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第二章(息子:和樹)
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「は?ずるい!俺まだ乗ってもらったことないのに」
「ははは、お前たちは構い過ぎるから避けられてるんだろ」
「でも俺、ほとんど部屋にいるけど」
「うーん、じゃあまだ知らない人っていうカテゴリなんじゃないか?」
父の言葉が和樹の頭にガツンと降ってくる。
一か月以上愛でていた子猫に他人だと思われていたとは、結構ショックだ。
「よし、ちょっとごめんなぁ」
ご飯を食べ終えた弘昌は、食器を片付けるためにツナを隣の椅子にどかした。
実家で猫を飼っていたことがあると言っていたからか、中谷家の誰よりも扱いに慣れているように見える。
ツナはストンと椅子から降りて、台所へ向かった弘昌の後を追いかける。
「にゃー」
「うん?どうした。ごはんか?」
デレデレした様子の父は、キッチンの棚に入れているキャットフードを取り出した。
「母さんが七時くらいにあげてるんじゃなかったっけ?」
ツナのご飯は、朝の八時と夜の七時にあげることになっていると聞いていたはずだが。
「お皿が空っぽだったからきっと足りなかったんだろう。お腹を空かせてたら可哀相じゃないか」
カラカラ、と猫用のお皿にドライフードが転がる音がして、ツナの鳴き声が一層大きくなる。
弘昌はぬるま湯でドライフードをふやかすと、「ほうら、お食べー」とツナの前に皿を出した。
ツナは甘えた声で鳴き、ご飯にがっつく。
和樹はその時理解した。
ツナが弘昌に懐いているのは、間違いなくこれのせいだと。
家族の誰もが知らぬ間に、この一か月間、こんなことが続いていたに違いない。
(そりゃあツナも父さんに懐くだろうな……)
「デブになったらどうすんの」
「猫はデブなくらいが可愛いんだ。見なさいこの子を。こんなにガリガリじゃないか」
「…………」
父が猫派だとは知っていたが、まさかここまでの愛猫家だったとは。
「……もういいや。おやすみ」
「おー、また明日な」
父の声を受け流しながら、和樹は考える。
父が猫に懐かれている理由には合点がいったが、ツナが明美やみのりに見せている態度を思うと、確かに自分にはよそよそしいかもしれない。
朝、学校に行く準備をしている時、ソファに座っているみのりの隣にちょこんとおすわりしていたり、ご飯の準備をしている母の足元をウロウロしたりしているのはよく見かける。
だけど和樹は、自分からツナに接触したことはあっても、ツナの方から来られたことはない。
(やっぱり、時々見かける他人だと思われてるのか……?)
そう考えると少し、いや、かなり残念な気持ちだった。
***
「わりぃ、俺昨日ゲーム没収された」
翌日学校に着くと、裕司が開口一番にそう告げた。
「は、マジかよ?」
「マジマジ。昨日の通信がうるさいって怒られてさ。だから悪いけどラグナの討伐、しばらく参加できねぇわ」
申し訳なさそうに肩を竦める裕司に、和樹は「仕方ねぇよ。気にすんな」と首を振る。
「和樹も気をつけろよ。本気でゲーム機隠されたらマジで見つかんねーから」
わかりやすく落ち込んでいる裕司に和樹は苦笑した。
和樹もゲーム機を買ってもらったばかりの頃は、それに熱中しすぎて明美に没収されたことがある。
現在も当時と同じくらいの使用時間だったと思うが、和樹が反抗期に入ったこともあって明美が根負けし、今やゲーム機の使用を黙認、というより放置されている。
「ラグナドレイグ討伐したら教えてくれよ。あと攻略のコツとか」
「おう。裕司がいないうちにクリアしてやるよ」
「言ったな。お前」
裕司が肩を小突いてくる。
二人で笑いながら雑談を交わしていると、予鈴が鳴ったのでそれぞれの席へ戻った。
「じゃあ今日からしばらくは俺と和樹と進だけかぁ」
部活終わり、陽斗ががっかりした様子で嘆く。
「四人でも倒せなかったのに、三人とか無理ゲーだろ」
「おい裕司。お前今すぐおばさんからゲーム機取り返せ」
「無理なんだって。今朝こっそり探してみたけどマジで見つかんねーんだもん」
進と陽斗に縋りつかれる裕司は、申し訳なさそうに眉を下げている。
「どれぐらい没収される予定なんだよ?」
和樹が問うと、裕司は「うーん」と唸った。
「少なくとも一週間くらい?戻って来たとしても一日一時間までとか」
「かーっ、んなもん何も楽しめねーじゃん。昨日までのお前の自由時間は幻みたいなもんだったんだな」
「ゲームする時間が減るだけで自由時間は変わんねっつの」
「同じ意味だろうが」
四人でぺちゃくちゃと喋りながら帰路を辿っていると、真っ先に裕司の分かれ道がやって来た。
「じゃーまた明日な」
「また明日ー」
「じゃーなー」
それぞれが手を振って裕司を見送る。
裕司が角を曲がり、その姿が見えなくなると、「ラグナ討伐は一旦保留だな」と陽斗が呟いた。
「だなー」
進が頷きながら歩き出す。
彼らも裕司の前であんな風には言っていたが、ラグナドレイグの討伐は全員で達成するものだと言葉にせずともわかっている。
「最低でも一週間は三人で活動だな」
和樹の言葉に対し、「それならさ」と進が口を開く。
