17 / 43
第2章:七重奏のヒロイン・カオス編
第17話 万能の魔女
しおりを挟む
金曜日の朝。
ギャル探索者・山本ゆき子が俺のアパートに強引に居座り始めてから、数日が経過した。
狭い6畳間には、俺の私物に混じって、派手なファッション誌やコスメ、そして大量のスナック菓子が散乱している。
ポチは、ゆき子が持ち込んだ豹柄のクッションを気に入り、その上で王様のようにくつろいでいる。
「おっはよー師匠! 今日の朝ごはん何?」
ジャージ姿のゆき子が、欠伸をしながら起きてきた。
完全に馴染んでいる。
俺はため息をつきながらも、キッチンに立っていた。
「今日は手抜きだ。文句言うなよ」
俺が取り出したのは、皮付きの新鮮なトウモロコシだ。
朝採れの甘いゴールドラッシュ。
これをシンプルかつ豪快に調理する。
「『軸つきコーン』だ」
まずは下処理。皮を一枚だけ残して剥き、ラップで包んで電子レンジで加熱する。
これで中の水分を閉じ込め、甘みを引き出す。茹でるよりも味が濃くなるのだ。
数分後、熱々のトウモロコシを取り出し、皮を全て剥く。
鮮やかな黄色い粒が輝いている。
「ここからが本番だ」
フライパンにバターを溶かす。
ジュワッという音と共に、芳醇な香りが広がる。
そこにトウモロコシを投入し、転がしながら表面に焼き目をつけていく。
バターが粒の隙間に染み込み、焦げ目がついていく。
そして、味の決め手。
醤油、みりん、ザラメを合わせた「特製ダレ」を回し入れる。
ジューーーーーッ!!
爆発的な香ばしさ。
醤油の焦げる匂いと、バターのコク、そしてコーンの甘い香りが混ざり合い、暴力的なまでの食欲を刺激する。
屋台の焼きトウモロコシを、プロの技術で極限まで高めた香りだ。
「うわ、ヤバ! めっちゃいい匂い!」
ゆき子が鼻をヒクヒクさせて近づいてくる。
ポチもクッションから飛び起き、「ワフッ!(寄越せ!)」と足元で跳ねる。
俺はタレを煮詰めながら、トウモロコシ全体に絡め、最後に強火でカリッと仕上げた。
串を持ってかぶりつけるよう、持ち手にはアルミホイルを巻く。
「飲み物はこれだ」
俺が冷蔵庫から出したのは、ガラスのピッチャーに入った毒々しいほど鮮やかな赤色の液体。
アメリカの粉末ジュース『クールエイド』だ。
「え、クールエイド? 懐かし! てか、色がヤバくない?」
「たまにはこういうジャンクなのもいいだろ。ただし、俺流にアレンジしてある」
ただ粉を水で溶いただけではない。
強炭酸水で割り、さらにレモン果汁を搾り入れ、クラッシュアイスをたっぷりと入れている。
甘ったるいだけのジュースが、キリッとした大人の炭酸飲料に生まれ変わる。
「はい、朝飯だ」
皿に乗せた熱々の軸つきコーンと、キンキンに冷えたクールエイド。
アメリカの夏休みのような組み合わせだ。
「いっただきまーす!」
ゆき子がコーンにかぶりつく。
ガブッ。
「ん~~~っ! 甘っ! じゅわっとしてる!」
プチプチと弾けるコーンの粒から、甘い果汁が溢れ出す。
そこに焦がし醤油バターの塩気とコクが絡み合い、麻薬的な美味さを醸し出す。
口の周りをタレで汚しながら、ゆき子は夢中で齧り付いている。
「そこでクールエイドだ」
ゆき子が赤い炭酸を流し込む。
シュワシュワとした刺激と、人工的だがどこか懐かしいチェリーの香りが、コーンの濃厚な後味を洗い流す。
「ぷはーっ! 最高! 縁日みたい!」
「ガウガウ!(俺も食う!)」
ポチにも一本与えると、器用に前足で押さえて粒を齧り取っている。
騒がしいが、まあ悪くない朝だ。
俺も自分の分を平らげ、指についたタレを舐めた。
さて、腹ごしらえも済んだし、仕事に行くか。
身支度を整え、俺はアパートの階段を降りた。
ゆき子は「今日はオフだから二度寝する~」と部屋に残っている。
ポチは俺の肩の上だ。
エントランスを出て、通りに出ようとした時だった。
目の前に、異質な存在が立ちはだかっていた。
白衣。
ボロアパートの前には似つかわしくない、純白の実験用白衣を羽織った女性。
インナーはカチッとしたシャツにスラックス。
首からはIDカードをぶら下げ、片手にはタブレット端末を持っている。
年齢は20代半ばだろうか。
ベリーショートの黒髪が、知的な顔立ちを際立たせている。
眼鏡の奥にある瞳は、爬虫類のように冷たく、それでいて獲物を狙う狩人のように鋭く光っていた。
「……鈴木悠作さんですね」
彼女は俺の顔を見ると、感情の籠もらない声で言った。
挨拶もなし。いきなりの確認だ。
「……そうだが。あんたは?」
「確認しました。生体認証、一致。魔力波形、照合完了」
彼女は俺の質問を無視して、タブレットを操作し始めた。
ブツブツと独り言を呟いている。
「骨格筋の分布、異常なし。しかし、体表面の魔力伝導率が通常の探索者の0.01%以下……。興味深い。実に興味深いです」
「おい、無視するな。何の用だ」
俺が少し声を強めると、彼女はようやく顔を上げた。
そして、無表情のまま眼鏡の位置を直す。
「失礼しました。私は中村瞳。国立魔法大学・魔導研究室に所属する特任准教授、兼A級探索者です」
「大学の先生? それが俺に何用だ」
「単刀直入に言います」
瞳は俺の目の前に歩み寄り、至近距離で指を突きつけた。
「貴方の身体データを提出してください。血液、唾液、毛髪、そして24時間の行動ログ。すべてです」
「……は?」
「拒否権はありません。これは人類の魔法学の発展のため、ひいては世界の真理を解明するための崇高な義務なのですから」
頭がおかしいのが来た。
俺の直感がそう告げていた。
すずやゆき子とはベクトルが違う。これは「話が通じない」タイプだ。
「……お断りだ。俺はモルモットじゃない」
「モルモット? いえ、貴方はそれ以上に貴重な『特異点』です」
瞳は食い下がるどころか、さらに目を輝かせて一歩踏み込んでくる。
「先日拡散された動画、拝見しました。ミノタウロス・ジェネラルを一撃で解体する剣技。……あれは、物理法則と魔力理論の両方を無視しています」
「はあ……」
「通常、あの質量の物体を切断するには、相応の運動エネルギーか、高密度の魔力強化が必要です。しかし、貴方の動きにはそのどちらも観測されなかった。計算が合わないのです。数式が成立しないのです!」
彼女は興奮して早口になった。
頬が紅潮し、眼鏡が曇る。
「私の試算では、貴方の動きは『空気抵抗ゼロ』かつ『摩擦係数マイナス』というあり得ない条件下でのみ成立します。そんなことが現実に可能なのか? もし可能なら、既存の物理学は根底から覆る! ……ああ、知りたい。貴方の中身を、細胞の一つ一つまで分解して調べ尽くしたい!」
怖い。
純粋な知的好奇心が暴走している。
このままでは、本当に解剖されかねない。
俺はポチを抱え直し、逃走を図ることにした。
相手にするだけ時間の無駄だ。
「……悪いが急いでるんでな」
俺は瞳の横をすり抜けようと、右へステップを踏んだ。
その瞬間。
「……逃がしませんよ」
瞳が小さく呟き、タブレットをタップした。
カシャン。
俺の足元の空間に、光る幾何学模様が浮かび上がった。
魔法陣だ。
そこから見えない鎖のような重力が発生し、俺の足に絡みつく。
「なっ……『重力結界』!?」
俺は驚愕した。
これは上級魔導士しか使えない拘束魔法だ。しかも、詠唱なしで発動させたのか?
「私の固有スキル『解析眼』は、対象の筋収縮と視線の動きから、数秒先の行動を予測することができます」
瞳が冷淡に解説する。
「貴方が右足に重心を移し、逃走しようとする予備動作……その0.5秒前に、進行方向に結界を展開しました。無駄です。私の計算からは逃げられません」
理詰めだ。
直感や反射神経ではなく、すべてを計算と予測で封殺するスタイル。
相性が最悪だ。
「くっ、五右衛門!」
『へいよ!』
俺は背中の風呂敷に合図を送る。
五右衛門が布を伸ばし、俺の体を引っ張り上げようとするが、重力結界の出力が高すぎて動けない。
「あら、その風呂敷……自律型魔導具ですか? 構造が古いですね。AIの思考パターンも単純です」
『なんだとコラァ! メガわんこ! 表出ろヤンス!』
「うるさい布ですね。遮音結界、展開」
瞳が指を振ると、五右衛門の周りに透明な壁が出現し、罵声が聞こえなくなった。
手際が良すぎる。
「……おい、そこまでやるか? 俺はただの一般市民だぞ」
「一般市民はミノタウロスを瞬殺しませんし、フェンリルを肩に乗せて歩きません」
瞳は俺の肩に乗っているポチを指差した。
「その個体……魔力波長からして『王種』のフェンリルですね。市場価値は国家予算並み。それをペット扱いしている時点で、貴方は研究対象として十分すぎるほど異常です」
「ワフゥ……(なんかムカつく)」
ポチが不快そうに唸り、瞳に向かって牙を剥いた。
しかし、瞳は動じない。
「威嚇行動を確認。……ふむ、咬合力の測定も必要ですね。あとで私の腕を噛ませてデータを取ります」
「腕を噛ませる? 正気か?」
「腕の一本くらい、再生魔法で治せますから。データの方が重要です」
狂っている。
マッドサイエンティストだ。
俺は重力に縛られたまま、天を仰いだ。
「さて、鈴木さん。観念してください。貴方の生活、食事、排泄、睡眠……すべてを記録させていただきます」
瞳が一歩近づく。
その眼鏡の奥の瞳は、絶対に獲物を逃がさないという確固たる意志に満ちていた。
「……一番面倒くさいのが来た」
俺の独り言は、重力結界の中に虚しく消えた。
ゆき子の襲来で終わったと思っていた俺の災難は、まだ序の口だったらしい。
ギャル探索者・山本ゆき子が俺のアパートに強引に居座り始めてから、数日が経過した。
狭い6畳間には、俺の私物に混じって、派手なファッション誌やコスメ、そして大量のスナック菓子が散乱している。
ポチは、ゆき子が持ち込んだ豹柄のクッションを気に入り、その上で王様のようにくつろいでいる。
「おっはよー師匠! 今日の朝ごはん何?」
ジャージ姿のゆき子が、欠伸をしながら起きてきた。
完全に馴染んでいる。
俺はため息をつきながらも、キッチンに立っていた。
「今日は手抜きだ。文句言うなよ」
俺が取り出したのは、皮付きの新鮮なトウモロコシだ。
朝採れの甘いゴールドラッシュ。
これをシンプルかつ豪快に調理する。
「『軸つきコーン』だ」
まずは下処理。皮を一枚だけ残して剥き、ラップで包んで電子レンジで加熱する。
これで中の水分を閉じ込め、甘みを引き出す。茹でるよりも味が濃くなるのだ。
数分後、熱々のトウモロコシを取り出し、皮を全て剥く。
鮮やかな黄色い粒が輝いている。
「ここからが本番だ」
フライパンにバターを溶かす。
ジュワッという音と共に、芳醇な香りが広がる。
そこにトウモロコシを投入し、転がしながら表面に焼き目をつけていく。
バターが粒の隙間に染み込み、焦げ目がついていく。
そして、味の決め手。
醤油、みりん、ザラメを合わせた「特製ダレ」を回し入れる。
ジューーーーーッ!!
