103 / 315
第二章 岩山の試練
第九話 訓練開始
しおりを挟む
エタたちは話した。
エタの姉、イレースが失踪し、奴隷になりかけ、そして迷宮を攻略したものの、イレースは魔人となってしまった。
そしてエタは姉を弔うために、擬態の魔人となった姉を殺すために迷宮を攻略する企業を立ち上げたのだった。
概要だけだったが、吟遊詩人の語り口よりもはるかに生々しさを感じる四人の話にザムグたちは釘付けになり、報われない結末にこの卓だけが冬になったかのように静まり返った。
まず口を開いたのはザムグだった。
「それじゃあ、エタさんはお姉さんを……いえ、お姉さんが元になった魔人を殺すために企業を立ち上げたんですか?」
「そうだね」
「でも、確かここの企業、シュメールは杉の取引をしていると聞いたんですが……」
「うん。一種の偽装かな。企業が迷宮攻略をすることをよく思わない人もいるだろうし。もちろん杉の取引もするけどね」
「つまりそれは俺たちにも迷宮の攻略を手伝ってほしいってことですか?」
「そうだね。でも、危険も多いし、さっきも言ったけど白い目で見られることだって……」
「エタさん」
ザムグがエタの目をまっすぐに見据える。
暗闇で希望の灯火を見つけたように輝く瞳。
エタは自分自身があんな瞳をしていたことがあっただろうかと自問した。
「エタさん。俺たちはあなたにすごく感謝していますし、できるならあなたの力になりたいと思っています。だから手伝います。それにギルド長にはああ言いましたけど、やっぱり迷宮に挑んで神々のお役に立ちたいという気持ちはあります。他のみんながどう思うかはわかりま……いて」
ザムグの言葉が途切れたのはカルムに叩かれたからだ。
「お前ばっか言いたいこと言ってんじゃねえよ」
「そ、そうだよ。ぼ、僕らだって同じ気持ちだよ」
「うん。私も、みんなを手伝いたいよ」
「いや、さすがにニントルはダメだからね」
二人の仲間には感動した様子だったが。ニントルに対しては兄らしくたしなめている。
確かにエタも病弱なニントルでは冒険者は務まらないと判断していた。
心の中ではまだエタよりも他人、ましてや幼いザムグたちも自分の個人的な責務に巻き込んでいいのかという葛藤はある。
(できるだけ、危険がないようにしないと……)
一方で人手が必要だということは理解している。そのために妥協案を自分自身で提案していた。
「ありがとう。でも、まずはみんなをちゃんと戦えるくらいに鍛えるつもりだよ」
「え……もしかして皆さんがここに来たのって……」
にやりと笑うミミエル、ターハ、ラバサルの三人。
それを見て青ざめるザムグ、カルム、ディスカールの三人。
きょとんとしているのはニントルだけだった。
数日後。
ザムグ、ディスカール、カルムの三人は汗を濁流のように流し、ふらふらになりながら水を飲み干していた。
「これは……ずいぶん絞られましたね」
息も絶え絶えな三人を横目に教官を務めているラバサルに話しかける。
「三人の様子はどうですか?」
「根性はあるな。だが、肉がついてねえのが難しい」
「みんな幼いころにちゃんとした食事ができなかったみたいですからね」
現代では考えられないことだが、古代において満足な食事ができるということは幸福なことであり、同時に子供の未来を左右する親から子供への最高の遺産なのだ。
当たり前だが体が大きければ力が強くなる。
力が強ければそれだけ選べる職もある。まだそういう時代だった。
エタの姉、イレースが失踪し、奴隷になりかけ、そして迷宮を攻略したものの、イレースは魔人となってしまった。
そしてエタは姉を弔うために、擬態の魔人となった姉を殺すために迷宮を攻略する企業を立ち上げたのだった。
概要だけだったが、吟遊詩人の語り口よりもはるかに生々しさを感じる四人の話にザムグたちは釘付けになり、報われない結末にこの卓だけが冬になったかのように静まり返った。
まず口を開いたのはザムグだった。
「それじゃあ、エタさんはお姉さんを……いえ、お姉さんが元になった魔人を殺すために企業を立ち上げたんですか?」
「そうだね」
「でも、確かここの企業、シュメールは杉の取引をしていると聞いたんですが……」
「うん。一種の偽装かな。企業が迷宮攻略をすることをよく思わない人もいるだろうし。もちろん杉の取引もするけどね」
「つまりそれは俺たちにも迷宮の攻略を手伝ってほしいってことですか?」
「そうだね。でも、危険も多いし、さっきも言ったけど白い目で見られることだって……」
「エタさん」
ザムグがエタの目をまっすぐに見据える。
暗闇で希望の灯火を見つけたように輝く瞳。
エタは自分自身があんな瞳をしていたことがあっただろうかと自問した。
「エタさん。俺たちはあなたにすごく感謝していますし、できるならあなたの力になりたいと思っています。だから手伝います。それにギルド長にはああ言いましたけど、やっぱり迷宮に挑んで神々のお役に立ちたいという気持ちはあります。他のみんながどう思うかはわかりま……いて」
ザムグの言葉が途切れたのはカルムに叩かれたからだ。
「お前ばっか言いたいこと言ってんじゃねえよ」
「そ、そうだよ。ぼ、僕らだって同じ気持ちだよ」
「うん。私も、みんなを手伝いたいよ」
「いや、さすがにニントルはダメだからね」
二人の仲間には感動した様子だったが。ニントルに対しては兄らしくたしなめている。
確かにエタも病弱なニントルでは冒険者は務まらないと判断していた。
心の中ではまだエタよりも他人、ましてや幼いザムグたちも自分の個人的な責務に巻き込んでいいのかという葛藤はある。
(できるだけ、危険がないようにしないと……)
一方で人手が必要だということは理解している。そのために妥協案を自分自身で提案していた。
「ありがとう。でも、まずはみんなをちゃんと戦えるくらいに鍛えるつもりだよ」
「え……もしかして皆さんがここに来たのって……」
にやりと笑うミミエル、ターハ、ラバサルの三人。
それを見て青ざめるザムグ、カルム、ディスカールの三人。
きょとんとしているのはニントルだけだった。
数日後。
ザムグ、ディスカール、カルムの三人は汗を濁流のように流し、ふらふらになりながら水を飲み干していた。
「これは……ずいぶん絞られましたね」
息も絶え絶えな三人を横目に教官を務めているラバサルに話しかける。
「三人の様子はどうですか?」
「根性はあるな。だが、肉がついてねえのが難しい」
「みんな幼いころにちゃんとした食事ができなかったみたいですからね」
現代では考えられないことだが、古代において満足な食事ができるということは幸福なことであり、同時に子供の未来を左右する親から子供への最高の遺産なのだ。
当たり前だが体が大きければ力が強くなる。
力が強ければそれだけ選べる職もある。まだそういう時代だった。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる