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きっかけは些細なことであったのに
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「凄いねフランシーナ。今回も一位だ」
「ありがとうございます。エドゥアルド様」
ガラディア王立学園のエントランスロビーは、今日も生徒達で埋め尽くされている。
そんな混雑の中、フランシーナは、背後から同学年であるエドゥアルドに呼び止められた。
眩い金髪に蒼い瞳はいつ見ても爽やかで、白とエバーグリーンの制服が良く似合う。
彼は歩くだけで周りの視線を集めながら、惜しみなく清々しい笑顔を振りまいた。
「いつまでもフランシーナには勝てないな。君のような天才がいるおかげで、僕は万年二位だ」
「そんなことありません。私はエドゥアルド様と違って、勉強ばかりしているだけですから」
二人の通うガラディア王立学園では、先日実力試験が行われた。そして本日、学園のロビーにはその試験結果が貼り出されたのだ。
その一位にはフランシーナ・アントン、二位にエドゥアルド・ロブレス。
それぞれの名前が燦然と輝いている。
「こうして一位を取り続けるなんて素晴らしいことだと思うよ。そうやって卑下することないのに」
「エドゥアルド様こそ。学園の代表としてお忙しいにも関わらず学業にも手を抜かれないなんて、とても真似できません」
不動の一位と二位を誇る二人は、よそ行きの笑顔を作り、お互いを讃え合った。いつものことである。
名門ロブレス侯爵家嫡男であるエドゥアルド・ロブレスは、常に周りからの注目を集める人だった。
文武両道、容姿端麗。おまけに親しみやすい雰囲気も相まって、人望も厚い。
ゆえにガラディア王立学園では生徒代表として活躍し、周りからの期待を裏切らない。そんな男だ。
一方、フランシーナはアントン伯爵家の長女で、典型的な真面目女子である。
エドゥアルドはあのようにフォローしてくれたけれど、勉強だけが取り柄であることは本当だ。
まっすぐな黒髪は一つにまとめ、化粧も最低限のリップクリームのみ。愛想も無くひたすら勉強にうちこむ姿を『つまらない奴』だと囁かれていることも知っている。
その取り柄である勉強だって、毎日こつこつと努力し続けることで、成績一位の座を死守しているだけ。
それもこれも、将来は城に務める事務官になりたいという夢のためだった。
フランシーナにとって、事務官は幼い頃からの憧れであった。狭き門とは知っているもののどうしても夢を諦めきれなくて、日々勉強に明け暮れている。
こうして勉強しかしてこなかった自分と、忙しい学園生活の傍らで好成績を修め続けるエドゥアルド。
比べれば、どちらが凄いかだなんて一目瞭然である。
フランシーナは試験の順位こそ一位であるけれど、立派過ぎる彼の前ではついつい自分を卑下してしまう。
「いつかエドゥアルド様になら、一位の座を取られてしまうかもしれませんね」
「いや、何度考えても分からない問題があったんだ。あれは君にしか解けないよ」
「どの問題ですか?」
「最後にあった、あの――」
「ああ! あれですね!」
最後に待ち構えていた、あの問題のことだ。
わざわざ生徒が混乱するような小細工がされた、とってもいやらしい問題だった。フランシーナの脳裏には、出題者であるゲオルグ先生のほくそ笑みが目に浮かぶ。
エドゥアルドが頭を悩ませるのも当たり前なのだ。とてつもなく意地悪な問題だったから。
フランシーナだってあの問題を解けたのは制限時間ギリギリのところで、果たしてそれが正解かも分からぬまま終わってしまった。
だから今日、一位に記された自身の名を見て、人知れずホッとしていたのだ。
試験が終わってからもあの問題で悩み続ける彼に、同情してしまう。さぞ悶々としていることだろう。
「あの問題は酷かったですよね。よろしければ、教えて差し上げますよ」
「……いいの?」
「ええ勿論。あれはまず――」
フランシーナはロビー脇のソファまでエドゥアルドを誘導すると、メモとペンを取り出した。
そして順を追って解き方のコツを説明していく。
隣では飲みこみの良いエドゥアルドが「そうか」「なるほど」と相槌を打ちながら、フランシーナの解説に耳を傾けた。
「――以上です。分かりましたか?」
ひと通り説明を終えたフランシーナがサッと顔を上げると、エドゥアルドの瞳とぶつかった。
どうやら彼はメモでなく、フランシーナの横顔を見ていたようで。
これは……説明に疑問でもあったのだろうか?
「エドゥアルド様? なにか?」
「……ああ、ありがとうフランシーナ。謎が解けてスッキリしたよ」
「それは良かったです」
「これからも勉強を教えてくれると嬉しいな」
エドゥアルドは白い歯を輝かせ、にこにこと笑っている。
ゲオルグ先生の問題を解けたことがそんなに嬉しかったのだろうか。
「わ、分かりました。私でよろしければ」
(まあ、こんなことで良いのなら……)
そう言われても、ゲオルグ先生だって、そう何度もあんな難問を出題したりはしないだろう。
フランシーナはとりあえず曖昧な返事をすると、ロビーのソファを後にした。
「ありがとうございます。エドゥアルド様」
ガラディア王立学園のエントランスロビーは、今日も生徒達で埋め尽くされている。
そんな混雑の中、フランシーナは、背後から同学年であるエドゥアルドに呼び止められた。
眩い金髪に蒼い瞳はいつ見ても爽やかで、白とエバーグリーンの制服が良く似合う。
彼は歩くだけで周りの視線を集めながら、惜しみなく清々しい笑顔を振りまいた。
「いつまでもフランシーナには勝てないな。君のような天才がいるおかげで、僕は万年二位だ」
「そんなことありません。私はエドゥアルド様と違って、勉強ばかりしているだけですから」
二人の通うガラディア王立学園では、先日実力試験が行われた。そして本日、学園のロビーにはその試験結果が貼り出されたのだ。
その一位にはフランシーナ・アントン、二位にエドゥアルド・ロブレス。
それぞれの名前が燦然と輝いている。
「こうして一位を取り続けるなんて素晴らしいことだと思うよ。そうやって卑下することないのに」
「エドゥアルド様こそ。学園の代表としてお忙しいにも関わらず学業にも手を抜かれないなんて、とても真似できません」
不動の一位と二位を誇る二人は、よそ行きの笑顔を作り、お互いを讃え合った。いつものことである。
名門ロブレス侯爵家嫡男であるエドゥアルド・ロブレスは、常に周りからの注目を集める人だった。
文武両道、容姿端麗。おまけに親しみやすい雰囲気も相まって、人望も厚い。
ゆえにガラディア王立学園では生徒代表として活躍し、周りからの期待を裏切らない。そんな男だ。
一方、フランシーナはアントン伯爵家の長女で、典型的な真面目女子である。
エドゥアルドはあのようにフォローしてくれたけれど、勉強だけが取り柄であることは本当だ。
まっすぐな黒髪は一つにまとめ、化粧も最低限のリップクリームのみ。愛想も無くひたすら勉強にうちこむ姿を『つまらない奴』だと囁かれていることも知っている。
その取り柄である勉強だって、毎日こつこつと努力し続けることで、成績一位の座を死守しているだけ。
それもこれも、将来は城に務める事務官になりたいという夢のためだった。
フランシーナにとって、事務官は幼い頃からの憧れであった。狭き門とは知っているもののどうしても夢を諦めきれなくて、日々勉強に明け暮れている。
こうして勉強しかしてこなかった自分と、忙しい学園生活の傍らで好成績を修め続けるエドゥアルド。
比べれば、どちらが凄いかだなんて一目瞭然である。
フランシーナは試験の順位こそ一位であるけれど、立派過ぎる彼の前ではついつい自分を卑下してしまう。
「いつかエドゥアルド様になら、一位の座を取られてしまうかもしれませんね」
「いや、何度考えても分からない問題があったんだ。あれは君にしか解けないよ」
「どの問題ですか?」
「最後にあった、あの――」
「ああ! あれですね!」
最後に待ち構えていた、あの問題のことだ。
わざわざ生徒が混乱するような小細工がされた、とってもいやらしい問題だった。フランシーナの脳裏には、出題者であるゲオルグ先生のほくそ笑みが目に浮かぶ。
エドゥアルドが頭を悩ませるのも当たり前なのだ。とてつもなく意地悪な問題だったから。
フランシーナだってあの問題を解けたのは制限時間ギリギリのところで、果たしてそれが正解かも分からぬまま終わってしまった。
だから今日、一位に記された自身の名を見て、人知れずホッとしていたのだ。
試験が終わってからもあの問題で悩み続ける彼に、同情してしまう。さぞ悶々としていることだろう。
「あの問題は酷かったですよね。よろしければ、教えて差し上げますよ」
「……いいの?」
「ええ勿論。あれはまず――」
フランシーナはロビー脇のソファまでエドゥアルドを誘導すると、メモとペンを取り出した。
そして順を追って解き方のコツを説明していく。
隣では飲みこみの良いエドゥアルドが「そうか」「なるほど」と相槌を打ちながら、フランシーナの解説に耳を傾けた。
「――以上です。分かりましたか?」
ひと通り説明を終えたフランシーナがサッと顔を上げると、エドゥアルドの瞳とぶつかった。
どうやら彼はメモでなく、フランシーナの横顔を見ていたようで。
これは……説明に疑問でもあったのだろうか?
「エドゥアルド様? なにか?」
「……ああ、ありがとうフランシーナ。謎が解けてスッキリしたよ」
「それは良かったです」
「これからも勉強を教えてくれると嬉しいな」
エドゥアルドは白い歯を輝かせ、にこにこと笑っている。
ゲオルグ先生の問題を解けたことがそんなに嬉しかったのだろうか。
「わ、分かりました。私でよろしければ」
(まあ、こんなことで良いのなら……)
そう言われても、ゲオルグ先生だって、そう何度もあんな難問を出題したりはしないだろう。
フランシーナはとりあえず曖昧な返事をすると、ロビーのソファを後にした。
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