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プラドのバザール③
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金に輝く、美しい指輪。
「とても綺麗です……私、こんな綺麗なもの初めて見ました」
「そうでしょう、美しいでしょう」
ビオレッタのうっとりとした表情に、商人も満足げに頷いている。
「それでは勇者様。おまけしますから、こちらをお嬢さんに贈られてはいかがですか」
「良い指輪ですね、そうしましょう。ではビオレッタさん、これを指に」
「えっ……!」
指輪を売り込む商人に、なんとラウレルは即決してしまった。いくらするかも分からない指輪を、当たり前のように買おうとしている。
「駄目です、ラウレル様! こんな高価なものいただけません」
ビオレッタが断ると、指輪の商人も負けじと口を開く。
「それでは、勇者様からお代はいただきません。ですからお嬢さん、この指輪を指に」
(な、なぜ……?)
この商人は、こんな高価なものをタダでビオレッタに贈ると言う。
初対面の商人からそんな贈り物をされる意味が分からず、ますます受け取れないで尻込みしていると、
「それではうちからはこの金の首飾りを」
「私はこちらのシルクを」
「このペアの食器も」
あっという間に他の商人達からも品物を持ち込まれ、ビオレッタの両手には贈り物が積み上げられてしまった。
左手の指には、いつの間にか先程の指輪もはめ込まれている。
困った、どうすれば。
ビオレッタは再び助けを求めて、ラウレルを見る。
「これは……断っては、逆に失礼です。ここはいただいておきましょう」
ラウレルはビオレッタに耳打ちをした。
確かにこの雰囲気の中、断っては……
「み、皆様、ありがとうございます。とてもうれしいです」
ビオレッタが感謝の気持ちを込めて深く頭を下げると、彼らからふたたび歓声が上がった。
商人達の輪を抜けて二人きりになってから、ラウレルが教えてくれた。
「以前、プラド近くに出現したモンスターを討伐したことがあったのですよ」
商売の街プラドは、言わずもがな商人達の要所である。
しかし以前、プラドへ通ずる草原にモンスターが巣食い、行商人が襲われる事件が多発したのだった。
草原には危険が伴い、行商人達は足止めをくらう。そのためバザールが開けない――皆が困っていたところを、たまたまラウレル達勇者一行がやって来た。
そしてモンスターの巣を見つけ、あっさりと倒してしまったのだった。
それ以来、プラドの商人達はラウレル達に恩を感じているのだという。
「皆、俺のためを思って……良い人達ばかりなのです。ビオレッタさんもどうか気を悪くしないで」
「大丈夫です、圧倒されただけで……もっとバザールを見てみたいですが、いいですか?」
「もちろんです!」
そしてラウレルは商人達からの贈り物と同じくらい、彼等から品物を買った。
布、スパイス、置物……どれもグリシナ村には無いような珍しいものばかりだ。
二人はたっぷりと時間をかけて、プラドのバザールを隅々まで歩いたのだった。
牛の鳴き声。ザザザ……と寄せる波の音。
まばゆい光が徐々に収まる。
「ビオレッタさん、着きましたよ」
ラウレルの声を合図に目を開けると、そこは夕暮れのグリシナ村だった。
二人は両手いっぱいに品物を抱え、村の入り口に立っている。
「帰って……きたのですね」
一日中プラドのバザールを歩き回り、ビオレッタの身体はくたくただった。楽しすぎて、少々はしゃぎすぎてしまったかもしれない。
今日は初めて見るものばかりだった。
金や銀の食器、色とりどりの宝石、奇妙な銅像、異国の武器……見るものだけではない、触れるもの、香りまでもが新鮮で。
「つい楽しくて、沢山買ってしまいましたね」
「ラウレル様も楽しかったのですね。私だけがはしゃいでいた訳ではなくてよかったです」
「当たり前ですよ! きっと、ビオレッタさんが想像しているよりもっと――俺は今日が楽しかった」
ふと、荷物を持つ彼の手を見ると、その指にもビオレッタと同じ金の指輪。石の色は透明な紫。
「ラウレル様、その指輪は」
「ああ、例の商人が俺にも贈ってくれたんです。せっかくなので身に付けましょうね、ビオレッタさん」
「は、はい……?」
グリシナ村育ちのビオレッタは知らなかった。
商人がわざわざ『金』に『蒼』の指輪をビオレッタに贈った、その意味を。『紫』の石をラウレルが身に付ける、そのわけを。
ビオレッタは顔の前に手を広げ、しげしげと眺める。
生まれて初めての指輪をはめた自分の指は、なんだか自分の指ではない様で少し気恥ずかしい。
そんな彼女を、ラウレルの蒼い瞳が満足そうに見つめていた。
「とても綺麗です……私、こんな綺麗なもの初めて見ました」
「そうでしょう、美しいでしょう」
ビオレッタのうっとりとした表情に、商人も満足げに頷いている。
「それでは勇者様。おまけしますから、こちらをお嬢さんに贈られてはいかがですか」
「良い指輪ですね、そうしましょう。ではビオレッタさん、これを指に」
「えっ……!」
指輪を売り込む商人に、なんとラウレルは即決してしまった。いくらするかも分からない指輪を、当たり前のように買おうとしている。
「駄目です、ラウレル様! こんな高価なものいただけません」
ビオレッタが断ると、指輪の商人も負けじと口を開く。
「それでは、勇者様からお代はいただきません。ですからお嬢さん、この指輪を指に」
(な、なぜ……?)
この商人は、こんな高価なものをタダでビオレッタに贈ると言う。
初対面の商人からそんな贈り物をされる意味が分からず、ますます受け取れないで尻込みしていると、
「それではうちからはこの金の首飾りを」
「私はこちらのシルクを」
「このペアの食器も」
あっという間に他の商人達からも品物を持ち込まれ、ビオレッタの両手には贈り物が積み上げられてしまった。
左手の指には、いつの間にか先程の指輪もはめ込まれている。
困った、どうすれば。
ビオレッタは再び助けを求めて、ラウレルを見る。
「これは……断っては、逆に失礼です。ここはいただいておきましょう」
ラウレルはビオレッタに耳打ちをした。
確かにこの雰囲気の中、断っては……
「み、皆様、ありがとうございます。とてもうれしいです」
ビオレッタが感謝の気持ちを込めて深く頭を下げると、彼らからふたたび歓声が上がった。
商人達の輪を抜けて二人きりになってから、ラウレルが教えてくれた。
「以前、プラド近くに出現したモンスターを討伐したことがあったのですよ」
商売の街プラドは、言わずもがな商人達の要所である。
しかし以前、プラドへ通ずる草原にモンスターが巣食い、行商人が襲われる事件が多発したのだった。
草原には危険が伴い、行商人達は足止めをくらう。そのためバザールが開けない――皆が困っていたところを、たまたまラウレル達勇者一行がやって来た。
そしてモンスターの巣を見つけ、あっさりと倒してしまったのだった。
それ以来、プラドの商人達はラウレル達に恩を感じているのだという。
「皆、俺のためを思って……良い人達ばかりなのです。ビオレッタさんもどうか気を悪くしないで」
「大丈夫です、圧倒されただけで……もっとバザールを見てみたいですが、いいですか?」
「もちろんです!」
そしてラウレルは商人達からの贈り物と同じくらい、彼等から品物を買った。
布、スパイス、置物……どれもグリシナ村には無いような珍しいものばかりだ。
二人はたっぷりと時間をかけて、プラドのバザールを隅々まで歩いたのだった。
牛の鳴き声。ザザザ……と寄せる波の音。
まばゆい光が徐々に収まる。
「ビオレッタさん、着きましたよ」
ラウレルの声を合図に目を開けると、そこは夕暮れのグリシナ村だった。
二人は両手いっぱいに品物を抱え、村の入り口に立っている。
「帰って……きたのですね」
一日中プラドのバザールを歩き回り、ビオレッタの身体はくたくただった。楽しすぎて、少々はしゃぎすぎてしまったかもしれない。
今日は初めて見るものばかりだった。
金や銀の食器、色とりどりの宝石、奇妙な銅像、異国の武器……見るものだけではない、触れるもの、香りまでもが新鮮で。
「つい楽しくて、沢山買ってしまいましたね」
「ラウレル様も楽しかったのですね。私だけがはしゃいでいた訳ではなくてよかったです」
「当たり前ですよ! きっと、ビオレッタさんが想像しているよりもっと――俺は今日が楽しかった」
ふと、荷物を持つ彼の手を見ると、その指にもビオレッタと同じ金の指輪。石の色は透明な紫。
「ラウレル様、その指輪は」
「ああ、例の商人が俺にも贈ってくれたんです。せっかくなので身に付けましょうね、ビオレッタさん」
「は、はい……?」
グリシナ村育ちのビオレッタは知らなかった。
商人がわざわざ『金』に『蒼』の指輪をビオレッタに贈った、その意味を。『紫』の石をラウレルが身に付ける、そのわけを。
ビオレッタは顔の前に手を広げ、しげしげと眺める。
生まれて初めての指輪をはめた自分の指は、なんだか自分の指ではない様で少し気恥ずかしい。
そんな彼女を、ラウレルの蒼い瞳が満足そうに見つめていた。
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