11 / 30
第二章(息子:和樹)
3
しおりを挟む
小さな画面の中で、四つのミニキャラが忙しなく動いている。
「えっ、進そっから登んの?むずくね」
「任せとけって。……ここはタイミング見れば――ほらな!」
「おー、ほんとだ。すげー」
和樹は画面越しで自慢げにしている進の操作キャラに称賛を送った。
今日の帰り道、進から言われたのは、別のゲームをやろうという話だった。
それはいつも遊んでいる四人の中で裕司だけが持っていないゲームで、自然と利用を避けていたゲームソフトだった。
ビーストハンターズとは違って、複雑な操作はなく、跳んだり跳ねたり、アイテムを取ったりしてステージをクリアする横スクロール型のゲームだ。
ビーストハンターズのような世界観の作りこみはないが、こっちはこっちで中毒性がある。
「あ、ごめん。今のスイッチ押したら足場動くから気をつけて」
陽斗がさらりと言った瞬間、進のミニキャラが画面外へ落ちる。
「言うのおっそ!足場消えたんだけど!?」
「え、進落ちた? まじごめん」
謝りつつも、陽斗の声には笑いが混じっていた。
和樹も、いつもとは違う刺激に楽しくなって、結局遅くまで三人でゲームを続けてしまった。
翌朝、起きるといつも家を出ている時間になっていた。
「やっべ!」
飛び起きて制服に着替えた和樹は、カバンを持ってリビングに降りる。
「いたっ!」
勢いよくリビングの扉を開けると、悲鳴に近い声が上がった。
見ると、そこには姉のみのりが憮然とした目つきで立っている。
「急に開けるから当たったんですけど」
そう言って右手をさするみのり。
「ごめんって」
正直それどころではない和樹は、リビングに入って自分の弁当をカバンにつめる。
朝ごはんは基本的に食パンか、買い置きの菓子パンだが、今日は時間がないので断念した。
洗面台で軽く身だしなみを整えていると、姉の声が聞こえてくる。
「うん、行ってくるね」
初めは誰に言っているのかと思ったが、直後に「にゃー」という透き通った声が聞こえて、ツナか、と思い至った。
三年のみのりは一年の和樹よりも登校時間が少し遅いので、姉が出ていくところを見るのは今年になって初めてだった。
寂しそうに何度も何度も鳴いているツナに、素直に羨ましいなと和樹は思う。
「よし行くぞ」
支度を終えて、玄関までバタバタ駆けると、空っぽの玄関でちょこんと座っているツナがいる。
(俺、こんな風にお見送りされたことないな)
僅かに寂しさを抱えながら、「ツナ、俺も行ってくるな」と頭を撫でる。
「にゃん」と小さく返事はしてくれたが、みのりほど寂しそうには鳴かない。
複雑な感情で家を出る。学校の始業時間にはなんとか間に合った。
「おはよう和樹」
「おはよー」
裕司と陽斗と進はすでに登校しており、三人で固まっていた。
「今日はいつもよりちょっと遅いな」
裕司の言葉に、「あー、ちょっと寝坊して」と和樹は頬をかく。
「昨日遅くまでゲームやっちまったもんな」
進の言葉に対し、「そうそう」と陽斗が頷く。
「ワンダーランド・ランナーズな。久しぶりにやったけどやっぱ面白かったわ。進がめっちゃ張り切ってたんだけど、何回も落ちてんの」
「普通にお前が妨害してきたのもあるだろうがよっ」
「いやごめんって。でも八割はお前の過失だろ」
楽しそうに昨日のゲームの話を繰り広げる二人に和樹も笑っていたが、裕司が微妙な顔をしていることに気づいた。
「ビーストハンターズはやらなかったのか?」
裕司の問いかけに「ああ、そうなんだよ」と陽斗が笑顔で頷く。
ちょうどその時、チャイムが鳴ってそれぞれが自分の席についた。
担任の話を半分に聞きながら、和樹はさきほどの裕司の様子について考える。
(裕司は、あのソフト持ってないんだもんな)
それどころか今はゲーム自体を没収されている。
もともとビーストハンターズも、裕司は親に頼み込んで買ってもらったと言っていた。
流行りのゲーム等には疎い親らしく、ゲームの必要性について納得してもらえていないらしかった。
