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第三章(父:弘昌)
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「わかりました。私の方で修正しておきます」
弘昌は自身の席に戻って仕事を再開する。
すでに手一杯な仕事を死にもの狂いでこなし、なんとか急ぎの案件は終わらせることができた。
そしてその日の終業後のこと。
「あの、中谷さん」
退勤間際の岡田が委縮した様子で話しかけてきた。
「どうした?」
弘昌は仕事を中断して、部下の方を向く。
「今日、俺が作った資料の修正依頼が来てたって聞きました。すみません、本来なら俺がやるところなのに……」
「あぁ、気にするな。べつに岡田がミスしたわけでもないんだし、いつもギリギリで修正依頼だしてくる営業の方に問題があるから」
「でも、中谷さんだって案件けっこう抱えてたんじゃ……」
弘昌は立ち上がって岡田の肩を叩いた。
「大丈夫だ。なんだかんだ言って、急ぎの案件は終わらせられたし、大変そうな部下にさらに仕事振るほど、俺も鬼畜じゃない」
岡田はさらに申し訳なさそうに縮こまると、「すみませんでした」と一礼し、退勤した。
「……さて、と。俺も今日はこれだけ終わらせたら帰るか」
日中に急ぎの案件に心血を注いだせいで、滞っていたその他の業務を片付けなければならない。
時刻は夜の九時。
キリの良いところまで仕上げて帰るとしたら、家に着くのは十時頃か。
「はぁ」
思わずため息が漏れる。
今はもう異動しておりいないが、弘昌がこの部署に配属されたばかりの時、直属の上司が厳しい人だった。
プライベートでは怠惰でも構わないが、仕事をする上で弱音を吐くことは一切許さないというスタンスの人で、弘昌はビシバシ鍛え上げられた。
そのおかげで今、それなりの役職を与えられているが、やはり会社を出た瞬間の疲労感が尋常ではない。
職場では針に糸を通すような緊張感がずっとついて回っている。
(……やめたい。と思うほどじゃないが、やっぱりふとした瞬間にとてつもない虚脱感を覚えるな)
働いてる時は誰もがこんな感覚なのだと弘昌はつい数年前まで思っていた。
しかし、同期の小山とよく話すようになってから、緩く仕事をしている人間も居るのだと学んだ。
彼のスタイルが羨ましくないと言ったら嘘になるが、小山とはそもそも部署が違うので、自身が参考にできるものでもないと理解している。
忙しい部署にいる以上、この疲労感とはこれから先も付き合っていかなければならないのだろう。
「ただいま」
家に帰ると、昨日と同じくリビングに明かりがついていた。
「おかえり」
ソファの上であぐらをかいている和樹が、こちらを一瞥もせず言う。
その次に視界に入ったのは、テレビに映る映像だ。
恐らくゲームなのだろうが、空中に浮いた砦のようなステージで、多くのキャラが絡み合い、殴る蹴るの暴行をしている。
「うわっ、マジかそこでバリアかよ。最悪っ」
和樹はブツブツ言いながらコントローラーをカチャカチャと動かしている。
ダイニングには電気がついているが、リビングの方は電気が消えているので薄暗い。
「こんな暗いところでやったら目悪くなるぞ」
言いつつ、弘昌はリビングの方の電気をつけてやったが、和樹はゲームに夢中でうんともすんとも言わない。
以前から息子がゲームに熱中していることは知っていたが、まさかテレビゲームまでやるようになっていたとは。
おそらく毎月のお小遣いを貯めて買ったソフトなのだろう。
「まったく……」
荷物を下ろして脱衣所の方へ行こうとすると、「にゃあ」と可愛い鳴き声が足元から聞こえた。
「ツナ、ただいま」
反射的に頬を緩めて、ツナの小さな頭を撫でる。
ゴロゴロと喉を鳴らすツナに愛おしさがこみ上げる。
「お父さんちょっと着替えてくるからな。待ってるんだぞ」
脱衣所で手早く部屋着に着替えると、弘昌はツナを明美の席に乗せた。
レンジで温め直したご飯を食べながら、隣に座るツナを愛でる。
しばらくすると、ツナが明美の椅子から弘昌の膝元に乗り移る。
「今日は乗って来てくれるのか。嬉しいなぁ」
相変わらず猫用のお皿は空だったので、夕飯を食べ終えた後、キャットフードを追加してやる。
それからお風呂に浸かって、ガラス越しに座るツナを眺めて、再びリビングに戻って来る。
いつもそのくらいの時間になれば和樹も自分の部屋に上がっているのだが、今日はゲームに夢中なようで、まだリビングに残っていた。
「和樹。もう寝ろ。明日も学校だろ?」
「うーん。……あっ、くそまたやられた!」
聞いているのかいないのか。
曖昧な返事をする息子に呆れつつも、キリが良いところまでやれば満足するだろうととりあえず放置する。
普段ならツナと遊んでやる時間だが、今日は仕事が残っているのでそうもいかない。
ダイニングテーブルの上でノートパソコンを開いて持ち帰った仕事を再開する。
すると、ツナが弘昌の膝の上にちょこんと乗って来た。
「……ツナ」
あまりの可愛さに仕事を中断しそうになったが、弘昌はすぐに正気に戻った。
「ごめんな。お父さんちょっと忙しいから、こっちに居てくれるか」
そう言って明美の席に移す。
しかし、またしばらくすれば膝に乗って来た。
それを退かしては膝の上に乗られ、退かしては膝の上に乗られを何度か繰り返す。
その度に弘昌の心が痛んだが、どうしても今日中に仕事を終わらせるためには仕方がなかった。
弘昌は自身の席に戻って仕事を再開する。
すでに手一杯な仕事を死にもの狂いでこなし、なんとか急ぎの案件は終わらせることができた。
そしてその日の終業後のこと。
「あの、中谷さん」
退勤間際の岡田が委縮した様子で話しかけてきた。
「どうした?」
弘昌は仕事を中断して、部下の方を向く。
「今日、俺が作った資料の修正依頼が来てたって聞きました。すみません、本来なら俺がやるところなのに……」
「あぁ、気にするな。べつに岡田がミスしたわけでもないんだし、いつもギリギリで修正依頼だしてくる営業の方に問題があるから」
「でも、中谷さんだって案件けっこう抱えてたんじゃ……」
弘昌は立ち上がって岡田の肩を叩いた。
「大丈夫だ。なんだかんだ言って、急ぎの案件は終わらせられたし、大変そうな部下にさらに仕事振るほど、俺も鬼畜じゃない」
岡田はさらに申し訳なさそうに縮こまると、「すみませんでした」と一礼し、退勤した。
「……さて、と。俺も今日はこれだけ終わらせたら帰るか」
日中に急ぎの案件に心血を注いだせいで、滞っていたその他の業務を片付けなければならない。
時刻は夜の九時。
キリの良いところまで仕上げて帰るとしたら、家に着くのは十時頃か。
「はぁ」
思わずため息が漏れる。
今はもう異動しておりいないが、弘昌がこの部署に配属されたばかりの時、直属の上司が厳しい人だった。
プライベートでは怠惰でも構わないが、仕事をする上で弱音を吐くことは一切許さないというスタンスの人で、弘昌はビシバシ鍛え上げられた。
そのおかげで今、それなりの役職を与えられているが、やはり会社を出た瞬間の疲労感が尋常ではない。
職場では針に糸を通すような緊張感がずっとついて回っている。
(……やめたい。と思うほどじゃないが、やっぱりふとした瞬間にとてつもない虚脱感を覚えるな)
働いてる時は誰もがこんな感覚なのだと弘昌はつい数年前まで思っていた。
しかし、同期の小山とよく話すようになってから、緩く仕事をしている人間も居るのだと学んだ。
彼のスタイルが羨ましくないと言ったら嘘になるが、小山とはそもそも部署が違うので、自身が参考にできるものでもないと理解している。
忙しい部署にいる以上、この疲労感とはこれから先も付き合っていかなければならないのだろう。
「ただいま」
家に帰ると、昨日と同じくリビングに明かりがついていた。
「おかえり」
ソファの上であぐらをかいている和樹が、こちらを一瞥もせず言う。
その次に視界に入ったのは、テレビに映る映像だ。
恐らくゲームなのだろうが、空中に浮いた砦のようなステージで、多くのキャラが絡み合い、殴る蹴るの暴行をしている。
「うわっ、マジかそこでバリアかよ。最悪っ」
和樹はブツブツ言いながらコントローラーをカチャカチャと動かしている。
ダイニングには電気がついているが、リビングの方は電気が消えているので薄暗い。
「こんな暗いところでやったら目悪くなるぞ」
言いつつ、弘昌はリビングの方の電気をつけてやったが、和樹はゲームに夢中でうんともすんとも言わない。
以前から息子がゲームに熱中していることは知っていたが、まさかテレビゲームまでやるようになっていたとは。
おそらく毎月のお小遣いを貯めて買ったソフトなのだろう。
「まったく……」
荷物を下ろして脱衣所の方へ行こうとすると、「にゃあ」と可愛い鳴き声が足元から聞こえた。
「ツナ、ただいま」
反射的に頬を緩めて、ツナの小さな頭を撫でる。
ゴロゴロと喉を鳴らすツナに愛おしさがこみ上げる。
「お父さんちょっと着替えてくるからな。待ってるんだぞ」
脱衣所で手早く部屋着に着替えると、弘昌はツナを明美の席に乗せた。
レンジで温め直したご飯を食べながら、隣に座るツナを愛でる。
しばらくすると、ツナが明美の椅子から弘昌の膝元に乗り移る。
「今日は乗って来てくれるのか。嬉しいなぁ」
相変わらず猫用のお皿は空だったので、夕飯を食べ終えた後、キャットフードを追加してやる。
それからお風呂に浸かって、ガラス越しに座るツナを眺めて、再びリビングに戻って来る。
いつもそのくらいの時間になれば和樹も自分の部屋に上がっているのだが、今日はゲームに夢中なようで、まだリビングに残っていた。
「和樹。もう寝ろ。明日も学校だろ?」
「うーん。……あっ、くそまたやられた!」
聞いているのかいないのか。
曖昧な返事をする息子に呆れつつも、キリが良いところまでやれば満足するだろうととりあえず放置する。
普段ならツナと遊んでやる時間だが、今日は仕事が残っているのでそうもいかない。
ダイニングテーブルの上でノートパソコンを開いて持ち帰った仕事を再開する。
すると、ツナが弘昌の膝の上にちょこんと乗って来た。
「……ツナ」
あまりの可愛さに仕事を中断しそうになったが、弘昌はすぐに正気に戻った。
「ごめんな。お父さんちょっと忙しいから、こっちに居てくれるか」
そう言って明美の席に移す。
しかし、またしばらくすれば膝に乗って来た。
それを退かしては膝の上に乗られ、退かしては膝の上に乗られを何度か繰り返す。
その度に弘昌の心が痛んだが、どうしても今日中に仕事を終わらせるためには仕方がなかった。
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