40代IT社長の俺がギャルゲーの悪役に転生したけど、主人公が頼りないので「大人の包容力」と「経済力」でヒロイン全員幸せにします

ken

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第27話 搾取される善意とユニクロの夜明け

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 ゴールデンウィークが明け、東京の街には日常の喧騒が戻っていた。

 五月病の気配が漂う気だるげな朝。

 俺は、通学用のハイヤーの後部座席でノートパソコンを開き、昨夜の米国市場の終値を確認していた。



 先日4,500万円を投じた『ハンセン・ナチュラル』の株価は、相変わらず1ドル未満の底値を這っている。

 出来高も少なく、市場の片隅で埃を被っているような状態だ。

 ウォール街のエリートたちは、この地味なジュースメーカーが、わずか3年後に世界を変える『モンスターエナジー』を生み出すとは夢にも思っていないだろう。



「……Appleへの投資が『王道』の成長物語だとするなら、この銘柄は歴史の結末を知る者だけが使える『チートコード』のようなものだな」



 独り言が漏れる。

 1999年から2024年までの上昇率は、株式分割を考慮すれば約10万倍とも言われている。

 現実的な利確ラインで計算しても、この4,500万円は数億円どころか、数百億円から一千億円クラスの資産に化けるポテンシャルを秘めている。

 圧倒的な資金力は、俺の自由と、大切な人たちを守るための最強の盾となるはずだ。



 俺は静かにPCを閉じ、車窓を流れる新緑の街並みに目を細めた。

 ビジネスの世界では確実に勝利への布石を打てている。

 だが、これから向かう学校という閉鎖空間には、まだ前時代的な、そしてあまりにも幼稚な搾取構造が残っていた。



 1限目の休み時間。

 1年A組の教室は、連休ボケの抜けない生徒たちの気だるげな空気で満ちていた。

 そんな中、日向翔太の机の周りだけが、異様な盛り上がりを見せていた。



「おい翔太! このノートすげぇな! めっちゃ分かりやすいじゃん!」

「マジで? 翔太がまとめたの? お前、意外と天才?」



 男子生徒たちが群がり、コピーされたプリントを奪い合っている。

 それは、来週に迫った中間テストの対策ノートのコピーだった。

 要点が完璧に整理され、重要な箇所には手書きの図解まで入っている。誰が見ても一級品の学習資料だ。

 翔太は机にふんぞり返り、得意満面で鼻を鳴らした。



「へっ、まあな! 俺様にかかればこんなもんよ。感謝しろよお前ら!」

「すげー! さすが翔太!」



 称賛を浴びる翔太。

 だが、その光景を、教室の隅で青ざめた顔で見つめる少女がいた。

 桜木マナだ。

 ショートボブの艶やかな黒髪が小刻みに震え、大きな瞳には涙が溜まっている。

 クラスでも一際目を引く可憐な彼女が、今は悲痛な表情で唇を噛み締めていた。

 彼女は意を決したように翔太の元へ歩み寄った。



「……翔太。それ、私が作ったノートだよね?」



 教室が一瞬静まり返る。

 マナの声は震えていたが、はっきりとしていた。

 連休前、翔太に泣きつかれ、「今回だけだから」と徹夜で作らされたノート。それを翔太は、許可なくコピーし、あろうことか「自分が作った」と吹聴して配り歩いているのだ。



 翔太はバツが悪そうにするどころか、面倒くさそうに顔をしかめた。



「あー、バレた? まぁいいじゃん、細かいこと言うなよマナ。お前のノートが見やすいから、みんなにもシェアしてやったんだよ。感謝されこそすれ、文句言われる筋合いなくね?」



 盗人猛々しいとはこのことだ。

 彼は自分の承認欲求を満たすために、幼馴染の善意と努力を平然と踏みにじっている。

 悪意がないのが一番のタチの悪さだ。彼は本気で「良いことをした」と思っているのだから。



「……信じられない。最低だよ」

「はあ? 減るもんじゃないし、ケチくせーこと言うなよ! お前、最近なんか冷たくね? 幼馴染だろ?」



 翔太が逆ギレし、机を蹴った。

 ガンッ、という音が教室に響き、マナが怯えて身を竦める。

 その瞬間、俺は席を立った。

 だが、俺が動くより早く、高城藍が動いていた。



「……いい加減になさい、泥棒猫」



 藍が翔太の前に立ちはだかり、彼の手から原本のノートをひったくった。

 冷徹な瞳が、ゴミを見るような軽蔑の色を帯びている。

 俺は彼女たちに近づき、翔太ではなく、マナに向き直った。

 翔太の嘘を暴き、論破することは簡単だ。だが、それではマナの傷は癒えないし、彼女が翔太という「呪縛」から逃れることにはならない。

 彼女に必要なのは、翔太という泥沼から抜け出し、より高い場所へ飛び立つための翼だ。



「……桜木さん」



 俺は翔太を無視し、マナの正面に立った。

 そして胸ポケットから、一冊のパンフレットを取り出し、彼女に差し出した。

 大手予備校の『特待生選抜試験』の案内だ。



「これを。桜木さんの学力なら、特待生として無料で最高レベルの授業が受けられます」

「え……西園寺くん?」

「桜木さんの才能と努力は、それを搾取する人間のためにあるんじゃない。桜木さん自身の未来のために使うべきだ」



 俺の言葉に、マナはハッとして顔を上げた。

 その瞳から、迷いの色が消えていく。



「……うん。私、受けてみる。……ありがとう、西園寺くん」



 彼女は涙を拭い、パンフレットを両手で受け取った。

 翔太は「おい無視すんなよ!」と喚いていたが、クラスメイトたちの視線はすでに冷ややかなものに変わっていた。

 彼の薄っぺらな嘘と虚勢は、もはや誰の心も動かさない。



 放課後。

 俺は学校を離れ、月島の「もんじゃストリート」に来ていた。

 マブダチの城戸隼人と、お忍びの天童くるみとの「打ち上げ」だ。

 隼人の赤点回避祈願と、くるみのクイズ番組健闘を祝う会である。

 個室のある店を選んだため、くるみも変装を解いてリラックスしている。



「うっわ、マジで美味そう! 俺、明太もちチーズな!」

「あ、あたしはベビースター入れたい!」



 鉄板を囲み、隼人とくるみがはしゃいでいる。

 くるみはシンプルなニットにデニムという私服姿だが、その圧倒的な小顔とパーツの美しさは、湯気の中でも輝きを失わない。

 国民的アイドルへの階段を駆け上がりつつある彼女だが、こうして見せる素顔は年相応の少女だ。

 隼人は手際よく土手を作り、キャベツを刻んでいる。意外と料理の手際がいい。



「……西園寺、お前食ったことあんの? もんじゃ」

「知識としてはあるが、実食は初めてだ。焼き方は君に任せても?」

「おうよ! 任せとけ! 芸術的な土手を作ってやるからよ!」



 隼人がヘラを振るう。

 ふと、隣の個室からサラリーマンたちの会話が漏れ聞こえてきた。



「……参ったよ、またリストラの話だ」

「ウチもだよ。就職氷河期だし、息子が就職できなくてさ……」

「山一が潰れてからこっち、いい話がねえな」



 世の中は不況の真っ只中だ。大人の世界には、閉塞感が漂っている。

 1999年。世紀末の日本は、バブル崩壊の後遺症に苦しみ、先が見えない不安に覆われていた。

 だが、ここにいる3人の目は死んでいない。



「ねえレオ。……あんたの会社、もっと大きくなるんでしょ?」



 くるみがヘラを齧りながら、真剣な目で聞いてきた。



「ああ。今年中に事業の桁を変えるつもりだ」

「そっか。……あたしも負けてらんないね。あんたの隣に立っても恥ずかしくない女になるから」

「おうおう、熱いねぇ! 俺も負けねーぞ! 全国行って、西園寺に美味い飯奢らせてやる!」



 笑い合う時間。

 下町の喧騒とソースの匂いの中で、俺たちの結束はより強固なものになった。

 不況なんて関係ない。自分たちの手で未来を切り拓く気概を持つ者だけが、次の時代を作れるのだ。



 打ち上げを終え、自宅のマンション近くまで戻ってきた時だった。

 公園の脇で、見覚えのある女性の姿を見かけた。

 柚木沙耶さんだ。

 舞の親友であり、心理学を専攻する女子大生。

 今日の彼女は、アンニュイな雰囲気漂うロングスカート姿で、手にはコンビニの袋を提げている。



「……こんばんは、柚木さん」



