猫が繋いだ私たちの日々

はるかわ 美穂

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第二章(息子:和樹)

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「ごめん。俺、今日からしばらく二時間くらいしかゲーム参加できない」

昨日の今日で言い出すのは心苦しかったが、黙ったままというわけにもいかないので、和樹は部活終わりにようやく進と陽斗に伝えた。

「何かあったのか?」

訝しげな進に、「猫飼い始めたって前に話しただろ」と和樹は説明を始める。

「……で、父さんが帰って来るまでの間、ツナを見てる人がいないから、俺が駆り出されたんだよ」

「なるほどな。そりゃしょうがねぇ。猫大丈夫なのか?」

「うん。今朝も元気そうにしてたし、問題ないとは思うけど一応な」

「そうかぁ。じゃあまたメンバーが減るな陽斗」

隣を歩く陽斗を肘で小突く進。

「そうだな」

陽斗は何かを言いたげにしていたが口を噤んだ。

「じゃあ和樹が抜けた後は、少人数向けのステージ攻略するか」

「お、良いなぁ」

陽斗と進はゲームの話に花を咲かせる。

その影響で、帰り道は自然と和樹の隣が裕司になった。

楽しそうに前を歩く二人の背中を見ながら、和樹は何とも言えない不安でいっぱいだった。

「どうかしたか?」

和樹の浮かない様子に気づいた裕司が問いかけてくる。

適当に流してしまおうかと思ったが、普段から周りをよく見ている裕司になら話してみても良いかもしれないと思った。

和樹は前の二人に聞こえないよう、声のボリュームを落として話す。

「陽斗と進って、これまでゲーム中にちょくちょくぶつかってただろ?」

「そうだな」

「実は昨日もちょっと危ういところがあってさ。もし二人だけになったら、喧嘩が始まるんじゃないかと思って……」

裕司は納得したように「あー」と声を漏らす。

しかし、次の瞬間にはけろりとした様子で「大丈夫じゃないか?」と言った。

「……え?」

「確かに、最悪あのふたりは喧嘩するかもしれないけど、まぁ、大丈夫だと思う」

確信を持った様子で言う裕司に、和樹は拍子抜けした。

人のことをよく見ている裕司だからこそ、これまでの陽斗と進の一触即発な空気は知っているはずなのに、なぜそんなに軽々しく言えるのか、皆目見当もつかない。

ちょうどその時に裕司との別れ道が来てしまったので、和樹は彼の背中を見送った。

陽斗と進は、別れ際まで変わらず楽しそうに会話していたけど、不安が拭えないまま和樹は帰宅する。

「おかえりなさい」

いつものように部屋着に着替えてリビングに入ると、明美がみのりと一緒に夕食の支度をしていた。

「ただいま」

ツナの様子を見に行くと、みのりのカバンの上に乗っかって香箱座りをしている。

「あーっ、毛だらけになるからやめてって言ったのに」

みのりが慌てて走って来て、ツナを持ち上げた。

カバンを壁にかけたみのりは、ツナをソファの上に下ろす。

もたれていたカバンがなくなったツナは、つまらなさそうに毛づくろいを始めた。

マイペースな子猫を撫でてただいまと告げた後、和樹はお皿を持って二階へ上がろうとする。その時、

「毎日毎日ゲームなんて、廃人になるよ」

みのりから強い口調で非難された。

「ならねぇし」

吐き捨てるように言い返して、和樹は足音を立てながら二階へと上がる。

(何なんだよ。最近の姉ちゃんは)

なぜあんなに攻撃的になのか教えて欲しい。

小学生の時の方がまだいくらか優しかった。

僅かな怒りを抱えながら、和樹は始まった陽斗たちとのゲームに没頭する。

幸い、今日は二人がぶつかり合うこともなく、平穏にゲームを進めることができた。

和樹が抜ける時間が来た後も、進と陽斗はまだゲームを続けるというので、一抹の不安を抱えながら通話を切る。

食器を持って一階へ降りると、昨日と同じように就寝前の明美が居た。

「ツナ見に来てくれたのね。ありがとう」

「別に」

和樹は食器をシンクにつけると、ソファで眠っているツナの隣に腰かけた。

明美はすぐにリビングを出るのかと思いきや、突然「ごめんね、みのりのこと」と謝られた。

「何で母さんが謝んの?」

和樹の刺々しい口調に、明美は苦笑する。

「あの子、なんだかんだ言って親の顔色を伺う子だから、和樹に攻撃的なこと言っちゃうんだと思うわ」

それについては和樹も思うところがあったので閉口する。

反抗期と言えば聞こえは良いが、明美に最近辛く当たっていることは理解している。

みのりはそれが気に入らなくて攻撃してきているのだろうか。

「でも、和樹には和樹の世界があるでしょう。ゲームだってそう。和樹と一緒にご飯を食べられないのはお母さんも少し寂しいけど、和樹が楽しく過ごしてるならそれで良いわ」

スッキリとした顔で言い放つ明美に、和樹は少し居心地が悪くなる。

「俺だって、別に毎日――」

そこまで言って留めた。

(別に、毎日ゲームをしたいわけじゃない)

だけど、その話題についていけなくなった時が怖い。

幸い今は裕司もゲームを没収されているので、三対一になるような構図にはなっていないが、裕司が戻って来た時が怖い。

しかし、そんな思いを赤裸々に語れるはずもないので、和樹はただ口をもごもご動かしているだけになってしまう。

そんな息子の様子を見ていた明美が問いかけた。

「小学校の時に和樹を仲間外れにしてきた子と、今もゲームしてるの?」

「まさか。ほとんど学校も違うし、同中だったとしてもグループが全然違う」

「あら、そうなの。それなら良かったわ」

そう言って微笑む明美。

普段ここまで親と話すことはないので、面と向かって心配されると気恥ずかしくなった。

そしてその恥ずかしさは居心地の悪さに変わり、和樹の心に不満を生み出す。

そもそも、過去の思い出したくない出来事に触れられる時点で腹立たしいのだ。

「もういいって。早く寝れば」

和樹がぶっきらぼうに言うと、明美はなんてことない様子で続けた。

「和樹が怖がる気持ちもよくわかるけど、小学校の時の友達と中学校の時の友達は違うんでしょう?」

和樹は硬直する。

明美の言葉が何を意図しているのかすぐには理解できなかった。
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