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第三章
第4話 イタリア料理店に行こう
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この近辺は遠目に山々が見える程度には田舎に近いが、運良くというべきだろうか。
ペット同伴可能なレストランが比較的近場に見つかった。
夏場ではなく、春のうららかな日差しなら歩いていけそうな距離だった。
ほどなくして観葉植物に囲まれた、いかにもこじゃれた雰囲気のイタリアンレストランに到着した。
その店の前に立った途端に挙動不審になったのは真子だ。
きょろきょろとあたりを見回し、葵と五月の後ろに隠れている。
「どうしたのよ」
「そ、その、こういうお店……っていうか外食自体すごく久しぶりだから……き、緊張して……」
「安心しなさい。私もちょっと緊張してるわ」
葵も一人暮らしになってからは外食をあまりせず、自分で予約までしたのは初めてなのだ。
戸惑いがあるのも無理はない。
「えっと、お、お金とか大丈夫ですか……?」
「それは心配ないわ。車を出してくれなかった詫びとして昼食代を出してもらえることになったから」
先ほど電話していたのはそういう目的もあった。
「あ、あうう……」
逃げ道を塞がれたように感じた真子は助けを求めるように五月とアポロの方に視線を向ける。
「……早く行きましょうか」
「はいですワン!」
もちろんそれには応えずすたすたと五月は進む。意外というべきか、
「ささ、お嬢さん。早くまいりましょうか」
「ククニ……楽しんでない……?」
「いやいや、そんなまさか」
「ぜ、絶対楽しんでるよ……」
諦めた真子は葵たちの後に続いた。
店員に案内されたのは屋外のテラス席だった。
プランターに植えられた色とりどりの花が目も癒してくれる。
ひとまずメニューを見る。オーソドックスな洋食のように思える。
だが真子の顔色は晴れない。
「あ、あの……これ、わたし、食べられない……アレルギーで……」
実のところ真子が一番外食をためらっていた理由はこれだ。
自分一人だけがまともな食事ができない……というより、そのせいで他人に気を遣わせるのが耐えられないのだ。
そんな真子に対して葵は一枚の紙をすっと差し出した。
「え、えっと、これは……?」
「前やった血液検査の結果よ。覚えてない?」
「あ、あー……アレルギーを詳しく知りたいって……」
本人に自覚はないが料理が半ば趣味になっている葵にとって同居人にアレルギーがあることは見過ごせないので詳しい検査を求めて、その結果が今朝郵送されてきた。
そしてその結果こそが問題だった。
「え……これ。え!? あ、アレルギー、ほとんど、ない!?」
「そ。真子。あなたはほとんどアレルギーを持ってない。強いて言うならハウスダスト。食事によるアレルギーはほぼ発生しないと思っていいわ」
「それはつまり……真子さんのお母さんが嘘をついていたと……?」
「そ、んな……」
以前の夢の中では真子は母親が毎日食事を用意していることに感謝しているようだった。だが、それも真子重篤なアレルギー症状を見せるという前提があればの話。
そもそもアレルギーを持ってないなら話は別だ。
「……代理ミュンヒハウゼン症候群の疑いもありますね」
目を伏せながら五月は妙な病名を呟いた。
「な、なんですかそれ?」
「子供などをわざと傷つけて自分が目立とうとする虐待の一種です。オオカミ少年病などと揶揄されることもありますね」
「う、うそでしょ……あの人、私のこと、なんだと思ってたの……?」
「子供のころちょっとしたアレルギーが出て、過剰に反応し続けちゃう親もいるらしいけど……」
「だとしても、情報を更新しないのは親の責任を果たしているとは言えません」
「よくわかりませんが……結局、真子様はご飯を食べられるですワン?」
「ええ。お嬢さん。重要なのはあなたが何を食べたいのか、ということですな」
