愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 55 放たれた狂気

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翌日、俺達はルチアの指示の下ハプスブルグ伯爵家に集まっていた。

沢山の装飾品が並ぶ応接室に入り、メイドが入れてくれた紅茶を飲みながら待っていると豪華な扉が開かれ、数名の人影が部屋の中に入ってきた。



「皆さんお待たせしましたね」

そう言って軽く頭を下げるアリスティドに挨拶をする俺達。その横には沢山の書類を持ったマクシミリアンとマティアスの姿があり、目のクマを更に大きくしているピンクの髪をした超美少女の姿も目に入る。

軽く口に手を当て、欠伸をしながら目をショボショボさせている超美少女は、ドカッと円卓の椅子に腰を掛けると、メイドが入れた紅茶を眠気覚ましとばかりに一気に飲み干す。



「ル…ルチアさん…大丈夫ですか?」

「…大丈夫よキツネちゃん。心配してくれたの?」

そう言って疲労感を漂わせながらも、優しくマルガの頭を撫でているルチア。

それを見てフフと優しい微笑みを浮かべるアリスティドが口を開く。



「皆さん良く集まって下さった。今回皆さんに集まって貰ったのは、例のメネンデス伯爵家とその騎士団であるモリエンテス騎士団が行なって居た事を、法廷で裁く為の話し合いであるのは解って頂けていると思います。昨日からルチア王女を交え打ち合わせをして、大方段取りの方は決定しました。今日はその段取りを皆さんに伝え、細部を打ち合わせしたいと思います」

アリスティドの言葉に頷く一同。



「…その話の前に少し伺いたいのですが、この件の当事者であり主犯であるメネンデス伯爵とモリエンテス騎士団の団長であるルードヴィグの確保は出来たのでしょうか?」

リーゼロッテが綺麗な声を部屋に響かせる。

そのリーゼロッテの言葉を聞いたマクシミリアンは、軽く溜め息を吐きながら軽く首を横に振る。



「いや、まだ捕まえる事は出来ては居ないのが現状だよ美しいエルフのお嬢さん」

「じゃあ…どうやって法廷で裁きを受けさせるの?」

マクシミリアンの言葉を聞いたマルコが困惑した表情を浮かべ、マルガと顔を見合わせていた。



「それについては話し合いました。確かに今回の件の当事者であろうメネンデス伯爵と団長のルードヴィグの確保は出来ていません。本来なら当事者の居ない裁判など開いた所で、裁きを与えられる事など出来はしませんが…今回は…少し状況が違います」

そう言って円卓に緊張した面持ちで座っているユーダに視線を向けるアリスティド。



「…今回は、当事者であるメネンデス伯爵とモリエンテス騎士団のルードヴィグに指示を出していた‥黒幕である…ジキスヴァルト宰相を法廷で裁く事が目的です。その為にこうして皆さんに集まって頂いたのです」

アリスティドの言葉に頷きながら、そう皆に語りかけるマクシミリアン。



「昨日、ルチア王女から話は聞いていますが…法廷で知っている事を証言してくれると言うのは間違いないですかなユーダさん?」

静かに語りかけるアリスティドの言葉に一瞬視線を下げるユーダは、暫く俯きながら瞳を閉じていが、ゆっくりと顔を上げる。



「は…はい、私は…法廷で知っている事全てを…証言致します」

ユーダは握り拳に力を入れ、少し震える声でそう告げる。



「…解りました。昨日もルチア王女から話は聞いていますが…直接、私達にも話をきかせて頂けますか?」

優しく語りかけるアリスティドの言葉に、少し躊躇いながらもコクッと頷くユーダは、自分の知っている事をアリスティド達に説明していく。



食堂屋で襲撃されマルガ達に助けられたあの日、ユーダはとある学徒からお菓子を沢山貰ったらしい。

物腰の柔らかい優しそうな女性の学徒であった事に加え、俺達にお世話になっていると聞いたユーダは、すっかり安心して女性の学徒に礼を言い、有り難く頂いた。

それを護衛している兵士や門番達に、いつもお世話になっている事のお礼をしたくておすそ分けをして宿舎に戻った。

そして、小用のあったユーダは宿舎の外に出て、小用を済ませようとした時に、学徒に扮した男達に捕まり、気を失わさせられたらしい。

そして気がついたら、バスティーユ大監獄の特別区画に有るあの部屋に監禁されていたらしい。



「それで…その監禁されている部屋で、ジキスヴァルト宰相とメネンデス伯爵に会ったのですね?」

「…はい。この部屋で大人しくしていれば…命は取らないと言われました」

「その時、部屋で話をしていたジキスヴァルト宰相とメネンデス伯爵の会話を聞いたのですね?」

「はい、そうです。ジキスヴァルト宰相はメネンデス伯爵に詳細に指示を出していました。生産量の事や、ルチア王女様達の事…」

自分の知り得る事を、包み隠さず話していくユーダ。

その内容を聞いたアリスティド達は、瞳をキラリと光らせる。



…決定的だろう。直感でそう思う。

この話を法廷で証言されれば、間違いなくジキスヴァルト宰相は法によって裁かれる事となるであろう。ユーダが話してくれた内容は、それを確定させるだけの内容を有している。

ふと視線を感じそちらを見ると、リーゼロッテも俺と同じ様な事を考えていると思わせる瞳の色をしていた。



「ユーダさんを証人として法廷に立って貰う事は解りました。しかし、ユーダさんは私達の信用の出来る仲間ですが…法廷で証人として証言させると言う事…少し心配な所もありますわね」

確かにリーゼロッテの言う通り…ユーダは貴族でも何でもない只の平民。しかも、ついこの間郊外町に来たばかりの者だ。

俺達の宿舎で一緒に生活する様になってからは、きちんとこの王都に住民登録をして税金を払い、フィンラルディア王国の国民として認められては居るが…

法廷で証言をさせるには、その人の信憑性も当然問われる。

今回、大きな裁判になるであろうその法廷に、決定的な証人として立たせたとしても、その証言を信じてもらえるかどうかをリーゼロッテは言っているのであろう。

しかし、リーゼロッテの言葉を聞いて、その意味の解っているルチアは、口元を上げ小悪魔の様に微笑む。



「…それは大丈夫よエルフちゃん。ユーダさんが攫われてしまった事は、グリモワール学院の統括理事であるメーティス先生も証言してくれるわ。ユーダさんが実際にバスティーユ大監獄に攫われていたのは、私やアリスティド卿も確認している。当然、メネンデス伯爵のやっている事を調べていた私達が、ユーダさんを攫ってバスティーユ大監獄に閉じ込めるなんて事は出来ない。そう言う自作自演は不可能だった。ユーダさんの人柄も沢山の兵士達が証言してくれるわ。ユーダさんの事は…王女である私とアリスティド卿が、証人として十二分にその資格があると、法廷で宣誓するから安心して」

ルチアの言葉を聞いて、涼やかに微笑み頷くリーゼロッテ。



まあ確かに、ユーダが攫われた事は皆が知っているし、俺達がジキスヴァルト宰相を貶める様な事をバスティーユ大監獄で出来るはずはない。バスティーユ大監獄はジキスヴァルト宰相の管理下にあったのだから。

それにフィンラルディア王国の王女であるルチアと正義の象徴であるハプスブルグ伯爵家当主のアリスティドが、その名をかけてユーダの事を法廷で証人として認める宣誓をするのであれば、他の者も文句は言えないであろう。



