ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~

小桜

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カタラータ神殿①

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 眩しさと浮遊感がおさまり、足が地に着く。

 柔らかな芝の感触。かぐわしい花の香り。
 そして腕にあたるふくよかな肉感。



 ビオレッタはカメリアの豊満な身体に抱かれたまま、花が咲きほこる美しい庭に降り立った。
 あたりを見回すと、広大な庭の遥か向こうには大きな滝が流れ落ち、そのそばに真っ白な神殿が佇んでいる。まるで楽園のような美しい場所だ。

「ここは……どこですか」
「カタラータ神殿よ。私、今はここに住んでるの」
「この世では無いみたいです……なんてきれいな場所なんでしょう」
「そうでしょ? ラウレルはここに来たことがないから、転移魔法でも追ってこれないわよ。安心して」

 カメリアは子供に接するように、ビオレッタの頭を優しく撫でた。
 確かに彼女のほうが年上のようだが、ビオレッタももう十八歳。子供扱いされると少し気恥ずかしい。

「あ、あの……?」
「ビオレッタちゃん、なんかラウレルに我慢してる感じだったから、もどかしくて連れてきちゃった」
「我慢?」
「ラウレルは、全っ然遠慮しない奴でしょ? でもビオレッタちゃんは遠慮しちゃう子。私、そういうの敏感なの」

 カメリアからは、ビオレッタが遠慮しているように見えるらしい。

(遠慮……しているかしら? ラウレル様に?)

 ピンと来なくて、ビオレッタは首を傾げる。

「遠慮なんて、してないのですが。逆に甘えてばかりで……」
「してるしてる。ラウレルのこと好きって言えないんでしょ?」
「えっ!」

 なんとカメリアに当てられてしまった。
 誰からも隠しておきたかった気持ちなのに。

「好きだけど、ラウレルが『勇者様』だから好きって言えないんでしょ? きっと、姫との縁談のことも聞いたのね」
「な、なんで……」

 ビオレッタ自身でさえ、この恋心に気づいたのはつい先ほどだ。
 なのになぜ一瞬会っただけのカメリアに分かってしまったのだろう。
 
「会ったときの二人を見て、まだラウレルの片思いっぽい感じはしたの。でもビオレッタちゃんが私に嫉妬してるのも、なんとなく分かったから」

 顔に血が上る。
 まさか、嫉妬に気付かれていたなんて。




 カメリアは、庭のテラスにお茶を用意してくれた。
 テラスからは、虹のかかる滝がよく見える。

「きれいですね……ずっと虹がかかっていて」
「あの滝は、このカタラータ神殿のシンボルなの。この地方では、虹のかかるものに神が宿ると言われていてね――」

 同世代の友人がいなかったビオレッタにとって、こうして女同士でお茶を飲むことは初めてだった。
 ホッとするお茶の香りが全身に染み渡る。頭上からは鳥がさえずり、木の葉が囁く。辺りに流れる清廉な空気に、やっとビオレッタも落ち着いてきた。

「私……カメリア様に嫉妬してしまって、やっと気付いたんです。ラウレル様への気持ちに」

 ビオレッタは胸の内を正直に話した。
 このような話を他人に打ち明けるのは初めてだった。あけすけなカメリアだったから話せたのかもしれない。

「でも、ラウレル様は勇者様です。オルテンシアのお姫様とのご結婚があります。そのような方を、グリシナ村のような狭い世界に縛るわけにはいかないと、分かってはいるのです」

 短い間ではあるが、ラウレルと一緒に過ごして思い知った。彼と自分の違いを。

 ラウレルはただ魔王を倒しただけではない。国から国を渡り歩いて、広く影響を与えてきた唯一の人だ。勇者として、王族から……世界中の人から必要とされている。

 一方、ビオレッタはただ狭い村で毎日同じことを繰り返してきただけの人間だった。彼は、自分のような者が独り占めしていい存在ではないのだ。


「いずれ、この生活には終わりが来ると思っています。だから私の気持ちは、隠しておくべきだと……」
「とは言ってもね……あいつは諦めないよ。予知夢通りにビオレッタちゃんと結婚したくてしょうがなくて、魔王倒したくらいだから」
「ええっ!?まさかそんな」

 ビオレッタなんて、ただの道具屋だ。たった一度、予知夢に登場しただけで、なぜそれほどまで結婚を望まれるのかが分からない。

「ラウレル様は何故そんなに予知夢にこだわるのでしょうか……」
「だって、好きになった子と結婚している未来を見ちゃったんだもの。予知夢を信じたくもなるわよ」

(……ん?)

 ビオレッタの認識と、カメリアの言っていることが噛み合わない。

「順番が逆では? 予知夢に私が現れたから、ラウレル様は私を選んだのでは?」
「違うわよお。あいつ、好きな子が予知夢に現れたもんだから、大喜びで予知夢を信じたのよ」

(どういうこと……?)

 
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