はっと、動揺から立ち直った真子は一心不乱にメニューを眺め始めた。
なんということはない。彼女も自由に美味しいものを食べたかったのだ。
ペット同伴可能なレストランが比較的近場に見つかった。
夏場ではなく、春のうららかな日差しなら歩いていけそうな距離だった。
ほどなくして観葉植物に囲まれた、いかにもこじゃれた雰囲気のイタリアンレストランに到着した。
その店の前に立った途端に挙動不審になったのは真子だ。
きょろきょろとあたりを見回し、葵と五月の後ろに隠れている。
「どうしたのよ」
「そ、その、こういうお店……っていうか外食自体すごく久しぶりだから……き、緊張して……」
「安心しなさい。私もちょっと緊張してるわ」
葵も一人暮らしになってからは外食をあまりせず、自分で予約までしたのは初めてなのだ。
戸惑いがあるのも無理はない。
「えっと、お、お金とか大丈夫ですか……?」
「それは心配ないわ。車を出してくれなかった詫びとして昼食代を出してもらえることになったから」
先ほど電話していたのはそういう目的もあった。
「あ、あうう……」
逃げ道を塞がれたように感じた真子は助けを求めるように五月とアポロの方に視線を向ける。
「……早く行きましょうか」
「はいですワン!」
もちろんそれには応えずすたすたと五月は進む。意外というべきか、
「ささ、お嬢さん。早くまいりましょうか」
「ククニ……楽しんでない……?」
「いやいや、そんなまさか」
「ぜ、絶対楽しんでるよ……」
諦めた真子は葵たちの後に続いた。
店員に案内されたのは屋外のテラス席だった。
プランターに植えられた色とりどりの花が目も癒してくれる。
ひとまずメニューを見る。オーソドックスな洋食のように思える。
だが真子の顔色は晴れない。
「あ、あの……これ、わたし、食べられない……アレルギーで……」
実のところ真子が一番外食をためらっていた理由はこれだ。
自分一人だけがまともな食事ができない……というより、そのせいで他人に気を遣わせるのが耐えられないのだ。
そんな真子に対して葵は一枚の紙をすっと差し出した。
「え、えっと、これは……?」
「前やった血液検査の結果よ。覚えてない?」
「あ、あー……アレルギーを詳しく知りたいって……」
本人に自覚はないが料理が半ば趣味になっている葵にとって同居人にアレルギーがあることは見過ごせないので詳しい検査を求めて、その結果が今朝郵送されてきた。
そしてその結果こそが問題だった。
「え……これ。え!? あ、アレルギー、ほとんど、ない!?」
「そ。真子。あなたはほとんどアレルギーを持ってない。強いて言うならハウスダスト。食事によるアレルギーはほぼ発生しないと思っていいわ」
「それはつまり……真子さんのお母さんが嘘をついていたと……?」
「そ、んな……」
以前の夢の中では真子は母親が毎日食事を用意していることに感謝しているようだった。だが、それも真子重篤なアレルギー症状を見せるという前提があればの話。
そもそもアレルギーを持ってないなら話は別だ。
「……代理ミュンヒハウゼン症候群の疑いもありますね」
目を伏せながら五月は妙な病名を呟いた。
「な、なんですかそれ?」
「子供などをわざと傷つけて自分が目立とうとする虐待の一種です。オオカミ少年病などと揶揄されることもありますね」
「う、うそでしょ……あの人、私のこと、なんだと思ってたの……?」
「子供のころちょっとしたアレルギーが出て、過剰に反応し続けちゃう親もいるらしいけど……」
「だとしても、情報を更新しないのは親の責任を果たしているとは言えません」
「よくわかりませんが……結局、真子様はご飯を食べられるですワン?」
「ええ。お嬢さん。重要なのはあなたが何を食べたいのか、ということですな」
はっと、動揺から立ち直った真子は一心不乱にメニューを眺め始めた。
なんということはない。彼女も自由に美味しいものを食べたかったのだ。
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