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カトリーヌ編
6
フランシスが肩に置いてきた手を、私は勢いよく振り払った。
「放してください。望み通り婚約破棄は受け入れます。お父様には私の方から報告させていただきます」
「いや、やっぱりそれは困る! どうか考え直してくれっ! 今まで君は俺に尽くしてきてくれたじゃないか」
「尽くしてきた私を捨てたのはあなたでしょう。私はあなたに失望しました。それはここにいる全員も同じでは?」
私は教室内をぐるりと見渡す。生徒たちは恥ずかしげもなく私に縋り付くフランシスに痛々しい視線を向けていた。
生徒会の副会長であり、フランシスの手下でもあるラウルすら視線を逸らしている。
すると、横にいるアメリアは身を震わせはじめ、くつくつと笑い声を漏らした。
「なにがおかしいっ!」
「いやだって、めっちゃ滑稽じゃないすか。あー、おもしろ。みんなあんたみたいなのが未来の皇帝だなんて考えたくないですよ」
「皇太子に向かってなんて物言いだ!」
「あなたに敬意なんて払う意味ありますー? だって髪の毛に虫ついてるんですよー?」
「はぁ?」
フランシスは慌てて髪の毛を触るが、しっかりと絡みついた虫はなかなか取れない。
「ふっ……」
耐えがたく私は笑い声を漏らしてしまった。アメリアはそれを聞いて嬉しそうに目を輝かせた。
周りの生徒たちも、目が飛び出るのではないかというほど目を見開いていた。
(そんなに私が笑うのはおかしなことなの?)
私は恥ずかしくて、顔が熱くなった。
フランシスも信じられないというふうに頭を掻きむしった。
その時に、虫もポロリと地面に転がった。
ああ、取れてよかった。それはやはりハエの類だった。
「お前、今笑っただろう! 俺がどんなプレゼントを贈っても笑わなかったのにかっ!」
横でアメリアは、くすくすと愛らしく笑った。その無邪気さが少しだけ怖かった。
「フランシス様はお笑いの才能がお有りなんですね~。前言撤回します。尊敬できるところありました~」
「はっ、これだから平民は……。まったく下品で仕方がない。皇太子である俺にそんな失言をするとは」
先ほど求婚した女性に対する物言いではない。
やれやれというふうにフランシスが前髪をくしゃっとした瞬間、素早くアメリアは彼の脛をヒールの踵で蹴り飛ばした。
「痛っ!」
「もうっ、いい加減退いてくださーい」
「こんなことして許されると思うなよ!」
「はぁ、もう仕方ないですねぇ~」
顔をゆでだこのようにして怒るフランシスを見て、アメリアは困ったように眉を寄せた。
そして脛を抱えて痛がるフランシスに近づいていく。彼女が右手を彼の脛の辺りにかざすと、温かな光が彼の脛を包んだ。
聖女の奇跡だ。
「はいっ! これで痛くないでしょう! 治したんでプラマイゼロってことで許してくださ~い」
唖然とするフランシスを押し退け、私たちは教室を後にした。
廊下に出ると、中の様子を見ていたであろう隣国の王子であるゲルハルト殿下が何か言いたげな表情で私を見た。
殿下は、いつも何かと私を気にかけてくださっていた。
アメリアはその視線に気づくと、するりと私から手を離し、殿下の元へ近づいていった。
そして、アメリアは笑顔で殿下に何か耳打ちする。途端、殿下の顔色が変わり、優しい殿下からは想像もできないようなものすごい形相でアメリアを睨んだ。
私は何事かと思って声をかけようと彼を見たが、殿下はバツが悪そうに目を逸らし、その場から去ってしまった。
「何を話していたの?」
「そんなこと気にしなくてもいいんです」
アメリアはもう一度私の手をしっかりと握り、走り出した。
私は殿下の様子が少し気にはなったが、そのまま彼女についていくことにした。
「行きましょう」
私の心臓がバクバクしはじめる。いつもどんな時も冷静を装っていた。だけど、今日は無理だった。
今起こった出来事が面白くて仕方がなかった。羽根が生えたかのように足取りも軽るいし、周りの目も気にならなかった。
これもすべて今私の手を引いて走っている彼女のおかげだ。
背後からはフランシスの「覚えてろよーっ」みたいな絶叫が私の体を貫通していった。
「さっきの蹴り最高だったわ」
「でしょ」
アメリアは後ろを振り返って、口を大きく開けて笑った。
