婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨

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カトリーヌ編

5

「女性同士が前代未聞だという話ですか? それなら大丈夫です。前例がないなら私から始めればいいだけの話ですから。なんたって私は、アルス帝国の聖女ですし。神の声を聞き、神に最も近しい存在である私・・・・・・・・・・・・・に、何か意見がありますか?」
 
 フランシスはぐぬと押し黙った。

 アルス帝国では、神託を神から授かり、それを伝える聖女は、いわば神の代理人だ。当然、聖女は民衆の信仰の対象にもなる。そして、アメリアは人の傷を治すこともでき、今まで多くの人の傷を治してきたため、国民からの信頼も厚い。

 この国で彼女の発言は強い影響を及ぼすのだ。
 だから、皇帝側は彼女を取り込みたかったし、フランシスもあまり強く出ることができない。

「じゃあどうしろと言うんだっ!? 俺の両親はもう君と結婚すると思ってるっ! 君はもう俺のものだと思ってたから!」
「それは私が知ったことではありません。ま、教会も私に何か言ってくるかもしれませんが、もう従う必要はありませんから」
「いいのか? 俺ならキース男爵家に圧力をかけることだってできるんだぞっ!」

 公衆の場でのこの発言には私も驚いた。さすがのアメリアも驚いたらしく、目をキョトンとして口角をひくひくさせていた。彼女もフランシスの滑稽な姿がおかしくてたまらないんだろう。
 
 周りの生徒たちもざわつき始める。フランシスがこのように公の場で、恥ずかしい発言をしそうになっていたことはよくあった。その時は、いつも私がフォローしていた。
 だけどもう、今は彼がどれだけ恥をかいても焦らない。むしろ、今は楽しんでこの様子を見守っている。

「キース男爵家を潰したいならご勝手に。私は彼らの本当の娘ではありませんし、平民の子供というだけで家では辛くあたられましたから」

 そう冷たく言い放つと、彼女はツカツカと私のほうへ近づいてくる。

 口元には微笑を称え、唖然とやりとりを見守っていた私に、細くて綺麗な手を差し出した。

「さぁ、行きましょう」
「え?」

 戸惑う私をよそに、彼女は私の手を取って教室を出て行こうとする。彼女の手は小さく震えていた。

 堂々としているように見えるアメリアも、本当は少し怖かったのかもしれない。

 たくさんの目がこちらを見ている。

「まて、話はまだ終わっていない」

 フランシスが私たちの前に立ち塞がる。アメリアは笑みを崩し、彼を睨みつけた。
 私は彼女の震える手をぎゅっと強く握る。

「どいてください」

 私も彼を睨んだ。彼を見上げるのは、思ったよりも辛くはなかった。アメリアがしっかりと手を握ってくれていたからかもしれない。

「いや、退かない。カトリーヌ、悪かった。俺が悪かったからこっちへおいで。婚約破棄なんて間違ってた。謝るよ」
「は?」

 本気で言ってるのかこの男は。
 アメリアとの結婚が難しそうだからといって、すぐに手のひらを返すとは。私のことを舐めているのだ。

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