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カトリーヌ編
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私はアメリアに引っ張られ、学園の外まで来ていた。そこは近くの港だった。海に面して設置されたベンチに私たちは腰掛けた。
走ったおかげで二人とも肩で息をしていた。
「ここまでくれば少しの間は大丈夫でしょう」
アメリアが海の風に当たって気持ちよさように、空を仰いだ。彼女の綺麗な桃色の髪が風にあわせて波打っている。
「ねぇ、さっきの話って本気なの?」
「さっきの話とはどれのことです?」
私は気まずさで咄嗟にアメリアから視線を逸らした。
「だ、だから、私とその、婚約するとかどうの……。本気じゃないわよね? あの場から切り抜けるためよね?」
「あぁっ! どっちだと思います?」
アメリアは、不敵な笑みで笑う。いつも太陽のような笑顔を浮かべていたアメリアからは想像もできないような表情だ。
私は少しドキリとしてしまった。徐々に顔に熱が帯び始め、海辺の風がひんやりしていて気持ちよく感じられた。
「だけど、あなたのことが好きなのは本当ですよ。ねぇ、カトリーヌ様。突然ですけど、私たちでこの国を変えませんか?」
「え?」
ほんとうに突然の提案で戸惑う。しかし、アメリアの瞳は真剣そのものだった。
「この国は女性蔑視が酷いと思うんです。領主を任せられるのもすべて男性だし、女性は男性のために生きなくてはいけないでしょう? それっておかしくないですか。私も聖女って言ってもお飾りっていうか。神託だって、教皇含め、男性しかいない上位聖職者たちの会議によって決められるんですよ。私はそれを読み上げるだけ」
神託のことは初耳だった。正直私は、ほんとうに神が実在しているとは思っていなかったので、薄々そうではないかと思っていたのだが。
アルス帝国の道標となる神託を決めていたのは、聖職者たちだなんて……。聖職者たちが実権を握っているようなものだ。この件については、たしかに改革の必要があるだろう。
しかし、私は幼い頃から、フランシスのために生きろと言われてきた。それが当たり前だと思っていた。だから、女性蔑視というアメリアの考えにはあまりしっくりこなかった。
「あまりしっくりきませんか? ときにカトリーヌ様はロマン小説や童話なんかは読まれますか?」
「え? まぁ、読んだことはあるわ」
「あれもおかしいと思うんですよね。主人公の女の子はいつだって救われる側でしょ。助けてくれる男性を待つことしかできない。なのに少年向けの冒険小説なら、主人公の少年は自ら道を切り開いていきますよね。それって女の子にだってできると思うんですよ」
アメリアは熱弁する。そこには怒りのようなものがこもっていた。
「だから私は自分で動いて、この国の女性の地位を変えたいんです。協力者は多い方がいい」
彼女の蜂蜜色の瞳が私を見据える。
私はフランシスのことを思い出した。あの人は私に支えられて当然だと思っていた。感謝もしなかった。
たしかに、私たちがこんな思いをするのはおかしなことなのかもしれない。
「それに私は、カトリーヌ様が刺繍や機織りなんかより、剣術の方がお好きなのを知ってます。でも、女だという理由であまり教えてもらえなかったんですよね」
「えっ! どうしてそれを……」
その通りだったのだ。
誰にも言ったことがなかったのに。態度にだって出さないようにしていたはずなのに。
「じつは私の聖女としての能力は治癒だけじゃないんです。私、人の心が読めるんです」
「えぇっ!? じゃ、じゃあ今までの心の声も全部筒抜けだったってこと?」
私は恥ずかしさでいっぱいだった。多分、私は心の声がうるさい方だ。それが全部聞かれてたなんて……。
「えぇ、全部知ってます。無表情の裏で、実は笑いを堪えてたり、案外ユーモラスなことを考えているのも、全部」
「それは……恥ずかしいわね……」
私は熱くなった顔を冷まそうと手で仰ぐ。アメリアはおかしそうに笑った。
「でも、それがあなたの可愛いところでしょう?」
「ちょっ、もう照れること言わないで。これ以上熱くなったら蒸発してしまいそう……」
「あははっ! カトリーヌ様ってばかわいい~」
少しして私の頭は冷静になり始める。頭からは熱が抜けていき、思考力が戻ってくる。
走ったおかげで二人とも肩で息をしていた。
「ここまでくれば少しの間は大丈夫でしょう」
アメリアが海の風に当たって気持ちよさように、空を仰いだ。彼女の綺麗な桃色の髪が風にあわせて波打っている。
「ねぇ、さっきの話って本気なの?」
「さっきの話とはどれのことです?」
私は気まずさで咄嗟にアメリアから視線を逸らした。
「だ、だから、私とその、婚約するとかどうの……。本気じゃないわよね? あの場から切り抜けるためよね?」
「あぁっ! どっちだと思います?」
アメリアは、不敵な笑みで笑う。いつも太陽のような笑顔を浮かべていたアメリアからは想像もできないような表情だ。
私は少しドキリとしてしまった。徐々に顔に熱が帯び始め、海辺の風がひんやりしていて気持ちよく感じられた。
「だけど、あなたのことが好きなのは本当ですよ。ねぇ、カトリーヌ様。突然ですけど、私たちでこの国を変えませんか?」
「え?」
ほんとうに突然の提案で戸惑う。しかし、アメリアの瞳は真剣そのものだった。
「この国は女性蔑視が酷いと思うんです。領主を任せられるのもすべて男性だし、女性は男性のために生きなくてはいけないでしょう? それっておかしくないですか。私も聖女って言ってもお飾りっていうか。神託だって、教皇含め、男性しかいない上位聖職者たちの会議によって決められるんですよ。私はそれを読み上げるだけ」
神託のことは初耳だった。正直私は、ほんとうに神が実在しているとは思っていなかったので、薄々そうではないかと思っていたのだが。
アルス帝国の道標となる神託を決めていたのは、聖職者たちだなんて……。聖職者たちが実権を握っているようなものだ。この件については、たしかに改革の必要があるだろう。
しかし、私は幼い頃から、フランシスのために生きろと言われてきた。それが当たり前だと思っていた。だから、女性蔑視というアメリアの考えにはあまりしっくりこなかった。
「あまりしっくりきませんか? ときにカトリーヌ様はロマン小説や童話なんかは読まれますか?」
「え? まぁ、読んだことはあるわ」
「あれもおかしいと思うんですよね。主人公の女の子はいつだって救われる側でしょ。助けてくれる男性を待つことしかできない。なのに少年向けの冒険小説なら、主人公の少年は自ら道を切り開いていきますよね。それって女の子にだってできると思うんですよ」
アメリアは熱弁する。そこには怒りのようなものがこもっていた。
「だから私は自分で動いて、この国の女性の地位を変えたいんです。協力者は多い方がいい」
彼女の蜂蜜色の瞳が私を見据える。
私はフランシスのことを思い出した。あの人は私に支えられて当然だと思っていた。感謝もしなかった。
たしかに、私たちがこんな思いをするのはおかしなことなのかもしれない。
「それに私は、カトリーヌ様が刺繍や機織りなんかより、剣術の方がお好きなのを知ってます。でも、女だという理由であまり教えてもらえなかったんですよね」
「えっ! どうしてそれを……」
その通りだったのだ。
誰にも言ったことがなかったのに。態度にだって出さないようにしていたはずなのに。
「じつは私の聖女としての能力は治癒だけじゃないんです。私、人の心が読めるんです」
「えぇっ!? じゃ、じゃあ今までの心の声も全部筒抜けだったってこと?」
私は恥ずかしさでいっぱいだった。多分、私は心の声がうるさい方だ。それが全部聞かれてたなんて……。
「えぇ、全部知ってます。無表情の裏で、実は笑いを堪えてたり、案外ユーモラスなことを考えているのも、全部」
「それは……恥ずかしいわね……」
私は熱くなった顔を冷まそうと手で仰ぐ。アメリアはおかしそうに笑った。
「でも、それがあなたの可愛いところでしょう?」
「ちょっ、もう照れること言わないで。これ以上熱くなったら蒸発してしまいそう……」
「あははっ! カトリーヌ様ってばかわいい~」
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