「アレ、やろうぜ。お前らはソフト持ってたよな?」
友人の嬉しそうな表情に、和樹は嫌な予感がした。
「ははは、お前たちは構い過ぎるから避けられてるんだろ」
「でも俺、ほとんど部屋にいるけど」
「うーん、じゃあまだ知らない人っていうカテゴリなんじゃないか?」
父の言葉が和樹の頭にガツンと降ってくる。
一か月以上愛でていた子猫に他人だと思われていたとは、結構ショックだ。
「よし、ちょっとごめんなぁ」
ご飯を食べ終えた弘昌は、食器を片付けるためにツナを隣の椅子にどかした。
実家で猫を飼っていたことがあると言っていたからか、中谷家の誰よりも扱いに慣れているように見える。
ツナはストンと椅子から降りて、台所へ向かった弘昌の後を追いかける。
「にゃー」
「うん?どうした。ごはんか?」
デレデレした様子の父は、キッチンの棚に入れているキャットフードを取り出した。
「母さんが七時くらいにあげてるんじゃなかったっけ?」
ツナのご飯は、朝の八時と夜の七時にあげることになっていると聞いていたはずだが。
「お皿が空っぽだったからきっと足りなかったんだろう。お腹を空かせてたら可哀相じゃないか」
カラカラ、と猫用のお皿にドライフードが転がる音がして、ツナの鳴き声が一層大きくなる。
弘昌はぬるま湯でドライフードをふやかすと、「ほうら、お食べー」とツナの前に皿を出した。
ツナは甘えた声で鳴き、ご飯にがっつく。
和樹はその時理解した。
ツナが弘昌に懐いているのは、間違いなくこれのせいだと。
家族の誰もが知らぬ間に、この一か月間、こんなことが続いていたに違いない。
(そりゃあツナも父さんに懐くだろうな……)
「デブになったらどうすんの」
「猫はデブなくらいが可愛いんだ。見なさいこの子を。こんなにガリガリじゃないか」
「…………」
父が猫派だとは知っていたが、まさかここまでの愛猫家だったとは。
「……もういいや。おやすみ」
「おー、また明日な」
父の声を受け流しながら、和樹は考える。
父が猫に懐かれている理由には合点がいったが、ツナが明美やみのりに見せている態度を思うと、確かに自分にはよそよそしいかもしれない。
朝、学校に行く準備をしている時、ソファに座っているみのりの隣にちょこんとおすわりしていたり、ご飯の準備をしている母の足元をウロウロしたりしているのはよく見かける。
だけど和樹は、自分からツナに接触したことはあっても、ツナの方から来られたことはない。
(やっぱり、時々見かける他人だと思われてるのか……?)
そう考えると少し、いや、かなり残念な気持ちだった。
***
「わりぃ、俺昨日ゲーム没収された」
翌日学校に着くと、裕司が開口一番にそう告げた。
「は、マジかよ?」
「マジマジ。昨日の通信がうるさいって怒られてさ。だから悪いけどラグナの討伐、しばらく参加できねぇわ」
申し訳なさそうに肩を竦める裕司に、和樹は「仕方ねぇよ。気にすんな」と首を振る。
「和樹も気をつけろよ。本気でゲーム機隠されたらマジで見つかんねーから」
わかりやすく落ち込んでいる裕司に和樹は苦笑した。
和樹もゲーム機を買ってもらったばかりの頃は、それに熱中しすぎて明美に没収されたことがある。
現在も当時と同じくらいの使用時間だったと思うが、和樹が反抗期に入ったこともあって明美が根負けし、今やゲーム機の使用を黙認、というより放置されている。
「ラグナドレイグ討伐したら教えてくれよ。あと攻略のコツとか」
「おう。裕司がいないうちにクリアしてやるよ」
「言ったな。お前」
裕司が肩を小突いてくる。
二人で笑いながら雑談を交わしていると、予鈴が鳴ったのでそれぞれの席へ戻った。
「じゃあ今日からしばらくは俺と和樹と進だけかぁ」
部活終わり、陽斗ががっかりした様子で嘆く。
「四人でも倒せなかったのに、三人とか無理ゲーだろ」
「おい裕司。お前今すぐおばさんからゲーム機取り返せ」
「無理なんだって。今朝こっそり探してみたけどマジで見つかんねーんだもん」
進と陽斗に縋りつかれる裕司は、申し訳なさそうに眉を下げている。
「どれぐらい没収される予定なんだよ?」
和樹が問うと、裕司は「うーん」と唸った。
「少なくとも一週間くらい?戻って来たとしても一日一時間までとか」
「かーっ、んなもん何も楽しめねーじゃん。昨日までのお前の自由時間は幻みたいなもんだったんだな」
「ゲームする時間が減るだけで自由時間は変わんねっつの」
「同じ意味だろうが」
四人でぺちゃくちゃと喋りながら帰路を辿っていると、真っ先に裕司の分かれ道がやって来た。
「じゃーまた明日な」
「また明日ー」
「じゃーなー」
それぞれが手を振って裕司を見送る。
裕司が角を曲がり、その姿が見えなくなると、「ラグナ討伐は一旦保留だな」と陽斗が呟いた。
「だなー」
進が頷きながら歩き出す。
彼らも裕司の前であんな風には言っていたが、ラグナドレイグの討伐は全員で達成するものだと言葉にせずともわかっている。
「最低でも一週間は三人で活動だな」
和樹の言葉に対し、「それならさ」と進が口を開く。
「アレ、やろうぜ。お前らはソフト持ってたよな?」
友人の嬉しそうな表情に、和樹は嫌な予感がした。
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