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恋する瞳
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それからというもの、ヨランダさんはおおいに張り切った。
あの日から、週に一度はアルビレオ様の背中に乗って現れるようになってしまったのだ。
毎回決まって「腰が痛い」という理由をつけて第二治癒室まで来るのだけれど、来るとすぐに腰の痛みは治ってしまう。そして「あとは若いお二人で」と、私とアルビレオ様を残したまま治癒室を去っていくのだった。
「しかも、ヨランダさんは俺の休憩時間や退勤時間を計算して現れるんです。なかなか策士ですよ」
「確かに、アルビレオ様のお忙しい時間帯は避けていらっしゃるようですね……」
今日もヨランダさんは、昼休憩に騎士団本部の入口付近へと現れたらしい。
もう最近では、ヨランダさんを見かけるとアルビレオ様が呼び出されるようにまでなってしまった。これではまるで、ていの良いお世話係だ。
「やはり毎回呼び出されるなんて、ご負担が大きいのでは? 私からもう一度ヨランダさんにお断りしてみます。聞き入れていただけるか分かりませんが……」
「いえ。ここでゆっくり過ごせることは、案外楽しみにしているのです。ヨランダさんがいなければ、なかなか第二治癒室に来ることもできませんし」
そう言って、アルビレオ様は軽く笑いながら昼食用のパンを頬張った。その表情は、初めて会った時よりもずいぶんと和らいだように感じる。
(こんな場所を楽しみにして下さっているなんて奇特な方だわ……)
殺風景な室内には、座り心地の悪い木の椅子と、年季の入った薬品棚、そしてぼこぼこと傷んだ木の机が並ぶ。窓が大きいおかげで明るい室内ではあるものの、居心地が良いとは言い難い。
けれどリラックスした様子でくつろぐアルビレオ様に、私も少しずつ親しみを感じるようにはなっていた。
二人きりの時間が増えれば、自然と会話も増えていく。
(最初は、少し怖いとさえ思ったのだけど……慣れてくると、とても話しやすい方なのよね)
会話を繰り返すうちに、謎だらけだったアルビレオ様のことにもずいぶんと詳しくなった。
年齢は二十歳、騎士団へ入団して三年目。ロメロ伯爵家の三男であるアルビレオ様には、お兄様がお二人いらっしゃるという。
お兄様はお二人とも自由奔放な方らしく、国外へ旅に出たり、夜な夜な夜会に出かけたり。アルビレオ様はそんな兄二人を見ているうちに、いつの頃からか騎士への道を志すようになったそうだ。
「兄達を見ていると、こう……堅実に生きて、身をたてたいと思いまして」
「いわゆる、反面教師というやつでしょうか?」
「まあ、そうです」
三年前、十七歳のアルビレオ様は騎士団へと入団し、さっそく第三部隊へと配属された。
その際、右も左も分からないアルビレオ様に、騎士として手とり足とり世話を焼いてくれたのが、第三部隊長であるルイス様だったそうだ。
「ルイス隊長は当時、新人の俺をよく食事に連れ出してくれました。その時に悩みを聞いてくれたりして」
「まあ……お二人は仲がよろしいのですね」
「ルイス隊長が、とても良い人なんです。面倒見の良い兄のような人、といえば分かるでしょうか」
「良い人……なんとなくわかる気がします」
第二治癒室からこっそりと見ているだけでも、ルイス様の周りには人が絶えなかった。
忙しそうにしていても、呼び止められると必ず周囲に笑顔を振りまいて――その分け隔てない優しさが、いつの間にか私の心を惹きつけた。
「ルイス様は……本当に素敵な方ですよね。いつも笑っていらっしゃって」
「そうですね。隊長を慕う騎士達は多いですよ。俺もですが」
「ふふ、私と同じですね」
こうして二人でいれば、自然といつもルイス様の話になった。アルビレオ様との共通の話題といえばルイス様だけなので、仕方ないのかもしれないけれど。
「ペルラは、いつからルイス隊長のことを?」
「私は……去年働き始めてすぐですね。お恥ずかしながら城で迷ってしまって、その時助けて下さったのがルイス様だったのです。それからずっと、ルイス様を目で追い続けてしまって。それで……」
あの時のことは今でも鮮明に覚えている。
広大なレフィナード城でさまよっていた時、たった一人、わたしへ声をかけて下さったのがルイス様だった。
知り合いもおらず不安が募っていた私に、ルイス様の『大丈夫?』はよく効いた。以来、その思い出は、ずっと私の宝物だ。
忘れようとしているはずのに、話を振られるとついルイス様のことを話してしまう。話をするたびに、ルイス様の笑顔を思い出す。
「――駄目ですね。こんな調子では私、いつまでも失恋から立ち直ることができませんよね」
「ペルラ……」
「マルグリット様にも悪いので、早く忘れなければとは思っているのですが」
私は自嘲気味に呟いた。
ルイス様にはマルグリット様がいると分かっているのに、なかなか心は思い通りになってくれなかった。ルイス様が幸せであればそれでいいと、確かに思っているはずなのに。
「……俺は別に、急ぐ必要はないと思います」
「えっ?」
「そんなにすぐ、忘れることなんてできないでしょう? なら、ルイス隊長を好きなままで良いのでは」
アルビレオ様はパンを食べる手を止め、ゆっくりとこちらに向き直った。
「ペルラの気持ちは、少し……いや、とても分かるのです。実は俺も最近、失恋したので」
「アルビレオ様も?」
「ええ。たとえ望みがないと分かっていても、気持ちが急に変わることはありません」
まさか、アルビレオ様まで失恋されていたなんて。
望みがない恋をされていたことも、その気持ちを手放すことが出来ないのも、私と同じだ。
「でも、お辛くはありませんか? 忘れてしまえば楽になると、そう思いませんか?」
「忘れることなど出来ません。失恋した今も幸せなのです、その人との時間が」
「幸せ……」
そう言ったアルビレオ様は、照れた顔をごまかすかのように目を伏せた。
私とこうしている間にも、その方のことを想っているのだろうか。アルビレオ様はたしかに幸せそうで、頬はほのかに染まっている。
「むしろ、俺は前よりもっと――」
やがて、伏せられていた瞳がこちらに向けられた。
黒く美しい瞳。誰かに恋をしている瞳だ。
「アルビレオ様……」
熱を持つ眼差しが、行き場のない想いを抱え込んでいるように感じられた。
報われない恋を手放せないアルビレオ様に、私は親近感を覚えずにはいられなかった。
「――アルビレオ様、分かります。お辛かったですよね」
「え?」
「私にも、お話を聞くくらいなら出来ます。どうか、何でも話してくださいね。そういうことなら、いつでもお待ちしておりますから」
目の前で、アルビレオ様の見開かれた瞳が揺れている。
「いつでも……来て構わないのですか」
「ええ、もちろん」
「ヨランダさんがいなくても?」
「当たり前です。失恋した者同士ではありませんか」
そう、失恋した者同士、私には仲間意識が芽生えてしまった。
失恋仲間、とでもいえば良いだろうか。アルビレオ様が私を思いやって下さったように、私もアルビレオ様のお気持ちを分かってあげられる気がする。そう思ったのだ。
「……ありがとうございます、ペルラ。俺はあなたが――」
アルビレオ様の瞳が、私を映したまま離れない。
なんとなく私の仲間意識を受け入れて貰えた気がして……あとに続く言葉を待ち続けていたその時。
「アルビレオ、いる?」
ノックと共に、ドアの向こうからアルビレオ様を呼ぶ声がした。
私は固まった。
聞き覚えのある声だったからだ。
いや、聞き覚えがある……なんてものじゃない。
窓を開けて、耳を澄ましてでも聞きたい声だった。
明るく、遠くまでよく通る声。まっすぐで、裏がなくて、いつも誰かと笑っている、あの方の声だった。
「え……うそ」
私達とあちらを隔てる扉が、ガチャリと開けられる。
そこに姿を現したのは、私が焦がれてならない人――アルビレオ様の所属する第三部隊長、ルイス・クラベル様だった。
あの日から、週に一度はアルビレオ様の背中に乗って現れるようになってしまったのだ。
毎回決まって「腰が痛い」という理由をつけて第二治癒室まで来るのだけれど、来るとすぐに腰の痛みは治ってしまう。そして「あとは若いお二人で」と、私とアルビレオ様を残したまま治癒室を去っていくのだった。
「しかも、ヨランダさんは俺の休憩時間や退勤時間を計算して現れるんです。なかなか策士ですよ」
「確かに、アルビレオ様のお忙しい時間帯は避けていらっしゃるようですね……」
今日もヨランダさんは、昼休憩に騎士団本部の入口付近へと現れたらしい。
もう最近では、ヨランダさんを見かけるとアルビレオ様が呼び出されるようにまでなってしまった。これではまるで、ていの良いお世話係だ。
「やはり毎回呼び出されるなんて、ご負担が大きいのでは? 私からもう一度ヨランダさんにお断りしてみます。聞き入れていただけるか分かりませんが……」
「いえ。ここでゆっくり過ごせることは、案外楽しみにしているのです。ヨランダさんがいなければ、なかなか第二治癒室に来ることもできませんし」
そう言って、アルビレオ様は軽く笑いながら昼食用のパンを頬張った。その表情は、初めて会った時よりもずいぶんと和らいだように感じる。
(こんな場所を楽しみにして下さっているなんて奇特な方だわ……)
殺風景な室内には、座り心地の悪い木の椅子と、年季の入った薬品棚、そしてぼこぼこと傷んだ木の机が並ぶ。窓が大きいおかげで明るい室内ではあるものの、居心地が良いとは言い難い。
けれどリラックスした様子でくつろぐアルビレオ様に、私も少しずつ親しみを感じるようにはなっていた。
二人きりの時間が増えれば、自然と会話も増えていく。
(最初は、少し怖いとさえ思ったのだけど……慣れてくると、とても話しやすい方なのよね)
会話を繰り返すうちに、謎だらけだったアルビレオ様のことにもずいぶんと詳しくなった。
年齢は二十歳、騎士団へ入団して三年目。ロメロ伯爵家の三男であるアルビレオ様には、お兄様がお二人いらっしゃるという。
お兄様はお二人とも自由奔放な方らしく、国外へ旅に出たり、夜な夜な夜会に出かけたり。アルビレオ様はそんな兄二人を見ているうちに、いつの頃からか騎士への道を志すようになったそうだ。
「兄達を見ていると、こう……堅実に生きて、身をたてたいと思いまして」
「いわゆる、反面教師というやつでしょうか?」
「まあ、そうです」
三年前、十七歳のアルビレオ様は騎士団へと入団し、さっそく第三部隊へと配属された。
その際、右も左も分からないアルビレオ様に、騎士として手とり足とり世話を焼いてくれたのが、第三部隊長であるルイス様だったそうだ。
「ルイス隊長は当時、新人の俺をよく食事に連れ出してくれました。その時に悩みを聞いてくれたりして」
「まあ……お二人は仲がよろしいのですね」
「ルイス隊長が、とても良い人なんです。面倒見の良い兄のような人、といえば分かるでしょうか」
「良い人……なんとなくわかる気がします」
第二治癒室からこっそりと見ているだけでも、ルイス様の周りには人が絶えなかった。
忙しそうにしていても、呼び止められると必ず周囲に笑顔を振りまいて――その分け隔てない優しさが、いつの間にか私の心を惹きつけた。
「ルイス様は……本当に素敵な方ですよね。いつも笑っていらっしゃって」
「そうですね。隊長を慕う騎士達は多いですよ。俺もですが」
「ふふ、私と同じですね」
こうして二人でいれば、自然といつもルイス様の話になった。アルビレオ様との共通の話題といえばルイス様だけなので、仕方ないのかもしれないけれど。
「ペルラは、いつからルイス隊長のことを?」
「私は……去年働き始めてすぐですね。お恥ずかしながら城で迷ってしまって、その時助けて下さったのがルイス様だったのです。それからずっと、ルイス様を目で追い続けてしまって。それで……」
あの時のことは今でも鮮明に覚えている。
広大なレフィナード城でさまよっていた時、たった一人、わたしへ声をかけて下さったのがルイス様だった。
知り合いもおらず不安が募っていた私に、ルイス様の『大丈夫?』はよく効いた。以来、その思い出は、ずっと私の宝物だ。
忘れようとしているはずのに、話を振られるとついルイス様のことを話してしまう。話をするたびに、ルイス様の笑顔を思い出す。
「――駄目ですね。こんな調子では私、いつまでも失恋から立ち直ることができませんよね」
「ペルラ……」
「マルグリット様にも悪いので、早く忘れなければとは思っているのですが」
私は自嘲気味に呟いた。
ルイス様にはマルグリット様がいると分かっているのに、なかなか心は思い通りになってくれなかった。ルイス様が幸せであればそれでいいと、確かに思っているはずなのに。
「……俺は別に、急ぐ必要はないと思います」
「えっ?」
「そんなにすぐ、忘れることなんてできないでしょう? なら、ルイス隊長を好きなままで良いのでは」
アルビレオ様はパンを食べる手を止め、ゆっくりとこちらに向き直った。
「ペルラの気持ちは、少し……いや、とても分かるのです。実は俺も最近、失恋したので」
「アルビレオ様も?」
「ええ。たとえ望みがないと分かっていても、気持ちが急に変わることはありません」
まさか、アルビレオ様まで失恋されていたなんて。
望みがない恋をされていたことも、その気持ちを手放すことが出来ないのも、私と同じだ。
「でも、お辛くはありませんか? 忘れてしまえば楽になると、そう思いませんか?」
「忘れることなど出来ません。失恋した今も幸せなのです、その人との時間が」
「幸せ……」
そう言ったアルビレオ様は、照れた顔をごまかすかのように目を伏せた。
私とこうしている間にも、その方のことを想っているのだろうか。アルビレオ様はたしかに幸せそうで、頬はほのかに染まっている。
「むしろ、俺は前よりもっと――」
やがて、伏せられていた瞳がこちらに向けられた。
黒く美しい瞳。誰かに恋をしている瞳だ。
「アルビレオ様……」
熱を持つ眼差しが、行き場のない想いを抱え込んでいるように感じられた。
報われない恋を手放せないアルビレオ様に、私は親近感を覚えずにはいられなかった。
「――アルビレオ様、分かります。お辛かったですよね」
「え?」
「私にも、お話を聞くくらいなら出来ます。どうか、何でも話してくださいね。そういうことなら、いつでもお待ちしておりますから」
目の前で、アルビレオ様の見開かれた瞳が揺れている。
「いつでも……来て構わないのですか」
「ええ、もちろん」
「ヨランダさんがいなくても?」
「当たり前です。失恋した者同士ではありませんか」
そう、失恋した者同士、私には仲間意識が芽生えてしまった。
失恋仲間、とでもいえば良いだろうか。アルビレオ様が私を思いやって下さったように、私もアルビレオ様のお気持ちを分かってあげられる気がする。そう思ったのだ。
「……ありがとうございます、ペルラ。俺はあなたが――」
アルビレオ様の瞳が、私を映したまま離れない。
なんとなく私の仲間意識を受け入れて貰えた気がして……あとに続く言葉を待ち続けていたその時。
「アルビレオ、いる?」
ノックと共に、ドアの向こうからアルビレオ様を呼ぶ声がした。
私は固まった。
聞き覚えのある声だったからだ。
いや、聞き覚えがある……なんてものじゃない。
窓を開けて、耳を澄ましてでも聞きたい声だった。
明るく、遠くまでよく通る声。まっすぐで、裏がなくて、いつも誰かと笑っている、あの方の声だった。
「え……うそ」
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