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精霊達の裏の顔
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「サラ……お前、もしかして精霊が見えるのか?」
マレッタさんが来店してから少し経ったある日。
いつものようにカウンターへ座ったグレンさんが、言いにくそうに話を切り出した。
グレンさんはいつも日が落ちてからやって来るのに、この日はやけに早い時間の来店だった。どうやら、空いている時間帯に私と話そうと来たらしい。店内は狙い通りお客様もまばら。女将さんも買い出し中だ。
「いつもお前の目線が気になってはいたんだが……ここにいる精霊、分かるんだろ?」
そう言って、グレンさんは自分の肩を指さした。そこには、いつものように精霊がとまっている。
彼は私の目線を見て、薄々勘づいていたらしい。ただ、私が黙っていたことについて責める様子でもなく……なので私も素直に打ち明けた。
「……はい、黙っていてすみません。グレンさんも特に精霊のことを口にされないので、触れないほうがいいのかと思って」
「いや、いいんだ……俺もここでは黙ってる。女将達を怖がらせたくなくてな」
「怖がる……? 精霊達を?」
私は、グレンさんの肩にとまる精霊を見た。青い鳥の形をしていて、目はくりくりと丸くて、とてもかわいい。この子はいつも、帰り際に翼を振ってくれたりもする。愛嬌もあって、怖いだなんて思うはずも無いけれど……
「精霊は可愛らしいです。女将さん達は怖がる……でしょうか?」
「そうか、お前は愛されているんだな」
「え?」
「精霊達へのイメージが良過ぎるんだよ」
(イメージが良過ぎる……?)
私にとって、昔から精霊は友達であり、家族であり、ずっと心の支えだった。時には花のプレゼントをしてくれたり、一緒に眠ったりして、良い思い出しか持ち合わせていない。
けれどグレンさんからの思いがけない言葉を聞いて、思い出したことがある。
義妹ミルフィの怖がりようだ。
「そういえば……私には義妹がいるんですけど、精霊をとても怖がっていました。突然、精霊が見えたことがあったみたいで、その時にとても怖い思いをしたようなんです」
あの時、精霊がいると知ったミルフィは肩を震わせ、半狂乱になって叫んでいた。
精霊を『化け物』だと。
「それは、君の義妹がよっぽど酷いことをしたんだな」
「酷いこと?」
「精霊達は仲間意識が強いからな……仲間にはとことん優しいが、敵と見れば容赦なく襲いかかる」
初耳だった。私は、精霊達の可愛らしく無邪気な姿しか見たことがない。ふわふわと漂う姿は愛らしいし、くるくると飛び回る仕草だって微笑ましいものだった。
しかしグレンさんの言うように、ミルフィは精霊達に襲われたというのだろうか。だったら、彼女のあの怖がり方も理解できる。
「サラのいた街ではどうだか知らないが、セルヴェイルの街では精霊を怒らせると怖いこともみんな知ってる。だから、精霊がいるとなると気を遣ってなにも出来なくなっちまうんだ」
「なるほど……」
「まあ、精霊が怒ることなんてそうそう無いんだけどな。でも、見えないものがそこにいるだけで怖いだろう? 人間って」
グレンさんが精霊について黙っていたのは、そんな理由があったのか。私は納得して頷いた。
「グレンさんは……精霊が怖くないのですね。いつも肩に乗せてらっしゃるもの」
「怖くないというか……精霊守だからな」
「えっ!?」
「実は俺、セルヴェイルの精霊守をしていてね。マレッタは精霊が選んで連れてきた番なんだ。女将さんには秘密にしておいてくれよ」
「精霊守っ……ですか? グレンさんが……!?」
私は声が裏返りそうになるのを必死に押し殺す。
まさか、セルヴェイルの街でも精霊守に出会うなんて。
マレッタさんが来店してから少し経ったある日。
いつものようにカウンターへ座ったグレンさんが、言いにくそうに話を切り出した。
グレンさんはいつも日が落ちてからやって来るのに、この日はやけに早い時間の来店だった。どうやら、空いている時間帯に私と話そうと来たらしい。店内は狙い通りお客様もまばら。女将さんも買い出し中だ。
「いつもお前の目線が気になってはいたんだが……ここにいる精霊、分かるんだろ?」
そう言って、グレンさんは自分の肩を指さした。そこには、いつものように精霊がとまっている。
彼は私の目線を見て、薄々勘づいていたらしい。ただ、私が黙っていたことについて責める様子でもなく……なので私も素直に打ち明けた。
「……はい、黙っていてすみません。グレンさんも特に精霊のことを口にされないので、触れないほうがいいのかと思って」
「いや、いいんだ……俺もここでは黙ってる。女将達を怖がらせたくなくてな」
「怖がる……? 精霊達を?」
私は、グレンさんの肩にとまる精霊を見た。青い鳥の形をしていて、目はくりくりと丸くて、とてもかわいい。この子はいつも、帰り際に翼を振ってくれたりもする。愛嬌もあって、怖いだなんて思うはずも無いけれど……
「精霊は可愛らしいです。女将さん達は怖がる……でしょうか?」
「そうか、お前は愛されているんだな」
「え?」
「精霊達へのイメージが良過ぎるんだよ」
(イメージが良過ぎる……?)
私にとって、昔から精霊は友達であり、家族であり、ずっと心の支えだった。時には花のプレゼントをしてくれたり、一緒に眠ったりして、良い思い出しか持ち合わせていない。
けれどグレンさんからの思いがけない言葉を聞いて、思い出したことがある。
義妹ミルフィの怖がりようだ。
「そういえば……私には義妹がいるんですけど、精霊をとても怖がっていました。突然、精霊が見えたことがあったみたいで、その時にとても怖い思いをしたようなんです」
あの時、精霊がいると知ったミルフィは肩を震わせ、半狂乱になって叫んでいた。
精霊を『化け物』だと。
「それは、君の義妹がよっぽど酷いことをしたんだな」
「酷いこと?」
「精霊達は仲間意識が強いからな……仲間にはとことん優しいが、敵と見れば容赦なく襲いかかる」
初耳だった。私は、精霊達の可愛らしく無邪気な姿しか見たことがない。ふわふわと漂う姿は愛らしいし、くるくると飛び回る仕草だって微笑ましいものだった。
しかしグレンさんの言うように、ミルフィは精霊達に襲われたというのだろうか。だったら、彼女のあの怖がり方も理解できる。
「サラのいた街ではどうだか知らないが、セルヴェイルの街では精霊を怒らせると怖いこともみんな知ってる。だから、精霊がいるとなると気を遣ってなにも出来なくなっちまうんだ」
「なるほど……」
「まあ、精霊が怒ることなんてそうそう無いんだけどな。でも、見えないものがそこにいるだけで怖いだろう? 人間って」
グレンさんが精霊について黙っていたのは、そんな理由があったのか。私は納得して頷いた。
「グレンさんは……精霊が怖くないのですね。いつも肩に乗せてらっしゃるもの」
「怖くないというか……精霊守だからな」
「えっ!?」
「実は俺、セルヴェイルの精霊守をしていてね。マレッタは精霊が選んで連れてきた番なんだ。女将さんには秘密にしておいてくれよ」
「精霊守っ……ですか? グレンさんが……!?」
私は声が裏返りそうになるのを必死に押し殺す。
まさか、セルヴェイルの街でも精霊守に出会うなんて。
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