愚者の狂想曲☆

ポニョ

文字の大きさ
62 / 62
2章

愚者の狂想曲 59 小さな意思

しおりを挟む
ヴィトレの大砦が魔物に襲撃されてから3日が経った。

大国フィンラルディアの王都ラーゼンシュルトを守護していた数万に及ぶルーファリアラス櫨染騎士団の兵士達には死者は出なかったが、ヴィトレの大砦に滞在していた六貴族であるビンダーナーゲル伯爵家当主であり宰相であるジギスヴァルトが魔物によって負傷させられた事や、元モリエンテス騎士団の団長であったルードヴィグが魔物に殺された事は、瞬く間に国中に広がっていた。

様々な噂が飛び交い、国中の人々が大国フィンラルディアの動向に注目をしてた。



「ようこそ葵様、皆様がお持ちです。どうぞ、お入り下さい」

門番のその声に頷く俺達は、館の中に入って行く。



俺達は今、王都にあるハプスブルグ伯爵家の別邸に赴いている。

当初は俺達の宿舎にルチアが来る予定だったのだが、ルチアの使いで来たアンリからの伝言で、このハプスブルグ伯爵家の別邸に変更になったのだ。

護衛の魔法師団の人達には別室で待っていて貰い、いつもの執務室の豪華な扉を開くと、かなり疲れた複数の瞳がこちらに向けられた。



「…来たわね葵。そこに座って頂戴」

そう促して来たルチアの瞳は、以前の様にひどいクマが出来ていた。俺はそれを横目にしながらソファーに座る。



「…ルチア大丈夫?また眼の下に…ひどいクマが出来てるけど…」

「…ここにいる方々はあの一件以来、殆ど一睡も出来ていないのですよ」

俺の少し心配そうな言葉を聞いたマティアスが答えてくれた。

そう言ったマティアスの眼の下にも、ルチアと同じ様にクマが出来ていた。

ふと、執務机に座っているアリスティドとソファーに座っているマクシミリアンを見ると、同じ様にクマを作っていた。



「…仕方の無い事なのですよ葵殿。王都を守護するヴィトレの大砦が、突然強力な魔族に襲撃されたのですからな。しかも…六貴族であり宰相であるジギスヴァルト宰相が、魔族に手によってあの様な事になってしまったのですからね」

「…そのジギスヴァルト宰相は…どうなったのでしょうかアリスティド様?」

リーゼロッテの綺麗な声を聞いたアリスティドは、少し疲れた表情を強ばらせる。



「…極限まで生気を抜かれた…と言った感じだ。恐らくだが闇の魔族である不死族、つまりアンデット達が良く持つと言われるスキルの吸精…エナジードレインを受けたのであろう。通常であれば多少の経験を吸われるだけなのだが、今回は相手が悪かった。相手はあの数万の手練の兵達を掻い潜り、元モリエンテス騎士団の団長ルードヴィク殿やルーファリアラス櫨染騎士団の副団長であるジール殿2人を同時にあしらい、ジギスヴァルト宰相の前に立つ力を持った魔族であった事がな。…診断をした医者の話では今のジギスヴァルト宰相は、産まれたての赤子同然らしい。治療不可能な域まで吸精されているので…もう元には戻らないとの事らしいな」

そのアリスティドの言葉を聞いたマルガにマルコは、静かに俺を見つめていた。



「その魔族を目撃した兵士達の情報によれば、どうやら魔族は吸血鬼…ヴァンパイアであったらしいしね。ヴァンパイアは魔族の中でも特に希少種で、数が極僅かしか居ないと聞きます。しかし数は極僅かでも、強力な力を持った上級魔族であると多くの文献に書かれています。今回襲って来たヴァンパイアは、カウント級からマーカス級、学者によってはキング級からエンペラー級であったと言う者も居る位だからね。さぞ強力な上級魔族だったのでしょう」

そう言って両手を上げ、軽く溜息を吐くマクシミリアン。



「…ソレに加え、大変な物が見つかりましてね。実は私達が寝ずに行動をしているのは、強力な魔族による襲撃もさる事ながら、その物に対しての対処に追われていた為なのですよ」

そう言って複数の羊皮紙の束を豪華な執務机の上に出すアリスティド。



「…これは、ヴァンパイアに襲われたジギスヴァルト宰相が床に蹲りながらも、その胸にしっかりと抱えていた物です。その羊皮紙の束には…例の一件で本当に行われていた、金の動きが全て書かれています。当然、女王裁判に提出されている羊皮紙とは全くの別物。私達の調査の結果、全て裏は取れました。今この件に関わった物達を、ヴィシェルベルジェール白雀騎士団が追って捕まえて行っている所です」

そのアリスティドの説明を聞いたマルガは、弱々しく右手を上げる。



「…でも、本当の事が書かれた羊皮紙が見つかった所で…女王裁判で判決が出ている以上、もうジギスヴァルト宰相の罪は問え無いのですよね?」

寂しそうに言うマルガの言葉を聞いたマルコもコクコクと頷いていた。

しかし、その言葉を聞いたルチアは小悪魔の様な微笑みを湛え、口元を釣り上げる。



「…普通はそうね。でも…相手はあのお母様よ?決定的な新たな証拠があるのに只で済ますはず無いじゃない」

そう言ったルチアは表情をきつくする。



「お母様の話では…ジギスヴァルト宰相が当主を務めるビンダーナーゲル伯爵家は…六貴族の座から降りる事を承諾したそうよ。近々、公に発表されるわ」

「「えええええ!?」」

ルチアの言葉を聞いたマルガにマルコは驚愕の声を上げる。



マルガにマルコが驚くのも無理は無い。

膨大な権力を持つ六貴族まで上り詰めた家が、おいそれとその地位を明け渡す訳が無い。

ソレが例え当主に何かがあったとしてもだ。

通常当主に何かあった場合、後継者がその家督を継承し、そのまま六貴族として君臨する。

その後どうなるかは後継者次第。これが貴族の世界の常識なのだ。



「…ソレはどう言う事なのでしょうかルチアさん?」

リーゼロッテの綺麗な声を聞いたルチアはニヤッと笑う。



「…お母様からは詳しい対談の内容は聞かされていないわ。でも…恐らくだけど…女王の座を賭けて対談したのでしょう」

「女王の座を賭けるって…どういう事?意味が解らないよルチア姉ちゃん?」

ルチアの話を聞いたマルコは軽く首を傾げ、マルガと顔を見合わせていた。



「…絶対審判である女王裁判の判決を覆させる方法が…1つだけあるのよ」

「そ…そんな方法があるのですかルチアさん!?」

かなり困惑した表情でルチアに問うマルガ。



「…その方法は新しい王や女王が、その件に関して再度国王裁判や女王裁判を開廷し、新たな絶対審判を下す事よ。国王裁判や女王裁判の審判の絶対審判性は、現職である事が条件なの。だから、新たな国王や女王が別の審判を下せば、そちらが優先されるのよ」

ルチアの説明を聞いていたリーゼロッテは、全てを見透かす様に金色の透き通る瞳を光らせる。



「…つまりアウロラ女王は、この新たな決定的証拠であるこの羊皮紙の出現により、自ら女王の座を退くと同時に、ビンダーナーゲル伯爵家を取り潰しに掛かった…と、言う事なのですねルチアさん?」

「…私の少しの話だけでそこまで理解するのだから…やっぱりエルフちゃんは怖いわね」

小悪魔の様に微笑むルチアと涼やかに微笑むリーゼロッテ。

そんな2人にゾクッとしたものを感じ、マルガと顔を見合わせて苦笑いをする俺。



「アウロラ女王は善王として国民からの人望が厚い。新たな証拠が見つかって自らの審判が間違っていた事を、先手を打って謝罪と共に公に発表すれば、アウロラ女王の評判は更に上がる事でしょう。いくらでも隠し通せる事を、わざわざ自ら発表し退位するのですからね。そして、新たな国王や女王を自ら指名して、自分は摂政に就く。確かに国の見た目は変わったかの様に見えますが、実の所、アウロラ女王が摂政としてこのフィンラルディア王国を取りしきれば…今までと何も変わりませんわね。誰も文句は言えませんでしょうし」

「…確かにエルフちゃんの言う通りよ。きっとお母様は…ビンダーナーゲル伯爵家の時期当主と目される長男のエックハルトに、自らの退位と同時にビンダーナーゲル伯爵家を取り潰されるか、それとも大人しく六貴族の座を降りるか迫ったのでしょう。考える間を与えない様に…即断を迫った事だと思うわ」

小悪魔の様に笑うルチアを見て、マルガとマルコが顔を見合わせて苦笑いをしている。



「…で、アウロラ女王と直に対談した結果、その長男坊は素直に六貴族の座を降りたと言う訳か?」

「そうよ葵。…ビンダーナーゲル伯爵家は六貴族を降り、今まで王都を管理していたのを返上し、その代わりに辺境の小さな保養所がある領地が与えられる事になったらしいわ」

ルチアは俺の問にフフと笑いながら答える。



保養所か…成る程ね…

貴族が何か大きな事をするには大義名分が必要だ。

恐らくその長男坊も、リーゼロッテが言った事を瞬時に理解出来るだけの頭があったって事だろう。

このまま共倒れになったとしても、頭の見た目が変わるだけで、このフィンラルディア王国は何も変わりはしない。

となれば、ビンダーナーゲル伯爵家だけが反逆者として取り潰される事になって終わりだ。

財政難で没落するなら兎も角、反逆罪で取り潰しになれば、二度と陽の目を見る事は叶わないであろう。

天秤に掛ければどちらが自分達に取って有益であるかは解るだろう。



しかも、小さいとはいえ保養所のある領地を貰える。

現当主であるジギスヴァルトの治療を名目に六貴族の座を降りるとなれば、ビンダーナーゲル伯爵家の名誉と誇りは守られる。

むしろ利益を捨て、今までビンダーナーゲル伯爵家の為に尽力して来た父親の治療の為にソレを捨てるのであれば、美談にすらなる事であろう。

皆に惜しまれつつ六貴族を去るビンダーナーゲル伯爵家の美談として…



俺はあの時、咄嗟にあの考えが浮かび、ジギスヴァルトにこの羊皮紙の束を持たせたが、この羊皮紙をどのように使うのかはルチアやアウロラ女王次第だと思っていた。

俺自身は特に何も考えては居なかったけど…まさかこんな風に使うとは…

きっと、保養所のある領地の条件を出したのもアウロラ女王だろう。

全く…貴族や王族の考える事は…

そんな事を思いながら軽く溜息を吐く俺を見て、フフと楽しそうに笑うルチア。



「ま~ビンダーナーゲル伯爵家に六貴族を降りる様に説得出来たのも、どこかの魔族がこの羊皮紙を見つけてくれたからかも知れないけどね。ご丁寧に隠し部屋にある物までそのままにしてくれた事だしね」

そのルチアの言葉を聞いたマクシミリアンが首を傾げる。



「…魔族がその様な事をするはず無いじゃないかルチア。魔族なんて…殺戮を楽しむだけの種族なのに。ジギスヴァルト宰相は、あの隠し部屋からこの羊皮紙を持って出て来た所を、魔族の襲われたのだと思うのだけど?」

「…そうね…そうだったわねマクシン」

そう言ってフフと笑っているルチアを見て、顔を見合わせて少し困惑しているアリスティドとマクシミリアン。



「…ビンダーナーゲル伯爵家の処遇は皆さんが聞いて頂いた通りとして…もう一つ重要な報告があります」

そのマクシミリアンの言葉を聞いた皆が振り向く。



「今回、この羊皮紙や隠し部屋にあった別の羊皮紙にも書いてあったのですが…数年間、膨大な国費を横領していたはずのビンダーナーゲル伯爵家には…その国費は蓄えられてはいませんでした」

「…ソレは…どこかの商組合に横領していた国費を預けて居るのではありませんか?例えば…ド・ヴィルバン商組合とかにですわ」

リーゼロッテの言葉を聞いたマクシミリアンは軽く首を横に振る。



「私達も今回、ド・ヴィルバン商組合がこの件に絡んでいると思っていたのですが、この羊皮紙にも一切あの件の資金がド・ヴィルバン商組合に流れた記述を見つける事は出来ませんでした。ド・ヴィルバン商組合のジギスヴァルト宰相の持つ資金帳を見せて貰いましたが、ド・ヴィルバン商組合にはその資金は流れていませんでした。ド・ヴィルバン商組合自体、今回の件に関して繋がりのある事は…何一つ確認出来ませんでした。なので、ド・ヴィルバン商組合が今回の件に関して何かの罪を受けると言う事はありません」

軽く溜め息を吐くマクシミリアン。



あそこまで用意周到にしていたヒュアキントス達が…あの件に関わっていた証拠が全く無い!?

どこからあの件にヒュアキントス達は関わっていたのだろう?

ユーダさんの事を考えれば最初から絡んでいた可能性は高いけど…その証拠は全く無しか…

あのヒュアキントスの事だ。全てを完全に操っていた事も考えられる。

そんな事を考えていると、綺麗な声が聞こえて来た。



「では…数年間横領されていた膨大な国費は…誰に流れていたのでしょうか?」

リーゼロッテのその言葉を聞いて、マルガにマルコもウンウンと頷いていた。



「…イカロス…よ」

「…イカロス?イカロスって何なの?」

ルチアの短い言葉に俺は首を傾げる。



「…ソレが解らないのよ。人物名なのか傭兵団、騎士団、盗賊団なのかね。今まで全く聞いた事の無い名前なのよ。でも…この羊皮紙や隠し部屋にあった羊皮紙には、横領された膨大な国費は…全てそのイカロスに流れているらしいわ。それだけは解っているの。今はヴィシェルベルジェール白雀騎士団がイカロスについて調べている所よ」

ルチアは渋い表情をしながらそう説明してくれた。



…イカロス…か。

人物名なのか組織の名前なのかも一切解っていないのか。

だけど、最終的に資金が流れているとしたら…あのジギスヴァルトも、誰かに操られていたって事なのか!?

それとも…横領した資金を隠す為の…偽名なのか!?

…だめだな、情報が少なすぎる。

ヴィシェルベルジェール白雀騎士団が調べているのであれば、その内何か情報を掴むだろう。

そんな事を考えていた俺は、マティアスが俺達の座っているソファーに近づくのを見ていた。

そして、きつい表情をするマティアスが静かに口を開く。



「…今回、ヴィトレの大砦を襲撃した魔族討伐の為に…フィンラルディア王国はその魔族を討伐した者に対して金貨5000枚の報酬が支払う事となりました。近々ビンダーナーゲル伯爵家の六貴族退任と共に、公に発表されます。同じくしてフィンラルディア王国から冒険者ギルドにヴァンパイア討伐の依頼もなされます。各

貴族の騎士団もその魔族に対して、見つけ次第殲滅を命ずるでしょう。…フィンラルディア王国の威信を賭けて…その魔族を討つべく…皆が動き出す事でしょう」

マティアスのその言葉を聞いたマルガにマルコが一気に顔を蒼白にし、俺にバッと振り返る。



金貨5000枚…

小さな領地であるなら、まるまる買えてしまう位の途方も無い金額だ。

世界各国にある冒険者ギルドの最高ランクであるダイヤモンドの依頼でも、金貨5000枚の報酬のある物など無いであろう。それ位の大金だ。まさにフィンラルディア王国の威信を賭けた金額だ。

きっとその途方も無い大金を目当てに、無数の者達が血眼になってヴァンパイアを探し討伐を試みる事だろう…



解っては居た。国を相手に…しかも世界の列強である、五大国に数えられるフィンラルディア王国に弓を引けばどうなるかは…

ふと、何気に視線を感じそちらに目を向けると、ルチアが悲しそうな表情で瞳を揺らしていた。

そんな俺達を見ていた金色の妖精は、静かに立ち上がり俺の前に来る。



「…葵さん、儲け話ですよ」

「…儲け話!?」

リーゼロッテの言葉に、俺やマルガ、マルコもキョトンとする。



「そうですわ葵さん。儲け話です。ヴァンパイアを討伐すれば…金貨5000枚も下さるのです。儲け話以外の何者でもありませんわ」

「だ…だけど…そんな事…」

俺が困惑しながらその後の言葉を言おうとすると、俺の唇に優しく人差し指を置き口を塞ぐリーゼロッテ。



「…商人は何時いかなる時であっても、どんな状況であっても利益を追求する。どの様な選択をしたとしても…最後には利益を上げれば良いのです。どんな困難な事であろうとも…諦めずに利益に向かって手を伸ばす。ソレが商人なのでは無いですか?きっと葵さんのお師匠であるギルゴマさんなら…そう言うと思いますよ?」

そう言ったリーゼロッテは楽しそうにクルッと踊る様に回ると、月の女神と見まごう微笑みを見せる。



「…私達は今、こうして生きて、両足で立てて居るのです。それはつまり…私達はまだまだ前に進めると言う事ですわ。良いではありませんか。皆が金貨5000枚欲しさに群がったとしても。私達はそんな群がる人々を押しのけ利益を上げれば良いのですよ。そう…全ての世界の人々を出し抜いてでも…利益を上げれば良いだけ。商人は商人らしく…ですわ」

そして、再度俺に近づき、俺の頬を優しく撫でる。



「…私達も儲け話に乗りましょう。たとえソレが不可能だと解っていても…利益に向かって手を伸ばさないのであれば…商人ではないでしょう葵さん?」

そう言って悪戯っぽく微笑む金色の妖精。

俺はそんなリーゼロッテに暫くあっけに取られていたが、その一切の揺るぎの無い透き通る様な金色の瞳を見て、何かが込み上げて来た。



「…プクク…アハハハ!!」

俺は体中の力が抜け、自然と笑いが込み上げて来ていた。



「…そうだね。リーゼロッテの言う通りだ。利益に向かって手を伸ばさない商人など…商人じゃない!俺達も…その儲け話に乗ろう!たとえ不可能だとしてもね!」

俺がそう声高に言うと、ニコッと嬉しそうな微笑みを湛える金色の妖精。



「オ…オイラもやってやる!オイラだって葵兄ちゃんの一番弟子の商人なんだ!こんな所で立ち止まれないよね!葵兄ちゃん!オイラも一緒に利益に向かって手を伸ばすから、期待してて!!」

「わ…私も今まで以上にご主人様のお役に立てる様に…頑張るのです!!!」

マルコは胸をトンと叩きながら、マルガは可愛い鼻をフンフンとさせて俺に語りかける。



「マルガにマルコ…期待してるよ」

「任せといてよ葵兄ちゃん!」

「ご主人様は私が必ずお守りするのですよ!!!」

俺はそんな事を言ってくれるマルガにマルコが愛おしくてその頭を撫でると、エヘヘと嬉しそうにしている。

ソレを見て優しい眼差しで口元を緩ませるアリスティド。



「…葵殿は良いお供をお連れの様ですな」

「…はい、僕の自慢の仲間です」

その言葉を聞いたマルガにマルコは、顔を見合わせて微笑んでいた。



「…本当にエルフちゃんを…敵には回したくないわね」

「…あら、私もですわよルチアさん?」

そう言ってお互いに涼やかな微笑みを浮かべているルチアにリーゼロッテ。

そんな2人を見て俺とマルガとマルコは、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。



「それと最後にもう一つ、今回の件が落ち着き次第、下級市民制度が発令されるわ」

「え!?議会で承認されたのルチア?」

「…反対していた六貴族であったビンダーナーゲル伯爵家が失脚した事により、賛成が反対を上回ったのよ。もう既に発令に向けて準備が開始されているわ。…今日ここに来ていない…ナディアに伝えておいてくれる?」

「…解った。必ず伝えておくよ」

「…ありがとう葵」

そう言って儚く微笑むルチア。



「じゃあ商人は利益の上げる事でも考えますので、そろそろ失礼させて貰いますね」

「…解った。良き利益が上がる事、祈らせて貰うよ」

俺の言葉に微笑むアリスティド。

俺達は皆に挨拶を済ませ、宿舎に帰る為に執務室を出るのであった。











ルチア達との面会を済ませた俺達は、待って貰っていた護衛の魔法師団の人と合流し館の外に出た。

そして、その豪華で威厳のある門をくぐり敷地の外に出ようとした時であった。

俺達と入れ違いで別館の門をくぐろうとしている人物に、俺達の目は釘付けになった。

そこには体躯の良い、歴戦の戦士を思わせる傷をもった髭面の男が、礼服を見事に着こなして立っていた。

その男は俺達を見てニヤッと口元を上げる。



「これはこれは、ルチア王女の専任商人であられる葵殿ではありませんか」

「…バ…バルターザール!?」

その余りにも予想外な人物に俺は困惑する。



「…何故貴方がこの正義の象徴であるはずのパプスブルグ伯爵家の別邸に居るのでしょうか?」

「…そりゃ~呼ばれたからに決まってるじゃねえか。…お前あの時帽子を深々と被っていた気の強い女だな?…そこまでの器量よしだとは思わなかったぜ」

そう言いながら、リーゼロッテをいやらしい目で見て笑いを浮かべているバルタザール。

俺はリーゼロッテを遮る様に一歩前に出る。



「…それより、先ほどの質問に答えてくれませんか?」

俺のきつい目を見たバルタザールはクククと楽しそうに笑う。



「…俺がここに呼ばれたのな、新しい憲兵団の団長として説明を受けに来たからだよ」

「新しい憲兵団の団長!?」

俺は困惑した声を出す。



こいつはあの件で間違いなくジギスヴァルトに手を貸していたはずだ。

ソレを追求されて罰せられて当然のはずなのに…新しい憲兵団の団長に就任!?

俺が困惑しているのを見たバルタザールは、護衛の魔法師団を見てクイッと首を動かす。

その意図の解った俺は、魔法師団達に離れた位置に待機して貰う様に伝えると、何かあればすぐに敵を排除しますと言って、離れた位置で俺たちの事を見てくれていた。



「…で、何故貴方が…新しい憲兵団の団長に就任出来るのでしょうか?」

リーゼロッテがその綺麗な声でバルタザールに語りかける。

その口調は、貴方には就く資格が無いと言わんばかりの物であった。

そんなリーゼロッテの言葉を聞いたバルタザールは、面白そうにクククと笑う。



「…本当に気の強い女だなお前は。…まあ、お互い今回の全ての事情は知っているだろ?」

「…知っているからこそ…何故だか知りたいのですが?」

俺が瞳を細めながら言うと、ウン?と少し首を傾げ、何かに気がついたバルタザール。



「…そうか、まだ詳しく話を聞いていないのだな。この別館から出てきたから、聞いていると思ってたぜ」

そう言ったバルタザールはニヤッと口元を上げる。



「端的に説明してやろう。…今回の件に関して、バミューダ旅団は関わっちゃいない。だから、俺達バミューダ旅団がフィンラルディア王国から罰を受ける事は無いんだよ」

そのバルタザールの言葉を聞いた俺達は、一層困惑した表情を浮かべる。



このバルタザールが、あの件に関わっていなかった!?

ソレは無いはずだ。

俺達は郊外町では、常にこいつらバミューダ旅団の地回りの監視を受けていた。

こいつらの監視のせいで、俺達は幾度も煮え湯を飲まされたのだから。

それなのに…

そんな事を考えていた俺の横で、全てを見透かす様な瞳をした、金色の妖精が口を開く。



「…なるほど…そう言う事でしたか」

そう言って何かの確信のあるリーゼロッテが話を続ける。



「…葵さん、どうやらこのバミューダ旅団は、本当にあの件に関しては関わっていなかったのですわ」

「どう言う事なのリーゼロッテ?」

リーゼロッテの言葉が信じられなくて、直ちに聞き返す俺。



「…そのままの意味なのですよ葵さん。良く思い出して下さい。私達はバミューダ旅団に今まで一度として襲われた事はありましたか?」

リーゼロッテの言葉を聞き、皆が今までの事を思い出している。



そう言えば…俺達は今まで一度として、バミューダ旅団の手の者に襲われると言った事をされていない。

それどころか、郊外町で一度としてバミューダ旅団の者と対峙した事など無かった。

俺の横ではマルガとマルコも同じ様な事を思っていると解る表情をしていた。



「…恐らく…私達の監視だけをして、人攫いには一切加わっていないのでしょう。それどころか、ソレに対しての報酬は受け取っていない。もし、受け取っているのであれば、例の羊皮紙から容疑者として割り出されて、今頃ヴィシェルベルジェール白雀騎士団が動いている事でしょう。それが無いと言う事は、ルチアさん達もバミューダ旅団の関与を肯定出来無かったと言い換えれますわ。…つまり、関与が無かった…となりますわね」

リーゼロッテの言葉を聞いて、口元を上げて軽く笑うバルタザール。



つまり、バミューダ旅団は直接あの件には直接関わらず、郊外町を監視していただけって事なのか?

確かに何かの証拠があるなら、あのルチアが放って置く筈はない。

だが、こいつらバミューダ旅団があの件を知っていて、その繋がりで俺達を監視していたのは明白。

しかし、その証拠は無い。

その事を知っているであろうジギスヴァルトとルードヴィクは、ソレを証言出来無い。

限り無く黒に近いグレーではあるが…間違いなく黒では無い。

つまり…そういう事か…

俺がリーゼロッテの言葉を理解したと感じたバルタザールはクククと笑う。



「…だから最初に言っただろう?俺達はあの件に関して、関わってはいないと」

薄ら寒い瞳で俺を見るバルタザール。

俺はその瞳を見て、大きな勘違いをしていた事に気がついた。



マフィアは自分の縄張りを犯す者を許さない。

俺はバルタザールが例の人攫い達を黙認している事から、こいつらが奴らとグルであると位置づけしていた。

自分たちの縄張りを荒らす人攫い達と衝突しないのは、こいつらが人攫い達と手を組んでいるからだと。

実際、ソレは間違いでは無いのであろうが、その形を俺は見誤っていた。



バルタザールは違う形で、自分の縄張りを守っていたのだ。

王都ラーゼンシュルトは、今までジギスヴァルトの管理下にあった。

当然、王都を取り巻く郊外町ヴェッキオを実効支配しているバミューダ旅団は、ジギスヴァルトの管理下にある。非公認ではあるが、主従関係と言えるであろう。

主人の命令に逆らえば、郊外町ヴェッキオの実効支配を解かれるかもしれない。

だから、主人がする事には逆らわず…容認して放置した…

そうして自分の縄張りを守っていたのだろう。

でも…同じ様に人攫い達と一緒に行動して、もっと利益を引き出せたのかもしれないのに、何故それをしなかった?

俺がそんな事を考えながら、ふとバルタザールを見ると、その瞳には何処か勝ち誇ったかの様な色を浮かべていた。

俺はそれに、マフィア特有のしたたかさを感じた。



「…成る程。メネンデス伯爵家の様に…いずれ使い捨てられる事を懸念して、例の件には手を染めなかったと言う訳か。…は!何があの件には一切関わってはいないだ!お前達の監視のせいで…俺達がどんな思いをしたか!」

「…郊外町で起こる事を、主人に報告して何が悪い?何かの法にでも触れる事なのか?」

俺の少し甲高い声を聞いたバルタザールは、ククッと楽しそうに笑う。

俺はバルタザールを見てイラッとしながら、何故ルチアが関与を掴めなかったとして、こんな奴らを新しい憲兵団の団長にするのかが解らなかった。

そんな思いの俺を感じたリーゼロッテが、静かに語りかけて来た。



「…葵さん、このバミューダ旅団が、新しい憲兵団に任命されるのは…きっと口止め料でしょう」

そのリーゼロッテの言葉を聞いたバルタザールは、ニヤッと口元を上げ面白そうな顔をする。



「フィンラルディア王国は、例の件を表沙汰にはしたくはないのでしょう。ですから、今回の件で追求出来無いバミューダ旅団に対して、口外しない様配慮したのだと思いますわ。今フィンラルディア王国は、これ以上の騒ぎを望まない。足元から上がる煙を、少しの事で消せるのであれば…と言った感じでしょう。何かの罪をなすりつけて、バミューダ旅団を潰してしまう時に、きっと例の件を暴露される。そうすれば郊外町に深く根を張るバミューダ旅団は、手下の者に例に件を流布させる事でしょう。そうなれば、下級市民制度の発令の妨げになりますわ。ソレを懸念したのでしょう」

「…報告通り、本当に賢しいのだなエルフの娘。…増々気に入ったぜ!」

リーゼロッテの説明を聞いて、いやらしい瞳でリーゼロッテを見るバルタザール。



そう言う事か…

今アウロラ女王は、下級市民制度の発令の妨げになる物は、全て消し去りたいはずだ。

例の件の封じ込めはほぼ完全に出来ていると言って差支えはない。

アウロラ女王がヴィンデミア教と、どう言った話をしているのかは解らないが、ソレを除けばあの件を知っているのはこいつらのみとなる。

ソレに対しての…か…



「…全く、とんだ茶番だな。…俺にはお前達が、あの件をずっと内密にする事は無いと思えるのだがな」

俺の呆れる様な言葉を聞いたバルタザールはガハハと笑う。



「…俺はそんな馬鹿な事はしねえ。例の件をいつまでも交渉のテーブルに出す様なら、俺達はいつかフィンラルディア王国に食われるだろうさ。危険因子としてな。俺達が生かされているのは下級市民制度が発令される前だからだ。下級市民制度が発令されれば、例の件など痛手ではなくなるだろうさ。例の件を流布した所で、反女王派の質の悪い噂だと思われるのが落ちさ。今回の件でアウロラ女王は、それだけの民意を得る。それに、約定を交わす以上、俺達はソレに従う。ソレはこれから色々な取引をしていく上で大切な事だ。約定は必ず守る。…この俺を…その辺の小物と同列に…並べるなよ?」

そう言い放ったバルタザールの瞳は、初めて合った時の様に殺戮者の光に満ちていた。

その瞳に薄ら寒いものを感じる。



「…まあ、下級市民制度が発令されれば郊外町も少しは変わり、俺も国軍だ。出来ればルチア王女様の専任商人であられる葵殿とは、友好的な関係でいたいとは思ってるぜ?」

そう言って俺の肩に手を置き、じゃあなと言って別館に入って行くバルタザール。



「…待て!!」

俺はバルタザールを呼び止める。

バルタザールは俺に軽く振り返る。



「…お前の言いたい事は解った。…だが、俺もこれだけは言っておく。…もし…お前がこの先…俺の大切な物を傷つけ犯す事があるのなら…俺はお前を必ず滅ぼす!…それだけは覚えておけ!!」

俺がそう言い放ちバルターザールを見つめると、ククッと笑うバルタザール。



「…そんな顔も出来るのだな。…解った、覚えておこう」

そう言って一瞬凍りつく様な瞳をしたバルタザールは、そのまま別館の中に入って行く。

ソレを後ろから眺める俺達。

館に入ったバルタザールは、案内役に付いて行く。

その時、バルターザールの護衛をしている男が、握り拳を握ったままのバルターザールを不思議に思う。



「バルターザール様…どうかされましたか?」

その護衛の兵士の声に、ふと自分が握り拳を握っているのに気がついたバルターザール。

ソレを感じて、フフと笑うバルタザール。



「いや、なんにもねえ」

そう言って不敵に笑うバルタザールに、安心する護衛の兵士。



『…あいつ…この俺に寒気を与えやがった。数々の戦場と修羅場をくぐり抜けて来たこの俺に。…ククク…ヒュアキントスがあいつに注意を促す様に言っていたが…あながち間違いじゃないのかもしれんな』

バルタザールはその様な事を考えながら、執務室に向かうのであった。











宿舎に帰って来た俺達はゆっくりと寛いでいた。

最近の出来事のせいで、俺達はゆっくりと過ごせて居なかったからだ。

俺に至っては、種族能力を開放した後遺症により、体を動かすのも大変だ。

今日だってマルガやリーゼロッテ、マルコに肩を借りながら出かけていた。

取り敢えず体調が戻るまでは、宿舎でゆっくりと静養しよう。

そんな事を思いながら寛ぎの間で皆と会話をしながら居ると、艶めかしい体をした超美女が入って来た。



「あら、葵ちゃん、体調凄く悪そうね?何かあったのかしら?」

「…全て知っていて聞かないでくれますかメーティスさん?」

楽しそうに言うメーティスに呆れ顔を向ける俺。



「また遊びに来たのですか?…意外と学院の統括理事も暇なのですね」

俺がそう言うと、少し頬を膨らませるメーティスは、俺のほっぺたを抓る。



「イテテ!」

「…全く。私だってそんな暇じゃないわよ葵ちゃん?」

「…わ…解ってますよメーティスさん。冗談ですよ」

俺が苦笑いしながら言うと、本当かしら?と言いながら、1つの腕輪を俺に見せるメーティス。



「それは…自滅の腕輪ですよね?」

「そうよ。以前葵ちゃんから預かって、アルベルティーナに調べさせていた物よ。ソレについて解った事があるから、今日は報告に来たの」

そう言えば、俺は以前人攫いから奪ったこの自滅の腕輪の出処を調べても貰っていた。



「それで…何か解ったのですかメーティスさん?」

「ええ、この腕輪について…少し解った事があるのよリーゼロッテ。この腕輪は予想通り、マジックアイテムを特産品としている、魔法都市カステル・デル・モンテの闇魔法を使う事の許可をされた魔導師の手によって作られていたわ。そして、その魔導師から話を聞けたの。この腕輪を多数発注した人物は…イカロスと名乗った様よ。何者なのか全く解らないけど、金払いだけは良かった様ね」

「イカロスですか…」

そのイカロスと言う名前を聞いたマルガにマルコは顔を見合わせて居た。

同じ様に困惑している俺にメーティスが



「どうしたの葵ちゃん?」

「いえ、またイカロスと言う名前を聞いたものなので…」

俺は先程ハプスブルグ伯爵家の別館で聞いた話をメーティスに説明する。



「…そう、奪われた膨大な国費は…そのイカロスと言う者に奪われていたのね」

「ええ、人物名や組織名なのかは全く解りませんけどね。…繋がりはありますよね?メーティスさんはイカロスと言う名に、聞き覚えはありませんか?」

「…全く無いわね。まあ…ド・ヴィルバン商組合の統括理事であるレオポルドや、その息子であるヒュアキントスなら…何か知ってるの可能性もあるけど…2人からソレを聞き出す事は、今の現状では不可能でしょうね。…取り敢えず、私達もそれとなくイカロスと言う人物や組織を探って見るとするわ」

メーティスは俺に自滅の腕輪を手渡すと、またねと言い残して寛ぎの間を出て行く。



まあ…ド・ヴィルバン商組合の統括理事のレオポルドやヒュアキントスなら知っていても可笑しくはない。

だが、適当に罪状をつけ自白させるには、力を持ちすぎている。

ド・ヴィルバン商組合は数々の貴族にも資金を貸し出す程の大手の商組合だ。

そのド・ヴィルバン商組合の統括理事のレオポルドにその様な事をすれば、各方面から多大な反発を買うのは必死。

メーティスが言う様に、今の現状では2人から聞き出す方法は無い。

バルタザールにはルチアが問い正しているいるだろうが…知っているかどうかに加え、本当の事を言うかどうかの疑問も残る。

下級市民制度が発令された後に、バルタザールを拷問にかけ、口を割らせる方法もあるけど…

もし、本当に知らなかった時の事もある…



まあ…俺が考える事では無い…か。

国の行く末などは、考えられる奴に任せておけば良い。

俺は俺自身の利益をまず、第一に考えないと…



俺はその様に考え、手渡された自滅の腕輪をアイテムバッグにしまう。

そして、夜までゆっくりした俺は夕食も終え、種族能力の開放の後遺症で火照っている体を冷やそうと、俺達の部屋階段付近にある扉に手をかける。その扉の向こうにはバルコニーがあるのだ。

俺は夜空を見ながら夜風に当たろうと思い、やっと一人で動かせる様になった体で扉を開けると、そこには先客がいた。

俺に気が付いた、短く整えられた濃い茶色かかった髪に鳶色の瞳をした美女が振り向く。



「…葵か。どうしたんだい?夜風にでも当たりに来たのかい?」

「ええ、そんな所です。マリアネラさんも夜風に当たりに来たのですか?」

俺の言葉を聞いたマリアネラは、夜空に瞳を向ける。



「…まあ、そんな所かね」

そう言って苦笑いするマリアネラの手には、ジェラードから手渡された断罪の黒刃が握られていた。

俺はそれを横目にしながらマリアネラの横に歩いて行く。

そして暫くマリアネラと一緒に夜風に当たりながら、無言で夜空の綺麗な星星を眺めていると、マリアネラがフフと笑い出した。



「…お前は本当に気を使う奴だな。その歳でませ過ぎだ」

そう言って俺の額を軽く小突くマリアネラ。

そんなマリアネラに苦笑いしていると、再度夜空に瞳を向けるマリアネラ。



「…なあ、葵?」

「何ですかマリアネラさん?」

「…今日さ、ジェラードの居た教会に行ってみたらさ、別の神父が配属されていたんだ。それでさ、私はその神父にジェラードの事を聞いてみたんだ。そうしたら、その神父…なんて言ったと思う?」

「…何て言ったのですか?」

俺の言葉に、キュッと唇を噛むマリアネラ。



「『…その様な神父は、ヴィンデミア教には在籍していません。何かの間違いでは無いでしょうか?』だとさ。どうやらヴィンデミア教は、ジェラードの存在自体を消してしまったらしい。ジェラードの部屋だった場所には、ジェラードの物は何一つ残されては居なかった。それにジェラードの事を慕っていた周囲の奴に聞いてみれば、ジェラードの事を覚えちゃいるが、教会の金を持ち逃げしてどこかに消えた神父もどきだとさ。ジェラードの事は教会に不法に入り込み、金を持ち逃げした不届き者として位置づけされた見たいだ。…あんなに長く…人々に尽くして来たのにね…」

そう言って夜空に瞳を向けるマリアネラ。

そして、手に持っている断罪の黒刃を夜空に掲げる。



「…確かにジェラードは私の知らない所で、罪ある人も罪なき人も、女神アストライアの名の下に、たくさん殺してきたのだと思う。だけど…ジェラードは本当に、弱者を救おうとしていたのは事実なんだ。ソレは…15年間ずっと一緒にいた私が証明する。…そのやり方が間違っていたとしてもね」

マリアネラに掲げられた断罪の黒刃は、この世界独特の土星の様にリングの付いた青い月の優しい光を受けて、妖しく光っていた。



「…ジェラードの為に、王都の墓所の片隅に…墓を建てようと思うんだ。皆にどう思われようが、ヴィンデミア教にその存在自体を消されようが…私は女神アストライアに全てを捧げた神父として…墓を立ててやるつもりだ。そう名を刻んでやる。女神アストライアの忠実な下僕、神父ジェラードとしてね」

そう言って、きつい目をしながら断罪の黒刃を見つめるマリアネラ。



「…あいつはさ、頑なに頑固で、融通が効かなくて、心配症で、常に弱者を救う事を考えていた。本当はさ、人を殺すのも嫌だったはずなんだ。只…その力の入れる方向を…間違っていただけで。本当は優しいヤツなんだよ」

そう言って儚く微笑むマリアネラに静かに頷く俺。



「…今頃あの世でさ、世話焼きのヨーラン爺にしこたま説教を食らってるだろうさ。ヨーラン爺なら絶対にジェラードに説教する。例え自分を殺した相手であろうとね!それでさ、ジェラードもきっと根負けしてさ、それで…それで…」

言葉を詰まらせながらそう言うマリアネラは、鳶色の瞳の瞳からポロポロと涙を流す。

俺はマリアネラを引き寄せその頭を優しく撫でると、俺の胸に顔を埋めて嗚咽するマリアネラ。

肩を震わせ必死に声を押し殺しながら泣いているマリアネラの頭を暫く撫でていると、落ち着いて来たのかゆっくりと呼吸をしだすマリアネラ。



「あ~あ、しまらないね。年下の葵の胸の中で泣くなんてさ」

「俺の胸の中で泣くのは、今回が初めてじゃないじゃないですか。泣きたい時は俺の胸で良ければ、いつでもお貸ししますよ?」

「…生意気言うんじゃないよ!」

そう言って少し不貞腐れたマリアネラは、俺の額をピンッと指で弾く。

その痛さに俺が額を擦ると、マリアネラは泣きはらした赤い目でフフフと楽しそうに笑う。



「…これからどうしようかね。ジェラードは私の信じる道を突き進めって言ったけど…」

「これからも冒険者として生活するんじゃないのですか?」

「いや…もう冒険者は引退しようと思う。その目的も…無くなったからね。ゴグレグと2人で…旅にでも出るかね」

そう言って儚く微笑むマリアネラ。俺はそんなマリアネラに向き直る。



「では、俺がマリアネラさんを雇います」

「は!?葵が私を雇う!?」

余りに意外だったのかキョトンとしているマリアネラ。



「そうです。実は少し落ち着けば、俺は自分の商会を立ち上げようと思っています。マリアネラさんには、その商会の支店の長をして頂こうと思っています」

「私を葵の立ち上げる商会の支店の長にかい!?」

その言葉を聞いて更に驚くマリアネラ。



「話は解るけど…私は…商売の経験なんて殆ど無いよ?そんな私を…支店の長にかい!?」

「ええ、そうです。勿論補助として、ステラ、ミーア、シノンをつけます。彼女達3人には別にやって貰う事もありますが、それらを含め、マリアネラさんには仕切って貰おうと思っています」

「それなら、彼女達3人にやって貰えば良いじゃないか。わざわざ私を…支店の長にする事は無いと思うけど?」

そう言って困惑した表情を浮かべるマリアネラ。



「支店の長ともなれば、商売が出来るだけでは務まりません。皆を引っ張って全ての事柄に配慮出来る人材でなければ、立ち行かないでしょう。俺はマリアネラさんが適任であると判断しています。商売の事は皆と一緒に勉強すれば良いだけの事。まあ、勉強中である俺が言うのもなんですがね」

「葵の気持ちは解ったけど…そ…そうだ!ゴグレグがなんて言うかさ…」

そうマリアネラが言おうとして、片手でその先を制する俺。



「ゴグレグさんには僕の立ち上げる商会の、警護隊隊長として雇う旨の話をしています。ゴグレグさんはマリアネラさんがソレで良いと言うなら、特に問題はないと言って頂いてます」

「もうゴグレグにも話をつけているのかい!?…全く、そういう所は商人らしいね」

少しあっけにとられたマリアネラは呆れ顔を浮かべる。



「…僕達と一緒に商会をもり立ててくれませんかマリアネラさん?お願いします」

そう言って深々と頭を下げる俺を見たマリアネラは盛大な溜め息を吐く。

そして、この世界独特の土星の様にリングの付いた青い月を見てフフフと楽しそうに笑う。



「…この私が商人…それも一商会の支店の長ね…ソレも良いかもね」

静かに瞳を閉じたマリアネラは、ゆっくりとまぶたを上げる。



「…解ったよ葵。その話…受けるよ」

「ほ…本当ですか!?」

「葵がそこまで私を買ってくれてるのであれば…ね」

「では、契約成立ですね!」

俺が嬉しそうに右手を出すと、楽しそうにしながら俺の手を握り握手をするマリアネラ。

そして、その握手していた俺の右手を取ると、その俺の手の上に断罪の黒刃を置き握らせるマリアネラ。



「…こいつを葵に使って欲しい」

「え…でも…これは…ジェラードさんの形見ですし…」

戸惑っている俺に、マリアネラは首元に掛かっているペンダントを見せる。

ソレは木彫りで作られた、出来の良くはない、恐らくは女神アストライアを模したと思われる木彫りの像であった。



「これはね、まだお互い小さかった頃に、ジェラードが作ってくれたんだ。ジェラードが初めて作った物で…私の為に作ってくれた物なんだよ。私にはコレがある。優しかったジェラードが、私の為に作ってくれた…こいつがね。…私には…これで十分だ」

