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 仄かに光る金色がかった銀髪に、サファイヤを思わせる紺碧の瞳。いつでもぴっと背筋が伸びた、美しい色白の彼は、繊細な硝子細工のようで、いつでもどこにいても人目を引いた。ゼシーという名前の彼は、公爵家の次男で、いまの学園にいる生徒たちの中で、最も権力を持った家の子どもだった。
 だが同時に、酷く嫌われてもいた。
 誰もが見惚れるほどの顔が緩むことはなく、常に眉間にしわが寄っていた。笑顔なんて誰も見たことがないのではないか。誰かがこっそりと囁いた言葉に、ユアンは内心で同意していた。少なくとも、この学園内で笑って見せたことなどないだろう。話しかけられても、目を眇め、鼻で嗤うばかりだ。気安く肩を叩けば、まるでほこりでもついたように振り払われる。
 誰もが彼を傲慢な人間だと思ったし、関わろうとする生徒はいなかった。しかし密かに憧れていた者は多いだろう。美しい容姿の他に、彼はとても正義感が強い人間でもあった。学園内のいじめは軽いものから重いものまで様々だが、家の権力が絡むとややこしいことになる。酷い無茶ぶりに追い詰められている生徒を、彼はよく助けていた。
 ユアンもその助けられた生徒のひとりだ。

 ユアンは同級生にくらべて小柄で、髪色も瞳の色も茶色で取り立てて目立つようなところがない。そこそこ裕福ではあるが、家に歴史があるわけでもない。そのせいか、足を引っかけられたり、小突き回されることが多かった。
 その日もそうだ。人気のないところで出くわした、いささか素行の悪そうな先輩たちに囲まれ、どう逃げ出したらいいものかと焦っていた。

「一学年か? 小さいな~」
「ほんとに男かあ? 精通してるか?」
「出させてみればわかんじゃねえの?」

 大きな手がユアンの肩を掴み、衣服を引っ張り始める。ユアンは青ざめ、身をよじり、素早くあちこちを見回した。そこで目が合ったのが、偶然出くわしたゼシーだった。
 ゼシーは相手を射殺しそうなほどに、酷く不愉快げな顔をしていた。

「何を下らないことを」

 決して大きな声ではなかった。高い声でもない。だが透き通った響きのあるその声は、誰の耳にもはっきりと届いた。
 ユアンに群がっていた男たちは、振り返るなり慌てふためき、背筋を伸ばし始めた。
 だがそんなことで、ゼシーの表情が変わるはずもなかった。

「お前たちはいつもこんなことをしているのか?」
「そっ、そんなまさか……あの、悪ふざけしていただけです」
「そうです! 本当に、あの、本気じゃなくて……」

 おまえからも何か言えと言わんばかりにユアンは小突かれたが、男たちも、ゼシーから感じる威圧にも応えられず、ゆるゆると首を振るしかなかった。ゼシーは、はっと息を吐き、ばかばかしい、と心底不快げに吐き捨てた。

「再度見かけた際には学園にいられないものと思えよ。最も、二度と私の視界に入らないでほしいものだが」
「は、はい!」

 許されたと思ったのか、男たちはほっとした様子で頭を下げた。だがゼシーはそのことには触れず、目を細めた。

「視界に入るなと言っているのが聞こえなかったのか?」
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