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第二章
第65話 誰もいない
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オールインが成功したことにより巨大化のスキルが解除され、元の大きさに戻ったマロンキャノチーはぐらりと揺れる。
だが、地面に落ちる寸前でマロンキャノチーは足に力を込め、大地を踏みしめる。
「く、そ。だが、まだだ!」
マロンキャノチーはスキルが解除され、ギフトも大幅に減衰している。だが、そもそもサラブレッドはそのままの身体能力で十分人間と犬一匹を屠る力がある。
そして、これまでの戦いで全員負傷している。ギフトが看破された今、相手を逃がす選択肢はない。
がつがつと蹄とコンクリートがぶつかる音と一緒にマロンキャノチーが迫る。
右足が再生しきっていないアポロが血を流しながら咬みつくが、タイミングが合わず、胸元にぶつかる。
負傷のために体が上手く動かせないのだろう。
だがギフトが全力で機能していないために、マロンキャノチーも顔を歪め、一時速度を落とす。
そこに五月がローキックを放つ。
(私が今一番負傷していない! 私が何とかしないと!)
もちろん五月も無傷ではない。右腕がしびれて動かせず、額の傷のせいで右目が開いていない。
だがそれで手加減するような相手でもない。ぐっと伸びた頭をかろうじて躱し、目の前でがちりと歯が鳴る音が響く。
無理な体勢になったせいで地面に転ぶ。
踏みつぶそうとしたマロンキャノチーにアポロが食らいつく。
「邪魔だ!」
それを振り払うと、今度はぼろぼろになりながらも葵が横合いから体当たりをしかけた。もはや格闘技ではなく喧嘩の様相を呈していたが、作法を気にしている余裕はない。
足元からさつまも飛び掛かる。
ぼろぼろになっても、倒れた仲間がいれば立ちあがるまでの時間を稼ぐ。
ただその繰り返しだ。
(くそ)
マロンキャノチーはゾンビのように戦い続ける二人と二頭を見て心の中で悪態をつく。
(どうしてこいつらは戦える?)
歯で咬みついても、足で振り払っても何度でも立ち上がってくる。
どこかで聞いた言葉がよみがえる。
『ごめんなあ。こんなにかっこいいのに、こんなに速いのに、世間様はお前を認めてくれねえんだってよ。ごめんなあ』
あの時、彼は涙を流してマロンキャノチーに顔をうずめていた。
その少し後だ。
マロンキャノチーがギフテッドに目覚めたのは。
その直後だ。
縄で首を吊った彼を見つけたのは。
(ああ)
左足には髪の短いほうの女が動かすまいと組み付いている。髪の長いほうの女は倒れながらもこちらを睨んでいる。
(違う。そうじゃない)
猫は彼女を庇うように立ち、犬は彼の胸元に咬みついている。
(別に俺は人間が憎いんじゃない。俺はただ)
そしてそのずっと遠くには熊のオーナーらしき子供がこちらを見ている。
(どうして俺の背中には、誰もいないんだ)
二組に注意力を割かれていたマロンキャノチーは気づかなかった。
褐色の塊が猛進していることに。寸前で気づいた葵たちはぎりぎりで飛び退くと、ベアトリクスの全体重を乗せた突進はマロンキャノチーの右足に直撃した。
だが、地面に落ちる寸前でマロンキャノチーは足に力を込め、大地を踏みしめる。
「く、そ。だが、まだだ!」
マロンキャノチーはスキルが解除され、ギフトも大幅に減衰している。だが、そもそもサラブレッドはそのままの身体能力で十分人間と犬一匹を屠る力がある。
そして、これまでの戦いで全員負傷している。ギフトが看破された今、相手を逃がす選択肢はない。
がつがつと蹄とコンクリートがぶつかる音と一緒にマロンキャノチーが迫る。
右足が再生しきっていないアポロが血を流しながら咬みつくが、タイミングが合わず、胸元にぶつかる。
負傷のために体が上手く動かせないのだろう。
だがギフトが全力で機能していないために、マロンキャノチーも顔を歪め、一時速度を落とす。
そこに五月がローキックを放つ。
(私が今一番負傷していない! 私が何とかしないと!)
もちろん五月も無傷ではない。右腕がしびれて動かせず、額の傷のせいで右目が開いていない。
だがそれで手加減するような相手でもない。ぐっと伸びた頭をかろうじて躱し、目の前でがちりと歯が鳴る音が響く。
無理な体勢になったせいで地面に転ぶ。
踏みつぶそうとしたマロンキャノチーにアポロが食らいつく。
「邪魔だ!」
それを振り払うと、今度はぼろぼろになりながらも葵が横合いから体当たりをしかけた。もはや格闘技ではなく喧嘩の様相を呈していたが、作法を気にしている余裕はない。
足元からさつまも飛び掛かる。
ぼろぼろになっても、倒れた仲間がいれば立ちあがるまでの時間を稼ぐ。
ただその繰り返しだ。
(くそ)
マロンキャノチーはゾンビのように戦い続ける二人と二頭を見て心の中で悪態をつく。
(どうしてこいつらは戦える?)
歯で咬みついても、足で振り払っても何度でも立ち上がってくる。
どこかで聞いた言葉がよみがえる。
『ごめんなあ。こんなにかっこいいのに、こんなに速いのに、世間様はお前を認めてくれねえんだってよ。ごめんなあ』
あの時、彼は涙を流してマロンキャノチーに顔をうずめていた。
その少し後だ。
マロンキャノチーがギフテッドに目覚めたのは。
その直後だ。
縄で首を吊った彼を見つけたのは。
(ああ)
左足には髪の短いほうの女が動かすまいと組み付いている。髪の長いほうの女は倒れながらもこちらを睨んでいる。
(違う。そうじゃない)
猫は彼女を庇うように立ち、犬は彼の胸元に咬みついている。
(別に俺は人間が憎いんじゃない。俺はただ)
そしてそのずっと遠くには熊のオーナーらしき子供がこちらを見ている。
(どうして俺の背中には、誰もいないんだ)
二組に注意力を割かれていたマロンキャノチーは気づかなかった。
褐色の塊が猛進していることに。寸前で気づいた葵たちはぎりぎりで飛び退くと、ベアトリクスの全体重を乗せた突進はマロンキャノチーの右足に直撃した。
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