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オルテンシア城③
しおりを挟む「な、何事ですの?」
「遅かったわ……」
先程の爆音を皮切りに、何度も爆発音が何度も繰り返される。ガラガラと城が崩れる音は、地下にいるビオレッタ達にもはっきりと聞こえた。
コラール姫はがたがたと震えだしてしまった。
このオルテンシア城が何者かに攻撃されている。
おそらく……怒り狂ったラウレルに。
「コラール姫は、どうか私と共にいて下さい。きっとそれが一番安全なので……」
ビオレッタは震えるコラール姫を抱きしめた。
地上を駆け回る兵士の悲鳴が聞こえる。鳴り止まぬ爆音。屋根が崩れる音。竜の羽音。
ここまでとは想像も出来なかった。ビオレッタは、実際にラウレルが戦っている姿を見たことが無かったのだから。
ああ、オルテンシアがビオレッタをさらったりしなければこんなことにはならなかったのに。
彼の目的はビオレッタを救い出すことだ。これ以上の被害を食い止めるためにも、姿を見せたほうが良いだろうか。
ビオレッタが立ち上がると、コラール姫が彼女を引き止めた。
「駄目よ、地上は危険だわ」
「でも、ラウレル様は私を探しています。私が見つからない限り攻撃は止みません」
「……では、これは勇者様が……?」
コラール姫は顔を青くした。
オルテンシア城は、モンスターに攻撃されたことはあってもびくともしなかった堅牢な城。それを真正面から破壊する勇者ラウレルに、姫は言葉を無くしてしまった。
「大丈夫です。言葉が届くことを信じます」
「あなた……どうか、気をつけて」
ビオレッタは深く頷くと、コラール姫の元から駆け出した。
地下牢からの階段を駆け抜け、玄関ホールへと出ると……そこは瓦礫の山となっていた。
つややかであった大理石の床は砂埃にまみれており、そこかしこが焼け焦げ、煙が立ち上っている。
抜け落ちた屋根から空を見上げれば、上空を何匹もの竜が舞っていた。竜達は遠慮なく火を吐き、城を炎で包み込む。
「プルガだけでなく他の竜まで……」
「皆、ラウレルに味方しているのだ」
変わり果てた光景に呆然と立ち尽くしていると、目の前に背の高い男が現れた。
さらさらとした銀色の髪は足元まで長く、褐色の肌に、ガラス玉のような金色の瞳。
初めて会ったはずなのに、その不思議な雰囲気には触れたことがあったような――
「あなたは……?」
「ラウレルの女。このままではラウレルが王を殺してしまうぞ」
男の声は、妙に落ち着きがあった。
いや、それよりも。
ラウレルが王を殺す。そんなまさか、そこまで……
「ラウレルが人殺しになってしまうぞ。娘、そのような場所でじっとしていてよいのか」
「どういうことですか! ラウレル様は一体どこに……」
「王は塔へ逃げた。ラウレルはそれを追っているはず」
ビオレッタは、屋根に空いた穴から空を見上げた。
空には飛び交う竜と立ちのぼる煙が見える。その先に、王が逃げたと思われる塔を見つけた。
しかしずいぶんと遠く、そして高い。
「あんな場所、どうやって――」
「さあ乗れ、女」
銀髪の男は目の前で白く発光したと思うと、みるみるうちに銀色の竜へと変身した。
その瞳は、透き通った金色。
「あなたは……プルガだったのね……」
乗れと促すように、プルガは大きく咆哮した。
竜に一人で乗るなど、自分に出来るだろうか。でも今は乗るしかない。
ビオレッタは震えつつプルガの背中に跨がると、プルガは彼女を振り落とさぬよう、慎重に羽ばたいた。
(気を遣ってくれているのね……)
「ありがとう、プルガ」
返事をするような鳴き声が、瓦礫だらけの玄関ホールに響く。
プルガはゆっくりと上昇し、抜け落ちた屋根から塔へと飛び立った。
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