うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第63話 日は誰にでも降り注ぐ

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 白い巨体が暴風のように荒れ狂う。
 コンクリートがひび割れ、樹木がなぎ倒される。マロンキャノチーはもはや止めようもない災禍となって一人と二頭を圧倒していた。
 ベアでさえ、その豪脚を受け止めることはできず、ただ避けることに注力している。
「五月!」
 そこにさつまを連れだった葵が叫びながら到着する。
「新しいスキルを使って!」
 瞬時に答えたのは今まで共に戦ってきた経験の賜物だろう。
「『ベット』!」
 マロンキャノチーの目の前にカードが出現する。系統樹のような幾何学的な模様だった。
 そのアクションをほぼ無視するように背後に砂を弾き飛ばす。
 なんとか葵は躱す。
(五月のアクションが完了するまで相手が何もアクションをしなければ十秒でスキルが使える! でも……)
 葵も、五月も、アポロも、ベアも、新しいスキルが何か突破口を開くものだろうと予想している。
 だが。
(これ相手に十秒はきつすぎない!?)
 絶望的に長い十秒が始まった。

 マロンキャノチーの後ろ足に咬みつこうとしたアポロが反撃を予想してさっと下がる。
 それを見たベアが胸元にとびかかるが逆にマロンキャノチーの歯がまだ動く方の肩に食い込む。
 馬の歯は肉を切り裂く鋭さはないものの、ギフトで強化すれば骨を砕く鈍器にはなりうる。
 葵と五月は二人で横合いから挟み込むように右こぶしを叩き込むが、サイズ差がありすぎて有効打にはなりえない。そこに液体になったさつまが蛇のように顔めがけて飛び掛かる。
 歯を離し、顔を背けてそれを躱す。
 単純な破壊ではなく、呼吸を止めようとするさつまが彼にとって一番の脅威なのだろう。
 そしてようやく、十秒。
 マロンキャノチーのカードが消え去り、同時にアポロのスキルが使用可能になる。
「ち」
 どんなスキルなのか、警戒する目的もあったのか、マロンキャノチーはいったん距離を取った。
 もっとも加速してからの突進がマロンキャノチーの本命なのだろうが。
「五月。お願い」
「はい。『ソリス』」
「う、ワウウウウウ!!!!」
 叫ぶアポロの口元から黒い球体を吐き出し、それから光が放出される。
 その光は全員に降り注ぎ……アポロだけが強く輝き、その光ほどではないものの、マロンキャノチーも輝いていた。
「そういうことですか! このスキルの使い方は!」
 得心した五月に対して何が何やらわからないマロンキャノチーとベアトリクスは困惑していた。
 そう。アポロの新しいスキルは太陽の性質を持つギフトを強化する。ここで重要なのは、誰を、という文言がないことである。
 つまりこのスキルは自分だけでなく、敵にも味方にも効果がある。
 味方はともかく、敵に使う意味はあるのか。むしろ逆である。このスキルの真価は敵に使うことで発揮される。

 なぜなら、相手のギフトが太陽の性質を持っているかどうか判断できるのだ。

 ギフテッド同士の戦いは情報戦だが、能動的に情報を取得する手段には乏しい。相手のアクションや、戦い方などから判断するしかない。だがこのスキルなら相手が強化されてないかどうかで判断可能だ。
 太陽という神話や伝説においてかなり重要な意味をもつ存在を推理に組み込めるか否かはギフトの特定にかなり重要なのである。
「葵様! このスキルはわずかながら相手にも有効ですワン!」
 そのどんな黄金よりも輝く情報を相手に伝わらないように暗に示す。
 それを聞いた葵は全力で頭を回転させる。
 馬。
 白。
 巨大化。
 インド神話。ヒンドゥー教。ヴィシュヌ。宇宙の縮図。天体の運行。太陽。犠牲。白馬。敵か味方か。群れ。人間。
 あまたの情報を束ねて導き出した結論は。
(絞り切れない!)
 あまりにも無情だった。
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