爆発的な香ばしさ。
醤油の焦げる匂いと、バターのコク、そしてコーンの甘い香りが混ざり合い、暴力的なまでの食欲を刺激する。
屋台の焼きトウモロコシを、プロの技術で極限まで高めた香りだ。
「うわ、ヤバ! めっちゃいい匂い!」
ゆき子が鼻をヒクヒクさせて近づいてくる。
ポチもクッションから飛び起き、「ワフッ!(寄越せ!)」と足元で跳ねる。
俺はタレを煮詰めながら、トウモロコシ全体に絡め、最後に強火でカリッと仕上げた。
串を持ってかぶりつけるよう、持ち手にはアルミホイルを巻く。
「飲み物はこれだ」
俺が冷蔵庫から出したのは、ガラスのピッチャーに入った毒々しいほど鮮やかな赤色の液体。
アメリカの粉末ジュース『クールエイド』だ。
「え、クールエイド? 懐かし! てか、色がヤバくない?」
「たまにはこういうジャンクなのもいいだろ。ただし、俺流にアレンジしてある」
ただ粉を水で溶いただけではない。
強炭酸水で割り、さらにレモン果汁を搾り入れ、クラッシュアイスをたっぷりと入れている。
甘ったるいだけのジュースが、キリッとした大人の炭酸飲料に生まれ変わる。
「はい、朝飯だ」
皿に乗せた熱々の軸つきコーンと、キンキンに冷えたクールエイド。
アメリカの夏休みのような組み合わせだ。
「いっただきまーす!」
ゆき子がコーンにかぶりつく。
ガブッ。
「ん~~~っ! 甘っ! じゅわっとしてる!」
プチプチと弾けるコーンの粒から、甘い果汁が溢れ出す。
そこに焦がし醤油バターの塩気とコクが絡み合い、麻薬的な美味さを醸し出す。
口の周りをタレで汚しながら、ゆき子は夢中で齧り付いている。
「そこでクールエイドだ」
ゆき子が赤い炭酸を流し込む。
シュワシュワとした刺激と、人工的だがどこか懐かしいチェリーの香りが、コーンの濃厚な後味を洗い流す。
「ぷはーっ! 最高! 縁日みたい!」
「ガウガウ!(俺も食う!)」
ポチにも一本与えると、器用に前足で押さえて粒を齧り取っている。
騒がしいが、まあ悪くない朝だ。
俺も自分の分を平らげ、指についたタレを舐めた。
さて、腹ごしらえも済んだし、仕事に行くか。
身支度を整え、俺はアパートの階段を降りた。
ゆき子は「今日はオフだから二度寝する~」と部屋に残っている。
ポチは俺の肩の上だ。
エントランスを出て、通りに出ようとした時だった。
目の前に、異質な存在が立ちはだかっていた。
白衣。
ボロアパートの前には似つかわしくない、純白の実験用白衣を羽織った女性。
インナーはカチッとしたシャツにスラックス。
首からはIDカードをぶら下げ、片手にはタブレット端末を持っている。
年齢は20代半ばだろうか。
ベリーショートの黒髪が、知的な顔立ちを際立たせている。
眼鏡の奥にある瞳は、爬虫類のように冷たく、それでいて獲物を狙う狩人のように鋭く光っていた。
「……鈴木悠作さんですね」
彼女は俺の顔を見ると、感情の籠もらない声で言った。
挨拶もなし。いきなりの確認だ。
「……そうだが。あんたは?」
「確認しました。生体認証、一致。魔力波形、照合完了」
彼女は俺の質問を無視して、タブレットを操作し始めた。
ブツブツと独り言を呟いている。
「骨格筋の分布、異常なし。しかし、体表面の魔力伝導率が通常の探索者の0.01%以下……。興味深い。実に興味深いです」
「おい、無視するな。何の用だ」
俺が少し声を強めると、彼女はようやく顔を上げた。
そして、無表情のまま眼鏡の位置を直す。
「失礼しました。私は中村瞳。国立魔法大学・魔導研究室に所属する特任准教授、兼A級探索者です」
「大学の先生? それが俺に何用だ」
「単刀直入に言います」
瞳は俺の目の前に歩み寄り、至近距離で指を突きつけた。
「貴方の身体データを提出してください。血液、唾液、毛髪、そして24時間の行動ログ。すべてです」
「……は?」
「拒否権はありません。これは人類の魔法学の発展のため、ひいては世界の真理を解明するための崇高な義務なのですから」
頭がおかしいのが来た。
俺の直感がそう告げていた。
すずやゆき子とはベクトルが違う。これは「話が通じない」タイプだ。