「それでその裁判はいつ行うのルチア姉ちゃん?」

「…法廷は、5日後に開かれるわマルコ。…5日後にバレンティーノ宮殿にあるテミス宮で開かれるわ…全ての者に審判を下す…女王裁判がね」

「「女王裁判!?」」

ルチアのその言葉を聞いたマルガにマルコが声を揃えて驚きの声を上げる。



…女王裁判。

各法廷の最上位に位置づけされ、最高権力者であり、統治者である女王が直接下す審判は絶対。何者もその審判からは逃れられない。

女王の威信も掛けるこの裁判…

アウロラ女王も覚悟を決めていると言う訳か…



「大国フィンラルディア王国の六貴族であり宰相であるジキスヴァルト卿を裁くのですからね。言い逃れや言い訳の出来ない、絶対審判である女王裁判にて裁く。此れ以上の事はありませんからね」

「マクシンの言う通りね。それに女王裁判に於いては、その罪状や召還理由を相手に伝え無くても良いからね。召還された者はいかな理由があろうとも出廷しなければならないから。ジキスヴァルト宰相には一切の情報を与える事無く…女王裁判の法廷で…一気に追い詰めて絶対審判を下してやるわ!」

ルチアの決意の瞳を見て、コクコクと頷いているマルガにマルコ。



「皆さん大体の事は理解して頂いたと思いますので、細部の詳細を打ち合わせしましょうか」

アリスティドの言葉に頷く一同。

俺達は女王裁判の段取りの説明を受け、各々の役割を教えて貰う。



「では女王裁判当日迄は、宿舎にて待機をしていて下さい。女王裁判の鍵であるユーダさんも居ますから、宿舎の警護は今までよりずっと強化されます。メーティス卿供打ち合わせをしておりますので、何かをされる心配はないでしょう」

