やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜

文字の大きさ
19 / 29

未練

しおりを挟む
 閉店後、女将さんから「もう上がっていいよ」と言われた私は、後片付けを終えると食堂の二階へ上がった。
 この大衆食堂は三階建て。一階が食堂、二階が従業員の部屋、三階が女将さん達の家族の生活エリアとなっていて、私は二階奥の部屋を使わせてもらっている。
 
 有難いことに、私は引っ越してすぐ住み込みの仕事を見つけることができた。
 セルヴェイルの街では女性の働き手が珍しく、「働きたい」というそれだけで重宝されるらしい。紹介所で働き口を探していたその日に、女将さんから声をかけられたのだ。私もなりふり構わず働き始めた。

 そうしたら、とても楽しくて、やりがいもあって…… 
 この街を選んで良かった。
 気の合う人達にも巡り会えた。
 私はとても運が良かった。
 
 けれど、毎晩思いを馳せるのはブレアウッドのアレンフォード家だ。

(ルディエル様……)

 なにも言わずに街を出た幼なじみを、薄情に思うだろうか。でも、会えばせっかくの決意が揺らいでしまいそうだった。
 ルディエル様は、私の心に入り込みすぎたのだ。笑顔を見れば、離れがたくなってしまう……そんな弱さが、私をソルシェ家へ留まらせた。

 やっと家を出た今、ブレアウッドのことは振り切って前を向くべきなのに、やっぱりルディエル様のことばかり考えてしまう。
 それも当然かもしれない。これまでずっと、ルディエル様に支えられて生きてきたのだから。

(もうお屋敷は完成したのかしら……)

 アレンフォード家のお屋敷は、ルディエル様と精霊達によってどんどん磨きがかかっていった。きっと、そろそろお相手を迎える頃になっているだろう。

 その光景を考えるだけで私の胸はズキリと痛んで、思わず指輪を握りしめる。
 ルディエル様にいただいたサファイアの指輪だ。彼の隣にはいられなくても、この指輪だけは私のもの。その青に癒されながら、私はその日も眠りについた。



 
「はじめましてサラさん! マレッタです。仲良くしてね」

 翌々日の昼下がりのこと。
 グレンさんは、本当に婚約者を店に連れてきた。名前はマレッタさん。短く切りそろえられた栗色の髪がくるんとしていて、小柄でハキハキとしていて……彼の言っていたとおり、本当にリスのような愛らしさだ。
 
 お酒が飲めないマレッタさんの前には、女将特製のキャラメルプリンが提供された。普段は出さない特別メニューである。甘党の彼女に合わせて作ったらしい。
 プリンをすくうマレッタさんを、グレンさんが隣から見つめている。それは本当にとろけるような眼差しで、こちらが赤面してしまうくらいだった。

「どうだサラ、マレッタは可愛いだろう!」
「ええ、本当に……! グレンさんが惚気けるのも当然ですね」
「もう! ここでも惚気けてるの? やめてよね!」

 マレッタさんは恥ずかしがってそっぽ向いてしまった。そんな仕草も可愛らしい。

「この人、知り合った時からこうなのよ。どこでも惚気けて恥ずかしいの。少し我慢して欲しいんだけど……」
「我慢できるかよ。こんなに可愛い婚約者がいるのに……俺がずっと独り身だったのはマレッタに出会うためだったんだなあ」

 グレンさんは人目を憚ることもなく、マレッタさんを猫可愛がりしている。そんな二人の様子が微笑ましくて私の顔は自然とゆるんだ。

「お幸せそうでうらやましいです。お二人の出会いは、どういったものだったのですか?」

 何気なく馴れ初めを尋ねたつもりだったのだけど、その瞬間、グレンさんとマレッタさんは揃って口をつぐんだ。どちらも、少し言いにくそうな顔をしている。

(あ……あまり聞いちゃいけないことだったかしら)

「あの、すみません……答えなくても構わないので……」
「いえ、いいの。なんて言ったらいいのか……私はある日突然、気付いたらグレンのところにいたの」
「……マレッタは、俺の“知り合い”が選んでくれたんだ」

 二人からはなんとも歯切れの悪い答えが返ってきた。
 グレンさんとマレッタさんは、誰かに紹介されて婚約を決めたようだ。でもそのを、二人が隠したがっているようにもみえる。

「会ってみたらとても気が合ったから……結婚してもいいかなって思って」
「女将さん、聞いたか? 俺とマレッタは相性抜群なんだ」
「はいはい相思相愛で良かったわね。マレッタちゃん、プリンもっと食べる?」
「女将さんありがとう~!」

 私が感じた違和感は、和やかな空気にかき消されていく。二人が幸せなら、出会い方なんてどうでもいいのだけれど……
  
(そういえば、今日も精霊がとまっているわ)

 グレンさんの肩に一匹、そしてマレッタさんの頭にも一匹。相変わらず、女将さんには見えていない。

 青く小さな精霊と、先程から目が合っている。
 私精霊と私は目線で合図だけをして、みんなで食事を楽しんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。 しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。 彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。 ※タイトル変更しました  小説家になろうでも掲載してます

緑の指を持つ娘

Moonshine
恋愛
べスは、田舎で粉ひきをして暮らしている地味な女の子、唯一の趣味は魔法使いの活躍する冒険の本を読むことくらいで、魔力もなければ学もない。ただ、ものすごく、植物を育てるのが得意な特技があった。 ある日幼馴染がべスの畑から勝手に薬草をもっていった事で、べスの静かな生活は大きくかわる・・ 俺様魔術師と、純朴な田舎の娘の異世界恋愛物語。 第1章は完結いたしました!第2章の温泉湯けむり編スタートです。 ちょっと投稿は不定期になりますが、頑張りますね。 疲れた人、癒されたい人、みんなべスの温室に遊びにきてください。温室で癒されたら、今度はベスの温泉に遊びにきてくださいね!作者と一緒に、みんなでいい温泉に入って癒されませんか?

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...