32 / 315
第一章 迷宮へと挑む
第二十四話 神に愛されているのは
しおりを挟む
「おうエタ。おめえのおかげでずいぶん楽させてもらってるぜ」
革袋に入った水を飲み、喉を潤していたエタのもとにラバサルがやってきた。
「大したことはしてませんよ。仕事を割り振って記録しているだけですから」
「それができることがすげえってことなんだがな」
ギルドで冒険者として、あるいは裏方として働いてきたラバサルにとって他人を上手く働かせられる人間は得難いのだと知っていた。
しかしエタの表情は芳しくない。
「本当に、何でもありません。きちんと体を張って戦っている人たちのほうがよっぽどすごいですよ」
ラバサルはエタの自己評価がかなり低く、しかも憧れとエタ自身の能力がすれ違っていることに気づいていた。
万夫不当の英雄に憧れるのは男として理解できるが、どう考えてもエタは内勤向きなのだ。この作業でそれがよくわかった。何とかしてその齟齬を解消してやりたいともラバサルは考えていた。
当人に自覚はなかったがラバサルは根っこのところで面倒見がいいのだ。
「イレースだってよく言ってたぜ。おめえは頭がいいってな」
「姉ちゃんは僕のことをいつもほめてくれましたから。本当は姉ちゃんのほうがよっぽどすごいのに」
「確かにあいつも天才ではあったな」
「でしょう? いつだって姉ちゃんは強くて、かっこいいんです」
エタの姉自慢に、ラバサルは少しだけ渋い顔をした。
「エタ。おめえ、あいつが冒険しているところを見たことがあんのか?」
「いえ。僕なんかがついていっても邪魔になるだけですし」
「……なるほど、それで……」
「ラバサルさん?」
「……いや、何でもねえ。だがまあ、あいつらも負けてねえな」
露骨な話題転換だったが、エタもラバサルの意をくむことにした。
「ターハさんとミミエルですよね。二人とも、特にミミエルがすごいですね」
「ああ。巨大蟻との戦いに慣れてるとはいえ、あのでけえ槌をぶん回しながら走り回る奴ぁ初めて見た」
「木槌が骨を砕く掟。銅の槌が岩を砕く掟だそうです」
「戦闘向きの掟二つも持ってんのか。……イシュタル神の信徒か?」
「……そうですね」
イシュタル神は愛と美の女神だが、戦争をも司る。信徒も着飾ることや、戦いに身を投げ出すことをよしとする。
一方で変じ……個性的な信徒も多い。大半は真面目なのだが、それを帳消しにするくらいアレな人もいるというのが一般的な見解だった。
何しろ神話において様々なことをやらかしているイシュタル神である。功罪があまりにも多すぎる女神の寵愛を受ける信徒も一癖あるのだろうか。
ミミエルは……彼女の本性を知っているのはエタだけだが……どうなのだろうか。彼女はどういう人間なのだろうか。そんな考えが頭をよぎっていた。
「……頼りにできるんだよな」
「はい。それは間違いありません」
少なくとも、あの墓とも呼べない墓所での飲食供養は本心からだった。エタはそう信じている。
「ならいい。わしも年を取ったからな。一度戦えば翌日はろくに動けんだろうな」
つまり、ラバサルは一度だけなら戦う。その時を見誤るなと言っているのだ。
周りの目を気にしたエタも静かにうなずいただけだった。
革袋に入った水を飲み、喉を潤していたエタのもとにラバサルがやってきた。
「大したことはしてませんよ。仕事を割り振って記録しているだけですから」
「それができることがすげえってことなんだがな」
ギルドで冒険者として、あるいは裏方として働いてきたラバサルにとって他人を上手く働かせられる人間は得難いのだと知っていた。
しかしエタの表情は芳しくない。
「本当に、何でもありません。きちんと体を張って戦っている人たちのほうがよっぽどすごいですよ」
ラバサルはエタの自己評価がかなり低く、しかも憧れとエタ自身の能力がすれ違っていることに気づいていた。
万夫不当の英雄に憧れるのは男として理解できるが、どう考えてもエタは内勤向きなのだ。この作業でそれがよくわかった。何とかしてその齟齬を解消してやりたいともラバサルは考えていた。
当人に自覚はなかったがラバサルは根っこのところで面倒見がいいのだ。
「イレースだってよく言ってたぜ。おめえは頭がいいってな」
「姉ちゃんは僕のことをいつもほめてくれましたから。本当は姉ちゃんのほうがよっぽどすごいのに」
「確かにあいつも天才ではあったな」
「でしょう? いつだって姉ちゃんは強くて、かっこいいんです」
エタの姉自慢に、ラバサルは少しだけ渋い顔をした。
「エタ。おめえ、あいつが冒険しているところを見たことがあんのか?」
「いえ。僕なんかがついていっても邪魔になるだけですし」
「……なるほど、それで……」
「ラバサルさん?」
「……いや、何でもねえ。だがまあ、あいつらも負けてねえな」
露骨な話題転換だったが、エタもラバサルの意をくむことにした。
「ターハさんとミミエルですよね。二人とも、特にミミエルがすごいですね」
「ああ。巨大蟻との戦いに慣れてるとはいえ、あのでけえ槌をぶん回しながら走り回る奴ぁ初めて見た」
「木槌が骨を砕く掟。銅の槌が岩を砕く掟だそうです」
「戦闘向きの掟二つも持ってんのか。……イシュタル神の信徒か?」
「……そうですね」
イシュタル神は愛と美の女神だが、戦争をも司る。信徒も着飾ることや、戦いに身を投げ出すことをよしとする。
一方で変じ……個性的な信徒も多い。大半は真面目なのだが、それを帳消しにするくらいアレな人もいるというのが一般的な見解だった。
何しろ神話において様々なことをやらかしているイシュタル神である。功罪があまりにも多すぎる女神の寵愛を受ける信徒も一癖あるのだろうか。
ミミエルは……彼女の本性を知っているのはエタだけだが……どうなのだろうか。彼女はどういう人間なのだろうか。そんな考えが頭をよぎっていた。
「……頼りにできるんだよな」
「はい。それは間違いありません」
少なくとも、あの墓とも呼べない墓所での飲食供養は本心からだった。エタはそう信じている。
「ならいい。わしも年を取ったからな。一度戦えば翌日はろくに動けんだろうな」
つまり、ラバサルは一度だけなら戦う。その時を見誤るなと言っているのだ。
周りの目を気にしたエタも静かにうなずいただけだった。
1
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる