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第2章:七重奏のヒロイン・カオス編
第16話 嵐を呼ぶギャル
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すずとのコラボ配信から数日が経った、ある平日の夕暮れ時。
俺、鈴木悠作は、アパート『ひまわり荘』のリビングで、奇妙な生き物と対峙していた。
「……なんだ、腹減ったのか?」
俺の視線の先にいるのは、白い毛玉――フェンリルの幼体であるポチだ。
ポチは俺の足元で、必死に何かを訴えようとしていた。
「ワフッ! ワフッ!(飯だ! 肉をよこせ!)」
短い尻尾をプロペラのように回転させ、前足で畳をペチペチと叩いている。
どうやら空腹らしい。
成長期の食欲は凄まじい。さっきおやつに魔石を与えたばかりだというのに。
「わかったわかった。今、準備するから待ってろ」
俺が立ち上がろうとすると、ポチは「待てない!」とばかりに、さらに大きく口を開けた。
渾身の力を込めて、威嚇射撃のような要求吠えを繰り出そうとする。
「ワ、ワフゥ……ゥ……」
しかし。
吠えようとした瞬間、ポチの体がグラリと揺れた。
大きく開けた口が、途中から「ふわぁ~」というあくびに変わる。
そして、瞼が重力に負けたようにトロリと落ちていく。
「……くぅ……」
ドサッ。
ポチは吠え終わる前に、その場に崩れ落ちるように倒れた。
気絶ではない。
ただの「電池切れ」だ。
空腹を訴えるエネルギーすら使い果たし、睡魔に敗北したらしい。
「スピィ……スピィ……」
一瞬で寝息を立て始めるポチ。
前足を投げ出し、無防備にお腹を見せて爆睡している。
その顔は、災害級魔獣の片鱗など微塵も感じさせない、ただの天使のような寝顔だった。
「……お前、野生はどうした」
俺は苦笑いしながらしゃがみ込み、ポチの柔らかな毛並みを撫でた。
指が沈み込むようなモフモフ感。
ずしりと重い質量はあるが、こうして寝ている分には可愛いものだ。
「ま、寝てる間に飯の支度をするか」
俺はポチにタオルケットを掛けてやり、キッチンへと向かった。
今日は冷蔵庫の残り物を使って、手早く済ませるつもりだった。
合い挽き肉の残りと、使いかけの木綿豆腐。
これらを使ってヘルシーなハンバーグでも作ろうかと思っていた、その時だった。
ドンドンドンドン!!
玄関のドアが、リズムよく、しかし乱暴に叩かれた。
チャイムではない。直接の手撃だ。
「……なんだ?」
俺は眉をひそめた。
ポチがビクッとして目を覚まし、「敵襲か!?」とばかりに飛び起きる。
せっかく寝かしつけたのに。
「ちーっす! ここっしょ!? ネットで見た『例のアパート』!」
外から聞こえてきたのは、若い女の声だった。
しかも、やけにテンションが高い。
俺はため息をつきながら、チェーンをかけたままドアを少しだけ開けた。
「……セールスならお断りだ」
「うわ、出た! 生師匠じゃん! マジでここだったんだ! ウケる!」
そこに立っていたのは、季節外れのド派手なギャルだった。
ボリュームのあるカーリーヘアに、露出度の高いクロップドトップス。へそが出ている。
健康的な小麦色の肌と、ジャラジャラとついたアクセサリー。
有名なB級探索者にしてダンサー、山本ゆき子だ。
「誰が師匠だ。帰れ。……ていうか、なんでここがわかった?」
俺の住所はまだ公にはなっていないはずだ。
協会や関係者が箝口令を敷いているし、カイトたちの襲撃も未遂に終わっている。
それなのに、なぜ一介のB級探索者がピンポイントでここに来られたのか。
「え、掲示板見てないの? 特定班のスレに『電柱の住所見えた』って書き込みあったし」
「……マジか」
「ま、ガセ情報も多かったけどねー。でもアタシ、鼻が利くからさ! この辺歩いてたら、なんかヤバいくらい美味そうな匂い……じゃなくて、グルーヴを感じたのよ!」
ネットの情報収集力と、野生動物並みの勘。
現代っ子恐るべしだ。俺は頭を抱えたくなった。
「で、何の用だ」
「あ、そうそう! アタシ、ゆき子! ダンジョンで踊ってる『ユキ・J』って言えばわかるっしょ?」
「知らん」
俺は無慈悲にドアを閉めようとした。
しかし、ゆき子はガッと足を挟んで阻止してくる。
安全靴を履いたつま先が、ドアの隙間にねじ込まれる。
「待ってってば! アタシ、こないだのすずパイセンとのコラボ見たのよ! あの時の師匠のステップ、マジ神だった!」
彼女は興奮気味にまくし立てる。
「あの脱力感! 重心移動! リズム感ヤバすぎ! アタシ、ダンスやってるからわかるのよ。師匠の動きは、究極のグルーヴだってね!」
「……はあ」
「だから決めたの! アタシを弟子にして! あのステップ教えてくれたら、一生ついてくから!」
面倒くさいのが来た。
すずだけでも手一杯なのに、今度はギャルか。
俺の平穏な生活はどこへ行ったんだ。
「断る。俺は弟子なんて取らないし、ダンスも教えられない。帰ってくれ」
「そんなこと言わずにさぁ~……って、ぐぅぅ……」
ゆき子の言葉が止まった。
代わりに、彼女の腹の底から、雷鳴のような音が響き渡った。
グギュルルルル……。
「……あ、やべ。鳴ったわw」
彼女は顔を赤らめることもなく笑ったが、その顔色は明らかに悪い。
唇がカサカサに乾いている。
「……お前、いつから食ってない?」
「えっとー、昨日から? ダイエット中でさぁ……でも、ここ来るのに迷って歩き回ってたら、なんか目が回ってきて……」
言い終わる前に、ゆき子の膝がガクンと折れた。
「ちょ、おい!」
「あ、やべ。……ハンガーノック、かも……」
ゆき子がそのまま玄関に倒れ込む。
演技ではない。完全にエネルギー切れだ。
探索者あるあるだが、魔力枯渇や極度の空腹は命に関わる。
「……まったく、世話の焼ける」
俺は見捨てることもできず、チェーンを外して彼女を引きずり入れた。
ポチが「新入りか?」と興味津々で近づいてくる。
「とりあえず、これを食え」
俺はちゃぶ台に突っ伏しているゆき子の前に、丼を置いた。
冷蔵庫の余り物で即興で作った賄い飯だ。
「……なにこれ? ハンバーグ?」
ゆき子がふらふらと顔を上げる。
丼の中には、白米の上にレタスとトマト、そして大きなハンバーグが乗っている。
さらに、半熟の目玉焼きと、特製のデミグラスソースがかかっていた。
ハワイのソウルフード、『ロコモコ丼』だ。
「ダイエット中なんだろ? それは『豆腐ハンバーグ』だ」
俺は解説した。
肉の代わりに、しっかりと水切りした木綿豆腐と、少量の鶏ひき肉を使っている。
つなぎにはパン粉の代わりにオートミールを使用し、食物繊維も豊富だ。
カロリーは通常のハンバーグの半分以下だが、ボリューム感は損なわせていない。
「マジ!? ヘルシーじゃん!」
ゆき子の目が輝く。
彼女はスプーンを掴み、震える手でハンバーグを割った。
ふわりと湯気が立ち上る。
「いっただきまーす!」
ガツッ、とスプーンですくい、口に放り込む。
「ん~~~ッ!!」
一口食べた瞬間、ゆき子が目を見開いて絶叫した。
「ナニコレ!? めっちゃ美味いんだけど! 豆腐なのに肉汁すごくない!?」
豆腐ハンバーグの欠点であるパサつきを、鶏ひき肉の脂と、隠し味のマヨネーズで補っている。
さらに、中に刻んだレンコンを入れることで、食感にアクセントを加えているのだ。
「ソースもヤバい! 濃厚なのにくどくない! ご飯が進む~!」
ソースは、ケチャップとウスターソースをベースに、赤ワインとダンジョン産の香草を煮詰めたものだ。
酸味とコクのバランスが、淡白な豆腐ハンバーグを引き立てる。
半熟卵の黄身を崩せば、まろやかなコクが加わり、さらに食欲を加速させる。
「はぐ、むぐ……! 美味しい……生き返る……!」
ゆき子は夢中でスプーンを動かす。
ジャンクな見た目なのに、体には優しい。
まさに、現代の女子が求めている「背徳感のないガッツリ飯」だ。
「師匠、これ神! マジ神! コンビニのサラダチキン生活とか馬鹿らしくなるわ!」
「食ったら帰れよ」
俺は自分の分の丼を食べながら言った。
「ワフッ!(俺のは?)」
ポチが足元で催促する。
俺は味付けなしの豆腐ハンバーグを皿に入れてやった。
ポチはそれを一口で飲み込み、「物足りない」という顔をしている。
「……ふぅ。ごちそうさまでした!」
あっという間に完食したゆき子が、手を合わせて叫んだ。
顔色が戻り、肌にツヤが出ている。
回復早すぎだろ。
「……師匠」
「なんだ」
「アタシ、決めた」
ゆき子はドンッ、とテーブルを叩いて立ち上がった。
その瞳は、さっきまでの空腹による虚ろさではなく、確固たる決意に満ちていた。
「アタシ、一生師匠についてく! ダンスもそうだけど、この飯! これが食べられるなら、パシリでも何でもやるし!」
「……は?」
「胃袋掴まれたわー。責任取ってよね、師匠♡」
ゆき子はウィンクをして、勝手に冷蔵庫を開けた。
中から炭酸水を取り出し、ラッパ飲みする。
「ぷはーっ! 最高! ……あ、このアパート、空き部屋ある?」
「ない。満室だ」
「ちぇー。じゃあ、ここに住むしかないかー」
「なんでそうなる」
俺の制止も聞かず、ゆき子は部屋の隅に自分のバッグを置いた。
ポチが「新しい遊び相手か?」と尻尾を振って近づいていく。
ゆき子はポチの頭を撫で回し、「かわいー! あんたも師匠のペット? 名前は?」と早くも馴染んでいる。
俺は頭を抱えた。
すずに続いて、また一人。
俺の食卓を脅かす、騒がしい居候が増えてしまったようだ。
「……俺の平穏は、どこにあるんだ」
俺の悲痛な叫びは、ギャルと幼獣の楽しげな声にかき消された。
こうして、B級探索者・山本ゆき子による「強引な弟子入り」が確定した。
彼女の持ち込む騒音とトラブル、そして底なしの食欲が、俺の生活をさらに圧迫することになるのは、火を見るよりも明らかだった。
俺、鈴木悠作は、アパート『ひまわり荘』のリビングで、奇妙な生き物と対峙していた。
「……なんだ、腹減ったのか?」
俺の視線の先にいるのは、白い毛玉――フェンリルの幼体であるポチだ。
ポチは俺の足元で、必死に何かを訴えようとしていた。
「ワフッ! ワフッ!(飯だ! 肉をよこせ!)」
短い尻尾をプロペラのように回転させ、前足で畳をペチペチと叩いている。
どうやら空腹らしい。
成長期の食欲は凄まじい。さっきおやつに魔石を与えたばかりだというのに。
「わかったわかった。今、準備するから待ってろ」
俺が立ち上がろうとすると、ポチは「待てない!」とばかりに、さらに大きく口を開けた。
渾身の力を込めて、威嚇射撃のような要求吠えを繰り出そうとする。
「ワ、ワフゥ……ゥ……」
しかし。
吠えようとした瞬間、ポチの体がグラリと揺れた。
大きく開けた口が、途中から「ふわぁ~」というあくびに変わる。
そして、瞼が重力に負けたようにトロリと落ちていく。
「……くぅ……」
ドサッ。
ポチは吠え終わる前に、その場に崩れ落ちるように倒れた。
気絶ではない。
ただの「電池切れ」だ。
空腹を訴えるエネルギーすら使い果たし、睡魔に敗北したらしい。
「スピィ……スピィ……」
一瞬で寝息を立て始めるポチ。
前足を投げ出し、無防備にお腹を見せて爆睡している。
その顔は、災害級魔獣の片鱗など微塵も感じさせない、ただの天使のような寝顔だった。
「……お前、野生はどうした」
俺は苦笑いしながらしゃがみ込み、ポチの柔らかな毛並みを撫でた。
指が沈み込むようなモフモフ感。
ずしりと重い質量はあるが、こうして寝ている分には可愛いものだ。
「ま、寝てる間に飯の支度をするか」
俺はポチにタオルケットを掛けてやり、キッチンへと向かった。
今日は冷蔵庫の残り物を使って、手早く済ませるつもりだった。
合い挽き肉の残りと、使いかけの木綿豆腐。
これらを使ってヘルシーなハンバーグでも作ろうかと思っていた、その時だった。
ドンドンドンドン!!
玄関のドアが、リズムよく、しかし乱暴に叩かれた。
チャイムではない。直接の手撃だ。
「……なんだ?」
俺は眉をひそめた。
ポチがビクッとして目を覚まし、「敵襲か!?」とばかりに飛び起きる。
せっかく寝かしつけたのに。
「ちーっす! ここっしょ!? ネットで見た『例のアパート』!」
外から聞こえてきたのは、若い女の声だった。
しかも、やけにテンションが高い。
俺はため息をつきながら、チェーンをかけたままドアを少しだけ開けた。
「……セールスならお断りだ」
「うわ、出た! 生師匠じゃん! マジでここだったんだ! ウケる!」
そこに立っていたのは、季節外れのド派手なギャルだった。
ボリュームのあるカーリーヘアに、露出度の高いクロップドトップス。へそが出ている。
健康的な小麦色の肌と、ジャラジャラとついたアクセサリー。
有名なB級探索者にしてダンサー、山本ゆき子だ。
「誰が師匠だ。帰れ。……ていうか、なんでここがわかった?」
俺の住所はまだ公にはなっていないはずだ。
協会や関係者が箝口令を敷いているし、カイトたちの襲撃も未遂に終わっている。
それなのに、なぜ一介のB級探索者がピンポイントでここに来られたのか。
「え、掲示板見てないの? 特定班のスレに『電柱の住所見えた』って書き込みあったし」
「……マジか」
「ま、ガセ情報も多かったけどねー。でもアタシ、鼻が利くからさ! この辺歩いてたら、なんかヤバいくらい美味そうな匂い……じゃなくて、グルーヴを感じたのよ!」
ネットの情報収集力と、野生動物並みの勘。
現代っ子恐るべしだ。俺は頭を抱えたくなった。
「で、何の用だ」
「あ、そうそう! アタシ、ゆき子! ダンジョンで踊ってる『ユキ・J』って言えばわかるっしょ?」
「知らん」
俺は無慈悲にドアを閉めようとした。
しかし、ゆき子はガッと足を挟んで阻止してくる。
安全靴を履いたつま先が、ドアの隙間にねじ込まれる。
「待ってってば! アタシ、こないだのすずパイセンとのコラボ見たのよ! あの時の師匠のステップ、マジ神だった!」
彼女は興奮気味にまくし立てる。
「あの脱力感! 重心移動! リズム感ヤバすぎ! アタシ、ダンスやってるからわかるのよ。師匠の動きは、究極のグルーヴだってね!」
「……はあ」
「だから決めたの! アタシを弟子にして! あのステップ教えてくれたら、一生ついてくから!」
面倒くさいのが来た。
すずだけでも手一杯なのに、今度はギャルか。
俺の平穏な生活はどこへ行ったんだ。
「断る。俺は弟子なんて取らないし、ダンスも教えられない。帰ってくれ」
「そんなこと言わずにさぁ~……って、ぐぅぅ……」
ゆき子の言葉が止まった。
代わりに、彼女の腹の底から、雷鳴のような音が響き渡った。
グギュルルルル……。
「……あ、やべ。鳴ったわw」
彼女は顔を赤らめることもなく笑ったが、その顔色は明らかに悪い。
唇がカサカサに乾いている。
「……お前、いつから食ってない?」
「えっとー、昨日から? ダイエット中でさぁ……でも、ここ来るのに迷って歩き回ってたら、なんか目が回ってきて……」
言い終わる前に、ゆき子の膝がガクンと折れた。
「ちょ、おい!」
「あ、やべ。……ハンガーノック、かも……」
ゆき子がそのまま玄関に倒れ込む。
演技ではない。完全にエネルギー切れだ。
探索者あるあるだが、魔力枯渇や極度の空腹は命に関わる。
「……まったく、世話の焼ける」
俺は見捨てることもできず、チェーンを外して彼女を引きずり入れた。
ポチが「新入りか?」と興味津々で近づいてくる。
「とりあえず、これを食え」
俺はちゃぶ台に突っ伏しているゆき子の前に、丼を置いた。
冷蔵庫の余り物で即興で作った賄い飯だ。
「……なにこれ? ハンバーグ?」
ゆき子がふらふらと顔を上げる。
丼の中には、白米の上にレタスとトマト、そして大きなハンバーグが乗っている。
さらに、半熟の目玉焼きと、特製のデミグラスソースがかかっていた。
ハワイのソウルフード、『ロコモコ丼』だ。
「ダイエット中なんだろ? それは『豆腐ハンバーグ』だ」
俺は解説した。
肉の代わりに、しっかりと水切りした木綿豆腐と、少量の鶏ひき肉を使っている。
つなぎにはパン粉の代わりにオートミールを使用し、食物繊維も豊富だ。
カロリーは通常のハンバーグの半分以下だが、ボリューム感は損なわせていない。
「マジ!? ヘルシーじゃん!」
ゆき子の目が輝く。
彼女はスプーンを掴み、震える手でハンバーグを割った。
ふわりと湯気が立ち上る。
「いっただきまーす!」
ガツッ、とスプーンですくい、口に放り込む。
「ん~~~ッ!!」
一口食べた瞬間、ゆき子が目を見開いて絶叫した。
「ナニコレ!? めっちゃ美味いんだけど! 豆腐なのに肉汁すごくない!?」
豆腐ハンバーグの欠点であるパサつきを、鶏ひき肉の脂と、隠し味のマヨネーズで補っている。
さらに、中に刻んだレンコンを入れることで、食感にアクセントを加えているのだ。
「ソースもヤバい! 濃厚なのにくどくない! ご飯が進む~!」
ソースは、ケチャップとウスターソースをベースに、赤ワインとダンジョン産の香草を煮詰めたものだ。
酸味とコクのバランスが、淡白な豆腐ハンバーグを引き立てる。
半熟卵の黄身を崩せば、まろやかなコクが加わり、さらに食欲を加速させる。
「はぐ、むぐ……! 美味しい……生き返る……!」
ゆき子は夢中でスプーンを動かす。
ジャンクな見た目なのに、体には優しい。
まさに、現代の女子が求めている「背徳感のないガッツリ飯」だ。
「師匠、これ神! マジ神! コンビニのサラダチキン生活とか馬鹿らしくなるわ!」
「食ったら帰れよ」
俺は自分の分の丼を食べながら言った。
「ワフッ!(俺のは?)」
ポチが足元で催促する。
俺は味付けなしの豆腐ハンバーグを皿に入れてやった。
ポチはそれを一口で飲み込み、「物足りない」という顔をしている。
「……ふぅ。ごちそうさまでした!」
あっという間に完食したゆき子が、手を合わせて叫んだ。
顔色が戻り、肌にツヤが出ている。
回復早すぎだろ。
「……師匠」
「なんだ」
「アタシ、決めた」
ゆき子はドンッ、とテーブルを叩いて立ち上がった。
その瞳は、さっきまでの空腹による虚ろさではなく、確固たる決意に満ちていた。
「アタシ、一生師匠についてく! ダンスもそうだけど、この飯! これが食べられるなら、パシリでも何でもやるし!」
「……は?」
「胃袋掴まれたわー。責任取ってよね、師匠♡」
ゆき子はウィンクをして、勝手に冷蔵庫を開けた。
中から炭酸水を取り出し、ラッパ飲みする。
「ぷはーっ! 最高! ……あ、このアパート、空き部屋ある?」
「ない。満室だ」
「ちぇー。じゃあ、ここに住むしかないかー」
「なんでそうなる」
俺の制止も聞かず、ゆき子は部屋の隅に自分のバッグを置いた。
ポチが「新しい遊び相手か?」と尻尾を振って近づいていく。
ゆき子はポチの頭を撫で回し、「かわいー! あんたも師匠のペット? 名前は?」と早くも馴染んでいる。
俺は頭を抱えた。
すずに続いて、また一人。
俺の食卓を脅かす、騒がしい居候が増えてしまったようだ。
「……俺の平穏は、どこにあるんだ」
俺の悲痛な叫びは、ギャルと幼獣の楽しげな声にかき消された。
こうして、B級探索者・山本ゆき子による「強引な弟子入り」が確定した。
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