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仲直りの扉
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ルディエル様に腕を握られたまま、固まっていると――精霊が吸い込まれた扉から、コトリと不穏な音がした。
その直前、イタズラ好きの精霊が残していった不敵な笑みを、確かに見た。なんとなく嫌な予感がする。
空気を壊すようで言いにくいけれど、私はルディエル様に切り出した。
「――あの、ルディエル様。今、精霊が扉にイタズラをしたような気がします」
「なんだって……?!」
「気のせいなら良いのですが……」
ルディエル様はやっと私の手を離し、リビングの扉へと駆け寄った。ガチャガチャとドアノブを確認しているけれど、案の定、開く気配は感じられない。
ルディエル様は深いため息をつき、天を仰いだ。
「……すまない、閉じ込められてしまったようだ」
「えっ!?」
「精霊は、イタズラが好きだから……」
まさか、ルディエル様と二人でリビングに閉じ込められてしまうなんて。なぜか申し合わせたように精霊の姿も消えてしまって、正真正銘の二人きりだ。
「と、閉じ込められたって、そんな!」
「……精霊達にはあとで説教だな」
「出られるようになるんでしょうか?」
「そうだな……きっと、俺達が仲直りすれば出られるだろう」
ルディエル様は諦めたように呟いた。
私達の間には、気まずい沈黙が流れる。
「……仲直り? 私達、喧嘩なんてしてないと思うのですが」
「しかし、精霊達にはそう見えたんだよ。覚えてない? 昔、俺達はこうして同じように閉じ込められたことがあるんだけど」
「昔……子供のころ、たしかに閉じ込められたことがありましたね」
私は記憶をたぐり寄せ、昔ルディエル様と二人きりで閉じ込められた時のことを思い出した。
知り合ってしばらく経ったころだ。急にルディエル様が口を聞いてくれなくなったことがあった。話しかけても逃げられたりして、嫌われたのかと不安になったのを覚えている。
『次、話しかけて逃げられてしまったら……もう森に来るのはやめにしよう』
幼い私は落ち込んだ。無意識のうちになにか失礼なことをしてしまったのだと、自分を責めた。
これが最後だと心に決めて、いざルディエル様に話しかけても……やっぱり返事が返ってくることはなくて。仕方が無いので諦めて帰ろうとしたときに突然、ルディエル様と裏の納屋へ閉じ込められてしまったのだ。
納屋の中は暗くて、少し湿っぽくて……怖くて泣いた。隣に、私を無視するルディエル様がいたのも嫌でたまらなかった。怖くて悲しくてわんわん泣いた。あんなに泣いたのは、生まれて初めてのことだった。
『……ごめん、ネネリア』
そんな私の涙を止めたのは、申し訳なさそうな顔をしたルディエル様だった。何度も『ごめん』『泣かないで』と、繰り返し謝ってくれた。そのうちルディエル様まで泣いてしまって、お互いなぜ泣いているのか分からなくなって……最後は涙を流しながら笑い合った。
すると不思議なことに、納屋の扉が勝手に開いて。私達は外へ出ることができたのだ。
「あれも精霊のしわざだったのですね。不思議だったのです、勝手に扉が開くなんて魔法みたいで」
「そう。馬鹿な俺を叱りつけるために、精霊達は俺をネネリアと一緒に閉じ込めたんだ。きっと今回も同じ理由だ」
「同じ理由……?」
そういえば、昔ルディエル様が怒っていた理由を私は知らない。涙を流しながら何度も何度も謝られるうち、理由なんてどうでも良くなってしまったのだ。
「あの時は、なぜ怒っていたのですか? 結局、理由は分からずじまいで」
「……聞いても、ネネリアは俺のことを嫌いにならない?」
「ええ、もちろんです」
「実は……」
ルディエル様の頬が、わずかに赤くなった。
『嫌いにならない?』だなんて……あの時怒った理由は、よっぽど言いにくいものだったのだろうか。
「あの時、ネネリアが父さんを褒めたんだ」
「え?」
「父さんも昔は……今より若かったからね。ネネリアは父さんの大ファンだった。『かっこいい』だとか『やさしい』だとか……俺の前で、ずっと父さんのことを褒めてたんだよ」
「ええ……? そんな理由だったのですか」
ルディエル様が口にした理由に、思わず拍子抜けしてしまった。
いけない、全然覚えていない。でも、確かにルディエル様のお父様は大変人気のある精霊守だった。ルディエル様と同じく神秘的な銀髪と美しい青い瞳で、世の女性を虜にしてきた人だ。けれどまさか、幼少期の私まで虜になっていただなんて。
「父さんに嫉妬して、ネネリアにも嫌な態度をとった。本当に子供だったんだ、俺は」
「す、すみません。私、まったく覚えていなくて」
「いや、今日も……成長していないな俺は。こちらこそすまなかった。また子供みたいに拗ねた」
「拗ねていたのですか……?」
腕を握られたとき、ルディエル様の寂しげな眼差しにどうしていいのか分からなかった。あれは拗ねていたというのか。でもなぜ。
「ネネリアが……俺の気持ちをなにも分かっていないから」
「……だから、寂しかったのですか?」
「そう、寂しかった」
ルディエル様は正直に呟くと、頬を赤らめたまま俯いた。長いまつ毛が伏せられ、その様子がなんだかとても可愛らしくて昔と重なる。思わず笑ってしまう。
「ふふ……たまには、閉じ込められるのも良いですね」
私がそう呟くと、ルディエル様の顔はますます真っ赤になっていく。
こうして二人で昔話をするのも悪くないかもしれない。
笑う私の向こうでは、精霊が満足したかのように扉がゆっくり開かれた。
その直前、イタズラ好きの精霊が残していった不敵な笑みを、確かに見た。なんとなく嫌な予感がする。
空気を壊すようで言いにくいけれど、私はルディエル様に切り出した。
「――あの、ルディエル様。今、精霊が扉にイタズラをしたような気がします」
「なんだって……?!」
「気のせいなら良いのですが……」
ルディエル様はやっと私の手を離し、リビングの扉へと駆け寄った。ガチャガチャとドアノブを確認しているけれど、案の定、開く気配は感じられない。
ルディエル様は深いため息をつき、天を仰いだ。
「……すまない、閉じ込められてしまったようだ」
「えっ!?」
「精霊は、イタズラが好きだから……」
まさか、ルディエル様と二人でリビングに閉じ込められてしまうなんて。なぜか申し合わせたように精霊の姿も消えてしまって、正真正銘の二人きりだ。
「と、閉じ込められたって、そんな!」
「……精霊達にはあとで説教だな」
「出られるようになるんでしょうか?」
「そうだな……きっと、俺達が仲直りすれば出られるだろう」
ルディエル様は諦めたように呟いた。
私達の間には、気まずい沈黙が流れる。
「……仲直り? 私達、喧嘩なんてしてないと思うのですが」
「しかし、精霊達にはそう見えたんだよ。覚えてない? 昔、俺達はこうして同じように閉じ込められたことがあるんだけど」
「昔……子供のころ、たしかに閉じ込められたことがありましたね」
私は記憶をたぐり寄せ、昔ルディエル様と二人きりで閉じ込められた時のことを思い出した。
知り合ってしばらく経ったころだ。急にルディエル様が口を聞いてくれなくなったことがあった。話しかけても逃げられたりして、嫌われたのかと不安になったのを覚えている。
『次、話しかけて逃げられてしまったら……もう森に来るのはやめにしよう』
幼い私は落ち込んだ。無意識のうちになにか失礼なことをしてしまったのだと、自分を責めた。
これが最後だと心に決めて、いざルディエル様に話しかけても……やっぱり返事が返ってくることはなくて。仕方が無いので諦めて帰ろうとしたときに突然、ルディエル様と裏の納屋へ閉じ込められてしまったのだ。
納屋の中は暗くて、少し湿っぽくて……怖くて泣いた。隣に、私を無視するルディエル様がいたのも嫌でたまらなかった。怖くて悲しくてわんわん泣いた。あんなに泣いたのは、生まれて初めてのことだった。
『……ごめん、ネネリア』
そんな私の涙を止めたのは、申し訳なさそうな顔をしたルディエル様だった。何度も『ごめん』『泣かないで』と、繰り返し謝ってくれた。そのうちルディエル様まで泣いてしまって、お互いなぜ泣いているのか分からなくなって……最後は涙を流しながら笑い合った。
すると不思議なことに、納屋の扉が勝手に開いて。私達は外へ出ることができたのだ。
「あれも精霊のしわざだったのですね。不思議だったのです、勝手に扉が開くなんて魔法みたいで」
「そう。馬鹿な俺を叱りつけるために、精霊達は俺をネネリアと一緒に閉じ込めたんだ。きっと今回も同じ理由だ」
「同じ理由……?」
そういえば、昔ルディエル様が怒っていた理由を私は知らない。涙を流しながら何度も何度も謝られるうち、理由なんてどうでも良くなってしまったのだ。
「あの時は、なぜ怒っていたのですか? 結局、理由は分からずじまいで」
「……聞いても、ネネリアは俺のことを嫌いにならない?」
「ええ、もちろんです」
「実は……」
ルディエル様の頬が、わずかに赤くなった。
『嫌いにならない?』だなんて……あの時怒った理由は、よっぽど言いにくいものだったのだろうか。
「あの時、ネネリアが父さんを褒めたんだ」
「え?」
「父さんも昔は……今より若かったからね。ネネリアは父さんの大ファンだった。『かっこいい』だとか『やさしい』だとか……俺の前で、ずっと父さんのことを褒めてたんだよ」
「ええ……? そんな理由だったのですか」
ルディエル様が口にした理由に、思わず拍子抜けしてしまった。
いけない、全然覚えていない。でも、確かにルディエル様のお父様は大変人気のある精霊守だった。ルディエル様と同じく神秘的な銀髪と美しい青い瞳で、世の女性を虜にしてきた人だ。けれどまさか、幼少期の私まで虜になっていただなんて。
「父さんに嫉妬して、ネネリアにも嫌な態度をとった。本当に子供だったんだ、俺は」
「す、すみません。私、まったく覚えていなくて」
「いや、今日も……成長していないな俺は。こちらこそすまなかった。また子供みたいに拗ねた」
「拗ねていたのですか……?」
腕を握られたとき、ルディエル様の寂しげな眼差しにどうしていいのか分からなかった。あれは拗ねていたというのか。でもなぜ。
「ネネリアが……俺の気持ちをなにも分かっていないから」
「……だから、寂しかったのですか?」
「そう、寂しかった」
ルディエル様は正直に呟くと、頬を赤らめたまま俯いた。長いまつ毛が伏せられ、その様子がなんだかとても可愛らしくて昔と重なる。思わず笑ってしまう。
「ふふ……たまには、閉じ込められるのも良いですね」
私がそう呟くと、ルディエル様の顔はますます真っ赤になっていく。
こうして二人で昔話をするのも悪くないかもしれない。
笑う私の向こうでは、精霊が満足したかのように扉がゆっくり開かれた。
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