その言葉に安堵しているマルガにマルコ。

俺達は皆に挨拶をして、ハプスブルグ伯爵家の別邸を後にする。

そしてエンディミオン光暁魔導師団の護衛の下、グリモワール学院の門をくぐった時であった。

1人の門番が馬車に近づいて来て、一枚の羊皮紙の手紙をユーダに手渡す。

その手紙の封を切り、中身を確認したユーダは悲しみの表情を浮かべ、深い溜息を吐く。



「…冒険者ギルドからの…手紙ですか?」

俺の言葉を聞いて、静かにコクッと頷くユーダ。



俺は少し前に、ユーダの生き別れた旦那さんと娘を捜索する依頼を出している。

冒険者ギルドは依頼を受けた冒険者から、一定の期間ごとに報告する義務をつけている。

ユーダが貰った手紙は、冒険者ギルドからの定期報告の手紙だったのだ。

しかしその内容が芳しくない事がユーダの表情から見て取れる。



「ユーダさん!きっと生き別れた旦那さんと娘さんは見つかるのです!諦めずに頑張りましょう!」

ユーダの手を握り必死に訴えるマルガを見て、少し儚い表情をしながらも、嬉しそうに瞳を潤ませているユーダ。



「…マルガの言うと通りですよユーダさん。諦めずに捜索して貰いましょう」

「…ありがとうございます葵さん。…皆さんも」

そう言って瞳から涙を流し微笑むユーダを見て、マルガにマルコも瞳を潤ませていた。



「じゃ~今日は宿舎でゆっくりとしましょう」

俺の言葉に頷く一同。

俺達は食者の中に入っていくのであった。











宿舎の中に入った俺達は寛ぎの間に向かった。

そして寛ぎの間に入るとステラが俺に声を掛けてきた。



「葵様、ナディア様が目を覚ましました。…ですが…」

そう言って言葉を濁すステラ。

俺はステラが両手に持っている、ナディアに食べさせる為の食事を乗せたトレイを受け取り、ナディアの部屋に向かう。そして、部屋の扉を軽くノックする。



「ナディア俺だけど…入って良い?」

「…うん」

俺の声に暫くの沈黙の後に、掠れる様な声で小さく返事をするナディア。扉を開け部屋の中に入って行く。

するとナディアはベッドに持たれながら、虚ろな表情で俯いていた。

俺はナディアの隣に腰を下ろし、すぐ傍にあるテーブルに持ってきた食事を置く。



「…2日間ずっと眠りっぱなしで心配したよ。お腹空いてるでしょ?食事を持ってきたから食べる?」

俺のその言葉を聞いたナディアは、虚ろな表情で俯きながら弱々しく首を横に振る。



「…いらない。…食べたくない」

そう言って言葉少なげに言うナディアは、静かに顔を上げ俺に視線を合わせる。



「…私が寝ている間に…どこに行ってたの空?」

「…ハプスブルグ伯爵家の別邸に行ってた」

その俺の言葉を聞いたナディアは、ガバッと俺にしがみ付く。



「ねえ空!…コティーは!?ヤンは!?トビは!?見つかったよね!?元気で下で…待ってるんだよね!?」

藁をも縋る勢いで、捲し立てる様に言うナディア。

俺の身体を必死に揺さぶるその姿が、俺の心に激しい痛みを感じさせる。



「…捜索の結果、コティー達は…見つからなかったんだ」

俺の力なさげなその言葉を聞いたナディアは、みるみる瞳を潤ませる。



「…う…嘘だよね空?…私を驚かそうと…してるんだよね?…ねえ…空…空ーーー!!!!」

可愛い瞳から大粒の涙をポロポロと流しながら嗚咽しているナディアが、一層俺の身体を激しく揺さぶる。

俺はそのナディアを見て何も言えなくて、只々ナディアに揺さぶられているだけであった。

そんな俺の表情を見たナディアは、激しく首を横に振り俺にギュウウッとしがみつき、大声を上げて泣きだした。



「…ごめんナディア。俺がもっと早くに…コティー達を救えていれば…」

俺はナディアの小さな頭にそっと手を添えると、その手をきつく握り返してくるナディア

その手の暖かみを感じた俺は、激しい悪寒と同時に、激しい怒りがこみ上げる。

そんな俺の表情を見て、そのちっちゃな両手を俺の頬に添えるナディア。



「…空のせいじゃない…だから…そんな顔しないで…空…」

瞳から大粒の涙を流しながらも、俺の事を気遣ってくれるナディア。

俺も我慢出来無くなってナディアをギュッと抱きしめると、ナディアもちっちゃな両手で俺を抱き返してくれる。そのナディアの暖かさが、俺の何かを和らげる。

暫くそうしていた俺とナディアは、少し落ち着きを取り戻す。

そして泣きはらして赤く腫れている目を、ちっちゃな手で擦るナディアは俺に向き直る。



「…空、全部…教えて。一体あそこで何が…行われていたのか。全て…教えて」

ナディアは俺の手を握りながら、決意の目で俺に訴えかける。

俺は一瞬全ての事を話して良いかどうか悩んだが、この瞳を前にして嘘をつく事は、ナディアを侮辱する事だと理解出来た。

俺はゆっくりと静かに語りだす。



フィンラルディア王国が出していた国費を、メネンデス伯爵家が全て横領し、その食費の代わりに攫ってきた人々を食料として、教会から施しさせていた事。

そして、そのメネンデス伯爵に指示を出していた黒幕が、この国の宰相であるジキスヴァルト宰相である事…

今解っている全ての情報を、包み隠さず話す。

その俺の話を聞いたナディアは、ベッドからガバッと立ち上がり、扉に向けて走りだそうとしていた。



「待ってナディア!何処に行くつもり!?」

「…だって、コティー達に非道い事をした悪者が…まだ…捕まってない!…私も…探す!」

危険を感じた俺は瞬時にナディアの手を取る。そう言ったナディア瞳は、ドス黒く染まって居るかの様な危うい光を放っていた。



「ナディアの気持ちは解る!…だから今は行かないで。コティー達の仇は…俺が取るから…ナディアは…行かないで…」

俺のその言葉を聞いたナディアは、その瞳の色を和らげる。



「…必ず…俺がコティー達の仇を打つから…だから…」

微かに声の出せた俺を見て、ナディアは再度大粒の涙を流し俺にしがみつき嗚咽していた。



『…きっと…きっと…仇を討つ!!!』

俺の胸の中で震えながら泣いている小さなナディアの体温を感じながら、俺は心の中でそう誓っていた。











ハプスブルグ伯爵家の別邸で打ち合わせをしてから3日が経った。

明後日には、王宮バレンティーノ宮殿内にあるテミス宮で女王裁判が開かれる。

俺達は宿舎にて待機中だ。女王裁判が開かれるまで、必要最低限外に出ない様にしていた。

俺達の宿舎を警護してくれている魔法師団の兵士達も、いつ敵の襲撃があるか解らないので、最大の厳戒態勢で俺達の宿舎を警護してくれている。

メーティスも常に学院内にとどまり、ちょくちょく顔を出しに来てくれている。

暁の大魔導師の2つ名を持つメーティスや、世界にその名を轟かせているエンディミオン光暁魔導師団の中でも、特にメーティスが信用をしている手練の兵士達も警護してくれている事もあって、俺達は何事も無く女王裁判が開かれる日を待っていた。

そんな中、マリアネラが少し悩みながら俺に話しかけてきた。



「…葵、ちょっと相談したい事があるんだけど…」

そう言って言葉を濁すマリアネラ。



「どうしたのですかマリアネラさん?」

「いや…ちょっとこの手紙を見て欲しいんだよ」

そう言って一枚の手紙を俺に手渡す。



「…これは?」

「ああ、その手紙は、昨日ジェラードから貰ったものなんだ。内容を見て貰えるかい?」

俺はマリアネラから手渡された手紙を読む。



『親愛なるマリアネラへ。君が調べている人攫い達の件について、とても重要な事が解った。きっと君達が知り得る事の無い、非常に重要な情報だ。それを伝えたい。だから依頼を受けている葵さんと君とで指定した場所に来て欲しい。この情報は非常に重要で、バレれば僕の命は無いだろう。だから、誰にも言わずに、葵さんと君だけで来て欲しい。だが、安全の事を考えて、葵さんの奴隷の方やマルコ君、君の仲間であるゴグレグさんは一緒に来て貰っても結構だ。それに、他の手練の護衛の方も数名ならバレずに行動できるでしょう。待ち合わせ場所は別紙に地図を書いた。では待っているよ。ジェラード』

その内容を確認した俺にマリアネラが声をかける。



「葵…どうしたら良いと思う?」

「そうですね…この手紙は、ジェラードさんの物で間違いないのですか?」

「ああ、間違いないね。手紙の裏を見てくれ葵」

俺はマリアネラが言う通りに手紙の裏を見ると、変な記号が手紙の隅に書いてあった。



「それは私達とジェラードしか知らない記号なんだ。私やジェラードが、お互いを確認できる様な…合図みたいなものだね。…その記号は間違いないし、筆跡もジェラードの物だ。この手紙は間違いなくジェラードからの物だよ」

その言葉に納得する俺。



「ジェラードはバレると命が危ないと言っている。って事は、今ジェラードに危険が迫っているって事になる…もし…ジェラードに何かあったら…私は…」

そう言って瞳を激しく揺らしているマリアネラ。



…確かにこの件はまだまだ解っていない事が多い。

俺達の知り得ない情報を、教会を通じてジェラードが知ったのであれば、ジェラードの身に危険が及んでもなんら不思議ではない。

そうなればジェラードも…コティー達の様に…

そう考えて、居てもたってもいられないと言った感じのマリアネラ。



「…俺達にはまだ奴らの監視が付いている可能性が高いです。ジェラードさんの言う通り、ごく少数で指示された場所に向かえる様に、段取りを取ります」

その言葉を聞いたマリアネラが安堵の表情を浮かべる。

俺は寛ぎの間に護衛目的で遊びに来ているメーティスを別室に呼び出し話をする。



「…なるほどね。解ったわ。私がばれない様に手を打ってあげるわ葵ちゃん。マリアネラさんが十数年信じて付き合っているジェラード神父の事だから罠の可能性は低いけど…私の魔法師団でも、特に腕の立つ護衛を4人つけるわ。その4人ならちょっとの事があっても、葵ちゃん達を守れると思う。私はこの学院でユーダさん達を警護するわ。気をつけてね葵ちゃん」

メーティスの言葉に頷く俺。

俺はマルガやリーゼロッテ、マルコを呼び出し話をする。

ステラ、ミーア、シノンには、リーゼロッテが段取りを説明してくれる事になった。



「…葵、大丈夫だよね?」

「…大丈夫だと思いますマリアネラさん。メーティスさんの段取りなら、今の俺達の状況を考えて、バレずに指定場所に迎えると思います」

俺の言葉に安堵の表情を浮かべているマリアネラ。

そして3刻(3時間)程経った所で、メーティスが俺達に声を掛けてきた。



「皆この木樽に入って。上から蓋をして、運び出させるから。暫く我慢してね」

俺達はメーティスの言われるがままにその木樽にそれぞれが入る。

女王裁判ガ開かれる事が決定してから、食料は魔導師団の信用の出来る者達が、こうやって木樽に詰めて持ってきてくれていた。それをステラ達やレリアが調理してくれているのだ。

一切外に出ない俺達の情報は見えないだろうし、運びだしてくれているのも、特にメーティスが信用している兵士達だ。俺達が宿舎の外に出る事がバレる事は無いであろう。

木箱に入り運びだされて荷馬車に乗せられる。

そして結構な時間荷馬車で揺られていた俺達は、1件の家に運び込まれる。



「…もう出てきても良いですよ皆さん」

その声に俺達は蓋を開け木樽から出る。



「ここは…」

そう言って伸びをして身体をほぐしているマルガが、家の中をキョロキョロと見回している。



「ここはメーティス様が密かに持っている隠れ家の内の一つです。事情はメーティス様から伺って居ますので、皆さんは此方に着替えて下さい」

そう言って、冒険者の様な服装を用意してくれていた兵士。

俺達はその用意してくれた服に着替え始める。



「では、後は皆さんにお任せします。我々がいたらバレる可能性もありますから。家の裏に客馬車があります。それに乗り込んで時間になれば向かって下さい」

そう言って説明をした兵士は、ではと言って家を出て行く。

俺達はバレずに行動出来たことに安堵しながら、指定された時間付近まで、この家に待機する事にした。











時刻は日付が変わった頃であろうか?

真夜中の細い街道を俺達はランタンを灯しながら客馬車でゆっくりと進んでいる。

客馬車の御者台には、4人の護衛の兵士が座っている。メーティスが用意してくれた魔導師団の手練達だ。

この客馬車には、俺とマルガにリーゼロッテ、それにマルコとマリアネラが乗っている。

ゴグレグは身体が大きすぎて木箱に入れなかったのと、ワーリザードは目を引くとの理由で、今回は宿舎で待機となった。

暫く客馬車に揺られる事約3刻(3時間)、客馬車は指定された場所についた様であった。

そこは森の中であるのにもかかわらず開けた場所であり、この世界独特の土星の様にリングの付いた青い月の優しい光が辺りを照らして明るかった。

到着を確認した俺達は、客馬車から降りる。魔導師団の手練の兵士達は周辺を警戒しているが、多数の敵が伏兵として潜んでいると言う事は無い様で、マルガやルナも周辺に多数の人の気配が無いのか警戒はしているがその表情は緩やかであった。

そんな中、森の中から1人の人影が見えて、こちらに近づいてきた。その者は頭から深々とローブを被っていてる。皆が一応いつでも戦える様に身構えている中、優しい声が辺りに響く。



