ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~

小桜

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グリシナの浜辺①

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 プラドのバザールへ行ったその翌日。ビオレッタは、積まれていた箱の山に手をつけた。

 大小積み重なる木箱、それらはすべてプラドのバザールで商人達から贈られたものだ。
 彼らからの贈り物は、指輪以外にもこんなに沢山……並べていると、道具屋のカウンターを占領してしまうほど。

 謎のスパイスやお茶などの食品は、ラウレルに使い方を教えてもらいながら少しずつ使っていくとして……
 鮮やかな異国の壁飾りは、自室に飾ることにした。
 木彫りの置物は、道具屋のカウンター脇に置いてみる。
 緻密な細工の骨董品は、普段使いが出来そうもないので宝物としてしまっておく。

(あと、使えないものといえば、これね……)

 彼等からの贈り物には、シルクのドレスや、豪奢なネックレスなどまで混ざっている。グリシナ村では見ることも出来ないような美しいものだ。

 しかしこのように高価なもの、グリシナ村のような田舎にいては一体いつ身につけることができるだろうか。もしかしたら、一生着る機会は無いかもしれない。

 せっかく贈られたものなのに勿体ない……とは思いつつ、ドレスとネックレスも大切にクローゼットへ眠らせる。


「ビオレッタさん、何してるんですか?」
「あ、ラウレル様おかえりなさい」

 贈り物の扱いに悩みつつ片付けていたところに、ラウレルが帰ってきた。
 今日も村のみんなから仕事を頼まれては、あちこちで働いてきたようだ。

「昨日頂いた贈り物を整理していたのです。本当に珍しいものばかり頂いて……」
「確かドレスとネックレスもありましたよね? 時が来るまで大切にしまっておいてくださいね」
「え? ええ、もちろん大切にしますが」

(時が来るまで?)

 一体何の?
 よく分からないが、あれはラウレルが念を押すほど大切なものらしい。もしかすると、ビオレッタが想像する以上に高価なものなのかもしれない。

「それはそうと、お疲れ様でした。みんな次々と仕事を頼むから大変だったでしょう」
「いえ、そんなには。でも暑かったですね、ずっと太陽が出ていましたから……」
 
 仕事を終えたラウレルは汗だくだ。たった今も、彼の頬からは一筋の汗が流れ落ちた。よっぽど暑かったのだろう、よく見てみると服が汗で透けている。
 
「すごい汗……もしよろしければ、水浴びにでも行きますか?」
「水浴び?」
「暑い日は、皆よく海へ行きますよ。私も、砂浜くらいならご一緒に――」
「行きます!」

 ラウレルは食い気味に返事をした。
 ただ何気なく砂浜へ誘っただけなのに、なんて嬉しそうな顔をするのだろう。

「これはデートですね!」
「ち、違います。私は砂浜へリヴェーラの石を採取しに行くだけで」
「それでも、ビオレッタさんから誘ってくれるなんて嬉しいです」
 
 さっそく行きましょうと、ラウレルに手を取られた。
 彼はなんでも行動が早い。ビオレッタは準備をする間もなく、グリシナの浜辺へと出発したのだった。






「ビオレッタさーん」

 青く澄んだ海から、ラウレルが大きく手を振っている。
 もう片方の手には大きな魚。まさか素手で魚を捕まえたというのか、彼は。
 ビオレッタは驚きつつ、手を振って彼の笑顔に応えた。

 砂浜へ着くなり服を脱ぎ捨て、ズボン一枚になって泳ぎ回る姿は、まるで無邪気な子供のようだ。勇者ともなると、泳ぐのも上手なのだな……と彼を見ながらぼんやりと思う。

 ビオレッタ自身、海へ来るのは久しぶりだ。
 砂浜までは歩いて数分ではあるのだが、釣りや水浴びなどの目的がない限り、地元の人間はなかなか来ない。

 足元を見下ろすと、砂浜には稀にリヴェーラの石が落ちていた。ビオレッタの目的といえばこちらだ。
 乳白色に透き通った綺麗な石は、光に反射して見つけやすい。ラウレルが泳いでいる間、形が綺麗なものをひとつひとつ見つけては、ポケットに入れていった。
 
(こんなに綺麗で、付加価値もあるのだけど……あまり売れないのよね)

 まあ、売れないのはリヴェーラの石に限らないけれど。

 道具屋では、リヴェーラの石以外にも薬草や傷薬、グリシナの水などを売っていた。
 父や母が健在であった頃から変わらない堅実な品揃えだ。
 生まれてからずっと、道具屋の商品とはこのようなものだと思っていたけれど……最近はまったく売れない。

 昨日、バザールの素晴らしい品揃えを目の当たりにしたことで、ビオレッタには急に道具屋が色褪せて見えた。
 華やかなバザールに比べ、地味で、品数も少なくて、面白味がなくて……客が来なくても仕方がない。

 比べてしまうと、ついつい気持ちが暗くなる。
 片田舎の道具屋が、バザールのようにはいかないと分かっているけれど――



「それ、綺麗ですよね」

 隣には、いつの間にか海から上がったラウレルがしゃがんでいた。
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