うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第14話 忠一

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「もしかして野良時代にネズミでも獲ってたのかもしれないわね。獲物と勘違いしてるのかしら」
「ええええ、獲物おおおおお!? やっぴゃりこの猫あっちを食べるつもりでちゅうかあああああ!?」
 ラットがじたばたと暴れ、それにさつまもしがみつくものだからキャリーバッグは嵐の中の帆船のように揺れ動いている。よく持ってられるな、こいつ。
「さつま。そろそろやめてあげましょう。可哀そうよ」
 呼びかけてぱっと手を広げるがさつまは一切こちらを振り向かない。
「あなた本当にオーナーですか……?」
 五月が呆れたように問いかけるがこいつは何もわかってない。
「猫はこの奔放さがたまんないのよ。犬派のあんたには理解できないでしょうけど」
「私は犬派ではありませんが……」
「は? アポロちゃんを飼ってるじゃない」
「いえ、私とアポロはそうですね……ビジネスパートナーのようなものです」
「じゃあ何? あんたは何の愛着もない犬を無理矢理戦わせてんの?」
「卑劣と罵ってもらってもかまいません。ですが私はこうすると決めました。あなたに口を挟まれる覚えはありません」
 ぴしりと剣呑な空気が漂う。葵にとってペットを大事にしない人間が目の前にいることは看過できないことだった。
 しかしそんな空気を破ったのは庭先からのよくとおる声だった。
「葵様! 私は五月様にお仕えしたくてしているのです。そこは誤解なきよう! ワン!」
「アポロちゃんが言うなら……それにそうね。あんたたちのことをとやかく言う権利は私にはないわ」
 髪を撫でつけてからさつまに手を伸ばす。両脇を抱えてだっこするとすぐに大人しくなった。
「忠一ちゃん? これで話せる?」
「で、できれば見えないようにしていただけると助かるでちゅう……」
「しょうがないわね……」
 手近にあったさつまの布団にも使うこともあるブランケットでさつまをくるむ。そうしてからようやくほっとしたような声がした。
「ふう。改めて……忠一と申しますでちゅう」
「……前々から思ってたんだけど。妙な語尾は自然と身につくものなの?」
「そういうギフテッドもいますけど……河登さんやうちのボスがキャラ付け? そういうものを積極的に身に着けるように指導しているらしく……みんな変な語尾をつけるようになっています」
「何してんのよあの人は……」
 しかしこれはこれで可愛いと思わなくはない。もしもさつまがにゃあにゃあと語尾をつければどうだろうか。
 ……天国だ。
「……皆本さん。あなたが何を想像しているのか大体わかりますがそろそろ話を戻しましょう。大事なのは忠一のギフトです。彼のギフトは占いです」
「居場所とかを占うってこと?」
「そうでちゅう。ただあっちの歯を少しだけ削らなきゃいけないでちゅう」
「歯を? それじゃあすぐに使えなくなっちゃうんじゃない?」
「問題ありませんよ。ネズミの歯は一生伸び続ける常生歯。一週間に一回くらい使えます。他にも弱点があって……一月経過するか、一度占った相手としばらく近くにいないと他の相手を占えませんし、占う相手を指定できません」
「ん? もしかして、その治療のギフテッドを探すつもりで私を探し当てちゃったの?」
「そうでちゅう……」
 つまりそもそも私がこの戦いに巻き込まれたのは忠一のせいらしい。
「すみませんでちゅう……」
「気にしないで。自由自在に使えたら強すぎギフトだし」
 この戦いにおいて情報は何よりの武器だ。ほぼ一方的にそれらを取得できるのなら最強ではないにせよ相手にとって最悪の能力かもしれない。そもそもいきなり個人情報を握られれば誰だって気持ちが悪……あれ?
「そういえばこの子のオーナーはどこにいるの?」
 その質問は禁句だったのか。
 部屋の温度が急激に下がった気がした。
「忠一のオーナーはすでに死亡しています」
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