「…皆さん良く来てくれましたね」

そう言って頭のフードを外す男。

その男を見たマリアネラが安堵の声を出す。



「ジェラード!無事だったんだね!」

嬉しそうな声を出すマリアネラは、ジェラードの鯖に小走りに近寄る。



「…私は大丈夫ですよマリアネラ。相変わらず心配性ですね」

「言ってろ!」

そう言って気恥ずかしそうに笑うマリアネラ。



「所でジェラードさん。こんな所じゃなければ話せない様な内容の話とは…何なのでしょうか?」

リーゼロッテが涼やかな声を響かせる。

その声を聞いたジェラードは優しい微笑みを湛える。



「…はい、皆さんにお伝えしなければいけない重要な事があります」

そう言ってジェラードは羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。

ジェラードは見事に刺繍の入った、美しい動きやすそうな青い司祭服を纏っていた。

それはまるでどこかの天使が着ていそうな程、豪華で上等そうな司祭服であった。

それを見たリーゼロッテが目を少し細める。



「…それは…テトラグラマトン色の司祭服ですわねジェラードさん?」

「…そうですねテトラグラマトン色の司祭服ですねリーゼロッテさん」

そう言って優しく微笑むジェラード。



「テトラグラマトン色?って何なのですかリーゼロッテさん?」

そう言って可愛い首を傾げているマルガ。マルコも同じ様にコクコクと頷いている。



「ヴィンデミア教に於いて、神聖を意味する4つの色が有るのです。白、黒、青、赤の4色。これらの色はヴィンデミア教では高貴とされ、教皇が許した者のみが着る事を許された色であるのです。私の記憶が正しければ、そのテトラグラマトン色の司祭服を着れるのは…ヴィンデミア教を国教として聖地を持つ神聖オデュッセリアの守護者である四聖天のテトラグラマトンの4方のみのはずですが…どうしてその色の司祭服を…ジェラードさんが身に着けているのですか?」

そのリーゼロッテの言葉を聞いて、フフフと優しい微笑みを湛えるジェラード。



「流石はエルフのお嬢さん博識であられる。それは…私がこの色の司祭服を着る事を…許されているからですよ」

そう言って優しい微笑みを崩さないジェラードは、懐から一本の短剣を取り出す。

その短剣は、刀身が漆黒で冷たい光を放っている短剣であった。



「ジェ…ジェラード。そんな物出してどうするつもりなんだい?」

その真っ黒な短剣を見て困惑しているマリアネラの言葉を軽く聞き流すジェラード。



「…私は貴方達に、重要な事を伝えなければなりません。………貴方達には女神アストライア様の為に…この場で死んで頂きます」

一切表情を崩さず優しい微笑みのままそう言い放ったジェラード。

その次の瞬間、俺達を警護していた魔導師団の内の1人が、風の移動魔法を瞬時に発動して、マリアネラの傍まで一瞬で移動してマリアネラを抱きかかえ、俺達の所まで連れてきた。



「…流石はメーティス卿率いるエンディミオン光暁魔導師団の手練の方。私の言った意味を瞬時に理解してマリアネラを警護する。素晴らしいですね」

そう言って黒い短剣を持ちながら拍手をするジェラード。



「ジェラード!何かの冗談だよね!?私達を殺すだなんて!」

魔法師団の護衛に抑えられているマリアネラが、甲高い声でジェラードに言い放つ。

それを一切表情を崩さずに、優しい微笑みで見返すジェラード。



「…いいえ、間違いでも冗談でもありませんよマリアネラ?貴方達は…ここで…死ぬのです!!!」

そう言い放ったジェラードの姿が視界から完全に消える。

その次の瞬間、あらぬ方向から呻き声が微かに聞こえた。

皆がそれに気が付きその声をした方に振り向くと、護衛をしてくれている魔法師団の内の1人の首が、ズルリと音を立てて地面に落ちていく。

首の無くなった体は、大量の血を噴水の様に吹き出しながら地面に崩れ倒れる。

それを呆然として見つめている俺達を見て尚、優しい微笑みを崩さないジェラード。



「テトラグラマトンラビリンス…青の2番…ジェラード・イブリース。哀れな子羊に…最後の祝福を!」

そう言い放ち、真っ黒な短剣を天高く掲げるジェラード。



この世界独特の土星の様にリングの付いた青い月の優しい光の中幻想的に映るジェラードは、どこかの神が遣わした天使の様に神々しく見えた。
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転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
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高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

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