 俺が声をかけると、彼女は少し驚いたように振り返り、そしてふわりと微笑んだ。



「あら、西園寺くん。奇遇ね。学校帰り?」

「ええ、友人と食事をしてきまして。柚木さんはお買い物ですか?」

「ん、ちょっとね。……夜風に当たりたくて、遠回りしてたの」



 彼女は気だるげに髪をかき上げた。

 その仕草一つ一つに、大人の女性の色気が宿っている。



「最近、どう? 舞のこと、こき使ってない?」

「人聞きが悪いですね。彼女は優秀なパートナーですよ」

「ふふ、冗談よ。……あの子、楽しそうだから。昔よりずっと」



 沙耶さんは公園のベンチに視線をやった。

 俺たちは少しの間、そこに腰を下ろして世間話をした。

 大学での講義の話、最近の映画の話、そして変わりゆく東京の街並みについて。

 彼女の視点は常に冷静で、どこか哲学的だ。



「……君と話してると、年齢を忘れるわね。15歳だなんて信じられない」

「よく言われます。……柚木さんも、年齢以上に達観されているように見えますが」

「私はただ、冷めてるだけよ。……君みたいな『熱』がないの」



 彼女は自嘲気味に笑ったが、その横顔は美しかった。

 数分ほどの会話だったが、不思議と心が安らぐ時間だった。



「引き止めて悪かったわね。気をつけて帰って」

「ええ。柚木さんも、夜道はお気をつけて」



 俺たちは軽く会釈をして別れた。

 彼女の背中を見送り、俺はマンションへの道を歩いた。



 帰宅後、リビングの窓辺に目をやった。

 そこには、舞が手配してくれた観葉植物のパキラが置かれている。

 少し葉に元気がなかったので、俺は戸棚から植物用の『活力液』を取り出し、土に挿してやった。

 これでまた、青々と茂ってくれるだろう。



 その時、インターホンが鳴った。

 モニターを確認すると、姉の摩耶が立っていた。手にはコンビニの袋を提げている。



「こんばんは、姉さん。……また来たんですか?」

「『また』とは失礼ね! 可愛い弟の顔を見に来てあげたのよ!」



 姉はズカズカと上がり込み、我が物顔でリビングのソファに腰を下ろした。

 今日の姉は、大学の講義帰りなのか、上品なコンサバ系のファッションに身を包んでいる。

 ハニーブロンドの髪が照明に映え、モデル顔負けの華やかな美貌が際立っている。

 黙っていれば深窓の令嬢に見えるのだが、コンビニ袋からスルメと缶ビールを取り出した瞬間に台無しだ。



「……ここで晩酌をするつもりですか」

「いいじゃない。家だとお父さんがうるさいし、マミーは海外ロケでいないし。……ここが一番落ち着くのよ」



 姉はプシュッと缶を開けた。

 やれやれ、俺の部屋はいつから親戚の集会場になったのか。

 だが、姉がリラックスしている姿を見るのは悪くない。

 俺は姉が散らかした荷物を丁寧に片付けながら、コーヒーを淹れる準備をした。



「……玲央。あんた、最近楽しそうね」

「そうですか?」

「うん。昔みたいな『諦めたような目』じゃなくなった。……お姉ちゃん、嬉しいわ」



 姉がスルメを齧りながら、優しく微笑んだ。

 その言葉に、俺は少し胸を打たれた。

 奔放に見えて、彼女なりに弟のことをずっと心配してくれていたのだ。

 俺が変わったことで、家族の関係も少しずつ、良い方向へ変わり始めているのかもしれない。



 摩耶が帰った後、俺は部屋の掃除を始めた。

 フローリングを磨き上げ、姉が残していった空き缶を片付ける。

 整えられた空間は、心を落ち着かせてくれる。



 一息ついたところで、俺は書斎に向かい、次の投資先を検討した。

 机の上には、山口県に本社を置くアパレル企業、『ファーストリテイリング』の資料がある。

 ブランド名は『ユニクロ』。



 1999年現在、このブランドはまだ「地方のロードサイドにある安い服屋」というイメージが強い。ファッション通からは「ダサい」と見向きもされていないのが現状だ。

 だが、昨年の原宿店オープンで風向きは変わりつつある。

 そして今年の冬。彼らが発売する「フリース」が、日本中を席巻する社会現象となる。

 1,900円という価格破壊。機能性と価格の両立。

 それは、デフレ時代の象徴となると同時に、国民的ブランドへの脱皮の瞬間だ。



「……今のうちに仕込んでおくか」



 株価はこの前後で爆発的に上昇する。

 ITバブルに乗るだけでなく、実体経済における「デフレの勝ち組」にも資金を振り分ける。

 全方位的な資産形成こそが、盤石な基盤を作る。

 俺は慎重に買い注文を入れるタイミングをスケジューラーに書き込んだ。
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