うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第60話 ある日町の中で

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「貴様……何を言っている?」
「言葉のとおりよ。手を組まない?」
 マロンキャノチーは今までの怒りが消え、本気で困惑していた。
「お前、俺の言っていることが冗談か何かだと思っているのか?」
「思ってないわよ。人類、滅ぼしたいんでしょ?」
「わからん」
 五月とアポロは心の中で全力で同意した。さつまだけがそれがどうしたと言わんばかりに頭をかいていた。
「人類の中に自分が入っていないとでも言うつもりか?」
「いいえ。わたしはれっきとした人間よ。でもね、私にとって最優先は私の飼い猫のさつまよ。だからあなたがさつまをきちんと幸せにしてくれるならわたしの命なんてどうでもいいわ」
 曇りのない眼で、淡々と当然の事象を説明するかの如く語る。それを見れば否が応でも理解せざるを得ない。
 葵は本気だと。
 だからこそだろう。マロンキャノチーも至って真摯に答えた。
「拒否する。俺は猫の世話なぞするつもりはない」
「あらそう。ならあなたは何がしたいのかしら。いえ、それとも人間をどうし……あら」
 さつまが髭と耳をぴくぴくと、何かを探るように動かしていた。
 同時にアポロとマロンキャノチーも耳と首を動かす。
 彼らの鋭敏な聴覚は異変を察知したのだ。
「残念。時間切れ……いえ、粘り勝ちかしら」
 葵がつぶやくと、五月の耳にさえ、それが聞こえた。
 岩が転がるような、力強い足音が徐々に近づいてくる。
「皆本さん。まさか……」
「そ。援軍を呼んでおいたわ」
 地鳴りが一瞬止む。
 次の瞬間には巨大な影が隕石のように大地を抉った。
 口からよだれをたらし、牙をむき出しにする肉食獣そのものの風体のグリズリー、ベアトリクスは。
「ごめんなさい。おばちゃん遅れちゃったわ」
 とても、とても、彼女の言葉と様子はミスマッチだった。



 話は葵がマロンキャノチーに吹き飛ばされた時に遡る。
 とてつもない衝撃を受けた彼女は運よく気絶した。
 そして眠った彼女はククニのギフトによって夢の世界に招かれた。
「おや。お嬢様。お休みですかな」
「ええ。絶賛休憩中よ。もうちょっと長引くと永遠の眠りになるわよ」
「それはそれは。あらかじめ吾輩に一報を入れておいて正解でしたな」
 札幌に到着した時、特害対にも連絡したが、その時待ち伏せを警戒した葵が念のためククニにギフトを使えるように眠ってもらったのだ。
「吾輩のギフトは女性が月のものであれば夢に招けますからな。まあ、お嬢さんも眠っていなければスキルが使えないため戦えないのでほとんど意味はありませんな」
「でも、連絡は取れる。ラプラスにスマホとかは使えないようにされてるけど、ギフトなら使える。ククニちゃん。いますぐベアさんに連絡して北見牧場に来るように伝えて」
「委細承知」
 一刻を争う事態だとすぐに理解したククニはギフトを打ち切り、どのようにかして、ベアに危急を伝え、かろうじて間に合ったのだった。
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