うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第13話 命がけ

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「わからないのなら、いいです。ちなみに河登さんの代償は寿命です」
「寿命? 物騒だけどファンタジックね。人間の寿命なんてわかるもんでもないでしょう」
「いえ、河登さんの場合、テロメアが短くなっているらしいですね。そのほかにもすでに悪影響が出ているようです」
「テロメアってなんだっけ。細胞がどうのとか聞いたことがあるような……」
「簡単に言うと細胞の寿命のようなものです。これが短いと早老症が発生することがあります。実際に河登さんは老人が行うべきトレーニングを行っています」
「大変ねえ……」
 文字通り命を縮めても戦う理由があの人にはあるのだろうか。他にも同じような人がいるのだろうか。
 例えば、私なら?
 膝の上のさつまを撫でる。この戦いに負けるとさつまの記憶が失われる。さつまが私より早く死ぬ。それはどうしようもない運命だ。
 でも、それまでに少しでも多く思い出を作ることはできるし、それは私がこの先生きるための力になるはずだ。いや、そうしなければならない。
 それが失われる。
 容認できない。改めて、そう思う。
 その結果として庭先にいるであろう、アポロちゃんを殺すことになったとしても。
 そのためには……しばらく他人の靴を舐める覚悟がいる。
「いかがですか? おおむね説明し終えたと思いますが」
 なるべく気軽に、黒々とした殺意をなるべく感じさせないように、答える。
「別にいいわよ。いろいろ話してくれた恩もあるし」
「では、これにサインを」
 五月は先ほどのギフトが籠められた契約書を差し出した。
「名前書けばいいの?」
「はい」
 契約書に自分の名前を書くと契約書の文字がうごめき、意志を持つかのように腕に絡む。
 契約の内容が頭に浮かぶ。
 特別獣害対策委員会の指示に従う。
 特別獣害対策委員会のメンバーに攻撃しない。
 期間は平川五月の任務が達成されるまで。
 直接頭の中に叩き込まれた情報は理由もなく逆らってはいけないものだと認識させられた。
 契約が終わったところで葵は五月に尋ねた。
「で? 具体的に何をするのよ」
「あるギフテッドを探してもらいます。というより、もともとこれが私の任務でした。そのギフテッドのギフトは治療です」
「アポロちゃんも傷を治してたように見えたけど……」
「アポロは自分の傷しか治せません。そのギフトは他人の治療を可能とするそうです。ちなみに治療のギフテッドは二匹しか確認されておらず、内一匹はすでに死亡しています」
「最後のお医者さんってことね。そりゃ奪い合いになるわけよ。そのギフテッドは善側なの?」
「いいえ。悪側で味方だったらしいです。ただ、オーナーが誰かわからなかったらしく、ギフトも不安定だったそうです」
 オーナーがわからない? 野生の動物がギフテッドに選ばれてたまたま近くにいた人がオーナーになった、とかだろうか。
「探してるんだったら行方不明なのよね。何があったの?」
「さっき言ったコピーのギフテッドにさらわれたようです。おそらくまだ殺害されていないはずです」
「根拠はあるの?」
「もちろん。アポロ。持ってきてくれますか?」
「はい! ですワン!」
 リビングの窓を開けるとアポロちゃんが籠……いや、小動物用のキャリーバッグをくわえて窓際に立っていた。
 なかなかメルヘンチックな光景に癒され……いやいや落ち着け。私は猫派。
 人間に容易に尻尾を振る犬の可愛さなどに屈しない。
「皆本さん? 何をしているんですか?」
 正気に戻ると、五月がキャリーバッグを受け取っており……その中には一匹の白いネズミがいた。
「こ、こんにちはでちゅー。ラットの忠一と申しますでちゅう」
 人の足ほどあるネズミ、忠一はびくびくしながらか細い声でしゃべっていた。
 ラットの忠一を見て目の色を変えたのは誰あろう、我が愛猫さつまだった。
 びくびく震えるラットに野生の本能が刺激されたのか。私の膝から飛び出し、キャリーバッグに飛びつく。
「ぎゃちゅあああああああ!?!?!?!?!? ぴ、ぴぎゅああああああああ!!!!」
 天まで届きそうな甲高い悲鳴が家中に響く。こんな悲鳴を聞いたのは初めてだ。
 そしてこれだけさつまが興奮するのも珍しい。本気で狩りをしているというよりじゃれている感じだ。
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