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秋葉夕雲

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第二章

118 縄ない

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 戦況は思い通りに推移していた。
 や、もうホントこんな上手くいっていいの? ってくらい上手くいっていた。
 ヒトモドキは見当違いの場所を探し回り、食料が乏しくなってきた証拠にまだ収穫できないはずの稲を一部刈り始めた。困窮しているのが丸わかりだ。
 これもうほっといても勝てるんじゃね? そう思っていたけど予想外の出来事は起こる。探索している村人たちが思いのほか元気だ。その理由はすぐにわかった。

 長時間森を探索する場合に大事なのはきっと水分補給だ。足りなければ熱中症などの危険がある。日中はほとんどオレたちの巣を探し詰めで、水を飲まなければやってられないだろう。現在の気温では人一人が持てるだけの水筒じゃまるで足りない。
 ならどうやって水を補給しているか。
 海老だ。
 海老の魔法である<水操作>だ。
 海老を同行させて湿った土や、植物から水分を取り出していた。錬金術ならぬ錬水術か。これならいくらでも水分を補給できる。間違いなく海老はヒトモドキの生命線だろう。水なしだと数日で人は死んでしまうらしい。魔物でも水がなければしんどい。……だっていうのにヒトモドキが海老を見る視線は険があった。
 嫌ってはいても世話になっている人には礼をもって接するべきだと思うんだがな。
 オレの感想はどうあれ海老が極めて重要な補給線なのは疑いようがない。できれば交渉なりなんなりで平和的に解決したい。ちなみに海老女王の魔法も広域テレパシーなので本来なら会話できるけど、今現在味方の海老は世代交代の真っ最中。交渉は難しい。
 兵糧攻めを行っているのに海老が十全に働いていると食べ物はともかく水の枯渇は狙えない。これはちょっとよろしくない。ヒトモドキに苦しんでもらうためにちょっと乱暴な方法で解決しようか。



「探しなさい! 草の根を分けても見つけるのです!」
 この騎士団の団長であるティマチはいつものように気を吐き、檄を飛ばす。敬虔なセイノス教徒である村人、今は騎士団の団員、はその信仰を見せる時は今だと誰もが懸命に森の茂みをかき分けていた。
 そこに一つの凶報がもたらされた。
「ティマチ様! 大海老が現れました! 我らを襲っております!」
 クワイではヤシガニを大海老と呼ぶ。その報せを聞いたティマチは目を見開いて叫んだ。
「私もそこに行きます! 直ちに皆を集めなさい!」
 同伴していた団員の一人が角笛を吹き、森中にけたたましい音が響いた。

 作戦大成功。
 アリジゴクの時と同じようにヤシガニ一本釣りでヒトモドキの近くにヤシガニを持っていくとあら不思議! 戦闘民族ヒトモドキさんは勝手に突っ込んでいってくれるではありませんか! 血沸き肉躍る戦闘の幕開けだ! オレは蚊帳の外だけどね。
 アホなのか? オレなら間違いなく無視するけどなあ。ヤシガニの足は遅いから逃げ切るのは難しくないんだし。
 ひっきりなしに光が飛び、血しぶきが舞う。時折甲殻にひびが入る音もする。予想以上に凄惨な戦いを繰り広げている。
 それにしてもヤシガニ強いなー。<弾>じゃダメージが薄いし、<剣>じゃ<プレスクロー>の射程を下回る。そして<盾>は魔法の優先順位の関係で<プレスクロー>を防げない。まあ優先順位関係なく肉体のエネルギーの差で防御できるわけもないけど。
 というかよくヤシガニに勝ったなオレ。辛生姜もなければ複合弓もなしだぞ? よく勝ったなー。
 ヒトモドキさんが百人以上いるのにヤシガニは一歩も退いていない。だが多勢に無勢。流石にそのうち倒され……ん?
 美人の騎士団長さんが……前線に出てきた? なんか旗持ってる?

注 ここからはダイジェストでお送りします。

ティマチ「大海老が出てくるとは。ここは私の出番のようだな」
村人A「お待ちください。ティマチ様。ここは私が」
村人B「ぜひ私におまかせください」
村人C「いえ、ここは私が行くべきでしょう」
ティマチ「やはりここは私が出るべきだ」
村人A・B・C「「「それには及びません」」」
ティマチ「む、そうか。そこまでいうならなら任せるぞ」
村人A・B・C「「どうぞどうぞ」」」

 ……コントか! コントですね!? コントだろ!
 口論してる暇があればさっさと決めろよ! てか指揮官が前線に出るな! セイノス教は聖職者を死なせると面倒みたいだからお前がいると逃げられないんだよ! むしろ狙ってやってんのか? だとしたらかなりの策士だけど……。
 でもこれでどうやって普段一般人の村人の士気を保っているかよくわかった。そんなものは必要ない。ただ聖職者が戦場にいれば逃げるわけにも怠けるわけにもいかなくなる。オレにはさっぱり理解できないけど、セイノス教徒にとって聖職者は絶対なのだ。多分あの旗は団長の証的な何かだろう。
 徹底的に洗脳された村人にとって聖職者に反抗するという発想がない。
 あくまでも予想だけどこの世界では武士や騎士みたいな戦闘、いや戦争を専門にする職業は多分ない。あったとしても聖職者が兼業している。
 一つとしてセイノス教が認めないこと。
 兵権をよそに握らせれば反抗される危険が高いことをよくわかっているはずだ。地球でも軍がクーデターを起こすことはよくある話だからな。騎士団とやらが聖職者らしきティマチに率いられているのがその根拠だ。組織のトップというのは自分の身の安全を脅かすものを決して容認しないだろう。ほかならぬオレがそうだからな!
 もう一つは武器が存在しないこと。
 地球で武士、騎士と言った戦闘職が発展した理由の一つは武器を手に入れたり、使いこなすには資金や技術が必要だから、一部の人間が戦闘を専門とする階級や職業が発達したらしい。
 しかしここでは武器がなく、誰もが素手で魔法という武器を扱える。専門性が必要ないってことだ。多分十年修行した達人よりも、そこら辺の村人が三人くらいいた方が役に立つ。これなら非常時にのみ、国民を徴兵する方式でも上手くいくのかもしれない。
 ただし、それはリーダーがしっかりしているか、敵が間抜けだったらの話だ。
「さてそれじゃあ、作戦第二段階スタート。狙うべきは海老だ」

 ヒトモドキは一組十人から三十人くらいの班に分かれて、班に一人ずつ海老を同行させているようだ。探知能力があるおかげで大体の位置は把握できる。やっぱりこいつら女王蟻の魔法について驚くほど無知だ。いくら探索するためとはいえ戦力を分散させ過ぎじゃないか?
 海老は足が遅く、巨体故に森を駆け回るのは難しい。必然的に急いで集合すれば海老は取り残される。森をたった一人でさまよう海老は格好の獲物だった。ヤシガニはいい囮になってくれた。しかもオレの部下でも何でもないから実質コストゼロ。
  一人、また一人と弓矢で狩っていく。どうもヒトモドキは海老の重要性をさっぱり理解していないらしく、海老に護衛を一切つけていない。集合の合図らしき角笛に誘蛾灯に群がる虫よろしく集まっているようだ。
 笑いが止まらんとはこのことか。全部計算通りっていうよりヤシガニと戦わせたら隙ができるかなあ、ていうくらいの作戦だったけどはまりすぎだ。相手がアホなのかそれともオレの軍才が開花したのか……まあ前者だろうな。敵が弱いのはいいことだ。兵を無駄死にさせなくて済むからな。
 しかしここからはそうはいかない。何しろ敵の本丸にほとんどの残りの海老が集まっている。流石に気づかれるだろう。万が一に備えて千尋と蜘蛛部隊を待機させてあるから全滅することはないだろうけど、速やかに目標を達成し、撤退すべしだな。

 そして、いままさにヤシガニとヒトモドキが戦いを繰り広げる争いの場に足を踏み入れた。
 ヒトモドキもこちらに気付いたらしく、応戦してくるけど無視できる範囲で無視する。
「目標は海老だけだ! 弓、斉射!」
 どうやら海老は一か所に集まっていたらしく、狙うのは容易かった。しかしこう固まられたら一度や二度の弓では殺せない。
 流石にこっちの狙いに気付いて海老をガードされ……ない?
 ヒトモドキはさっきと変わらずにただ<弾>を撃ってくるだけ。被害は出るけど、これならそのうち海老を全滅させることも……げ。あいつ、アグルが何やら叫んで海老を守るように陣形を整え始めた。その動きは緩慢だったけど、徐々に防衛線ができつつある。流石に馬鹿ばっかりじゃないか。アグルの奴性格はあれだけど有能だな。
「紫水。突っ込ませようか?」
 小春の問いに少しだけ考え込む。その場合のこっちの被害と向こうの被害。どっちが大きいかはわからない。中国の軍神とかローマのトラちゃんでもいればパパっと計算できるんだろうけどいないもんはいない。
 だったら凡人らしく安全策で行こうか。どのみち
「いや、撤退していい。目的は大体達成している」
 逃げる時も帰還する場所を悟られないように、適度にばらけさせる。とはいえ追撃はなかなか激しく、十名ほどの働き蟻を殺された。
「じゃあ、第二段階だ。抜かるなよ?」
 次に狙うのは村だ。
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