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002:ララ

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目覚めると見知らぬ顔が覗き込んでいた。

一目でわかる……美少女だが、よく見ると所々薄汚れている。
年は十代前後というところだろうか。
くすんだ銀髪はボサボサだし、裾丈の短い簡素な服から見える痛々しいほど痩せた手足が見るに堪えない。

一応見た目は普通の人間らしいが、昔祖母に聞いた話にこういう時に会う人間は人の皮を被った狐で共にいるとその日の晩に金銭を巻き上げ逃げていくとか、悪魔が人間に化けていてその魂を狙って誘ってくるなど今の状況に沿った逸話はいくらでもあった気する。

まあ、狐が金持ってどうすんだってのはあるが…………

とりあえず、この状況を打破するにどうすればいいか。まあ、普通の人間だとしても既に目があってしまったし、あまり長考するのはお互いに気まずいだけだと思い、無難に俺から自己紹介をすることにした。

「えーっと、オレは楽(らく)。橘楽だ。君の名前は?」

よーし。なかなか良い滑り出しじゃないか。これで相手も名乗ってくれたら良いのだが……………怯えていた。

うーん。
何か間違っていたのかな。
何せ小さい子を相手にするのはこれが初めてだし、こういうことに耐性がないんだよね。

ドウシマショウ

そういえば、子供と接するときは同じ目線で話しかければ良いと聞いたことがある。

実践実践。

とりあえずやってみよう。

「ねえ、ちょっと聞きたーーーーーー




見事に避けられました。

はぁ、もうお手上げです。どうしようもないです。詰みました。諦めます。

人間、諦めが肝心と言います。無理とわかったらキッパリとやめる。この17年間そうしてきて大丈夫でした。きっとこの世界でも通用することでしょう。
えっ、まだ一つの方法しか試していないって。まあーーーーーーだってもう他に思いつかないだもん。
あの子のことは可哀想ですが、仕方がありません。この際、無言で立ち去るのが良いかもしれません。

思ったら吉日。すぐ行動します。
スタコラサッサっと一瞬です。

「…………おい…て……かない………で」

あらまあ。

これが世に言うテンプレったやつでしょうか。
着ているローブの端を必死に握りしめているようですし、なんだか保護欲を掻き立てられました。
なんてことでしょう!日の当たらなっかた寝室は匠の手によって………じゃなくて

はぁ、そろそろこの口調も疲れてきました。本来の口調に戻すとしましょう。

ふぅーー。

さて、本格的にどうしようか。さすがに落ち着いてきたようで、いろいろと聞くことができそうだが少女の身なりが問題だ。

もしかしたら、俺が心配するのは御門違いかもしれないが、気になるものはほっと置けないたちなもので。

まあ、単純に今着ているローブでも羽織ってもらえばいいとも思うが………やはり目の置き場に困る(YESロリータNOタッチ!、いやロリコンじゃないよ)ということで、少女の服を買いに行きたかった。どうやら今いる場所は外からの声を聞く限り、中央通りの裏に位置するようだし近くに店ぐらいあるだろう。

そこで問題になるのが『金』である。

もちろん、俺は金なんか持ってないし、少女の方も金があったら何か食べ物でも買ってもう少しまともな体型になっていることだろう。
まあ、一応は服の中に金目のものでも入っていないか確認はするが、自分の装備を見てこりゃぁ怖がるなと思った。

何の動物の皮で作られているかわからない蛮族っぽい黒の服。ゴムの代わりに革紐で絞っている色素の抜けた黒っぽいズボン。さらに、何の素材で作られたか想像もできないほど真っ黒なローブ。そして軍隊で支給されそうな黒のブーツ。

簡単に言うと全身黒一色ってことだ。

と、とりあえず俺の装備は置いといてだ、少女の方が問題だな。
もちろん俺は金目のものは持ち合わせていなかったわけだが、どうしたものか。
即席で金を作るのであれば、装備のどれかを売り捌けばよさそうだが、見た感じどれもあまり良い値がしそうにない。

あ、そういえば片手剣スキルってのを持ってたな。
全くもって金にはならないが………。やっぱ武器も必要ってことだよな。

金なし、武器なし、人脈なし。

これは参った。まあ人脈でいうと一応神ってのがいはするが……

後は魔眼とかもあったな。貰ったかどうかさえ怪しいが……
しっかし、使い方も教えないで転生させるとか神様も何を考えているんだか。

とりあえず、ここにいてもしょうがないし、大通りらしいところにでも行ってみますかね。

っとその前に名前ぐらいは聞いておこうかな。

「えっと……名前教えてもらえるかな」

今度はしっかりと目線を合わせて話すことができたぞ。これで無視されちゃったらお兄ちゃん泣いちゃうよ。

「………な……い………です。」

マジですか。
今まで何と呼ばれていたのだろうか。
その後聞いてみたが、首を傾げるだけだったので俺が名前をつけることにした。
本人もそれで構わないよう(たぶん)なので遠慮なくつけさせてもらった。

命名:ララ

単純に受験生の性か完了の助動詞の『り』が思い浮かんだので活用の《らりるるれれ》のはじめの『ら』を二つ重ねてみたという軽い感じで命名したが、本人に伝えると嬉しそうに『ララ』を連呼していたので良いとしよう。…………良いのかな。

それにしても、自己紹介が終わるまで長かったな。

後は金のことだが………

まあ、それは歩きながら話すとして大通りに行きますか。


………誘拐にならないよね。














中央通りまではすぐだった。
っというよりも道を一本挟んだだけだったので当たり前なのだが。

ララが手を握ってきたので握り返すと天使のような笑みを浮かべ、歩調もそれを表すかのように軽やかになっていった。
それを見てなんとなく親バカの気持ちがわかったような………わかりたくないような。





今更だけど、誘拐にならないよね………。
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