うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第46話 空の上の戦い

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 かすかな悲鳴さえも漏らさなかったのは二人ともそれなりに戦いの経験を積んでいたからだろう。
 だがそれでも平静を取り戻すにはしばしの時間を要した。
「五月。これって……」
「ええ。新手のギフテッドです」
 呑気な空の旅が一転、凄惨な戦場に代わった葵と五月はさっきよりも声を低くした。
「わたしたちを狙った……わけじゃないわよね。あの男の人がオーナーだった?」
「おそらく、違います」
「でもこの様子じゃあ……」
「はい。間違いなく乗客のみなさんはこの事態に気づいていません」
 五月の言う通り、この惨状を前にして誰一人声をあげないのはおかしい。この戦いは誰の目にもとまらず、記憶には残らない。その事実からもこれがギフトによる攻撃なのは間違いない。
「おかしくない? 無関係の人がギフトで攻撃されたら記憶が残るはずよね?」
 その認識は間違っていない。
 が、どんなルールにも抜け穴はある。
「このギフトはランダム性があるか、条件を満たした相手しか発動しない類でしょう。それなら今の私たちのようにオーナーやギフトが効果範囲にいる可能性がゼロではありません。つまりこの戦いに関係があるとみなされます。……金銭や怨恨で一般人を狙うオーナーやギフテッドの常套手段です」
 葵もあまりの悪辣なやり方に眉間に深くしわを寄せた。
「……今のところ殺された男の人は死んだように眠ってるようにしか見えないってことね。……なら、もう少し様子を見るのもありかもね。金目当てなら死体を物色しに来たオーナーが現れるかもしれない」
「本気で言ってるんですか?」
 思わず五月は怒りを声ににじませた。何しろ葵は無関係の一般人を平然と攻撃した相手をしばらく泳がせると言っているのだ。
 どんなギフトかわからないため、第二第三の犠牲者が出るかもしれないのにもかかわらず。
「わたしたちの目的は馬のギフテッドでしょ? どう考えてもこいつは違うじゃない。なら、できる限り消耗は避けるべきでしょ」
 飛行機に持ち込める動物なら限られる。ギフテッドもまた、一般人の目には映らない場合もあるが、オーナーである葵と五月に気づかれずに馬を飛行機に乗せられるとは思えない。
 だからここでの戦いは余計でしかないのだ。
「理屈はわかりますが、乗客がどうなってもいいんですか?」
「よくないけどしょうがないでしょ。戦うのはさつまやアポロちゃんだし」
 葵の反応はそっけない。一般的な正義感は有しているが、それ以上に自らの飼い猫を危険にさらすことをよしとしない。
 だからこそ、五月は説得の言葉をすぐに導き出した。
「……このギフトの対象にはさつまも含まれているはずですよ」
 その言葉に驚くほど迅速に反応した。
「ごめん。考えが足りなかったわ。すぐに対応しましょう」
 手のひら高速ドリルの如き態度の急変に戸惑いを感じたが、いつも通りの葵に頼もしさを感じたのも事実だった。
「ではまずアポロ……いえ、さつまを呼びましょう」
「アポロちゃんを呼んだら……あ、敵に気づかれちゃうか」
「ええ。おそらく敵は私たちがオーナーであることに気づいていません。その有利を活かすためになるべく密かにことをすすめましょう」
 五月が懐から取り出したのはプラスチック製の犬笛だった。
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