完全無欠な学園の貴公子は、夢追い令嬢を絡め取る

小桜

文字の大きさ
1 / 28

きっかけは些細なことであったのに

しおりを挟む
「凄いねフランシーナ。今回も一位だ」
「ありがとうございます。エドゥアルド様」

 ガラディア王立学園のエントランスロビーは、今日も生徒達で埋め尽くされている。

 そんな混雑の中、フランシーナは、背後から同学年であるエドゥアルドに呼び止められた。
 
 眩い金髪に蒼い瞳はいつ見ても爽やかで、白とエバーグリーンの制服が良く似合う。
彼は歩くだけで周りの視線を集めながら、惜しみなく清々しい笑顔を振りまいた。

「いつまでもフランシーナには勝てないな。君のような天才がいるおかげで、僕は万年二位だ」
「そんなことありません。私はエドゥアルド様と違って、勉強ばかりしているだけですから」
   
 二人の通うガラディア王立学園では、先日実力試験が行われた。そして本日、学園のロビーにはその試験結果が貼り出されたのだ。

 その一位にはフランシーナ・アントン、二位にエドゥアルド・ロブレス。
それぞれの名前が燦然と輝いている。

「こうして一位を取り続けるなんて素晴らしいことだと思うよ。そうやって卑下することないのに」
「エドゥアルド様こそ。学園の代表としてお忙しいにも関わらず学業にも手を抜かれないなんて、とても真似できません」 
 
 不動の一位と二位を誇る二人は、よそ行きの笑顔を作り、お互いを讃え合った。いつものことである。
 
 名門ロブレス侯爵家嫡男であるエドゥアルド・ロブレスは、常に周りからの注目を集める人だった。
 文武両道、容姿端麗。おまけに親しみやすい雰囲気も相まって、人望も厚い。
 ゆえにガラディア王立学園では生徒代表として活躍し、周りからの期待を裏切らない。そんな男だ。
 
 一方、フランシーナはアントン伯爵家の長女で、典型的な真面目女子である。
 エドゥアルドはあのようにフォローしてくれたけれど、勉強だけが取り柄であることは本当だ。
 まっすぐな黒髪は一つにまとめ、化粧も最低限のリップクリームのみ。愛想も無くひたすら勉強にうちこむ姿を『つまらない奴』だと囁かれていることも知っている。
 
 その取り柄である勉強だって、毎日こつこつと努力し続けることで、成績一位の座を死守しているだけ。
 それもこれも、将来は城に務める事務官になりたいという夢のためだった。

 フランシーナにとって、事務官は幼い頃からの憧れであった。狭き門とは知っているもののどうしても夢を諦めきれなくて、日々勉強に明け暮れている。

 こうして勉強しかしてこなかった自分と、忙しい学園生活の傍らで好成績を修め続けるエドゥアルド。
 比べれば、どちらが凄いかだなんて一目瞭然である。

 フランシーナは試験の順位こそ一位であるけれど、立派過ぎる彼の前ではついつい自分を卑下してしまう。

「いつかエドゥアルド様になら、一位の座を取られてしまうかもしれませんね」
「いや、何度考えても分からない問題があったんだ。あれは君にしか解けないよ」
「どの問題ですか?」
「最後にあった、あの――」
「ああ! あれですね!」

 最後に待ち構えていた、あの問題のことだ。

 わざわざ生徒が混乱するような小細工がされた、とってもいやらしい問題だった。フランシーナの脳裏には、出題者であるゲオルグ先生のほくそ笑みが目に浮かぶ。
 
 エドゥアルドが頭を悩ませるのも当たり前なのだ。とてつもなく意地悪な問題だったから。

 フランシーナだってあの問題を解けたのは制限時間ギリギリのところで、果たしてそれが正解かも分からぬまま終わってしまった。
 だから今日、一位に記された自身の名を見て、人知れずホッとしていたのだ。
 
 試験が終わってからもあの問題で悩み続ける彼に、同情してしまう。さぞ悶々としていることだろう。

「あの問題は酷かったですよね。よろしければ、教えて差し上げますよ」
「……いいの?」
「ええ勿論。あれはまず――」

 フランシーナはロビー脇のソファまでエドゥアルドを誘導すると、メモとペンを取り出した。
 そして順を追って解き方のコツを説明していく。

 隣では飲みこみの良いエドゥアルドが「そうか」「なるほど」と相槌を打ちながら、フランシーナの解説に耳を傾けた。

「――以上です。分かりましたか?」
 
 ひと通り説明を終えたフランシーナがサッと顔を上げると、エドゥアルドの瞳とぶつかった。
 どうやら彼はメモでなく、フランシーナの横顔を見ていたようで。

 これは……説明に疑問でもあったのだろうか?

「エドゥアルド様? なにか?」
「……ああ、ありがとうフランシーナ。謎が解けてスッキリしたよ」
「それは良かったです」
「これからも勉強を教えてくれると嬉しいな」
 
 エドゥアルドは白い歯を輝かせ、にこにこと笑っている。
 ゲオルグ先生の問題を解けたことがそんなに嬉しかったのだろうか。

「わ、分かりました。私でよろしければ」
 
(まあ、こんなことで良いのなら……)

 そう言われても、ゲオルグ先生だって、そう何度もあんな難問を出題したりはしないだろう。

 フランシーナはとりあえず曖昧な返事をすると、ロビーのソファを後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚した。これは金が欲しい父の思惑と、高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない。 そもそもヴィンセントには恋人がいて、その恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ。 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら屋に住むように言われて…… 表紙はかなさんのファンアートです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

無臭の公爵様は香りの令嬢を手放さない~契約婚約のはずが、私の香りで極甘に覚醒しました!?~

黒崎隼人
恋愛
前世で香水の研究員だった記憶を持つ見習い調香師のリリアーナ。 彼女の持つ特別な能力は、眠ると「運命の相手の香り」を夢で予知できること。 ある日、王命によってクロフォード公爵エリオットの元へ派遣される。 彼はあらゆる香りを拒絶する特異体質で、常に無表情な「鉄仮面公爵」として恐れられていた。 しかも、彼自身からは何の匂いもしない「無臭」だった。 リリアーナの作る自然な香りだけがエリオットの痛みを和らげることが判明し、二人は体質改善のための「偽りの契約婚約」を結ぶことに。 一緒に過ごすうち、冷徹だと思っていたエリオットの不器用な優しさに触れ、リリアーナは少しずつ心を開いていく。 そして、彼女の調合した「解毒の香り」が、公爵の体に隠された恐ろしい呪いと陰謀を解き明かし――!? 匂いを感じない公爵が、やがて愛しい人の香りに目覚め、極上の溺愛を見せる。 香りに導かれた二人が紡ぐ、甘く切ない異世界ラブファンタジー!

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

処理中です...