うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第67話 三人と三匹

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 郊外にある料亭。
 その雅な日本庭園の片隅でどう、と巨大な影が倒れる。
 その正体は三日月のような角を持つ水牛だった。
 倒れた先にいるのは若干若作りしたファッションに身を包んだ男性、河登昌行だった。
「あー、やってもうたなあ」
 妙に様になるヤンキー座りの態勢で頭をがりがりとかく。当然のように無傷だった。
「善側の生き残りに一分かかるとか……ほんま衰えたわ。そっちはどおやーポルチーニー」
 ひょっこりと松の木から姿を現したポルチーニに目線すら向けずに尋ねた。
「ひひ……すみません。苦戦したせいで行方とかは聞けませんでした」
 彼女の服はボロボロで、ところどころ素肌が露出した煽情的な格好だったが彼女自身も、河登も気にした様子はなかった。
「そうかー。まあしゃあないなー。しっかし……えらい状況が動いてんな」
「ひ? 状況、ですか……?」
「そ。あのコピーの奴が死んでから、派手な戦いは起きてへん。でも、あの子ら……葵と五月が会うてから静観しとったやつらも動き出しとる。もしかしたら、あの子ら、神様にでも気に入られとんのかもしれへんな」
 こんな戦いを巻き起こした神々に愛されることが幸福につながるのか。
 人の身である彼にはわかるはずもなかった。



 二日後。
 無事退院し、成田空港に戻った葵と五月、そしてさつまとアポロは全員が伸びをした。
「まじであの重傷でもすぐに治ったわね。ギフトさまさまよ」
「ですがベアさんはまだ治療中です。本当に、すごく無茶をしてくださったみたいです」
「さすがに北海道には行けないからこっちに戻ってきたらお見舞い品でも渡そうかしら……」
「それがいいでしょうね。そうだ。一つ質問があるのですが」
「何よ」
「マロンキャノチーに対して言ったことは本気ですか?」
「ああ。人類を滅ぼすってやつ? 半分くらいは本気よ?それが猫のためになるのならね」
 しれっと人類絶滅宣言を肯定する葵。
「あなたは人間が嫌いなんですか?」
「別に? 私も人間だし、文明の恩恵を受けてるんだから一般的な道徳はあるわよ。ただそれよりも大事なものがあるって思ってるだけ」
 嫌いや好きではなく、単に興味の問題なのかもしれない。あるいは……顔の見えない彼女にとって人類を愛着ある相手として認識できないのか。
「ま、でもあんたには結構助けてもらってるからね。私の邪魔しないなら見逃してあげてもいいわよ?」
「本気で人類を滅ぼすつもりですか……というか、人類が絶滅した世界で生きたいとは思いませんよ……その代わりと言っては何ですが、頼みを聞いてもらっていいですか?」
「ん? 何?」
 少しだけ五月はためらってから佳穂に言われたことを提案した。
「名前で呼んでもいいですか?」
「へ? ああうん別にいいけど。わたしはあんたの苗字より先に名前知っちゃったからずっと名前で呼んでるし」
「そうですか。では、あ、葵、よろしくお願いいたします」
「あれえ? なに恥ずかしがってんの?」
「気のせいです」
「ま、それでいいわ。どのみちしばらく……あれ? 真子」
 なぜか空港の柱の陰に隠れている真子を見つけて声をかけるとびくっと小動物のように震えていた。彼女が持つキャリーバッグの中にいるのはククニだろう。
「何してるのよ……」
「そ、その、と、友達同士が話してる、と、ところにま、混ざるの、な、難易度がた、高くて……」
「あーまあうん。頑張ったのはわかったわ。あ、それとベアさんに連絡してくれてありがとね」
「それに関しては私もお礼申し上げます。み……真子さんは私たちの命の恩人です」
 ぺこりと頭を下げる二人。
 それにつられてアポロとさつまも頭を下げるような仕草をした。
「え、あ、い、あ、あ、あ、ありがと、じゃ、ない。ど、どういたしまして」
 盛大にどもりながらも頑張って返事した真子を見てほのぼのとした気持ちになる。
「それでここまで出迎えに来てくれたの?」
「あ、いえ、そ、それもありますけど……そ、その」
 何か言いだそうと口の中でもごもごと舌を動かすが、言葉にならない。
 話が進まないことを察したククニが口を挟む。
「お嬢さんは特害対にあなたの家に住むことを提案され、本人もそうしたいようですな」
「ク、ククニ!」
 慌ててククニの口を塞ごうとするが、当然キャリーバッグの中のククニには手を出せない。
 母親との話し合いが上手くいかなかったか、上手くいった結果こうなったのか判断できなかったがいずれにせよ家主の意見が重要なのは間違いがなかった。
「んー、まあいいわよ」
「私の時よりずいぶん即決ですね」
「不満なの?」
「いえ、特に」
「不満そうじゃない」
「気のせいでしょう」
「えっと、あの、じゃあ、よろ、しく、お願いします」
「はい、よろしく」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますワン!」
 ふにゃあとさつまも鳴く。
 しかし、これからトラブルに出会うたびに同居人が増えるのはさすがに嫌だなーなどと葵は思っていた。


あとがき

第二章はこの話で終了します。第三章は再来週投稿予定です。
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