うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第44話 北へ

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「気色悪い笑い方すんなお前……」
「うるさいわよおっさんガキ」
「その呼び方やめてくれねえか? ……まあいいや。んじゃ、真子。そっちの机の契約書に触れてくれ」
「え、あ、はい。ククニ」
「ようやくですな」
 シュルシュルとククニが机をよじ登り、ちろりと舌を契約書に触れさせる。
 だが、部屋は突然暗闇に包まれた。
「え、え!? ク、ククニ!? 何したの!?」
「何もしていないはずですが……ふむ。失敗がございましたかな」
「あー、別にお前ら悪くねえよ。これ、スカだ」
「ス、スカ? え、し、失敗しちゃったってことですか?」
「そうだな。確率の問題だし、気にすんな。明日またリトライしてくれんのが一番ありがたいな」
「そ、それしないとどうなるんですか?」
「俺がもっぺんギフト使うだけだ。気にしなくていいぞ」
「それはまずいでしょう。ギフトを使うということはまた年齢が下がるということですよ」
 五月の声にはわずかに焦りがにじんでいた。小学生のように見える草野があとどれくらいギフトの使用に耐えられるかはわからない。
「見た目はあんまり変わってないけど……」
「あー、俺のギフトの代償は数日くらいかけて払われるんだよ。だからあんまりいっぺんに使わないようにしてる。まあ別に一回くらい……」
「だ、だ、だ」
「ダダだだーん? ヴェートーベン?」
「い、いやそうじゃなくて……だめですよ、そ、そんなの……草野さんがこ、これ以上ちっちゃくなったら、もう、小人にな、なりますよ」
「いや、ならないでしょ」
 思わず葵は突っ込んだ。
 代償はあくまでも年齢であって身長ではないのだ。
「あー、まあ言いたいことはわかったよ。心配してくれてありがとな。つーわけで葵、五月。お前ら二人で行ってこい」
「わかりました」
「え、なんで?」
 承諾したのが五月。疑問を返したのが葵だった。
「飛行機のチケットもう取ってんだよ。ベアは専用の飛行機じゃないと無理だからちょっと遅れるな。河登はわかんねー」
「いや、明日学校。そもそもどこ行くの? 聞いてないんだけど」
「北海道。馬って言ったら北海道だろ」
「いや知らないわよ」
「北海道は日本最大の場産地です」
「そうなの? いやいや、でも学校サボるのはさすがに」
「じゃあ自腹で行くか?」
「北海道に行きます」
 葵は脊髄反射で即答した。



 翌日。
 葵と五月は北海道行の航空機内で横の座席にいる二人で談笑……というにはいささか堅苦しい会話をしていた。
「つまりサラブレッドの原種となった馬がいつごろ家畜化されたのかははっきりしませんが、すでに絶滅しています」
「歴史的には……いわゆる騎兵というものが生まれる前は戦車、当然だけどタンクじゃなくてチャリオットの方。それを曳くのが戦場では一般的だったらしいわね」
「それだけ馬という生き物は品種改良を重ねられているということです。馬の大型化が進んだからこそ騎兵というものが生まれたとも聞きますし」
「人類の文明発生初期に馬の家畜化が始まったとも言われてるわね。だから馬をモチーフにした神様は多いわよ。昔は飛行機なんてなかったから、代表的な乗り物である馬車を天体の運行に見立てて太陽とも密接なつながりがあるケースが多いわ」
「お互いにそれなりに馬に対する知識はある。ということは」
「ええ。馬という生き物は生物学、歴史学、どちらにとっても極めて重要ってことね。……ていうか……」
「なんでしょうか」
 はて、と首をかしげながら葵は疑問をこぼした。
「何でこんな会話してるんだっけ」
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