迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
19 / 315
第一章 迷宮へと挑む

第十四話 飲食供養

しおりを挟む
 今日の迷宮探索はそれほど時間がかからなかった。というのも、大黒蟻の群れが伐採予定地付近に出没したらしく、さすがに身の危険を感じたギルド長の決断によって近場の樹木を多少伐採しただけでお開きになった。
 その後、希望したものには酒もふるまわれるようで、昨日知り合った老人も喜んでいた。ある種の蜜と鞭だが、それを口に出しても何も変わらない。
 そして夜になる。満月が煌々と輝く夜だった。
 集落から少しだけ離れた場所に鮮やかな花の群生地があった。満月に照らされたそこは神秘的ですらあった。
 物陰からエタはそこの様子をうかがっていた。最悪の場合寝ずの番になることを覚悟していたが、待ち人は思ったよりもすぐに到着した。
 顔を見られないためか、ベールを目深にかぶり、お椀を二つ持っている。自分の予想が正しかったことを確信し、腹をくくったエタは声をかけた。
「こんばんは。ミミエル。満月に飲食供養キスプをするなんて真面目だね」
 ベールをかぶった人影がすさまじい勢いで振り返る。満月の光を反射したオオカミの瞳が見開かれていた。

 飲食供養とはその名の通り何かを食べることによって死者へ食べ物を供え、冥福を祈る行為だ。
 ただし広義においては死者に対し何かをささげる行為自体を指している。富裕層であれば宝石や油、亜麻布などを供え物とするが、それほど余裕のある市民はそう多くない。
 よって水や食物を備えるのが一般的になる。
 例えば。ミミエルが手に持っている大麦のおかゆや、水のように。
 しかしミミエルは認めようとしなかった。
「はあ? 馬鹿じゃないの? 私はただ一人で食事したかっただけで飲食供養なんかしてないわよ」
「わざわざ満月の日に?」
 飲食供養を行うのは一般的に新月か満月の夜とされる。今日のように雲一つない満月なら冥界にいる死者にもその祈りが届くことだろう。
「いい満月だったから外で食べたくなっただけよ」
「昨日リクガメを捕えようとしていたのも偶然?」
 ミミエルはピクリと瞼を震わせた。亀は生命力にあふれた動物であり、供えものとしてよいとされている。
「昨日君が持っていた野草はリクガメが好む草だった。多分、罠か何かを使って亀を捕えようとしていたんじゃないかな」
「別に。亀の肉が好きなだけよ」
 ミミエルはもはや面でもかぶっているかのように無表情になっていた。それが普段の様子とあまりにも違い、核心に近づいていることを予感させた。
「最初におかしいと感じたのは大白蟻を君が倒したとき。他のギルド構成員は誰も来なかったのに君は真っ先に大白蟻にたどり着いた。ギルド長から怒られそうになった時も君が注意を引いてくれて助かった。あとで聞いた話だけど今日は君が大黒蟻の群れを発見したらしいね」
「何が言いたいのよ」
「君、もしかして無理矢理働かされていた人を助けようとしていたんじゃない?」
 ミミエルから完全に表情が消え、その代わりに瞳から底冷えする怒りが感じられた。
 サンダルを履いた足を器用に動かし、ふわりと足元の小石を浮き上げるとそれを思いっきりエタの腹めがけて蹴りつけた。
 まさか手がふさがった状態からこんな攻撃が飛んでくるとは思わなかったエタは悶絶した。
「あのさあ。勝手な想像で人を値踏みしないでくれる? 不愉快よ?」
「想像じゃ……ない」
 ミミエルの眉間に強くしわが寄る。本気で怒っているのは明らかだ。その怒りが何に向けられたものなのかはわからないが。
「だって君、ここに何度も足を運んでるじゃないか」
「はあ? そんなことわかるわけ……」
「足跡。この集落でサンダルを履いている人はギルド長の直属くらいだよ。そして、こんなに足が小さいのは君くらいだ」
 ミミエルは露骨に舌打ちした。
「足跡で判断するとか、あんた気持ち悪いわよ。もういいわ。ギルド長に言いつける。あんたは逃亡者扱いで下手すると借金が増えるわよ」
 ミミエルはそのまま去ろうとする。ここが勝負所だと決め、最後の矢を放つ。
「それにさ。ここの地面には遺品が埋まってるじゃないか。これも君が埋めたんだろ」
 ぎゅるりと振り返ったミミエルは今までとは種類が違う炎のような怒りを宿していた。
「あんたまさか、墓を暴いたの!?」
 お椀を持ったまますさまじい勢いでエタに迫る。その様子を見て、エタは笑った。そしてミミエルもその笑顔の意味を悟った。
「ほら。やっぱりここはお墓じゃないか」
「……最悪。こんなはったりに引っかかるなんて」
 悔しそうに、イライラしているようにうつむいていたが、どことなくほっとしているように見えた。もしかしたら、誰かに見破ってほしかったのかもしれない。そう考えるのはエタの驕りだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...