127 / 141
第二章
第64話 二者択一
しおりを挟む
(あと一つ、一つなのに! どうしても二柱から絞れない!)
葵は奥歯を砕きそうなほど強くかみしめるが、現実は変わらない。
(二分の一の確率に賭ける? いや、そんなあまりにも低い確率に身をゆだねるなんてできるわけないでしょ!)
現実はゲームと違い、何度もやり直せるわけではない。負ければ死ぬことと同様の戦いで二分の一というのはあまりにも重い。
「皆本さん!」
五月の声で我に返る。
マロンキャノチーは最後の秘策が失敗に終わったと判断したのか、こちらに向かって猛然と走り始めていた。
あれにまともにぶつかれば今度こそ死ぬだろう。
そして。
単純な速度で先ほどより上回るマロンキャノチーを避けられる可能性は低い。
覚悟を決めようとした瞬間。
「おっばちゃんに任せなさーい!」
威勢のいい声と共にベアトリクスがマロンキャノチーの進路を阻む。
真正面からぶつかった二頭はやはりベアトリクスの敗北となり、彼女は砲弾のような勢いで吹き飛ばされた。
しかしバランスを崩したマロンキャノチーは態勢を立て直すために進路がずれてしまい、かろうじて葵は躱すことができた。
(もう時間がない! こうなったら……)
ちらりと視線を五月に送る葵。
それから肺に空気を思いっきり吸い込んでから叫んだ。
「『オールイン』! ハヤグリーヴァ!」
しん、と嫌な沈黙が落ちる。
『うけけっけ。残念ながら外れだ』
地面に描かれた模様から、ラプラスの声がする。二分の一の運試しは葵の敗北だった。
『ペナルティとしてギフトの情報を開示する』
マロンキャノチーの前にカードが出現する。
一旦停止していたマロンキャノチーはそのカードを見る余裕があった。
「む……お前のギフト……『オールイン』。ドラキュラ、か?」
「!」
厳密にいえばさつまのギフトは吸血鬼で、ドラキュラではない。しかし最も有名な吸血鬼であるドラキュラは外れとはみなされなかったらしい。
さっと鈍く輝く刃がさつまを一閃する。
「フニャー!?」
鋭い叫び声を上げ、倒れ伏すさつま。それを見て発狂したのはもちろん葵だった。
「さ、さつまああああああ!?」
ぐったりとするさつまを抱きかかえる。だがそんな明確な隙を敵が逃すはずもない。
マロンキャノチーが重戦車のように迫り、葵はさつまを庇った。十分な加速がなく攻撃というよりはたまたま足が引っかかっただけだったが、人間を三度殺傷しうる破壊力があった。
だが葵はまだ死んでいない。
「ぐ、げ、げほ、ごほ」
それを見て怪訝な反応をしたのはマロンキャノチーだ。
「お前……ギフト、いや、スキルの効果か? 猫のギフトは消えているはずだが……犬のギフトかスキルか?」
さすがに葵自身がギフテッドだとは気づかなかったらしい。
だからこそ、まだ健在である一組に目を向ける。
「アポロ!」
「はいですワン!」
ほとんど絶望的な戦力差だったが、それでも諦めることはない。
だからこそ、葵も諦めない。二分の一まで絞れたということは、もう一つ弾丸があれば真実を貫ける。
そしてオールインできるのは葵だけではない。五月がまだオールイン可能な状態なのだ。
「さ、さつ、き。こいつのギフト……!?」
口をぱくぱくと動かすだけで声が出ない。いくら呼吸が苦しくてもこれはあり得ない。
「ら、らぷ、ラプラスゥゥゥゥ!」
(こういう時にちょっかいをかけてくるやつが中立の審判なんだから本気で殺意が湧くのよ!)
答えを知っている葵が五月に口出しするのはルール違反だと判断されたらしい。
朦朧とする視界の端には足を踏みつぶされながらも立ち向かうアポロとそれを何とか援護する五月。
(思い出せ! 似たような状況は以前にもあった。あの時は……)
考える。
今五月には考える余裕がない。
だから、直感的にかつ、ラプラスが思いもよらない方法でギフトを伝えなければならない。
ぎりぎりと痛む頭で考えて、思い浮かんだのは友達の顔だった。
もう一度肺に空気をかき集め、全力で叫ぶ。
「五月!」
「五月!」
必死で敵の攻撃を捌きながら、葵の声を聴く。
なんとなく、ラプラスのせいで答えを直接言えないとも察している。だから何かヒントをくれると予想していた。
「佳穂が言ってたでしょ! 熱帯魚にいらないものは!?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
でも、あの陽だまりのような時間を思い出す。彼女は熱帯魚を飼うときには何に注意する必要があると言っていたか。
ふと、浮かんでくる言葉があった。
何かに操られるようにその言葉を紡ぎだす。
「『オールイン』。カルキ」
穏やかに放たれた言葉は空を揺らし、昼と夜が入れ替わるように明暗が繰り返される。
やがて完全な黒となった世界は、そのただなかに一つだけ存在する白い馬を飲み込んだ。
あとがき
年末年始のため、投稿速度が乱れます。
申し訳ありません。
葵は奥歯を砕きそうなほど強くかみしめるが、現実は変わらない。
(二分の一の確率に賭ける? いや、そんなあまりにも低い確率に身をゆだねるなんてできるわけないでしょ!)
現実はゲームと違い、何度もやり直せるわけではない。負ければ死ぬことと同様の戦いで二分の一というのはあまりにも重い。
「皆本さん!」
五月の声で我に返る。
マロンキャノチーは最後の秘策が失敗に終わったと判断したのか、こちらに向かって猛然と走り始めていた。
あれにまともにぶつかれば今度こそ死ぬだろう。
そして。
単純な速度で先ほどより上回るマロンキャノチーを避けられる可能性は低い。
覚悟を決めようとした瞬間。
「おっばちゃんに任せなさーい!」
威勢のいい声と共にベアトリクスがマロンキャノチーの進路を阻む。
真正面からぶつかった二頭はやはりベアトリクスの敗北となり、彼女は砲弾のような勢いで吹き飛ばされた。
しかしバランスを崩したマロンキャノチーは態勢を立て直すために進路がずれてしまい、かろうじて葵は躱すことができた。
(もう時間がない! こうなったら……)
ちらりと視線を五月に送る葵。
それから肺に空気を思いっきり吸い込んでから叫んだ。
「『オールイン』! ハヤグリーヴァ!」
しん、と嫌な沈黙が落ちる。
『うけけっけ。残念ながら外れだ』
地面に描かれた模様から、ラプラスの声がする。二分の一の運試しは葵の敗北だった。
『ペナルティとしてギフトの情報を開示する』
マロンキャノチーの前にカードが出現する。
一旦停止していたマロンキャノチーはそのカードを見る余裕があった。
「む……お前のギフト……『オールイン』。ドラキュラ、か?」
「!」
厳密にいえばさつまのギフトは吸血鬼で、ドラキュラではない。しかし最も有名な吸血鬼であるドラキュラは外れとはみなされなかったらしい。
さっと鈍く輝く刃がさつまを一閃する。
「フニャー!?」
鋭い叫び声を上げ、倒れ伏すさつま。それを見て発狂したのはもちろん葵だった。
「さ、さつまああああああ!?」
ぐったりとするさつまを抱きかかえる。だがそんな明確な隙を敵が逃すはずもない。
マロンキャノチーが重戦車のように迫り、葵はさつまを庇った。十分な加速がなく攻撃というよりはたまたま足が引っかかっただけだったが、人間を三度殺傷しうる破壊力があった。
だが葵はまだ死んでいない。
「ぐ、げ、げほ、ごほ」
それを見て怪訝な反応をしたのはマロンキャノチーだ。
「お前……ギフト、いや、スキルの効果か? 猫のギフトは消えているはずだが……犬のギフトかスキルか?」
さすがに葵自身がギフテッドだとは気づかなかったらしい。
だからこそ、まだ健在である一組に目を向ける。
「アポロ!」
「はいですワン!」
ほとんど絶望的な戦力差だったが、それでも諦めることはない。
だからこそ、葵も諦めない。二分の一まで絞れたということは、もう一つ弾丸があれば真実を貫ける。
そしてオールインできるのは葵だけではない。五月がまだオールイン可能な状態なのだ。
「さ、さつ、き。こいつのギフト……!?」
口をぱくぱくと動かすだけで声が出ない。いくら呼吸が苦しくてもこれはあり得ない。
「ら、らぷ、ラプラスゥゥゥゥ!」
(こういう時にちょっかいをかけてくるやつが中立の審判なんだから本気で殺意が湧くのよ!)
答えを知っている葵が五月に口出しするのはルール違反だと判断されたらしい。
朦朧とする視界の端には足を踏みつぶされながらも立ち向かうアポロとそれを何とか援護する五月。
(思い出せ! 似たような状況は以前にもあった。あの時は……)
考える。
今五月には考える余裕がない。
だから、直感的にかつ、ラプラスが思いもよらない方法でギフトを伝えなければならない。
ぎりぎりと痛む頭で考えて、思い浮かんだのは友達の顔だった。
もう一度肺に空気をかき集め、全力で叫ぶ。
「五月!」
「五月!」
必死で敵の攻撃を捌きながら、葵の声を聴く。
なんとなく、ラプラスのせいで答えを直接言えないとも察している。だから何かヒントをくれると予想していた。
「佳穂が言ってたでしょ! 熱帯魚にいらないものは!?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
でも、あの陽だまりのような時間を思い出す。彼女は熱帯魚を飼うときには何に注意する必要があると言っていたか。
ふと、浮かんでくる言葉があった。
何かに操られるようにその言葉を紡ぎだす。
「『オールイン』。カルキ」
穏やかに放たれた言葉は空を揺らし、昼と夜が入れ替わるように明暗が繰り返される。
やがて完全な黒となった世界は、そのただなかに一つだけ存在する白い馬を飲み込んだ。
あとがき
年末年始のため、投稿速度が乱れます。
申し訳ありません。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる