猫が繋いだ私たちの日々

はるかわ 美穂

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第二章(息子:和樹)

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小さな画面の中で、四つのミニキャラが忙しなく動いている。

「えっ、進そっから登んの?むずくね」

「任せとけって。……ここはタイミング見れば――ほらな!」

「おー、ほんとだ。すげー」

和樹は画面越しで自慢げにしている進の操作キャラに称賛を送った。

今日の帰り道、進から言われたのは、別のゲームをやろうという話だった。

それはいつも遊んでいる四人の中で裕司だけが持っていないゲームで、自然と利用を避けていたゲームソフトだった。

ビーストハンターズとは違って、複雑な操作はなく、跳んだり跳ねたり、アイテムを取ったりしてステージをクリアする横スクロール型のゲームだ。

ビーストハンターズのような世界観の作りこみはないが、こっちはこっちで中毒性がある。

「あ、ごめん。今のスイッチ押したら足場動くから気をつけて」

陽斗がさらりと言った瞬間、進のミニキャラが画面外へ落ちる。

「言うのおっそ!足場消えたんだけど!?」

「え、進落ちた? まじごめん」

謝りつつも、陽斗の声には笑いが混じっていた。

和樹も、いつもとは違う刺激に楽しくなって、結局遅くまで三人でゲームを続けてしまった。


翌朝、起きるといつも家を出ている時間になっていた。

「やっべ!」

飛び起きて制服に着替えた和樹は、カバンを持ってリビングに降りる。

「いたっ!」

勢いよくリビングの扉を開けると、悲鳴に近い声が上がった。

見ると、そこには姉のみのりが憮然とした目つきで立っている。

「急に開けるから当たったんですけど」

そう言って右手をさするみのり。

「ごめんって」

正直それどころではない和樹は、リビングに入って自分の弁当をカバンにつめる。

朝ごはんは基本的に食パンか、買い置きの菓子パンだが、今日は時間がないので断念した。

洗面台で軽く身だしなみを整えていると、姉の声が聞こえてくる。

「うん、行ってくるね」

初めは誰に言っているのかと思ったが、直後に「にゃー」という透き通った声が聞こえて、ツナか、と思い至った。

三年のみのりは一年の和樹よりも登校時間が少し遅いので、姉が出ていくところを見るのは今年になって初めてだった。

寂しそうに何度も何度も鳴いているツナに、素直に羨ましいなと和樹は思う。

「よし行くぞ」

支度を終えて、玄関までバタバタ駆けると、空っぽの玄関でちょこんと座っているツナがいる。

(俺、こんな風にお見送りされたことないな)

僅かに寂しさを抱えながら、「ツナ、俺も行ってくるな」と頭を撫でる。

「にゃん」と小さく返事はしてくれたが、みのりほど寂しそうには鳴かない。

複雑な感情で家を出る。学校の始業時間にはなんとか間に合った。


「おはよう和樹」

「おはよー」

裕司と陽斗と進はすでに登校しており、三人で固まっていた。

「今日はいつもよりちょっと遅いな」

裕司の言葉に、「あー、ちょっと寝坊して」と和樹は頬をかく。

「昨日遅くまでゲームやっちまったもんな」

進の言葉に対し、「そうそう」と陽斗が頷く。

「ワンダーランド・ランナーズな。久しぶりにやったけどやっぱ面白かったわ。進がめっちゃ張り切ってたんだけど、何回も落ちてんの」

「普通にお前が妨害してきたのもあるだろうがよっ」

「いやごめんって。でも八割はお前の過失だろ」

楽しそうに昨日のゲームの話を繰り広げる二人に和樹も笑っていたが、裕司が微妙な顔をしていることに気づいた。

「ビーストハンターズはやらなかったのか?」

裕司の問いかけに「ああ、そうなんだよ」と陽斗が笑顔で頷く。

ちょうどその時、チャイムが鳴ってそれぞれが自分の席についた。

担任の話を半分に聞きながら、和樹はさきほどの裕司の様子について考える。

(裕司は、あのソフト持ってないんだもんな)

それどころか今はゲーム自体を没収されている。

もともとビーストハンターズも、裕司は親に頼み込んで買ってもらったと言っていた。

流行りのゲーム等には疎い親らしく、ゲームの必要性について納得してもらえていないらしかった。

そんな中でようやく買ってもらったソフトだからこそ、裕司はそれを後生大事にしていた。

それなのに、三人になった途端に別のゲームを始めたとなれば、裕司が居なくなったのを良いことに鞍替えをしたような構図になっていないだろうか。

だからこそ、和樹は進が別のゲームをやりたいと言った時に嫌な予感がした。

三人で別のゲームをやっていたことを知れば、裕司が疎外感を覚えるんじゃないかと。

ゲーム機が没収された時点でそうなるのは、ある程度致し方ないことだろうが、和樹はどうしても気になってしまった。


***


「今日の晩御飯カレー?」

「そうよ。自分の好きな量入れてね」

明美の言葉の通り、和樹はキッチンに出ているオーバル皿に好きな量のご飯をつぎ、ルーをかけた。

食事はいつも自分の部屋でとっているので、和樹はそれを持って二階へ上がる。

「お待たせ。今日のご飯カレーだったわ」

通話が繋がっているスマホに向かって言うと、「いいなー」という進の声が聞こえてくる。

「じゃあ一旦休憩だな。食いながら喋ろうぜ」

陽斗の言葉で、和樹はゲーム機を閉じる。

今日も今日とて、裕司を抜いた三人でゲームをしている途中だ。

ご飯を食べる時は、こんな風にして通話を繋ぎながら雑談をしている。

ただ、裕司だけはゲームに参加していた時も一時中断して、家族とご飯を食べているようだった。

最初は和樹もリビングでご飯を食べるよう怒られていたが、今はもう何も言われない。

「……そういえば、進と陽斗はさ、ご飯は家族と一緒に食べろって言われたりしねーの?」

和樹の問いに、進は「うちはわりと自由にさせてくれてるなー」と返す。

「俺の家はほら、そもそも親が帰って来るの遅いし、ほぼ一人だから」

陽斗の言葉に、「そうだったな」と和樹は頷く。

「和樹は?もしかして結構怒られてたりする?」

陽斗からの問いかけに、「いや、俺のところも結構放任されてる」と首を振る。

(でも、そういえば……)

母の明美に何も言われないようになったのは、あの時からだった気がする。
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