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第三章
第1話 ペットに必要なもの
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ペットを飼う際に最も必要なものは何か。
ずばり、お金である。
責任感? 覚悟?
たしかに必要だ。しかし精神論ではどうにもできないものはある。例えば居住環境や、特殊なペットならエサが高価になることもある。
どうしても家を空ける必要があることもあるかもしれない。
そういう時無尽蔵に資金があれば?
金で大半の問題は解決できるのだ。この論理に全く賛同できない人間は人生で一度も金銭トラブルに直面したことがない億万長者だけであろう。
では残りの問題の解決に必要なものは?
そう。
医者だ。
飼い主はほぼ素人である以上、知識もネットで仕入れたものか、家庭の医学レベルにとどまる。
もちろん数十年間ペットを飼っていた人ともなれば知識も相当になるが、そんな人でも間違うことはある。
そのために普段から診察してもらう、かかりつけ医を見つけることが重要である。
特に、犬や猫ではない、レアなペットには。
大水市から西へと電車を乗り継いで十駅ほど。さらにごく普通の民家が立ち並ぶ道路を並んで歩く。私は猫用のキャリーバッグ。真子は蛇用のケージ。五月だけが空の犬用キャリーケースをごろごろと転がしている。
……ちょっとしたブレーメンの音楽隊みたいだ。
「……さすがにちょっと重いわね……」
私の呟きに申し訳なさそうな反応をしたのは発育の良くない体の背を丸めて余計に小さく見える真子だった。
「ご、ごめんなさい……あたしのせいで……」
「ははは。そこはむしろ吾輩のせいでしょうな」
渋いいい声を響かせたのは蛇用のケージで緑のとぐろを巻いているククニだ。
言葉だけなら反省しているようだが、むしろ楽しんでいるような口調だった。それに顔を真っ赤にしたのは真子だった。
「ク、ククニは悪くないよ! で、でも、もっと反省して!」
「悪くないのに反省しろとはこれはいかに?」
「も、もっと誠意とか、そ、そんな感じ……」
あいも変わらず漫才を続けていた二人をたしなめたのはしゃんと背筋を伸ばしていた五月だ。
「一番悪いのは車を出してくれなかった特害対ですから、喧嘩はやめましょう」
「そうですワン! ですが散歩も嫌いではありませんワン!」
ギフテッドの中でただ一人歩いているドーベルマンのアポロは元気そうにそう吠えた。
「ま、そうよね。急ぎの仕事だとかなんとか……あー……早く免許欲しいわね……」
ペットを飼うなら車は必須とまでは言わないもののあったほうが絶対に良い。
少なくとも今日のようにケージを担いで歩く必要はあまりなくなる。
残念ながらもう少し待たなければ免許は取得できないのだ。我慢我慢。
そんな会話に我関せずとばかりに、くあ、とあくびしたさつまはそのまま香箱座りになった。
事の始まりは数日前。
北海道に行って戻り、またしても南野真子とそのギフテッドである蛇のククニが我が家に引っ越してくることになった。
ありがたいことに必要な器具などの手配はオーナーとギフテッドの互助組織、特別獣害対策委員会、略して特害対が行ってくれた。
のだが、重要なことを見逃していた。
『ねえ、ククニちゃんってかかりつけ医はいるの?』
私の疑問に真子もククニも応えられなかった。
真子の家庭環境はお世辞にも良好とは言えなかったため、ペットを飼うときのイロハを知っているはずはなかった。
さらに厄介なのは蛇というややマイナーなペットであるという点だ。
そのためきちんとノウハウのある病院は限られる。
ありがたいことに特害対の伝手でそういう病院を紹介してもらえたのでそこに向かうことになった。
が、迎えの車が来ない。
連絡してみると急用があったとのこと。
こうしてケージを引っ張り出し、病院に遅れると連絡を入れ、電車で必死になって動物病院へと向かうことになったのだった。
ずばり、お金である。
責任感? 覚悟?
たしかに必要だ。しかし精神論ではどうにもできないものはある。例えば居住環境や、特殊なペットならエサが高価になることもある。
どうしても家を空ける必要があることもあるかもしれない。
そういう時無尽蔵に資金があれば?
金で大半の問題は解決できるのだ。この論理に全く賛同できない人間は人生で一度も金銭トラブルに直面したことがない億万長者だけであろう。
では残りの問題の解決に必要なものは?
そう。
医者だ。
飼い主はほぼ素人である以上、知識もネットで仕入れたものか、家庭の医学レベルにとどまる。
もちろん数十年間ペットを飼っていた人ともなれば知識も相当になるが、そんな人でも間違うことはある。
そのために普段から診察してもらう、かかりつけ医を見つけることが重要である。
特に、犬や猫ではない、レアなペットには。
大水市から西へと電車を乗り継いで十駅ほど。さらにごく普通の民家が立ち並ぶ道路を並んで歩く。私は猫用のキャリーバッグ。真子は蛇用のケージ。五月だけが空の犬用キャリーケースをごろごろと転がしている。
……ちょっとしたブレーメンの音楽隊みたいだ。
「……さすがにちょっと重いわね……」
私の呟きに申し訳なさそうな反応をしたのは発育の良くない体の背を丸めて余計に小さく見える真子だった。
「ご、ごめんなさい……あたしのせいで……」
「ははは。そこはむしろ吾輩のせいでしょうな」
渋いいい声を響かせたのは蛇用のケージで緑のとぐろを巻いているククニだ。
言葉だけなら反省しているようだが、むしろ楽しんでいるような口調だった。それに顔を真っ赤にしたのは真子だった。
「ク、ククニは悪くないよ! で、でも、もっと反省して!」
「悪くないのに反省しろとはこれはいかに?」
「も、もっと誠意とか、そ、そんな感じ……」
あいも変わらず漫才を続けていた二人をたしなめたのはしゃんと背筋を伸ばしていた五月だ。
「一番悪いのは車を出してくれなかった特害対ですから、喧嘩はやめましょう」
「そうですワン! ですが散歩も嫌いではありませんワン!」
ギフテッドの中でただ一人歩いているドーベルマンのアポロは元気そうにそう吠えた。
「ま、そうよね。急ぎの仕事だとかなんとか……あー……早く免許欲しいわね……」
ペットを飼うなら車は必須とまでは言わないもののあったほうが絶対に良い。
少なくとも今日のようにケージを担いで歩く必要はあまりなくなる。
残念ながらもう少し待たなければ免許は取得できないのだ。我慢我慢。
そんな会話に我関せずとばかりに、くあ、とあくびしたさつまはそのまま香箱座りになった。
事の始まりは数日前。
北海道に行って戻り、またしても南野真子とそのギフテッドである蛇のククニが我が家に引っ越してくることになった。
ありがたいことに必要な器具などの手配はオーナーとギフテッドの互助組織、特別獣害対策委員会、略して特害対が行ってくれた。
のだが、重要なことを見逃していた。
『ねえ、ククニちゃんってかかりつけ医はいるの?』
私の疑問に真子もククニも応えられなかった。
真子の家庭環境はお世辞にも良好とは言えなかったため、ペットを飼うときのイロハを知っているはずはなかった。
さらに厄介なのは蛇というややマイナーなペットであるという点だ。
そのためきちんとノウハウのある病院は限られる。
ありがたいことに特害対の伝手でそういう病院を紹介してもらえたのでそこに向かうことになった。
が、迎えの車が来ない。
連絡してみると急用があったとのこと。
こうしてケージを引っ張り出し、病院に遅れると連絡を入れ、電車で必死になって動物病院へと向かうことになったのだった。
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