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第二章(息子:和樹)
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和樹以外の三人が目を瞬いている。
声が震えそうになるのを堪えながら、和樹は必死に弁明した。
「いや、別にお前らとゲームするのが嫌なんじゃなくて、その、やっぱりツナの様子が気になるし、っていうか俺が全然リビングに居ないせいで、ツナから俺だけよそ者扱いされてるっていうか、そういうのも寂しいし、だからなるべくリビングで過ごそうかな、なんて」
これまでずっと押し込んできた本音を、この三人になら言ってみても良いのかもしれないと思った。
恐怖心を打ち消すようにベラベラ喋ってしまったが、三人の顔を見ることができない。
すると、進が「なるほどな」と頷いた。
「残念だけど、そりゃしょうがねぇ」
「……そうか、和樹まで」
陽斗がわかりやすく落ち込んでいる。
陽斗は家に親が居ないこともあり、四人でのゲームをとても楽しみにしてくれていたんだろう。
和樹は胸が痛んだが、進が「俺が毎日ワンダーランド・ランナーズ付き合ってやるじゃん」と体当たりした。
吹っ飛ばされた陽斗が「いってぇ」と呟く。
「あ、でも、今度また感情任せに言って来たら俺だって抜けてやるからな」
進の言葉に、陽斗は途端に顔を青くして、「わかってる。ごめん」と身を縮めた。
「その時はお前のソフト勝手に裕司に渡してやる。裕司、自由に遊んで良いぞ」
「要らねぇし。俺、あの類のゲーム好きじゃないって前言ったじゃん。もしやろうって言われても俺は遠慮しとくわ」
「えっ」
裕司のあっけらかんとした物言いに、和樹は目を見張った。
「どうした?」
訝しげな表情で裕司が和樹の方を見てくる。
「……裕司って、ワンダーランド・ランナーズ好きじゃないのか?」
「おう。なんかあのキャラデザが絶妙にムカつくのと、前に貸してもらったけどあんまり良さが理解できなかったから」
「……そうなのか」
「何で?」
質問の意図を問われ、和樹は説明を渋る。
しかし、ここで思ったことを隠せば、これまでの二の舞になる。和樹は思いのままを吐露してみることにした。
「……その、裕司が抜けた次の日、お前が持ってないソフトの話で俺たち盛り上がっただろ?仲間外れにしたみたいになったんじゃないかって思ってたから、ちょっと気になってて」
裕司は目を丸くした。
「お前、ほんと気にしいだな。あの時俺、『ワンダーランド・ランナーズの良さわかんねー』くらいしか思ってなかったぞ」
「そうそう、和樹は気にしすぎ。俺は裕司があのゲームやりたくねーっていうから、良い機会だと思って三人でやろうっつったんだよ。それは裕司だって理解してるだろ?」
「そりゃあな」
進の言葉に裕司が肩をすくめる。
進が「な?気にしすぎだって」と言いながら肩を一発叩いてきた。
「いてっ」
「俺は気にしすぎる気持ちわかるぞ、和樹」
陽斗が同情気味の目で頷く。
「お前の気にしすぎは自業自得だろうがっ。和樹と一緒にすんじゃねぇ」
「おいっ、うわああ」
進に頭をぐしゃぐしゃと乱される陽斗に、和樹は思わず吹き出す。
(そっか。俺が、勝手に怖がってただけだったんだな)
自分を仲間はずれにした過去の友人と今の友人は全く別物なのに、同じことが起きると思って身構えていた。
だから彼らの本心も聞かずに知った気になって、一人で完結してしまっていた。
「俺、お前らと友達でよかったわ」
思わずこぼれた本音に、三人が硬直する。
「どうした和樹。死ぬのか?」
「死ぬな和樹!」
冗談めかす裕司と進に、悪ノリして悲しげな顔をする陽斗。
「死なねぇよ」
抱えていた何かが消えた気がして、和樹は身軽な気持ちで笑った。
***
「おかえり和樹」
帰宅後、ツナの様子を見るために覗いたリビングでは、いつものように明美とみのりが夕飯の支度をしていた。
「……ただいま。ツナ、昨日の夜吐いてたけど、様子どうだった?」
「あら、そうだったの?今日一日中ピンピンしてたわよ」
「それなら良かったけど……」
明美と話をしながら、和樹はもはや定位置となっているソファの隅で丸まっているツナを撫でる。
確かに体調が悪そうには見えない。
みのりが食卓を拭いているのを見て、「……俺、箸出せば良い?」と問いかけた。
明美もみのりも、信じられないものでも見るかのように固まっている。
「いや、友達と相談して、ゲーム通信が週二回になったから、ご飯はこっちで食べようかと思って……」
「ふうん」
みのりはわざとらしく頷くと、「じゃ箸出してもらおっかな」と言う。
明美からの温かい視線に居心地が悪くなる。
三人で囲む食卓にわずかな違和感を覚えながらも、和樹は明美の料理に手をつけた。
食事中、和樹はほぼ明美とみのりの会話を聞いているだけだったが、二人の会話が一段落した時、和樹はずっと気になっていたことを聞いた。
「……母さんもしかして、俺がゲームに疲れてたの知ってたの?」
でなければ、昨日あんなことは言わないだろう。
「え、そうだったの?」
和樹の言葉に、明美は目を丸くする。
「え、知らなかったの?」
「うん。それは知らなかったわ。でも、和樹が目の下にクマ作ってたり、なんだか最近元気がないことくらいはわかってたわよ」
それだけの情報であの助言ができたなら大したものだ。あな恐ろしや。
「その様子を見ると、友達とはちゃんと話せたみたいね」
母の優しい眼差しに耐えられなくなって俯く。
いつもならここでぶっきらぼうに返事をして終わる。
だけど、明美の助言があったからこそ、今日和樹は友人たちと向き合うことができた。
「……母さんのおかげ」
ありがとう、までは言えなかったけど、これでも十分に勇気を振り絞った。
「どういたしまして」
その言葉がじんわりと胸にしみわたる。
その時、足元に柔らかな何かが当たった。
テーブルの下を覗き込むと、ツナが和樹の足に擦り寄っている。
これまでツナが自ら擦り寄って来てくれることはなかった。
「ついにツナも俺のこと家族って認めてくれたんだ……!」
和樹が喜んだのも束の間。
「私たちがご飯食べてる時、ツナはいつもはあんたの席座ってるの。今日はあんたがいるからその周りウロついてるだけでしょ」
みのりの辛辣な物言いに、和樹は口を半開きにして固まった。
弟のその表情を見たみのりが吹き出す。
「……まぁ、あんたがこれからここでご飯食べるようになるなら、むしろ膝上に乗って来てくれるかもね」
それは、久しぶりに見た姉の屈託のない笑顔だった。
声が震えそうになるのを堪えながら、和樹は必死に弁明した。
「いや、別にお前らとゲームするのが嫌なんじゃなくて、その、やっぱりツナの様子が気になるし、っていうか俺が全然リビングに居ないせいで、ツナから俺だけよそ者扱いされてるっていうか、そういうのも寂しいし、だからなるべくリビングで過ごそうかな、なんて」
これまでずっと押し込んできた本音を、この三人になら言ってみても良いのかもしれないと思った。
恐怖心を打ち消すようにベラベラ喋ってしまったが、三人の顔を見ることができない。
すると、進が「なるほどな」と頷いた。
「残念だけど、そりゃしょうがねぇ」
「……そうか、和樹まで」
陽斗がわかりやすく落ち込んでいる。
陽斗は家に親が居ないこともあり、四人でのゲームをとても楽しみにしてくれていたんだろう。
和樹は胸が痛んだが、進が「俺が毎日ワンダーランド・ランナーズ付き合ってやるじゃん」と体当たりした。
吹っ飛ばされた陽斗が「いってぇ」と呟く。
「あ、でも、今度また感情任せに言って来たら俺だって抜けてやるからな」
進の言葉に、陽斗は途端に顔を青くして、「わかってる。ごめん」と身を縮めた。
「その時はお前のソフト勝手に裕司に渡してやる。裕司、自由に遊んで良いぞ」
「要らねぇし。俺、あの類のゲーム好きじゃないって前言ったじゃん。もしやろうって言われても俺は遠慮しとくわ」
「えっ」
裕司のあっけらかんとした物言いに、和樹は目を見張った。
「どうした?」
訝しげな表情で裕司が和樹の方を見てくる。
「……裕司って、ワンダーランド・ランナーズ好きじゃないのか?」
「おう。なんかあのキャラデザが絶妙にムカつくのと、前に貸してもらったけどあんまり良さが理解できなかったから」
「……そうなのか」
「何で?」
質問の意図を問われ、和樹は説明を渋る。
しかし、ここで思ったことを隠せば、これまでの二の舞になる。和樹は思いのままを吐露してみることにした。
「……その、裕司が抜けた次の日、お前が持ってないソフトの話で俺たち盛り上がっただろ?仲間外れにしたみたいになったんじゃないかって思ってたから、ちょっと気になってて」
裕司は目を丸くした。
「お前、ほんと気にしいだな。あの時俺、『ワンダーランド・ランナーズの良さわかんねー』くらいしか思ってなかったぞ」
「そうそう、和樹は気にしすぎ。俺は裕司があのゲームやりたくねーっていうから、良い機会だと思って三人でやろうっつったんだよ。それは裕司だって理解してるだろ?」
「そりゃあな」
進の言葉に裕司が肩をすくめる。
進が「な?気にしすぎだって」と言いながら肩を一発叩いてきた。
「いてっ」
「俺は気にしすぎる気持ちわかるぞ、和樹」
陽斗が同情気味の目で頷く。
「お前の気にしすぎは自業自得だろうがっ。和樹と一緒にすんじゃねぇ」
「おいっ、うわああ」
進に頭をぐしゃぐしゃと乱される陽斗に、和樹は思わず吹き出す。
(そっか。俺が、勝手に怖がってただけだったんだな)
自分を仲間はずれにした過去の友人と今の友人は全く別物なのに、同じことが起きると思って身構えていた。
だから彼らの本心も聞かずに知った気になって、一人で完結してしまっていた。
「俺、お前らと友達でよかったわ」
思わずこぼれた本音に、三人が硬直する。
「どうした和樹。死ぬのか?」
「死ぬな和樹!」
冗談めかす裕司と進に、悪ノリして悲しげな顔をする陽斗。
「死なねぇよ」
抱えていた何かが消えた気がして、和樹は身軽な気持ちで笑った。
***
「おかえり和樹」
帰宅後、ツナの様子を見るために覗いたリビングでは、いつものように明美とみのりが夕飯の支度をしていた。
「……ただいま。ツナ、昨日の夜吐いてたけど、様子どうだった?」
「あら、そうだったの?今日一日中ピンピンしてたわよ」
「それなら良かったけど……」
明美と話をしながら、和樹はもはや定位置となっているソファの隅で丸まっているツナを撫でる。
確かに体調が悪そうには見えない。
みのりが食卓を拭いているのを見て、「……俺、箸出せば良い?」と問いかけた。
明美もみのりも、信じられないものでも見るかのように固まっている。
「いや、友達と相談して、ゲーム通信が週二回になったから、ご飯はこっちで食べようかと思って……」
「ふうん」
みのりはわざとらしく頷くと、「じゃ箸出してもらおっかな」と言う。
明美からの温かい視線に居心地が悪くなる。
三人で囲む食卓にわずかな違和感を覚えながらも、和樹は明美の料理に手をつけた。
食事中、和樹はほぼ明美とみのりの会話を聞いているだけだったが、二人の会話が一段落した時、和樹はずっと気になっていたことを聞いた。
「……母さんもしかして、俺がゲームに疲れてたの知ってたの?」
でなければ、昨日あんなことは言わないだろう。
「え、そうだったの?」
和樹の言葉に、明美は目を丸くする。
「え、知らなかったの?」
「うん。それは知らなかったわ。でも、和樹が目の下にクマ作ってたり、なんだか最近元気がないことくらいはわかってたわよ」
それだけの情報であの助言ができたなら大したものだ。あな恐ろしや。
「その様子を見ると、友達とはちゃんと話せたみたいね」
母の優しい眼差しに耐えられなくなって俯く。
いつもならここでぶっきらぼうに返事をして終わる。
だけど、明美の助言があったからこそ、今日和樹は友人たちと向き合うことができた。
「……母さんのおかげ」
ありがとう、までは言えなかったけど、これでも十分に勇気を振り絞った。
「どういたしまして」
その言葉がじんわりと胸にしみわたる。
その時、足元に柔らかな何かが当たった。
テーブルの下を覗き込むと、ツナが和樹の足に擦り寄っている。
これまでツナが自ら擦り寄って来てくれることはなかった。
「ついにツナも俺のこと家族って認めてくれたんだ……!」
和樹が喜んだのも束の間。
「私たちがご飯食べてる時、ツナはいつもはあんたの席座ってるの。今日はあんたがいるからその周りウロついてるだけでしょ」
みのりの辛辣な物言いに、和樹は口を半開きにして固まった。
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