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第一章 迷宮へと挑む
第六十話 情けない男
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これからどうするか。
すぐにエタの腹は決まった。姉を助けるのだ。
「あの、ねえ……じゃない、イレースさんを最後に見た人はどなたですか?」
もしもイレースがまだ生きているのなら、救出するための情報が必要だ。そして最新の情報を得るには最新の情報提供者が不可欠だ。だが、その返答は予想もしていなかった人だった。予想できたはずだったが。
「ペイリシュさんという男性です。ああ、そちらにいらっしゃいますね」
ターハの元恋人にして、イレースを連れ去った元凶とみられる男の名を聞いて、五人が一斉に首を巡らせる。吹き抜けの二階にペイリシュはいた。
軽薄そうな男が一瞬狼狽えた後、脱兎のごとく逃げ出した。
ミミエルとターハが駆け出し、シャルラは矢を番えて警告した。
「止まらないと撃ちますよ!」
しかしペイリシュは止まらない。ただの脅しだと受け取ったのだろうか。だがエタは知っている。こういう時のシャルラはとてつもなく実行力があることを。
たわんだ弓がはじけ、弦がびんと音を立て、矢が放たれる。その矢はペイリシュの鼻先をかすめ、天井に突き刺さる。ペイリシュはひっと呻いてから腰を抜かしてへたり込んだ。
その隙に一階から二階に飛び上がったミミエルがペイリシュの前に立ちふさがった。
「はあい、ダメ男。どこに行くつもりかしら」
「き、君には関係ないだろう!?」
「そうねえ。でも後ろのおばさんには関係あるでしょう?」
ペイリシュが後ろを向くと、冬眠明けのアナグマのような凄みのある笑顔を浮かべたターハがいた。
それを見たペイリシュは笑みを作ろうとしたが、引きつった笑顔のなりそこないにしかならなかった。
「久しぶりだよなあ、ペイリシュ。会いたかったよ」
「や、やあ、ターハ。俺もうれし、むぐ!?」
ターハが全力で、それこそ骨が折れそうなほど抱きしめる。
「迷惑かけて悪かったな。ちょっとこいつと話をさせてくれ!」
職員は返事ができず、ただこくこくと頷いた。
その光景を見て誰かがしみじみ呟いた。
「なんて女どもだ……」
エタとラバサルは全力で同意した。もちろん、心の中だけで。
ギルドの一室を借り、いまだにペイリシュを笑顔で抱きしめたままのターハがようやくペイリシュを解放した。
彼の撫でつけられた黒髪はぼさぼさになっており、このわずかな間に疲労は極限に達してしまったようだ。それは体力だけでなく、四人の厳しい視線にさらされたことも一因だろう。
ラバサルは少し調べることがあると言って同行しなかった。
「さあて、ペイリシュ。あんたに聞きたいことが山ほどあるんだがいいかい?」
「もちろんだよ。何でも聞いてくれ?」
改めて聞くと、ペイリシュの声は甘やかで人好きしそうな声だった。ただ、今この場では不快感しかない。
「じゃあまずあたしの個人的な話からしようか。どうして逃げたんだい?」
多分、いきなりイレースの話を持ち出すと委縮すると考えたのだろう。ターハはそう質問した。
だが、ターハの言葉を聞いていないかのように弁解を述べ始めた。
「それは、僕が同行していた彼女、ああ、イレースと言うんだけどね? 彼女に相談に乗ったりしていたんだけど、彼女が賭博で身を崩してしまってね? 僕が保証人になっていたものだから、見捨てられなくてね。一緒に夜逃げしようということになったのさ」
ぺらぺらと軽薄そうな口調で一気にまくしたてるペイリシュに対して、初めて本気で人を殴りたいとエタは思った。
この男は質問に答えるていで自分の不幸話をして同情をひきたいだけにしか見えない。
他人を傷つけることが今までできなかったが、この男に対してならばできるかもしれなかった。
踏みとどまれたのはミミエルとシャルラが密かに押さえつけていたから、そしてターハからも激しい怒りを感じたからだ。
すぐにエタの腹は決まった。姉を助けるのだ。
「あの、ねえ……じゃない、イレースさんを最後に見た人はどなたですか?」
もしもイレースがまだ生きているのなら、救出するための情報が必要だ。そして最新の情報を得るには最新の情報提供者が不可欠だ。だが、その返答は予想もしていなかった人だった。予想できたはずだったが。
「ペイリシュさんという男性です。ああ、そちらにいらっしゃいますね」
ターハの元恋人にして、イレースを連れ去った元凶とみられる男の名を聞いて、五人が一斉に首を巡らせる。吹き抜けの二階にペイリシュはいた。
軽薄そうな男が一瞬狼狽えた後、脱兎のごとく逃げ出した。
ミミエルとターハが駆け出し、シャルラは矢を番えて警告した。
「止まらないと撃ちますよ!」
しかしペイリシュは止まらない。ただの脅しだと受け取ったのだろうか。だがエタは知っている。こういう時のシャルラはとてつもなく実行力があることを。
たわんだ弓がはじけ、弦がびんと音を立て、矢が放たれる。その矢はペイリシュの鼻先をかすめ、天井に突き刺さる。ペイリシュはひっと呻いてから腰を抜かしてへたり込んだ。
その隙に一階から二階に飛び上がったミミエルがペイリシュの前に立ちふさがった。
「はあい、ダメ男。どこに行くつもりかしら」
「き、君には関係ないだろう!?」
「そうねえ。でも後ろのおばさんには関係あるでしょう?」
ペイリシュが後ろを向くと、冬眠明けのアナグマのような凄みのある笑顔を浮かべたターハがいた。
それを見たペイリシュは笑みを作ろうとしたが、引きつった笑顔のなりそこないにしかならなかった。
「久しぶりだよなあ、ペイリシュ。会いたかったよ」
「や、やあ、ターハ。俺もうれし、むぐ!?」
ターハが全力で、それこそ骨が折れそうなほど抱きしめる。
「迷惑かけて悪かったな。ちょっとこいつと話をさせてくれ!」
職員は返事ができず、ただこくこくと頷いた。
その光景を見て誰かがしみじみ呟いた。
「なんて女どもだ……」
エタとラバサルは全力で同意した。もちろん、心の中だけで。
ギルドの一室を借り、いまだにペイリシュを笑顔で抱きしめたままのターハがようやくペイリシュを解放した。
彼の撫でつけられた黒髪はぼさぼさになっており、このわずかな間に疲労は極限に達してしまったようだ。それは体力だけでなく、四人の厳しい視線にさらされたことも一因だろう。
ラバサルは少し調べることがあると言って同行しなかった。
「さあて、ペイリシュ。あんたに聞きたいことが山ほどあるんだがいいかい?」
「もちろんだよ。何でも聞いてくれ?」
改めて聞くと、ペイリシュの声は甘やかで人好きしそうな声だった。ただ、今この場では不快感しかない。
「じゃあまずあたしの個人的な話からしようか。どうして逃げたんだい?」
多分、いきなりイレースの話を持ち出すと委縮すると考えたのだろう。ターハはそう質問した。
だが、ターハの言葉を聞いていないかのように弁解を述べ始めた。
「それは、僕が同行していた彼女、ああ、イレースと言うんだけどね? 彼女に相談に乗ったりしていたんだけど、彼女が賭博で身を崩してしまってね? 僕が保証人になっていたものだから、見捨てられなくてね。一緒に夜逃げしようということになったのさ」
ぺらぺらと軽薄そうな口調で一気にまくしたてるペイリシュに対して、初めて本気で人を殴りたいとエタは思った。
この男は質問に答えるていで自分の不幸話をして同情をひきたいだけにしか見えない。
他人を傷つけることが今までできなかったが、この男に対してならばできるかもしれなかった。
踏みとどまれたのはミミエルとシャルラが密かに押さえつけていたから、そしてターハからも激しい怒りを感じたからだ。
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