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第三章
第5話 失踪
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それからの真子は忙しそうだった。
イカ墨のパスタをかきこみ、むせそうになったり、あつあつの若鳥のグリルを食べて舌を火傷しそうになったりしたが、それでも楽しそうだった。
どのような意図が真子の母親にあったのかわからない。しかし彼女の無意味な食事制限が真子の笑顔を奪ってきたのだとしたら、やはり毒親のそしりは免れまい。
真子は今までの無味乾燥な食の思い出を取り戻すかのように夢中になって食事を味わっていた。
外食を終えてから、帰宅する。
ケージやら何やらを持ちながらの道中はやはり面倒ではあったが、行きよりも気分は軽かった。
得に真子は、彼女にしては珍しくにこにこと笑顔のままだった。
いつものように、本来なら二つの家族が住めるだけのスペースのある家の玄関をくぐる。
ずっと狭い場所にいたさつまをケージから出すと、ぶるる、と身震いしてからどこかに行こうとして……Uターンして別の場所に向かう。
「さつま? どうしたの?」
鼻と耳をぴくぴく動かし、何かを探しているようだ。
ててて、と家の中を散策する。
その様子がなぜか気になり、葵もついていく。
立ち止まったのはラットの忠一の部屋の前だ。
「さつま? 忠一ちゃんが気になるの?」
忠一はこの家に迎えるときにすでに検査などを済ませていたため病院には同行しなかった。もうギフテッドではない忠一に何度も病院に向かわせるのはストレスになるだろうという判断だ。
さつまは部屋の扉をひっかいて、部屋に入れてくれと言いたげだ。
いつもと違う様子に胸騒ぎがする。
ゆっくりとドアを開ける。
そこには……誰もいなかった。空っぽのケージだけがあった。
血液が沸騰するような、焦りがつのる。忠一ちゃんを探そうとして、少しだけ間を置いた。
何もかも一人でやるべきではない。特に、善の神と悪の神の戦いという非日常に巻き込まれている間は。
「五月! アポロちゃん! 真子! ククニちゃん! 忠一ちゃんがいなくなった! 探してくれない!?」
数分後。
ギフテッドとオーナーが血眼になって一匹のラットを探したが影も形もなかった。
だが、アポロだけは痕跡を見つけた。
忠一のではなく……下手人の痕跡を。
リビングに一堂に会した面々はアポロの報告を聞く。
「わずかですがこの家の住人のものではない臭いがしましたワン」
「ふむ。それでは何者かがこの部屋に侵入したのち、忠一殿をかどわかしたということですかな?」
「はい。私が確認した限り、鍵はすべて閉まっていました」
「……金目のものも盗られてない。普通に考えて空き巣の犯行じゃない。……十中八九ギフテッドとオーナーの仕業ね」
薄々と察してはいたものの、葵の言葉に誰もが頷かざるを得なかった。
「で、でもなんでちゅ、忠一を盗んだんでしょうか」
「人質……いえ、ネズミ質でしょうか」
「語呂悪いわね……普通に考えればそうなんだけど……ギフテッドが関わっているとなると……」
すると突然、奇怪な叫びが響いた。
『き、ひひひひ! ひっかかったでしね!』
少年のような、少女のような少し高い、舌っ足らずな声だった。
イカ墨のパスタをかきこみ、むせそうになったり、あつあつの若鳥のグリルを食べて舌を火傷しそうになったりしたが、それでも楽しそうだった。
どのような意図が真子の母親にあったのかわからない。しかし彼女の無意味な食事制限が真子の笑顔を奪ってきたのだとしたら、やはり毒親のそしりは免れまい。
真子は今までの無味乾燥な食の思い出を取り戻すかのように夢中になって食事を味わっていた。
外食を終えてから、帰宅する。
ケージやら何やらを持ちながらの道中はやはり面倒ではあったが、行きよりも気分は軽かった。
得に真子は、彼女にしては珍しくにこにこと笑顔のままだった。
いつものように、本来なら二つの家族が住めるだけのスペースのある家の玄関をくぐる。
ずっと狭い場所にいたさつまをケージから出すと、ぶるる、と身震いしてからどこかに行こうとして……Uターンして別の場所に向かう。
「さつま? どうしたの?」
鼻と耳をぴくぴく動かし、何かを探しているようだ。
ててて、と家の中を散策する。
その様子がなぜか気になり、葵もついていく。
立ち止まったのはラットの忠一の部屋の前だ。
「さつま? 忠一ちゃんが気になるの?」
忠一はこの家に迎えるときにすでに検査などを済ませていたため病院には同行しなかった。もうギフテッドではない忠一に何度も病院に向かわせるのはストレスになるだろうという判断だ。
さつまは部屋の扉をひっかいて、部屋に入れてくれと言いたげだ。
いつもと違う様子に胸騒ぎがする。
ゆっくりとドアを開ける。
そこには……誰もいなかった。空っぽのケージだけがあった。
血液が沸騰するような、焦りがつのる。忠一ちゃんを探そうとして、少しだけ間を置いた。
何もかも一人でやるべきではない。特に、善の神と悪の神の戦いという非日常に巻き込まれている間は。
「五月! アポロちゃん! 真子! ククニちゃん! 忠一ちゃんがいなくなった! 探してくれない!?」
数分後。
ギフテッドとオーナーが血眼になって一匹のラットを探したが影も形もなかった。
だが、アポロだけは痕跡を見つけた。
忠一のではなく……下手人の痕跡を。
リビングに一堂に会した面々はアポロの報告を聞く。
「わずかですがこの家の住人のものではない臭いがしましたワン」
「ふむ。それでは何者かがこの部屋に侵入したのち、忠一殿をかどわかしたということですかな?」
「はい。私が確認した限り、鍵はすべて閉まっていました」
「……金目のものも盗られてない。普通に考えて空き巣の犯行じゃない。……十中八九ギフテッドとオーナーの仕業ね」
薄々と察してはいたものの、葵の言葉に誰もが頷かざるを得なかった。
「で、でもなんでちゅ、忠一を盗んだんでしょうか」
「人質……いえ、ネズミ質でしょうか」
「語呂悪いわね……普通に考えればそうなんだけど……ギフテッドが関わっているとなると……」
すると突然、奇怪な叫びが響いた。
『き、ひひひひ! ひっかかったでしね!』
少年のような、少女のような少し高い、舌っ足らずな声だった。
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