「……お断りだ。俺はモルモットじゃない」
「モルモット? いえ、貴方はそれ以上に貴重な『特異点』です」
瞳は食い下がるどころか、さらに目を輝かせて一歩踏み込んでくる。
「先日拡散された動画、拝見しました。ミノタウロス・ジェネラルを一撃で解体する剣技。……あれは、物理法則と魔力理論の両方を無視しています」
「はあ……」
「通常、あの質量の物体を切断するには、相応の運動エネルギーか、高密度の魔力強化が必要です。しかし、貴方の動きにはそのどちらも観測されなかった。計算が合わないのです。数式が成立しないのです!」
彼女は興奮して早口になった。
頬が紅潮し、眼鏡が曇る。
「私の試算では、貴方の動きは『空気抵抗ゼロ』かつ『摩擦係数マイナス』というあり得ない条件下でのみ成立します。そんなことが現実に可能なのか? もし可能なら、既存の物理学は根底から覆る! ……ああ、知りたい。貴方の中身を、細胞の一つ一つまで分解して調べ尽くしたい!」
怖い。
純粋な知的好奇心が暴走している。
このままでは、本当に解剖されかねない。
俺はポチを抱え直し、逃走を図ることにした。
相手にするだけ時間の無駄だ。
「……悪いが急いでるんでな」
俺は瞳の横をすり抜けようと、右へステップを踏んだ。
その瞬間。
「……逃がしませんよ」
瞳が小さく呟き、タブレットをタップした。
カシャン。
俺の足元の空間に、光る幾何学模様が浮かび上がった。
魔法陣だ。
そこから見えない鎖のような重力が発生し、俺の足に絡みつく。
「なっ……『重力結界』!?」
俺は驚愕した。
これは上級魔導士しか使えない拘束魔法だ。しかも、詠唱なしで発動させたのか?
「私の固有スキル『解析眼』は、対象の筋収縮と視線の動きから、数秒先の行動を予測することができます」
瞳が冷淡に解説する。
「貴方が右足に重心を移し、逃走しようとする予備動作……その0.5秒前に、進行方向に結界を展開しました。無駄です。私の計算からは逃げられません」
理詰めだ。
直感や反射神経ではなく、すべてを計算と予測で封殺するスタイル。
相性が最悪だ。
「くっ、五右衛門!」
『へいよ!』
俺は背中の風呂敷に合図を送る。
五右衛門が布を伸ばし、俺の体を引っ張り上げようとするが、重力結界の出力が高すぎて動けない。
「あら、その風呂敷……自律型魔導具ですか? 構造が古いですね。AIの思考パターンも単純です」
『なんだとコラァ! メガわんこ! 表出ろヤンス!』
「うるさい布ですね。遮音結界、展開」
瞳が指を振ると、五右衛門の周りに透明な壁が出現し、罵声が聞こえなくなった。
手際が良すぎる。
「……おい、そこまでやるか? 俺はただの一般市民だぞ」
「一般市民はミノタウロスを瞬殺しませんし、フェンリルを肩に乗せて歩きません」
瞳は俺の肩に乗っているポチを指差した。
「その個体……魔力波長からして『王種』のフェンリルですね。市場価値は国家予算並み。それをペット扱いしている時点で、貴方は研究対象として十分すぎるほど異常です」
「ワフゥ……(なんかムカつく)」
ポチが不快そうに唸り、瞳に向かって牙を剥いた。
しかし、瞳は動じない。
「威嚇行動を確認。……ふむ、咬合力の測定も必要ですね。あとで私の腕を噛ませてデータを取ります」
「腕を噛ませる? 正気か?」
「腕の一本くらい、再生魔法で治せますから。データの方が重要です」
狂っている。
マッドサイエンティストだ。
俺は重力に縛られたまま、天を仰いだ。
「さて、鈴木さん。観念してください。貴方の生活、食事、排泄、睡眠……すべてを記録させていただきます」
瞳が一歩近づく。
その眼鏡の奥の瞳は、絶対に獲物を逃がさないという確固たる意志に満ちていた。
「……一番面倒くさいのが来た」
俺の独り言は、重力結界の中に虚しく消えた。
ゆき子の襲来で終わったと思っていた俺の災難は、まだ序の口だったらしい。
129
あなたにおすすめの小説
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる