ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~

小桜

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道具屋の分際で

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「うそ……一緒に住んでるの……?」

 ビオレッタが振り向くと、そこには妖艶過ぎる赤髪美女が立っていた。
 一応服を纏ってはいるが、豊満なスタイルが隠しきれていない。大きく開いた胸元に、きわどいスリットの入ったタイトなドレス。敢えて、その肉体を隠そうとしていないのか……免疫の無いビオレッタは、思わず顔を赤らめた。

「ビオレッタちゃん、もうラウレルと結婚したの!? ほんとあいつ信じらんない……」

 赤髪美女は、この村では見たこともないような細いヒール靴でカツカツと歩み寄ると、ビオレッタに詰め寄った。
 その勢いに圧倒されてしまう。なぜ、こちらの名前も求婚されていることも知っているのだろう?

「いえ、結婚なんてしてません。それよりも、なぜその事をご存知なのですか」
「でもここで一緒に暮らしてるんでしょ~? あいつ何でも早すぎるのよ!」

 話はよく見えないけれど、赤髪美女はラウレルのことを「あいつ」などと呼ぶ。随分親しい間柄のようだ。やはり、胸がチクチクと痛む。

 目の前のこの人をまじまじと見た。
 凹凸のある女性的な身体、バッチリと化粧も施された魅惑的な顔、手入れの行き届いた美しい指……
 ビオレッタは思わず、薬草の臭いが染み付いた自分の指先を後ろに隠した。

 

「ビオレッタちゃんはラウレルのことどう思う? あいつ――」
「声が村中に筒抜けだよ」

 いつの間にか、裏口にラウレルが立っていた。 
 その顔は少し険しくて、ビオレッタにとって初めて見る表情だった。彼は早足でこちらに歩み寄ると、ビオレッタと彼女の間に割って入る。

「カメリア、もっと声を抑えることは出来ないの? ビオレッタさんが怯える」
「ごめーん、だってもうひとつの予知夢も当たったか気になっちゃったんだもの」

 カメリア。ラウレルが呼び捨てにした、それが彼女の名前。
 なるほど、とっても親しいようだ。ビオレッタよりもずっと、ラウレルのことをよく知っている様子だった。もちろん予知夢のことだって。

「ビオレッタさん、彼女はカメリア。こう見えても手練れの魔法使いで、魔王討伐の仲間だったんです」
「えっ!」
「こう見えてもって何よ、失礼ね」

 なんと彼女は魔王を倒したパーティーのうちの一人だという。
 以前彼らがグリシナ村へ立ち寄った時に、こんな美女いただろうか……と思ったけれど。カメリアは魔法使いらしく真っ黒なローブを着ていたらしかった。分かるはずもない。

 となるとラウレルとカメリアは、世界中を一緒に回り、苦楽を共にした仲間だ。ビオレッタよりも親しくて当然だった。

「存じ上げず失礼いたしました、カメリア様。このたびは世界に平和をもたらして下さり、ありがとうございました」

 ビオレッタはカメリアに向き合い、深々と頭を下げた。
 嫉妬を先走らせた自分が恥ずかしい。

「いいのよお。こうやってビオレッタちゃんとラウレルが一緒に暮らせる世界になって、私は本当に嬉しいんだから」

 勇者は結婚なんて、魔王を倒さない限り出来ないからね、とカメリアがケラケラ笑った。そんな彼女を見て、ラウレルは眉間にシワを寄せている。

「カメリア、からかいに来ただけなら帰ってくれる?」
「何つめたいこと言ってるのよお」

 二人の仲は良いが、それ以上の関係では無さそうだ。
 
 (よかった……)
 
 二人の口喧嘩を聞き流しながら、ビオレッタは誤魔化しきれない自分の気持ちを自覚した。
 ビオレッタよりもラウレルと親しいカメリアに、嫉妬していた。二人が特別な関係ではないと分かって、ほっとした。

 (私は……)

 ただの道具屋の分際で。
 いつの間にか、勇者ラウレルに恋をしてしまっている。



 様子のおかしいビオレッタに気付いたカメリアが、いいことを思い付いたようにウインクをした。

「ビオレッタちゃん、ラウレルのこともっと知りたくない? いろいろ教えてあげるわよ」
「ビオレッタさんに余計なこと言うなよ」
「ラウレルったら邪魔ね。ささ、ビオレッタちゃん行きましょ」

 そう言うなり、カメリアはビオレッタをぎゅっと抱きしめた。
 瞬間、二人がまばゆく輝きだす。

「カ、カメリア様! これもしかして」

 もしかしなくとも、これは転移魔法である。
 ビオレッタの戸惑いをよそに、光はどんどん大きくなる。

「おい! カメリア!!」
「ビオレッタちゃん、私と女子会しましょ」

 ビオレッタはカメリアに抱かれ、巻き上がる風とともにふわりと宙に浮いた。室内は白い光に包まれ……


「ビオレッタさん――!」

 道具屋には、ラウレルだけが取り残されたのだった。
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