私もつられて笑う。
私は多分今、最高の笑顔だ。
「放してください。望み通り婚約破棄は受け入れます。お父様には私の方から報告させていただきます」
「いや、やっぱりそれは困る! どうか考え直してくれっ! 今まで君は俺に尽くしてきてくれたじゃないか」
「尽くしてきた私を捨てたのはあなたでしょう。私はあなたに失望しました。それはここにいる全員も同じでは?」
私は教室内をぐるりと見渡す。生徒たちは恥ずかしげもなく私に縋り付くフランシスに痛々しい視線を向けていた。
生徒会の副会長であり、フランシスの手下でもあるラウルすら視線を逸らしている。
すると、横にいるアメリアは身を震わせはじめ、くつくつと笑い声を漏らした。
「なにがおかしいっ!」
「いやだって、めっちゃ滑稽じゃないすか。あー、おもしろ。みんなあんたみたいなのが未来の皇帝だなんて考えたくないですよ」
「皇太子に向かってなんて物言いだ!」
「あなたに敬意なんて払う意味ありますー? だって髪の毛に虫ついてるんですよー?」
「はぁ?」
フランシスは慌てて髪の毛を触るが、しっかりと絡みついた虫はなかなか取れない。
「ふっ……」
耐えがたく私は笑い声を漏らしてしまった。アメリアはそれを聞いて嬉しそうに目を輝かせた。
周りの生徒たちも、目が飛び出るのではないかというほど目を見開いていた。
(そんなに私が笑うのはおかしなことなの?)
私は恥ずかしくて、顔が熱くなった。
フランシスも信じられないというふうに頭を掻きむしった。
その時に、虫もポロリと地面に転がった。
ああ、取れてよかった。それはやはりハエの類だった。
「お前、今笑っただろう! 俺がどんなプレゼントを贈っても笑わなかったのにかっ!」
横でアメリアは、くすくすと愛らしく笑った。その無邪気さが少しだけ怖かった。
「フランシス様はお笑いの才能がお有りなんですね~。前言撤回します。尊敬できるところありました~」
「はっ、これだから平民は……。まったく下品で仕方がない。皇太子である俺にそんな失言をするとは」
先ほど求婚した女性に対する物言いではない。
やれやれというふうにフランシスが前髪をくしゃっとした瞬間、素早くアメリアは彼の脛をヒールの踵で蹴り飛ばした。
「痛っ!」
「もうっ、いい加減退いてくださーい」
「こんなことして許されると思うなよ!」
「はぁ、もう仕方ないですねぇ~」
顔をゆでだこのようにして怒るフランシスを見て、アメリアは困ったように眉を寄せた。
そして脛を抱えて痛がるフランシスに近づいていく。彼女が右手を彼の脛の辺りにかざすと、温かな光が彼の脛を包んだ。
聖女の奇跡だ。
「はいっ! これで痛くないでしょう! 治したんでプラマイゼロってことで許してくださ~い」
唖然とするフランシスを押し退け、私たちは教室を後にした。
廊下に出ると、中の様子を見ていたであろう隣国の王子であるゲルハルト殿下が何か言いたげな表情で私を見た。
殿下は、いつも何かと私を気にかけてくださっていた。
アメリアはその視線に気づくと、するりと私から手を離し、殿下の元へ近づいていった。
そして、アメリアは笑顔で殿下に何か耳打ちする。途端、殿下の顔色が変わり、優しい殿下からは想像もできないようなものすごい形相でアメリアを睨んだ。
私は何事かと思って声をかけようと彼を見たが、殿下はバツが悪そうに目を逸らし、その場から去ってしまった。
「何を話していたの?」
「そんなこと気にしなくてもいいんです」
アメリアはもう一度私の手をしっかりと握り、走り出した。
私は殿下の様子が少し気にはなったが、そのまま彼女についていくことにした。
「行きましょう」
私の心臓がバクバクしはじめる。いつもどんな時も冷静を装っていた。だけど、今日は無理だった。
今起こった出来事が面白くて仕方がなかった。羽根が生えたかのように足取りも軽るいし、周りの目も気にならなかった。
これもすべて今私の手を引いて走っている彼女のおかげだ。
背後からはフランシスの「覚えてろよーっ」みたいな絶叫が私の体を貫通していった。
「さっきの蹴り最高だったわ」
「でしょ」
アメリアは後ろを振り返って、口を大きく開けて笑った。
私もつられて笑う。
私は多分今、最高の笑顔だ。
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