そう言って儚く微笑むマリアネラ。



「…解りました。大切に使わせて頂きます」

俺の言葉に静かに頷くマリアネラ。



「もう暫く…夜風に当たって行くかい?」

「…そうですね」

俺とマリアネラは夜空に輝く星々を見ながら、他愛のない会話を楽しむのであった。











翌朝、少しずつ調子を取り戻して来た体で食堂に向かう。

まだまだ本調子ではないが、あと2日程で体調も完全回復し、超回復も正常に機能しだすだろう。

回復すればやる事やしたい事が山ほどある。

俺はその事を考えながら食堂に降りると、何やら食堂がざわついていた。

ソレを不思議に思い皆が集まっている所まで近寄ると、ナディアが床に蹲っていた。



「どうたの?何か…あったの?」

「ええ、ナディア様が…朝食をおもどしになられまして…」

そう言って心配そうにナディアを抱きかかえ、吐いた物を拭きとっているステラ。

ナディアは少し申し訳なさそうな顔をするとステラに例を言い、フラフラと立ち上がった。



「…ナディア…大丈夫?」

「…大丈夫…心配ない…」

俺の言葉に少し苦笑いするナディアは、部屋に戻ると言って食堂を出て行こうとして、そのまま倒れて意識を失ってしまった。



「ナ…ナディア!?」

俺はすぐにナディアを抱きかかえるが、ナディアはそのまま眠ってしまった様であった。



「とりあえずナディアさんを部屋に運んで寝かせましょう葵さん」

リーゼロッテの言葉に頷く俺は、そのままナディアの部屋に向かう。

ナディアを部屋のベッドに寝かせ、そばにあるイスに座る。

ナディアを見つめながら座っていると、ミーアとシノンがトレイに水を乗せて部屋に入って来た。



「ありがとねミーア、シノン」

俺が笑顔で礼を言うと、いえと少し元気の無い返事をするミーア。

シノンもどこか浮かない表情であった。



「どうしたのミーア、シノン?」

少し気になった俺は2人に問いただす。



「…実は、少し気になる事があるのです葵様」

「気になる事?何なのミーア?」

「はい、ナディア様の事なのですが…ひょっとしたらなのですが…ナディア様は物を食べる度に、おもどしになられているのかもしれないと…」

「え!?食べた後に…毎回吐いているって事!?」

俺が困惑してそう言うと、コクコクと頷くシノン。



「最近のナディア様は毎回食事が終わられますと、毎回すぐにトイレに行かれます。私はそれを少し変だと思い、ナディア様の後をつけたのです。その時に、ナディア様の吐かれる声の様な声を聞きまして。トイレから出てこられたナディア様は、いつもと同じ様にしていらっしゃったので、その時は…たまたまなのかなと思っていたのですが…」

そう言って心配そうな顔をするシノン。

その言葉を聞いた俺とマルガは顔を見合わせる。



「それは…何時頃からなのですかミーアさんにシノンさん?」

「はいマルガ様、確か…葵様が…バスティーユ大監獄からお戻りになられた頃位からでしょうか?」

「え!?…って事は、最低でも10日前から!?」

俺はマルガと顔を見合わせながら更に困惑する。

すると一緒に来ていたリーゼロッテがキュッと唇を噛む。



「…不味いですね。そう言う事でしたか」

「どういう事なのリーゼロッテ?」

俺が何かに気がついたリーゼロッテに問いかける。



「…恐らくナディアさんは今、物を食べるとすぐに吐いてしまうのでしょう。きっと、心的外傷後ストレス障害…。あのバスティーユ大監獄から戻った時辺りからですと、時期的にも辻褄が合います」

「それは…どんな病気なのでしょうかリーゼロッテさん?」

マルガが聞きなれない言葉に戸惑いの表情を浮かべる。

俺は地球の勉強をしているリーゼロッテのその言葉を聞いて、血の気が引いていく。



「心的外傷後ストレス障害…つまりストレスと言う名の心の傷が、体に異常をきたしているのですよマルガさん。その症状は多岐にわたりますが、今のナディアさんは心的外傷後ストレス障害に近い傷を心に負って、それが元で体に異常をきたし、物を食べたらすぐに吐いてしまうのでしょう。恐らく今まで私達が気づかなかったのは、ナディアさんがコティーさん達の仇を討つ為に、気を張っていたからに違いありませんわ」

「と言う事は…今はその仇も無事に討てた事で…張っていた気も無くなったから倒れたって事?」

俺の言葉に恐らくはと言うリーゼロッテ。



「私が記憶している限りでは、ナディアさんは毎回3食、私達と同じ様に食事を取っていたはずですわ。普通10日も食事を満足に取らなければ倒れても不思議ではありませんが、ナディアさんは元々郊外町で過酷な生活環境に居ました。飢えには慣れていた事もその要因の1つでしょう。それに吐くと言っても、少しは胃に残りますので、その事もあったのでしょうね。迂闊でした…私の責任ですわ」

そう言って瞳を細めるリーゼロッテ。



「いや…リーゼロッテの責任じゃない。そこまで自分に厳しくしないでよリーゼロッテ。リーゼロッテが解らない事なんだったら、皆文句は言わないよ。俺だってそうだし」

そう言ってリーゼロッテの頭を撫でると、ハイと少し小さい返事をするリーゼロッテ。



…コレはリーゼロッテのせいじゃない。…俺のせいだ。

俺だってあのバスティーユ大監獄から帰ってきた直後は、まともに食事を取れなかった。

あの惨状を見れば、誰だってそうなっても可笑しくはない。

しかも、ナディアはあそこでコティー達を殺されているのだ。

その衝撃は俺などと比べ物にはならない物だったはず。

ナディアがそのトラウマから精神に異常をきたし、体に異変が起きたとしても何ら不思議じゃない。

俺はあの時、ソレに思い至る余裕がなかった。

その事を思い、自分の不甲斐なさにたまらなく嫌気が差す。



「…ご主人様?」

その優しく心配そうな声に、俺は現実に戻される。

マルガの暖かく柔らかい手が、無意識に強く握られた拳に優しく置かれていた。



「…大丈夫だよマルガ」

俺がそう言ってマルガの頭を優しく撫でながら言うと、その表情を和らげるマルガ。

そんな俺とマルガを見て居たリーゼロッテは、その綺麗な手をナディアの額に当てる。

するとリーゼロッテの顔色がみるみる悪くなる。



「これは…不味いですね」

「どうしたのリーゼロッテ?」

「はい葵さん、私のスキルにエルフの加護があるのをご存知ですよね?」

リーゼロッテの言葉にアレか?と思い出す俺。



「確か…自然の力や邪悪なモノのを感覚で感じる事が出来るんだよね?」

「はいそうです。私はその力で森の木がどの様な気の流れをしているとか、川の水がどれ位綺麗で汚れているとか、邪悪な霊の様なモノの気配も敏感に感じる事が出来ます。同じ様に人がどれ位の生命力があるのかも、感覚的にある程度解ります。今のナディアさんは…枯れていく木の様に…生命力が弱っている様に感じます」

「な…なんだって!?」

俺はリーゼロッテの言葉に驚く。



「葵さん、葵さんのレアスキルである霊視でナディアさんを見て頂けませんか?葵さんの霊視なら、現状のナディアさんの生命力を見れるはず」

リーゼロッテの言葉に頷く俺。



俺のレアスキルである霊視は、人の状態も見ぬく事が可能だ。

普通の人を霊視すれば、その人の気の流れや魔力、そういったものが綺麗に流れているのが見える。

だが、何かの病気であったり怪我をしている場合だと、その部分が淀んで流れが悪くなっているのである。

もし、ナディアが大きく生命力を削っているのであれば、きっとソレも見る事が可能だ。

俺はナディアを霊視しようとして集中するが、視界が定まらずナディアを霊視する事は叶わなかった。



「…クッ!!!!!」

軽く頭を押さえる俺。



「どうかなさいましたかご主人様?」

「…だめだ、霊視出来無い。恐らく種族能力を開放した後遺症で、まだ完全に魔力が戻りきって居ないのが原因だと思う」

その言葉を聞いたマルガは顔を蒼白にする。



「…更に状況が悪いのですわね。私は最悪、葵さんの魅了でナディアさんに強制的に食事を取らせようと考えていましたが、きっと魅了も今の状態の葵さんでは発動しないでしょう」

リーゼロッテの言う通りかもしれない。

俺は普段、事も無げに魅了や霊視を使ってはいるが、本来、レアスキルの中でも特に力のある魔眼に属するレアスキルを行使するには、膨大な魔力を必要とするのだ。

ジェラードが持っていたダヴィドの魔眼みたいな例外もあるが、俺の霊視と魅了は違った様だ。

普段の俺は、自分で言うのも何だが魔力がずば抜けて高い方なのだ。

ソレは俺が半分魔族であるヴァンパイアハーフで超回復を持つからなのだが、今の俺は超回復も満足に機能していない。当然、魔力も戻りきっていない。



「…私の感覚ですと…この調子で生命力を削っていけば…2日もつかどうか…。葵さんの魔力が戻るのも…後2日位。自体は一刻を争いますわね」

そう言ったリーゼロッテは何かを考えていた。



「…点滴を至急作ってみますわ葵さん。口から栄養や薬を取れないのであれば、体から点滴で強制的に栄養を取らせるしか方法がありません」

「…でも、急に作れる物なのリーゼロッテ?」

「…解りません。ですが、今可能性のある方法で、最善の方法だと思いますわ」

リーゼロッテの言葉に納得し頷く俺。



「では、行動を開始しますわ。マルガさんとマルコさん、それにミーアさんとシノンさんは私の点滴作成の手伝いを。ステラさんにはナディアさんの様子を見て貰って下さい」

そう言って慌ただしく部屋から出て行こうとするリーゼロッテは俺に振り返る。



「…葵さん…葵さんは、葵さんにしか出来無い事があります。…では、行ってきます」

そう言って皆を引き連れて部屋から出て行くリーゼロッテ。

その入れ違いで部屋に入って来たステラが、その様子を見て困惑していた。



『…俺にしか…出来無い事…?』

リーゼロッテが言ったその言葉が俺の何かに問いかける。



「…ステラ。俺が言う物を用意してくれる?」

俺の言葉を聞いたステラは俺の言った物を用意する為に部屋から出て行った。



『…ナディアは死なせない。…俺が…この手で…救う!!』

そう心に誓った俺は一人になった部屋で、ナディアのちっちゃな手を握りしめていた。











辺りは夜の帳がすっかり降り、地球で言えば日付の変わる時刻であろう。

俺は寒くなって来た部屋を暖める為に、部屋の片隅にある暖炉に薪をくべる。

俺達の部屋には魔法球が取り付けられているが、一般の部屋には取り付けられては居ない。

もうすぐ冬将軍がその猛威を振るうでろうと予想される寒さを感じながら、俺は部屋を暖めていた。

そして、部屋が十分に暖め、肌着でも寒くない様にしてその時を待っていた。

ナディアは部屋の暖かさを感じ、その可愛らしい瞳を開く。



「…ナディア、起きた?」

俺の言葉を聞いて、ちっちゃな手で瞳をコシコシと擦るナディアは、そのライトブルーの瞳に俺を映す。



「…空?…どうして…空が…私の部屋に?」

まだ少し寝ぼけているのか、それとも体に生気が少なくなって居るのか、ナディアはまだ状況を理解しては居なかった。



「…ナディア食堂で倒れちゃったでしょ?だから部屋に連れて来たんだ」

そう言って状況を説明すると、なんとなく思い出したのか少し顔を俯けるナディア。



「…そう…ごめん…空」

「…ナディアが謝る事じゃないよ」

そう言って微笑みながら、俺はナディアを抱き寄せ、一緒にベッドの背もたれに座る。

ナディアは俺の膝の上に座らされ抱かれて、少し居心地の悪そうな顔をしていた。



「…私を…膝の上に座らせて…どうするつもり?…私をあの奴隷達と…同じ様に…犯したいの?」

少したどたどしく言うナディア。

ソレに思わず吹き出しそうになるが、グッと我慢してナディアを抱く手に力を入れる。



「…そうしたいと言ったら…ナディアはどうする?」

俺の言葉が予想外だったのか、少し体を強ばらせるナディア。



「…空が…そうしたいなら…好きにしたらいい。…私は…拒まない」

そう言って何かの覚悟を決めたかの様に、少し体の力を抜くナディア。

そのナディアの予想外の言葉に、俺も少し驚く。



「へ~。俺ってナディアに好かれてたんだ」

「す…好かれてない!…ただ…空には…色々して貰った…だから…その…お礼」

少し不貞腐れたかの様な顔をして、プイッとソッポを向くナディア。

俺はそんなナディアの頭を優しく撫でると、強ばっていた体の力を抜いていくナディア。



「でも、俺がしたい事は…もっと重要な事なんだよね」

俺はそう言って、ベッドのすぐ側にあるテーブルの上にあるトレイを引き寄せる。

そしてナディアの膝の上に置く。

そのトレイには、パンと具の少ない飲みやすいスープが置かれていた。



「俺はナディアと一緒に…食事がしたくてさ」

その言葉を聞いたナディアは、抜いた力を再度入れ始める。



「…要らない。…今…お腹空いてない」

あからさまに食事を拒否するナディア。



「…何故?ナディアは夕食を吐いちゃったから、お腹が空いてて当然のはずだけど?もうかなり時間も経ってるし」

「…さっきまで…寝てたから…だと思う。…だから…お腹空いてない。…要らない」

頑なに食事を拒否するナディア。

俺は余りに予測出来たナディアの言葉にクスクスと笑う。

俺のその笑い声に、ムッとするナディア。



「何が…可笑しいの?」

「…ごめんごめん、少し予想通り過ぎたからさ。…ナディアはこの食事を断れないんだよ?」

「…え?」

俺が言った言葉に戸惑うナディア。



「俺は今まで、ナディアの為に尽力してきたつもりだ。コティー達の仇だって討たせてあげた。覚えてるよね?」

俺が静かに言った言葉に、コクッとゆっくり頷くナディア。



「…その対価を今払って貰う。ナディアにこの食事を食べて貰う。もし、この話を断るのであれば、今すぐにそれ相応の対価を、お金として支払って貰う事になる。金貨数何十枚分以上の価値はあるお金をね。この食事を食べないと言うのであれば、今すぐそのお金を払いなさい」

俺の淡々とした言葉に戸惑うナディア。



「…そんな…いきなり言われても…お金なんて…無い」

「…取引はいつも自分の有利な時や十分に準備された時にばかり行われるものじゃないんだよ。ナディアは俺に対価を支払う義務と責任がある。俺は商人だ。自分の債権を回収するのに、一切手をぬく様な事はしない。…ナディア、今すぐお金を払えないと言うなら、この食事を食べなさい。今俺が言っているのは話し合いなどでは無いよ?コレは債権者としての命令だ。…この食事を…食べなさいナディア」

俺の少し冷たい淡々とした言葉に、ナディアはキュッと唇を噛む。

暫く体に力を入れて俯いていたナディアは、何かの覚悟を決めて木製のスプーンを手に取り、スープを掬う。

そして少し体を震わせながら、勢い良くそれを口の中に入れた。

具の少ない飲みやすいスープであったので噛む必要の無いナディアは、そのスープを喉に流し込む。

そしてその直後、俺の膝の上から逃げ出そうとして、俺に抱きつかれて体を拘束される。

俺の拘束されたナディアは、体をじたばたとさせて俺からの拘束から逃れようとするが、すぐにやってきたある衝動から逃げ出せなくなった。



「…うえええ」

短い声と共に、先ほど食べた飲みやすいスープをもどし吐き出すナディア。

俺はそれを予測していたので、食事の乗っているトレイを上げて、嘔吐物から食事を守った。

ナディアの口元を布で拭き、再度木製のスプーンで飲みやすいスープを掬う。



「…ナディア食べて」

俺は淡々とした口調でナディアの口元にスプーンを持っていく。

ナディアは俺に振り返り、困惑した表情を浮かべる。



「…私…吐いたから…服が…」

「…食べなさいナディア」

ナディアの言葉を遮り、食事を促す俺。

俺が一切他の言葉に耳をかさないと理解したナディアは、恐る恐ると言った感じで、再度スープを口に含み食べる。

すると、スープを飲み込み、たちまち吐き戻してしまうナディア。

俺は再度ナディアの嘔吐物から守る為に、食事の乗ったトレイを上げる。

俺が一切ナディアの嘔吐物に興味や不快感を露わにしていない事を感じ、困惑した表情で見つめるナディア。



「…ナディア。食事をしても…全て吐き戻してしまう様になってるんでしょ?」

その言葉を聞いたナディアは一層体を強ばらせる。



「…そんな…事は…」

「…嘘をつかないで。…ナディアは…俺に…嘘をつくの?」

その言葉を聞いたナディアは言葉を詰まらせ無言になって俯く。



「…もう随分とそんな状態なんでしょ?…恐らく、バスティーユ大監獄から帰って来た辺りからかな?」

俺のその言葉を聞いたナディアは、体をピクンと反応させる。

そして、暫く無言で俯いていたが、コクンと力なく頷いたナディア。



「…やっぱりそうだったんだね。…ナディアはリーゼロッテの事を知ってるね?リーゼロッテはハーフエルフだろ?エルフは種族スキルでね、生き物の生命力とかを微かに感じれるんだ。そのリーゼロッテが言うんだよ。『ナディアの生命力は…枯れていく木の様に減っていっている』ってね。…何故だろうね?」

俺が淡々と言う言葉に、瞳を揺らし顔を俯けようとするが、強引に俺に顎を掴まれて、顔を向けさせられるナディア。



「…ナディア。君は死ぬつもりだね?コティー達の仇も討てたし…もう思い残す事は無いと思ってないか?」

俺が瞳を細めながら言うと、更に動揺するライトブルーに澄んだ瞳。



「…そんな事、商人であり債権者である俺が…簡単にさせると思っていたのかな?それは…甘い考えと言うものだよナディア」

そう言ってニコッと微笑む俺。



「…ナディアが食事を食べない、食べてもすぐにもどすから食べないと言うのであれば…俺も同じ様に食べない。俺は今から…ナディアと同じ様に…食事を取らない」

その言葉を聞いたナディアは激しく動揺する。



「ナディアは前に…この世界の正体を見てやるって言ってたよね?コレが…ナディアの世界の正体だよ。ナディアの世界はね…俺と一緒に食事を取らないで…そのまま一緒に餓死すると言う事さ。コティー達の世界は、あの狂った部屋で終わってしまったのかもしれないが、ナディアは俺が一緒に餓死してあげるのだから…少しはマシなのかな?」

少し嘲笑う様に言う俺の顔を見て、激しく瞳を揺らしているナディア。



「きっと俺が死ねば、マルガは後を追って死ぬだろう。リーゼロッテもだね。ステラ、ミーア、シノンだって死ぬだろう。うは!一杯死ぬね!皆ナディアについて…死んじゃうね!」

楽しそうに言う俺に、激しく戸惑っているナディア。



「…ナディアの世界の最後は、たくさんの人を道連れにしたって事になるね。…つまり、ナディアが殺したって事だね。コティー達は殺されただけだけど、ナディアは人を殺して世界の幕を引けるね。…この世界に少し抵抗できて嬉しい?」

見下す様に言う俺を観てキュッと唇を噛むナディア。



「ああ!この世界に負けてしまったナディアに何を言っても無駄だったね!…じゃあ、皆を殺して、幕を引こうかナディア?」

そう言って軽く笑う俺を見て、ギュウウと握り拳を作るナディア。



「…なずない…」

「…ウン、何?」

「…出来る…はずない…」

「なになに?声が小さすぎて聞こえないよ?もう幕を引きかけているのだから仕方ないのかな?」

俺がそう言って嘲笑うと、キッと俺を睨むナディア。



「私に…何か出来るはず無い!!出来無いから…コティー達を救えなかった!!!」

そう咆哮の様な声を出し、俺の胸ぐらをギュウと掴み上げるナディア。

その可愛いライトブルーの瞳には、今にも零れそうな涙を貯めていた。



「…そうだね、出来なかったからコティー達は死んだ。だから…ナディアも死ぬって言うの?」

俺の言葉を聞いたナディアは瞳を激しく揺らす。



「…俺は死なない。俺はコティー達やユーダさんを救えなかった。出来なかったんだ。だけど…俺は死なない。何故だか解る?」

俺の静かなその言葉を聞いたナディアは、首を横に振る。



「それはねナディア、今の俺の側にはねマルガ達がいるからだよ。愛するマルガ達がいるから、俺は死ねない。俺が死んだら…きっとマルガ達は悲しむ。だから…死ねないんだよ」

その儚い俺の表情を見て、胸ぐらを掴んでいたその手を離すナディア。



「冷たいと他の人に言われ様が一向に構わない。俺は愛するマルガ達の笑う顔が見れるならなんでもしようと思うんだ。だから…どんなに不恰好でも…人の命を犠牲にしても…生き抜いてみせる」

そう言ってナディアの額に手を置く。

ナディアの額には、崖から落とされた時に付いた☓印の傷跡が付いている。



「コティー達はナディアに生き抜いて欲しいから、ナディアをあの崖から突き落としたのだと思うよ?それを無駄にして…生きるのをやめるっていうのは…それが出来なかったコティー達に対しての冒涜だ」

そう言い放った俺の言葉を聞いたナディアは、激しく狼狽する。



「…でも…私…コティー達がいなくなって…もう…生きる目的が…」

そう言ってポロポロと涙をながすナディア。



「…だったら、俺と一緒に生きよう。俺と一緒に…本当の本当の…本当の最後まで足掻いて…その最後の時までずっと一緒にね。…俺は…ナディアと一緒にいたいんだ」

そう言ってナディアの頬を優しく撫でる。



「…何故…空は…こんな何も出来無い私に…そこまで言ってくれるの?」

「…それはナディアの事が…大切なんだ。もう…失いたくは無い…子になっちゃんたんだよ」

「…嘘だ…。私は…皆から嫌われるオーガ族。コティー達以外に…必要とされない」

そう言って自分の体を嫌う様に、きつく縛る様に抱きしめるナディア。

俺はそんなナディアを見て軽く溜め息を吐く。



「オーガ族だからどうしたの?俺なんか皆に嫌われるどころか、敵対者として認知されている魔族の血を引いてるよ?」

その言葉を聞いたナディアは驚愕の表情をする。



「ヴィトレの大砦を襲撃した魔族は俺だ。俺は半分魔族の血を引いている。詳しくは今説明しないけど、俺は…人間族や亜種族の敵対者。…ナディアは俺の事が…嫌になった?」

俺のはかなげな表情を見たナディアは、ブンブンと首を横に振る。



「だったら同じだよ。ナディアがオーガ族だなんて関係ないよ。…ナディアは俺の大切な子なんだ」

その言葉を聞いたナディアは、瞳を大きく見開き、そして軽く俯きモジモジとする。



「…空は…私の事が…好き…な…の?」

少しどもりながら言うナディア。



「うん好きだね。きっと大好きだ。だからナディアと一緒に、もっと楽しい事をしたい。またナディアと海にも行きたいし、色々な町を巡って、美味しいものも食べたい。山に登って綺麗な景色も見たいし…いっぱいナディアとしたい事があるんだ」

その言葉を聞いたナディアは、顔を赤らめる。



「…もし、俺の話を聞いて、それでも死にたいと言うなら…俺が本当に一緒に死んであげる。マルガ達には俺が最後まで生き抜く様に命令を出してからだけどね。俺が心の底からそう言えば、彼女達は最後まで足掻き、生き抜いてくれる。だからマルガ達の事は気にする事はない。死ぬのは…俺とナディアだけなのだから」

そう言ってナディアを胸の中に抱きしめる。



「でも…出来るなら一緒に生きて欲しい。…ナディア死なないで。俺の為に…一緒に生きて。俺には…ナディアが必要なんだ…」

俺はそう言ってナディアをギュッと抱きしめると、肩を震わせたナディアは、涙をポロポロっと流しながら嗚咽しだした。

ギュッと俺の胸を握るちっちゃな手。



「…ナディア…生きよう?」

俺がそう小声で囁いた時だった。

ナディアはガバッと俺から離れると、トレイに乗っていた食事に手を伸ばす。

そしてスプーンでスープをいっぱい掬い、一気に口に流し込んだ。

それを勢い良く飲み込んだナディアは、当然、嘔吐しそうになるが、口に両手を当てて強引に口に栓をした。

出口の無い嘔吐物は、今来た道を強引に戻される。

無理やり力ずくでスープを飲み込んだナディアの体からは、オーガ族特有のオーラの様な物がうっすらと出ている。

ナディアは強引に胃の中に嘔吐物が戻っていったのを感じると、パンを引きちぎり口に頬張り噛みしだき飲み込む。

再度嘔吐物が上がってくるが、それも強引に栓をして、力ずくでねじ伏せる。



ナディアの体は、確かに食べ物を拒否している。

だが、それを上回る強い生きるという意志が、その拒否を強引にねじ伏せる。

その戦いは幾度と無く行われ、最後は全ての食物を口に入れ、強引にねじ伏せ流し込んだナディア。

そして、空になった皿を俺に見せ、ニコッと微笑む。



「…全部食べた…これで…一緒に生きれる?」

激しく体力を消耗したナディアは、肩で息をしながら俺に問いかける。



「…ウン、一緒に生きられるよ」

その言葉を聞いたナディアは満面の微笑みを浮かべる。



「…そう…よか…た…これ…で…空…と…」

そう言いかけたナディアは、俺の胸に顔を埋め気を失った。

しかし、その顔には一切の後悔の色は無く、どこか幸せそうだった。

そんなナディアを抱きしめ優しく頭を撫でていると、部屋の扉が静かに開いた。



「…色々準備が整ったので様子を見に来ましたが…どうやら私の点滴は…必要無かった様ですね葵さん?」

どこか楽しげで嬉しそうなリーゼロッテが、女神と見まごう微笑みを見せる。



「…そうだね」

そう言って苦笑いした俺の腕に抱きつくリーゼロッテは、俺の頬を引っ張る。



「むにゅう?」

変な声を出した俺を見てクスクスと笑うリーゼロッテ。



「…私の知らない所では死なせませんわよ葵さん?」

「はひ、すいましぇん」

リーゼロッテに両頬を引っ張られる俺を見て、更に楽しそうなリーゼロッテはクスクスと笑う。



翌朝。いつもと変わらない朝食の光景がそこにはあった。

皆が食堂に集合して、ステラたちから朝食をもらって食べている。

そんな中やってきたちっちゃな影は、ドカドカと足音を立てて食堂のテーブルにつく。

そして、ステラを見て右手を上げる。



「…朝食…食べる!」

そう言ったちっちゃな鬼は、ステラから朝食を貰うと、いつかのマルガの様に、右手にナイフ、左手にフォークを構えると、その朝食に襲いかかった。



バクバクと朝食を食べるちっちゃなオーガ族は、食べ物を飲み込んだ後にグッと少し声を出すが、吐き戻す事は無く次々と朝食を食べていく。

それを何事も無い様な感じで見ている俺を見て、そのちっちゃな生きる意志は俺に語りかける。



「…空…朝食って…とても美味しいんだね。…生きるって…美味しい時も…あるんだね」

「…そうだね。これからもっと…いろんな意味の美味しいを…一緒に楽しもう」

俺がそう言ったのを見たナディアは、ポロポロと涙を流しながら、ドンドンと朝食を口に運び食べていく。

そんなナディアを見たマルガにマルコも、同じ様に涙をポロポロと流しながら朝食を美味しそうに食べて居た。

それを見て不思議そうな顔をするエマ。



「ね~ね~なぜ、マルガおねいちゃんやナディアおねいちゃんは泣いてるの?マルコおにいちゃんまで泣いてるし」

少し困惑するエマの頭を、クスクスと微笑むリーゼロッテが優しく撫でながら、



「それはですねエマさん、今日も朝食が美味しいと言う事ですわ」

「そっか~!私も朝食大好き~!美味しいから!」

そう言ったエマはキャキャとはしゃぎながら、同じ様に朝食を頬張る。

そしてぺろりと朝食をたいらげたナディアは、ちっちゃな手で皿をつかむ。



「…空!…おかわり!」

その声に続く様に、マルガとマルコがおかわりを告げる。

俺がステラに視線を送ると、クスクスと嬉しそうに頷き、ナディア達のおかわりに応えていく。



今日もグリモワール学院の宿舎の食堂は、賑やかな声に包まれていた。

俺はその声を聞きながら食後の紅茶を飲みタバコを吹かしながら、これから食費を稼ぐ為に行商をする楽しみが増えた事に、口元が緩むのを感じていた。











「どうかお待ちください!!!」

純白の何者にも汚される事を許さぬ宮殿に、けたたましい声が響き渡る。

その声を掛けられた主は、その声に一切耳を貸さず、目の前の豪華な扉をノックもせずに勢い良く開く。



「何事ですか騒々しい!」

その執務室にいた文官が、無作法に扉を開けた者に対して厳しい言葉を投げかける。

しかし、きつい言葉を投げかけた文官は、その部屋に入って来た人物を見て驚きの表情を浮かべる。

そんな文官と部屋に入って来た人物を見た、美しい彫刻のされた執務机に座っている女性は深い溜息を吐く。



「…他の者達は…少し席を外して下さい」

執務机に座っている女性の言葉を聞いた他の者達は、困惑しながらも逆らう事無く執務室を退出する。

それを見た無作法な人物はニヤッと微笑む。



「悪いわね~。何か気を使わせちゃったみたいで」

少しおどけながら言う女性の言葉に、一切の表情を変えない執務机の女性。



「…別に構いませんわルーヴォワール司教枢機卿。今しがた公務も終わった所でしたし」

「…ルーヴォワールだなんて…水臭い呼び方をするわね。私と貴方の仲じゃないアウロラ。昔みたいにトリウィア・エーヴとは呼んでくれないのかしら?」

端正で理性的な美しい顔に、親しみ易い微笑みを浮かべるトリウィア。

その言葉にも一切の表情を変えないアウロラ。



「…それで、今日はどう言った要件で、私の元に来られたのでしょうかルーヴォワール司教枢機卿?」

愛想のないその言葉を聞いたトリウィアはクスッと笑う。



「大した用では無いわ~。外遊の帰りに、妹の顔が見たくなっただけよアウロラ?」

そう言ってアウロラと同じピンク掛かった美しい金髪に手櫛を入れるトリウィア。

そんなトリウィアを見ても、表情を一切変えないアウロラ。



「…それだけの理由で、ヴィンディミア教の司教枢機卿にして、神聖オデュッセリアの教皇の次に執政権を持つ貴女が、私に面会に来られたのでしょうか?」

淡々と言ったアウロラを見てクスッと可笑しそうに笑うトリウィア。



「…まあ、アウロラが言う通り、只愛しい妹の顔を見に来ただけでは無い事は…確かだけどね」

そう言ったトリウィアはニヤッと口元を上げる。



「少し面白い噂を聞いたの。このフィンラルディア王国の教会で行われている郊外町での施しの事なのだけど…何かとんでも無い物を…教会を通じ施しをさせたと…噂に聞いたのよね」

そう言って流し目でアウロラを見るトリウィア。



「…なんでもフィンラルディア王国から提供された施しの食料が…事もあろうに人間の物だなんて言う物だから…本当なのかしらと思ってね」

そう言って瞳を細めるトリウィア。



「もし…それが本当なら、五ヶ国協定に大きく逸脱した事になるわ。フィンラルディア王国と神聖オデュッセリアが戦争になり兼ねない程のね。…その真意を確かめに来たのよ」

そう言ってアウロラの座る執務机に腰を下ろすトリウィア。



「…さあ、何の事でしょう?教会を通じた施しはいつも通り普通の物を、国費を割いて提供させて貰っていますわ。…只の悪質な噂では無いでしょうか?」

そう言って涼やかな微笑みを湛えるアウロラ。



「…そうかしら?風の噂では最近女王裁判が開廷されたと聞いたわ。そしてとある貴族が…郊外町で人を攫い…その人々を…食料に変えていたと…」

ゆっくりとアウロラを見つめながら言うトリウィア。



「…確かに最近女王裁判を開廷しましたが、ソレは国費の横領についてですわルーヴォワール司教枢機卿。達の悪い噂と混同されては困りますわ」

何事も無かったかの様に、さも平然と言うアウロラを見たトリウィアはニヤッと口元を上げる。



「…達の悪い噂ね~。でも…火のない所に…煙は立たないわ。…少し調査させて貰っても良いかしら?」

そう言って迫るトリウィアに、涼やかな笑みを浮かべるアウロラが首を軽く横に振る。



「残念ながらそれは承諾出来ませんわ」

「…何故かしら?」

「その理由は簡単ですわ。このフィンラルディア王国はヴィンディミア教を国教としていない事に加え、ヴィンディミア教に対して参政権を与えていません。参政権を持たないヴィンディミア教が、フィンラルディア王国を調査するなど…それこそ五ヶ国協定から大きく逸脱した行為になるでしょう。そうなれば…私達は神聖オデュッセリアに弓を引かなければならなくなりますわ」

そうトリウィアに静かに語りかけるアウロラの瞳は、一切の感情が込められては居ないかの様であった。



「…ソレは宣戦布告と…捉えて良いのかしらアウロラ?」

「さあ?どうでしょうか?その様に取られたとしたら…私は遺憾であるとお伝えしておきますわ。もし、そう捉えられたとしたら…私に面会に来た人物が、無能であったと教皇にお伝えする他はありませんね」

そう言ってフフと楽しそうに笑うアウロラを見たトリウィアは、ギリッと奥歯を噛み締める。



「…私を無能呼ばわりするのかいアウロラ?…ソレがどの様な事態になるか…解らない貴女じゃ無いわよね?」

低く全てを飲み込むかの様な声を出すトリウィア。



「…そうですね、良く理解してますわトリウィア姉様。…また番犬をこの国に放ちますか?…まあ、飼いならされた番犬は、自分で自分自身を燃やし尽くしてしまったらしいですけど。せめて焼かれた肉になったのであれば、誰かの腹を満たせたでしょうに。全く役には立ちませんわねトリウィア姉様?」

そう言ってニヤッと口元を上げるアウロラを見たトリウィアは、ギュッと唇を噛む。

そして、冷徹に染まった瞳でアウロラに迫ろうとした時、ヴァレンティーノ宮殿の全てを、王都全てを覆い尽くすかの様な甲高い音が響き渡る。



『ガシャリイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンン!!!!!!!』

そのまるで月が割れたかの様な、甲高い音美しい音に気をそがれるトリウィア。

そして、その音がした方角にある窓から外を見たトリウィアの表情が固まる。



その瞳の中には、王都ラーゼンシュルトにあって、ヴァレンティーノ宮殿に引けをとらないと評されるヴィンディミア教の大教会が、その全てを大きな氷の中に封じ込められていた。

まるで巨大な氷山に覆われたかの様な大教会を見たトリウィアは、言葉も発せられないでいた。



「…あらあら、大教会が凍りづけになってしまっていますわね。あの氷は絶対氷結かしら?だとしたら…たとえ反対属性である火属性の魔法でも、四属性の天敵である闇属性の魔法を持ってしても…永遠に溶かす事はで来ませんわね。ソレをかけた術者が…魔法を解かない限りは」

そう言って軽く溜め息を吐くアウロラ。

その言葉を聞いて、再度ギリリと奥歯を噛み締めるトリウィア。



「…暁の大魔導師か!!!!」

そう言ってアウロラを睨みつけるトリウィア。



「…今王都には、残念ながらヴィンディミア教に対して、代替えで用意出来る土地がありません。あの氷が溶けるまで…中での礼拝は出来ませんね。まあ、あの様な奇跡に近い事はそうそう起こる物ではありません。まさに女神アストライア様の奇跡なのかも知れませんわね?」

そう言って合科な装飾の着いた扇子を口元に当て、楽しそうにクスクスと笑うアウロラ。



「…あの大教会には、沢山の信者が居たはず。その全てを凍りづけにしたの?」

「…さあ?私達には解りませんが、確か今日は…ルーヴォワール司教枢機卿が南の広場で、説法をすると報告を受けています。敬虔なヴィンディミア教達は皆、今頃南の広場に集まって居るのでは?それこそ…大教会から…人一人もいなくなるほどに」

そう言ってフフと微笑むアウロラ。



「貴女…私が今日…ここに来る事を知ってて…そんな偽の情報を流したのね?」

「さあ?私には全くなんの事か解りかねますわトリウィア姉様?」

アウロラの涼やかな微笑みを見て、ギュッと唇を噛むトリウィア。



「…全く、女王になって…お淑やかになったと話を聞いたけれど…貴女…何も変わってないわねアウロラ?」

「あら…トリウィア姉様だって神聖オデュッセリアの名家ルーヴォワールに嫁いでも、全く変わっていなさそうでけど?」

そうお互いに言ったアウロラとトリウィアは、互いに睨み合う。



「…そろそろ、南の広場に行かないと、ルーヴォワール司教枢機卿の名に傷が付くのではなくてトリウィア姉様?」

沈黙を破ったアウロラの言葉を聞いたトリウィアは、フンと鼻を鳴らす。



「…同じ『エーヴ』の名を持つと言うのに…。貴女は…何故そうなってしまったのかしら?…まあ、いいわ。また、次回話をしましょう」

そう言ったトリウィアは、お供に連れていた2人の少女と共に執務室を出て行く。

そして、執務室を出たトリウィアは、客室に向かう。



「あの女気に食わな~~~~~い!!!!」

「だよね~~~!!!この国ごと食べちゃえば良いのに!!!」

2人のお供の少女が、トリウィアに向かって不満を口にする。

それを見てフフと笑うトリウィア。



「…私達はこの国を滅ぼしたい訳じゃない。それは、同じ五大国であったグランシャリオ皇国が滅んだ時に学んだ事よ。五大国は数を減らすべきではない。数を減らせば…他者がその力を軽んじ、力をつける糸口になるわ。そうなる事は避けなければいけないのよ」

そう言ったトリウィアは客室の扉を開ける。

そして、その客室で萎縮しながら待っていた人物に目を向ける。



「ルーヴォワール司教枢機卿様!アウロラ女王は…ヴィンディミア教を国教にする事を…承諾したでしょうか?」

その男の言葉を聞いたトリウィアは、盛大に溜め息を吐く。



「ザビュール王都大司教…相手はアウロラ女王よ?そんなに簡単に諾を取れるのであれば苦労はしないわ。話はまた次回に持ち越しよ」

その言葉を聞いたザビュールは顔を歪める。



「ま、その話は私達が考えるわ。…今は貴方の処分が先よ」

その言葉を聞いたザビュールが顔を蒼白にする。



「あら…何を驚いているの?この国の国教化に失敗し、尚且つテトラグラマトンラビリンスの青の2番を失ったのよ?…その責任は…とって貰うわ。ケル!ベル!」

「「はあ~~~~~~いです!マスター!!!!」」

声を揃えたケルとベルと呼ばれた少女2人のお供は、お互いの右手と左手を合わせる。

すると、そこから黒い光が発生し、その中から巨大な犬の顔が浮かび上がる。

そしてその浮かび上がった黒犬の巨大な顔は、ザビュールに向かって大きな口を開け、一飲みにして食べてしまった。



「「うっわ!!!!!不味い~~~~~!!!」」

声を揃えてそう言ったケルとベルの少女2人は、ペッペッと軽くつばを吐く様な仕草をする。

そんな2人の少女の頭を優しく撫でるトリウィア。



「不味いものを食べさせちゃったわねケル、ベル。…お詫びに…今夜はたんと可愛がって上げるわ」

その言葉を聞いたケルとベルの2人の少女は顔を赤らめ恥ずかしそうにする。



「…取り敢えず、南の広場に行くしか無いわね。…アウロラ…暁の大魔導師…この借りは…必ず返させて貰うから…覚えておきなさい」

そう言ったトリウィアはケルとベルの少女2人をお供に、客室を出て行くのであった。











ここは王都ラーゼンシュルトから程近い船着場。

その船着場に豪華な魔法船に乗り込もうとしている2人の人影があった。



「これで暫く…この王都ともさよならですねヒュアキントス」

その真っ赤な燃える様な美青年の声を聞いたヒュアキントスはフフと笑う。



「そうだねアポローン。僕達は他にやる事があるからね」

ヒュアキントスの言葉に頷くアポローン。



「しかし…あのジギスヴァルト宰相が…魔族に襲われてあんな事になるとはね。しかも、ビンダーナーゲル伯爵家は六貴族を降りるらしいし」

「そうだね。だが例の資金は、全てイカロスに渡っている。私達が例の件に関与した証拠は一切残しては居ない。僕達が何かを追求される事は無いよ。全て…計画通りだよアポローン」

そう言ったヒュアキントスの言葉に静かに頷くアポローン。



「しかし、ジギスヴァルト宰相も運が無いね。もう少し使える奴かと思っていたが…期待はずれだったね。もう少し、フィンラルディア王国から資金をむしり取りたかった所だけど…仕方ないか。まあ…どのみち、用済みになったジギスヴァルト宰相は、イカロスによって闇に葬られていた事だろうしね。早いか遅いかだけの差だねヒュアキントス」

そのアポローンの言葉を少し上の空と言った感じで聞いているヒュアキントス



「どうしたのヒュアキントス?何か気になる事でも?」

そう問われたヒュアキントスは、我に返ってアポローンに優しく微笑む。



「いや、なんでも無いよ魔法船に乗り込もうか」

ヒュアキントスの言葉に頷くアポローン。



『あの時期と状況で…都合良く魔族の襲撃があるのか?しかも…あの隠し部屋や例の件の羊皮紙が見つかるなんて…。まさか…葵が?』

そう心の中で呟いたヒュアキントスは、軽く首を振る。



『…さすがにそれは無いな。噂に聞く魔物を操れる者など居るはずがない。流石に…考え過ぎか』

その様な事を思いながら魔法船の船室に入った2人は、部屋の中にいる三級奴隷を見つける。

その三級奴隷は、この部屋で新しい主人に仕える様に言われていた。

そして扉を開けて入ってきた新しいご主人様に失礼の無いように、平伏していた。



「あ…新しいご主人様、よろしくお願いします」

奴隷になりたてと解るたどたどしい挨拶をする奴隷を見てフフと笑うヒュアキントスは、その三級奴隷の顔を挙げさせ、その顎を優しく掴む。



「…何も心配する事はないよ。これから僕が…新しいご主人となって…君を守ってあげるから」

その天界の美の象徴とも言えるほほ笑みのヒュアキントスを見た少女は、魂の抜かれた様な顔をする。

そんな少女を見たヒュアキントスは、その少女の唇にやさしいキスをする。

キスをされた少女は、顔どころか耳まで真っ赤にして、ヒュアキントスに見入っている。

その三級奴隷の恍惚の表情を見たヒュアキントスは、満足そうな微笑みを浮かべる。



「…君の名は…何て言うんだい?」

ヒュアキントスの中性的な美しい声を聞いた三級奴隷の少女は、ハッと我を取り戻す。



「わ…私の名は…コティーと言います!!!」

「そうかいコティーか…良い名だね」

そのヒュアキントスの優しい微笑みに、更に顔を真赤にするコティー。



「…この僕が君を守り…色々な事を…教えて上げよう」

そう言ったヒュアキントスはコティーを優しく抱きかかえる。

そして、ヒュアキントスとコティーは奥の部屋に2人だけで消えていく。



魔法船は高速でフィンラルディア王国から離れていく。

幾つもの国をまたぎ、遥か遠い世界に向かって進んでいくのであった。
しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

キョウ
2022.03.15 キョウ

13話 『やぽありアレしかないのか…』って言ってるけど、首切られたら死ぬし、守らなあかん多いのに余裕すぎやん笑
こうい熱血少年漫画かな?って引き伸ばし系の盛り上げはあんま似合わへんかなぁこの小説には。主人公さんロリコンでエロ表現も割とアレではあるけど、それ以外はリアル嗜好で心情描写や展開の緻密さが見事な小説だから、戦闘も盛り上げ優先して逆に冷めさすよりはリアルにしてほしかったなぁ

解除
キョウ
2022.03.15 キョウ

【愚者の狂想曲】
分かってることだけど。主人公クソキモいよね。作者さんニヤニヤしながら書いてるよね笑
まぁそれは置いといて、主人公さん、ハーフヴァンパイアの初期説明『人間を遥かに凌駕する身体能力と魔力』に到底及ばない程弱そうな設定が気になるなぁ。主人公さん割と頭回る設定っぽい上で半年以上戦闘含め生活してる割には『ちょっと経験と魅了能力のある人間程度』に戦力しかない様に見えるし、lv50程度の複数に負ける表現がされてる。ハーフヴァンパイアって大したことないのかな?そこは期待しながら読んでたんだけど……。

解除
キョウ
2022.03.15 キョウ

ステータスを見せ合った時マルガちゃんが【ヴァンパイアハーフ】【不老不死】【眷属】を完スルーだったことに凄い違和感を覚えた。特に不老不死なんて心酔してれば反応するよね?

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。