そんな中でようやく買ってもらったソフトだからこそ、裕司はそれを後生大事にしていた。
それなのに、三人になった途端に別のゲームを始めたとなれば、裕司が居なくなったのを良いことに鞍替えをしたような構図になっていないだろうか。
だからこそ、和樹は進が別のゲームをやりたいと言った時に嫌な予感がした。
三人で別のゲームをやっていたことを知れば、裕司が疎外感を覚えるんじゃないかと。
ゲーム機が没収された時点でそうなるのは、ある程度致し方ないことだろうが、和樹はどうしても気になってしまった。
***
「今日の晩御飯カレー?」
「そうよ。自分の好きな量入れてね」
明美の言葉の通り、和樹はキッチンに出ているオーバル皿に好きな量のご飯をつぎ、ルーをかけた。
食事はいつも自分の部屋でとっているので、和樹はそれを持って二階へ上がる。
「お待たせ。今日のご飯カレーだったわ」
通話が繋がっているスマホに向かって言うと、「いいなー」という進の声が聞こえてくる。
「じゃあ一旦休憩だな。食いながら喋ろうぜ」
陽斗の言葉で、和樹はゲーム機を閉じる。
今日も今日とて、裕司を抜いた三人でゲームをしている途中だ。
ご飯を食べる時は、こんな風にして通話を繋ぎながら雑談をしている。
ただ、裕司だけはゲームに参加していた時も一時中断して、家族とご飯を食べているようだった。
最初は和樹もリビングでご飯を食べるよう怒られていたが、今はもう何も言われない。
「……そういえば、進と陽斗はさ、ご飯は家族と一緒に食べろって言われたりしねーの?」
和樹の問いに、進は「うちはわりと自由にさせてくれてるなー」と返す。
「俺の家はほら、そもそも親が帰って来るの遅いし、ほぼ一人だから」
陽斗の言葉に、「そうだったな」と和樹は頷く。
「和樹は?もしかして結構怒られてたりする?」
陽斗からの問いかけに、「いや、俺のところも結構放任されてる」と首を振る。
(でも、そういえば……)
母の明美に何も言われないようになったのは、あの時からだった気がする。
「えっ、進そっから登んの?むずくね」
「任せとけって。……ここはタイミング見れば――ほらな!」
「おー、ほんとだ。すげー」
和樹は画面越しで自慢げにしている進の操作キャラに称賛を送った。
今日の帰り道、進から言われたのは、別のゲームをやろうという話だった。
それはいつも遊んでいる四人の中で裕司だけが持っていないゲームで、自然と利用を避けていたゲームソフトだった。
ビーストハンターズとは違って、複雑な操作はなく、跳んだり跳ねたり、アイテムを取ったりしてステージをクリアする横スクロール型のゲームだ。
ビーストハンターズのような世界観の作りこみはないが、こっちはこっちで中毒性がある。
「あ、ごめん。今のスイッチ押したら足場動くから気をつけて」
陽斗がさらりと言った瞬間、進のミニキャラが画面外へ落ちる。
「言うのおっそ!足場消えたんだけど!?」
「え、進落ちた? まじごめん」
謝りつつも、陽斗の声には笑いが混じっていた。
和樹も、いつもとは違う刺激に楽しくなって、結局遅くまで三人でゲームを続けてしまった。
翌朝、起きるといつも家を出ている時間になっていた。
「やっべ!」
飛び起きて制服に着替えた和樹は、カバンを持ってリビングに降りる。
「いたっ!」
勢いよくリビングの扉を開けると、悲鳴に近い声が上がった。
見ると、そこには姉のみのりが憮然とした目つきで立っている。
「急に開けるから当たったんですけど」
そう言って右手をさするみのり。
「ごめんって」
正直それどころではない和樹は、リビングに入って自分の弁当をカバンにつめる。
朝ごはんは基本的に食パンか、買い置きの菓子パンだが、今日は時間がないので断念した。
洗面台で軽く身だしなみを整えていると、姉の声が聞こえてくる。
「うん、行ってくるね」
初めは誰に言っているのかと思ったが、直後に「にゃー」という透き通った声が聞こえて、ツナか、と思い至った。
三年のみのりは一年の和樹よりも登校時間が少し遅いので、姉が出ていくところを見るのは今年になって初めてだった。
