「…ま~ね。バスティーユ大監獄から予想以上のモノが見つかってしまったからね。お母様やアリスティド卿、それにメーティス先生と今後の事をついさっきまで話していたのだから。…貴方も人の事を言えないんじゃないの葵?…クマでてるわよ?」

そう言って少し気に食わなさそうな顔をしているルチア。



確かにルチアの言う通り、俺もあれから一睡も出来ない状態だ。

あの供給準備室の光景が忘れられないのもあるが、大きな理由は…

コティー、トビ、ヤンを救えなかった…その後悔の気持からだ。

あの供給準備室でコティー、トビ、ヤン達は…

そう考えただけで、全身の毛穴から変な汗が出て、激しい悪寒に襲われる。

それと同時に激しい怒りが俺の身体を包む。

俺がもっと早くにコティー達を救えていれば…

もっと早くに、行動出来ていれば…もっと…もっと…

その思いが浮かんでは消えて、繰り返し俺の中に飛来する。



「葵さんもう1杯紅茶を飲まれてはどうですか?」

その綺麗で優しい声に、俺はふと現実に戻される。

視線を上げるとリーゼロッテが優しい微笑みを湛えながら、俺の肩に優しく手を置いていた。

その横で、俺の手をギュッと握っているマルガも心配そうに俺を見つめていた。



「…そうするよ。ステラもう1杯紅茶を貰える?」

「はい葵様」

ステラは優しく俺に微笑みかけると、俺に新しい紅茶をカップに注いでくれる。

ステラから入れて貰った紅茶を揉んでいる俺を見て、軽く溜め息を吐くルチア。



「所で葵、ナディアはどうしたの?」

「…ナディアは昨日連れて帰ってから、ずっと寝たままだよ。俺の魅了はもう解いてあるけど…まだ起きてこないね」

「…そう」

ルチアは淋しげに視線を足元に落とし、ギュッと拳に力を入れていた。



「…兎に角、これからの方針を説明するわね葵ちゃん。他の人達には、葵ちゃんが判断して説明するのよ?」

メーティスの言葉に頷く俺。



この会議室には、マルガ、リーゼロッテ、ステラ、ミーア、シノン、マルコ、ユーダが同席している。

レリアにエマ、マリアネラにゴグレグには、後で説明すると言う事で、席を外して貰っているのだ。

当然この部屋は、メーティスさんの風の魔法で音が遮られている。



「葵ちゃんが呪いの効力を無効化させた男から、情報を抜き取ったの。それで…今回の事が見えてきたわ」

メーティスの言葉を聞いたリーゼロッテが少し目を細める。



「良く情報を引き出せましたねメーティスさん。私はてっきり…制約魔法で情報を言えない様な契約をされているのだとばかり思っていましたけど」

リーゼロッテの言葉にステラも頷いていた。



制約魔法は対象者に強制的に約束事を守らせる事が出来る魔法契約だ。

以前ドワーフのヴァロフが言っていた様に、金貨の質を下げて作ってはいけないと契約させられると、ソレに違反した行動をすると身体が硬直して動かなくなったりする。

リーゼロッテは捕まえた男が、きっと今回の事を喋れない様な制約魔法契約をさせられているだろうと先読みしていたのであろう。



「リーゼロッテの言う通り、あの男は制約魔法で口を封じられていたわ。…だけど、ソレを躱し情報を取り出す方法が有るのよ。…極々一部の人にしか使えない、古代魔法と言われる非人道的な外法の秘術だけどね。…今回の件に関しては私も本気よ。一切情けを敵にあたえる事はしないわ。だから…男がどうなったのかは聞かないでね」

そう説明したメーティスの瞳は、絶対零度の輝きに満たされていた。



「横道に逸れたけど、今回の一件…全てを明かす事は出来ないと…話が決まったの。この一件に関わっていた者達は全て捕まえて法の下裁きを受けさせるけど…罪状は伏せられるか…別のものにされるわ」

「それは…どういう事なのでしょうかメーティスさん」

マルガが可愛い首を傾げて居る。その横でマルコも同じ様に首を傾げていた。



「ソレは私から説明するわ」

その声に視線を向けると、ルチアが気丈に決意の光を瞳に宿らせていた。



「事の発端は…国から郊外町の人々を救う為に出ている膨大な国費を、一部の者達が全て奪っていた事なのよ」

ルチアはギュッと拳に力を入れながら説明を始める。



このフィンラルディア王国を治める善王アウロラ女王は、郊外町の人々を救う為に多額の国費を費やし、ヴィンディミア教の支援と協力の下に、食料を無料で配布している。

ソレはフィンラルディア王国に有る全ての郊外町で行われているらしい。

一般の人々にはヴィンディミア教が表に出ている為、アウロラ女王の指示である事は浸透していないが、一部の有識者にはアウロラ女王が善王であると認識される1つの要因になっているのだ。



「人が攫われ出したのは、議会で国費の一部をを郊外町の人々に施す事を了承された時からよ。当時猛反対されたこの議案は、お母様の気持ちを…反対していた他の六貴族達も渋々だけど理解してくれた…そう思っていたけど、現実は違ったのよ。郊外町のの人々に施す為の国費は奪われ…その施しの代わりに…」

そう言いかけて言葉を濁すルチア。



…そうか。

膨大な国費は横領され、その食糧費の代わりに…郊外町の人々を…食料に…

確かにあれだけ原型を崩されれば、何の肉なのかは解らない。

調理次第では…



「…そうなれば、協力して施しをしていたヴィンディミア教の教会も、奴らの手に染まっていたと…言う事なのでしょうかルチアさん?」

リーゼロッテの言葉を聞いたマルガにマルコは激しく瞳を揺らしていた。

その手には、以前ヴィンディミア卿の神父であるジェラードから貰った木彫りの女神アストライア像が握られていた。



「…ソレはまだ解らないのよリーゼロッテ。男の情報は限られていて、引き出した情報も全てが完全に取り出せた訳ではないの。制約魔法はキツイ呪い系の魔法だから、古代魔法を使っても完全には行かないのよ」

「それと、この件を取り仕切っていたはずのメネンデス伯爵の行方が解らないのよ。それどころか、モリエンテス騎士団の団長であるルードヴィグも行方知れず。今各方面に手配して探させている段階よ」

ルチアの言葉を聞いいて、早く捕まらないかな?と言い合っているマルガにマルコ。



「それに、直接ヴィンディミア教を追求する事も難しいわ。フィンラルディア王国から支給されている食料が…人であったなんて事…もし、ヴィンディミア教の教会が無実だとしたら、施しを提供したフィンラルディア王国が窮地に立たされるからね」

メーティスの言葉に頷いているリーゼロッテにステラ。



そりゃそうだろう。

人々に慈愛を持って施しをしているであろう教会が、人の肉を食わせていたなんて事になったら、各地で暴動が起こるだろう。

ヴィンディミア教が無実なら、女神アストライアを汚されたとして、ヴィンディミア教の聖地があり国教としている五大国、神聖オデュッセリアとの戦争になりかねない火種だ。

それがフィンラルディア王国の所業、アウロラ女王の指示の下行われていたと誤解されれば、アウロラ女王は窮地に立たされるであろう。

なのでヴィンディミア教が関与していたかは、直接調べられないって事であろう。

無闇に藪をつついて、大量の蜂に襲われる事は避けるのは常識だ。



「兎に角、メネンデス伯爵を支給捕まえるのと同時に、捕まっていたユーダさんの話を聞きたいの。それによっては…ヴィンディミア教は勿論の事、本当の黒幕を追求できるかもしれない」

そう言ったルチアは、ゆっくりとユーダに近づき、そっと手を取る。



「ユーダさんこの国の全ての人の為に…貴女の知っている事を話して貰えますか?」

決意の瞳で語りかけるルチアを見たユーダは、ゆっくりと全てを語り始める。

その話を聞いたルチアは、突破口を見つけたかの様に、瞳を輝かせる。



「その事を…法廷で証言してくれますかユーダさん?」

ルチアの問いかけに静かに頷くユーダ。



「葵、明日ハプスブルグ伯爵の別邸に来て頂戴!貴方にも協力して欲しいことが有るから!」

俺は静かに頷くと、ルチアは全ての段取りを組み立てているかの様であった。

俺達はルチアの指示の下、行動を開始するのであった。
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