寂しそうに何度も何度も鳴いているツナに、素直に羨ましいなと和樹は思う。
「よし行くぞ」
支度を終えて、玄関までバタバタ駆けると、空っぽの玄関でちょこんと座っているツナがいる。
(俺、こんな風にお見送りされたことないな)
僅かに寂しさを抱えながら、「ツナ、俺も行ってくるな」と頭を撫でる。
「にゃん」と小さく返事はしてくれたが、みのりほど寂しそうには鳴かない。
複雑な感情で家を出る。学校の始業時間にはなんとか間に合った。
「おはよう和樹」
「おはよー」
裕司と陽斗と進はすでに登校しており、三人で固まっていた。
「今日はいつもよりちょっと遅いな」
裕司の言葉に、「あー、ちょっと寝坊して」と和樹は頬をかく。
「昨日遅くまでゲームやっちまったもんな」
進の言葉に対し、「そうそう」と陽斗が頷く。
「ワンダーランド・ランナーズな。久しぶりにやったけどやっぱ面白かったわ。進がめっちゃ張り切ってたんだけど、何回も落ちてんの」
「普通にお前が妨害してきたのもあるだろうがよっ」
「いやごめんって。でも八割はお前の過失だろ」
楽しそうに昨日のゲームの話を繰り広げる二人に和樹も笑っていたが、裕司が微妙な顔をしていることに気づいた。
「ビーストハンターズはやらなかったのか?」
裕司の問いかけに「ああ、そうなんだよ」と陽斗が笑顔で頷く。
ちょうどその時、チャイムが鳴ってそれぞれが自分の席についた。
担任の話を半分に聞きながら、和樹はさきほどの裕司の様子について考える。
(裕司は、あのソフト持ってないんだもんな)
それどころか今はゲーム自体を没収されている。
もともとビーストハンターズも、裕司は親に頼み込んで買ってもらったと言っていた。
流行りのゲーム等には疎い親らしく、ゲームの必要性について納得してもらえていないらしかった。
そんな中でようやく買ってもらったソフトだからこそ、裕司はそれを後生大事にしていた。
それなのに、三人になった途端に別のゲームを始めたとなれば、裕司が居なくなったのを良いことに鞍替えをしたような構図になっていないだろうか。
だからこそ、和樹は進が別のゲームをやりたいと言った時に嫌な予感がした。
三人で別のゲームをやっていたことを知れば、裕司が疎外感を覚えるんじゃないかと。
ゲーム機が没収された時点でそうなるのは、ある程度致し方ないことだろうが、和樹はどうしても気になってしまった。
***
「今日の晩御飯カレー?」
「そうよ。自分の好きな量入れてね」
明美の言葉の通り、和樹はキッチンに出ているオーバル皿に好きな量のご飯をつぎ、ルーをかけた。
食事はいつも自分の部屋でとっているので、和樹はそれを持って二階へ上がる。
「お待たせ。今日のご飯カレーだったわ」
通話が繋がっているスマホに向かって言うと、「いいなー」という進の声が聞こえてくる。
「じゃあ一旦休憩だな。食いながら喋ろうぜ」
陽斗の言葉で、和樹はゲーム機を閉じる。
今日も今日とて、裕司を抜いた三人でゲームをしている途中だ。
ご飯を食べる時は、こんな風にして通話を繋ぎながら雑談をしている。
ただ、裕司だけはゲームに参加していた時も一時中断して、家族とご飯を食べているようだった。
最初は和樹もリビングでご飯を食べるよう怒られていたが、今はもう何も言われない。
「……そういえば、進と陽斗はさ、ご飯は家族と一緒に食べろって言われたりしねーの?」
和樹の問いに、進は「うちはわりと自由にさせてくれてるなー」と返す。
「俺の家はほら、そもそも親が帰って来るの遅いし、ほぼ一人だから」
陽斗の言葉に、「そうだったな」と和樹は頷く。
「和樹は?もしかして結構怒られてたりする?」
陽斗からの問いかけに、「いや、俺のところも結構放任されてる」と首を振る。
(でも、そういえば……)
母の明美に何も言われないようになったのは、あの時からだった気がする。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる